「ラギアクルス、ですか」
「うん……、アルゴさんはまだ水中苦手だってわかってるけど」
あれから練習したとはいえ苦手意識は当然残っている。ましてや今度はロアルドロスより格上だ。大海の王だっけ、別名。
リオレウスとライバル的な位置って聞いたことがある。ライゼクスもそうだよね、あとセルレギオスもだっけ。リオレウスさんモテモテですな。
変な方向へ思考が飛んで行ってしまった。ともあれラギアクルス……。
「しかしなんでまたこの依頼を受けようと思ったんです?」
「ギルドからのお達しで……、このところ狩猟成功率が高かったからこの依頼を達成できたらハンターランクの昇格があるらしく……、受けてみては、と」
昇格クエストかぁ。確かにここ最近ガンガン依頼を受けていたからなぁ。ハンターランクが上がれば危険度の高い依頼も増えるがいろいろいい素材が多いし、魅力的なのだろう。
正直私の手伝いもあるから実際のところ実力的には昇格がふさわしいのかはわからない。でも手伝ってることはマスターも知ってるし、大丈夫なのかなぁ。
うん、やってみよう。そろそろタンジアの滞在も終わりそうだし、思い出づくり&最後に仲良くなるイベントとしてやろう。
互いの成長を実感できるちょうどいい機会だし、この流れはやはり来てる! 婚期の風が!
「私ももうすぐタンジアから離れますし、その依頼一緒に行きましょうか」
「ありがとうアルゴさん!」
そう言ってジンさんは受付に向かっていった。ふふ、私こそありがとうだよすごいこう、すごいありがとうだよ。
そしてやってきました孤島です。
だいぶベルダー近辺にあった狩場と似ていて不思議な気持ちになる。
今回もペアでの狩猟だ。最初はほかの同行者を求めるのかと思ったがペアでの狩猟だ。本気で友好度がすごいのではないだろうか。
ターゲットのラギアクルスは顔に傷があるらしく、ギルドの職員さんの話だと、漁船を襲って備え付けのバリスタにやられたらしい。そしてその恨みか船や人を見ると襲うようになってるのでは、とのこと。
うん、逆恨みじゃないかなそれ。まぁそのため緊急性がやや高い。
ちなみに今回もアイアンハンマーです。大剣かハンマーかで悩んだけども二度目の水中戦だし一回目と同じ武器がいいかなと思いハンマーをチョイス。
「はい、アルゴさんこれ」
「あ、ありがとうございます」
受け取ったのは支給品の酸素玉。今回は以前のロアルドロスのようにごり押しは無理だろうから酸素は大事だ。甲殻のあるモンスターにベアハッグもどきは効果が薄い気がするし、何よりラギアクルスは雷を纏うから普通に水中戦になるだろう。
「それじゃ行こうか」
「はーい!」
うん、行こう。そして結構いい感じの女性ハンター、みたいなイメージを完全に植え付けるのだ!
「やっぱり海中にいそうだな」
「うへぇ……」
孤島を探し回ったがラギアクルスは見つからなかった。ベルナ近辺のラギアクルスが陸に適応しすぎてるのは特殊なケースなのだろう。
「大丈夫だよ、アルゴさんもかなり泳げるようになったし、僕も狩りに慣れてきたと思うし」
「なんにしろやるしかないですね……」
「そうだね、それじゃあ行こうか」
「はい、頑張りましょう」
水中では声を掛け合うことができない。なので水中に入る前に互いに鼓舞しあって飛び込んだ。
しばらく泳いだ先に、巨体を発見した。顔に傷のある今回のターゲット、ラギアクルスだ。ジンさんに前回の水中戦とは違う姿を見せるためにも、狩らせてもらおう。
うん、泳ぐ練習はしたさ。結構泳げるようになったさ。だけどさ、だけどさ。
武器を構えながら泳ぐ練習してないわ。全然進めないわこれ。両手でもつ武器は失敗だったのだろうか。いや、そんなことはないはず。単純に私の技術がダメなのか。
意気込んで挑んだものの前回と同じようにジンさんとラギアクルスが戦ってて私は追いつくのに必死である。近づいても少しラギアクルスが動いただけで距離がすごく離れたように感じる。おまけにこのラギア、報告通り傷の恨みなのか武器を持ち、脅威となる人間を狙ってる。つまり私は完全にアウトオブ眼中。
しかしあれだなー、タンジアのハンターは絶対前世魚とかだよ。
