Fate/dragon sphere   作:小櫻遼我

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オートマタのアニメが始まり、リィンカーネーションは第二部が終結し、FGOも第二部終盤……
やっぱ怖いスね、時の流れは


第九節 スタンプ集め

 というわけで、我々チームカルデアは、スタンプラリーと豪華景品ゲットを狙い遊園地廃墟へやってきたのだ。

 

 ……いや、不可抗力だ。そもそもこの世界には娯楽が少なすぎる。パスカルの村の遊具は子供機械生命達のためのものしか置いていないし、パスカルが読んでいる本の一部を借りてみても難解な哲学書ばかりで脳が耐えきれそうもなかった。かといって機械生命体狩りに興じるのは野蛮が過ぎるし、パスカル達に協力している手前そもそも彼らを破壊するのも気が引ける。

 必然的に、ここで受け取ったスタンプカードを埋める以外にやることもなかったのだ。

 

「小太郎、護衛ありがとう」

「いえ。主殿をお守りする、それがサーヴァントたる我らの務めなれば」

『そんなに気負わなくても大丈夫。周辺状況はこっちでもモニターしてるからサ。それに遊園地(ここ)は敵対反応が極端に少ない。二人とも安心して楽しんでくれたまえよ』

 

 ダ・ヴィンチの言葉に、小太郎はホログラム越しに会釈する。何やら向こうも完全休憩ムードのようで、モニターデスクにはダ・ヴィンチとマシュ、一部生真面目な職員くらいしか残っておらず、他職員の談笑が漏れ聞こえてくる。その中には、ホームズらしき声も混ざっていた。あの男め、モリアーティをけしかけでもすればやる気になるだろうか。

 ……にしても、

 

「スタンプラリーなんて、いつぶりだろうなぁ」

 

 小さい頃は、よく遊園地に連れて行ってもらった。都内に始まり、千葉や大阪、三重といったいろんな場所へ遊びに行った。スタンプラリーは、その都度欠かせないものだった。今や、そんな思い出すら美しい。

 

「ところで主殿、判子(スタンプ)の所在は……?」

 

 小太郎が話しかけてくる。そう言えば、と藤丸はスタンプカードについてきた用紙に目を通す。そこには全十個のスタンプごとのヒントが載っていた。

 

「なになに……①金色の兎、②泣く男、③キレる男、④不気味な男、⑤宇宙船、⑥絶叫、⑦気合の入った男、⑧笑う男、⑨地下洞窟、⑩舞台演劇、とな?」

「いくつか見当のつくものもありますね。①は……目の前のアレでは?」

 

 小太郎が指をさす。指の方を見ると、確かにそこには噴水のように鎮座する巨大なウサ耳機械生命体の像があった。それもしっかり金色だ。

 

「わかりやす。……まぁ、チュートリアルって感じかな」

 

 二人は像に駆け寄る。すると、ゲートから進んだまさに真正面に、スタンプ台が置いてあった。でかした、とはならない。これだけ派手に置いてあれば、普通は気づく。

 藤丸はカードを台に置き、力強く押印する。台の高さやスタンプの形状からして明らかに人間用に作られたものだったが、人間が残していったものが残置されているのか、はたまたアンドロイド用に機械生命体が用意したのか……あまり気にする意味はなさそうだ。

 

「よし、一個目だな」

「はい。他にもわかりやすいものがありますね。⑤はジェットコースターへ向かう際に宇宙船を模した遊具があったのでそれでしょう。⑥は言わずもがな。⑩はボーヴォワールを騙る機械生命体と戦闘したあの舞台ですね。……⑨もよくわかりませんが、問題は男シリーズでしょうか」

「確かにな……どうやって探させる気なんだ?」

「さぁ……歩いていればわかるのでしょうか」

『こちらも、なにか分かれば報告するよ』

 

 やけに協力的なダ・ヴィンチ。そこまで大事にするものなのかと思いつつ、藤丸と小太郎のスタンプラリーが始まったのだ。

 

 

 

「⑥絶叫……ジェットコースターですね」

 

 単身、ジェットコースターでスタンプを押す小太郎。ここに来る段階でロケットを模した回転遊具……⑤のスタンプを獲得していた。先の調査時にジェットコースターへ向かう道中にあったものだ。その次は必然的にジェットコースターのスタンプへ向かうことになるのだが、そこまでの道のりが瓦礫で埋まっており、前もここを突破した時の藤丸は大変疲労し、そのせいかジェットコースターも余計苦痛であったことだろう。なので藤丸には回転遊具のもとで待機してもらい、小太郎単独で回収に来ていたのだ。

 

「さて、戻らねば」

 

 小太郎は軽やかな身のこなしで乗り場から飛び降り、瓦礫を飛び越える。藤丸は回転遊具の入口付近で待っているはずだが……。

 

「お、おかえり」

 

 そう言って出迎えた藤丸は、紙の箱を持って何かを頬張っていた。

 

「主殿、何を……?」

「ポップコーン売っててさ。大丈夫、機械生命体がその場で作ってた食えるやつだから」

「ほほう。……折角なので、僕もひとつまみいいでしょうか?」

「どうぞどうぞ」

 

 藤丸がそう言うと、小太郎は箱の中に手を突っ込み、ポップコーンをひとつまみ。茶色に輝く艶、王道のキャラメル味だ。

 

「おいしいですね。トウモロコシ菓子……ケツァルコアトル殿は何と言うでしょうか」

「むぐむぐ……結構寛容な方じゃない? プロレス技キメるぐらいだし」

「……宝具名が英語の僕が言えたことじゃなかったです」

 

