戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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今程「君は生き延びることができるか?」と言うファーストガンダムの次回予告が似合う時代は無いと思う今日此の頃…いや、人類全員生き延びられないんじゃないと迷わずツッコめる今日此の頃。
だって、トランプとプーチンがねえ…(其処から先は書いてはいけない)

其れでは、どうぞ。



第93話「大洗対黒森峰・高地の死闘です!!」

 

 

 

此処は「第63回戦車道高校生全国大会・決勝戦『熊本県代表・黒森峰女学園対茨城県代表・大洗女子学園』」の試合会場で在る陸上自衛隊・富士演習場内に設けられた大洗女子学園側応援席の片隅。

 

其の場所で決勝戦を観戦中の原園 嵐の大叔母・鷹代と冷泉 麻子の祖母・久子の前に嵐の母・明美が姿を現すとテンションの高い声で……

 

 

 

「鷹代さんに久子さん、御待たせ♪」

 

 

 

と呼びかけたのに続き、彼女の親友で大洗女子学園戦車道チームの支援者でも有る周防 長門が……

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

と挨拶し、其れに対して鷹代が「こんにちは」と答えた処、アンツィオ高校OGで高校時代から黒森峰出身の明美と長門のライバル兼友人で有る大姫 龍江も……

 

 

 

「鷹代さん、御久し振りやな♪」

 

 

 

と挨拶をした為、実は彼女と顔見知りである鷹代は「そうだね」と答えた後、3人の傍に居る御堅い感じの女性へ向けて……

 

 

 

「おや…しほさんも居たのかい」

 

 

 

と呼び掛けると西住 しほは珍しく気後れした様な態度を見せたが、直ぐ落ち着きを取り戻して……

 

 

 

「御久し振りです…原園元陸将」

 

 

 

と答えた処、鷹代の隣に居た久子が「鷹代さん、あの人が西住さんの御母様かい。思っていたよりも厳格そうな人だね」と語り掛けたのに対して鷹代は小さく頷いた後、微笑み乍らしほに向けて……

 

 

 

「しほさん、御堅い態度は相変わらずだね」

 

 

 

と語った為、彼女は「いえ、黒森峰の復活を賭けた大事な一戦ですから」と返したが、鷹代は「其れは如何かしらね?」と答えた後、観客席前方の超大型モニターへ視線を移してから、こう指摘したのである。

 

 

 

「まほちゃん率いる黒森峰が先制した処迄はしほさんの思惑通りだと思うけれど、其処から先は大洗女子を率いるみほちゃんが仕掛けた煙幕作戦で黒森峰が良い様に振り回されてる気がするのだけどね?」

 

 

 

陸自でも有数の機甲部隊指揮官にして、戦車道の指導者としても名声が高かった鷹代による“的確な指摘”を受けたしほは思わず「此の人の前では何もかも見透かされてしまう」と心の中で呟いてから、溜息を吐いて顔を俯けるしか無かったのである。

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第93話「大洗対黒森峰・高地の死闘です!!」

 

 

 

 

 

 

先程も触れた通り、此の決勝戦の序盤で大洗女子学園戦車道チームはフラッグ車兼隊長車の“あんこうチーム”(Ⅳ号戦車H型仕様)を遠距離狙撃で危うく撃破されかけると言う危機に見舞われたが、結果的に“アリクイさんチーム”(三式中戦車)が身代わりになって撃破されると言う形で危機から脱した後、“もくもく作戦”と“パラリラ作戦”と言う“煙幕を用いた攪乱作戦”で黒森峰女学園から主導権を奪いつつ前方に有る高地を目指して進軍していた。

 

此の状況下、大洗女子学園戦車道チームの西住 みほ隊長は“更なる一手”を打っていたのである。

 

最初に“其の一手”が打たれた事に気付いたのは、大洗側応援席で試合の動きを伝える超大型モニターを見ていた小学生の男の子だった。

 

 

 

「あれ?…ねえ、那珂ちゃん」

 

 

 