全く相手にされず少し拗ねてしまったが正直しょうがないと思う。ジンさんにいい姿を見せたかったのに逆に見せられてるよ今。縦横無尽に泳ぎながら戦うジンさんが新人ハンターさんとはとても思えない。やっぱり絶対前世魚だ。見学状態だけど一応参戦しようと必死に泳いではいるのだ。もう武器は背中に戻したけど。
ラギアクルスが体をひねり始めた。あ、これ放電きそう。でも結構わかりやすいしジンさん大丈夫だよね。
ジンさんも離れて始めてるだろうと思ったが思いっきり近づいてる。
え、ちょっと、やばい。
まぶしく感じるほどの白光。そして吹き飛ばされるジンさんの姿が見えた。それに追い打ちをかけようとするラギアクルスの姿も。
続いて再び炸裂する光。
よかった。ちゃんと動いた。閃光玉が水中でもちゃんと機能するか不安だったけど大丈夫なようだ。
ラギアクルスは突然の光でよく見えてないようだ。だがその分派手に暴れてる。急いでジンさんを連れて一度離れよう。
放電が直撃したせいかジンさんは意識がないようだ。海岸までなんとか撤退はできたがどうしよう。ジンさんをおいて私一人で倒してもいいけども、それだとジンさんの昇格クエストの意味がない。かといってジンさんがもう一度ラギアクルスに挑むというのは厳しいかもしれないしなぁ。
そんなことを悩んでてるとジンさんが気づいたようだ。回復力結構あるようだ。
「あ……、すいません。運んでくれたみたいで」
「気にしないでください。前回運んでもらいましたしね。それより体は大丈夫ですか」
「少し痺れがあるけど、大丈夫」
「とはいえどうします? 厳しければリタイアしてもいいと思いますけど」
水中での戦闘では私より断然うまいジンさんでも、ラギアクルスは厳しい気がする。昇格クエストを一人で本来やる必要はない。私もいるとはいえ全く戦いに参加できなかったから実質一人でやってるようなものだ。それならいっそ一度リタイアして同行者を求めたほうが確実な気がする。幸いこのクエストは緊急性があるとはいえ、多少達成が遅くなっても大きな被害につながるわけでもない。ギルド側が急ぎ討伐してほしいというのなら私一人でやってもいい。肉を切らせて骨を断つ作戦でぶつかればなんとか狩れるだろうし。
……まぁ、デキる女アピールできてないのがつらいが私のわがままで危険に合わすわけにはいかない。そんなわけでリタイアをそれとなく勧めてみた。
「いや、まだ頑張るよ」
本人はまだやる気のようだ。だけどなぁ……。ここは心を鬼にして止めさせよう。
「正直言ってジンさんだけでは厳しいと思います……。水中だと私は戦力になってませんし」
「やっぱりそう思えるよね……」
「実質ジンさん一人でやってるような状態ですから……。だからここはあきらめて、経験を積んでからでも」
「アルゴさんはあきらめてる?」
ほわ? 私は特にあきらめてないけども。でも私に期待されても困る。ジンさんがある程度でも戦わないと昇格には意味がない。どう返事したものか……
「ほら、アルゴさんはあきらめてない」
いや、ほら、ではない。
「アルゴさんは別の地域じゃきっとベテランのハンターなんだと思う。けど、タンジアじゃ新人なんだ。僕はアルゴさんよりは、タンジアでは先輩なんだ」
「……まぁ、そうですね?」
「後輩があきらめてないのに、先輩の僕があきらめるわけにはいかないよ」
……あ、これきっと感動するシーンだ。いかんさっきから温度差がなんとなくあるなと思ったけどそうか。私の真剣さが足りないんだ。危ない。生暖かいものを見る目になりかけた。危ない。
ジンさんが真剣になってるんだ。私も真剣にならないと……、というかこれはカッコつけてますね。微笑ましさを感じてしまう。
ん……? いや待て。カッコつけられてるということは、私のハートを今狙っている……!?
え、もうラブラブ作戦大成功!? あ、だめだニヤけちゃだめだ。ここまだ真面目なシーン!
それに冷静に考えたら、下手に雰囲気に流されてジンさん出撃したら最悪帰らぬ人になっちゃいかねない!
だいぶ友好度が高いとわかっただけでもよし! 今回は冷静に対処だ!
