戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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遂に、大洗女子学園戦車道復活の真相が明かされる…但し、主人公限定で。

※4/16追記・後書きに、緊急のお知らせがありますので、必ずご覧下さい。

【報告】2018年6月5日に一部修正(段落と一部の文章の訂正)しました。




第8話「これが、戦車道復活の真相です!!」

 

 

 

 

 

 

意識が戻ったのは、いつの事だったのだろう。

 

と言っても、目の前に置いてある時計を見る限り、生徒会長室で私が母のスリーパーホールドで落ちてから30分程しか経っていないらしい。

 

ここは、下宿先の鷹代大叔母さんの家にある、私の部屋。

 

どうやら私は、ここへ運ばれてから布団に寝かされていた様だ。

 

だからと言って、さっきまでの出来事が悪夢だった訳ではない。

 

夢ではないのだから…と思って、布団から起き上がった正にその時。

 

目の前に、かつての戦車道仲間3人の姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

心配そうに私を覗き込んでいるのは、戦車だけではなく実家のラリーチームが使い古した車両を実家の裏山で毎日の様に乗り回していた、美少女天才ドライバー・萩岡 菫。

 

次に、みなかみタンカーズではチームのムードメーカーで、常に笑顔を絶やさない甘えん坊だが、今は不安そうな表情を浮かべて私を見つめている、二階堂 舞。

 

そして、クールな表情で私を見つめている幼稚園時代からの親友兼好敵手。

 

”ののっち”こと、野々坂 瑞希だった。

 

 

 

 

 

 

「あっ…目が覚めた?」

 

 

 

 

 

 

最初に、瑞希が落ち着いた表情で話し掛けて来たので、私はこう答えた。

 

 

 

『ののっちか…じゃあやっぱり、今日生徒会長室で起きた出来事は夢じゃなかったわね』

 

 

 

「どうやら、今日何が起こったかは覚えている様ね?」

 

 

 

『そりゃもう…全てが完璧な悪夢だったわよ。まさかこの学園で戦車道が復活するだなんて、最悪の予想の更に斜め上って事態ね。しかもののっちだけではなく、菫や舞まで入学していたのに気付かなかったなんて…』

 

 

 

すると、瑞希は澄ました顔で意外な返事を寄越して来た。

 

 

 

「まあ、実を言うと私達、今回の件で明美さんから頼まれなくてもアンタと一緒に、この学園へ進学するつもりだったのだけどね…」

 

 

 

『母さんから頼まれなくてもここへ入学するつもりだった…どう言う事よ? 全ては母さんとグルになって、私を戦車道へ引き戻す為にここへやって来たんじゃないの?』

 

 

 

「それはちょっと違うわね…でも、まずはお母様から話を聞いた方が早いと思うわよ?」

 

 

 

と瑞希が呟いた瞬間、我が母親・原園 明美が、のほほんとした表情で部屋に入って来た。

 

 

 

 

 

 

「嵐、目が覚めた? さっきはゴメンね~でも、ああしないとあなたが生徒会長室で大暴れして、大変な事になる所だったのだからね?」

 

 

 

『母さん!! あんたって人は…いずれこうなるとは思っていたけれど、まさか生徒会とグルになるだけじゃなく、西住先輩まで巻き込んで…許せない!!』

 

 

 

生徒会長室での一件を思い出した私は、頭に来て立ち上がると、母に摑みかかろうとしたが、すぐさま菫と舞が私の腕を摑んで止めに入った。

 

 

 

「嵐ちゃん、落ち着いて!!」

 

 

 

「駄目だよ嵐ちゃん、こんな所でお母さんと喧嘩したら!!」

 

 

 

『離してよ!! この鬼母のせいで、せっかくの高校生活が滅茶苦茶に…!!』

 

 

 

だが、母は泰然自若とした態度で、こう宣言した。

 

 

 

「まあ落ち着きなさい、嵐。これから貴女へのお詫びも含めて、みんなで焼肉を食べに行くわよ」

 

 

 

『母さん!!』

 

 

 

私は思わず抗議をしたが、当人は平然とした顔でこう返した。

 

 

 

「分かっているわ…戦車道の事についても、ちゃんと理由を話すから」

 

 

 

『理由!? 私を戦車道へ引き摺り戻す以外に、一体何があるって言うのよ!!』

 

