戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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お待たせしました。
遂に今回、嵐達Fチームの乗る戦車が登場します。
そして、その戦車と嵐の間には、ある深い繋がりが……

それでは、どうぞ。




第11話「これが、私達の戦車です!!」

 

 

 

前日の戦車探しで自分達の戦車を見つける事が出来なかった、私達大洗女子学園・戦車道Fチーム。

 

私は『こうなったら、自分達で戦車を作るしかない』と言い出して皆を困惑させていたが、私自身、そうでもしないと明日からの練習に間に合わないと思っていた。

 

だが…そんな時、戦車道履修者全員が集まっていた戦車格納庫の前に突然、M25ドラゴンワゴン戦車運搬車が姿を現す。

 

しかも、その車体には私の母が経営する会社「原園車両整備(株)」の表記があったのだ。

 

 

 

 

 

 

戦車格納庫の前に到着したドラゴンワゴンから、母の工場の制服である白地に赤いラインが入った作業用ツナギを着用した人々が次々と降りて来る。

 

その先頭に立つ、黒いロングヘアーに眼鏡を掛けた清楚な印象の若い女性が、私に向かって呼び掛けて来た。

 

 

 

「お嬢様!!」

 

 

 

『ちょっと…“お嬢様”と呼ぶのは止めてよ。皆がいるのに…』

 

 

 

私は、嫌そうな声で彼女に返事をした。

 

母さんの工場に勤めている人で、私の事をそう呼ぶ人は1人しかいないからだ。

 

だが、相手はそんな事にお構いなく話し掛ける。

 

 

 

「何を仰っているのですか? 私にとってあなたは立派な『お嬢様』です。だって社長の1人娘ですもの」

 

 

 

すると、その言葉を聞いた戦車道履修者達が、一斉に私の周りに集まると色々な質問をぶつけて来た。

 

 

 

「お嬢様? 原園さん、本当なの?」

 

 

 

「あの車、お母さんの工場の車だって言っていたけれど、一体?」

 

 

 

「原園さんのご実家は、どんな会社を経営しているのだ?」

 

 

 

「それよりも嵐、あのお姉さんは誰なの?」

 

 

 

先輩・同級生・後輩を問わず、皆は私と私を「お嬢様」と呼んでいる女性の関係や私の実家の事で興味津々。

 

西住先輩に至っては「きれいな人…」と呟きながら、私と話をしていた人の姿に見惚れている…ああ。

 

そこへ、追い討ちを掛ける様にもう1人、私を知っている人が現れた。

 

 

 

「あはっ、嵐ちゃんモテモテだね。みなかみ町を出てから心配していたけれど、これならもう大丈夫かな?」

 

 

 

髪を大きな緑のリボンでポニーテールにしている、メロンの様な雰囲気を持つ明るい表情をした女性に向かって、私は大声でその名を呼んだ。

 

 

 

『張本さん!!』

 

 

 

「えへへ、お久しぶり~♪」

 

 

 

『えへへ、じゃないです!! 何も言わずに、いきなりトレーラーを学園に乗り付けて来るなんて…』

 

 

 

余りにあっけらかんとした口調で挨拶をする“張本さん”に向かって、私はつい怒鳴ってしまったが、彼女は悪びれずに笑顔を浮かべているだけだ。

 

それはともかく、突然の来訪者によって戦車格納庫の前は「戦車の洗車」をしていた時よりも騒がしくなって来た。

 

 

 

 

 

 

「お前達、静かにしろ!!」

 

 

 

 

 

 

ちょうどその時、河嶋先輩が大声で皆に呼び掛けて、その場を静かにさせると、角谷会長に話し掛ける。

 

 

 

「会長、ちょうど良いですから、説明も兼ねて自己紹介してもらいましょうか?」

 

 

 

「そうだね。じゃあお2人さん、お願いします」

 

 

 

角谷会長が河嶋先輩の提案を受け入れて、2人の女性に話し掛けると彼女達は丁寧な口調で自己紹介を始めた。

 

 

 

「皆さん初めまして、突然やって来てごめんなさいね。私は、株式会社原園車両整備で総務課長兼社長秘書を勤めている、淀川 清恵(よどがわ・きよえ)です」

 

 

 

「同じく、整備課で主任を勤めている、張本 夕子(はりもと・ゆうこ)です。皆、よろしくね!!」

 

 

 

すると、2人の自己紹介を聞いた山郷 あゆみが戸惑いながら質問をした。

 

 

 

「えっ…と言う事は、淀川さんは原園さんのお母さんの秘書で、張本さんは工場の従業員なのですか?」

 

 

 

その質問に対して、淀川さんと張本さんは澱みなく答える。

 

