戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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遂に、今回で全国大会決勝戦も最終盤。
原作以上の激戦となった此の戦い。
大洗女子の残存車輌があんこうチームのⅣ号だけなのは原作と同じだが、黒森峰はまほのティーガーⅠと小梅のパンターG後期型しかいない状況下。
果たして、最後の瞬間に生き残っているのはどっちだ!

尚、今回は“現実に起きたある歴史的瞬間”とクロスしており、此れが決勝戦での“伏線回収”にもなっておりますので、御楽しみ頂ければと。
ヒントは…タイトルを見れば分かる(爆)。

其れでは、どうぞ。



第105話「“翼をください”です!!」

 

 

 

「もう、此処から先は誰も西住姉妹の対決に割って入る者は居ません!」

 

 

 

第63回戦車道全国高校生大会決勝戦「県立大洗女子学園(茨城)対黒森峰女学園(熊本)」も最終局面へ突入する中、試合の実況を担当する首都テレビアナウンサー・加登川 幸太の声が試合会場内のスピーカーや御茶の間のTVから響き渡る。

 

其の実況に試合会場内の観客や全国の視聴者が注目する中、廃校舎入り口付近の戦闘で撃破されて白旗を揚げた大洗女子学園戦車道チームのM4A3E8“イージーエイト”から赤毛の少女・原園 嵐が飛び出す姿が実況映像でも伝えられていた。

 

そして彼女は廃校舎入り口で撃破された後、エンジンルームから火を吹いた儘擱座して居る黒森峰女学園戦車道チームの副隊長車(逸見 エリカ)ティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の近くへ駆け寄ると持参した消火器で消火作業を始める。

 

其の一部始終は試合会場内の超大型モニターやTV画面の前に映し出され、観客や全国の視聴者の注目を集めたのである。

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第105話「“翼をください”です!!」

 

 

 

 

 

 

其の数分前。

 

 

 

『皆、大丈夫!? 怪我とかはしていないよね!?』

 

 

 

最後の戦闘で黒森峰のパンター中戦車G後期(赤星 小梅車)型に愛車・M4A3E8(イージーエイト)を撃破された直後、私は“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”の仲間達に向けて安否を問うと、先ず砲手の野々坂 瑞希(ののっち)が……

 

 

 

「私は大丈夫!」

 

 

 

と叫ぶと、操縦手の萩岡 菫も「大丈夫だよ!」と答え、続いて装填手の二階堂 舞が「こっちも怪我はしていないよ!」と答えた後、最後に副操縦手の長沢 良恵が落ち着いた声で……

 

 

 

「大丈夫です。今回は()()()()()の顔も見なかったし!」

 

 

 

と答えてくれた…そう言えば彼女、1回戦の対サンダース大付属戦の終盤で“あんこうチーム(当時はⅣ号戦車D型)”を庇って撃破された時「私…地獄で一寸だけ、閻魔大王様の顔を見ました!*1」と叫んだ事が有ったのを思い出した私は小さく頷いてから『了解!』と答えた後、無線で“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”へ連絡を取った。

 

 

 

『“ニワトリ”より“あんこう”へ!此方は撃破されたけど、黒森峰のティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)を撃破して廃校舎入り口を塞ぎました!暫くは誰も入って来れないと思うので、此処から先は……』

 

 

 

と告げてから一呼吸置いた後、心を込めて……

 

 

 

()()()()で戦い抜いて下さい!以上!』

 

 

 

と叫んだ後、車外へ出る準備を始めたが、其処へ舞が……

 

 

 

「“()()()()”って、何処かの管理局の人(白い魔王(笑))みたいだね♪」

 

 

 

とツッコミを入れていたのに対して、私は文句を言う代わりに彼女へ向けて……

 

 

 

『舞、悪いけど消火器を頂戴!』

 

 

 

と告げた処、砲手席に座って居る瑞希が「如何したの?」と問い掛けた為、私は決意を込めた声でこう答えた。

 

 

 

『目の前のティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)が未だ燃えているから、消火作業に行って来る!』

 

 

 

 

 

 

此の時、黒森峰のメンバーの中で最初に嵐の行動に気付いたのは、愛車・ヤークトパンター駆逐戦車を嵐によって撃破された小島 エミ(直下さん)だった。

 

 

 

