Fate/dragon sphere   作:小櫻遼我

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第六節 一切鏖殺

その時だった。

振り上げた2Bの刀を、天から降りてきた何者かの刃が弾いた。

 

「なっ」

 

そして、その勢いのまま何者かは回転し、2Bに蹴りを放った。

 

「くっ…!」

 

腕を交差させ蹴りを防ぐが、それでも蹴りは2Bを藤丸達のもとへ押し戻した。

 

「2B!」

「お前は…サーヴァントか?」

「左様」

 

その何者か___男が、そう宣言した。

 

二本の刀を腰に差し、セミロングの髪はさばさばとなびいている。

小次郎と土方の中間のような外見の衣類をまとい、凛と笑んでいる。

 

手に持った二本の刀を鞘に戻し、藤丸達に語りかける。

 

「諸君、御機嫌よう。敵の登場だ」

「敵…!」

 

その単語を聞いて、2Bは身構える。

しかし、藤丸はそれに待ったをかける。

 

「………何者だ?」

「私は知っているぞ。古来より、聖杯戦争とは真名を秘するもの。弱点の露見は何より恐ろしい」

「何が言いたい?」

 

藤丸はキレ気味に言う。

その様子を嘲笑うように、男は語る。

 

「分からんか。それもそのはず、瓦を幾ら磨こうと珠とはなるまい」

 

単語の羅列に、藤丸達は頭を悩ませる。

 

「おっと、悪戯が過ぎたかね。良かろう、教えてやる。つまり、私は諸君らに真名を明かさぬ。故に忌み名をもって、一時の名乗りとさせてもらう」

 

真名を明かさない、つまり新宿と同じ形式だ。

冬木からバビロニアまでクラス名はほぼ意味を成していなかった為、今の藤丸では真名無しでは戦略を立てられないのだ。

 

男が、口を開いた。

 

「名乗るなら____鏖殺のセイバー。諸君ら利己主義者(Egoist)を塵芥と()す者だ。単に剣士(Saber)でも構わぬよ」

「鏖殺……………」

 

その不穏な単語に、藤丸は息を呑む。

一方小太郎は、何やら思うところがあるようだ。

 

「貴方は…日本のサーヴァントですね」

「むしろ分からぬのか?この刀を、装いを、何を持って西洋人と言う?」

 

挑発気味にセイバーは言う。

 

「つまり」

 

ザッ、と2Bが一歩踏み出す。

そして、剣先をセイバーの喉元に向けた。

 

「お前は、敵」

「如何にも。私は個の(Master)を持たぬ、私は縛られることは無い。故にこちらについた。機械生命体という彼らの生き方を、私なりに尊重しているのだよ」

「違う!」

 

突然、9Sが叫んだ。

 

「機械生命体に命はない、生きてなんかいない!」

「ほう……ならば、何故彼らは逃げ惑う?子をあやす?子を作る?無意味な真似事であるならば、機械に成す意味はあるまいに」

「それは…!」

 

9Sは言い淀む。

自らの意見を主観的に押し付けようとして、客観的な考えを持たなかった。

セイバーは倒れた人型を見て言う。

 

「彼は殺させん。彼は機械生命体を率いる者、裁定者たる存在だ。認めよ。彼らは命なのだ」

 

「っ!」

 

2Bが駆けた。

我慢の限界だったのか、刀を強く握りしめる。

 

刀を振り上げる。

それと同時に、空いた手で拾った大剣__双子の牙を振りかざす。

 

「二兎追うものは一兎をも得ず」

 

セイバーは鞘から刀を引き抜き、回転しながら2Bの刀を弾く。

舞うような剣舞で、2Bを翻弄する。

 

「刀と大剣では勝手が違う。二兎を支配しようとすれば一兎を操ることすら出来まい」

 

セイバーは双方の刀で2Bの刀と大剣をそれぞれ防ぎ、悠々と語る。

 

「私は、それをよく理解しているのだよ」

 

そして、護りのない2Bの腹を、強く蹴り飛ばした。

目に見えて腹が陥没する程の蹴り、彼らヨルハにとってもダメージは大きいだろう。

 

