戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
どうも皆様、お久しぶりです。
先月末にPCを買い替えてから色々と四苦八苦しておりましたが、ようやく投稿出来ました。
それにしても、Win10ってツンデレなOSですねぇ…(でもSSDはマジ爆速で楽。付けて良かった)
そして、先日の西日本豪雨で被害を受けた皆様へお見舞い申し上げます。
(2018年7月21日記)
それでは、今回もどうぞ。
第10話「戦車の洗車です!!」
皆で戦車探しをした翌日。
戦車格納庫の前に、戦車道履修者が全員集まっていた。
彼女達の目の前には、昨日の戦車探しで発見した5輌の戦車が揃っている。
そんな中、河嶋 桃が5輌の戦車の形式名を確認していた。
「八九式中戦車甲型、38(t)軽戦車、M3中戦車リー、Ⅲ号突撃砲F型、それからⅣ号中戦車D型…どう振り分けますか?」
桃の質問に対して、生徒会長の角谷 杏は適当な口調で答える。
「見つけたもんが、見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」
「そんな事でいいんですかぁ?」
杏の発言に対して、小山 柚子が呆れ顔で答えた直後、桃は西住 みほへこう指示した。
「38(t)は我々が、お前達はⅣ号で」
「えっ…あっ、はい」
38(t)軽戦車は、みほ達のチームの五十鈴 華が見つけた戦車である。
従って、桃の指示は先程の杏の発言とは異なる為、みほは当惑したが、特に反論せず指示に従った。
引き続いて桃は、発見した各戦車の乗員のチーム分けを発表する。
「では、Ⅳ号Aチーム、八九式Bチーム、Ⅲ突Cチーム、M3 Dチーム、38(t)Eチーム…」
ちなみに各チームのメンバーだが、Aチームはみほ達普通Ⅰ科2年A組の3人に同じく2年生で戦車マニアの少女を加えた4人、Bチームはバレー部の4人、Cチームが2年生の歴女4人組、Dチームは澤 梓達仲良し1年生の6人、そしてEチームは生徒会トリオで構成されている。
だが、そのチーム分けには一つ、ある重大な問題点が隠されていた。
ここまで、私達・元「群馬みなかみタンカーズ」の面々は、河嶋先輩からの説明を聞いていた。
しかし、私と瑞希、菫は、初めから浮かない表情を浮かべている。
何故なら、私達は昨日……
ところが、その事をすっかり忘れていた舞が、ワクワクしながら空気を読まない発言をしてしまった。
「じゃあ、私達がFチームだね…って、あっ!!」
次の瞬間、菫が私達を促すと、全員申し訳無い顔で皆に謝罪した。
「「「『ゴメンなさい。私達…自分の戦車探すの忘れていました…』」」」
その理由を知っているDチーム以外の皆は、唖然とした表情で私達の謝罪を聞いていたが、それを見かねた梓が事情を説明する。
「嵐達は悪くないんです。彼女達は、昨日私達の戦車を探すのを手伝ってくれたのだけど、それで時間が無くなってしまって…」
梓の言う通り、私達は紗希がウサギ小屋で見掛けたM3中戦車リーを探すのに時間を取られ、結果的に自分達の戦車を探す暇が無くなってしまったのだ。
でも、自らの戦車を見付けられなかった責任が私達にあるのも事実なので、私は梓の肩に手を掛けながら、こう答えるしかなかった。
『ありがとう梓。でも、戦車を見付けられなかったのは私達の責任だから…』
そんな感じで、私達は全員世にも情け無い表情で俯いている。
さすがに、戦車道初日の授業が「戦車探し」だったのは想定外としても、経験者である私達の乗る戦車が無いと言う事態は予想出来なかっただけに、私はともかく瑞希達はかなり落ち込んでいる。
だが、河嶋先輩はそれを責める事無く、落ち着いた口調で説明を続けた。
「それはともかく、明日はいよいよ教官がお見えになる。粗相のない様、戦車を綺麗にするんだぞ」
一方、横に並んでいる武部先輩はニヤけた顔で「どんな人かなぁ♪」と呟いていた。
