東方虚空伝   作:TAKAYA

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六十六話 夜転交路 弐

 空中から虚空と勇義を見下ろしながら、百鬼丸は小馬鹿にした様な笑みを浮かべ、

 

「どうした?勇義?

 『外の連中の次はお前だ』と啖呵を切っておいて無様だな、おい」

 

 勇義へと向け侮蔑を隠さない言葉を浴びせた。

 

 対する勇義は怒りの表情で拳を強く握り締め歯軋りするが、百鬼丸への反論の弁が出せなかった。

 

 薄ら笑いを浮かべる百鬼丸と、そんな(百鬼丸)を睨み付ける勇義達に虚空は交互に視線を向け、

 

「…と、いうのか(勇義)…今が好機なんじゃないの?

 (百鬼丸)が此処に居るって事は砦内が手薄になったって事だよ?

 萃香を盾に捕られてるんでしょう?助けに行けば?」

 

 そんな虚空の言葉に勇義は「確かにその通りだ」と言う風に驚きの表情を浮かべ、百鬼丸へと視線を戻す。

 百鬼丸は顎に手をやりながら相変わらずのみ薄ら笑いを浮かべたまま、

 

「おぉ~そう言われたらそうだな!

 行きたきゃ行ってもいいぞ勇義、中に残ってる連中じゃぁお前の敵にはならんだろうしな!

 まぁ…その代わり――――」

 

 愉しそうに語っていた百鬼丸は、勇義から視線を外し夜闇が広がる戦場へと目を向けながら…

 

「――――残ってる連中(鬼の衆)に、()()()をとってもらわなきゃな!」

 

「お前って奴はァァッ!!どこまでェェェッ!!」

 

 百鬼丸の吐いた言葉に勇義の怒りが爆発した。

 

 (萃香)を救いに行けば仲間達を見捨てなければならず――

 仲間達を守ろうとすれば(萃香)の危機は払拭出来ない――

 

 百鬼丸の非道さにも、状況を好転させる事が出来ない自分自身(勇義)にも激しい怒りを覚えるが、ソレを向ける場所はなく言いようのない悔しさが嵐の海の様に心の中で荒れ狂った。

 

 勇義の葛藤を尻目に百鬼丸は視線を虚空へと向けた。

 

「しかし非道い奴だな、七枷 虚空。

 勇義を排除したいが為に甘言(かんげん)を使うなんてよ!見ろよ、あんなに苦しそうじゃないか。

 

 まぁそれにしても死んじゃぁいねぇと思ってはいたが……

 まさかこの砦に強襲とはなぁ、驚いたぜ!」

 

「別に甘言なんかじゃないよ、事実を言っただけだし?

 まぁ(百鬼丸)が出て来た以上、邪魔この上ないから居なくなってもらうに超した事はないんだけどね」

 

 アハハ、と笑いながら言葉を吐く虚空を勇義が少しの驚きを含んだ眼で見ていた。

 

(コイツが七枷 虚空……萃香が監視していたっていう…)

 

 今の今まで殺し合っていた相手が、ある意味で事の元凶であった事実に衝撃を受けるのは仕方がない事であろう。

 

 勇義の視線や心情など気にも留めない虚空は百鬼丸を見上げながら、

 

「それにしても(百鬼丸)ってさ……

 なんて言うか、こう……仲間内から『場の空気が読めない』とか言われない?」

 

「……あん?」

 

 虚空の発言に百鬼丸は少し眉を吊り上げ、

 勇義は「コイツは急に何を言い出すんだ?」と内心で訝しむ。

 勇義は殺し合っていたとはいえ、全くこの男(虚空)の行動や言動が理解出来ないままなのだ。

 そんな彼女(勇義)の心情などお構い無しに虚空は言葉を続ける。

 

「いやだってさ、最初から出てこないならいっその事最後まで奥に引っ込んでふんぞり返ってくれてた方がいいでしょう?

 中途半端な時に出てこられると本当に迷惑?って言うか、はっきり言うと馬鹿なの?って思っちゃう訳だよ。

 まぁこっちとしては出て来てもらわないと非常に困る訳だけど、ハハハッ」

 

 軽く笑いながら語る虚空に対し、百鬼丸は頬を若干引き攣らせながらも怒りを抑え、

 

「…は…ハハハ、テメェの魂胆は分かってるぞ七枷!