「あの()、一体何を!?」

 

 

 

彼女は撃破されたM4A3E8(イージーエイト)から降りてエリカのティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)に駆け寄る嵐の姿を見て訝しんだが、其処へ嵐のM4A3E8(イージーエイト)を撃破したパンター中戦車G後期型の車長・赤星 小梅が声を掛ける。

 

 

 

「あれは、原園さん!?」

 

 

 

其れに対してエミが「何だって!?」と叫んだ処、小梅は冷静な声で「エリカさんのティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)の火災を消し止めようとしているんだ!」と告げたのを聞いたエミは漸く目の前の状況を理解すると……

 

 

 

「そうか!なら、応援に行こう!」

 

 

 

と叫んだ後、小梅と一緒に夫々の仲間達に声を掛けてから、エリカ副隊長車(ティーガーⅡ)の消火作業へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

此の時、私は廃校舎の入り口内で撃破された黒森峰のティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)から立ち昇る黒煙を見乍ら……

 

 

 

『不味い…早く消さないとティーガーⅡの車体が熱で焼きなまされるから修復出来なくなる!』

 

 

 

と焦りつつ、持って来た消火器のレバーを操作しようとした時、黒森峰のパンツァージャケットを身に着けた少女が隣に駆け寄ると声を掛けて来た。

 

 

 

「手伝うわ!他の車輌の消火器も持って来たから使って!」

 

 

 

『はいっ!』

 

 

 

其の少女の声に対して、私も答えてから彼女と共に消火作業へ入る中、黒森峰のメンバーだけで無く、ナカジマ先輩達“レオポンさんチーム(ポルシェティーガー)”のメンバーも駆け付けて来て消火作業に加わる。

 

其の中の1人で、試合開始前に西住隊長に御礼を述べていた少女、赤星 小梅さんがティーガーⅡ(ケーニッヒティーガー)へ向けて……

 

 

 

副隊長(エリカ)、早く仲間を連れて脱出して下さい!」

 

 

 

と呼び掛けると、ティーガーⅡの車内から乗員が次々と降りて来ていた。

 

其れから間も無く大会本部が用意した消防車も到着して私達と共に消火作業を行った結果、黒森峰の副隊長車だったティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の火災は短時間で消火された。

 

 

 

『良かった…此の状態なら修理出来そう』

 

 

 

火災が消し止められたティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)の損傷状況を眺めた私は、車体の損傷が思ったよりも軽微で修理可能で有る事を確かめてから安堵していると、先程私に声を掛けて来た黒森峰の選手から……

 

 

 

「まあ、エンジンと変速機は交換しないと行けないけどね」

 

 

 

と話し掛けられた為、私は思わず恐縮した声で……

 

 

 

『御免なさい…でも、あの儘放って置いたら戦車が可哀そうじゃ無いですか。戦車だってキチンと修理されて、又動ける様になった方が幸せだと思うし』

 

 

 

と答えた処、黒森峰の選手は笑顔を浮かべると……

 

 

 

「貴女、本当に戦車が好きなんだね。TVでは“黒森峰をボコボコにする”とか言っていたから“何て生意気な事を言う奴だ”と思っていたけれど、見直したよ」

 

 

 

と答えてくれた為、私は思わず彼女へ向けて頭を下げた後……

 

 

 

『はいっ!其れとTVの記者会見の時は生意気な事を言って御免なさい!』

 

 

 

と謝罪したのだが、相手は「アハハ!」と笑った後、こんな事を言い出したのだ。

 

 

 

「でも、本当に私達をボコボコにしちゃったね。正直参ったよ!」

 

 

 

其の言葉に私は戸惑い乍らも……

 

 

 

『いえ、皆さんも本当に強いです!其方の隊長のまほさんも強いから、果たして私達が勝てるか如何か分からない……』

 

 

 

と話していた時、相手の選手は一言……

 

 

 

「こっちこそ、御免…決勝戦とは言え、私達が勝ったら大洗女子は廃校になっちゃうのでしょ?」

 

 

 

『はい…だけど、試合は試合ですから』

 

 

 

「そうだったね…あっ、私は2年の小島 エミ、宜しくね!」

 

 

 

『はいっ、私も改めて自己紹介します!私は大洗女子1年、原園 嵐です!』

 

 

 

