東方虚空伝   作:TAKAYA

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六十七話 夜転交路 参

 無有(むあ)に取り込まれ暗黒に包まれた文。

 一切の光を奪われ上下左右の感覚すら無くしていた彼女の瞳が唐突に光を感じ取る。

 その時に漸く彼女は自身が目を閉じていた事に気付き、ゆっくりとその瞼を開けた。

 そして視界が捉えた光景に文は驚愕する。

 

 彼女の目の前に広がるのは――――

 

 三十mは軽くある巨木に囲まれた、広く整地された広場。

 巨木の根元や太い枝に作られている住居。

 広場の隅にある井戸の辺りには、談笑する鴉天狗達。

 そして広場の中や上空には楽しそうに笑顔を浮かべる鴉天狗の子供達が居た。

 

 視線を動かせば広場から距離があるというのに、そこからでもはっきりと見て取れる周りを取り囲む巨木よりも更に巨大な一本の樹木。

 その太い枝には回りの住居侵入罪とは比べものにならないほど大きな屋敷が作られている。

 それは天狗の郷の長である天魔が居を置く屋敷であり、名は『天宮苑(てんきゅうえん)』。

 

「………そんな……馬鹿な…」

 

 それは今はもう無き自分の故郷たる天狗の郷だった。

 文は視界が捉える全てに驚愕し、動揺し、そして…

 

 ――――歓喜していた。

 

 どんな状況であろうと、二度と目にする事などないと思っていたモノに、どんな形であれ遭遇して心が沸き立たない訳がないのだ。

 

「…おい、どうしたんだ?そんな所に突っ立ってよ?」

 

 自身の背後から声をかけられ、文は驚きの表情を浮かべる。

 否、声をかけられた事に驚いたのではない――――その聞き覚えのある声に動揺したのだ。

 

 彼女が動揺するのは当たり前であった……何故なら――――

 

 

 

 無意識の様に振り返ろうとする自分を理性(冷静な自分)が『止めろ』と激しく警鐘を鳴らす。

 振り返ってしまえば……声の主と向き合ってしまえばもう戻れない、という確信が文を支配するが―――

 

 

「…………疾風(はやて)…」

 

 振り返り声の主と対峙した文の口からは、まるで答え合わせでもするかの様に一つの言葉が紡がれていた。

 

 彼女の前に立つ、文よりも少し高い背丈の癖のある黒髪の青年。

 肩まである髪を無造作に馬の尾の様に纏めているが、身に付けている白い狩衣に黒い袴、そして装飾のある陣羽織等に皺は無くきっちりとしており、物臭な感じは受けない。

 朗らかな、それでいて少年の様にも見える笑顔が特徴的で有り、その黒い瞳には理性さと熱さが共存している様にも見えた。

 

 消滅したはずの恋人が確かな存在感を持って、今目の前にいた。

 

「おいおい、何(ほう)けた顔してんだよ」

 

 鴉天狗の青年――――『霧波(きりは) 疾風(はやて)』はそう言いながら硬直し、微動だにしない文の額を指先で軽く小突く。

 その仕草は文にとって特別な親しみを込められたものであり、現状への忌避感を粉微塵にするには充分な衝撃だった。

 

「………これは…夢…よね?」

 

 それでも消えかけの理性が墜ちようとている自分を必死に繋ぎ止める為に否定の言葉を探る。

 

 ――――だが…

 

「あぁ夢だぜ、俺はもう死んじまってるからな。

 だけどさ…それってそんなに重要な事か?」

 

「え?」

 

 疾風は自身が夢幻(ゆめまぼろし)である事をあっさりと認めた上で、文の言葉を否定する。

 

「いいじゃないか夢でもさ、いや寧ろ夢の中でならもう離れ離れにならなくて済むじゃないか!