 ポップコーンをつまみながら、回転遊具を後にする。現在①⑤⑥の三つを回収している。続いて探すべきは……。

 

「……この五つの男シリーズだろうな。セオリー的にも劇場に全員集まってるわけないしなぁ……」

 

 そんなことを呟きながら来た道を……暗い路地を戻る。始めは従業員用通路かと思っていたが、あそこへ行く道はここしかないように見えた。地図を見るとしっかり別の道の記載があるのだが、瓦礫で埋もれてしまったのだろうか。

 

「主殿」

「ん?」

 

 小太郎が肩を叩く。こんなところに何が、と藤丸は小太郎の視線の先へ目をやる。

 そこにいたのは一体の機械生命体だった。裏路地の更に暗い、袋小路に佇む機械生命体。風船がくくりつけられ、顔にだけクラウンのメイクが施され、()()()()微笑んでいるようだった。

 

「……あっ、不気味な男!」

 

 ふと、藤丸は気づいた。こんな奥まった場所でじっとしているのは、きっとスタンプラリーの客を待っているためだ。スタンプが動いては追いようもない。そばにはスタンプ台も置いてある。

 すると、機械生命体がきりきりとこちらを振り向く。藤丸の声に気づいたようだ。

 

「スタンプ……ホシイの?」

 

 薄ら笑いを浮かべる機械生命体のもとに、二人はそろりそろりと近づく。不気味とは言ったが、思った以上に不気味で近寄り難くすらあった。

 

「えっと……いいですか……?」

「ウン……じゃあ、アゲル……ふフッ…………」

 

 藤丸が台にカードを置くと、機械生命体はゆっくりと腕を動かし、スタンプを押した。離すときもゆっくりと。……遊園地公式が「不気味」というだけあって、得体の知れない機械生命体であった。

 

「……じゃあ、あれも……」

「小太郎?」

「心当たりがあります、ついてきてください」

 

 小太郎が早歩きで路地を進む。藤丸は不気味な機械生命体に会釈し、小太郎についていく。

 路地を抜け、売店エリアに出た。今回も前回も、ここからジェットコースターへ向かったのだ。

 

「ほら、あそこ」

 

 小太郎が指差す先、階段の踊り場に、一体の機械生命体がいた。

 クラウンの服装をしているもののメイクはしておらず。頭を抱え震えている。そして耳を澄ますと、ぐすん、ぐすんと機械的な啜り泣きが聞こえてくる。

 

「先程ここを通った際に、泣き声が聞こえた気がしたんです。男シリーズの見つけ方がああいう感じだと分かって、もしかしたらと……」

 

 よく見ると、機械生命体の傍らには台が置いてある。スタンプ台だ。

 

「さすが、サーヴァントの聴力だな……」

 

 藤丸はカードを持って機械生命体に近寄る。……目の前まで接近しても顔を上げず、啜り泣きを止める気配はない。

 

「うううっ……悲シイ……」

「あ、あのー……スタンプを……」

「……スタンプなんカホシインデスネ…………」

 

 機械生命体は藤丸からカードを受け取ると、スタンプ台に置く。スタンプを手に持つ機械生命体であったが、その目からは(オイル)がこぼれ落ちていた。

 

「ホラ……ボクの涙デスタンプを押してあげ……ウワーン!」

「わぁっ、わぁっ!」

 

 機械生命体はスタンプをカードに押し付けたまま泣き出してしまった。溢れた涙がカードに落ち、用紙が涙を吸ってふやけてしまう。

 

「大丈夫です、大丈夫ですからカードを……主殿、早く!」

「わかってるって! ほら、お願いですからカードを……待って、破ける破ける!」

 

 

 

 一悶着あったが、無事スタンプカードを回収し、メインストリートに戻ってきた。二人とも大きく息を荒げている。誰も機械生命体がこんなに感情豊かだなんて言っていなかったのに。これも機械生命体の進化だろうか……。

 だが、悪いことばかりではない。①金色の兎、②泣く男、④不気味な男、⑤宇宙船、⑥絶叫の五つのスタンプが回収できた。あと半分だ。

 

「……でも、数が絞れてきた辺りが一番難しいんだよなぁこういう探しもの系って……」

 

 ポップコーンをつまみながら辺りを見回す藤丸。泣く機械生命体を発見した功績から、目をつむり耳を澄まして対象者の声を聞き分けようとする小太郎。残る男シリーズは③キレる男、⑦気合の入った男、⑧笑う男だが……。

 

「! 聞こえました!」

「おっ、どこだ!?」

「声は……あちらからですね」

 

 小太郎が指差す。泣く機械生命体がいた売店エリア。それと対称に位置するもうひとつの売店エリアの奥に機械生命体の影が見えた。藤丸も耳を澄ますと、確かに機械的な声が聞こえる。怒鳴り散らすような……。

 

「キレる男か!」

 

 機械生命体の正体に気づくと藤丸は意気揚々と足を踏み出す。だが、思えばこちらの売店エリアの門は閉ざされていた。

 ……だがそういえば、パスカルの村に案内された時、従業員用通路を通ってあの辺りを通過した覚えがある。

 

「なら……こっちか! 行くぞ小太郎」

 

 二人は揃って駆けていく。未だ、機械生命体の怒号は小さく木霊している。

 

 

 

「フザケンナヨ! 機械生命体ダッテ生キテルンダヨ!」

 

 辿り着いたものの、機械生命体はずっとこの調子だった。スタンプ台こそ置いてあるものの、機械生命体はこちらには見向きもせず、一人虚空に向かって怒りをぶつけている。

 

「あ、あのー……」

「ミンナミンナシネ! スタンプもシネ!」

「す、スタンプも……!?」

 

 反応を見る限りこちらの言葉と意図は通じているようだが、その怒りは抑えられず、スタンプにすら向いてしまっている。これはもはや八つ当たりの領域だ。そもそもスタンプも死ね、という意図がわからない。

 だがやはり、いつまで待ってもスタンプを押してくれる様子はない。手詰まりか……?

