戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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遂に通算(番外編等を含む)で100話達成しました…でも、話が終わる気配が無い(絶望)。
其れでも、最悪此の全国大会決勝戦迄は書き上げる心算ですので、宜しく御願いします。
其れでは、どうぞ。



第91話「決勝戦・波乱のスタートです!!」

 

 

 

「此れより決勝戦だ。相手は初めて対戦するチームだが、決して油断はするな」

 

 

 

試合開始直前、大洗女子学園戦車道チームのメンバーが夫々の戦車に乗り込んでいた頃、対戦相手の黒森峰女学園戦車道チームはメンバー全員が戦車に乗り込んだ状態で、西住 まほ隊長から出撃前最後の訓示を聞いている。

 

其の中の1輌・パンターG後期型中戦車の車内では、戦車長を務める2年生・赤星 小梅が決意を新たにしていた。

 

 

 

「相手はみほさんが率いるチーム…言われなくても油断禁物!」

 

 

 

と小声で呟く彼女は、先程対戦相手の隊長で去年の決勝戦では乗車していたⅢ号戦車J型毎川に落ちて水没と言う危機から命を助けて貰った元副隊長・西住 みほに“あの時、言えなかった御礼”を述べたばかりだが、試合に関しては一切手を抜く心算は無かった。

 

 

 

「大洗女子の廃校問題を知っているからこそ…逆に負けたくない!其れに此処迄の大洗女子の試合の録画を随分見て来たけど、みほさんのチームは凄く良く纏まっていて“強い”と思う」

 

 

 

そして彼女の脳裏に浮かぶのは、みほと一緒に居た“()()()()()()()”の笑顔。

 

 

 

「其れに、さっき声を掛けて来た原園さんも凄く良い顔をしていた…彼女、昨日の合同インタビューでは“黒森峰をボコボコにする”と言って、チームの皆はからかい半分で“面白い()が出て来た”と話して居たけれど、彼女は本気かも知れない!」

 

 

 

そう考えた小梅は「だから、彼女達を甘く見ていたら返り討ちにされるだろうから、気を付けないと!」と思いつつ、改めて気持ちを引き締めて居ると再び無線からまほ隊長の声が聞こえて来た。

 

 

 

「先ずは迅速に行動せよ」

 

 

 

其の声に、チームには2輌しか無いティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の戦車長も兼務する逸見 エリカ副隊長が……

 

 

 

「先手必勝・先制攻撃…やってやるわ!」

 

 

 

と闘志剥き出しの表情で呟く中、無線からはまほの声が響いている……

 

 

 

「グデーリアンは言った。“厚い皮膚より速い足”と」

 

 

 

其の言葉にエリカや小梅だけで無く、黒森峰女学園戦車道チーム隊員の大半が頷く中、1年生乍ら副隊長補佐兼パンターG後期型中戦車の戦車長を務める五代 百代だけは遣り切れない声で……

 

 

 

「私達のチームには鈍重な重戦車や重駆逐戦車が多いのに“速い足”だなんて…!」

 

 

 

と呟いたが、其の後首を数回横に振ってから覚悟を決めた表情を浮かべつつ、心の中でこう叫んだ。

 

 

 

「でも試合が始まる以上、此処から先は全力を尽くすだけ!」

 

 

 

其処へ無線機から、まほが「行くぞ!」と指示が出た直後、試合会場上空に“ドーン!”と“試合開始を告げる号砲”が複数鳴り響く…そして!

 

 

 

 

 

 

「「Panzer vor(パンツァー・フォー)(戦車前進)!」」

 

 

 

 

 

 

奇しくも西住 まほとみほ、対戦校の隊長を務める姉妹が同時に出撃命令を下して試合が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第91話「決勝戦・波乱のスタートです!!」

 

 

 

 

 

 

「“第63回戦車道高校生全国大会”決勝戦『熊本県代表・黒森峰女学園対茨城県代表・大洗女子学園』、只今、試合開始の号砲が鳴り響きました!」

 

 

 

実況席から此の試合の実況を担当する首都テレビアナウンサー・加登川 幸太が試合会場やライブビューイング会場に詰め掛けて居る観客だけで無く、全国の御茶の間でTVを見ている視聴者に対しても呼び掛けると同時に、首都テレビの実況カメラが超満員状態の大洗女子学園側・応援席の様子を映し出す。