 (うつつ)じゃ俺はもう居ない、でも此処()でなら一緒に居られる。

 受け入れたくない真実なんて捨てろよ、今目の前にある事実が全てでいいだろう」

 

 そう言うと疾風は笑顔を浮かべながら文にてを差し伸べる。

 その笑顔は文の記憶にある彼のものと何ら変わりなく、灯火となっていた理性は感情の波により掻き消された。

 

「……疾風ッ!!」

 

 そして文は溢れる感情に任せ疾風の胸へと飛び込み、(わらわ)の様に泣き崩れる。

 

 それはまるで天狗の郷が無くなって以来、抑えてきた全てを吐き出すかの様に――――

 

 

 

 

□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■

 

 

 

 

 暗黒から解放された虚空は、目の前に現れた光景に少々困惑していた。

 

 明らかな人工建築物である乳白色の廊下。

 窓など一つも無いが、真昼の様に明るいのは天井から照らされる光で満たされているからだ。

 

 似たようなモノならば歩んできた時間の中で幾つか見てきたが、目の前の光景の時代には確信が持てている。

 それは彼の記憶の根底――――まだ地上に『帝都』が在った頃のものだと。

 

「う~ん……幻覚や幻術の類じゃない…のか…」

 

 虚空は先程から試している幻術破りに何の手応えも無い事に困惑の度を深める。

 そもそもにおいて同世代の者でない以上、この光景を創り出す事は不可能だ。

 そうなると考えられる手段は、記憶を読み取って幻に堕とす事だけのはずなのだが、この光景は驚く事に()()なのだ。

 だから虚空が困惑するのも当然であった。

 

 そんな虚空の視界の先――――廊下の突き当たりから人影が現れ、此方に向かって歩を進めてくる。

 それは十四、五歳ほどの黒髪の少年で、薄青色の病衣(びょうい)の様なものを纏っていた。

 その少年に虚空は見覚えがあった――――というよりも……

 

「アレって……“僕”か?」

 

 確かにそれは少年期の自分であった。

 しかし自分が現れた事に虚空には別の疑問が生まれていた――――それは……

 

「はて?何時の頃だっけ?」

 

 目の前の状況の記憶が無いのだ。

 確かに虚空はどうでもよい事を忘れるが、自分を培っている根底の記憶を忘れた事は無い。

 だが幾ら思い出そうとしても合致する記憶は浮上してこなかった。

 

『困ったな~また迷った……永琳に怒られるかな?』

 

 虚空の目の前まで来ていた少年期の虚空は、そんな事を口にしながら困り顔をする――――目の前に居る虚空がまるで見えていないかの様に。

 

「…見えてない?」

 

 虚空はそれを確かめる為に、目の前で手を振ったり音を立てたりするが反応無く、触れる事は出来るのだが全く意識を向ける事はなかった。

 

 色々試す虚空を完全に無視する形で、少年虚空はそのまま歩を進めていたが――――

 

『やっと見つけたッ!!』

 

 突然、そんな叫びが木霊し廊下全体を満たす。

 視線を向ければ廊下の突き当たりに十歳ほどの小柄な銀髪の少女が立っており、怒りの形相を浮かべている。

 少し大きめの白衣を纏っている為、凛々しさよりも可愛らしさを感じさせる少女は脱兎の如く駆け出し、腰まで届く銀髪が尾の様に後方へと流れる。

 そしてそれに気付いた少年虚空は、

 

『あ!永琳ッ!』

 

 と、声を上げ笑顔で手を振った。

 

 そして次の瞬間――――

 

『こ・ん・の……ド低脳ォォォォォッ!!』

 

 その叫びと共に放たれた永琳の双脚が少年虚空の腹部へと突き刺さり、「グヘェッ」という声を残しながら虚空は反対側の廊下の壁まで吹き飛んでいった。

 そして壁に激突し悶絶している(少年虚空)に対し、永琳は追撃と言わんばかりに踏みつけながら、

 

『この馬鹿ッ!阿呆ッ!ウスノロッ!

 一体何時になったら此処の構造を憶えられるのよッ!

 数日も居て記憶出来ないなんてある種の天才よッ!!』

 

 怒りの形相で罵詈雑言を浴びせ掛ける。

 もっともその姿すら年相応の可愛らしさがあるのだが。

 

 そんな永琳に対し当の虚空は、

 

『天才って……永琳に褒められると照れちゃうな~もう!』

 

 と等と頓珍漢な返答を口にしており……

 

『皮肉で言ってるのよッ!

 そんな事すら分からない脳みそならいっその事、猿とでも交換してあげましょうかッ!』

 

『あ~確かに猿って賢いもんね!流石永琳!頭良いな~!』

 

『皮肉だって言ってるのよッ!!