 そうやって俺を挑発して貶めようってんだろ?

 残念だが無駄だぜ!そんな安い煽りじゃなッ!」

 

 指を()し論破でもするかの様に力強く言葉を返す――――だが……

 

「あぁでも、よく考えれば押しかけたのは僕達の方だったね!

 ごめんね、まるで君が悪いみたいに勝手な事言って」

 

「俺の言ってる事を聞いてねぇのか!テメェはッ!!」

 

 まるでかみ合っていない返答に百鬼丸の怒りを抑える蓋は呆気なく吹き飛んだ。

 

「あ、そうそう話が変わるんだけど…」

 

「本気で聞いてねぇのか!というのか勝手に変えんじゃねェェェェェッ!!」

 

 理性的を装った影など何処へやら、百鬼丸は完全に憤激していた。

 虚空はそんな(百鬼丸)の後方へと指と視線を向けながら、

 

「後ろ――――気を付けた方がいいよ?」

「アッ!!」

 

 虚空の言葉に百鬼丸は怒りの形相で自身の背後を振り返る。

 視界に映るのは夜闇広がる戦場であり、別に誰の姿形も影もありはしなかった。

 

 百鬼丸が視線を後方へと向けたのとほぼ同時に、虚空は微風の様に自然に、疾風の様に(はや)(百鬼丸)との間合いを詰め、無防備な百鬼丸の首目掛け左手に持つ刃を奔らせる。

 

 (くう)を滑る様に(かけ)る刃が、首に吸い込まれる――――

 

 と、見えた瞬間――――

 

 刃は首の寸前でまるでそこに壁が在るかの様に静止しする。

 否、刃が止まったのではなく――――刀を握る虚空の拳を百鬼丸の拳が包み込むかの様に掴み、動きを奪っていた。

 加えて百鬼丸の左手が虚空の首へと伸び、獲物に喰らい付く蛇の様に掴みあげた。

 

「ッ!」

 

 掴む、と言うよりもまるで握り潰す気なのか万力の様に締め上げており、虚空の表情が苦痛に歪んだ。

 

「全くよ、恥ずかしくないのか~?

 こんな騙し討ちなんかしてよ!なぁ七枷ッ!!」

 

 虚空の首と左拳(ひだりこぶし)を握る手に力を込めながら、(虚空)へと言葉を浴びせる百鬼丸。

 

 百鬼丸から見ても虚空の状態へ満身創痍と言って相違なく、今の奇襲が最後の賭けだろうと思っていた。

 それが失敗した今、コイツ(虚空)は悔しさに打ち拉がれている、と思うのは極々自然な事だった。

 

 しかし――――

 

「ッガァッハッ!

 クッ……アハハ…ハ…『騙し討ち』だなんて…止めてよ…ね…

 だってさ…僕は――――」

 

 虚空は表情に苦痛を浮かべながらも――――()()()()()

 それは強がりでもなく、諦めでもなく、本当に不自然なほどに自然な笑み。

 

 虚空は首にかかる圧力に耐えながら、絞り出す様に言葉を紡ぎ、そして――――

 

「――――嘘は…嫌いなんだ」

 

 虚空が言葉を吐いた、と同時に百鬼丸の視界が急激に歪んだ。

 視界が歪んだ――のではなく、()()に現れた幽香の蹴りで頭を強打され意識が歪んだのだ。

 百鬼丸が痛みを感じる事すら許さない強打は、(百鬼丸)の首をへし折っており異様なほどに曲がっていた。

 

 そして幽香の奇襲に合わせる様に地上の闇から漆黒が奔り、黒い刃となって百鬼丸の両腕を肘から切断する。

 

 (百鬼丸)の拘束から解放された虚空は間髪入れずに百鬼丸の心臓目掛け刀の(きっさき)を打ち込み、その刃は胸板を裂き、心の臓を貫き、背中から血飛沫と共に顔を覗かせる。

 

 それだけでは終わらず、虚空は突き刺さっていた刃を上方へと力任せに振り抜き――――

 胸から肩まで切り裂かれた百鬼丸は夜闇を鮮血の朱で彩りながら地上へと墜ちてゆく。

 

「なんだ…楽勝じゃない」

 

 幽香は嘲りの言葉を視線と共に地上に落ちた百鬼丸へと向ける。

 

 

 

