戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
と言うか、段々大洗女子の面々が芸人化しつつあって困る(笑)。
と言う訳で、決勝戦も本格的なスタートです。
其れではどうぞ。
「大洗女子学園・三式中戦車、行動不能!」
第63回戦車道高校生全国大会・決勝戦『熊本県代表・黒森峰女学園対茨城県代表・大洗女子学園』の試合会場で在る陸上自衛隊・東富士演習場内の観客席へ向けて場内アナウンスが鳴り響き、大洗女子学園が黒森峰女学園に先制された事を知った大洗側観客席から悲鳴が上がる。
一方、観客席前に設置された超巨大モニターからは“
しかし、先制攻撃に成功した筈の黒森峰女学園戦車道チーム・副隊長の逸見 エリカは悔し気な声で……
「…くっ!」
と悪態を吐く。
実は彼女、試合開始直後の遠距離狙撃によって“宿敵・西住 みほが駆る
しかし、彼女の思惑は狙っていたⅣ号戦車H型仕様の前に大洗女子学園のエース・原園 嵐が駆る“
其れでもエリカは「“黒森峰をボコボコにする”と公言した生意気な下級生エースを倒せるチャンス!」と思い直して発砲を命じたが、何と其の直後に
此の結果に焦るエリカに対して、一部始終を見ていた副隊長補佐の五代 百代が無線で話し掛ける。
「逸見副隊長、焦っちゃあ駄目ですよ!試合は始まったばかりですから!」
其れに対して、エリカは「分かっているわ!」と返答したが、百代は彼女の声が上擦っているのに気付き、心の中で心配気に呟く。
「幾ら何でも、遠距離狙撃で
百代は“何時もの逸見副隊長なら相手に思い切り近付いてから必殺の一撃を見舞う筈だし、其れが先輩本来の持ち味だ”と思っているだけに、難易度の高い遠距離狙撃を仕掛けて自らチャンスを逸したエリカが冷静さを欠いていると気付いており、此の後の試合展開を考えると心配でならなかった。
「みほ先輩が、此の状況を利用しない筈が無い…一体、如何すれば!?」
百代自身は去年の決勝戦での“事件”は別として、みほの戦車道の実力が高い事を知っているだけに、此の後どうやって彼女が率いる大洗女子を倒すべきかと考えあぐねている。
だが…百代以外の黒森峰のメンバーは未だ気付いていない。
フラッグ車を務める“
戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない
第92話「大洗女子対黒森峰・激戦の始まりです!!」
大洗女子学園戦車道チームの“
「先制したのは黒森峰ですが、大洗女子の
そして彼が「解説の斎森 伸之さんと吉山 和則さん、今の戦況を如何見ますか?」と問い掛けた処、先ず斎森が……
「序盤から大洗女子が大ピンチだったのですが、結果的に被害を最小限に食い止めたのは幸運でした!」
と簡潔に語った後、吉山が興奮気味の声で重要な事を指摘する。
「実は
其の指摘(実は偶然の産物だったのだが)に対して、加登川アナウンサーは「成程!」と返した後、会場内の観客と全国の視聴者に向けて気合の入った声でこう締め括った。
「試合開始直後、行き成りの大ピンチを凌いだ大洗女子、未だ彼女達の武運は尽きていません!」
其の頃、序盤の危機を凌いだ大洗女子学園・戦車道チーム
「御免ね、西住さん…もうゲームオーバーになっちゃった」
先程撃破された“
「怪我は!?」
と叫んだ処、ねこにゃーは元気を取り戻して「大丈夫!」と返信。
続いて装填手兼砲手を務めるぴよたんが「大丈夫だっちゃ!」と返すと操縦手のももがーも「大丈夫なり!」と答えた為、其の事を通信手担当の武部 沙織経由で伝えられたみほは安堵の溜息を漏らすと“此の危機的状況から如何やって脱出すべきか”に意識を集中するのだった。
一方、私達“
『武部先輩、了解しました…良かった、“
“
「黒森峰の奴ら…“アリクイさん”の先輩達の仇、絶対に取る!」
と気合の入った叫び声を上げると装填手の二階堂 舞も大声で「うん!」と叫んだ。
其の会話を聞いた私は『確かに“アリクイさん”の先輩方は瑞希の戦車ネットゲーム仲間だし、舞は先輩方の体力トレーニングを指導していたからなあ……』と心の中で呟いた時、黒森峰からの激しい砲撃が移動中の私達・大洗女子学園戦車道チームの周囲に降り注ぐ。