 

「あの……主殿、これ」

 

 小太郎の声に藤丸は振り向く。小太郎が指差すスタンプ台、そこにはこれまで機械生命体達が持っていたスタンプがそのまま置いてあった。

 

「ああ……なんだ、演出か……」

 

 怒り散らす機械生命体は、スタンプの場所を教えるための演出に過ぎない。扱いは男シリーズだが、本質的には①金色の兎のような定置型なのだろう。

 

 

 

 従業員用通路から戻ってくると、入った時には見えなかったあるものが見えてきた。ある一体の機械生命体だ。地に手を付き、首を振りながら叫んでいる。その様は、まるで腕立て伏せをしているようにも見えた。

 

「……気合の入った男?」

 

 段々疲れがたまってきた藤丸はぽてぽてと機械生命体に近寄る。機械生命体は二人の存在に気づくやいなや、更に激しく震え出した。

 

「オイシャコラー! スタンプ? スタンプ!?」

「えっと……イエス?」

「オッケーダゼ! スタンプオシテヤルゼ! ヤルゼ!」

 

 そう言うと、機械生命体は藤丸の手からカードを奪い取った。……よく見ると、地についた手元にスタンプが転がっている。そういえばスタンプ台もない。まさか地べたで……?

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァアアアアアアアア」

 

 機械生命体はスタンプを手に取ると、体の痙攣に引けを取らない速度でスタンプを連打し出した。あまりにも力が強く、スタンプカードが少しずつしわくちゃになっていっている。

 

「おいおいおいおいおい! オッケー! もうオッケーだから、ほら!」

 

 藤丸の指示で小太郎が機械生命体を取り押さえる。拘束しているうちに、藤丸は機械生命体の手から離れたスタンプカードを奪取した。それを確認し、小太郎は機械生命体を解放する。そして機械生命体はまた叫びながら腕立て伏せを始めた。

 しわくちゃにされたスタンプカードを見る藤丸。泣く機械生命体の涙で濡れた部分から、地面のタイルが微かに見える。

 

「…………破けてるし」

 

 溜息をつき、傍らに置いたポップコーンの箱を取る。気づかぬ間に随分食べてしまったようで、あとはカスしか残っていない。

 

「小太郎、いるか? もう少ないけど……」

「少ないなどと……主殿の施しに、量は関係ありませぬ」

 

 そう言い張ると、小太郎は箱を口に当てざらざらと残りカスを口に流し込んだ。空になったのを確認すると、劇場方面にあるゴミ箱に空き箱を捨てに行った。

 

「……さて、と……?」

 

 その間、藤丸はスタンプカードとヒントカードを照らし合わせる。残るスタンプは⑧笑う男、⑨地下洞窟、⑩舞台演劇だ。⑩は後回しとして、⑧らしき機械生命体は見当たらなかったし、⑨にも心当たりがない。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、ちょっといい?」

『どうしたんだい、藤丸くん? モニターはバッチリだヨ』

「この辺って、地下空間とかってあったりするかな? スタンプラリーのヒントなんだけど、見当つかなくてさ」

『地下空間ね。地下空間……お、あの劇場の地下に何か空間があるっぽいぞ』

「おお、さすがダ・ヴィンチちゃん! 助かったよ、ありがとう!」

 

 頑張りたまえよ、とダ・ヴィンチは通信を切断した。するとちょうどタイミングよく、小太郎が戻ってきた。だがよく見ると、小太郎はなにやら訝しげな顔をしている。

 

「小太郎? 何かあったのか?」

「いえ……劇場へ向かう橋のところに、機械生命体がポツンと一人だけ立ってまして……遠かったので声までは聞こえませんでしたけど、もしかしたらと……」

「そっか。ちょうどいい、たった今ダ・ヴィンチちゃんが調べてくれてさ。劇場の下に地下空間があるっぽいんだ」

「⑨地下洞窟、ですか! ではもう劇場方面へ向かいましょう!」

「おう!」

 

 二人はメインストリートを抜け、劇場へ続く橋を渡る。……確かに機械生命体がいる。クラウンのメイクと帽子、体には風船がくくりつけられ、体の関節を回転させながら騒いでいる。そして機械生命体に近づくごとに、機械生命体の陰に隠れていたスタンプ台が明らかになってきた。

 

「じゃあ、あいつが笑う男か。すみませーん!」

 

 藤丸は機械生命体へ声をかけ、接近する。近づいて分かったが、機械生命体は静かに笑っていた。

 

「アッハッハ……この世界ハおかしいネェ……」

「は、はぁ……」

 

 不敵に笑っていた機械生命体だったが、どうやらこちらにも気づいたようで、スタンプカードを渡せと言わんばかりに手を差し出してくる。

 

「スタンプ? いくらでもアゲルヨ! ハッハッハ!」

 