彼は幼い頃に両親を航空機事故で亡くした後、“大洗のアイドル”こと磯前 那珂の両親が勤務する“児童養護施設”で暮らしている為、超大型モニターで見た“異変”に気付くと那珂ちゃんに問い掛けたのだ。

 

其処で彼女が「如何したの?」と問い掛けた処、彼は……

 

 

 

「今、高地に向かっている西住さん達・大洗女子の戦車の中に“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)が居ないよ?」

 

 

 

と答えたのだ。

 

其れに対して那珂ちゃんも超大型モニターを見て「本当だ…何処へ行ったんだろう?」と呟き乍ら首を傾げて居た処、応援席の一角から受信機で大洗女子側のチームラジ(無線)オを聞いて居た一般客の1人が声を掛けて来た。

 

 

 

「皆、もう直ぐ“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)が面白い事をやってくれそうだぞ!」

 

 

 

其の指摘で周囲に居た那珂ちゃんや男の子達が「「えっ!?」」と驚く中、応援席前方に設置された超大型モニターの映像が切り替わると観客達からどよめき声が上がる。

 

其処には、大洗女子を追う黒森峰の戦車隊の進路上に在る林の中に“カメさんチーム”(生徒会役員)の38(t)/ヘッツァー駆逐戦車改仕様が潜んでいる姿が映し出されたのだ。

 

 

 

 

 

 

「ウヒヒヒー♪」

 

 

 

前戦・プラウダ高校との準決勝の途中から“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)砲手を務める生徒会長・角谷 杏が“此れから悪戯をやるよ~♪”と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべると、右方向から通過する黒森峰の戦車隊の中に居たヤークトパンター駆逐戦車の側面を狙撃し、履帯を切断した。

 

続けて、装填手を務める河嶋 桃が重そうな表情を浮かべ乍らも75㎜砲弾を装填すると会長はパンター中戦車G後期型の側面を狙撃、此れも履帯を破壊した。

 

 

 

「会長、2輌履帯破壊です!」

 

 

 

チームの凄腕操縦手兼生徒会副会長・小山 柚子が会長の戦果を讃えると当人()が景気の良い声で……

 

 

 

「かーしま、当たったぞ!」

 

 

 

と桃へ話し掛けた処、彼女は生真面目な声で「分かってます!」と答えたが、其の様子は“コンビ漫才”の様だと柚子が思って居ると……

 

 

 

「先輩方、気付かれました!そろそろ黒森峰からの砲撃が来ます!」

 

 

 

此の決勝戦からチームの車長に抜擢された農業科1年生兼戦車道担当生徒会副会長補佐官・名取 佐智子が警告を発した。

 

事実、此の時黒森峰側ではエリカ副隊長が……

 

 

 

あのチビ(ヘッツァー)~!」

 

 

 

と頭に血が昇ったかの様な怒声を上げ乍ら、仲間の戦車と自分が駆るティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)を率いて邪魔なヘッツァー(カメさんチーム)を撃破すべく攻勢を仕掛けて来た。

 

其れに対して、狙われる立場の“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)では会長が焦る黒森峰とは対照的な程“のほほん”とした声で……

 

 

 

「2輌が限界か~撃破したいなぁ~」

 

 

 

と呟くが、其れに対して後輩の佐智子が「会長、今回は2000m越えの遠距離狙撃ですから余り欲張らない方が良いですよ!」と釘を刺す。

 

実は“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)が相手戦車の撃破では無く履帯破壊に専念していたのには其の様な事情が有ったのだ。

 

38(t)ヘッツァー改の48口径75㎜砲は“あんこうチーム”のⅣ号戦車H型仕様とほぼ同じ威力*1だが“カバさんチーム”のⅢ号突撃砲F型と同様にヘッツァーも砲塔を持たない駆逐戦車である以上、百戦錬磨の黒森峰相手に接近戦を挑むのは困難だと言わざるを得ない。

 