 百鬼丸に察知されずに高速で接近する(すべ)は幽香にはない。

 それにも関わらず彼女(幽香)はまるで空間移動でもしたかな様に現れた。

 種を明かしてしまえば、綺羅が使える術の一つに『亜空穴(あくうけつ)』と言う空間移動術が有りそれを使ったのだ。

 最も『亜空』と名は付いているが、実際は別の空間を創っている訳ではなく“場所と場所”の空間を瞬間的に結合するものである。

 しかも移動出来る範囲は“綺羅が目視出来る範囲内”であり長距離移動などは不可能。

 それでも視界内であれば自由自在に移動出来る事は充分に賞賛されるべきものだ。

 

 

 

「それにしてもアンタ(虚空)…少し見ない間に男前になったじゃない♪

 普段より素敵よ、ボロ雑巾みたいで♪」

 

 虚空へと視線を向けた幽香は大抵名男なら見惚れさせる微笑みを浮かべながら毒を吐いた。

 言葉を吐かれた相手が()()の精神ならば当たり前の反応を示すのであろうが、相手は虚空。

 

「……どうしよう?ルーミア?

 行き成り幽香から愛の告白をされたんだけど?」

 

 虚空は幽香の斜め上か斜め下なのか分からない言葉を自身の背後に来ていたルーミアへと問いかける。

 

「知らないわよ、乳繰り合うなら人気の無い暗い森の中でしなさい、目障りだから」

 

 侮蔑、と言っても過言ではない視線と、正に侮蔑そのものの様な言葉を虚空に浴びせるルーミア。

 だが――――

 

「ルーミアったらそんな照れ隠しな事言っちゃって♪

 大丈夫!君の心の声はちゃんと届いているから!

 『私の虚空になんて事を!この泥棒猫め!』って!

 …っ!痛いッ!痛いッ!痛いッ!刺さってる!刺さってるゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 彼女(ルーミア)はなんの躊躇も無く、虚空のボロボロになっている右腕に大剣の鋒を突き刺していた。

 

「あら?平然としてたから痛くないのかと思ったわ」

 

「我慢してるだけッ!痛いに決まってるでしょッ!」

 

 痛みは我慢出来るもの――――だがそれは結局の所、虚空の言う通り『我慢を()()()()』だけである。

 虚空の場合は“瘦せ我慢”とは微妙に違うが、苦痛に耐えていると言う意味では同じであった。

 

 ルーミアは虚空の喚きを完全に無視し、状況の流れに顔を引き攣らせている幽香へと声をかけた。

 

「そういえば貴女(幽香)、綺羅はどうしたの?一緒じゃないの?」

 

 幽香と綺羅を組ませていた以上、(綺羅)の姿が見えない事に疑問を持つのは当然である。

 

「天狗と合流しろ、って言ってあるわ

 …別に置いてきた訳じゃないわよ?連れてきても邪魔になると思ったからで。

 まぁ最も思っていた以上に呆気なく死んだけどねアイツ(百鬼丸)

 

 幽香は百鬼丸の墜落地点辺りを親指で指しながら嘲りの言葉吐く。

 そしてルーミアも内心では肩透かしを受けた気分であった。

 

 そもそも最初の予定で、百鬼丸が出て来た際は虚空とルーミア、そして幽香の三人で対応する事が決まっていた。

 虚空曰く『アレ(百鬼丸)は危険だから』という理由からの対応策だったのだが、いざ蓋を開けてみれば何とも呆気ない幕切れだったのだから二人(ルーミアと幽香)が拍子抜けするのも無理はない。

 

 ルーミアの意識からはすでに百鬼丸の事は外され、残っている勇義へと警戒心を向けていた。

 彼方側(鬼達)にも何かしらの事情や(いさか)いがある様子だったが、敵には変わりないため警戒するのは当然の事。

 

 だが、当の勇義は此方側(自分達)にではなく違う所に視線を注いでいる。

 疑問に思ったルーミアが勇義の視線の先へと目を向けると同時に爆発したかの様に殺氣が周囲を薙いでいく。

 

『!?』

 

 その殺氣に反応し爆心地(殺氣の出所)に視線向けた幽香とルーミアの瞳が驚くべき光景を映し出す。

 

「……やってくれるじゃねぇかよッ!なぁオイッ!!」

 

 殺氣と共に怒声を散らす百鬼丸が二本の足で大地を踏みしめ立っていたのだ。

 