「2B!ッ……行きます!」

 

9Sが黒い刀を手に持ち特攻する。

だが、戦闘モデルではない9Sの勝機は薄い。

 

「あれじゃ勝てない…小太郎!」

「承知!」

 

9Sに合わせ、藤丸の指示で小太郎も動く。

 

「女で勝てなければ男二人…」

 

悠々と双方からの攻撃を躱し言う。

数で劣る中、着実に渡り合っている。

 

「だが私は三騎士の(Class)を冠せし者。生半可な刃では、この宿業断ち切れぬぞ」

 

二人の刀をセイバーはそれぞれに持った刀で防ぐ。

そのまま飛び上がり、脚を広げるようにして両方に蹴りを放つ。

 

「しまった…!」

 

二人は吹き飛び、地面に跡を作る。

だが慢心したセイバーの隙を突き、2Bが行動を起こす。

 

「ポッド、今だ!」

「了解」

 

ポッド042がレーザーを撃ち出す。

地面の砂を翻し、波を立てながらセイバーへ向かっていく。

 

「ふん。英霊(Servant)ともあろう私が、策を持たぬと?」

 

するとセイバーは、右手に持った刀を鞘にしまう。

そして向かってくるレーザーに向けて右手を翳すと、瞬間、レーザーを覆い隠さんとする程の業火を放った。

 

「何!?」

 

藤丸は仰天した。

確かに、ただの炎を操るサーヴァントとなれば数は多い。

だが、日本の侍が、その様な能力を持つものだろうか?

 

それに炎を放った後のあの腕…

一瞬ではあったが、その腕は紅く、禍々しい気を帯びていた。

紛れもない鬼種の腕だった。

 

『二刀流の鬼……?だが角が無いな』

 

ダ・ヴィンチも頭を悩ます。

人工である小太郎を除き、鬼種はいずれも角を持つ。

本数は個体差があれど、角の存在は揺るがない。

 

だが、セイバーにはそれがない。

髪がなびき幾度か額が露になるが、角のようなものは何も無かった。

 

そして何より、その腕は茨木童子の腕に酷似していた。

 

「待て、鏖殺のセイバー。お前は…茨木童子と何か関係が?」

「茨木童子とな。あぁ、大江山の鬼か。知らぬな、私はそんなに血腥(ちなまぐさ)い人間ではないさ」

 

ふと、ホームズが通信を繋いだ。

 

『奴の真名は、奴がどの類の英霊かによる。現段階で判明しているのは、炎を操ること、二刀使い、茨木童子の鬼腕、そして角がない、イコール鬼種ではない。鬼の手を持つのに角がない時点で、我々の知る英霊ではない』

 

じゃあ、と藤丸が問う。

ホームズは一息置いて、言った。

 

『概念だ』

「というと、ナーサリーのような?」

 

英霊にも、種類がある。

史実の能力を持って具現化したタイプ、史実が昇華されて具現化したタイプ。

そして、数少ない、概念が具現化したタイプだ。

ナーサリーライムは自身の存在そのものを固有結界とし、世界のあらゆる童話を己として投影している。

故に彼女は本来少女の姿ではなく、召喚したマスターを写した外見になるという。

またホームズ曰く、アトラス院のログにはライダーのクラスで黒死病(ペスト)が召喚されたとあったそうな。

ペスト自体は概念では無いが、個としての肉体を持たぬため、ナーサリーと同じ類だろう。

 

『此度はナーサリーのタイプだ。ある個を基底とし、そこに複数要素が加わることで英霊の存在を保っているのだ』

「ほう…だが、それで検討がつくか?」

『いや、まだな。だが少なくとも日本人であることは確かだ』

 

頼りないな、と藤丸は思う。

 

と、セイバーが突然刀を収めた。

 

「まだ戦いは終わってない!」

 

2Bが怒号を飛ばす。

しかしセイバーは悪ぶる様子もなく、感情的になった2Bを嘲笑う。

 

「その男の推理が的を射ているのは確かだ。流石は、世紀の名探偵と言うべきか。故に、このまま我が弱点を露見させるわけにもいくまい」

 