 このド低脳ォォォォォッ!!』

 

 そんな風に廊下で繰り広げられるやり取りに、第三者的な虚空は懐かしいが込み上げていた。

 

 

 

 ある程度に虚空と永琳の関係を知っている者からすれば、このやり取りに度肝を抜かれるだろう。

 何故ならば永琳が虚空に対し罵詈雑言を吐き付ける事等無いからだ。

 しかし逆に幼少期の二人しか知らない者からすれば、虚空を罵倒しない永琳が異常に見える事だろう。

 

 出会った当初、虚空は持ち前の脳天気さで永琳の両親に『兄発言』をしている。

 それに対し鈴音(りんね)達は打算の無い虚空を快く歓迎した――――のだが、当時の永琳はそれに猛反発したのだ。

 虚空の事を毛嫌いし、罵詈雑言等当たり前で平然と攻撃までする始末。

 時に度を超える事すらあったが、虚空が永琳から離れる事は無く、周囲がハラハラすら様な関係を続けていたのだ。

 

 何故、虚空は永琳に嫌悪を向けられても傍に居たのか?

 それは彼が持つ慈愛の精神と大きな器から産まれる包容力故の愛の奇跡――――

 

 ――――等では無く……

 

「いや~懐かしいな~、この頃の永琳って()()()()()()()()()()()だったんだよね」 

 

 と言う発言から分かる通り、永琳の嫌悪に気付く所か嫌われている等と欠片も思っていなかったのだ。

 時が流れた今ですらこれなのである、当時の虚空は永琳の行動全てを『照れ隠し』の一言で片付けていた。

 

 『暖簾(のれん)に腕押し』とは正にこの事で、永琳の怒りはただの徒労でしかなかった。

 

 

『ハァッ!ハァッ!どうして私がこんなに疲れなきゃいけないのよッ!』

 

『大丈夫永琳?無理しちゃ駄目だよ?』

 

『誰のせいだと思ってるのよッ!!』

 

『え?実験に間に合ってない僕でしょ?』

 

『自覚あるんかいッ!』

 

 叫びと共に永琳から再び放たれた蹴りを受け、少年虚空は更に廊下の奥まで飛び立って行くのだった。

 

「……実験?……あぁもしかして此処って『神剣計画』の実験棟か?」

 

 少年虚空が発した『実験』という単語のおかげで、虚空は漸くこれがどの辺りの記憶なのかに当たりが付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『神剣計画』

 

 妖怪に対し、数的にも身体能力的にも劣っていた人間。

 それに対抗する為には武器は必須であった。

 妖怪への対抗手段の中には『能力』も含まれてはいるが、実際には手段の一つとして強く認識はされていなかったのである。

 

 理由は『能力保有者』少なさ。

 加えて霊力が高いからといって能力が発現する訳でも無く、逆に戦闘に適さない者が能力を持つ場合もあった。

 

 その為、『能力者』を確保するよりは強力な武器を造る方が圧倒的に重要な事だったのだ。

 

 そんな中、希代の頭脳を持っていた永琳が周囲の者達を唖然とさせる研究を始めた。

 それは――――『能力を宿した武具の作成』。

 当時からしても夢物語の様なその提唱に賛同の声は少なかった。

 それでも議会の承認を受け始まったその計画は――――

 

 ――――驚く事に成功したのである。

 

 精製に成功した七つの鋼物自体が霊力を宿しており、()()()()能力を持っている事が確認されたのだ。

 その成功に永琳を始めとした研究者達は喜びの声を上げたのだが……そこから先に問題が発生した。

 

 それは――――その鋼物に干渉出来る『適合者』が見つからなかった事。

 警備隊や守護団の面々は早々に全滅。

 議会の面々や研究所職員、果ては一般人に至るまで適合検査を行ったが誰一人反応する事は無かった。

 

 精製に成功していようが、そこから先に進めなければ宝の持ち腐れ……つまりは無駄でしかない。

 

 喜びから一変、実験は停滞し永琳の苛立ちだけが募っていた。

 そんな中、何時もの能天気さで永琳に会いに来た虚空に彼女(永琳)の苛立ちは頂点に達し怒り任せに虚空を実験室へと放り込んだのだ。

 

 帝都の全住民に検査を行っていたが、虚空だけは外されていた。

 理由は永琳自身の(虚空)への毛嫌いが大半だが、決定的だったのは虚空の()()()()()だった。

 当時の帝都住民の平均からしても圧倒的に低く、有るのか無いのか疑わなければならないほど。

 

 故に永琳の頭の中にその時まで虚空で試す等という考えは微塵も無く、怒りに任せていなければしていなかっただろう。

 

