東方虚空伝   作:TAKAYA

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お久しぶりです。



五十八話 百鬼夜荒 壱

 夜天より降り注ぐ刃の群れは一度では終わらず二度、三度と百鬼衆に襲いかかる。

 総計で五百を超えた凶器の雨は確実に彼等に傷を与えたが……その効果は薄く、絶命まで追い込まれた者は全体の二割にも満たなかったが――――しかし、この結果は概ね虚空の予想通りだった。

 

 そもそもにおいて広範囲攻撃というものは致命的な痛打となる事は少ない。

 簡単に言ってしまえば、攻撃目標が“個体”ではなく“地点”に対し適当且つ、大雑把に放っているだけなのだから当然と言えば当然である。

 実力上位者達にとって広域攻撃は費用対効果が意外と悪い為、あまり好まれていない。

 尤も幽香の様に攻撃が単純に広域化するような例外もいるが。

 

 

 『烏合の衆』と言う言葉がある――――統率・規律等が無い集団や軍勢に用いられる“騒がしいだけの役立たず”という意味の蔑称(べっしょう)である。

 だがそれは軍や群れの無能に対するものであり、その集団に居る個体が雑魚かどうかは別問題だ。

 

 

 

 

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 虚空の攻撃を口火に両陣営がぶつかり合って、早半刻(約三十分)が経ち主な戦場は三つに分かれていた。

 

 『暴食(ベルゼブブ)』で大きく抉られた砦前の大穴を中央とし、その左右に残った森と空で両陣営の戦力がそれぞれ凌ぎを削っている。

 

 最も両戦力が集まっている左側の戦場では――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇夜に浮かぶ月が淡く照らす森の中を一体の獣が駆け抜ける。

 人型に近いその身は三mに届き、両手足等は筋肉の塊であるかの様に太く、大の男一人分程もある。

 虎の様な顔と牡牛の如き巨大な二本の角が特徴的であり、見た目の兇悪さと威容とは裏腹にその全身は白銀の毛に包まれある種の神聖さも纏っていた。

 

 彼の名は「猛鋳(もうい)」、この近隣では知らない者が居ないほどの齢千を生きる妖怪である。

 だが彼は別に百鬼丸の配下に下った訳でも思想や行動に賛同した訳でも無い。

 彼自身は人を喰う類の妖怪であり人間や他の妖怪と生活を共にする事もなければ、しようとも思っていない。

 しかし無暗に周囲に牙を向けもしないし、喰らう人間は自分の領界に迷い込んだ者や挑んでくる倒魔士等だけだった。

 どちらかと言えばそれなりに無害に近い類であり、この様な騒動に関わる様な性格でもなかった――――が、ある事情があった。

 

 それは大和の存在――――大和の……天照の徹底した『妖怪廃絶主義』。

 妖怪であれば排除する、というその方針は、妖怪側からすればたまったものではなかったが人間側からすれば支持者の方が多い。

 月の勢力であり、月の出身者が上位を占める大和は穢れを非常に嫌う、地上の民からすれば友好な妖怪等は結局の所少数派である為、強力な妖怪は脅威であり恐畏でしかないのだ。

 

 猛鋳も積極的に人を狩らないだけで人を喰う事には変わりがなく、人にとっては邪魔者だった。

 そんな彼に大和が討伐を敢行するのは必定であり、その襲撃を凌いでいるとはいえいずれ討滅されるのは予想に容易い。

 だからこそ猛鋳は百鬼丸の招集に応じ大和打倒に協力している――――詰まる所、利害の一致がこの百鬼丸の組織の根底なのだ。

 

 『“同士”であっても“仲間”ではない』

 『“協力”はしても“共闘”が出来ない』

 

 この集団は個々の実力があろうが、良くも悪くも烏合の衆という事になる。

 

 

 

 今、猛鋳が駆け抜けているのは木々が生い茂る森の中であり、進路上には無数の樹木が彼の行く手を阻む柵の様に乱立している。

 しかしその木々は猛鋳の角と巨体により易々と薙ぎ倒され粉砕されていく――――その様はまるで巨大な牡牛が無数の障子を突き破っているかの様だった。

 