「そんな馬鹿な!」

 

 その光景を見たルーミアから驚愕の声が上がる。

 妖怪といえど人型を取っている以上、心臓を貫かれれば致命傷だ。

 それどころか首は折られ、心臓は斬り裂かれている。

 幾ら生命力が強かろうと傷の深さと失血で生きていられる訳がない。

 少なくともルーミアや幽香は、自分達がそんな傷を負えば死ぬという確信がある。

 

 それなのに百鬼丸の首は曲がっておらず、斬り裂かれた胸の傷は既に塞がりかけており、更には斬り飛ばされた両腕は再生しかけている。

 上級に位置しているルーミア達からしても異常な回復力である。

 

 驚愕しているルーミアと幽香、そして苦虫を噛み潰した様な表情の勇義。

 しかし、その場で但一人虚空だけが表情を変えていなかった。

 

「この程度じゃぁ俺は殺せねーぞ、残念だったな!」

 

 完全に傷が塞がった百鬼丸が意気揚々と虚空達へと言葉を吐くが、

 

「あぁそうだね、死ななかったのは残念だけど……

 ――――まぁ大方()()()()かな?」

 

 特段、残念がってもいない表情でそんな事を言う虚空を隣に居たルーミアは訝しんだ。

 

「まぁそれはともかく、これで三対二になったね。

 怪我人の戦力を差し引いても僕達の方が有利みたいだし、丁度いいから押し切らせてもらおうかな?」

 

 ルーミアが疑問を口にするより早く、虚空は百鬼丸にそう宣言していた。

 虚空の言う通り、自身(虚空)の負傷と勇義の負傷を鑑みてもほぼ無傷の二人(ルーミアと幽香)が居る以上、虚空が勇義を押さえれば実質的に百鬼丸は孤立するのだ。

 いかに異常な力と回復力を誇ったとしても、ルーミアと幽香を同時に相手には出来ないだろうと思うのは至極当然の事だろう。

 

 虚空の言葉に百鬼丸は詰まらなそうに鼻を鳴らし、口を開こうとした…

 

 ――――その時…

 

 突如、虚空の足元に出現した黒い影が(虚空)を一瞬で絡め取る。

 

「!?」

「ッ!虚空ッ!!」

 

 異常に気付いたルーミアが瞬発的に虚空へと手を伸ばすが、時既に遅く現れた時と同じ早さで虚空は影の中へと引き摺り込まれ、ルーミアの手は何も無い(くう)を掴むだけだった。

 

「チッ!無有の奴め余計な事を…

 まぁいいか、オイ!お前らの大将は居なくなっちまったぜ。

 アイツ(無有)に取り込まれた以上、もうお仕舞いだ。

 どうする?大人しく降伏するってんなら考えてやらない事もねーぞ?」

 

 まるで楽しみを奪われた童の様に不機嫌を隠さず、百鬼丸は残されたルーミアと幽香に向けそう問い掛けるが…

 

「あぁそう、アレがどうなろうが私の知った事じゃないわね。

 私はアンタは首さえ取れればそれでいいのよッ!!」

 

 幽香はそう吐き捨てると同時に、放たれた矢の如く百鬼丸へと躍り掛かる。

 右手から迸る極彩色の輝きが尾を引き流星の様に(くう)を翔、(百鬼丸)を貫こうとするが――――

 

「ッ!?」

 

 大気を震わせるほどの鈍い音と共に、幽香は彼方へと吹き飛ばされた。

 

 幽香が百鬼丸の眼前まで迫った瞬間、動きを見せていなかった勇義が横合いから彼女(幽香)を殴り飛ばしたのだ。

 

「おうおう、まさかお前(勇義)が俺を守ってくれるなんてな!感動で涙が出そうだぜ!」

 

 小馬鹿にした表情と仕草でそんな言葉を吐く百鬼丸を、勇義は忌々しいと伝わる強い眼光で睨むと何も言わないまま彼方へと消えた幽香を追うように飛び立っていった。

 

「なんだなんだ?折角共闘出来ると思ってたのによ~。

 まぁいいか……それで?まさか一人で俺の相手をするつもりか?」

 

 百鬼丸は一人残されたルーミアへとそう言葉をかける――――『正気か?』と。

 

 

 