しかし、接近戦のリスクを避けて2000mを越える距離からの遠距離砲撃を行うと黒森峰戦車軍団の重装甲相手では、例え側面装甲と言えども貫通出来るとは限らない。

 

其処で、みほ隊長は“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)に対して“相手戦車の撃破では無く、履帯を破壊して修理迄の時間を稼ぐ”と言う“変則的な遅滞戦術”を指示したのである。

 

みほとしては“例え履帯だけでも修復するには一定の時間が掛る”点に着目して、一時的にでも自分達が直面するであろう黒森峰の戦力を減少させる事で戦いを有利に進めようと言う“涙ぐましい努力”の一環だったのだ。

 

其の事に気付いた会長は佐智子に向けて頷くと……

 

 

 

「そうだねぇ。じゃあ、ずらかるかぁ♪」

 

 

 

と車内に居る柚子・桃・佐智子に告げた後、“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)は自分達を狙う黒森峰戦車隊に気付かれない様に潜伏先の林から撤退したのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、フラッグ車兼隊長車のティーガーⅠ重戦車の砲塔キューポラから上半身を出して戦況を伺っていた黒森峰女学園戦車道チームの西住 まほ隊長は冷静な声で指揮下の全戦車へ向けて……

 

 

 

「深追いはするな」

 

 

 

と命じた。

 

すると無線機から逸見 エリカ副隊長の補佐を務める五代 百代が心配気な声で、こう進言する。

 

 

 

「ですが隊長、恐らく大洗は前方の高地に布陣して我々を迎撃する筈です。力ずくでも突破しますか?」

 

 

 

まほは彼女の言葉の裏に“みほ相手では力ずくの戦線突破作戦は無理がある。無理押ししたらどれだけの損害が出るか分からない”と言う懸念が有る事を感じ取っていたが、彼女は直ぐ態度を決めるとこう返す。

 

 

 

「やむを得まい」

 

 

 

其れに対して百代は一呼吸置いてから「了解」と返信したが、心の中では隊長の判断に不安を抱いていた。

 

 

 

「試合時間や手持ちの砲弾に限りが有る以上、隊長の決断に逆らう心算は無いけれど、此の儘だとみほさんのペースに付き合わされる様な気がする……」

 

 

 

だが、幾ら百代がエリカ副隊長の補佐に抜擢される程の実力者で有るとは言え、彼女は未だ1年生である。

 

そして高校戦車道強豪校にして伝統校でもある黒森峰女学園では隊長・副隊長と他の隊員の立場の差は元より、先輩・後輩の上下関係も絶対である。

 

其の為、黒森峰では隊列を維持する為の規律が必要な集団戦術に長けている代わり、百代の様に優れた作戦能力や実力を持つ下級生が実力を発揮し辛い環境下にあったのだ。

 

其の結果、伝統校故に自由な作戦行動が採り辛い黒森峰と無名校で隊長の西住 みほやエース格の原園 嵐達“群馬みなかみタンカーズ組”を除くと素人揃いのメンバーだからこそ“勝利の為なら先輩・後輩や立場の差を越えて自由に動けるチーム”に育った大洗女子との“戦い方の差”が、此の後の戦いで鮮明になって行く。

 

 

 

 

 

 

一方、“カメさんチーム”(38(t)/ヘッツァー改仕様)による遅滞行動で時間を稼いだ結果、高地に布陣する事に成功した大洗女子学園戦車道チームでは……

 

 

 

「守り、固めたよ」

 

 

 

各チームからの情報で“黒森峰迎撃の態勢が整った”事を確認した“あんこうチーム(フラッグ車兼隊長車)”通信手・武部 沙織がみほ隊長へ連絡を済ませると、みほが「了解!」と答えた後、直ちにチームの全車へ新たな指示を出す。

 

 

 

「全車輌、照準をフラッグ車の前に居る車輌へ!」

 

 

 

みほの決断に対して、大洗女子の各戦車は微妙に位置を修正する事で迎撃戦の準備を整えた。

 