 彼が目指しているのは森の開けた一角に降り立っている一人の鴉天狗である。

 天を翔ける鴉天狗がのこのこ地に降り立つのは愚の骨頂――――猛鋳にはその鴉天狗に対し恨み辛み等はないが浮いた駒が真っ先に討たれるのは戦場の常である。

 術と疾さが特徴の鴉天狗に猛鋳の巨体と膂力を止める術等無く、その突進を喰らえば進路上にあった木々の様に粉砕されるのは必定。

 

 木々の群れを抜け開けた広場の中央に佇む一人の鴉天狗――――天魔に向け猛鋳は速度を落とす事もなく駆け抜ける……その様は彼の白銀色の体毛も相まって地上を翔ける流星の様だ。

 そんな一撃を止められるものなど無い――――そう思わせるだけの脅威の突撃は天魔の数m手前で突然止まった、否……薄らと水晶の様に見える壁に()()()()()()()()()()()

 その現象に猛鋳は瞠目した……自慢の一撃が止められた事もだが一番の問題は今自分の前面にある壁の様なものの事だ。

 彼は今まで様々な防御術・結界等を使う輩と矛を交えてきた。その経験から言えば自分の攻撃を止めたコレはそう言う類のモノではない、と。

 確かに硬い()()()ではある、だがコレは何なのだ?と。

 

 

 天魔が保有する能力――――『空間を固定する程度の能力』。

 

 この世の全ての事象・現象は()()その世界の空間の中でしか起こり得ない。

 空間を操る類の力であろうが、紫が使うスキマの様な異空間を開き繋げる類の力であろうが、必ずこの世界の空間に作用しなければならないのだ。

 水の流れがあるからこそ、その中を魚は自在に泳ぐ事が出来、逆に流れが生まれなければ動く事等出来よう筈も無い。

 

 天魔のこの力は『一定の広さの空間を一定時間完全停止(固定)』させるものであり、その固定された空間は如何なるモノであれ侵入・行動する事は不可能となる。

 つまり彼女の力はこの世で唯一と言ってもよい『絶対防御』なのだ。

 

 猛鋳とは別に人型と蛇型の妖怪が天魔の背後から襲い掛かるが、その二体も停止空間の壁に阻まれる。

 だが守戦に徹するしかない天魔に敵を討つ術は無く、一定時間しか空間を固定出来ない為そのままでは彼女の死は必至である――――しかし天狗という種族は術と疾さだけが売りではない。

 

 天魔の壁に阻まれ牙を剥いていた人型と蛇型の妖怪の背後に、まるで夜闇から滲み出るかの様に二人の白狼天狗が現れ、その手に持つ三日月の様な刀で首を跳ね飛ばした。

 

 そして猛鋳の背後にも何時の間にか現れた白狼天狗――――黄葉が、二刀の三日月の如き刃を今まさに振り抜こうとしていた――――が、猛鋳はその巨体に見合わぬ俊敏さで迫る脅刃から逃れ天狗達から距離を取る。

 

 

 鴉天狗・白狼天狗問わずその真価は連携行動にある。

 個々人で突飛した力を持っていたとしても彼等は集団戦を主とする。一体多数で確実に敵を討ち取る、というのが天狗の信条であり在り方だった。

 多数で襲い掛かる、それを卑怯だ弱者だ、と誹(そし)る者もいるが生きる事は勝つ事であり、生きる手段に正道も邪道も無く、強者も弱者もない。

 

 

 猛鋳に攻撃を躱された黄葉は、現れた時と同じく夜闇に溶けるようにその姿を消し、他の二人の白狼天狗も同じように消えていく。

 

 白狼天狗が使っているのは『朧月(おぼろつき)』という名の隠遁術である。

 “白狼天狗”という名の通り彼等には純白の耳と尾がある。夜闇の中では目立ちそうなものだが、術名の如く霞掛かる月の様にその姿をぼやかしてしまう。

 それだけではなく気配すら立ち消え、この夜闇の中で探し出す事は相当に難しい。

 