 

 

だがそこへ、母の背後から大叔母の鷹代さんが仏頂面でやって来て、母に一言釘を刺した。

 

 

 

「明美さん…貴女、一人娘にこれから何をやらせようとしているのか、分かっているのでしょうね?」

 

 

 

「鷹代さん、分かっています。でも私がここへ来たのは、単純に嵐を戦車道へ戻すだけではないのです。詳しい事は、これから向かう場所で夕食を食べながら説明をします」

 

 

 

「仕方ないわね…」

 

 

 

母の説明を聞いた大叔母さんは、憮然とした表情だったが、頷くと着替えをするのだろうか、自分の部屋へ戻って行った様だ。

 

その姿を見た母は、私達にこう話し掛ける。

 

 

 

「じゃあみんな、これから焼肉を食べに行くから支度をしてね。私は車を用意するから」

 

 

 

「「「はい」」」

 

 

 

3人の元・戦車道仲間は、自分達がこの春まで所属していたチームの代表である母に向かって行儀の良い返事をする。

 

 

 

『分かったわよ…』

 

 

 

最早、母と喧嘩をしてもしょうがないので、私も瑞希達と一緒に身支度を整えてから、鷹代さんの家の玄関を出た。

 

すると玄関前には、大型で3列シートを持つ、薄いグレー色の国産ミニバンが停まっており、既に運転席には母が乗り込んでいた。

 

母は本来ドイツ車、それも4WDが好みだから、恐らく学園艦内にあるレンタカー屋で借りたのだろう。

 

そう思っていると、鷹代さんが母の呼び掛けに答えて、助手席へ乗り込んでいた。

 

本当は乗りたく無かったが、私も仕方なく瑞希と一緒に2列目のシートへ乗り込む。

 

続いて、3列目のシートに菫と舞が座ってドアを閉めると、大型ミニバンは家を出発した。

 

 

 

 

 

 

一体どこへ向かうのかと思いきや、目的地へはほんの10分足らずで着いた。

 

しかし、着いた場所は意外にも焼肉屋ではなく、やや年季の入った風格ある旅館だった。

 

思わず、私は運転席の母へ問い掛ける。

 

 

 

『ここでいいの?』

 

 

 

「ええ。ここは今、私が泊まっている旅館でね。今晩はお客様も迎えるから旅館の女将さんに頼んで、9人で焼肉を食べるのに充分な広さの部屋を確保してもらったのよ」

 

 

 

『9人?』

 

 

 

人数を聞いて、気になった。

 

今、このミニバンの中にいるのは私と母、それと鷹代さんに瑞希達3人の合計6人。

 

つまり母は、何らかの理由であと3人を今晩の夕食に招待した事になる訳だが、果たして誰なのだろう?

 

そこまで考えた時、母はシートベルトを外しながら、皆へこう告げた。

 

 

 

「この旅館の『竹の間』と言う部屋を予約してあるから、今から旅館の玄関へ行ってね。そこで待っている女将さん達が部屋へ通してくれるわ。鷹代さんもお願いします」

 

 

 

すると、大叔母さんが母へ疑問を投げ掛ける。

 

 

 

「今晩はここで焼肉を食べるのかい? その分だと、お客さんもその部屋でお迎えする様だけど?」

 

 

 

「その通りです。今晩はここで夕食を食べながら、嵐の戦車道に関する詳しい話をしますから」

 

 

 

母がそう答えると、鷹代さんは「分かった」と小さく呟いて、母と一緒に車を降りる。

 

もちろん、私達も後に続いて旅館へ向かう。

 

すると母の言う通り、旅館の玄関で待っていた女将さん達の案内で「竹の間」に通された。

 

それから5分程が経ち、ようやく私と瑞希達が部屋でリラックス出来た頃だろうか。

 

先程私達を案内した、旅館の女将さんが静かに部屋へ入ると「原園様、お客様が参られました」と母へ告げると同時に、私服姿の少女が3人入って来た。

 

その姿を見た瞬間、私は心底驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『会長…それに小山先輩と河嶋先輩じゃないですか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、部屋に入って来た私服姿の女性3人とは、生徒会のトリオだったのだ。

 

しかも、その表情は先程生徒会長室で私や西住先輩を呼び付けた時とは全く違っていた。

 