「ジンさん……」
でもなんて言えばいいのこの空気? かっこいいです? 肯定しちゃだめだよね。肯定したらジン出撃だよ。そんなことありません? 否定したらカッコつけたジンさんがなんか締まらないよ。黒歴史として記憶を封印してしまうのではないだろうか。どうしたらいいのほんとこれ。
「アルゴさんと一緒に狩りをして、僕はずっとアルゴさんに頼りっきりだった。だけど、いつまでも頼りたくはないんだ。いつかはアルゴさんに頼られる存在になりたい」
「えと……」
「もちろん今のままじゃダメだとわかってる。だからこそ、ここで、ラギアクルスにあきらめたくはないんだ。倒して、成長したいんだ。少しでも早く、アルゴさんに頼られるようになるために。武者修行までして強くなっていくアルゴさんに追いつくためにも、止まれないんだ」
……どうしよう。すごい恥ずかしい。
いや、すごい気持ちはうれしい。すっごいうれしい。好かれてるのが実感できたのすっごいうれしい。私に頼られる存在になりたいとかもうれしい。うれしいけどなんていうか恥ずかしい。人の黒歴史が作られる瞬間を見てる気持ちがあるこれ。いや、うれしいけども。
でもまぁ、うれしいけど流されるわけにはいかないんで。あ、あと武者修行じゃないって言ったと思うんですけど。
「その気持ちはうれしいです、だけどジンさん……」
「だから、見ていてくれ」
一人で盛り上がられるとほんと困る。好意からの盛り上がりだから止めづらい。
「僕がラギアクrすわああああああああ!」
「うわぉおおおお!?」
ジンさんが吹っ飛んだ。その代わりに現れたのは青い巨体だった。
海岸でおしゃべりしすぎたのだろう。ラギアクルスが陸に上がってきたのだ。攻撃というよりただの盛大な上陸だったのだろう。なんかラギアクルスがキョトンとしているし。そしてジンさんは盛大に吹っ飛んだだけで無事っぽい。ピクピク動いてるし生きてる。
ラギアクルスがジンさんと私に気づいたのか咆哮をあげる。
それに対して私が抱いた感情は怒りだった。
いやさ、どうやって止めようかって悩んでたよ? だけど、いいムードになるかもしれない状況だったんだよ? それが何? なんで妨害するの? 水棲のモンスターは妨害が趣味なの? しかも攻撃じゃなくてただの上陸の際の事故? 悲劇のヒロインにもなれないじゃんそれ。コメディじゃん。この、この……ちくしょうが!
頭に血が上って思わず叫び返す。言葉ではない。ただの怒りの叫びだ。
陸にわざわざ来てくれたのだ。一切容赦はしない!!
すぐさまかち上げで顎を狙う。その衝撃でかラギアクルスが上体を大きくのけぞらせた。もう一発、今度は頭の上に叩き込んでやろう。
ラギアクルスは体勢を戻し勢いよく突進してきた。水中ならまだしも陸上では全く当たる気がしない。通り過ぎたあと、こちらの位置を確認しようと振り向いた顔に、顎にもう一発かち上げを当てる。
……なんか弱くね? ベルナ近辺のラギアと比べるとなんかすごい弱くね? ベルナ近辺のラギアがおかしいの?
少し拍子抜けしたが、容赦はやはりしない。なんの恨みがあって私たちのいいムードをぶち壊したのだこいつは。絶対に許さん!
再度怒りの咆哮をあげた。私が。
ラギアクルスが突然逃走し始めた。いきなり撤退か。だけど絶対逃がさない。
しかしやはり歩幅が違い過ぎる。このままでは海に逃げられてしまう。
だから私は、逃がさないために全力で投げた。ハンマーを。
焦りからか怒りからか、体が勝手に動いた。
ラギアクルスの蓄電殻にバキバキという音を鳴らしながらあたった。突然の衝撃からか、やつは動きを止めた。その隙に近づき、ハンマーを拾いなおし、痛みに苦しんでる無防備な頭に全力で叩き込んだ。
その一撃が決め手になったのだろう。ラギアクルスは動かなくなった。
怒りが発散された。勢いで吠えた。私が。
うん、何で吠えてるんだ私。勢いってこわい。ラギアの討伐が終わったことを再度確認したら急に冷静になってきた。なんで吠えたんだろう。なんで叫んだんだろう。威嚇か。いや、ただのストレス発散だ……うん。そういえば防具には素材となったモンスターの魂が宿るとか聞いたことがある。鏖魔ディアブロスの魂が影響して私にあんなことさせたんだそうに違いない。うん、私は悪くねぇ!
っていうかジンさんが倒さないとーとか考えてたのに完全にやっちゃったよ。まぁでもジンさん吹っ飛ばされたし……ってそうだ! ジンさん無事なの!?
慌ててジンさんの状態を確認しに行く。
「ジンさん!」
「……あ、アルゴさんはやっぱり強いね」
あ……、これは……。いや、まだあきらめるな私!
「今、目が覚めたんですか!? 今! 目が覚めたんですね!? なんとかラギアクルスを倒せました!」
「いやずっと起きてたけど……、痛みですぐに動けなくて……」
見られて、た……? 咆哮を? ハンマー投げを? 勝利の雄たけびを?
「……と、とにかく素材を剥ぎ取って帰りましょうか!」
「う、うん」
婚期の風はどこいったの。いいムードを作ろうとしていたジンさんはどこいったの。何この微妙な空気。
タンジアへの帰り道は、互いに無言だった。
実はこれ、頭にイメージしてた当初はシリアス路線だったんですよ……
書いてたらシリアスじゃなくなったんですけど……
あ、鏖魔防具に咆哮なんてスキルはないです。念のため。
逆恨みはありますね。