と答えた処、黒森峰の他のメンバーからも話し掛けられている最中……

 

 

 

「原園 嵐…アンタ!?」

 

 

 

ティーガーⅡ重戦車(ケーニッヒティーガー)から降りて来た逸見 エリカ先輩が鬼の様な形相で私を睨み付けて来たのに気付いた黒森峰の選手(エミと小梅)達が一斉に「「あっ!?」」と叫ぶ中、逸見先輩は私へ向けて……

 

 

 

「まさか、後ろから……」

 

 

 

と口走った為、私は『逸見先輩』と話し掛けてから、こう反論した。

 

 

 

『私が貴女の戦車を後ろから撃ったのが悪いと言うのなら“まほさんとみほ先輩の対決を邪魔しようとした”貴女の行為はもっと悪いと思いますよ』

 

 

 

すると逸見先輩は「何ですって!?」と叫んだ為、私は落ち着いた声でこう指摘する。

 

 

 

『貴女は“自分達の隊長(西住 まほ)”を信じていないのですか?』

 

 

 

其れに対して小島さんと赤星さんが再び「「あっ!?」」と叫ぶ中、逸見先輩も「!?」と声にならない叫び声を上げた直後、現場に駆け付けて来た審判員の稲富 ひびきさんが……

 

 

 

「皆さん、此れから試合観戦の為に指定の待機場所へ向かいますよ!其れと赤星さんのパンターの乗員は未だ競技中だから、今直ぐ戦車に戻って下さい!」

 

 

 

と周囲に居た皆へ告げた為、私は『稲富審判、済みません。有難う御座います』と謝ってから、逸見先輩へ向けてこう返した。

 

 

 

『此処から先は待機場所に着いてから話しましょうか…多分、五代さんも居るでしょうし、其処でならキチンとした話が出来ると思います』

 

 

 

 

 

 

「みぽりん!“ニワトリさん”が入り口を塞いだから暫くは大丈夫だって!」

 

 

 

一方“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”の車内では、通信手・武部 沙織が車長兼チームリーダーの西住 みほ隊長へ状況を伝えた後……

 

 

 

「其れと“らんらん()”から最後の伝言が有って……」

 

 

 

と告げてから、大声で“嵐からの伝言”を伝えた。

 

 

 

「“全力全開で戦い抜いて下さい!”って!」

 

 

 

其れに対して、みほは明るい声で「うん、有難う!」と答えた後、心の中で「でも、やっぱり……」と呟き乍ら“最後の対決”へ向けて考えを素早く巡らせる。

 

 

 

「此の勝負、一撃を躱してから其の隙に距離を詰めるしか無い…原園さんや皆の頑張りに答える為にも」

 

 

 

そして覚悟を決めたみほは、車内に居る仲間達へ確認を取る。

 

 

 

「優花里さん、装填時間更に短縮って可能ですか?」

 

 

 

「はいっ、任せて下さい!」

 

 

 

頼れる装填手・秋山 優花里が元気良く返事をすると、同じく短期間で凄腕の砲手に成長した五十鈴 華がみほへ向けて毅然とした声で……

 

 

 

「行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でも良いので停止射撃の時間を下さい。確実に撃破して見せます」

 

 

 

と進言したのを聞いたみほは笑顔で頷くと、続いて……

 

 

 

「麻子さん、全速力で正面から一気に後部迄回り込めますか?」

 

 

 

と操縦手の冷泉 麻子へ問い掛けると、彼女は何時も通り眠そうな声で「履帯切れるぞ」と返して来たが、みほは真剣な声で……

 

 

 

「大丈夫。此処で決めるから」

 

 

 

と答えた処、麻子も「分かった」と答えたのを聞いたみほは車長用キューポラから顔を出すと目前に居るティーガーⅠ重戦車へ視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

此処は、廃校になった小学校内の小さな中庭。

 

其処には、先程迄壮絶な接近戦を演じていた大洗女子の隊長兼フラッグ車・Ⅳ号戦車H型仕様と黒森峰の隊長兼フラッグ車・ティーガーⅠ重戦車が睨み合っている。

 

そして大洗女子のⅣ号戦車H型仕様(あんこうチーム)の車内では華が……

 

 

 

「此の一撃は…皆の想いを込めた一撃」

 

 

 