3人揃って、深刻な表情をしていたのだ。

 

小山先輩や河嶋先輩はもちろんだが、あの角谷会長でさえ、生徒会長室で見せていたのほほんとした雰囲気は無く、何か思い詰めた表情に変貌していた。

 

…おかしい。

 

あの生徒会室での口論を見た人間なら、私でなくてもそう感じただろう。

 

ここまでの事情を知らされていない、鷹代大叔母さんも何かを察したらしく、角谷会長の顔色を眺めながら表情を引き締めていた。

 

しかし、その場にいた母と瑞希達3人は全く表情を変えていない…やはり、この4人は事前に何かを知っており、ここで今から何が話されるのかも知っているに違いない。

 

そう考えている内に、生徒会の3人が無言で席に着いた。

 

すると母は、鷹代さんに生徒会の3人を紹介した後、皆に「今から話す内容は、一切他言無用でお願いするわね」と念を押してから、角谷会長へこう話し掛けた。

 

 

 

「じゃあ、生徒会長の角谷 杏さん。早速だけど、約束だから嵐に説明してあげて。この学園が何故、今年度になって急に戦車道を復活する事にしたのかと言う『本当の理由』を…」

 

 

 

『本当の理由?』

 

 

 

母の一言で、思わず疑問を発した私に対して、角谷会長はこう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実はね、原園ちゃん…ウチの学校は、今年度一杯で廃校になるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっ!?』

 

 

 

そんな馬鹿な。

 

私はまだ、この大洗女子学園に入学してからそんなに経っていない。

 

いや、状況は瑞希と菫、舞も同じだ。

 

なのに、学園が今年度一杯、つまり来年3月に廃校!?

 

一体どう言う事?…いや待て。

 

ここで、生徒会長室での会話を思い出した私は、副会長の小山先輩へ尋ねた。

 

 

 

『あの、小山先輩…今日、西住先輩と私を戦車道履修の件で生徒会長室へ呼び出した時に「終了です、我が校は終了です…」って言いましたよね。それって、実はこの事だったのですね?』

 

 

 

すると、小山先輩は私の問い掛けが事実であるとあっさり認めた。

 

 

 

「ええ…原園さん、あの時は話す事が出来なくてごめんなさい」

 

 

 

と言う事は、会長の発言は事実と見て間違いない…この時私は、溜息を吐く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

一方、会長と副会長の発言には、同席する鷹代大叔母さんも驚いていた。

 

そして、大叔母さんは静かな口調で、角谷会長へ質問する。

 

 

 

「生徒会長の角谷さんと言ったね。今はまだ4月なのに、いきなり学園が廃校だなんて穏やかな話じゃないね…一体何があったんだい?」

 

 

 

すると、会長は静かにこう語った。

 

 

 

「実は…ウチの学園、生徒数が年々減っているし、近年目立った実績や特筆すべき活動が無いと言う理由で、文科省から廃校にすると告げられたんです」

 

 

 

鷹代さんが小さく頷きながら話を聞いている横で、私は当然の疑問を口にする。

 

 

 

『でも会長、それと戦車道に何の関係があるのですか?』

 

 

 

「うん…その時、私達は文科省に呼び付けられて、担当者から廃校を告げられたのだけど、何とかならないかと思って交渉したんだ。すると担当者が『昔は戦車道が盛んだった様ですが…』と口にしたんだよ。そこで、私はすかさず戦車道を復活させる事を提案したんだ。『全国大会で優勝したら、まさか廃校にはしないよね?』って」

 

 

 

『まさか…それで、戦車道を復活させる事にしたのですか?』

 

 

 

すると、会長は無言で頷いた。

 

その後を受けて、今度は母が会長の代わりに、こう話した。

 

 

 

「嵐、私が生徒会長室で、この学園の戦車道を支援すると決めた時に話した内容、覚えているわね?」

 

 

 

『ええ、それがどうかしたの?』

 

 

 

「実は、その時には隠していた事があったの。大洗町に工場進出する事が決まり、町役場で工場建設の契約書の調印式を終えた後の懇親会で、町長さんから大洗女子学園で戦車道が復活すると告げられたって、生徒会長室で言ったわよね」

 

 

 

『まさか…それは嘘!?』

 

 

 