 そして虚空を放り込んだ後、操作室の装置を乱暴に起動させた永琳は計器の数値を見て唖然とした。

 

 反応を示していたのだ――――()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出せる知識を漁っていた虚空だったが、再び暗黒に包まれた。

 しかし今度はすぐに光を取り戻し周囲の光景が目に映し込まれる。

 

 そこは先程までの廊下では無く、様々な機材に彩られた研究室であった。

 二十畳以上もある室内は大小様々な機器が乱立し、数人の白衣を纏った男女がそれぞれ担当の機材に付き記録を取っている。

 

 研究室の壁の一つだけは硝子張りになっており、その先には此処(研究室)と同じ広さの部屋が有り、その中央付近に置かれた椅子には少年虚空が鎮座していた。

 (少年虚空)の身体には色取り取りの電纜(ケーブル)が繋がれており、ある種の衣装のようでもあった。

 

 更にその周囲には虚空を囲う様に、大の大人よりも大きな半透明の円柱が立てられ、その中には銀色に煌めく長方形の板が漂っている。

 

 全部で七つのその銀の板――――それこそが永琳の偉業の成果であり、今現在の頭痛の種であった。

 

『……ごめん……ちょっと休憩……』

 

 研究室に機器で拾った虚空のそんな言葉が流れる。

 それとほぼ同時に、

 

『いったい何回休憩挟めばいいのよッ!このグズッ!!』

 

 永琳の罵声が響き渡った。

 

 虚空の霊力が低すぎる為に、すぐに底をついてしまい頻繁に休憩を挟まなければならず、その都度こうして永琳の怒りが爆発していた。

 

『止めないか永琳!…すまないね虚空君、いいから休みなさい』

 

 そんな風に怒る永琳を嗜めるのは銀色の髪の白衣の青年。

 少し長めの髪と同じ色をした理知的な瞳が印象深く、美男子と言っても差し支えないだろう。

 白衣のを纏っている事で研究員だという事が見て取れるが、彼は研究員では無くこの研究所の責任者であり、更には永琳の実の父親でもある。

 

 『八意(やごころ) 春詠(しゅんえい)』は今実に困っていた。

 一研究員として永琳の気持ちはよく分かるが、父としては虚空へのその行いは嗜めなければならない。

 しかし……

 

彼奴(虚空)が自分で『良いよ』って言ってるんじゃない!』

 

 永琳はそう言いながら硝子越しに虚空を指さし、

 

『……ですよ~…だから春詠さんもお気になさらず~…』

 

 椅子に座った状態で虚空が、うつらうつらと船を漕ぎながらその言葉を肯定した。

 

 この現状が春詠の頭痛の種なのだ。

 娘の行いは度が過ぎているのだが、それを当の本人(虚空)が全肯定してしまっている為に止めるに止められなくなっているのだ。

 加えて研究員としての自分が虚空の許容に甘えているのも事実である。

 

 しかしこのままにしておく事は許されてはいなかった。

 親としての責任もあるが、それ以上に――――

 

 

 

 そんな中で研究室の扉が突然開き、

 

『こ、困りますから!部外者の方が……』

 

 数人の研究員を後ろに引き連れるかの様に歩を進める一人の女性。

 腰まである黒い長髪を流しながら、回りの声など聞こえないとでもいう様に真っ直ぐに進んでくる。

 そして永琳のすぐそばまで近づき、歩を止めると同時にその黒い瞳に強い怒りが灯り、右手を永琳目掛け平で振り抜いた。

 

 だがその一撃を永琳は悠々と躱し、

 

『いきなり子供に手を上げるなんて最低ね、流石はド低脳の母親だわ』

 

『もう一返言ってみなさい!この餓鬼ッ!!』

 

 永琳の挑発に飛びかかろうとした女性を、回りの研究員と春詠が咄嗟に止めにかかる。

 

『すみません空羅(くうら)さん!