と決意を込めた一言を呟く中、遂にみほが大声で……

 

 

 

「前進!」

 

 

 

と指示を下すと、大洗女子のⅣ号戦車H型仕様(あんこうチーム)が力強く動き出す。

 

其れに対してみほの姉・まほが駆る黒森峰のティーガーⅠ重戦車も反応して動き出す中、みほは“最後の戦い”へ向けて……

 

 

 

「グロリアーナの時は失敗したけど、今度は必ず!」

 

 

 

と決意した時だった。

 

 

 

“~♪”

 

 

 

みほの耳に“微かな歌声”が一瞬だけ聞こえて来た。

 

勿論、其の歌声はⅣ号のエンジン音で直ぐ搔き消されてしまったが、みほは其れだけで“応援席で何が起きているのか”を察していた。

 

 

 

「応援席の皆が…私達を励ましてくれている!」

 

 

 

 

 

 

此の時、みほが微かに聞いて居た歌は、大洗女子学園中等部3年で華の従妹でもある五十鈴 華恋が“みほ達・大洗女子の勝利の為に応援したい”と言う一心で考え抜いた結果、心を込めて歌い始めた曲だった。

 

其の曲は、華恋が「音楽教科書に度々掲載されていて、日本人なら老若男女問わず大抵の人が知っているから、応援席の御客さんも聞いてくれれば必ず一緒に歌ってくれるだろう」と言う理由で歌ったのである。

 

其の曲のタイトルは……

 

 

 

「翼をください」だった。

 

 

 

勿論、行き成り歌い出したから最初の内は誰も気付かなかったし、他に歌い出す人も居なかった。

 

何しろ、華恋の友人で有る武部 詩織・若狭 由良・鬼怒沢 光でさえも、彼女が歌い始めた時は呆気に取られて直ぐには反応出来なかったのだ。

 

其れでも、華恋は願いを込めて必死に歌っていた時、自分の隣から同じ歌を歌う声が聞こえて来る。

 

其れも、彼女にとっては聞き覚えの有る声が。

 

 

 

「!?」

 

 

 

其の声の正体に気付いた華恋は驚愕するが、途中で歌を止める事無く歌い続ける。

 

そう、華恋の近くに居た“大洗のアイドル”磯前 那珂ちゃんが彼女へ向けて笑顔で小さく頷き乍ら、一緒に歌ってくれていたのだ。

 

すると、那珂ちゃんの両親が勤めている児童養護施設で暮らしている子供達も元気一杯に歌い出した為、其れに釣られるかの様に大洗女子の生徒達や大洗女子側応援席に居る一般客のほぼ全員が大声で歌い始めた。

 

勿論、其の中には秋山 優花里の両親である淳五郎・好子夫妻や五十鈴 華の母・百合と五十鈴家の奉公人・新三郎の姿も在る。

 

其の上、応援席から少し離れた場所で試合観戦をしていた嵐の母・原園 明美や西住 しほを始めとする大人達やダージリンを始めとする各高校の戦車道チームメンバー達も応援歌を口ずさみ始めていた。

 

更に、此の歌声に気付いた首都テレビの実況カメラが大洗女子側応援席の様子を全国の御茶の間のTV画面に映し出すと、実況席に居る首都テレビの加登川 幸太アナウンサーから興奮気味のコメントが飛び出す。

 

 

 

「今、大洗女子学園側応援席から歌声が聞こえます!」

 

 

 

 

 

 

そして、其の歌声を応援席に居た“或る人達”が聞いた事で“此の試合最大の化学反応”が起きた。

 

 

 

「リーダー!此の歌は!」

 

 

 

歌声に気付いた古鷹 晶海が“J”のクラブ・水戸のサポータークラブ・リーダーへ向けて叫ぶと彼は「分かっている!大洗の()達は()()()()()()って事だ!」と叫び返した後、応援席に数千人は居る“J”のサポーター達へ“華恋達の歌の正体”を大声で告げた。

 

 

 

「御前達、忘れたか!今、大洗女子の()達が歌っている歌は、サッカー日本代表をW杯初出場へ導いた“あの歌”だ!