 カードを手に取ると、機械生命体はスタンプを何度も押し付け始めた。朱肉の色がぶれ、残像のようになっている。言葉通り、いくらでもくれるようだ。

 

「あの、そのくらいで大丈夫です……」

「オヤ……コノ世ニハまだスタンプが必要だヨォ? アハ、アハァハァ!」

 

 大人しくカードを手放してくれたが、何かを変に曲解してしまい、笑い続けている。居づらくなってしまい、二人はそそくさとその場を後にし、劇場へ向かった。……もっと陽気に笑っているのを想像していたが、とんだ解釈違いを引き起こしたものだ。

 

 

 

 劇場のエントランスはボーヴォワール戦の帰りと同じく薄暗かった。シアターに入る前に地下空間を見ておきたいのだが……。

 

「お、これか」

 

 藤丸は天井からぶら下がる看板に目をつける。矢印と共に、エレベーターを示すピクトグラムが記されている。これは恐らく人へ向けた記号、そしてそれに従うならば……。

 

「あった、エレベーターだ」

 

 シアターへと進む中央廊下から外れ隅の通路を進んだ奥にひっそりとエレベーターがあった。ランプは緑、いつでも乗れる状態だ。

 

「確かここより上の階はありませんでしたよね。なら必然的にこれは地下に……?」

「そういうこと。乗るか」

 

 チーン、と音を立てて扉が開く。乗り込み行き先ボタンと閉扉ボタンを押すと再びチーン、となって扉が閉まり、エレベーターが下に動き出した。

 ごぅん、ごぅん、と重低音が響くエレベーター内。藤丸はなんとか場をもたせようとするが、どうも話す話題が見つからない。

 

「……そ、そうだ。小太郎は最近現代の戦術を学んでるんだよな? ほら、ボーヴォワールの時とか……」

「ええ。フレアの仕組みは非常に興味深いものでした。機械(からくり)の駆動する熱を狙うならば、別の熱源で偽装すればいい、と。僕の時代にはそのように狙いを定めてくる輩もいなかったので、現代の技術力に感服すると同時に、それを魔力・妖力で応用する術を考案したのです」

「それがあの分身ってわけか」

「その通り。……それと、学んでいるのは現代の戦術のみではありませんよ。カルデアには数多の英霊達が駐在しております故、彼らの戦術も参考になるものばかりです。最近はダビデ殿の対巨人用投石戦法(ハメシュ・アヴァニム)を教わっているところでして……」

 

 と、言いかけたところで。チーン、とエレベーターが停止し扉が開いた。

 

「っと、着いたみたいだな」

 

 二人はエレベーターから降りる。そこには、まさに地下というべき薄暗く、陰鬱とした通路が広がっていた。

 

「これ、どこにつながってるんだ……?」

「わかりません。ですが、何やら怪しい気配を感じます。主殿、後ろに」

 

 言葉通り藤丸は小太郎の背後に身を隠し、通路を進んでいく。壁には電灯がついてはいるが、その淡い光が影を強調し、より不気味に思わせてくる。

 暫く歩いて、階段を降りると、通路の先に明かりが広がっているのが見えた。何か、ブルーライトを帯びた、画面から漏れる光のようだったが……。

 

「ッ、主殿!」

 

 その奥の部屋から、機械生命体が現れた。メイクから服装までクラウンの格好。恐らく従業員なのだろうが、目は赤くなり、手を前に突き出し、フラフラと接近してくる。その様はまるでゾンビのようだ。

 

「主殿、一旦後退を……ッ!?」

 

 と背後を振り向いた二人は驚愕した。いつの間にか背後からも複数の機械生命体が迫っていたのだ。その集団も皆ゾンビのようにフラフラと迫ってくる。

 

「ッ……主殿、いざという時はガンドで自己防衛を。ここは僕が切り拓く!」

「任せた!」

 

 藤丸がそう言うと、小太郎は一気に敵集団へ駆け出した。

 

「しゃああっ!」

 

 小太郎はクナイを両手に構えると、きりもみ回転し竜巻を伴いながら突進していった。その一撃だけで複数の機械生命体は体をズタズタに切断され破壊されている。

 

「アタシト……アソボ……」

「アソボ……」

「アーーーソーーーボーーーーーー」

「鬱陶しい奴らめ……ッ!」

 

 次いで小太郎は鎖鎌を取り出す。その重しを手に持ち、鎖を十分に振り回し、まるで鞭のように鎖鎌を操る。小太郎の周囲を縦横無尽に斬り刻む鎖鎌を前に、機械生命体達は歩みを止める。

 が、機械生命体達が迫ってくるのは小太郎の側からのみではない。

 

「アソボ……アソボ……」

「ッ、主殿!」

「大丈夫だ、なんとかする!」

 

 藤丸は人差し指を構える。ガンドの構えだ。

 

「オラッ、ガンド!」

 

 指先から魔弾が発射される。狙い定めた魔弾は機械生命体に見事に命中し、回路をショートさせ行動不能に陥らせた。

 しかし、ガンド数発で済むほど敵は少なくない。

 

「なら、これを……!」

 

 藤丸が取り出したのは、掌に握れるほどの小石だった。その表面にはアルファベットですらない文字が刻まれている。

 ──ルーン文字。洗練された一工程(シングルアクション)の魔術だ。藤丸は自身の戦闘能力を持たない。故に代替手段となる携帯物に関しては多くのサーヴァントが助力を申し出る。このルーン石を授けたのはクー・フーリン。キャスター霊基にもなり得るほどの魔術の才を持つ。通常ルーン魔術はルーンを刻むことで発動するが、藤丸にそれはできない。なのでこの石を授けた。名を刻む代わりに名を叫ぶ。言霊により、ルーン魔術()()に呼びかける。

 

「ッ──ソウェル!」

 

 石を投げた。石は機械生命体の群れの中に入ってゆき、ころころと転がる。

 次の瞬間、小石が爆ぜた。火のルーン・ソウェル……ただの火と呼ぶことすらおこがましいほどの大爆発を引き起こし、群がっていた機械生命体を跡形もなく粉砕する。

 

「えぐ……」

 

 そもそも、ただの小石に刻まれたルーンを素人の藤丸が呼び起こした程度でこれほどの爆発は起きるのか?