此れから起こるであろう砲撃戦では事前の準備が何処迄出来るかが重要だから、各戦車は自分の位置を確保しつつ、車体前方に急造した土堤に車体を沈み込ませる。

 

之が迎撃戦においては“正確な射撃”と“敵の砲撃からの防御力向上”を実現する為のコツだから、皆真剣に取り組んでいた。

 

すると彼女達の目前に黒森峰女学園戦車道チームの重戦車軍団が現れる。

 

 

 

「全車停止!」

 

 

 

まほ隊長の命令で、黒森峰の主力は一列横隊・更に両翼の援護に3輌ずつの戦車を布陣した状態で停車して攻撃準備を整える。

 

斯くして、新たな戦いの舞台となった東富士演習場内の高地は一瞬の静寂に包まれる。

 

其の様子を超大型モニターで見守る大洗女子の応援席では、秋山 優花里の両親(淳五郎と好子)と大洗女子学園中等部4人(華恋・詩織・由良・光)組・那珂ちゃんや児童養護施設で暮らしている子供達、更には五十鈴 華の母・百合と奉公人の新三郎、そして古鷹 晶海を始めとする水戸等の各地から集結した“J”のサポーター軍団や一般の観客達が思い思いの祈りを捧げる。

 

そんな中、高地に布陣した大洗女子・戦車道チームの配置状況を確認したまほが一言呟いた。

 

 

 

「想定よりも早く陣地を構築したな」

 

 

 

其れに対して百代が「あの分だと、大洗女子は事前に試合会場内の偵察をやっていましたね…此方は事前偵察をやりませんでしたから、土地勘は向こうが有利かと」と進言した処、エリカ副隊長も冷静さを取り戻したらしく「でも百代」と前置きしてから持論を述べた。

 

 

 

「相手は自ら退路を断つ形で待ち受けている以上、攻撃しないと言う手は無いわ」

 

 

 

之には百代も不安を抱き乍らも「はい」と答えるしか無かった…彼女も今の戦況ではエリカの言う通り攻撃を仕掛けないと勝利に結び付かない事は承知していた為、先輩達の決断に異議を唱える事は出来なかったのである。

 

斯くして、エリカは攻撃準備を整えてから無線でまほへ向けて「隊長、全車攻撃準備出来ました。何時でも行けます!」と告げた処、まほも表情を引き締めてから……

 

 

 

「囲め!」

 

 

 

と命じた。

 

こうして決勝戦第2ラウンド・高地攻防戦が始まるのである。

 

 

 

 

 

 

此の時、高地に陣取った大洗女子戦車道チームの前では(ふもと)に展開する黒森峰女学園の戦車隊が一斉に動き出すと横方向へ隊列を広げつつ、自分達を包囲する姿が見えていた。

 

其の様子を双眼鏡で眺めて居た西住 みほ隊長は意を決すると、チームの全戦車へ向けて号令を発する。

 

 

 

「砲撃始め!」

 

 

 

此れに対して大洗女子の各戦車長が「「『砲撃始め!』」」と叫ぶと同時に各車砲撃の火蓋を切った。

 

一方、黒森峰女学園側では高地からの発砲炎を確認したまほ隊長が愛車である隊長車兼フラッグ車・ティーガーⅠ重戦車の車長用キューポラのハッチを閉じると護衛のパンター中戦車G後期型1輌を引き連れて大洗女子が立て籠もる高地へ向けて前進を開始。

 

やがて高地では、頂上に陣取る大洗女子が麓から攻め上がる黒森峰を撃ち降ろし、其れに対して黒森峰が受けて立つと言う砲撃戦が展開されるのだった。

 

だが、此の戦いで最初に戦果を挙げたのは、大洗女子学園の攻撃の要の1つでⅢ号突撃砲F型を駆る“カバさん(歴女)チーム”だった!