 

 

 

此の時、大洗女子の応援に駆け付けた“J”のサポーター達は“或る歴史的事実”を思い出した。

 

其れは1997年の出来事…1998年フランスW杯アジア最終予選・第三代表決定戦「日本対イラン」戦。

 

別名“ジョホールバルの歓喜”と呼ばれ、サッカー日本代表がW杯本戦初出場を決めた試合の事だが、偶然にも華恋が歌い始めた「翼をください」は“其の当時、サッカー日本代表の応援団が応援歌として使っていた*2”のだ。

 

其の事に気付いた“J”のサポーター達は興奮の頂点に達すると次々に叫び出す。

 

 

 

「畜生!大洗の()達、やってくれるじゃないか!」

 

 

 

「選手だけじゃない、生徒達も奇跡を信じて応援しているぞ!」

 

 

 

「よしっ、やってやるぞ!大洗女子の為に俺達がもう一度奇跡を起こしてやる!」

 

 

 

こうして、気合を入れた彼らが華恋達大洗女子応援団と一緒に歌い出した結果……

 

大洗女子応援団の歌声が他の観客達も巻き込んで、まるで地鳴りの様な勢いで試合会場内に轟き渡ったのだ。

 

其の歌声を聞いた実況席の加登川アナウンサーも、大声で大洗女子応援団の様子を伝え続ける。

 

 

 

「今、大洗女子の応援席から、今迄聞いた事が無い大合唱が聞こえます!応援席だけでなく観客の大半が“翼をください”を熱唱しています!」

 

 

 

其の応援歌の波は試合会場内の観客席を包み込んだだけで無く、何と対戦相手の黒森峰側応援団からも歌い出す者が現れた!

 

実は黒森峰の生徒の中にも、口には出せなかったが去年の大会決勝戦でみほが“大会十連覇よりも仲間の命を優先した”事を肯定する者が少なく無かった為、大洗女子学園側の歌声を聞いた時に自分達も我慢出来ずに歌い始めたのだった。

 

其れは実の処“群集心理が引き起こした途方も無い偶然の産物”だったが、其れ故に凄まじい効果を発揮した。

 

 

 

斯くして、日本戦車道の歴史上初めて「観客のほぼ全員が1つのチームの勝利を願って“応援歌”を歌い出す」と言う“前代未聞の伝説”が生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 

此処は試合会場の一角に在る、撃破された戦車乗員の集合場所の一つ。

 

其処で逸見先輩や五代 百代達、黒森峰女学園戦車道チームのメンバー(但し、赤星 小梅さんが率いるパンター中戦車G後期型の乗員は、未だ乗車が生き残っているのでフィールド内に留まっているが、廃校舎の入り口が塞がっているので両チームの隊長車同士の戦いに加わる事は出来ない)が、集合場所に置かれた小型のモニターで大洗女子を応援する観客達による「翼をください」を歌う姿を呆然と眺めて居る中、私は静かに語り始めた。

 

 

 

『父は生前“戦車道はね、試合に勝つ為にやるんじゃ無くて、戦車に関わる事で皆が仲良くなる為にやるんだよ”と皆に語っていました。でも其れが一体どんな形なのかが、私には中々分からなくて。今迄ずっと考えて来たけれど、今日の試合を戦って行く中で漸く分かった様な気がする』

 

 

 

其処で一旦言葉を切って深呼吸した後、私は話を続ける。

 

 

 

『父が願っていた“戦車道の試合の形”は、きっとこうだったんだと思う。試合を戦う選手だけじゃ無くて、応援している人や観戦して居る人達も一緒になって楽しんで熱中する光景』

 

 

 

其の言葉に、逸見先輩が無言で私を眺めて居るのに気付いた私はこう付け加えた。

 

 

 

『でも、其の為には“誰かが()()になってはいけない”んだ』

 

 

 

其の言葉を聞いた黒森峰の選手達が複雑そうな表情を見せているのに気付いた私は、更に話を続ける事にした。

 

 

 

『例え試合に勝つ為だとしても、そんな悲しい事なんて、此の試合を見に来ている人達は勿論、戦車道に関わっている人達は誰も望んでいないから』

 

 

 

其れに対して逸見先輩が「でも、貴女の御父様は……」と反論したので、私は落ち着いた声で『はい』と答えた後……

 

 

 

『父は戦車に轢かれそうになった男の子を救うのと引き換えに自分が戦車に轢かれてしまった。でも其れは結果であって、父はあの時“目の前の男の子を戦車道の犠牲にしてはいけない”と言う気持ちで一杯だったと思うのです。そうで無ければ父はあんな事はしなかったと思います』