どうやら、明日来ると言う戦車道の教官の事を想像しているのだろう。
でも古来より「乙女の嗜み(私は認めないが)」とされている戦車道の教官に、男はまずいないのだが…それは言うまい。
すると武部先輩の隣で、西住先輩のファンらしい癖毛の強い少女がジト目で武部先輩を見ているのに気付いた…やれやれ。
そして、私達を除く全チームが自分達に割り当てられた戦車の方へ向かった時。
戦車の無い私達の前に河嶋先輩がやって来て、こう指示した。
「お前達Fチームは手分けして、他のチームの作業を手伝ってくれ。戦車探しは今後も続けるから、お前達も諦めるな」
河嶋先輩は、表情こそ真剣だが、戦車を見付けられなかった私達を責めるそぶりは一切見せなかった。
そして、私達が「はい」と挨拶したのを確かめた河嶋先輩が立ち去った後。
私は瑞希と菫、舞に向かって問い掛けた。
『じゃあ私達、どのチームの手伝いに行こうか?』
すると瑞希が、ようやく落ち着きを取り戻した表情で、私に話し掛けて来た。
「嵐…ホントは西住先輩の所へ行きたいのでしょ? 行って来ていいんだよ」
『えっ…でも』
確かに、本心は西住先輩のいるAチームへ行ってⅣ号戦車の洗車を手伝いたいけれど…自分のわがままで手伝いに行くのも良くないし…って言おうと思った時。
「大丈夫、私達はちゃんと作業するから」
菫がそう言うと、右腕に力こぶを作って見せる。
「憧れの先輩とお近づきになるチャンスだよ、嵐ちゃん~♪」
舞は、いつも通りの笑顔で、私の背中を押して来た。
そこへ、瑞希がニヤニヤしながら「さあ、行くよ♪」と話し掛けた後、私の手を繋いで歩き始めた。
『ちょ…ちょっと』
私の反論を無視するかの様に、私の手を引いて、西住先輩達のいるⅣ号戦車D型の前へ向かう瑞希。
その途中、Ⅲ号突撃砲F型の前を通ると、そこに集まっていた歴史系コスプレ…いや、歴女と思われるCチームメンバーの会話が耳に入って来た。
「砲塔が回らないな」
昨日の戦車探しの際に角谷会長へ質問をしていた、メンバーのリーダーらしい赤いマフラーを羽織った人が呟くと、坂本龍馬の服装を真似している人がこう語る。
「ゾウみたいぜよ」
すると、戦国武将として知られる真田家の家紋である“六文銭”をあしらった赤いバンダナを付けた人が「ぱお~ん」と象の鳴き声の真似をする。
そこへ、ロンメル元帥のコスプレをした金髪の人が釘を刺した。
「たわけ!! Ⅲ突は冬戦争でロシアの猛攻を押し返した凄い戦車なのだ、フィンランド人に謝りなさい!!」
すると他の3人は、ロンメル元帥の人が指差す方向へ頭を下げて「済みません!!」と謝っていた…が、その様子を見た私と瑞希は、思わず小声で「あー…」と漏らしてしまった。
何故なら、フィンランドとソ連との間で戦われた「冬戦争」は第二次世界大戦の勃発から3ヶ月目に当たる1939年11月から翌40年3月にかけて戦われたが、その当時、Ⅲ号突撃砲は試作を終えてから初期型の量産が始まる時期に当たるので、冬戦争に登場する事は出来ないのだ。
ちなみに、フィンランドがドイツからⅢ号突撃砲を導入したのは1943年7月から。
冬戦争終結後の1941年6月から1944年9月にかけて戦われた「継続戦争」中の事である。
私はそんな事を思い出しながら、瑞希に小さい声で問い掛けた。
「ロンメル元帥のコスプレをしている人、歴女デビューしたのは高校入ってからなのかな?」
対する瑞希は複雑な表情で、こう答えた。
「それ以前に、砲塔が無いⅢ突を戦車と言っている時点でお察し…ね」
幸い、私達の会話はCチームのメンバーには聞こえなかったらしい。
そしてAチームのいる場所に来た時。
ちょうど武部先輩がⅣ号戦車の車体フェンダー部を触っていた。
「うわぁ、ベタベタする~」
触った手にベタ付いた油や錆を見たのだろう、嫌そうな目で自分の掌を見ている。
その様子を見ていた五十鈴先輩も「これはやりがいがありそうですね」と語る。
