東方虚空伝   作:TAKAYA

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十話 勝利をこの手に!

 移住計画発動から数日の間は順調に進んでおり、大きな混乱もなく次々にシャトルが月へと向かっていく。このまま何事もない事を全ての人々が願っていた。だがその願いは儚くも砕かれた。

 誰も望まない災厄が再び現れたのだ。

 

 

 

 

□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■

 

 

 

 

 紅髪(あかがみ)の姿が遠目に確認できた。作戦開始まであと少しだ。深呼吸をして気持ちを落ち着けていると横にいた草薙連隊長が声を掛けてくる。

 

「七枷、お前あれとやり合ったんだよな?なんでビビッてないんだ?」

 

 そんな事を聞いてくる。今ここには僕と草薙連隊長だけがいる。庵さんは別ポイント。他の隊員も持ち場に隠れている。作戦の出だしは僕達二人が担うことになっていた。

 

「ビビッてますよ。逃げたい位です」

 

 虚勢も張らずに正直に答える。

 

「じゃぁ何で戦おうとしてんだよ?」

 

「…多分簡単な事ですよ。逃げたいけど逃げたくないからです」

 

「はは、なんだよそれ」

 

「意地……みたいなものですかね?それにあいつは『仇』ですから」

 

 脳裏に浮かぶのは銀髪の少女。

 

「…そうか。あーーーーー!!!くそ!!俺も覚悟決めねーとな!」

 

 パーン!草薙連隊長はそう叫ぶと着合い入れのつもりか自分の両頬を平手で叩いた。

 

「じゃぁ行くか七枷!あいつをぶっ飛ばすぞ!」

 

「了解。あと僕の事は虚空でいいですよ」

 

「そうか、なら俺の事も紅でいい。敬語も無しだ。これから背中を預けあう戦友なんだからよ!」

 

 草薙連隊長はそう言うとニカッと笑った。

 

「わかったよ紅、改めてよろしく」

 

 そして僕達は災厄の元へと向かっていく。帝都の命運を決める一戦が始まった。

 

 

 

 

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「傷は癒えたか?」

 

 開口一番そんな事を言ってくる。

 

「実はまだなんだ。できればあと2週間ほど待ってよ」

 

 冗談めかしてそう答えた。それだけ待ってくれれば全員が無事に月にいける。

 

「なるほど、だが悪いな俺はそこまで辛抱強くないのでな」

 

 そう言った瞬間奴からの圧力が増した。

 

「では始めようか」

 

 そう言って奴が動きだす。凄まじい速度で距離を詰めて来た所を僕達は左右に分かれ霊弾で攻撃し奴に着弾すると同時に左右から斬りかかる。

 鈍い音が響いた。僕達の刀を両腕で防いだ奴は力任せに振り払う。一旦距離を取り今度は前後から攻撃をかける。

 正面から僕が霊弾を撃ち背後から紅が霊刀を振り下ろしたが、しかし紅髪は避ける素振りすら見せずに右手で霊弾を受け左腕で紅の霊刀を受け止めてしまう。

 すぐさま僕も霊刀で斬りかかるが簡単に受け止められ最初と同じ様に振り払われてしまったので、とりあえず二対一の優位性を保つ為に前後で挟む形で対峙する。

 これなら奴も迂闊に動けないはず。そう思った瞬間奴が僕の方に飛び込んでくる。

 

「「なッ!!」」

 

 紅に完全に背中を向け僕に対して拳を振るってきた。2,3撃はかわせたが1発が腹部を強打する。

 

「ガハッ!」

 

「てめー!!」

 

 紅髪の無防備な背中に紅の刃が奔る。だが鮮血を散らしながら奴は紅に向け回し蹴りを放ち脇腹を強打せれた紅は吹き飛ばされていった。

 

「紅!」

 

「余所見か?余裕だな」

 

 紅に気をとられた瞬間、衝撃が僕を襲った。吹き飛ばされた僕に奴は更に猛追を掛けてくる。痛む体と揺らぐ意識に鞭を打ち体勢を立て直し命を奪いにくる拳の猛威をなんとか防ぐ。

 やはり一筋縄じゃいかないか。予定より早すぎるけど仕方がない。

 

傲慢(ルシファー)!」

 