セイバーはゆっくり後ずさる。

2Bは静かに、ポッド042に狙いを定めさせる。

 

「でも、帰る手段がないぞ!」

 

藤丸は策を思い付かれる前にガンドを放つ。

しかし、セイバーはそれを手で弾いた。

 

「勉強不足だぞ、少年。剣士(Saber)(いず)れも対魔力を保有する事実を忘れたか」

「そうか…クソっ!」

 

手も足も出ない。

誰もが棒立ちの状態で、それをセイバーは嘲笑う。

 

「クク」

 

次の瞬間、その笑いを聞き届けたかのように、倒れた人型の肋から腕が飛び出した。

 

「っ!?」

「受胎か」

 

わかりきっているようにセイバーは言う。

だがあれは受胎などではない、分裂だ。

あれを受胎と言うには、相当気が狂っていないと不可能だろう。

 

腕が地面に付いた。

産まれたてで湿った赤子のように手はびちゃりと音を立て、発光性の粘液が人型を中心に広がっていく。

 

自らを引きずり出すように上半身が出現した。

容貌は倒れている人型と瓜二つで、双子とも形容できた。

 

「なんだ、あれ……」

 

異様な光景に藤丸は息を呑む。

これを機械だというのなら、それこそ生命ある存在だった。

 

二体目の人型が立ち上がる。

足元はおぼつかず、仔馬のように震えている。

だがその震えもすぐに収まり_____

 

「■■■■■■■■■■ァァァァァァァァ!!!!」

 

叫ぶ。

あまりの轟音に、セイバー以外の全員は耳をふさいだ。

 

「ぐ、うぅっ……!」

 

それは2Bですらも同じようだった。

そしてその雄叫びによるものだろうか、空洞だったこの空間は、瞬く間に崩れ始めた。

 

セイバーが刀を抜き、一人ずつ指す。

獲物を数える肉食獣のように。

 

星見(Chaldea)英霊(Servant)。そしてヨルハ部隊。どれも取るに足らぬ俗物よ」

 

弟の人型が、兄の人型を抱きかかえる。

そしてその隣に立つセイバーは、特に2Bを凝視した。

 

「さらばだ、(Battle)を騙る人形。貴様であれば、私を殺すことなぞあの機械共より容易いだろうに」

「待て…!」

 

冷静さを欠いた2Bがセイバーに歩み寄る。

だが一歩踏み出したところで既に9Sが止めていた。

 

「2B!空間が崩落しています!早く脱出しないと…!」

「っ……!」

 

瓦礫が崩れ落ち、既にセイバー達の姿は見えなくなっていた。

 

「行きましょう」

 

小太郎が先行し、後から続き脱出する。

上の方に外に通じると思われる洞窟が見えた。

 

あそこまで行くには崩れ行く外壁を登らなければならない。

小太郎、2B、9Sは難なく飛び越えて行ったが、問題は藤丸だ。

いくら外壁に足場があると言っても、一段一段が高いため登るには困難だった。

 

「わっ!?」

「主殿!」

 

あと一段のところで、足場が崩れ落ちる。

小太郎が手を伸ばすも、既に届く距離にはない。

藤丸は目を瞑った。

 

しかし、足場は崩れ落ちず、どこか別の足場につっかえていた。

そのつっかえた足場が強靭だったのか、この衝撃を受けてなお足場は保たれている。

 

「よかったぁ……」

 

一瞬の安堵の後、小太郎に拾い上げられる。

全員が揃ったところで、洞窟の中へ入っていった。

振り返ると、崩落で既に光が見えなくなてしまっていた。

一方前方には、外の光が溢れ始めた。

 

 

 

「9S、そろそろ電波も回復する頃じゃないか?」

「そうですね。一度報告しましょう」

 

そう言うと9Sはウィンドウを出現させ、バンカーへ通信を送る。

 

「9Sからバンカーへ、応答願います」

 

返事は直ぐに返ってきた。

 

『オペレーターより9S、受信しましたかっこ』

「先程、人型…つまり、アンドロイドを模した形状の機械生命体と遭遇しました。残念ながら取り逃しましたが…その際の戦闘データを送信します」

 