そこへ、西住先輩が「これじゃあ、中も…」と心配そうに呟きながらⅣ号戦車へ駆け寄ると、一気に砲塔部まで昇って行った。
「おー、さすが」と、武部先輩が呟き、五十鈴先輩も感嘆している中、私は一緒に来た瑞希から離れて「失礼します」と2人の先輩へ断ってから、Ⅳ号戦車の左横で西住先輩を見守った。
すると、車長用キューポラから車内を眺めていた西住先輩が、思わず鼻をつまみながらも状態を確認している。
「ううっ…車内の水抜きをして、錆取りをしないと…古い塗装を剥がしてグリスアップもしなきゃあ」
ああ、やっぱり長年放置されていたみたいだから、これはしっかり磨かないとダメだね…と思った私は、西住先輩に声を掛けた。
『あの…西住先輩、失礼します。お手伝いに参りました、何か必要な物があれば…』
と、話し掛けたその時。
「あの、どなたでありますか?」
昨日から西住先輩の後ろでときめいていた、癖毛の強いナチュラルボブヘアの人が、車体上部から現れると不審そうな表情で私を睨んでいた。
これが、後の私にとって西住先輩の次に尊敬できる人となる、秋山 優花里先輩との最初の出会いだった。
「あ~、西住殿の後輩だったのでありますね、それは大変失礼をいたしました!!」
『いえ秋山先輩。私の方こそ、突然押しかけて来てしまって申し訳ありませんでした!!』
西住先輩の傍へ来た為に、秋山先輩から睨まれた私だったが、その場を救ってくれたのも西住先輩だった。
「秋山さん、その人は1年の原園 嵐さんと言って、私達の後輩だよ。だから安心して…あと原園さん、この人は秋山 優花里さんと言って私と同じ2年生。昨日の戦車探しの時から私達のチームに入ったのだけど、凄く戦車に詳しくて、多分原園さんとは話が合うと思うから仲良くしてあげてね」
この説明のおかげで、秋山先輩から嫌われずに済んだのは幸いだった。
そして、秋山先輩と私は互いに自己紹介をした後、今は一緒にⅣ号戦車D型の砲塔内部で、主砲や砲塔内部にある設備の磨き出し作業を行っている。
「でも、あれが五十鈴殿だとは思いもしませんでしたー」
『“水も滴るいい女”とは言うけれど、私、武部先輩がああ見えて、ちょっとイタズラ好きな所があるとは思わなかったです』
作業をしながら、私と秋山先輩は武部先輩がⅣ号戦車の洗車を始めた際、放水で五十鈴先輩をずぶ濡れにした事を話題にしていた。
「そうですね、西住殿も結構濡れてしまっていましたし」
『隣のCチームもノリノリでしたね。「高松城を水攻めじゃ!!」とか言っちゃって』
「『戦車と水と言えば、ノルマンディーのDD戦車でしょ!!』って話してた人もいましたね」
『それ、DDシャーマンですね。出撃したら高波ですぐ沈没しちゃった水陸両用戦車…』
すると、秋山先輩が思わぬ事を問い掛けて来た。
「鋭いですね、原園殿。さすがはこの春まで『群馬みなかみタンカーズ』のエースだった人は違います」
『えっ…?』
その瞬間、私はさっきまでの楽しい気分が吹き飛んでしまい、表情が硬くなってしまった……
『秋山先輩…先輩は戦車や戦車道の事に詳しいとは思っていましたけど、私の事も知っているのですね』
「あっ…はい。『群馬みなかみタンカーズ』は、日本では珍しい戦車道のクラブチームですから、色々と…去年の戦車道中学生大会で史上初めて、クラブチームで決勝戦まで進んだ時はTV中継を見ていましたし…」
だが、秋山先輩は私が辛そうな表情をしているのに気付いて、話すのを止めた。
そこで、私は辛い表情のまま、秋山先輩へ答える。
『ごめんなさい、秋山先輩…私、今はタンカーズでの事は余り思い出したくないんです』
「原園殿…」
心配そうに話し掛けて来る秋山先輩へ、私は済まなそうな顔でこう返事した。
『ここで戦車道を続ける事になったのも、実は色々あって…いずれはキチンと話したいのですが、今は気持ちの整理が付いていないので、もうしばらく待って下さい』