 姿を消した天狗を探すのは至難、と判断したのかまたは左程興味も無いのか猛鋳は黄葉が消えた空間を一瞥しただけで、その視線を佇んだままの天魔へと向けた。

 

「天狗というのはもっと明敏(めいびん)な輩かと思っていたが……存外浅薄(せんぱく)よな」

 

 猛鋳の低く響く言葉に、投げかけられた側の天魔は彼の言わんとしている事を察し表情を曇らせる。

 そして彼女が口を開こうとした――――その瞬間、猛鋳の頭上から現れた黄葉が(猛鋳)の頭蓋目がけ刃を振り下ろした。

 

「天魔様へなんたる暴言ッ!!」

 

 怒気と殺気を込め振るわれた刃を猛鋳は左腕を掲げ防ぐと、まるで金属同士をぶつけ合ったかのような甲高い響音が木々の間を走り抜けた。

 猛鋳は受け止めた刃を振り払うと、黄葉目がけ右腕を薙ぐ様に振るう。

 黄葉はその一撃を空を蹴るかの様に跳躍する事で躱し、猛鋳の一撃は獲物を逃し怒り狂った獣の如き暴虐をその先にあった木々にぶつけ紙屑の様に粉々に散らした。

 

 

 

 『鎧鋼(がいこう)』

 

 中級以上の妖怪、霊気を扱える人間等が使う防御術である。

 その効果は『妖気または霊気等、自身が持つ気を体表に巡らせ硬度を得る』――――簡単に言ってしまえば『防御力を上げる』といった単純なものだ。

 熟練すれば体表のみならず自身が纏う衣服や武具等にも同じ硬度を付与する事が出来るようになる。(攻撃などを受けても衣服が消し飛ばない理由がこれである)

 

 特殊な部類の術ではなく()()()なものであり、特に人間側はこれが使えないと話にならない。

 この鎧鋼が使えて初めて妖怪と相対できる資格を得られる。

 

 

 

 

 天魔の前に着地した黄葉は未だに抑えられない怒りの眼差しで猛威を睨み、それを浴びている(猛鋳)は悠然と佇み口元に笑みさえ浮かべている。

 再び切りかかろうとする黄葉を、天魔は(黄葉)の前に出ることで制し視線の先にいる猛鋳へと言葉を投げかけた。

 

「先ほどの浅薄との言葉は……我々がこの戦場に出てきているから、と言う事でしょうか?」

 

「言わずもがなだが……まぁそう言う事だ。負け戦と理解していて態々仕掛けているのだから笑うしかなかろうよ……そういえば(百鬼丸)の一派が天狗の里を襲ったと聞いていたが――――それは貴様らの事か?だとしたら益にもならぬ復讐心で身を亡ぼすか……哀れだな」

 

 そんな猛鋳の嘲笑に、

 

「貴様ッ!!」

 

 過敏に反応し殺気を放つ黄葉と裏腹に天魔は表情を変える事も無く静かな視線を猛鋳へと向け、

 

「……そうですね、その通りでしょう」

 

 (猛鋳)の発言を肯定する。

 

「勝算など無い事等理解しています……そもそもこの戦の目的に()()()()()()()()()()()、があの悪辣な者(百鬼丸)に一矢報いたいという思いは止めようがありません」

 

 虚空から今回の作戦の本当の目的を聞いた時、天魔には拒否する事も出来た。そもそも虚空は強要などしていない、協力を得られれば儲けもの程度の認識だった。

 天狗達にとっては何の得にもならない提案であったが……天魔自身が語ったように身の内で燻る復讐心には逆らえなかった――――寧ろ望んでいたのかもしれない。

 ここで散った所で彼女達には後顧の憂い無いのだから。

 

 そんな天魔の後ろ姿見る黄葉は心の中で嘆いていた。

 自身の主の自暴自棄にも見える言動、にではなく――――自分自身への不甲斐なさに。

 