 

 

「はい、我が社の社長である原園 明美は、お嬢様の母上です」

 

 

 

「私も嵐ちゃんが小さい頃から、社長の下で戦車整備士として鍛えられて来たんだ。だから戦車と嵐ちゃんの事なら、何でも知っているよ♪」

 

 

 

「「「「「「おおっ!!」」」」」」

 

 

 

2人の発言に皆が驚嘆しているのを見せられた私は、本気で頭を抱えた…これじゃあ、私は皆から「お嬢様」扱いされて、これから親しく接して貰えなくなるかも知れないじゃない。

 

そんな私の様子を西住先輩達が心配そうに見つめる中、淀川さんが皆へこう告げた。

 

 

 

「私と張本は今後、社長である明美さんの代理として、時々この学園へ来ると思いますので、皆さんよろしくお願いしますね」

 

 

 

そこへ、武部先輩が淀川さんへ声を掛けて来た。

 

 

 

「あの…淀川さん、質問があります。今日は何の為に、私達の学園へ来られたのですか?」

 

 

 

その質問に対して、淀川さんは少し考えてから返答した。

 

 

 

「本日は、生徒会とお約束をしていた件でここへ来たのですが…生徒会長の角谷さん、もうこの件を話しても宜しいでしょうか?」

 

 

 

「うん…そうだね。この話は私が説明するよ」

 

 

 

淀川さんからの話を聞いた、角谷会長はそう返事をしてから説明を始めた。

 

 

 

「実はね、原園ちゃんのお母様である明美さんは、地元の群馬県みなかみ町で戦車道に使う戦車の整備工場を営んでいるんだ。更に、その工場の初代社長だった原園ちゃんのお父様・直之さんは、今から10年前に事故で他界されたのだけど、そのお父様がこの学園艦の出身で、生前は熱心な戦車道のファンだったと言う縁もあって、今回戦車道を復活させた我が校の支援者になってくれただけでなく、私達の為に戦車を1輌用意してくれたんだよ」

 

 

 

それに続いて、小山副会長が一言、補足説明をする。

 

 

 

「そして今日は、明美さんが私達の為に無償でリースしてくれる戦車が到着する日だったの」

 

 

 

「「「「「「おおっ!!!!」」」」」」

 

 

 

母がこの学園の戦車道の支援者になっただけでなく、新たな戦車まで持って来てくれたと言う話で、履修者全員は一斉にどよめく。

 

だが、そこへ梓が詰問する様な口調で質問をして来た。

 

 

 

「会長、何故それを今まで黙っていたのですか? 嵐達はさっきまで乗る戦車が無いって、あんなにガッカリしていたのに…」

 

 

 

すると、河嶋先輩が理由を説明する。

 

 

 

「今まで黙っていたのは悪かったが、下手にこの事を話せば原園達を特別扱いしていると誤解されかねないので、戦車が到着するまで皆には伏せるつもりだったのだ」

 

 

 

そして、角谷会長が真面目な表情で、こう皆に告げた。

 

 

 

「もちろん、私も経験者とは言え原園ちゃん達を特別扱いする気は一切無いよ。これは原園ちゃんのお母様の意思でもある」

 

 

 

その話を聞いた、バレー部の磯辺先輩が納得した表情で皆に語る。

 

 

 

「確かに、会長や河嶋先輩の言う通りですね。バレー部のキャプテンをしているから分かるけど、チームの中にそう言う人がいるとチームがバラバラになっちゃうから…もちろん原園は、そんな人じゃないのは分かっているけど」

 

 

 

一方、キャプテンの話を聞いているバレー部々員達は互いに「そうだね」と語り合いながら頷いている…確かめ様は無いが、バレー部が廃部となった裏には、その様な事情があったのかも知れない。

 

そして、話を聞いた会長は「うん」と呟いてからハッキリと頷き、皆もなるほどと、それぞれに納得していた。

 

 

 

 

 

 

その様子を見ていた淀川さんは、頃合を見てから、皆にこう告げた。

 

 

 

「それでは早速、私達がお届けした戦車をご覧頂きましょうか?」

 

 

 

「じゃあ淀川さん、今から準備しますね」

 

 

 

淀川さんの隣で控えていた張本さんがそう語ると、すぐさまトレーラーの方へ向かい、待機していた他の社員に指示を出す。

 

 

 

「で、その戦車とは、どんな物なのですか?」

 

 

 

2人の会話を聞いていた、秋山先輩が目を輝かせながら淀川さんへ問い掛けた、その時。

 

 

 

「それは見てのお楽しみ、だな」

 

 

 

女子高生ばかりが揃っているこの場所には、明らかに場違いな壮年の男性が突然現れて、秋山先輩に話し掛けて来た。

 