「あの町長さんの話はね、本当は『原園さんの工場が来てくれて本当に助かります。実は先日、文科省から突然、大洗女子学園を来春までに廃校する事が決定したとの通知が来まして…』だったのよ」

 

 

 

『!!』

 

 

 

「驚いた私は、その場で町長さんに事情を話した上で、生徒会長に会って話を聞きたいとお願いをして大洗の学園艦へ向かったわ。そこで角谷さんから詳しい話を聞いたの…内容は今、角谷さんが話したのと同じよ。そこで、私は廃校回避の為に戦車道を復活させる決意をしたこの学園への支援を決めたのよ」

 

 

 

 

 

 

ここで、今度は鷹代さんが不審そうな表情で、角谷会長へこう尋ねる。

 

 

 

「角谷さん、この学園が廃校になると言うのは、今、文科省が進めている学園艦統廃合計画に伴う話だろうね?」

 

 

 

「はい、そうです」

 

 

 

「その計画、私はよく知っているんだよ。元の仕事柄、県の教育委員会や戦車道連盟の関係者に知り合いがいて、今でも時々、そこから仕事や講演を依頼される事があるからね。確かに、ここ大洗の学園艦は他校の物より旧式で小型だから、以前から統廃合計画のリストの筆頭に挙げられてはいたよ。ただ…」

 

 

 

「『ただ?』」

 

 

 

と、ここで私と角谷会長が偶然ハモって、鷹代さんに尋ねると、こう答えてくれた。

 

 

 

「私が知っている限りでは、大洗の学園艦は『他校との統合や新型艦への移行リスト』の筆頭に挙げられていた。つまり、仮に今の学園艦が老朽化等の理由で近い将来廃艦になるとしても、大洗女子学園自体は他校との統合あるいは現在計画中の次世代学園艦への移転と言う形で存続する前提で議論が進んでいたんだよ。少なくとも私と県の教育委員会、そして大洗町の関係者達はそう認識していた。それが何故、急に廃校になると決まったんだい?」

 

 

 

私は、思わずアッと思った。

 

つまり、この学園の廃校話は、茨城県を始めとする関係機関への根回しが充分出来ていない内に進められていると、鷹代さんは指摘しているのだ。

 

その指摘に対して、角谷会長は当惑した表情で答えた。

 

 

 

「それについては…文科省の担当者からは何も聞かされていません」

 

 

 

そこへすかさず、母が代わりに答える。

 

 

 

「それでね、鷹代さん。私も同じ疑問を抱いて調べてみたの。そうしたら、学園の廃校通知をした担当者の正体は、文科省学園艦教育局長の辻 廉太だって分かったのよ」

 

 

 

その途端、ここまで落ち着いた口調で話をしていた鷹代さんが、血相を変えて叫んだ。

 

 

 

「何だって…あの辻か!?」

 

 

 

その瞬間、私だけでなく生徒会の3人も驚いた表情で鷹代さんを見た。

 

 

 

『大叔母さん、その人を知っているの?』

 

 

 

「知っているも何も、あいつは以前から評判が悪くてね。文科省が進めている学園艦統廃合計画の実質的な責任者だが、あちこちで無理矢理な理由を付けては学園艦を次々と廃校・解体して来た極悪人だよ」

 

 

 

「本当ですか!?」

 

 

 

その発言を聞いた小山先輩が驚いて問い掛けると、鷹代さんは更に詳しい事情を説明した。

 

 

 

「表向きは、過去に作り過ぎた学園艦を解体して全体数を減らす事で、経費削減を図るのが計画の目的なんだが、奴は余りにも強引な手段で廃校を強行し続けていてね。地域によっては廃校になった学園艦の生徒が転校しようにも、対象地域内の学校全てが定員オーバーになってしまって転校さえできず、結果不登校になる生徒が増える等して教育に支障が出ている所もある位だよ。だから裏では『実は学園艦解体業者と癒着して甘い汁を吸っている』なんて噂が囁かれている程なんだ」

 

 

 

「「「…」」」

 

 

 

大叔母さんの話を聞いた生徒会の3人は、一言も発せず、固まっている。

 

 

 

『酷い…』

 

 

 

思わず、私は転校さえままならず、不登校になってしまった生徒の事を思って胸を痛めたが、そこへ母が思わぬ事を話して来た。

 

 

 

「実はね…その辻って役人、私にとってもチョットした恨みがあるのよ」

 