 

勿論、其の映像の中には大洗女子学園・中等部4人組(詩織・華恋・由良・光)や秋山 淳五郎・好子(優花里の両親)夫妻、更には華恋の従姉で“あんこうチーム”砲手・五十鈴 華の母・百合と五十鈴家の奉公人・新三郎に加えて、冷泉 麻子の祖母・久子や彼女の親友で原園 嵐の大叔母・鷹代の姿も有った。

 

更に、彼女達と共に大洗女子の応援をしている一般人の姿が映し出されると、其の中に中等部4人組の友人である社会人の女性・古鷹 晶海や彼女が普段所属している水戸を始めとする各地の“J”のチーム・サポーター軍団の姿も映し出されている…其処へ、先程“国歌・君が代”斉唱を終えた“大洗のアイドル”磯前 那珂が中等部4人組や彼女の両親が勤めている“児童養護施設”で暮らしている子供達が居る応援席へやって来た姿も映し出された。

 

此の後、映像が黒森峰女学園側の応援席に切り替わってから実況席に戻ったタイミングで、加登川アナウンサーが実況を再開する。

 

 

 

「其れでは両チームが激突する迄の間、少々時間が有りますので、此処で本日の実況席のメンバーを御紹介しましょう。先ず、解説は旧ソ連製戦車だけでは無くドイツ製戦車や無名の中小国製戦車にも御詳しい戦史研究家兼戦車道解説者の斎森 伸之さんと、イタリア製戦車だけでは無く旧ソ連・ドイツ・日本製戦車にも御詳しいイタリア軍専門家・吉山 和則さんのダブル解説で御送り致します」

 

 

 

其れに対して斎森が「宜しく御願いします」と挨拶した後……

 

 

 

「如何も、イタリア製戦車だけじゃない戦車専門家の吉山です(笑)」

 

 

 

と、吉山が御道化た声で挨拶をして試合会場内の観客やTVを見ている御茶の間の視聴者から笑いを取った処、加登川アナウンサーも苦笑いを浮かべつつ「改めまして宜しく御願いします」と答えた後……

 

 

 

「そして、本日は決勝戦に相応しく“素敵なゲスト”にも御越し頂きました」

 

 

 

と前置きして、実況カメラが2人の解説者の後方に座っている3人の女性アイドル達へ向けられたタイミングで再び喋り始めた。

 

 

 

「御紹介しましょう。今大会のテーマソングを歌っている“トライアドプリムス”のメンバー・渋谷 凛さん、神谷 奈緒さん、北条 加蓮さんです!」

 

 

 

すると紹介された3人が一斉に「「「宜しく御願いします!」」」と挨拶した後、加登川アナウンサーが「其れでは早速ですが、先ず渋谷さんは本大会2回戦の“大洗女子学園対アンツィオ高校”戦にもゲストとして御越し頂きましたが、此の決勝戦はどの様な点に注目していらっしゃいますか?」と問い掛けた処、凛は元気良く……

 

 

 

「はい…勿論、最後迄大洗女子を応援したいです!」

 

 

 

と答えた為、加登川アナウンサーは「成程、渋谷さんは大洗推しと言う事ですか。其れでは神谷さんは如何でしょうか?」と話を振った処、奈緒は……

 

 

 

「私もです!実は先日の準決勝の対プラウダ戦、“全国ローカルアイドルバトル”決勝戦が終わった後から見ていたのですが、其のイベントで優勝した磯前 那珂ちゃんや凛に加蓮達と一緒に見て居て、最後は皆で泣きましたから、今日は大洗が勝って此の試合を見ている全国の皆が笑顔になって欲しいです!」

 

 

 

と答えたので、加登川アナウンサーは「今日は黒森峰を応援する方々も居られると思いますので、私としては少々複雑な気持ちですが、やはり廃校阻止が掛かっているだけに大洗を応援したいと言う気持ちは良く分かります」と告げた為、奈緒と凛は口を揃えて「「黒森峰を応援している皆さん、御免なさい!」」と黒森峰を応援する人達へ向けて謝罪する中、加登川アナウンサーが……

 

 

 

「そして北条さん。此の試合の注目点について、一言御願いします」

 

 

 

と加蓮に向けて問い掛けた処、彼女は元気の良い声で……

 