 

 

 

「やった!」

 

 

 

自らの攻撃で正面に居た黒森峰のパンター中戦車G後期型を1輌撃破した砲手のおりょうが快哉を叫ぶ。

 

其れに対して車長を務めるエルヴィンが「次は1時方向の“ラング”だ!」と大声で指示した為、其の言葉が何を意味するのかが分からないおりょうは「“ラング”って、どれだ!?」と聞き返した処、エルヴィンは一言……

 

 

 

「ヘッツァーの御兄ちゃんみたいな奴!」

 

 

 

と叫び返して“次の目標である「Ⅳ号駆逐戦車/70(V)ラング」の特徴”を教えたのだった。

 

 

 

 

 

 

此の試合における味方の初撃破で勢いに乗った大洗女子が高地から猛砲撃を加える中、黒森峰は隊列を崩さずに前進を続けて包囲網を狭めて行く。

 

だが、其れは前進する黒森峰に更なる損害を強いる事を意味していた。

 

 

 

「大洗フラッグ車、砲塔を此方へ指向中!」

 

 

 

黒森峰所属のⅣ号駆逐戦車/70(V)ラングの砲手が照準器から目を離さない儘、車長へ向けて大声で報告したが、其の直後彼女は照準器に映し出されていたⅣ号戦車H型…大洗女子学園の隊長兼フラッグ車である“あんこうチーム”から砲弾が発射されたのを目撃して絶叫する!

 

 

 

「来たー!」

 

 

 

其の直後…“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”車内では、自分達の目前に居た黒森峰のⅣ号駆逐戦車/70(V)ラングを仲間である砲手・五十鈴 華が砲撃で仕留めたのに気付いた装填手・秋山 優花里が「わーっ!五十鈴殿、やりましたね!」と褒めた処、華は“フーッ”と息を吐くと優花里へ向けて笑顔を返して来たのだった。

 

一方、大洗女子側の観客席では五十鈴家の奉公人・新三郎が華の挙げた戦果を見た途端……

 

 

 

「いよっ、御嬢っ!日本一!」

 

 

 

と叫び、彼の主人兼華の母である百合も笑顔で観客席前の超大型モニターに映し出された娘の雄姿を見て笑顔を浮かべて居た処、2人は新たにモニターに映し出された光景を見て仰天した。

 

何と其処には……

 

 

 

「一発必中!大洗女子学園の那須 与一 五十鈴 華!」

 

 

 

何と大洗とは全く関係の無い一般人の応援団(其の大半が大洗女子以外の女子中学生か女子高生)が横断幕を掲げて華を応援していたのだ。

 

 

 

 

 

 

「“カバさん(Ⅲ突F型)”より“ニワトリ(M4A3E8)”へ、野々坂(ののっち)のアドバイスが効いたぞ!此方はパンターを1輌撃破!」

 

 

 

『了解!』

 

 

 

カバさん(Ⅲ号突撃砲F型)チーム”車長・エルヴィン先輩からの通信を聞いた私・原園 嵐は返信を終えると車内の仲間達へ向けて……

 

 

 

『皆、“カバさん(Ⅲ突F型)”と“あんこう(Ⅳ号H型仕様)”がパンターとラングを1輌ずつ撃破!瑞希(みずき)、こっちもそろそろ行くよ!』

 

 

 

と号令を掛けると砲手の瑞希(ののっち)が「勿論!もう狙いは付けているわよ!」と気合の入った声を返して来たので、私は彼女の腕前を信じて……

 

 

 

『じゃあ、発砲のタイミングは任せる!』

 

 

 

と返した処、彼女は「OK!」と呟いた後、再び気合の入った声で……

 

 

 

「パンターの弱点は承知しているからね!」

 

 

 

と叫んだ後、M4A3E8(イージーエイト)の52口径76.2㎜砲を発射した!