 ────合点がいった。クー・フーリンだけではない、スカサハ、ブリュンヒルデ──ルーンの使い手達が、我こそはとルーンと魔力を小石に込めていったのだろう。

 いつだか、バレンタイン(ともチョコ)のお返しにあるサーヴァントからもらったチョーカー……何人もの聖人・聖女によって祝福されたそれを身につけていたら、戦うまでもなくヒュージゴーストが蒸発したことがあった。高まり極まった神聖による浄化だったのだが、このルーン石でも同じような事が起きている。

 

「こっちは大丈夫だ! 一気に決めちまえ!」

 

 小太郎は飛び退いた。すると小太郎はどこからともなく、身の丈ほどもある巨大な手裏剣を取り出した。中央の持ち手に空いた穴に手を通すと、フラフープを回すように手裏剣を回転させ、勢いをつける。

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前────成敗(ブレイク)ッ!」

 

 手裏剣を、放った。強烈な回転を得たそれは空間すら歪めるほどの真空を纏い、機械生命体の群れへ飛翔する。機械生命体達はそれを防ぐこともできず、まるでバターのようにすぱすぱと切断されていく。手裏剣はそのまま奥の広間まで翔んでゆき、広間でブーメランのように旋回した後、再び同じ軌道を戻ってくる。そしてまた同じように機械生命体達の体を切り裂きながら飛翔し、小太郎の手の中に舞い戻った。

 機械生命体達は火花を散らし、爆発してゆく。そして、最後の一体までもが、その機能を終えようとしていた。

 

「アソンデクレテ……アリガトウ……」

 

 機械生命体はそう言い残し、爆散した。

 

「……なんか、後味悪いな」

「……彼らは闘いを望み、我らはそれに応え、その渦中の内にて死する幸福を馳走した。それが全てなのです、主殿」

「そうか……あいつらが望んだことなら、気に病む必要もないか」

 

 ふぅ、と一息つく藤丸。すると、冷静になったその目に、あるものが写り込んだ。

 

「小太郎、足元のそれ」

「足元?」

 

 小太郎が俯く。そこにあったのは、鉄板の床を転がるスタンプだった。

 

「いつの間にこんなところに……もしや、彼らの体内に?」

「ホントに死ぬ用だったのかよ、あいつら……」

 

 なんとも複雑な気持ちになる。これを仕組んだ者は知らないが、地下深くという場所も相まって、スタンプの配置は改めたほうが良いだろう。

 

 

 

 地下で拾ったスタンプを押印した二人は、地上階に戻ってきた。残すは⑩舞台演劇。ボーヴォワールと戦闘を行ったシアターにて、何やら演劇が始まるようだ。二人は二階の観客席に腰掛ける。周りには意外にも多くの機械生命体達が観劇しており、彼らの進化を思い知る。

 だが問題は演目だった。果たして原作者(ウチの)が何と言うか。演目は────「ロミオ達とジュリエット達」。

 

「──────」

「………………」

『ハッハァ! いやはやなんとも嬉しいものでありますな、我が著作が一万年を経た遥か未来においても演じられようとは! 死してなお輝きを放ち、後世への智慧となる──まさに作家冥利に尽きるというもの! ……おや、どうなされましたかなお二方。舞台演劇はあまりご鑑賞なさらない?』

 

 そうではない。タイトルから既に嫌な予感がするのだ。一万年もの伝言ゲームにて歪められたロミオとジュリエット、それを原作者──ウィリアム・シェイクスピアと鑑賞するなどという空気感は普通の人生では味わえぬ鈍痛だ。

 大体、ホームズもホームズだ。さっきまでスタッフとの茶会に興じていたと言うのに、演目名を報告するやいなやモニターに飛びついてきて、危機としてシェイクスピアを呼び出すのだから。あの時の笑顔に声色ときたら……。

 

『俯いている場合ではございませぬ。ささ、開演ですぞ!』

 

 ビーーーー、という大きなブザー音と共に照明が落ち、幕が開く。そこに、恐らくジュリエットであろうオレンジ色の機械生命体が上手(かみて)から現れる。

 

「オオ! ロミオ! ロミオ! 貴方は何故ロミオなの!」

 

 典型的な「ロミオとジュリエット」ゼリフだ。原作を詳しく知っているわけではないが、流石にこの言葉から始まるということはあるまい。

 続いて、下手(しもて)から青い機械生命体──ロミオが登場する。

 

「アア! ジュリエット! ジュリエット! 貴方は何故ジュリエットナノ!」

 

 ふと、違和感を覚えた。「貴方は何故ロミオなの」というセリフは有名だ。だがそれのジュリエットバージョンは聞いたことがない。やはり、一万年間の歪曲は力強いか……。

 

「オオ! ロミオ! ロミオ! 一体ドレがロミオなの?」

 

 ん?