 

 

『恨み?』

 

 

 

「昔の話だけど、私が高校を卒業する時、ある理由から私を妬んでいた戦車道の関係者がいてね。そいつが裏で手を回して、私が推薦入学する予定だった大学に圧力を掛けて推薦枠を潰してしまったの。その時、この戦車道関係者の手足となって影でコソコソ動いていたのが、当時文科省の平役人だった辻だったのよ」

 

 

 

これには私だけでなく、生徒会の3人も唖然とした表情で聞いていた。

 

 

 

「まあ、それがきっかけで私は、偶然来日していたドイツの強豪プロ戦車道チーム・ムンスターのスカウトの目に止まり、メカニックとしてドイツ戦車道プロリーグの世界へ行く事が出来たのだけどね」

 

 

 

まさか…母さんがドイツ戦車道のプロリーグへ加入できた裏に、そんな事情があったとは。

 

これは実の娘にとっても予想外だった。

 

 

 

「だから、その話を聞いた時…私は奴に仕返しをするチャンスが来たと思ったわ。しかもそいつが直之さんの故郷を無くそうと企んでいると知れば、尚の事よ」

 

 

 

 

 

 

ここで、ようやく話の筋が何となく分かってきた私は、母に問い掛ける。

 

 

 

『つまり…』

 

 

 

「私が戦車道を復活させた大洗女子学園を支援する事にした理由は3つ。1つ目は、大洗の戦車道が復活したら力になりたいと言っていた直之さんの遺志を継ぐ為。2つ目が直之さんの故郷であるこの学園艦を守る為。そして3つ目は、かつて私に嫌がらせをした一味の1人でもある辻 廉太へ、ちょっとした復讐をする為よ♪」

 

 

 

『それって…まさか!?』

 

 

 

「そうよ、嵐。このままだとお父さんの故郷が無くなってしまうわ…来春にはね。もちろん、この大洗の学園艦は老朽化でいずれは解体されるでしょうけれど、新しい学園艦に学園が引き継がれるのなら、私もまだ納得できるわ。でも跡形も無く消えてしまうだなんて、正直許せない」

 

 

 

『……』

 

 

 

「だったら、例え1%以下の可能性であっても戦車道に賭ける決意をした角谷さんに手を貸すべきだと決断したの」

 

 

 

『じゃあ…母さんが私を戦車道へ引き摺り戻そうとした、本当の理由は…』

 

 

 

「そうよ、嵐。あなたの大好きだったお父さんの故郷を守る為には、あなたも戦わなければならない。戦車道に戻る事でね」

 

 

 

そして、話を締め括る様に角谷会長がこう告げた。

 

 

 

「うん…私達が目指すのは、今年の第63回戦車道全国高校生大会を制覇する事。それ以外に、この大洗女子学園を廃校から守る方法は無いんだよ」

 

 

 

『そんな…!!』

 

 

 

 

 

 

その瞬間、私の脳裏に優しかった父さんの面影が鮮明に思い出された。

 

戦車道へ戻らなければ、戦わなければ…大好きだった父さんの故郷が消えてしまう。

 

そして、戦いを避ける余地は全く無い。

 

真相を知った私は、目の前が真っ暗になった……

 

 

 

 

 

 

だが、その時突然、瑞希が母へ話し掛けて来た。

 

 

 

「明美さん、私からも嵐へ話をして良いですか?」

 

 

 

母は瑞希の話を聞くと頷いたので、私は恨みがましそうな声で瑞希に問うた。

 

 

 

『何よ、瑞希?』

 

 

 

「私、鷹代さんの家を出る前に『実を言うと私達、今回の件で明美さんから頼まれなくてもアンタと一緒の高校へ進学するつもりだった』って言ったよね。あれは嘘でも何でもないわよ」

 

 

 

『どう言う事?』

 

 

 

「去年の秋、アンタが戦車道から引退するって聞いた時から、ずっと考えていた。『これで本当に良いのかな?』って…そして、私は結論を出した。『このままじゃ嫌だ』って」

 

 

 

『なっ…!?』

 

 

 

「嵐は覚えている? 私がアンタと一緒に戦車道をやるって決めた日の事を」

 

 

 

『私とアンタが小学校入学を控えていた冬の日よね…確か、母さんの前で「一度でもいいから、嵐ちゃんの前を歩いてみたい」って、私への挑戦みたいな事を言っていたよね?』

 

