東方虚空伝   作:TAKAYA

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十八話 諏訪の国

 諏訪大社。

 諏訪子が祀られている都の中心に位置する建物だ。裏手に広がる森まで合わせると僕達が住んでいる村より広い。

 都の中心と言ったが多分ここの周りに人が集まって何時の間にか大きな町になったのだろう。少し離れた所には大きな湖も見えた。楓が教えてくれたが諏訪湖と言うらしい。狙って付けたのか単に偶然か。

 僕も紫も土着神の頂点と言われている神の住処だからきっと荘厳な感じなのだろうと思っていた。

 

「「「 ……………… 」」」

 

 都に着き楓に案内されて社の入り口に辿りついた僕達の目に飛び込んできたのは、

 

≪おいでませ!諏訪大社!参拝しないと祟っちゃうぞ!≫

 

 と書かれた色取り取りに装飾された手作り感バリバリの幟(のぼり)だった。祟り神だからもっとおっかない神だと思っていたけどそうでもないらしい。

 

「意外と親しみ易い神みたいだね」

 

 僕は隣にいる楓にそう話しかける。楓は何故かプルプルと震えていた。そして突然、

 

「あの子はーーーーーー!!!!!」

 

 と叫び声を上げながら階段を物凄い勢いで駆け上がっていく。僕と紫は呆然とその光景を眺めていた。

 

「……とりあえず後を追おうか」

 

「うん」

 

 二人で階段を上り境内を目指す。境内では楓が1人の巫女を締め上げていた。

 

「あなたね!またあんなふざけた物を作ったのは!!」

 

「きゃ、きゃえでしゃま……きゅるしい……です……」

 

 手加減をしていないのか巫女は本当に死にそうだった。さすがに見かねて楓に待ったをかける。

 

「楓、よくは分からないけど許してあげなよ」

 

 楓はなにやら不満そうだったが巫女から手を離した。

 

「……しょうがないですね。今回はこれで許してあげましょう」

 

 開放された瞬間巫女はすごい速さで僕の後ろに隠れた。

 

「楓様は相変わらず了見が狭いですー。あぁ何処のどなたか存じませんが悪い神様から助けていただきありがとうございますー」

 

 巫女は楓に喧嘩を売りつつ僕に礼を言ってきた。すごいなこの子。

 

「……まだ懲りてないようね!早希(さき)!」

 

「ベーですー!こっちには何処のどなたか知らない味方がいるんですー」

 

 僕を挟んで再び戦いが(一方的な)始まりそうな空気になる。すると、

 

「騒がしいと思ったらなにやってんの。とりあえずお帰り楓」

 

 社殿の方からこっちに歩いてくる小柄な少女。

 ショートボブの金色の髪に琥珀色の瞳。頭に被っている市女笠(いちめがさ)にはなんか目玉の様なものが付いている。!?今瞬きしたような……。服はミニスカートになっている壺装束、袖は白で胴とスカート部分は紺藍。足には白のハイニーソックスを履いている。

 13,4歳位に見えるその体からは隠していても分かる位の圧倒的な存在感を感じた。そうかこの子が、

 

「あ!た、ただいま戻りました諏訪子様」

 

 楓が慌てて頭を下げる。諏訪子はそんな楓を見て笑みを浮かべると琥珀色の瞳を僕に向ける。

 

「それであんた達は何処のどなたさん?」

 

 そんな質問をしてきた。

 

「初めまして諏訪の王。僕は七枷虚空、そしてこの子は―――」

 

「娘の七枷紫と申します」

 

 そう言うと紫は優雅にお辞儀をする。だから何処でそんなの憶えたんだよ。

 

「七枷?」

 

 諏訪子は何故か、はて誰だっけ?みたいな反応を返す。

 

「諏訪子様、こちらの方が神狩様なんです」

 

 楓がそう補足した。というかもしかして本名じゃなくて通り名だけ広まってるのか。すると巫女が声を上げる。

 

「えー!この方が神狩様ー!確か噂ではその身が8尺(2.4メートル位)近くて、肌は浅黒く筋骨隆々、そしてドスのきいた声で『すでに貴様の頭上には死兆星が輝いておるわ!』と死刑宣告をしてくると聞いていますー!」

 

「「 誰それ!! 」」

 

 僕と紫の同時ツッコミ。僕の要素が一欠けらも無いじゃないか!どんな噂話に尾ひれが付けばそんな化け物になるんだよ!