 奴の猛攻をなんとか躱しながら剣を呼び出す。右手に霊刀、左手に小太刀、そして周囲に様々な刃を展開し紅髪に斬りかかった。

 まさに剣の舞とも言うべき刃の乱舞。それを奴は受け止め、弾き、砕き、その身に受けながらもまったく怯みはしなかった。

 それもそうだろう。こいつは轟卦剣乱も防いだんだ。この程度じゃ意味がない。

 

「ははは!どうした!もっとこい!」

 

 奴は喜悦を顔に浮かべそう叫ぶ。間違いなくこいつは戦闘狂だ。妖怪の中でも特に性質の悪い。紅髪と切り結びながら奴の後方を見ると紅が立ち上がり此方に合図を送っていた。

 それを確認した僕は一気に奴から距離を取る。そして自分の周囲に剣、槍、バリスタなどを創り出しその照準を“僕自身”に向ける。

 

「一体何を?」

 

 僕の行動が理解できないのか奴が動きを止めた。その瞬間、紅髪は僕が立っていた筈の刃の檻の中にいた。

 

「何!!」

 

 驚愕する紅髪に間髪入れずに攻撃を開始する。完全に虚を突いた猛撃に奴が飲み込まれていく。

 紅の「位置を入れ替える程度の能力」。半径200メートル以内の止まっている物を入れ替える事が出来る。今回の作戦の要だ。

 そしてここからが作戦開始だった。

 

「よし!攻撃開始だ!」

 

 庵さんの号令で隠れていた隊員達が一斉に紅髪に銃撃を行う。

 

「紅動けるか?悪いがすぐにポイントに向かってくれ」

 

 庵さんが紅にそう指示を出す。

 

「…なんか俺情けねーな」

 

「何言ってるの。今回の作戦は紅がいないと出来なかったんだよ?」

 

「ありがとな、じゃぁ俺は行くよ。気をつけろよ?」

 

「わかってる。また後で」

 

 紅は数人の隊員と一緒に次のポイントに向かっていった。視線を戻すと銃撃の中で奴が妖力を高めていた。やっぱりこの程度じゃ死なないか。

 

「虚空、気合を入れろ。ここからだ」

 

「最初っから全開ですよ」

 

「そうか」

 

 短くやり取りをして紅髪に意識を集中する。すると奴から衝撃波が発生し周囲を吹き飛ばすが、僕達はあえてその中に飛び込んだ。

 折角の好機無駄にはできない。盾を創り衝撃を緩和しながら奴に肉薄しそして庵さんの剛剣が紅髪の右腕を切り裂く。

 

「貴様ら!」

 

 同時に僕は槍を創り投擲した。槍は奴の胸板を貫き鮮血を飛び散らせる。そのまま二人掛りで猛攻を掛け次々に奴の身体に傷を与えていくがしかし奴は庵さんの腕を掴み力任せに投げ飛ばした。そして僕に対し衝撃波を纏った拳を振りぬく。

 

「虚空!」

 

 投げ飛ばされた先で上体を起こしていた庵さんが吹き飛ばされた僕に叫ぶ。さっきのダメージもあり全身に激痛が走るが気力を振り絞り何とか痛みを無視する。ここで寝てはいられないのだ。

 視線の先では庵さんが奴と切り結んでいた。流石は武の誉と言われる庵さんだ、奴の攻撃を的確に捌いて反撃までしている。だけど次第に庵さんは防戦に追い込まれていった。

 その間に奴の傷が見る間に再生してしまう。全快になる前に仕掛けないと。

 

「ゴハッ!!」

 

 奴の拳が庵さんの顔面を捉えその一撃を受けて庵さんが吹き飛ばされていく。もう猶予はない。

 

嫉妬(レヴィアタン)

 

 呼び出すと同時に奴に向け斥力を放つ。

 

「またこれか!これでは俺は倒せんぞ!」

 

 吹き飛びながら紅髪がそう叫ぶ。そんな事は解っている。奴の発言に適わず連続で斥力を放ち続けピンボールの様に吹き飛ばしていく。

 僕はその後を追って更に斥力をぶつけ続けた。

 

「このいい加減に!!」

 

 奴の放った衝撃波が斥力を相殺した。斥力を衝撃波で相殺するなんて本当にふざけた妖怪だ。だけど僕に焦りは許されない。ここからはもう失敗はできないから。

 意識を集中する。

 

「そろそろ終わりにしてやろうか?」

 

「そうだね、そろそろ終わりにしよう」

 