 

 

「その気持ちは今でも変わらないわ…嵐は幼稚園の頃から常に私の一歩前を歩んでいて、私は、それが羨ましかった…その思いは嵐と一緒に戦車道をやって来て、確信に変わったわ。嵐は私には無いモノを持っている。それはある意味天性の才能と言って良い位の資質で、特に戦車道で強い力を発揮する。本人は自覚していないけどね」

 

 

 

『……』

 

 

 

「でも、そんな凄い力を持っている嵐が、戦車道を辞めるって現実に私は耐えられなかった…まだ、私は戦車道で嵐の前に出たって自覚は無いから。だから私は、菫と舞に相談して『嵐と一緒に大洗へ進学しよう』って決めたのよ。大洗に戦車道が無いなら、自分達がそれを作れば良いってね」

 

 

 

『…!!』

 

 

 

無いなら、作れば良いと言う瑞希の発想に、私は強烈な衝撃を受けた。

 

すると、菫が私へこう語りかけた。

 

 

 

「私も、嵐ちゃんがこのまま戦車道辞めちゃうのは良くないって思ったの…だから瑞希から話を聞いた時、一緒に大洗を受験しようって決めた。豆戦車が1輌でもあれば高校戦車道の公式戦は無理でもタンカスロンで腕を磨けるじゃない。実際そうやって実業団や海外のプロチームに入団した戦車乗りだっているんだよ」

 

 

 

続いて、舞も目に涙を浮かべながらこう訴える。

 

 

 

「私も、嵐ちゃんと一緒でないと戦車道が面白くないよ…だから嵐ちゃんを追いかけようって決めたの!!」

 

 

 

そして、母が3人の思いを受け継ぐ様に、こう話した。

 

 

 

「で、私が大洗の戦車道を支援すると決めた後、大洗には戦車道の経験者がいないから、嵐だけでなく誰かをみなかみタンカーズから連れて来ようと思った時、瑞希ちゃん達がそう訴えてきたの。だから、私はすぐに角谷会長へ彼女達を推薦したわ」

 

 

 

それに続いて、角谷会長がこう語る。

 

 

 

「でね、明美さんからのオファーを聞いた私は、直ちに学園長に掛け合って、野々坂ちゃん達が推薦入試を受けられる様に手を打った訳。幸い、推薦入試のスケジュールに問題は無かったから、3人は他の受験者と一緒に推薦入試を受けて、結果はもちろん全員合格。それで、何の問題も無くウチの学園に入学できたんだよ」

 

 

 

こうして、ようやく瑞希達が入学した理由を知った私は、疲れ果てた表情でこう答えた。

 

 

 

『瑞希、菫、舞…私は、こんなにも大馬鹿な親友を持って幸せよ…』

 

 

 

もっとも、嫌でたまらない戦車道の世界へ戻らなければならなくなった私自身は、少しも幸せでもなければ嬉しくもなかったが。

 

 

 

 

 

 

そして、大して美味しくもない夕食の焼肉を食べた、翌日。

 

大洗女子学園で復活が決まった、戦車道の最初の授業が始まる。

 

 

 

 

 

 

そして余談だが。

 

母は私が失神している間に、私のスマホに録音してあった生徒会長室での生徒会との口論の記録を消去していた。

 

…ムカつく!!

 

 

 

(第8話/終)

 

 

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第8話をお送りしました。

今回、嵐に明かされた大洗女子学園・戦車道復活の理由。
もちろん、ガルパンファンの皆様ならご存知の話ですが、本作では設定の細部を膨らませてみました。
この要素がどう言う効果を挙げるか、私も見通せてはいませんが、見守って頂ければ幸いです。

それでは、次回をお楽しみに。


【緊急・4/16追記】
今回、この第8話に関する、ある方からの感想を読んで、作者としてはストーリーの説明不足を感じましたので、次回の投稿は予定を変更して、明美さんサイドの番外編を作る事にしました。
急遽話を作る事になりますので、時間が掛かりますが、しばらくお待ち頂ければ幸いです。
この為、次回(第8.5話となります)の投稿は未定とさせて頂きます。

以上、どうかご了承下さい。
【6/5追記】 第8.5話、5/13に投稿しております。


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