 

「アハハハッ!まぁ噂なんてそんなもんだよね」

 

 諏訪子がケラケラ笑う。

 

「名乗って貰ったんだからこっちも名乗らないと礼儀に反するね。あたしが洩矢諏訪子だよ。早希あんたも挨拶しなさい」

 

 諏訪子に促され巫女が僕の前に歩いてくる。緑色のショートカット、緑の瞳で背丈は楓と同じ位か。巫女らしく白の小袖と袴を穿いているが、何故か袴の色は青で小袖も襟や袖の所に青い刺繍が施されている。

 

「失礼しましたー。私はこの諏訪大社で筆頭巫女を務めています東風谷 早希(こちや さき)と言いますー」

 

 胸を張り自信満々に宣言した早希に諏訪子と楓が、

 

「「 いやいや!ここの巫女あんた一人だけだから!! 」」

 

 とツッコむ。確かに一人しかいないのに筆頭も何も無い。

 

「うー!二人がいじめますー。神狩様ー何かこうガツーンと言ってやってくださいー」

 

 早希が僕に助け船を要求してきた。僕にどうしろと。

 

「まぁとりあえずその神狩って呼び方を止めてくれるかな?虚空でいいよ」

 

 正直今日初めて知った通り名なんかに興味はないのだ。

 

「んー了解。じゃぁ虚空だね。ここじゃなんだから社殿の方で話そうか、ついて来て」

 

 諏訪子はそう言うと奥の方に進んで行く。

 

「私、お茶を淹れて来ますねー」

 

 早希は足早に別の建物に向かって行く。それを見送りつつ諏訪子の後を追った。

 

 

 

□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■

 

 

 

 

「あたしに仕えてよ」

 

 早希が淹れてくれたお茶を飲みながら諏訪子がそう切り出した。

 

「アハハ、随分直球だね」 「可愛いですー!」

 

「まぁ最初からそのつもりで呼んだんだし」 「良い匂いですー!」

 

「僕はこの通り噂と違って貧相だよ?」 「お肌スベスベですー!」

 

「確かに噂と違いすぎてて驚いてるんだけどね」 「あぁ食べちゃいたいですー!」

 

「とりあえず理由から聞かせてもらってもいいかな?」 「幸せですー!」

 

「早希!いい加減にしなさい!!諏訪子様が大事なお話をされてるのよ!!!」

 

 僕と諏訪子が会話をしている横で遂に楓がキレた。原因は紫を膝の上に乗せ抱きしめている早希だ。

 どうやら紫の事をえらく気に入ったらしくさっきからデレデレである。当の紫は諦めたのかされるがままだ。

 まぁ最初からずっと僕に視線で助けを求めていたんだけど。

 再び怒りが爆発した楓が早希を締め上げている。

 

「そういえばあの幟の事もまだ言い訳を聞いていなかったわね!」

 

「きゃ、きゃえでしゃま…………きゅるしい……です……」

 

「さぁ答えなさい!!」

 

 いや首を絞めているんだから無理だろう。

 

「そのまま死んじゃえ……」

 

 早希の拘束から脱出して僕の膝に避難して来た紫が無慈悲に言い放つ。そこまで言う事無いのに。

 

「うん?幟って入り口に立てたアレの事?楓はその事を怒ってたの?」

 

「当たり前です!と言うか諏訪子様ご存知だったのですか?」

 

 なんだ諏訪子公認なら早希は悪くないじゃないか。

 