だが、私はその人が誰なのか、すぐに分かった。

 

 

 

『刈谷さんまで来ていたの!?』

 

 

 

「誰、このおじいちゃん?」

 

 

 

武部先輩が突然現れた、母の会社の作業用ツナギを着用しているおじさんの正体を私に尋ねていると、淀川さんと張本さんがそれぞれの言葉で紹介してくれた。

 

 

 

「この方は、私達の工場で工場長を勤めている、刈谷 藤兵衛(かりや・とうべえ)さん。お嬢様の父上である、初代社長の直之さんが自動車大学校に通っていた時の恩師なの」

 

 

 

「工場長はその後、世界ラリー選手権に参戦していた国内自動車メーカーのワークスチームのチーフメカニックに抜擢されてね、チームの世界タイトル獲得に貢献した程の凄腕整備士なんだ」

 

 

 

すると、刈谷さんは頭をかきながら、人懐っこそうな表情で話して来た。

 

 

 

「いやー、それはもう20年以上前の話だよ。しかし、社長から嬢ちゃんが戦車道に戻って来ると聞かされたから、今回は腕によりをかけてこの戦車を整備したんだ。嬢ちゃんが見たら、きっと驚くぞ」

 

 

 

『えっ…?』

 

 

 

私が見たら、驚く程の戦車を持って来た?

 

そう思いながら怪訝な表情をしていると、刈谷さんが笑いながら私に話し掛けて来た。

 

 

 

「おいおい、もしかして嬢ちゃんは、オデッサ戦車みたいな“手作り戦車”でも持って来ると思っていたのかい? 明美さんが嬢ちゃんの戦車道の為に、そんなケチな事をする訳が無いだろう?」

 

 

 

『うっ…』

 

 

 

ついさっきまで『戦車が無いなら、いっそオデッサ戦車でも作るしかない』と公言していた私は、刈谷さんにその心を見透かされた様な気がして、黙るしかなかった。

 

すると、淀川さんが戦車格納庫の前にある戦車達を眺めながら、刈谷さんへ語り掛ける。

 

 

 

「工場長、今ここに揃っている5輌の戦車もなかなか個性的ですけれど…」

 

 

 

「清恵ちゃん、ハッキリ言おうじゃないか。俺達が持って来た戦車が、ここにある中では一番強い!!」

 

 

 

「あの工場長、そこまで言い切ってしまうと周囲に波風が…」

 

 

 

淀川さんの語り掛けに対して、刈谷さんは笑みを浮かべながら身も蓋も無い事を言ったので、淀川さんは困り顔で反論していたが、その最中に、張本さんの声が響いて来た。

 

 

 

「工場長、準備できました!!」

 

 

 

「そうか。よし、カバーを外せ!!」

 

 

 

そして、刈谷さんの号令でトレーラーに掛けられていたカバーが一斉に外されて、搭載されている戦車の姿が見えた時。

 

皆がどよめき声を上げて、その戦車を見つめる中…私は、それを見て強い衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

『こ…これって…そんな!?』

 

 

 

 

 

 

何故なら…その戦車とは、私にとって父さんとの数少ない、そして一番の思い出だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは、今から10年前の夏。

 

父さんが“あの事故”で亡くなる少し前の出来事だった。

 

場所は、茨城県稲敷郡阿見町にある陸上自衛隊・土浦駐屯地。

 

両親が仕事の関係で駐屯地まで出張した時、私も一緒に連れて来たのだ。

 

その仕事の内容は今も知らないままだが、営門から入った後、母だけが駐屯地の建物に入って行き、私は父さんと一緒に、敷地内に展示されている三式中戦車や数々の火砲を見学していた。

 

当時5歳を迎えたばかりの私は、両親が戦車の整備をしている姿を物心付いた頃からずっと見ていたし、ドイツで戦車道のプロチームに所属していた母と実は小さい頃から戦車道が好きだった父さんから、戦車道について色々と聞かされていた。

 

だから、普通の女の子よりも戦車や戦車道に対する興味は持っていたけれど、その頃までは「戦車道をやってみたい」と思う所までには至っていなかった。

 

今思い返すと、当時の私はまだ幼くて「将来何になりたいか」と言うイメージがキチンと浮かんで来なかったのだと思う。

 

もしかしたら、父さんと母さんもその事に気付いていたから、私をここへ連れて来たのかも知れない。

 

 

 

そして、私と父さんは陸上自衛隊がこれまで運用して来た、あるいは現在運用している、様々な戦闘車輌が並んでいる場所を眺めながら、ゆっくり歩いていた。

 