砲塔上の車長用キューポラから上半身を出して其の様子を眺めた私は“そろそろ西住隊長へ指示を仰ごう”と思って無線機のマイクを準備しようとした処、無線機から西住隊長の号令が飛び込んで来た。
「全車輌、“もくもく作戦”です!」
其の声を聞いた私は『よしっ、事前の準備通りだ!』と呟いて西住隊長の判断に感謝すると隣にいる舞とアイコンタクトで“作戦の準備が完了している”事を確認した後、無線機のマイクに向かって……
『“もくもく”用意!』
と叫んだ処、“
「“もくもく”、始め!」
と号令を掛けた。
其れに対して、私達各チームの戦車長も……
「「『“もくもく”、始め!』」」
こうして私達・大洗女子学園戦車道チームの反撃が開始されたのだ。
西住隊長からの号令が下ると大洗女子学園所属各戦車の後部から一斉に煙幕が展張される。
其の煙幕は広範囲に広がるとアッと言う間に大洗女子戦車隊の姿を隠してしまった。
「煙!?忍者じゃあるまいし、小賢しい真似を!」
大きく広がった大洗側の煙幕を見た黒森峰女学園戦車道チーム副隊長・逸見 エリカが忌々し気に悪態を吐くが、彼女の補佐役である後輩の五代 百代は真っ青な顔になって叫ぶ。
「煙幕…しまった!戦力が不利な大洗なら絶対にやると思っていたのに、此処で気付かなかったなんて!」
だが、そんな百代の叫びを余所にエリカは大声で「撃ち方用意……」と号令を下そうとしていたが、其処へ……
「全車撃ち方止め!」
自分達の隊長である西住 まほからの命令が無線機に飛び込んで来た。
其の命令に対して百代は安堵の溜息を吐くと「了解!」と返答するが、対照的にエリカは不満気な声で……
「一気に叩き潰さなくて良いんですか!?」
と叫んだものの、まほは冷静な声で血気に逸るエリカを諭すのだった。
「下手に向こうの作戦に乗るな。無駄弾を撃たせる心算だろう」
其の言葉にエリカが息を飲んだ時、百代がホッとした感じの声で「はい、隊長……」と応答するが、其処から彼女は「只……」と前置きしてから“気になる事”を語った。
「大洗女子の煙幕、如何も無駄弾を撃たせるだけでは無い様な気がするのですが?」
其の疑問にエリカが虚を突かれた声で「えっ!?一体如何言う事なの?」と百代へ聞き返すが、彼女が答える代わりにまほが冷静な声でこう指摘した。
「何れにしても
其れに対して百代は冷静な声で「了解」と答えたが、エリカは苛立ち気味の声で「クソッ、逃がすものですか!」と叫ぶと自らが駆る
此の様子を目撃した百代が「副隊長、焦ると相手の思う壺ですよ!」と進言した直後、エリカの駆る
「敵、11時方向に確認!」
と叫んだ処、其の通信を聞いたまほが落ち着いた声で「あの先は坂道だ、向こうにはポルシェティーガーが居る。足が遅いから簡単には登れまい」と指摘した後、「充分に時間は有る筈だ」と語って、エリカの軽挙妄動を戒めようとした。
だが、其の通信を聞いていた百代は「確かに隊長の言う通りかも知れないけれど、みほ先輩の事だ。何か手を打って来るのかも?」と呟いてから考えていた時、“心の中で引っ掛かっていた幾つかの疑問が繋がる感覚”を感じ取ると、自らの考えを心の中で紡ぎ出す。
「煙幕…坂道…足の遅いポルシェティーガー…あっ!」
思考実験の結果“みほがやろうとしている事”に気付いた百代が無線で叫ぶ。
「待って下さい隊長、今は急がないと不味いです!其れと副隊長、さっきの様な機銃掃射は止めて下さい!下手をすると
其の言葉にまほとエリカは意表を突かれて「「何っ!?」」と叫んだのだった。
「煙幕を張るなんて……」
最初の攻撃で先制された後、黒森峰に追撃される形となった大洗女子が逃走しつつ煙幕を張った様子を観客席の外れでティータイムを楽しみ乍ら観戦していた聖グロリアーナ女学院の1年生・オレンジペコが釈然としない声で呟いた…本来、聖グロでは“戦車道は正々堂々且つ優雅に戦うのが基本”と教わっているだけに、大洗女子が煙幕と言う搦手を使った事に対して、何か思う事が有る様だ。
しかし、彼女の先輩で母校の戦車道チーム隊長・ダージリンは微笑み乍ら、こんな“格言”を語る。
「All is fair in love and war…恋と戦いは、あらゆる事が正当化されるのよ」