 百鬼丸は虚空を大将と言っていたが、実の所それは半分間違っている。

 虚空はルーミアと天魔にある指示をしていた、それは――――

 『自分に何かある、もしくは死んだ場合はルーミアの判断に任せるからルーミアの指示に従う事。

 但し、目的遂行が最優先』

 

 虚空という男は実の所“命を賭ける”等という行動をする類ではない。

 本当に危なくなれば自身の命を優先する。

 ただ、行動に伴う危険度を確りと割り切っている為、唐突な事態で命を落とす事が最初のから勘定に入っている。

 故に『死ぬ気は更々無いが、死ぬかもしれない』という相反する様な変梃(へんてこ)な考え方をするのだ。

 

 

 今回の襲撃も充分に危険であった為に最初にそう指示をしていた。

 だが言い換えてしまえば――――

 

 『死んだら後は宜しく。

 あぁでも無理しても目的は遂行してね』

 

 つまりは、面倒と責任の丸投げである。

 

 

 ルーミアは深い溜息を吐くと風で少し乱れた髪を払いながら、

 

「…しょうが無いからやるしかないでしょう?

 それにしてもアンタ、仲間を(ないがし)ろにして何がしたいのよ?」

 

 問い返された百鬼丸は、一瞬だけまるで予想外の出来事に遭遇したかの様な表情をするが、

 

「フ…ハーハハハッ!

 まさかな!あの『闇妖怪ルーミア』がそんな台詞を吐くとはッ!

 なんだ、神に飼い慣らされて腑抜けたか?」

 

 百鬼丸がルーミアの事を知っていたのはさておき、一昔前のルーミアを知る者が在れば確かに(百鬼丸)と同じ思いを抱くだろう。

 虚空と出会う前…にとり達と出会う前の彼女(ルーミア)は人妖共に(おそ)れる災害の様なものだったのだから。

 そんなルーミアを知る者、聞き知った者からすれば『今のルーミア』を腑抜け扱いするのは極自然な事なのかもしれない。

 

「腑抜け、ね……そうね腑抜けたんだと自分でも思うわ。

 でも……私は今の自分の方が好きよ。

 本当に…にとりには感謝してるわ、だって――――

 あの子達(かっぱ)に会ってなかったら私もアンタ(百鬼丸)みたいな(くず)になっていたもの」

 

 微笑みながら紡がれるルーミアの言葉に、百鬼丸は苛立たしげな表情を浮かべ眼光を強めた。

 

「『この程度じゃ死なない』って言ったわよね、だったら――――」

 

 ルーミアは笑みを消し右手を天上へとかざす。

 それに合わせる様に周囲を染め上げていた漆黒が、彼女(ルーミア)へと集まり燃え盛る炎の如くルーミアを包み込みその身を隠した。

 それだけではなく、周囲の闇がまるで密度を上げたかの様により深くなり、戦場を照らし出していた月光を遮断…否、飲み込んでゆく。

 夜の闇を更に塗り潰す暗黒が周囲を完全に包み込むと、その黒の中に(あか)りが灯る。

 朱と呼ぶよりは血色とでも呼んだ方がいい赤黒い灯火は、歪な三日月とも見える大剣となりその刀身に禍々しさを隠そうともしない文様を奔らせた。

 

 禍々しい大剣“魔剣ダーインスレイブ”から放たれる朱りに照らし出され剣の担い手であるルーミアが真黒(しんこく)の空間に浮かび上がる。

 彼女(ルーミア)の金髪が夜天に浮かぶ月の様に漆黒に映え、その身は周囲の暗黒よりも深い闇色に覆われ、その様はまるで君臨者が身に纏う王衣の様だった。

 

「――――細切れの肉片にすれば流石に死ぬでしょう?」

 

 大剣の鋒を百鬼丸へと向けそう言い放つルーミアに対し、(百鬼丸)は獰猛な笑みを浮かべ、

 

「ハッ!面白ぇぇ!やってみな!

 俺をガッカリさせんじゃねーぞッ!!」

 

 その身から烈氣を迸らせ、その気勢だけで周辺を薙いだ。

 

「アンタの期待以上にしてあげるわ。

 私は『闇妖怪』…夜は我が領域…

 その怖ろしさ、その身と魂魄(こんぱく)に斬ざみ込んであげるッ!!」

 

 その宣言と共に振り抜かれた大剣から濁流の様な闇色が、天地に届くほど巨大な斬擊となって奔り百鬼丸を飲み込んだ。

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