 今、確かに変じゃなかったか? 何と言うか、ジュリエット役が二人登場しているような……。まぁ、ダブルキャストが同時に登壇するという演出は現代においてもないことはないだろう。だが、それにしてはセリフが──。

 

「アア! ジュリエット! ジュリエット! 私にも良くわかラナインだ!」

 

 いや、気のせいじゃない。これは異常だ。ジュリエットが二人、ロミオも二人、そういう演出かと思いきや脚本もそれぞれが複数いる想定で組まれている。

 その時、ハッとした。これは「ロミオとジュリエット」ではない。「ロミオ達とジュリエット達」────!

 

「オオ! ロミオ! ロミオ! ナラバ貴方の数を減らしましょう」

 

 待て待て待て待て待て待て待て。

 今、自分へ向いたものではないにせよ、明確な殺意を感じた。ロミオを殺さんとするジュリエットの殺意だ。おかしい。ロミオとジュリエット(原作)が、こんな話なわけがあるか! ラブロマンスはどこへ行った!?

 

「アア! ジュリエット! ジュリエット! ナラバ君ノ命も奪ッテミセヨウ!」

 

 …………終わりだ…………。彼らはもう、我々の知るそれとは別の地平へ駆けていった。殺意の波動に駆られ、恋さえも捨て、声を荒げ凶器を突きつける。もはや原形など残ってはいない、蝶へと孵った蛹の殻を食べた芋虫が、それが更に共食いの果てに蛹となり孵った奇形の蝶のような(いびつ)。死へと羽ばたき大地に口づけし砕け散っていくような脆弱…………。

 ああ、だがそれは確かに「ロミオとジュリエット」だった。運命づけられた絶望的な悲劇(トラジェディ)だったのだ────。

 

「死ねイ! ロミオ! このクソ野郎!」

「生まレタ事を後悔サセテヤル! 来いッ!」

「貴様ニ土の味を味アワセテやる!」

「シネエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 そうして、とうとう乱闘が始まった。

 罵詈雑言を浴びせ合いながら殺し合うロミオ達とジュリエット達。そこにかつての恋の面影は無く、ただ敵を殺すだけの獣と成り果てていた。

 ロミオ同士で攻撃するものや、ジュリエット同士で攻撃するものもいる。壊滅的な混乱が劇場を包む。

 

「破壊スル!」

「イタイ! イタイ! 殺ス!」

 

 数体、爆ぜた。

 だが、まだ終わらない。この戦いは最後の一人になるまで、きっと永遠に続く。紅く光る凶暴な瞳が、観客の目を釘付けにして離さない。

 

「シネシネエ!!!!」

「ブッ壊ス!」

「このクサレ女メ! 世界から消エテ無くなれェエエエ!」

 

 そして、とうとう二人一組だけになった。だが、殺戮は止まらない。()()()()()になるまで、決して止まることはない。

 

「滅びよ! 呪ワレシ男ヨ!」

「バカチンがー!」

 

 そして、青い機体が爆ぜた。

 最後に残ったのはジュリエット。同じジュリエットを殺し尽くし、愛するロミオも殺し尽くし、孤独を強いられた哀れな娘。

 

「……アア……ロミオはモウイナイ。全部殺シテしまった!」

 

 途方に暮れるジュリエット。ただ呆然と立ち尽くし、天を仰ぐ。あの向こうにロミオ達とジュリエット達はいるのだろうか。幸福な世界にて、私を笑っているだろうか。

 

「私もオトモをイタシマス!」

 

 そう言い残し、ラスト・ジュリエットも爆ぜ消えた。

 

 幕が閉じ、舞台脇からクラウンの格好をした機械生命体が駆けてくる。舞台の中心部分まで来ると、全席の観客に伝わるように大きな声で話す。

 

「えー、これにて『ロミオ達とジュリエット達』の上演を終わらせていただきます。お足元にお気をつけてお帰りください。スタンプをご希望の方はどうぞコチラまで」

 

「──────」

「………………」

「いやおかしいよな?」

 

 藤丸は叫ぶ。小太郎は信じられないものを見た、という顔で硬直している。ただそれは素晴らしいものを見たという顔ではなく、得体の知れないものを見たという顔だった。

 周りの機械生命体達も思い思いの感想を述べているようだ。述べているようだじゃねぇ。何もかもがおかしかった。一瞬感覚が麻痺するほどの悪寒を感じた。それはある種ゲーティア戦以上の恐怖であった。

 

「ロミオが三体、ジュリエットが三体……最後はロミオもジュリエットも0体……ソウカ……コレガ真理か!」

「ブラボー、ナンテ素晴らしい劇ナんだ!」

「ああ、ジュリエット、ジュリエット……君ヲ思うと何故だかコアが熱クなるヨ……」

「フム、コレが過去に残ル有名ナ文献か。ワタクシの見解によるとコノ話は人の残虐性を説いた物デスネ」

「感動スル劇がアルト聞いテ村からハルバル見ニ来たんダ。コレが感動するとイウ事なんダネ! 村に帰ったら友達ニモ教えてあげルンダ!」

「コノ劇、何カオカシクないカ?」

 

 だが、こうなると一番不安なのはシェイクスピアの反応だ。自身の著作をここまで継ぎ接ぎにされた本人の気持ちは想像に難い。

 

(フハハハハハハ! 何と、何という喜劇! こんなものがロミオとジュリエットであるものか! 素晴らしい! これぞ演劇の新たなる次元、新芸術なのだ!)