 

 

 

 

 

 

「こちら、パンター5号車やられました!済みません!」

 

 

 

此の時、高地を攻め登っていた黒森峰が此の試合で3輌目の戦車を撃破された時、間近で其の光景を愛車であるパンター中戦車G後期型の車長用キューポラ上から肉眼で目撃した五代 百代は、其の前に大洗女子のⅢ号突撃砲F型(カバさんチーム)に撃破された同型車の被弾状況を思い出して戦慄した。

 

 

 

「此れは…さっきⅢ突にやられたのと被弾個所が一緒だ!」

 

 

 

其れと同時に“ある事”に気付いた百代はティーガーⅠ重戦車を駆るまほ隊長へ向けて無線で次の様に報告する。

 

 

 

「隊長、生き残っているパンターを一旦下げて下さい!大洗はパンターの車体前方上面に有る操縦席と無線手用のハッチが防御上の弱点だと気付いています!

 

 

 

其れに対してまほが「五代、其れは本当か!?」と彼女にしては珍しく緊迫した声で答えると百代は大声でこう告げた。

 

 

 

「間違い有りません!Ⅲ突とイージーエイ(M4A3E8)トに撃破されたパンターの被弾個所が共に車体前方上面です!」

 

 

 

此の百代の報告は“重大な事実”を告げていた。

 

黒森峰の主力戦車であるパンター中戦車は、公式戦車道のレギュレーションで参戦可能な戦車としては最もバランスの取れた火力・防御力・機動力を兼ね備えており、総合的には下手な重戦車に勝るとも劣らない戦闘力を持っている。

 

其の為、エンジンや駆動系の信頼性が若干低い点を除けば“戦車道で最強の中戦車”と評価されているのだが…実は防御力の面で“或る重大な問題点”が存在しているのだ。

 

此れが、パンターの車体前方上面の装甲である。

 

元々、此の部分の装甲厚は40㎜と比較的薄いのだが、此処には無線手と操縦手用のハッチが有る為、余計被弾に弱い構造になっているのである。

 

しかも無線手と操縦手用のハッチの直ぐ後ろには、パンターの主武装である70口径75㎜砲を守る防盾が有るのだが、此れが避弾経始の効果を狙って曲面に整形されていた為、防盾の下部に当たって弾かれた砲弾が無線手と操縦手用のハッチの有る車体前方上面部に当たってしまうと言う“ショット・トラップ”と言う現象が起きる恐れが有り、仮にそうなった場合はパンターが活躍した第2次大戦後半の時期には威力不足が深刻化していた37㎜級の対戦車砲でも容易に装甲を貫通してしまうのだ!

 

只、“ショット・トラップ”の問題に関しては、黒森峰が運用しているG後期型から防盾下部の形状を曲面から“顎が出た”様な感じの直線形状へと変更している為に一応の解決を見たが、此の対策の効果は“平地での戦闘”の場合に限られている為、今回の様に高地に陣取る大洗側は麓から攻め上がる黒森峰のパンター中戦車G後期型の車体前方上面に有る弱点…無線手と操縦手用のハッチが有る部分を直接狙う事が出来るのだ!

 

此処でエリカ副隊長が“百代からの報告の意味”に気付き……

 

 

 

「百代、もしかしてイージーエイ(M4A3E8)トに乗っている“群馬みなかみタンカーズ”の()達がパンターの弱点を大洗の()達に教えたんじゃあ!?」

 

 

 

と叫んだ処、百代は「副隊長の見立てで間違いないと思います!」と答えた後、自らの考えを隊長と副隊長へ伝えた。

 

 

 

「みなかみタンカーズの()達は明美さん直伝の戦車戦術を叩き込まれていますから、こっちの戦車の弱点は熟知している筈です!」

 

 

 

すると彼女の報告を聞いたまほは「みなかみタンカーズ…だとすれば状況は容易ではない!」と判断した後、直ちに百代とエリカへ指示を伝えた。

 

 

 

「五代、了解した!其れとエリカ、一旦生き残りのパンターを全て下がらせろ!其の後は此方で手を打つ!」

 

 

 

そして2人からの応答を待たずに無線の回線を切り替えると無線が通じた相手の車長へ向けて新たな命令を下した。

 

 

 

「ヤークトティーガー、正面へ!」

 

 

 

 

 

 

「重戦車を盾に使うのね……」

 

 

 