其処へ、彼女達の隣にやって来ていた(其処には、サンダース大付属高校やプラウダ高校の隊長達も居る)アンツィオ高校の1年生エース候補・
「そうか…大洗は母校の廃校阻止の為に、戦車道の
其れを聞いたダージリンが優しげな声で「貴女も漸く、其の事に気付いたわね」と語る中、今度は時雨が嬉し気な声で、こんな事を言い出した。
「でも、そう考えると西住さんって結構過激な指揮官だな。嵐が惚れ込むのも分かる気がする!」
其れを聞いたオレンジペコが意表を突かれた声で「えっ!?あの大人しそうな西住さんが!?」と口走る中、時雨の隣に居るマルゲリータも笑顔を浮かべつつ「確かにねー♪」と呟いた後……
「嵐は昔から過激な戦い方を好んでいたけれど、実は西住さんもそう言う部分が有るのかもね♪」
群馬みなかみタンカーズ時代に嵐のチームメイトだった2人の発言にダージリンが微笑み乍ら紅茶を飲んでいたが、其処へオレンジペコが観客席前の超大型モニターの方向を指差して……
「あっ、煙幕が晴れて来ました!」
と叫んだ為、彼女の周囲に居た聖グロ・サンダース・プラウダ等の生徒が一斉に超大型モニターを眺めた時……
「「「!」」」
思わぬ戦況の変化に、彼女達は圧倒されていた。
「えっ!もう、あんな所に!」
此の時、エリカが発した言葉が、何らかの形で此の試合に関わっている者達の総意であっただろう。
何故なら黒森峰女学園・戦車道チームの目前には、予想外のハイペースでポルシェティーガーを牽引し乍ら坂を一気に登る大洗女子学園・戦車道チームの姿が在ったのだ。
其れも、チームの各戦車が牽引用ワイヤーを巧みに組み合わせる事でフラッグ兼隊長車の“
其の姿を見た百代が悔し気な声で叫ぶ。
「やられた!煙幕を張ったのは鈍重なポルシェティーガーを牽引する準備の為だったんだ!」
すると彼女の無線を聞いていたエリカがある事に気付いて「じゃあ……」と呟いた後、「もしも、私がさっきやった機銃掃射を続けていたら!」と百代に向けて告げると彼女は“有り得たかも知れない「
「はい、副隊長。煙幕に隠れてポルシェティーガーの牽引準備をしていた大洗女子のメンバーに機銃弾が命中する恐れが有りました!」
其の言葉を聞いて、顔色が真っ青になるエリカ。
何故なら……
日本戦車道連盟・戦車道試合規則・5「禁止行為」の(ハ)項。
直接人間に向けて発砲する事を行った場合は失格となる。
無論、此の場合は対戦相手の大洗女子が煙幕を張っている為に直接人間が確認出来ない状態で射撃をしているから、審判の判定によっては“不可抗力”と見做されて失格にはならない可能性が残っているものの、必ずしもそうなるとは限らない。
其れに試合を観戦している一般客が其の様な事態を目撃すれば…後は言わなくても分かるだろう。
2人の会話を無線で聞いた隊長のまほは「五代の警告は的を射ていたのか」と冷静さを崩さない儘呟いたものの、心の中では……
「遂に、みほが本気を出して来たか……」
と呟いた後“此の後の試合運びが難しくなる”と覚悟せざるを得なかった……
一方、鈍重な“
「流石に重い……」
“
「
“
「どっしりしている所が、
等と言っており、其の無線交信を聞いていた私は『アハハ……』と苦笑いを浮かべていた。
同じ頃、観客席の外れでは、プラウダ高校戦車道チーム隊長・カチューシャがノンナ副隊長に肩車をして貰い乍ら観戦していたが、大洗女子の様子を見て……
「そっかぁ!皆で引っ張ってたのね、ポルシェティーガーを!」
と声を上げ乍らはしゃいでいたが、其の傍で一緒に観戦している聖グロリアーナ女学院・サンダース大付属高校等の面々に自分の姿を見られているのに気付くと……
「オ…オホン!」
と咳払いをし乍ら姿勢を正す(但し、ノンナに肩車をされた儘)のだった。
但し、サンダース大付属の時雨は“可愛らしいカチューシャの姿”を目撃して「クスクス♪」と笑いを堪えて居たが、其処へチームの隊長・ケイが声を掛けて来た。
「Hey!ミホ達が又、何か始めたみたいよ!」
「パラリラ作戦です!」
「『パラリラ作戦、了解!』」
“
前方へ展開するのは、隊列の先頭に居た“
此の3輌は私・原園 嵐指揮の下、再び煙幕を展張し乍ら左右に展開した後、蛇行し乍ら煙幕を広げて行く。
一方、残る“
“