 永琳!謝りなさい!』

 

 春詠の言葉に永琳は興味無さげにそっぽを向き、その態度は空羅の怒りを煽るだけだった。

 

 『七枷(ななかせ) 空羅(くうら)

 虚空の実の母親である。

 彼女ははっきり言って永琳の事を嫌っていた。

 理由は当たり前の事ではあるが、大事な一人息子を平然と蔑ろにする相手を好きになる訳がない。

 虚空には再三『あの娘に関わるな』と言って聞かせているのだが意味がなく、渋々といった感じで見守っていたのだ。

 

 それが変わったのが十日程前である。

 国の研究に必要だと説明されて承諾したのだが、六日経っても帰ってこない所か連絡さえ無かった。

 業を煮やした空羅が研究所に押しかけるのは自明の理である。

 虚空自身から『大丈夫』だと説明されて不承不承その場は引き下がった空羅だが十日目にして堪忍袋の緒が切れたのだ。

 

 

『貴方達がそんなのだからその餓鬼がつけ上がるのよ!

 虚空を……あたしの息子を何だと思ってるのよッ!!』

 

 空羅の言葉に春詠を始め回り者達も苦虫を噛み潰した顔をするが、

 

『はっ!たかが十日箱詰めした位で何を言ってるのやら。

 彼奴を何だと思ってる……ですって?

 グズの低脳だと思ってるわ。

 でもそんなグズが今回偶々役に立つから使()()()()()()()んじゃないの!

 逆に感謝してほしいわよ』

 

 永琳のそんな尊大な言葉が静かになった研究室に響き渡り、空羅の怒りは更に増し春詠もその台詞には流石に一人の子を持つ親として看過出来なかった。

 

『この餓鬼ッ!!』

『永琳ッ!!』

 

 

 そして永琳が再び口を開こうとした時――――

 

 空羅が職員達の拘束を解こうとした時

――――

 

 春詠が永琳を叱りつけようとした時――――

 

 

 

 その全員の行動を遮る形で研究室に警報が鳴り響き、警戒の赤色灯が灯された。

 

『 !?!? 』

 

 それにその場にいる全員が驚き硬直する中、設置されている機器の画面の中では数値がめちゃくちゃに表示を繰り返し、彼方此方で電流が踊る。

 

 そして意図せずに全員が同じ方向に目を向けた。

 機器が繋がっている者へと――――

 

 硝子越しの虚空は椅子の上で意識を失っているかの様に頭を下げ、彼の周囲にある鉱物の一つが激しく光を瞬かせている。

 

 そして――――

 

 その輝きが激しく増し、凄まじい衝撃と共に研究室を光で飲み込んだ。

 

 

 

 

 あまりの眩さに手で目を守った虚空が、再び視線を向けた先には――――紅蓮に彩られた瓦礫の山が映し出される。

 彼方此方で燃える炎の赤が照明の様に室内を照らし、惨劇の場を怪しく彩っている。

 

 その中で動く影があった。

 それは必死に何かを動かそうとしている少年虚空であり、彼の視線の先には機材に挟まれた永琳が意識を失い床に伏している。

 どちらかと言えば機材が壁となり永琳を守った形に見えるが、小柄な永琳では自力での脱出は不可能であろう。

 

『…ハァハァ…良かった……無…事…だよ…ね……』

 

 機材を退かした虚空はそう呟くと力尽きたのかその場にうつ伏せに倒れる。

 その背中には無数の瓦礫が凶器の様に突き刺さっており瀕死の致命傷である事は明らかだった。

 

 瀕死の我が身を省みず他人助ける――――物語として語られる分には心震わす美談であろう。

 

 だが――――

 

『何て非道い子なのかしら……』

 

 虚空の背後から発せられた否定の言葉。

 振り返った虚空の目に飛び込んできたのは、全身を傷と呼ぶには生易し過ぎる裂傷を負い、見るも無残な姿となった母親。

 

自分(虚空)を大切に思う母ではなく、あの娘を助ける何て――――非道いわよね?許されない事よね?

 ――――あれは貴男の“罪”よ』

 

『………罪…』

 

 母の口から語られる台詞には虚空は考え込む仕草をした後、再び振り返り倒れ伏している過去の自分へと視線を向けた。

 

 空羅はそんな虚空の背中へと更に言葉を投げかける。

 

『“罪”には“罰”が必要よね?

 安心しなさい虚空、お母さんが貴男を裁いてあげるわ。

 怖がらなくていいのよ、さぁ“罪”を受け入れて“罰”を受けなさい!』

 

 何時の間にか空羅の手には怪しく光る短刀が握られており、ゆっくりと虚空へと近づき短刀を持つ手を振り上げる。

 そして未だ無防備に晒されている(虚空)へと兇刃が振り下ろされた――――

 

 

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