 

 

 

其の言葉を聞いた逸見先輩が複雑な表情を浮かべ乍ら「そうね……」と呟いた後で頷いた時、彼女の補佐を務める百代が真剣な声で……

 

 

 

「じゃあ、貴女は“戦車道の試合を勝ち抜く為に必要な物”は何か、分かっているの?」

 

 

 

と問い掛けて来た為、私は小さく頷いてから彼女の問いに答えた。

 

 

 

『戦車道を戦うチームは互いを信頼し合っていないと戦えない…だけど“勝つ為に誰かを犠牲にする様な戦い方”では、次第に誰も隊長や仲間達の言う事を聞かなくなると思う。何時誰が“勝つ為の犠牲者”になってもおかしくないのだから当然だよ。そうなったら最後、皆が仲間を信じられなくなってチームは空中分解する』

 

 

 

其の言葉に、逸見先輩や百代を含めた黒森峰の選手達が黙り込む中、私は“戦車道で一番大事だと思う事”を語り始めた。

 

 

 

『だから、戦車道に一番必要なのは“犠牲”じゃ無くて“楽しさ”だと思う。少なく共、私達のチーム(大洗女子)西住隊長(みほ)は其れが戦車道では大切だと考え、私達も戦車道を心から楽しんで、此処迄やって来た』

 

 

 

すると百代が驚いた声で「戦車道に“楽しさ”が必要なの!?」と叫んだが、私は大きく頷き乍ら話を進めて行った。

 

 

 

『例え戦車道と言う“武道”であっても“楽しく”取り組む事が出来れば、素人でも積極的に練習を続けられるから短期間でも戦車道の技量は着実に上がるし、理解も深まる…そしてチームの皆が仲良くなるから互いを本気で信頼出来る。だから、私達大洗女子のメンバーの大半は戦車道の素人揃いなのに此処迄やって来れた』

 

 

 

其処へ、黒森峰の小島先輩が興味深そうな声で「其れって、単なる仲良しこよしじゃないよね?」と問い掛けて来たので、私は『はい。仰る通り、其れとは全く次元が違います』と答えた後……

 

 

 

『“真剣に楽しむからこそ、心から戦車道を理解出来る”と言う意味だし、其れ以上に大事な事が有るのです』

 

 

 

と語ると、不思議そうな表情を浮かべ乍ら話を聞いて居る黒森峰の選手達へ向けて、こう述べた。

 

 

 

『其れは“皆で楽しんでやれるからこそ、そして仲良くなれるからこそ、初めて心の底から仲間達を信じられる”。例え、試合でどんな結果になったとしても、仲間達と一緒に過ごした時間は自分達の記憶に一生涯残るから』

 

 

 

其れを聞いた黒森峰の選手達が呆然とした表情を浮かべているのを眺め乍ら、私はこう続けた。

 

 

 

『だから、私達大洗女子のメンバー全員は西住隊長(みほ)を信じて、隊長の御姉さんであるまほさんが駆る黒森峰フラッグ車(ティーガーⅠ)西住隊長(みほ)の一騎討ちに持ち込める様、全力を尽くして戦ったのです…其れしか、私達が黒森峰の皆さんに勝つ方法が無かったから。勿論、高校戦車道屈指の戦車長にして隊長であるまほさんに勝てる確率は低いと言うリスクを承知の上で』

 

 

 

すると話を聞いて居た逸見先輩が溜息混じりに……

 

 

 

「そうだったのね……」

 

 

 

と答えた直後、百代が驚きの声で「副隊長!?」と呼び掛けるが、逸見先輩は後悔共取れる声音でこう返した。

 

 

 

「漸く分かったわ。良く考えたら私達“いざとなれば犠牲になる覚悟が有る”と思い上がっていて、実は自分達の隊長の事を信じ切れていなかったのかも知れない」

 

 

 

彼女の告白を聞いた百代が驚きの声で「其れは!?」と叫ぶが、其れに対して小島先輩が冷静な声で「言われてみれば、そうかもね」と答えた後、皆に向かってこう問い掛けたのだ。

 

 

 