「せっかく早希が作ってくれたんだから使わないとね♪」

 

「あんな物を立てたらこの諏訪大社の威厳が落ちます!」

 

 楓は相当生真面目のようだ。諏訪子も苦笑いを浮かべている。

 

「……楓様は器が小さいですー。だから胸も小さいですー(ボソッ」

 

 早希は小声で言ったつもりなんだろうけど楓の耳にはしっかり届いていたようだ。

 

「早希……覚悟はいいわね?」

 

 怒りのオーラを立ち上らせ楓が戦闘態勢を取る。それを見た瞬間、早希は脱兎の如く逃げ出した。

 

「待ちなさい!逃がさないわよ!」

 

 楓もそれを追って行ってしまった。とりあえず話を戻そうか。

 

「それで理由は?」

 

「まるで何事も無かったかのように……まぁいいけど」

 

 こほん、と咳払いをして諏訪子が説明を始める。

 

「虚空は大和の国って知ってるかな?もしかしたらそこと戦争になるかもしれないんだよ」

 

 大和の国。確か西にある国だったような。その位しか知らない。

 

「まぁ国同士で戦争なんて珍しくもないけどこの国にも戦力になる神は居るでしょ?」

 

「神格の問題なんだよ。大和の軍勢は殆どが戦の神って噂だし」

 

 諏訪の国は基本土着神、土地神が中心で戦に関する神がいない。

 例えば同じ格の神が争えば勝敗を分けるのはその神格だ。諏訪子が土着神の頂点といえど同じ格をもった戦の神が出てくれば勝利は難しい。

 それに戦は一人で出来る訳も無い。軍勢をぶつけ合う以上戦に長けている方が有利だ。

 

「だから少しでも戦力になる人材が欲しいの。そしたら神狩って奴がいるって噂を聞いてね」

 

「なるほどね……いいよ。」

 

「あたしの配下になってくれれば……って今なんて?」

 

 あれ?聞こえなかったのかな。

 

「だからいいよって。ここで働くよ」

 

「……いやまぁ了承してくれるのは嬉しいんだけどさ、そんなにあっさり決めていいの?」

 

 諏訪子は僕が即決した事が疑問らしい。

 

「うん、僕は勘で生きてるからね。いいと思ったから了承したんだよ。紫も良いよね?」

 

 後付だけど紫にも同意を求める。

 

「こうなるだろうと思ってたから。私は構わないわよ」

 

「と言う訳で今日からお世話になります。諏訪子様。」

 

 ワザとらしく礼を取ってみる。案の定諏訪子は渋い顔をした。

 

「違和感あるから諏訪子でいいわよ。それと悪いんだけどちょっと腕試しさせてもらってもいい?」

 

「もしかして噂と違ってるから疑ってる?」

 

 僕がそう聞くと諏訪子は視線を泳がせた。

 

「えーと違うよ、ただちょっと手合わせしたいな~って」

 

「怒らないから正直に言ってごらん」

 

「やっぱ見た目貧相だし」

 

「やっぱり疑ってるじゃないか!」

 

「怒らないって言ったじゃんか!」

 

「やるならとっととしたら。日が暮れるわ」

 

 僕と諏訪子のしょうも無いやり取りに紫がツッコンできた。確かに日も傾き始めているからやるなら早くしないと。

 

「じゃぁこっち来て。後は……おーい楓ご飯作っておいてー!」

 

 諏訪子は立ち上がると早希に卍固めを決めて絶賛私刑中の楓にそう声を掛けた。

 

「あ、はい!分かりました!」

 

「タ、タスケテ……クダサイ……」

 

 早希の悲痛な救助要請が聞こえたけど無視した。

 

「それじゃ紫、行って来るよ。程々で助けてあげなよ」

 

「気が向いたらね」

 

 そんなやり取りをして僕は諏訪子の後を追った。

 

 

 

 

□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■

 

 

 

 

 諏訪子に案内されたのは社殿の更に奥にある森だった。

結構広い開けた場所があり諏訪子はその中心に何か印を打った。

 