 

 

 

 

 

 

 (黄葉)が物心つく頃からすでに里では鴉天狗の下に白狼天狗が傅(かしず)く、という構図が出来上がっていた。

 元々そういう主従関係だったのか、それとも何かしらの契約的ものがあったのか……今となっては確かめようもない。

 

 当時の彼からすればその関係は当たり前の事であり疑問にすら思っていなかった。

 唯々剣を振るう日々、能力を持たぬその身で出来る事は刃を振るう事だけ――――と思っていた。

 そんな日々がそれなりに過ぎた頃――――彼は自身の生き方を変える出会いを果たす。

 

 それは次期里の党首『天魔』を継ぐと噂されていた少女だった。

 一介の戦士、それも白狼天狗である黄葉など本来目通り叶う筈も無いほどの位階の者がいきなり現れたのだから当時の彼の慌て振りは想像に容易い。

 そこから二人の奇妙な縁は始まった。

 

 彼女の掲げる理想は黄葉には信じられないものだった――――なにせ『里での主従関係を無くす』といったものだったからだ。

 そんな夢物語のような事を真剣に語る彼女に、何時しか黄葉は上辺の相槌ではなく心からの賛同を抱き、生涯の主として剣とその身を捧げることに不思議はなかった。

 

 そして月日は流れ少女は『天魔』を受け継ぎ里の長となった。

 しかし現実は甘くは無く彼女が天魔を継いだからといってそんなに容易く改革など出来よう筈も無い。

 現に老齢な鴉天狗達で構成されている元老衆では『天魔』剥奪まで話し合われていた。

 

 しかしそんな状況にも好機が訪れる。

 鴉天狗の中から天魔に賛同する者達が現れたのだ。

 その中核を担っていたのが、若くして鴉衆隊長を務める『桐羽 疾風(きりは はやて)』。

 仁・智・勇を兼ね揃えた彼への若い世代の信頼は厚く、元老衆も無闇に干渉出来なかった。

 

 少しずつではあったが天魔が目指す理想へ近づいている――――黄葉は何時か訪れるであろう、その時を思い静かに心躍らせていた。

 

 そうあの時までは…………

 

 悲劇というものは突然訪れるもの。

 百鬼衆と名乗る者達に里は滅ぼされ、次代の担い手達は殆どが命を落とし、その先を受け継ぐはずだった子等を奪われてしまう。

 

 守るべき次代を救えず、古き時代の老兵である自分が生き長らえている――――その事が今も黄葉の心に罪過の念が刃となって突き立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄葉は天魔を制すように前に出ると、鋭い視線を猛鋳へと向け、

 

悪漢(百鬼丸)の走狗(そうく)と成り果てている貴殿に天魔様を誹(そし)られる言われ等無いわッ!」

 

 怒気と殺気を込め刃の様に言葉を放つ。

 その言を放たれた猛鋳は憤る事も無く、逆に豪快な笑い声を上げた。

 

「ハッーハハハハハッ!……(百鬼丸)に下った覚え等はないが、傍(はた)から見れば変わらんか。確かに貴様の言う通り、そんな言われは無いな……謝罪しよう、許せ」

 

 猛鋳のその言葉に天魔と黄葉は毒気を抜かれ戸惑いを覚えたが、

 

「まぁ互いに事情は有れど――――此処は戦場だ、弁ではなく力を振るう場所よ。(百鬼丸)に牙を立てたくば我を退けるしか道は無いぞ」

 

 その発言と同時に放たれた妖気の本流を受け瞬時に気を引き締める。

 

 そんな二人の反応を見た猛鋳は獰猛な笑みを浮かべ地を蹴った。

 蹴られた地面はまるで爆裂したかの様に大きく抉れ、猛鋳は疾風の如き疾さで天魔達の頭上を取ると両腕を大きく広げ、前方の空間を抱き込むかの様に勢いよく振り抜いた。

 その椀撃から生まれた衝撃波は無数の牙の如き鋭さを持ち、獲物である二人へと迫るが天魔の創り出す壁によって防がれる。

 天魔達が立つ場所以外は巨大な咢(あぎと)を持つ獣に抉られたかの様な惨状となり見る者に恐怖心すら抱かせる。

 しかし天魔達にその様な感慨に耽る暇など無く、既に自分達の背後から迫っていた猛鋳の第二擊に対処しなければならなかった。

 その一撃も天魔の壁で防ぐが――――その時、既に背後で第三擊が放たれている。

 