 

 

「はい!黒森峰の西住 まほ隊長と大洗女子の西住 みほ隊長と言う、互いに隊長を務める“西住流の姉妹”がどんな作戦で戦うのか、楽しみにしたいと思います!」

 

 

 

と答えた後、TVカメラ目掛けてポーズを決め乍ら……

 

 

 

「と言う訳で、此の試合を見ている皆さん!Panzer vor(パンツァー・フォー)(戦車前進)!』

 

 

 

と声を掛けた処、解説者の斎森が……

 

 

 

「あれっ!? 北条さんの声、大洗女子の西住 みほ隊長にそっくりじゃないですか!」

 

 

 

と驚きの声を上げた為、其れを聞いていた凛が苦笑いを浮かべつつ「加蓮、最近彼女(みほ)の声真似にハマっているんですよ♪」と答える。

 

すると奈緒も笑顔で「しかも此の声真似、346プロダクションの後輩達にも大ウケなんです!」と答えた結果、ネット掲示板やSNSでは“加蓮による「西住 みほ隊長の声真似」”が見事にバズり、複数の掲示板やSNSのサーバーがダウンする騒ぎになった。

 

 

 

 

 

 

一方、試合会場からやや離れた場所では、大会の実況中継を担当する“首都テレビ”の中継部隊が様々な中継用車輌を持ち込んで実況中継に必要な作業を行っている。

 

其の中核で有る「中継指揮車」の車内では“ヤクザの若頭の様な、サングラスを掛けたパンチパーマの男”こと、本大会の実況中継の総合プロデューサー・八坂 信夫が十人程のスタッフを率いて実況映像の編集・放送作業を行い乍ら、口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。

 

 

 

「プロデューサー、上機嫌ですね?」

 

 

 

そんな彼の様子を見た若手の編集担当スタッフが声を掛けた処、彼は苦笑いを浮かべつつ「そうでも無いさ……」と返した後、こう語る。

 

 

 

「只、大洗女子と黒森峰と言う“本大会の大一番”を全国へ生中継出来るのはテレビマンとして冥利に尽きるし、そうで無くても大洗女子の廃校問題の件で日本中から注目されている試合だ。こっちも楽しみ乍ら仕事をしないと視聴者も楽しめないだろ?」

 

 

 

其の言葉に編集担当スタッフが「はい!」と答え乍ら頷くと、八坂の片腕的存在である“首都テレビ一のベテラン”で、此の実況中継ではチーフディレクターを務める大滝 秀次がこう返す。

 

 

 

「“高校戦車道界の絶対王者・黒森峰復活”か、其れ共“廃校阻止を目指す大洗女子のシンデレラストーリーがハッピーエンドで完結する”か…どっちに転んでも、此の大会の結末を見逃す様な視聴者はそう居ないと思うぞ」

 

 

 

彼の言葉にスタッフ達も頷くが、其の中で1人だけタイムキーパーを務める女性スタッフが心配気な声で……

 

 

 

「でも、両者の戦力差は圧倒的…大洗女子に勝機は有るのでしょうか?」

 

 

 

と問い掛けて来た処、八坂は再び苦笑いを浮かべつつ「其ればっかりは、大洗女子の健闘を祈るしかないな……」と返した後、少し考えてからこう答えるのだった。

 

 

 

「まあ、舞台は整った。後は両チームの戦い振りを余す事無く全国へ届ける事に集中しよう」

 

 

 

 

 

 

そんな感じで、全国の御茶の間や試合会場内が首都テレビによる実況によって盛り上がっている中、試合会場の応援席から少し離れた場所では……

 

 

 

「あっ、居た居た♪“しぽりん(しほ)”、そんな場所で1人寂しく観戦してないでこっちへ御出でよ♪」

 

 

 

原園 嵐の母・明美が“しぽりん”こと西住 しほ・西住流戦車道師範へ向けて明るい声で呼び掛けると……

 

 

 

「“あけみっち( 明美 )”…御前の御祭り好きな性格は相変わらずだな」

 

 

 

右手に串が刺さったイカ焼き、左手には御土産らしき紙袋を提げた明美の姿を見たしほが呆れ声で答えるが、彼女は悪びれない笑みを浮かべた儘……

 

 

 