第2次世界大戦で最強の重駆逐戦車・ヤークトティーガーを高地に立て籠もる大洗女子攻撃に投入した黒森峰のまほ隊長の決断を見た聖グロ隊長・ダージリンが複雑な表情を浮かべ乍ら呟く中、彼女の隣ではオレンジペコとサンダース大付属の時雨が超大型モニターに映し出された黒森峰戦車隊の姿を睨んでいた。

 

一方、彼女達の姿をチラリと見たサンダース大付属の隊長・ケイも苦い表情を浮かべつつ「マホはフェアプレイよりも勝負を決めに来たわね……」と腹心であるナオミ・アリサ副隊長に向けて語ると彼女達も厳しい表情で頷き返す。

 

そして、彼女達と一緒に試合を観戦しているアンツィオ高のマルゲリータが「大洗にはあの化け物を撃破出来る火力が無いから苦戦は免れない……」と語っていた処で急に何かに気付いたのか、超大型モニターに映し出された映像を指差して「あれっ!?」と叫んだ直後。

 

ボンプル高校のヤイカ隊長が冷静な声でこう答えたのだ。

 

 

 

「大洗の応援席の様子がおかしいわね」

 

 

 

 

 

 

其の時、大洗女子学園側の応援席では観客達が……

 

 

 

「黒森峰の卑怯者!」

 

 

 

「ヤークトティーガーなんて化け物を使うな!」

 

 

 

「俺達はそんなズルい手で勝つ試合を見る為に来たんじゃ無い!」

 

 

 

「「そうだ!帰れ!カ・エ・レ!」」

 

 

 

此れ迄の戦車道の試合では有り得ない様な凄まじいブーイングを超大型モニターに映し出された黒森峰の戦車隊目掛けてぶつけていた。

 

 

 

其の様子を受けて、試合会場内の実況席では実況担当の加登川アナウンサーが冷静な声で……

 

 

 

「解説の吉山さん、此処で黒森峰がヤークトティーガーを繰り出すのは戦車道のルール違反では無いのですが、大洗側のブーイングが凄いですね!」

 

 

 

と語り掛けた処、話を振られた吉山も落ち着いた声で……

 

 

 

「ルール上、黒森峰の攻撃は問題無いのですが、やはり応援席の方々やTVで此の試合を御覧の皆様には、今の場面が理不尽に見えるのは止むを得ないでしょうね」

 

 

 

と答えるが、其処へ同じく解説者の斎森が……

 

 

 

「ええ。実は隣に座って居る“トライアドプリム(凛・奈緒・加蓮)ス”の3人も凄く恐い顔で黒森峰の戦車隊を睨んでいるので、本当に黒森峰も不憫だなと……」

 

 

 

と語っていた処、其の当人達が自分を睨んでいるのに気付いた彼は慌て声で「あっ、済みません!」と謝った為、凛が呆れ声で「あ…当たり前じゃないですか!?」と叫ぶ光景が試合会場内の超大型モニターとTVの前で展開され、観客や視聴者の笑いを誘ったのであった。

 

 

 

其の後、試合会場内の超大型モニターや御茶の間のTV画面には黒森峰のティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の映像が映し出されると同時に、其の車長である逸見 エリカ副隊長が自信たっぷりに「此れが王者の戦いよ♪」と言い放つ声が流された。

 

ところが、此の“不用意な発言”が大洗女子学園応援団を刺激した結果、先ず某・埼玉の赤いユニフォームカラーで有名な“J”のクラブサポーター達が……

 

 

 

「「重戦車で相手を踏み潰す様な戦い方の何処が王者の戦いだ!サッカー日本代表だってこんな不細工な戦いはしないぞ!」」

 

 

 

と騒ぎ出したのだ。

 

更に彼らの隣に居た大洗町の近くに在る某・鹿のマークと赤いユニフォームカラーで有名な“J”のクラブサポーター達も呼応して、一斉に大ブーイングを仕掛ける。

 

 

 

「「此の日本の恥!黒森峰はもっと正々堂々と戦え!」」

 