「よし結界も張ったし、じゃぁいっくよー!」

 

 そう言った直後、僕は反射的にその場で半身をずらす。すると地面から水が噴出してきた。

いや噴出すなんてもんじゃない。石位なら両断できそうな威力だった。

 

「……本気で殺す気か?」

 

「やだなーそんな訳ないじゃん」

 

 諏訪子はケラケラ笑いながら次の行動に移る。

 

「今度はこれだ!」

 

 諏訪子の周りの地面から岩石が飛び出してきた。一つ一つが80センチ程の岩が20個程。それが物凄い勢いで僕に迫ってくる。

 岩の間隔を見切りかわし続けていた時、突然僕の足を何かが掴んだ。

 

「何だ?」

 

 それは木の枝?根っこ?の様なものだった。動きが止まった僕に岩が迫る。

 

嫉妬(レヴィアタン)!」

 

 迫る岩を斥力で弾き飛ばし、刀で足を拘束していた木を断ち切る。

 

「なんか不思議な能力だね。いろいろ出来て便利そうだ。どんな能力なの?」

 

 僕は諏訪子に問いかけてみた。

 

「んーこれは『(こん)を創造する程度の能力』っていうの」

 

(こん)って確か『地』を指す言葉だったっけ?」

 

「そ、つまりこの大地全てがあたしの味方さ」

 

 なるほどまさに土着神の頂点って訳か。反則クサイなー。

 

「そういう虚空の能力は何なのさ?あたしは教えたんだからそっちも教えてよ」

 

「僕のはとりあえず『七つの罪剣(ななつのざいけん)を使う程度の能力』って付けてるけど」

 

 ちなみに罪剣と付けた一番の理由は強欲(マンモン)の略奪能力のせいだったりする。

 

「へーつまり能力が七種類もあるって事でしょう。すごいじゃん!」

 

 諏訪子はそう言うがそんな事は無い。

 

「でも制限が多いんだよ。一日一回とか使用時間十分とか」

 

「そこまで制限が多い能力も珍しいね。まぁいいや続けようか」

 

 そう言うと諏訪子の周りに無数の光弾が展開される。そして手には何時の間にか輪っかの様な物を持っていた。

 諏訪子が腕を横に振るとそれを合図に僕に向かって光弾が殺到してくる。それを斥力で弾き飛ばした瞬間、地面から四本の石の槍が突き上げてきた。

 

「っ!?」

 

 体を捻りなんとか直撃を避けるが諏訪子はその隙を見逃さず手に持っていた鉄輪を投げつけてきた。

 しかも鉄輪は空中で八つに増え不規則な動きをしながら僕に迫ってくる。

 斥力で弾くか?いや駄目ださっきと同じ目に遭うな。いろいろ試したけど斥力は一瞬しか発動出来ない。なら、

 

怠惰(ベルフェゴール)!」

 

 エストックが砕け、代わりにクレイモアが現れる。重力を十倍に加算して鉄輪を叩き落としすぐさま効果範囲を広げ諏訪子を捉える。

 

「な、何これ!お、重いー!」

 

 突然の事で諏訪子も対処できないようだ。一気に距離を詰め諏訪子の首筋に刃をあてる。

 

「はい一本。こんなもんだけどどうかな?」

 

 意地悪く笑いながら諏訪子に聞いてみる。

 

「ご、合格……っていうかこれどうにかしてー重いー!あーうー!」

 

「あぁごめんごめん」

 

 能力を解除するのを忘れていたよ。

 

「あー重かった。確かに噂通りの実力はあるみたいだね」

 

 諏訪子はずれた帽子を直しながらそう言ってきた。

 

「信じてもらえてなによりだよ」

 

「じゃぁ改めてよろしく虚空」

 

「うん、此方こそよろしく」

 

 諏訪子が差し出した手をとり握手を交わす。そして僕の新しい生活が始まるのだった。

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