「“ながもん”や“()っちゃん”も来ているわよ!」

 

 

 

と返した為、しほが彼女の背後に視線を向けると…其処には周防 長門(ながもん)とアンツィオ高校の“マルゲリータ”こと大姫 鳳姫の母・龍江(たつえ)が来ていた。

 

そんな2人をしほは睨み付けるが、其れに対して長門が「誤解するな。別にみほちゃんの件で喧嘩をする心算で来たんじゃ無いぞ」と返した後、こう告げた。

 

 

 

「同窓会って訳じゃないが、去年の黒森峰OG総会以降、会える状況じゃ無かったからな…其れにしほ、御前とは色々と腹を割って話したい事も有る」

 

 

 

其れに続けて、龍江も御道化た声で「ウチもや……」と告げた後、不敵な表情を見せ乍ら「此処最近の黒森峰の動きに関しては、ウチの方にも色々と情報は入って来ているんやで」と言った為、しほが怪訝な表情を浮かべていると明美があっけらかんとした声でこんな事を語り出した。

 

 

 

「あっ、そうそう…さっき母校の後輩の氷室 真波さんと鬼塚 瑠奈さんが挨拶に来ていたわ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

其の話を聞いたしほの心に動揺が走る中、龍江が補足説明をする。

 

 

 

「確か、去年の春に黒森峰PTAの策謀で機甲科から普通科に編入されそうになった桐島って()をドイツへ戦車道留学させた件で“ながもん(長門)”に御礼を言っとったなあ」

 

 

 

其れに対して長門は頷きつつ、こう述べた。

 

 

 

「あの件は話が酷過ぎたから、伊勢美伯母様に事情を説明した上で伯母様が理事長を務める“周防記念財団”の“戦車道留学生・奨学金制度”を使ってドイツ留学をさせたんだ…しほも其の話は知っているだろう?」

 

 

 

此処で当時を思い出したしほは、顔を真っ赤にし乍ら「知っているも何も…あの件で去年のPTA年度末総会が荒れたんだぞ!?」と吠えたのだが、其れに対して長門は澄まし顔で一言……

 

 

 

「正確には富永PTA会長が私に向かって怒鳴り散らしただけだったがな」

 

 

 

と返して見せた。

 

するとしほは呆れ顔を浮かべつつ「そんな訳無いでしょ!」と抗弁した後……

 

 

 

「彼女の普通科への転入が決まった後でドイツ留学だって長門が言い出したから、後始末が大変だったのよ!」

 

 

 

と怒鳴り返したのだが、其処へ龍江が「そやけど、黒森峰PTA会長の富永は他にも()()()()に手を出しとるみたいやな?」と話し掛けて来た為、長門が頷きながらこう返す。

 

 

 

「ああ。如何やら例の文科省の役人()とグルになって、何かをやらかしている疑いが有るんだ…未だ詳細は不明だが、下手をしたらPTA会長を辞任させないと学園や西住流も火の粉を被るかも知れん」

 

 

 

「何ですって!?」

 

 

 

長門からの“爆弾発言”を聞かされたしほが衝撃を受ける中、其の様子を眺めて居た明美が「まあ、其の辺の事は追々話すとして……」と話を区切った処で、彼女はしほに向けてこう言ったのである。

 

 

 

「先ずは、もっと()()に近い場所から試合観戦をしましょうよ?其の方が“戦車道の今”を知る事が出来るわよ」

 

 

 

と言う訳で、しほは不承不承乍ら明美達と一緒に応援席の一角へ向かう事となったのである。

 

 

 

 

 

 

「此方は“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”。207地点迄あと2㎞。今の所、黒森峰の姿は見えません。ですが皆さん油断せず、気を引き締めて行きましょう。交信終わります!」

 

 

 

『あっ!武部先輩、今のはプロっぽい喋り方に変わっていたなぁ!』

 

 

 

試合開始直後、大洗女子学園戦車道チームは黒森峰戦車道チームの位置を捜索するべく、仲間達の戦車と共に傘型隊形を組んで進撃中である。

 

そんな中、私達“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”に備え付けの無線機から隊長車兼此の試合のフラッグ車である“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”の通信手・武部 沙織先輩の指示が聞こえてきた際、其の流れる様な声に感嘆した私は思わず声を上げたのだが、其れに対してチームの砲手兼私の相棒・野々坂 瑞希(ののっち)から……