その時、通信手席で通信機等を磨いていた西住先輩が心配そうに私を見つめていたので、私は笑顔を無理に作って「大丈夫です、先輩」と話すと、操縦手席の方へ移動して作業を続ける事にした……
一方、Aチーム以外のチームによる戦車の清掃作業は、一目見ただけでは洗車なのか、少し時期の早い水浴びなのか、分からない状況になっていた。
特に、Dチームは大野 あやが他のメンバーを放水でびしょ濡れにした為、彼女達が着ている体操服が透けて下着が見えてしまうと言う、その場に男性がいたらトンでもない事になりそうな風景が展開されているが…ここは女子校なので心配する必要は無い。
そんな様子を眺めていた桃が、呆れた口調で皆へ呼び掛ける。
「今日は戦車を洗車すると言ったろう」
そこへ、干し芋を食べながら皆の様子を見ていた杏が話し掛けて来た。
「上手いねー、座布団1枚♪」
「決してそう言う意味で言ったのではありません」
桃は、駄洒落を言ったつもりは無いとばかりに、真面目な口調で杏へ反論したが、そこへ柚子が困り顔で2人に抗議する。
「それより、ちょっとは手伝って下さいよぉ…野々坂さん達は真面目に手伝ってくれているのに」
柚子の言う通り、生徒会メンバーで構成されるEチームの38(t)軽戦車は、杏と河嶋が皆の洗車の様子を見ているだけで何もしない為、柚子1人が洗車をする破目になっていたのを見かねたFチームの瑞希と菫、舞の3人が応援に来たのだ。
そんな生徒会トリオの掛け合いを見た菫は、呆れてこう呟いた。
「ここの手伝いに来たのは、正解だったね」
菫の意見に頷く舞。
だが、一緒に洗車をしていた瑞希は、何故か白のビキニ姿で洗車をしている柚子を眺めながら「でも…」と漏らしつつ、泣きそうな顔で愚痴を零した。
「小山先輩…それ、私達に対する当て付けですか?」
「えっ?」
思わず、柚子が瑞希に問い掛ける。
すると、瑞希は目に涙を浮かべながら、こう答えた。
「だって、私と舞はご覧の通りの“つるぺた平甲板”…なのに、何故神はこんな不平等をお許しになっているのか…」
そして、瑞希はどこかのオペラ歌手みたいに、ブラシを右手に持ったまま大仰に両手を広げてみせる。
「や…やだ…」
その瞬間、柚子は自分の豊かな胸を瑞希が心の底から羨んでいる事に気付き、顔を真っ赤にしながら、小声で恥ずかしそうに呟いた。
すると、瑞希と同じ体型である舞が、瑞希の隣に寄り添って、一言。
「ののっち、気持ちは分かるよ…私と一緒に泣こう!!」
次の瞬間、瑞希と舞は、突然の展開に当惑する柚子と呆れている菫から目を伏せると、しくしくと泣きながら両手で涙を拭っていた。
そんな頃。
「戦車の洗車」の様子を戦車格納庫の隅から覗き込んでいる2人の生徒がいた。
昨日、ウサギ小屋にあった戦車を探しに来た嵐と梓達を手伝った、農業科の長沢 良恵 (ながさわ・よしえ)と名取 佐智子(なとり・さちこ)である。
彼女達は1年生で、しかも実家が親戚同士でお隣さんと言う関係の為、生まれた時からの幼馴染である。
「戦車道、楽しそうだね…」
名取が小麦色の肌を持つ長沢に話し掛けると、彼女が答える。
「うん。戦車を探したり、水浴びしたり…やっぱり私達も戦車道やろうよ?」
しかし名取は諦め顔で、こう呟く。
「でも、戦車道履修者の募集、もう終わっているんじゃないかな?」
だが、そんな彼女を見た長沢は頬を膨らませて、こう言い返した。
「だって…戦車道に誘ったら『私もやりたいけれど、どんなものか分からないから選択出来ない』って言ったのは誰?」
すると、名取は「え、え~と…」と弁解するが、後が続かずに黙り込んでしまった。
実はこの2人、先日の生徒会によるオリエンテーション映像を見て、戦車道に興味を抱いたものの、その内容がよく理解出来ていなかった為、あと一歩の所で履修に踏み切れなかったのである。
しかし昨日、嵐と梓達の戦車探しを手伝った事で、戦車道への興味が再燃。
ウサギ小屋で戦車を見つけた後の彼女達の様子が知りたいと思い、自分達の授業から抜け出して、戦車格納庫までやって来たのだった。