 奴の問いにそう返した。奴の傷はもう完全に再生している。それに比べこっちはボロボロだ。どっちにしろここで終わらせなくてはいけない。

 襲い掛かってくる奴の攻撃をなんとか躱しつつ僕はチャンスを待っていた。今回の作戦において僕の役割の半分は囮だ。こうやってできるだけ奴の注意を引く事。

 奴に必殺の一撃を入れるために。そしてついにその瞬間が訪れた。

 奴が動きを止めて右腕に妖気を集めだす。その瞬間を見逃さず引力を使い此方に引き寄せる。引き寄せた相手は驚異的な速度でこちらに飛んでくる。

 “剣を突き出した庵さんが”

 そして背後から紅髪の胸を剛剣が貫いた。

 

「ガハッ!!」

 

 初めて奴の顔に驚愕が浮かぶ。それはそうだろうただの不意打ちなら直前に奴に気付かれてしまう。だから注意を引き尚且つ庵さんの全速力+僕の引力による牽引で速度をあげた。

 だが庵さんの攻撃はまだ終わっていない。

 

「今までの礼だ!!受け取れ!!」

 

 そう言った瞬間庵さんの剣の刃が裂き乱れる。。まるで急激に成長する植物みたいに紅髪を体内からズタズタに引き裂いた。「刃を自由自在に操る程度の能力」庵さんの力だ。

 

「ゴッ!!ガアアァァァァァーーーー!!!」

 

 さすがの奴も五体をバラバラにされて苦しんでいた。というかこれでも死なないのか。でもこのあたりも実は想定内だった。できうる限りの最悪を想定していたから。

 そしてこれで計画も最終段階だ。

 

「庵さん急いで離れて!」

 

「わかった!虚空決めちまえ!」

 

 そう言い残し庵さんは全速力で離れていく。それを確認して僕は“3本目”の剣を抜いた。

 

怠惰 (ベルフェゴール)!」

 

 そう唱えると僕の手に刃渡り一メートル程刃幅四センチの両刃の大剣、クレイモアが現れる。あの夢を見た後使える様になっていた新しい力。

 剣の能力を開放すると同時に周囲の重量感が増した。

 この剣の能力は一定空間の重力加算。今は3倍の重力に加算した。

 その能力範囲を僕を中心に半径50メートルに定め更に加算する。僕自身が能力圏内に居るが能力の影響を受けていない。どうやら自分自身には能力は作用しないらしい。

 重力50倍の圧力が掛かると同時に紅髪がいる所を中心に地面に大穴が開いた。

 これは事前にここに開けておいた穴だ。深さは100メートルはある。その穴に紅髪が堕ちて行く。

 50倍の重力で100メートル落下すれば奴も粉々だろう。だけどこれだけでは終わらない。

 僕は穴の中心辺りの上空に飛び待機する。

 そして一瞬後、紅の能力により僕のいた位置に40メートルを越す大岩が出現した。大岩は重力に引っ張られ物凄い勢いで穴の底に落ちていく。

 穴を塞ぎつつ底にいる紅髪を押し潰す大岩。大岩が完全に落下したのを確認すると僕は能力を解いた。同時に数人の隊員達が穴の方に向かって行く。封印処理をするためだ。

 今回の作戦は奴を倒すのが目的じゃない。どうすれば倒せるか解らないだからできるだけ戦いは避けたかった。殺せるかどうか解らない以上封印するしかない。そう思っていた時あの落とし穴の話が出てきた。

 怠惰 (ベルフェゴール)を使えるようになっていたおかげで思いついた作戦。一番の問題は蓋の事だったけどそれは紅の能力で解決した。奴の動きは庵さんが止める手筈で手数の多い僕が囮という大まかな方針で決まっていた。

 作戦が成功した安心感からか無視していた痛みが襲ってきた。倒れそうになる僕に後ろにいた紅が肩を貸してくれる。

 

「おいおい大丈夫かよ?」

 

「そっちこそ」

 

「俺はお前に比べりゃ軽傷だ」

 

 そう言われると確かに僕はボロボロだ。

 

「後は俺達がするからお前は休んでろ。おい!誰かコイツを帝都まで運んでくれ!」

 

 そう指示を出す紅の声を聞きながら僕は眠りに落ちていった。帝都の命運を掛けた戦いは人類の勝利で幕を閉じた。

 

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