ウィンドウに表示されるオペレーターの顔、その横にバーが現れる。

バーは時間の経過と共に進行し、満タンになると「complete」という文字が表示された。

一万年経った未来でも、ここは同じなのかと、藤丸は思う。

 

『データ、受信完了しました』

「それじゃあ分析の方、よろしくお願いしますね」

 

用を終えたオペレーターが通信を切ろうとするが、思い出したように9Sか静止をかける。

 

『まだ何か』

「すみません。人型機械生命体と戦闘した際、機械生命体とは違う人型敵性実体…協力者の言うサーヴァントなるものと遭遇しました。ダ・ヴィンチさん、こちらのデータもバンカーと共有させてもらうことは可能ですか?」

『ああ、構わないよ。そちらではそちらなりの分析法があるのかもしれないが、どのような結果がでるか興味深い』

「ありがとうございます。ということで、こちらのデータも送信させてもらいます。分析お願いします」

 

了解しました、とオペレーターは気だるそうに言い、今度こそ通信を切った。

 

砂漠と都市部の境目ほどの地帯。

通信を終えた9Sは、隠していた疲れを露わにし、大きく伸びた。

 

「ふぅ。んんーっ……はぁ。これでひと段落しましたね」

「ああ、そうだな…こんなに辛いとは思わなかったよ…」

 

藤丸は壁に寄りかかって座り、水分を補給する。

小太郎と2Bは一向に疲れる様子を見せず、周囲に警戒を払っている。

心なしか、2Bの方が小太郎よりも疲れが少ないように思えた。

 

「ところで皆さん、これからの作戦行動について相談があるんですけど」

「ん?」

 

その言葉に、カルデア側のダ・ヴィンチとホームズも通信を開く。

急な通信だったため、9Sは少しびくっと震えた。

 

『驚かせてしまってすまない。続けてくれ』

「あ、はい。えと…僕らもあなた方も、先の戦闘で受けたダメージが心配です。一度レジスタンスキャンプに戻って休憩しますか?」

「私は問題ない」

 

2Bは無表情に言う。

あの荒れ方を見るに、精神的な何かしらのダメージが有ると思うのだが。

 

『彼女はこう言ってるけど、2人はどうだい?』

「僕は大丈夫です」

「俺も、水ならさっきジャッカスさんのとこで補充しました」

『だそうだよ?』

 

9Sは心配そうに藤丸を見るが、本人が言うなら大丈夫だろうと思い、話を進める。

 

「では、このままバンカーからの指示を待機、かつ廃墟都市内の探索に移る形でいいですか?」

 

異論はない。

満場一致のようだ。

 

「大丈夫ですね。では──」

 

と、ここでバンカーからの通信が入った。

どうやら探索は後回しのようだ。

 

『オペレーターより9S』

「はい、こちら9S」

『司令官より、皆さんへメッセージがあります、再生します』

 

一度ウィンドウから顔の映像が消え、暫くして司令官の顔が映し出される。

「再生」という言葉から見るに、録画映像だろうか。

再生が始まると司令官は直ぐに要件を伝え始めた。

 

『地上に向かっているヨルハ部隊の数機が連絡を絶った』

 

空気が固まった。

 

『現在もブラックボックス信号が確認されていることから、死亡はしていないと推定される。信号の発信されているポイントを絞り込んだので、地上に滞在中のヨルハ部隊員には、本件の調査を命ずる』

『──以上で通信を終了します』

 

録画が終わったのか、オペレーターがこちらとの通信を切った。

ヨルハ全体に投げかけていることから、かなりの緊急事態、もしくは失踪したヨルハ機体の数が尋常ではないのだろう。

 

すると、小太郎か思い出したよう言う。

 

「そういえば…キャンプでも似たような話を耳にしました」

「そうですか、わかりました。目標地点の情報をセットしたので、直ぐに向かいましょう。………他のアンドロイドの人達が心配ですね」

「ああ、早めに向かおう」

 

藤丸はぐびっと水を飲み干すと、早歩きで一行を先導していく。

9Sによりマークされた目的地は──一体どれ程人気を博していただろうか、遊園地の廃墟であった。

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