 

 

 

「全然」

 

 

 

と“容赦の無いツッコミ”が入った為、思わず私は……

 

 

 

『うわっ…其れ、酷過ぎない?』

 

 

 

(たしな)めたが、其れに対して彼女は……

 

 

 

「だって、()()()()()()()だし」

 

 

 

と“ぶっ飛んだ大ボケ”を返して来たのだ。

 

其の為、2人の会話を聞いた“ニワトリさんチーム”の仲間達(菫・舞・良恵)が一斉に……

 

 

 

「「ぷっ…アハハ!」」

 

 

 

と噴出した為、私もつい『アハハ……』と笑い掛けた時。

 

 

 

『ハッ!』

 

 

 

前方から3時方向に在る森の中から“鋭い光”が複数見えた!

 

其の意味に気付いた私は無線で“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”へ向けて叫ぶ!

 

 

 

『西住隊長、3時方向・林の中より砲撃を確認!』

 

 

 

すると“あんこうチーム”のⅣ号戦車H型仕様の周囲に砲弾が着弾し、林の方からはティーガーⅠ重戦車を始めとする黒森峰の重戦車軍団が次々に現れて一斉砲撃を仕掛ける光景が目に入った。

 

其処へ各車から無線が……

 

 

 

「何っ!」

 

 

 

「いきなり、何これ!?」

 

 

 

カメさんチーム(38(t)/ヘッツァー改)”装填手の河嶋副隊長と“うさぎさんチーム(M3中戦車リー)”リーダー兼戦車長の梓から悲鳴が入る中、“カモさんチーム(ルノーB1bis)”リーダーの園先輩(ソド子)からも……

 

 

 

「何よ、前が見えないじゃない!」

 

 

 

と文句を言われる中、再び河嶋副隊長が私達に向けて「森の中をショートカットして来たのか!」と叫んだ為、私も……

 

 

 

『どっちかと言うと1940年のフランス電撃戦と言うよりは、1944年のバルジの戦い*1の時のパイパー戦闘団*2ですけどね!』

 

 

 

と返したのだが、其の時“イージーエイト(M4A3E8)”の車内では、副操縦手の良恵が……

 

 

 

「此れが…西住流!?」

 

 

 

と絶句する中、舞があっけらかんとした声で「流石は黒森峰、砲撃は熾烈だね」と返し、更に菫が「まあ、他のチームの皆は驚いているだろうな」と、此れ又良恵とは対照的に余裕たっぷりの声で答えて来た。

 

其処へ瑞希も「当たらなければ如何と言う事は無いわ。嵐、援護しましょう!」と、まるで何処かの“赤い彗星”みたいな進言をした為、私も『そうね!』と返した処、其の様子を眺めて居た良恵は唖然とした声で……

 

 

 

「皆…肝が据わっているなあ」

 

 

 

と答えたら、舞が明るい声で「そりゃあ、私達は去年の中学生大会決勝戦で経験済みだし♪」と返した処で、無線機から西住隊長が……

 

 

 

「各車輌、出来るだけジグザグに動いて前方の森に入って下さい!」

 

 

 

との指示が来た為、私は『皆、聞いたわね!』と車内無線で仲間達に告げた後、改めて指示を出した。

 

 

 

『先ずはジグザグ運動で前方の森へ入りつつ、瑞希はチャンスが有ったら援護射撃!』

 

 

 

其れに対して仲間達が「「了解!」」と返事をしたのを聞いた私が後方を向いた時……

 

 

 

『あっ!』

 

 

 

チームに襲い掛かる危機に気付いた私は声を上げる。

 

先頭を行く隊長兼フラッグ車“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”を狙う黒森峰のティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の姿が微かに見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

一方、此の試合で先手を取る形になった黒森峰女学園・戦車道チームでは……

 

 

 

「全車輌、一斉攻撃!」

 

 

 

逸見 エリカ副隊長の命令で大洗女子の戦車隊を一網打尽にすべく猛砲撃を開始していた。

 

実は試合開始直前に西住 まほ隊長がチーム全員に下した指示……

 

 

 

「先ずは迅速に行動せよ」

 

 

 

「グデーリアンは言った。“厚い皮膚より速い足”と」

 

 

 