 

 それとも、

 

(おのれ、この我輩を愚弄するというのか! こんなにもおぞましき駄作を観せられて何を述べれば良いと!? 否、述べることなど何もない! 貴様らは息をすることすら穢らわしいのだ! この破壊者共め! 開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)!)

 

 ぐぬぬ……双方とも有り得てしまう。だがその真意は本人のみぞ知る。彼の顔に振り向かねば、真実を突き止めることなどできはしない。ホームズならきっと、真相から目を背けはしないはずなのだ。

 恐る恐る、モニター越しのシェイクスピアの顔を伺う。ゼンマイ人形のように首が強張る。だが、振り向かねばならない。

 その顔は────、

 

「………………」

 

 その手を口元に、何かを思案しているようだった。

 

「…………あの…………シェイクスピア?」

「ん……おお、気づけず申し訳ない。多少の考察を捗らせていたものでね」

「考察、とな」

「うむ。それは他でもない、この『ロミオ達とジュリエット達』という悲劇、その構造論である。…………どうやら今の我輩には考察を吐き出す場が必要のようだ。ご享受、願えるか?」

 

 意外にも、感情的になっていない。彼を召喚してから今まで、こんなシェイクスピアはなかなか見たことがなかった。それ程にこの劇は深いものを植え付け、そして彼は何を考えたのだろう?

 藤丸はシェイクスピアの申し付けを受け入れた。シェイクスピアが望むなら断る理由もない。それに原作者の見解ということで、これは価格をつけられぬほどの知恵となるだろう。

 

「まず注目すべきは、彼等が人間ではなく、全編機械生命体キャストで演じているということです」

「まぁ、西暦11945年だし、そりゃそうだよな」

「ええ、ええ。そしてこれは僅かな言葉で済ませることなどできない乱雑のもと形作られた緻密なシナリオなのです」

「……というと?」

「ロミオとジュリエット──あの機械生命体達は、かつて一人ずつ存在していた。それが分化し、同一存在の複数個体となった。ええ、これは個人の話ではありません。『ロミオ』『ジュリエット』という種族の話なのです。人間に例えてみせましょう。かつて人類は最初の人類アダム、或いは類人猿ルーシー/アルディより分化した存在です。つまり元々は一人だった。同一存在が複数個体となる例は、既に我々こそがその通りなのです」

「……なるほど?」

「今や人類は一人の人間から70億もの大民族へと成長を遂げました。だが我々は同一存在の分化であるにも関わらず、価値観の違い、意見の相違によって殺し合っている。貴方方日本人はよくご存知でしょう。混沌極まった闘争が、どのような悲劇の土壌となるのか」

「あー……まぁ、確かに」

「つまり! 分かたれた何者かは、もはや同じ存在とは有り得ないのです! 脳の出来とは、個体によって違いますでしょう。勉学の階級が違うように、我々は信じるもの、信じたいものさえ一人一人異なるのです。ある一つの存在が自らを複製すること……それは思想の増加、種の複雑化に他ならない! そして、劇を演じるほどの知性を持つ機械生命体にも同じような『思想する知恵』が適応され得るのであれば、この劇は戦争の、いや────生命種の誕生を『ロミオとジュリエット』に託し暗喩した回顧録(ヒストリア)に違いないのです!!」

「…………は、はぁ」

「ムムムムムム、インスピレーションが湧き上がって参りましたぞ! 早速執筆作業に入らねば! 代替労働力たる機械人形(アンドロイド)が思想に目覚め、恋や裏切りを経てやがて内戦を起こし自滅してゆくサイバーパンク悲劇! これは面白くなって参りましたぞぉ……!」

 

 そんなことを呟きながら、シェイクスピアはデスクから去っていった。またどこへ出るわけでもないのに作品を書き締め切りに追い詰められる日々を始めようとしている。でもウィリアム・シェイクスピア作のサイバーパンク小説なら、ちょっと読んでみたいかも……。

 

「────個体が増殖し、価値観がずれ、殺し合いを始める、か……。まるで、本当に人間みたいだな」

 

 背もたれに寄りかかり、思案する。機械が感情を持つ──21世紀初頭たる現在の技術では考えもつかなかったことだろう。今の彼等(AI)は人間の指示を実行する機械(マシン)でしかない。だが、それがこの機械生命体達のように果てしない知恵を得るようになったというのなら、彼等を新たなる種族とする日も来るのだろうか。

 だが、ふと疑問が残る。機械生命体には感情がある。ヨルハを中心としたアンドロイドも──2Bのような堅物はいるものの──9Sやジャッカスのように剥き出しの感情を突きつけている。その行動汎用性、欲求、思考の柔軟性においてまで彼等は同じなのだ。……故の違う二種の機械が、果たしてここまで似通うものだろうか? あるいは────。

 

「主殿」

「…………あっ、どうした?」

「スタンプもらってきますね」

 

 藤丸の集中力は、そこで途切れた。

 

 

 

「────ということがあってだな」

 

 十個のスタンプを回収し終えた藤丸達は豪華景品を手荷物に、パスカルの村へ帰還した。そこには、ちょうどアネモネへのおつかいを済ませたであろう2Bと9Sの姿もあった。

 

「で、豪華景品というのは何だったんですか?」

「それがな……多分、二人なら有効活用できるんじゃないかと」

 

 藤丸は両手サイズのケースを二人に渡す。9Sはケースに解析とハッキングを仕掛け、セキュリティチェックと解錠を試みる。

 がちゃり。解析が終了し、鍵も開いたようだ。

 