 その巨体からは想像出来ない速度で、的確に退路を断つ様に放たれる攻撃に天魔達は猛鋳を見誤っていた事を思い知らされた。

 自分達に比する速度と荒々しくも緻密な攻撃に……。

 

 防御に徹してしまえば敵の勢力圏である以上、包囲され身動きが取れなくなってしまう。

 それが分かっていても、そうせざるおえない状況に追い込まれた始めていた。

 力だけでなく戦略も兼ね揃える――――それが個体で大和と渡り合ってきた猛鋳の実力だった。

 

 追い込まれた状況の打破の為、黄葉が危険を承知で猛鋳へと斬り掛かる。

 既に放たれていた衝撃波が容赦なく彼を嘗め回し、その身に無数の裂傷を生み、血飛沫の華を咲かせる――――その様はまるで鋭く強靭な棘(いばら)に飛び込んだかのようだ。

 

 だが黄葉はそれに躊躇する事も無く、地を駆け猛鋳へと肉薄すると、下段から鋭く刃を逆袈裟に振り抜いた。

 猛鋳は先程と同じ様に迫る刃に対し腕を盾にして受けるが――――響音と共に(猛鋳)の腕に赤い線が走り血が舞った。

 

「良い腕をしているな!白狼ッ!」

 

 猛鋳は防御を抜かれ傷を負わされたにも関わらず、愉快だと言わんばかりの笑みを浮かべながら黄葉に向け掌撃を叩き込む。

 その一撃を黄葉は二刀を盾の様に重ね受け止めるが、威力を殺しきれず後方へと吹き飛ばされた。

 猛鋳は更に追撃しようと一歩踏み込むが――――黄葉と入れ替わるかの様に天魔が放った十数本の紫色に輝く矢が夜闇に軌跡を残しながら襲い掛かる。

 迫りくる矢群に対し、

 

「ガアァァァァァッ!!」

 

 猛鋳の雄叫びが衝撃波となって、矢群諸共周囲を吹き飛ばし――――(猛鋳)の周囲数mは更地へと変貌していた。

 

 距離を取り再び正面から対峙する形に戻る両者。

 

「……天魔様、彼奴一人に係(かかずら)ってはおれません。此処は儂に任せ、天魔様は皆の指揮にお戻りください」

 

「⁉何を言うのですか!」

 

黄葉のその言葉に天魔は当然のように反論するが、

 

「自らのお役目をお忘れですか?……自棄を口になされるのは儂には咎める資格はございませぬ……しかし受けた恩義に報いる為に此処に来た事もまた事実――――我等が長として不義をお働きになる様な真似はしないでくだされ」

 

 静かに……唯静かに……諭す様に、懇願するかの様に黄葉はそう言葉を紡ぎ、天魔は数瞬目を伏せると、

 

「……分かりました、彼は任せます…………貴方には何時も苦労をかけますね」

 

 天魔はそう言葉を残し翼をはためかせると夜天へとその身を躍らせ、

 

「今の儂が居るのは貴女様のお陰だというのにのぉ」

 

 黄葉は小さく笑みを浮かべながらそんな呟きをもらした。

 

「さぁて、そういう訳だ……悪いが儂に付き合ってもらおうか」

 

 そんな言葉と剣の切っ先を向けられた猛鋳は、

 

「別に構わん……だがやるからには容赦はせんぞ?」

 

 その身の滾りを緩める事も無く突撃の為に腰を落とすと火炎の如く妖気を撒き散らした。

 

 そして夜の闇が落ちる森に白銀の軌跡が再び奔り抜ける。

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