の真意こそ“フィールド内に在る林をショートカットして時間と距離を稼ぎ、大洗女子の予想よりも早い段階で攻撃を開始する事で序盤の主導権を握る”と言う作戦構想であり、結果として“西住流姉妹対決”の序盤は姉のまほが先手を取った形だ。

 

只、砲撃は未だ始まったばかりであり、此処から黒森峰は大洗側の戦車を着実に撃破しないと先手を取った意味が無い。

 

其の事を良く知っている副隊長補佐の五代 百代は無線で「全車、しっかり狙いなさい!相手も必死だから、単に撃つだけじゃあ当たらないわよ!」と指示を出してチームを引き締めている。

 

隊長のまほは其の様子を見守りつつ、戦場全体の状況把握に努めていた…西住流戦車道では本来、隊長クラスが前線に出て戦うのは原則として緊急時に限られており、試合中は指揮下の戦車が上手く戦える様に大局的な見地から指示を出すのが基本である。

 

一方、副隊長のエリカが駆るティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の車内では……

 

 

 

「前方、2時方向に敵フラッグ車を確認!」

 

 

 

照準用眼鏡で前方を監視していた砲手が宿敵・みほの駆る大洗女子フラッグ車・Ⅳ号戦車H型仕様(あんこうチーム)の姿を捕捉したとの報告を受けたエリカは「よしっ、照準を合わせろ!」と号令を掛けると、砲手は彼女の期待通りの素早いタイミングで……

 

 

 

「照準良し!敵フラッグ車に合わせました!」

 

 

 

と答えて来た為、エリカはせせら笑い乍ら心の中で……

 

 

 

「1発で終わらせてあげるわ!」

 

 

 

と“下衆な科白”を呟いた…正に其れは、前回大会からのみほとの因縁を最高の形で返せるとの確信が有っての事だった。

 

 

 

其処へ装填手から「装填完了!」との報告を聞いたエリカは気合を入れて……

 

 

 

「よしっ、撃てっ!」

 

 

 

と号令を下した……

 

 

 

 

 

 

『菫!直ちに“あんこう(Ⅳ号戦車H型仕様)”の後方に付いて!黒森峰のティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)の射線に割り込む!』

 

 

 

西住隊長率いる隊長兼フラッグ車(あんこうチーム)の危機に気付いた私は直ちに操縦手の菫へ号令を掛けたが、其処へ瑞希が大声で……

 

 

 

「嵐、其れはヤバいんじゃないの!?」

 

 

 

と伝えて来た。

 

当然“こっちがやられるのを覚悟で隊長車を庇うのか!?”と言いたいのだろうが、私は既に覚悟を決めていたので、直ぐ様……

 

 

 

『そんな事を言っていられないでしょ!“あんこう(Ⅳ号戦車H型仕様)”は絶対にやられる訳には行かないのよ!』

 

 

 

と言い返した処、瑞希だけで無く菫・舞・良恵からも……

 

 

 

「「うっ!?」」

 

 

 

と言葉を詰まらせる声が車内に響いて来た。

 

そう…選択の余地は無いのだ。

 

何故なら、戦車道全国高校生大会のルールは“フラッグ戦”。

 

つまり、此の試合はフラッグ車である“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”を撃破された瞬間に大洗女子学園の敗北と今年度限りの廃校が決定するのだ。

 

そうである以上、此の場は私達が犠牲になっても“フラッグ車の盾”になるしかない。

 

 

 

『之迄か…でも、此処で西住隊長をやられる訳には行かない!』

 

 

 

勿論、私とて大事な試合の序盤で撃破されるのは不本意だが、隊長とチームの危機を救う為には…と覚悟を決めて居た時。

 

 

 

『えっ…あれっ!?』

 

 

 

予想外の異変が起こった。

 

突如、私の目の前に1台の戦車が“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”を庇おうとした私達“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”の真後ろに入り込んだかと思うと黒森峰のティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)が放った71口径88㎜徹甲弾を喰らって、激しくスピンをし乍ら戦場を離脱して行ったのだ。

 

 

 

『一体、誰が?』

 

 

 

余りの出来事に状況の整理が追い付いていない私が戸惑っている中、私達の代わりに犠牲になった戦車の正体に気付いて悲鳴を上げたのは、装填手の舞だった。

 

 

 