そんな状況下で2人がヒソヒソと話し合っていた、その時。
「あ~、そこのお二人さん。もしかして戦車道をやってみたいのかなぁ?」
「「うわっ!!」」
驚く長沢と名取をよそに、背後から突然話し掛けて来た人物はこう語る。
「いや~、別に獲って食べようって訳じゃないよ…今『戦車道やりたいけれど、どんなものか分からない』って言ってたよね。じゃあ、それが分かるまで授業を見てから、戦車道を履修するかどうか決めたら良いよ。ウチもまだまだ履修者募集中だからね」
「「あ…はい」」
かくして2人は、その場で新たな戦車道履修者を狙っていた角谷会長に捕まったのだった。
そして、夕方。
一通り洗車が済んだ5輌の戦車を確認した桃が、皆へこう告げた。
「よしっ、いいだろう。後の整備は自動車部の部員に今晩中にやらせる。それでは、本日は解散!!」
「野々坂さん達、ありがとうね」
同じチームの杏と桃が38(t)の洗車をしなかった為に、1人で作業をする破目になった所へ助けに来てくれた瑞希達に、柚子が頭を下げて感謝を述べると、瑞希は「いえ、どういたしまして」と返事をする。
そして、同じチームの菫と舞と一緒に「こちらこそ、ありがとうございました」と挨拶をしたのを見た柚子は「ありがとう」と優しい表情で返事をすると、傍らにいた桃に向かって柔らかい口調だが、少々棘のある文句を言った。
「桃ちゃん…少しは瑞希ちゃん達を見習ってね」
文句を言われた当人は、少しばかりバツの悪い表情をしていたが、そこで柚子は近くにいる筈の会長の姿が見えない事に気付いた。
「あれ桃ちゃん、会長は?」
「会長は先程、新たな履修者が見つかりそうだと言って、倉庫の端の方へ向かわれたが…それより、桃ちゃんって言うな」
柚子の質問に対して桃が不満そうに答えた時、杏が見慣れない生徒を2人連れて帰って来た。
「あー、ゴメン。実は倉庫の端っこで授業を覗き見していた農業科の娘達がいたから、こっちで見学しても良いよって呼んで来たんだ…授業終わっちゃったけどね」
「そうだったのですか。では、私達の自己紹介だけでもしておきましょうか」
杏の説明を聞いた柚子は、その場で杏が連れて来た2人の1年生…良恵と佐智子に向かって話し掛けていた。
同じ頃。
Aチームでは「早くシャワー浴びたい…」と、沙織が疲れた表情で呟く中、優花里がみほへ「早く乗りたいですねー」と明るく話し掛けていた。
だが、みほは俯き加減にこう答える。
「あっ…でも原園さん達が」
みほの答えには、嵐達のチームが乗る戦車が無いと言う事実の他に、自分が戦車に乗るのにまだ迷いがあると言う部分も含まれていたのだが、それを聞いた優花里は「しまった」と言う表情で、嵐達Fチームへ視線を向けていた。
一方、私達のチームは途方に暮れていた。
「どうしよう…私達だけ戦車が無いよ」
舞が、目に涙を浮かべながら皆へ訴えている。
「明日には戦車道の教官が来るのに…どうする?」
菫も不安そうな表情で、私と瑞希に向かって問い掛けて来た。
だが、瑞希は困り顔で答えるのがやっとだ。
「そんな事を言ったって…今から探しても間に合わないし」
そんな仲間の様子を見た私は、溜息を吐きながら話し始める。
『しょうがないわね。戦車が無いなら、いっそ作るしかないでしょ。「オデッサ戦車」とかね』
すると、隣で私達の話を聞いていた秋山先輩が「『オデッサ戦車』…なかなかディープですね、原園殿!!」と、話に加わってきた。
だが、その話を聞いた瑞希達は、一斉に複雑な表情をする。
それを見た武部先輩が秋山先輩へ問い掛けて来た。
「ねえ秋山さん、『オデッサ戦車』って何? 嵐の友達が皆引いてるけど…」
すると秋山先輩は、素早く回答する。
「『オデッサ戦車』はですね、第二次大戦中のソ連で実際に製造された即席戦車なのであります」
そこへ今度は、五十鈴先輩がちょっと天然な質問をする。