 

 

しかも彼らは席の都合で黒森峰女学園側応援席の隣に居た為、思わぬ事が起きた。

 

彼らは黒森峰側応援団に向かってブーイングを叫ぶ形になり、其の結果…哀れ黒森峰側応援団は“J”サポーター達の勢いに飲まれてロクな応援が出来ず、意気消沈してしまったのである。

 

但し、此の時ブーイングをやっていた某・鹿のマークの“J”クラブサポーターの間ではこんな会話が交わされていた。

 

 

 

「だけどさあ、W杯のアジア一次予選でも有るじゃないか…どっかの弱小国相手に6対0とかで日本代表が勝つ試合が……」

 

 

 

「其れを言うなよ…其の弱小国だって、大洗女子と同じ位頑張っているじゃないか」

 

 

 

 

 

 

だが、応援合戦では大洗女子学園側応援団が黒森峰女学園を圧倒しているものの、肝心の試合は攻撃の勢いを増した黒森峰の前に再び大洗女子学園は苦しい戦いを強いられる状況となっていた。

 

特に重装甲と大火力で有名なヤークトティーガーやエレファント重駆逐戦車を前線に押し立てて来た黒森峰の攻撃は強烈で、其の強大な火力と防御力に対抗する手段を持たない大洗女子学園戦車道チーム側は次第に焦燥の色を濃くして行くのだった。

 

あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”では、自車の48口径75㎜徹甲弾が命中しても難無く弾き返してしまうヤークトティーガーの姿を見た砲手の華が思わず……

 

 

 

「硬い…!」

 

 

 

と絶句する一方、“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”の車内ではチームリーダー兼車長を務めるバレー部々長・磯辺 典子が悔し気な声で……

 

 

 

「折角此処迄来たのに…此の儘だと撃ち負ける!」

 

 

 

と叫び乍ら、黒森峰の戦車相手では威力が弱過ぎてほぼ無意味なのを承知で八九式の備砲で有る57㎜砲の砲弾を装填する。

 

更に“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”の車内では75㎜砲々手を担当する山郷あゆみが「流石、黒森峰……」と呻く中、仲間達も緊張の面持ちで黒森峰からの砲撃に耐えている。

 

そして“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”のチームリーダー兼車長の原園 嵐は……

 

 

 

『黒森峰の重戦車に対抗出来る火力が無い私達では、此の儘籠城戦を続けるのは不利だけど、既に包囲されている現状では此れ以上の打開策が見出せない…如何すれば良い?』

 

 

 

と悩み乍らも『もしも私が西住隊長の立場だったら、どうやって此の状況を打開するべきだろうか?』と考えを巡らせるのだった。

 

 

 

高台からの撃ち降ろし攻撃が効いて、撃破数では3輌対1輌とリードする形になった大洗女子学園だが、重戦車を押し立てた黒森峰女学園による力任せの攻撃の前に苦しい状況の儘、高地の戦いは続く。

 

 

 

(第93話、終わり)

*1
Ⅳ号戦車H型の主武装も48口径75㎜砲。但し、形式名称がヘッツァーの物はPak39でⅣ号戦車H型の物はKwK40と異なっているが、使用弾薬は共通である。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第93話をお送りしました。
前回の話を書いていて“百代は黒森峰の中では頭の回転が速くて能力も高いけど、此の決勝戦ではチームの役に立っていないし、其の力を発揮しようとしても大洗女子や隊長のみほに一歩先を行かれてしまっている”事に気付き、何故そうなるのかについて考えた結果、“大洗と黒森峰の戦車道の違い”と言う形である程度の考察は浮かんで来たのですが……
これを作中で描写出来る場所が上手く見付からなかった為、今回は高地攻防戦の直前でざっくりとだけ書く結果に。
ですので、次回以降で機会を見付けて、明美さん辺りに詳しく解説して貰おうかなと思ったり。

其れでは、世の中が沈滞している状況ですが、次回をお楽しみに。

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