「あれは“アリクイさんチーム(三式中戦車)”!」

 

 

 

 

 

 

実は此の時、大洗女子の“アリクイさんチーム(三式中戦車)”の車内では()()が起きていた……

 

 

 

「ギア硬ぁー、入んない!」

 

 

 

操縦手のももがーが、中々動かない変速機のレバーを押したり引いたりし乍ら悲鳴を上げていた。

 

其れに対して、チームリーダーで戦車長兼通信手でもあるねこにゃーが「ゲームだと簡単に入るのに!」と焦る中、装填手兼砲手のぴよたんがチームの皆を鼓舞する様に叫ぶ。

 

 

 

「皆、落ち着くっちゃ!此の日の為に“ニワトリさんチーム”の二階堂()さんと一緒に筋トレして来た成果を見せるっちゃ!」

 

 

 

そう…実はオンライン戦車ゲーム仲間で編成された“アリクイさんチーム(三式中戦車)”は日頃から運動不足気味である為、実際の戦車を動かす際に必要な体力面で問題が有る事が戦車道の訓練の中で露呈。

 

其の為、大洗女子の戦車道履修生の中では一番フィジカルトレーニングの経験を積んでいる“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”装填手・二階堂 舞の元で短期間乍ら集中的な特訓を行っていたのだ。

 

勿論、絶対的な訓練期間が短かった所為で付け焼刃の感は否めなかったものの特訓の甲斐あってか、決勝戦前日最後の練習で“アリクイさんチーム(三式中戦車)”のメンバーは隊長のみほから“何とか戦車を動かせるだけの体力と持久力を確保出来ていると思います”との評価を受けて、此の決勝戦に出場する事が叶ったのだ。

 

其の特訓の日々を思い出したねこにゃーが気合の入った声で「そうだにゃ!」と叫ぶとももがーが「じゃあ行くよ!」と叫んだ後、此方も気合が入った声で……

 

 

 

「せーのー!」

 

 

 

と叫ぶと同時に変速レバーを引いた時!

 

 

 

“ボキッ!”

 

 

 

と嫌な金属音が響き、其の後に起きた状況に気付いたももがーが仰天した声で……

 

 

 

「…って、ええっ!」

 

 

 

と悲鳴を上げた瞬間、ねこにゃーとぴよたんが絶望的な声で……

 

 

 

「「変速レバーが…折れた!」」

 

 

 

と叫ぶが、其処へももがーが大声で“更にトンデモ無い事”を叫んだのだ!

 

 

 

「しかも、バックギアに入っちゃった!」

 

 

 

「「ええーっ!」」

 

 

 

斯くして、バックギアに入った儘変速機の操作が出来なくなった“アリクイさんチーム”の三式中戦車は、乗員3名の悲鳴を余所に全速力で後進を続けた結果……

 

 

 

「「うわーっ!」」

 

 

 

偶然とは言え、西住 みほ達“あんこうチーム”のⅣ号戦車H型仕様の後部を狙っていた黒森峰の副隊長・逸見 エリカが駆るティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の射線上を横切った為に……

 

 

 

「大洗女子学園・三式中戦車、行動不能!」

 

 

 

あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”は勿論の事、同チームを庇おうとした“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”の身代わりとなる形でティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)が放った88㎜徹甲弾を車体真後ろに被弾した後、白旗を揚げたのだった。

 

 

 

(第91話、終わり)

 

*1
尚、1940年のフランス電撃戦と1944年のバルジの戦いの舞台は、共にベルギーに在るアルデンヌの森である。

*2
1944年12月の“バルジの戦い”の際、SS第1戦車連隊長ヨアヒム・パイパー(1915年生―1976年没)ドイツ武装SS中佐が率いた臨時編成の機甲部隊。ティーガーⅡ重戦車、パンター中戦車等を装備する有力な部隊だったが、守備する米軍部隊の善戦と燃料不足等で敗北、ほぼ全ての車輌と重装備を放棄して退却した。





此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第91話をお送りしました。

今回は色々と展開が重なったので、難産でしたが…次回もきっと難産だな、うん(オイコラ待て)。
ネタとフラグは色々と仕込んでいますが、正常に機能するか如何かは分かりません(オイ)。

其れでは、変に短い後書きになりましたが、次回をお楽しみに。

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