其れはね…秘密♪
「何よ、此の作戦!私達不良になったみたいじゃない!」
“パラリラ作戦”…つまり、意図的な蛇行走行で煙幕を広げる事によって自分達の位置を隠す行動に出た大洗女子学園戦車道チームだが、其の中の1輌である“
「終わったら、手が腫れてそう!」
と嘆いていた…確かに、蛇行し乍ら前進すると言う負担の掛かる運転をしているのだから、致し方無いだろう。
事情は体力に自信の有るバレー部員で構成された“
「お尻が痛い…手が辛い!」
と、何時は強気なイメージの有る彼女が珍しく弱音を吐く中、通信手の近藤 妙子が「頑張って!ワンハンドレシーブの練習だと思って!」と気合の入った激励を贈った事も有って健気に走っていたのだが、世の中には“例外”が居るものである。
実は“
「菫ちゃん、パラリラするのが凄く上手いね?」
副操縦手の長沢 良恵が不思議そうな声で隣に座って居る操縦手の萩岡 菫に声を掛けた処、彼女はこんな答えを寄こして来たのだ。
「此の作戦、実はスラローム走法だから、私にとっては
因みに、スラローム走行とはモータースポーツ用語で“意図的な蛇行走行”を意味するのだが、ジムカーナに付いては若干説明が必要だろう。
ジムカーナとは駐車場等、手頃な広さの有る路面にパイロン等を置いて設定した比較的距離の短いテクニカルコース上を1台の自動車で走るタイムトライアル形式のモータースポーツ競技で、1台に付き2回走って其の内短い方のタイムを記録として採用した上で、より短いタイムを記録した競技者が勝つと言うのが基本的なルールである。
走行距離が短くても競技が成立する為、競技する場所を選ばない上にスラロームやドリフト等の高度なドライビングテクニックが要求される事、更にはナンバー付きの車輌で競技が出来る事等によって、運転免許を持っている者なら初心者でも気楽に挑戦出来て奥が深いと言う特徴が有るのだが、菫は親戚が所有する裏山での自動車の運転練習の一環で毎日此れをやっていただけに“パラリラ作戦”は彼女にとっては打って付けの舞台だったのだ。
そんな彼女の答えを聞いた良恵が呆気に取られていると砲手の
「良恵、知ってる?ジムカーナって実は日本発祥のモータースポーツ*1だって事」
と言う“実話”を聞かされた良恵は「本当ですか!?」と叫んだのだった。
一方、大洗女子を追っていた黒森峰側では……
「こんなに広範囲で煙が広がるとは……」
“パラリラ作戦”によって展張された煙幕で大洗女子の足取りを掴めなくなったエリカ副隊長が困惑する中、無線からまほ隊長が「全車、榴弾装填!」との命令が響き渡る。
其の命令でエリカ以下、黒森峰の全戦車が走行間射撃の準備に入った頃、大洗女子側では……
「あと少し……」
と周辺状況を確認していたみほが何やら思案をしていた時。
「撃て!」
黒森峰の全戦車がまほ隊長からの命令で榴弾による走行間射撃を開始する!
之は、大洗側の戦車を撃破すると言うよりは、榴弾で大洗側が展張している煙幕を吹き飛ばして周辺の見晴らしを良くしようとする意図があったのだが、そうとは知らない大洗側応援席の観客達の中からは悲鳴が上がる。
更に、観客席の外れで観戦中の聖グロ・オレンジペコも緊張した声で……
「やられる前に、有利な場所へ逃げ込まないと!」
と大洗側に肩入れした様な叫びを上げた為、先輩兼チームの隊長であるダージリンから……
「貴女も何時の間にか、彼女達の味方ね♪」
と微笑み交じりの声で言われたオレンジペコは意表を突かれて「はいっ!?」と大声を上げたが、其の直後自分の姿をダージリンだけで無く周囲に居たマルゲリータ・時雨やサンダースのケイ&プラウダのカチューシャ隊長達に見られた事に気付くと羞恥の余り、真っ赤な顔で俯いてしまった。
そんな後輩の姿を見てクスクス笑うダージリンを余所に…試合は更なる展開を見せようとしている。
(第92話、終わり)
此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第92話をお送りしました。
今回はアリクイさんチーム撃破からもくもく&パラリラ作戦迄の話でしたが、如何だったでしょうか。
次回は高地を舞台にした攻防戦で御座います。
其れでは手短ですが、次回をお楽しみに。