「おお……これはかなり上物のプラグイン・チップですよ! しかも高耐久ワクチンプログラムまで……!」

「ありがとう。これは私達でありがたく使わせてもらう」

「あぁ……役に立てたなら何よりだよ」

 

 するとそこへ、子供の機械生命体達が集まってきた。彼等が手を伸ばすのは、藤丸と小太郎の頭部にある────金色のウサ耳カチューシャだ。

 

「オニイチャン、おミミちょうだい」

「ちょうだい!」

「あ、これ?」

 

 遊園地入口にいた巨大なウサギ像……どうやらあれは園のマスコットのようで、あれを模したカチューシャ等のグッズが山程配布されていた。スタンプラリーの達成感で興が乗った二人は、怪しむこともなくカチューシャをもらって帰ってきたのだ。

 ……まぁ、特に何も考えずにもらったものだし、子供達に欲しいとねだられたら断る手はない。

 

「はい。大事にしなよ」

「僕のも、どうぞ」

「ワーイ! オニイチャン、アリガトウ!」

「ピョン、ピョーン!」

 

 カチューシャを付けすっかりウサギ気分になった子供達は脚部をバネのように伸縮させ、どこかへ跳ね去っていった。

 耳を失った二人に、村長パスカルが謝礼を述べる。

 

「お二人共、ありがとうございます。あの子達はまだ幼くて、遠慮というのを知らないものですから……」

「いいんだよ別に。あの子達が欲しがってたんだからさ」

「……本当に、お優しいんですね。こうやって全てのアンドロイドと機械生命体、そして人類が平和に暮らせたらいいんですけど……」

「そんなの、夢物語だ」

 

 口を挟んできたのは、9Sだった。ゴーグルに隠れて目は見えないが、その口元、顔の皺が、機械生命体への憎悪を色濃く写していた。

 確かに、アンドロイドの彼等は子供と触れ合うことを知らない。だが無邪気な命の前に、機械生命体だからといって凶器を振りかざすのか?

 

「9S、お前……」

「大丈夫ですよ、藤丸さん。彼の思うことも私はよくわかります」

 

 藤丸を静止するパスカル。変わらぬ優しい声色だったが、その表情は機械でありながらも、どこか曇って見えた。

 

「ですが、対話することでしか相互理解は得られない……私はそう思っています。ええ、きっと」

「そう……」

「ほら、2Bも頷いてるじゃないか! 9Sもそう頑なにならないでさ……」

「私は話を聞いているだけ。機械生命体を認めたわけじゃない」

「そんなぁ」

 

 落胆する藤丸。三人のやり取りを見て遠く微笑んでいる小太郎を見て、藤丸は思わず小太郎を睨みつけそうになった。

 

 だが、その瞬間。

 ごぅん。地震とも異なる轟音が大地に響き渡った。

 

「な……なんだ!?」

『藤丸くん、気をつけて! ヤな反応が増えだした!』

「ヤな、って──」

 

 すると、ポッド042にも通信が入った。明るい声のオペレーター・6Oが画面に映る。

 

『バンカーより緊急連絡! 廃墟都市地帯に敵大型兵器の出現を確認しました! 他にも機械生命体反応が多数あります。全ヨルハ部隊は迎撃に急行してください!』

 

 そう告げて、バンカーからの通信は途切れた。

 

「大型兵器、って……」

「前回作戦で2Bが破壊した大型の機械生命体です。まだ残っていたとは…………。2B、やっぱりこいつらは僕らを罠にかけようとして────」

「私達もその情報を知りませんでした。信じていただけないかも知れませんが…………」

「信じるよ」

 

 そう言い切ったのは、藤丸だった。裏切りを疑われながらも、地鳴りの恐怖で頭を抱えるパスカル。その顔面パーツには、明らかに恐怖の色が滲み出ていたのだ。

 

「でも、藤丸さん────こいつはあいつらと同類なんですよ!?」

「同類なんかじゃない! パスカル達はみんな、確かに戦いを恐れて────」

「どっちでもいい。……倒しに行く!」

 

 そう討論を斬り捨てたのは2Bだった。今この場においては、2Bの冷徹かつ合理的判断が最も筋が通るものだった。それに便乗するように、小太郎も口を出す。

 

「彼女の言う通りです。敵か味方かなんて、この際どうでもいいでしょう。大敵を誅す────言い争いは、その後にしていただきたいです。主殿も」

「ッ……そうだな、わかった。行こう!」

 

 四人の意思が固まり、一斉に駆け出す。真っ先に廃墟都市方面へと駆けてゆくヨルハ二人に対し、藤丸は立ち止まりパスカルと子供達の方を振り向いた。

 

「パスカル──」

「私は村の子供達を守らなければ……あなた方も気をつけて、無茶はしないでくださいね」

「…………わかってる!」

「主殿、早く!」

 

 小太郎の呼びかけに応じ、藤丸はパスカルと子供達を尻目に駆け出した。

 トタンの橋がカタカタと音を立てる。木々草花がザワザワと音を立てる。灰色の大地がゴウゴウと音を立てる。それは世界の悲鳴であり、異物への拒否反応のようでもあった。

 今宵二人のヨルハ、そしてアサシンのサーヴァントとそのマスターは、運命を左右する大敵との戦い(GRAND_BATTLE)へと身を投じる。




アニメ版も仰々しいことになってますがストーリーはゲーム版準拠で行こうと思ってます
何かビビッと来たらアニメ版の設定を拾うかも
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