「秋山さん…『即席戦車』って、カップラーメンみたいな物なのですか?」
その瞬間、秋山先輩は少し驚いた表情をしたが、すぐ立ち直って説明を続けた。
「五十鈴殿、さすがにお湯をかけたら3分で出来る訳では無いのですが…急造品には違いありません。第二次大戦の独ソ戦の序盤、ドイツ軍の奇襲で大量の戦車を失ったソ連軍は、現地で苦し紛れにトラクターを改造して装甲板や戦車砲、機関銃等を取り付け、即席の戦車として実戦投入したのです。『オデッサ戦車』はそんな戦車の一つであります」
すると、武部先輩が不思議そうな顔で問い掛けて来た。
「えっ…と言う事は『オデッサ戦車』の他にも、そんな手作りみたいな戦車があるの!?」
そこで、今度は私が秋山先輩の代わりに答える。
『武部先輩、その通りです。「オデッサ戦車」は1941年夏の独ソ戦で、オデッサと言う今はウクライナ領の都市がドイツ軍に包囲された時、そこの工場の人達が急造した戦車ですが、実は同じ頃にスターリングラードと言う街でもトラクターを改造した急造戦車が作られて、実戦にも使われているんです。こっちは「KhTZ-16」と言う名称が付いています』
嘘の様だが本当の史実を聞かされて、呆然としている武部・五十鈴両先輩。
すると瑞希が、嫌そうな顔をして私に反論する。
「ちょっと嵐…『戦車を作る』って、本気なの?」
そこで私は、ワザと真面目な口調で答えてやった。
『本気も何も、私はともかく瑞希達の戦車が無いなら、作るしか方法無いじゃない…それこそ有り合わせの部材で』
「えっ…それって、戦車道のレギュレーションでは試合に参加できないんじゃ?」
ここで、菫が正気を疑う様な表情で疑問を投げかけたが、私は親友達に向かってトドメを刺すつもりで答える。
『何を言っているの? 例えレギュレーションに適合出来なくても自前の戦車が無ければ練習にも参加できないんだよ? だったら見かけだけでもそれっぽい物を作った方がまだマシじゃん。そもそもこの学園に戦車道が無いなら自分達がやると言って、私を追いかけて来たのは誰だっけ?』
これに対して瑞希達だけではなく、隣で様子を見ていた秋山・武部両先輩も引きつった表情で「あ…あはは」と、小さな笑い声を上げている。
そして、同じく話を聞いていた五十鈴先輩と西住先輩までが、困惑した表情で互いの顔を見合わせていた、その時だった。
突然、力強いエンジン音と共に巨大なトレーラーが戦車格納庫の前にやって来た。
その姿を見た皆は、驚きながらもトレーラーを見つめている。
すると、秋山先輩が興奮しながら、その車両の形式を素早く見抜いた。
「これ、米陸軍が使っていたM25戦車運搬車“ドラゴンワゴン”ですよ!! 初めて本物を見ましたー!!」
だが私は、その姿を見て、ある事に気付いた。
『これは…母さんの工場の車だ!!』
車体には、小さく「原園車両整備(株)」と表示されていたのだ。
「「「「「「えーっ!?」」」」」」
私の声を聞いた、戦車道履修者全員が一斉に驚いている。
この時、私は背後で生徒会の面々が微笑を浮かべながら、到着したドラゴンワゴンを見つめているのに気付いた。
(第10話、終わり)
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
今回はアニメ版第2話の「戦車の洗車」のシーンをアレンジしてみましたが、いかがだったでしょうか。
そして、嵐ちゃんと秋山殿が初遭遇。
今後、共に西住殿を敬愛する2人がどういう関係になるかについても、期待して頂ければ幸いです。
あとご存知の方もおられると思いますが、嵐と秋山殿が話の中で触れていた「オデッサ戦車」「KhTZ-16」と言う急造戦車は実在しますので、暇があればググって頂けますと幸いです。
そして次回、遂に嵐達の乗る戦車が登場します。
嵐の母・明美が届けて来た戦車の正体とは?
そして、その戦車には嵐にとって大切な思い出が……
それでは、次回をお楽しみに。