「だって、今みほは、まほ隊長と一騎討ちをしているけれど、確率的にはまほ隊長がみほを返り討ちにする可能性の方が高いでしょ。だけど原園さんは“其れでもみほを信じる”って言ったんだよね?」

 

 

 

其れに対して私は『はい』と答えた後、笑顔でこう答えた。

 

 

 

『だけど、私達が優勝出来る方法は其れしか無い以上、私達は最後迄西住隊長を信じて戦い抜くしか無いと覚悟していました。其れに、例え負けたとしても、其れは“まほさんの方が一枚上手だった”のであって、隊長(みほ)の責任では無いですから』

 

 

 

其れに対して、黒森峰の選手の1人が驚きの声で「何て覚悟……」と呟いた後、小島先輩が「まほ隊長の実力を認めた上で、其れでも僅かな可能性に賭けているのね」と答えたのに続いて、逸見先輩が「私も参ったわよ……」と呟いた後、私に向かって半ば呆れた様な声でこう答えたのが、今も私の記憶に残っている。

 

 

 

「まさか、みほが転校先の大洗で其処迄皆から慕われているだなんて、思っても居なかった」

 

 

 

そして、私は逸見先輩の言葉に対して、こう返答した。

 

 

 

『そして、私も西住先輩(みほ)と出会った事で、生まれて初めて戦車道が楽しいと思える様になって此処迄導かれた…だから、例え今日の試合に私達が負けて母校が廃校になったとしても私は戦車道を続けて行く。そう心に決めたんだ。西住先輩(みほ)の御陰で私はやっと戦車道が好きになれたから』

 

 

 

其の後、私は笑顔を浮かべ乍ら、此の言葉で黒森峰の選手達との会話を締め括った。

 

 

 

『だから、私にとっての戦車道は“皆で楽しんで、皆が仲良くなって、そして対戦相手も含めて皆が幸せになる為にやる”ものです』

 

 

 

其の直後、黒森峰のフラッグ車・ティーガーⅠ(西住 まほ)重戦車の後方へ勢い良く回り込み始めた“あんこうチーム(大洗女子フラッグ車)”のⅣ号戦車の履帯が吹き飛び、転輪が次々と脱落していく光景が小型モニターに映し出された。

 

其の実況映像を見た私と“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”の仲間達は、緊張し乍ら互いの手を握り合うと全員で「翼をください」を歌い始めた。

 

そして、私は“此れで負けたら、母校は廃校になる”と言う不安を感じずに歌い乍ら、モニターに映る実況映像を見詰める…何故ならⅣ号は履帯と転輪が吹き飛んだ状態でも慣性の法則で其の儘ティーガーⅠの後方へ回り込んで行くのが見えていたからだ。

 

そうする内に周囲に黒森峰の選手達から……

 

 

 

「Ⅳ号の動きが止まらない!」

 

 

 

「其の儘、西住隊長(まほ)車の後方へ回り込んで行く!」

 

 

 

「「撃った!」」

 

 

 

との絶叫が響く中、両車の発砲煙がモニター一杯に広がって何も見えなくなって行ったが、私は“西住隊長(みほ)なら勝負を決めてくれる!”と確信しつつも“でも相手はまほさんだ、何が起きてもおかしくない!”と考えつつ、覚悟を決めてモニターを見詰め続けていた。

 

そして、目の前の小型モニターに映し出された試合の結末を見た時、私は心の底から幸せな気持ちで声を出す事が出来た。

 

 

 

『ああ…良かった』

 

 

 

そして試合会場内のスピーカーから、此れ以上無い程の大声でアナウンスが響き渡った。

 

 

 

「大洗女子学園の勝利!」

 

 

 

 

 

 

(第105話、終わり)

 

 

*1
此の台詞については第41話「隊長は、絶対に守ります!!」を参照の事。

*2
此れ、歴史的事実です。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第105話をお送りしました。

遂に、全国大会の結末迄辿り着いた嵐ちゃん達ですが、今回は難産でした。
様々な理由で時間が取れず、しかも話の進め方が見えて来なかったのですが、其れが漸く形になったなと思った処で、もう締め切り直前…今度こそ助けて、ボコ!(爆)
とは言え、次回も決勝戦終了後のエピソードが残っていると言う有様ですが、何とかしたいと思います(白目)。

其れでは、次回もお楽しみに。
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