すると、目の前に亀の様な姿をした戦車があったので、それに興味を持った私は、父さんに話し掛ける。

 

 

 

『お父さん~私、この戦車で戦車道やってみたい』

 

 

 

「う~んと、どれどれ?…ああ、これは『61式戦車』だね、残念。これは1945年以降に出来た戦車だから、戦車道には使えないんだ」

 

 

 

『え~っ、これじゃ戦車道できないの~?』

 

 

 

「うん。戦車道の規則では1945年8月15日までに設計が完了して、試作されていた車輌と、同じ時期にそれ等に搭載される予定だった部材を使用した車輌しか参加出来ないんだ」

 

 

 

『そうなんだ…』

 

 

 

目の前にある戦車では戦車道が出来ないと父さんから知らされて、ガッカリした私は、戦車道に使えそうな戦車が無いか探した。

 

だけど、61式戦車の次に並んでいる車輌は砲塔が無くて戦車に見えなかったり、砲塔はあっても別の種類の車輌だったりで、なかなか「戦車」が見つからない。

 

それに、最初に別の場所で見た三式中戦車は、当時の私の目からは強そうに見えなかったので、余り気に入らなかった。

 

まさか…それからずっと後になって、三式中戦車と一緒にチームを組んで戦車道の大会に挑む事になるとは、思っていなかったけどね。

 

 

 

『あっ、あれは?』

 

 

 

ようやく、戦車らしい形をした車輌を見つけた私は、それに近づいて眺めていたが、父さんはその車輌の前にある看板を見て、こう説明する。

 

 

 

「う~ん、これはね。『M36戦車駆逐車』と言って、第二次大戦の末期に登場しているから時期的には大丈夫なのだけど、砲塔の天井に屋根が無いから戦車道には使えないんだよ」

 

 

 

『え~っ、それも戦車道の規則なの?』

 

 

 

「うん、戦車道では砲弾が飛んで来るから、乗っている人の安全の為に屋根の無い車輌は使ってはいけない事になっているんだよ」

 

 

 

『あ~あ、戦車道に使える戦車、ここには無いのかなぁ…あっ』

 

 

 

次の瞬間、つまらなそうな気分で歩いていた私は、その場で石に躓いて転んでしまった。

 

 

 

「大丈夫かい、嵐!?」

 

 

 

『痛たた、ゴメンなさい、お父さん…あれっ?』

 

 

 

その時だった。

 

痛みを堪えて、起き上がろうとした私の目前に、1輌の戦車が山の様に聳え立っていた。

 

 

 

『山みたいな戦車がいる…』

 

 

 

その戦車の姿に圧倒された私は、ゆっくり立ち上がって振り向くと、後からついて来た父さんへ、この戦車について尋ねてみる事にした。

 

 

 

『…お父さん、この戦車何だろ? まるで山みたいにドッシリしているよ』

 

 

 

「じゃあ嵐、その戦車の傍にある看板を読んでごらん」

 

 

 

『え~っと、これ英語だね…「えむふぉー、えーすりー、いーえいと」?』

 

 

 

「うん、よく出来ました。この戦車は米国製でね、前線の将兵から『イージーエイト』って渾名で呼ばれていたんだ」

 

 

 

『いーじーえいと…何だか、カッコいいな♪』

 

 

 

父さんの話を聞いた私は、生まれて初めて「戦車はカッコいい」と思った。

 

そして、この山みたいなドッシリした姿の戦車が、大好きになった。

 

だから、次の瞬間。

 

私は、父さんに向かってこう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

『お父さん、私…大きくなったら、この戦車に乗って戦車道をやる!!』

 

 

 

 

 

 

すると、父さんは飛び切りの笑顔を私に見せながら大声を上げた。

 

 

 

「お~っ、嵐が初めて戦車道やるって言ったぞ!!」

 

 

 

「ホントだね、直之さん!! 嵐が戦車道をやるって言ったわ!!」

 

 

 

そこへいつの間にか、私達の所へ帰って来た母が父さんの隣で喜んでいる。

 

 

 

『あ~っ、お母さんもう帰って来たの?』

 

 

 

「えへへ、お仕事の方はもう終わったから、ちょっと前から覗き見していたんだよ~」

 

 

 

『え~っ、どこから見ていたの?』

 

 

 

「明美、嵐がシャーマンの前で転んだ辺りから心配そうに見ていただろ♪」

 

 

 

「正解~でも直之さん、やっぱりここへ連れて来て良かったわ。正直、嵐は戦車道が嫌いなのかなって思っていたから…」

 

 

 

『う~ん、戦車は工場でいつも見ているから嫌いじゃないけど、私でもちゃんと乗れるかなって思っていて、自信無かったから…でも、この戦車だったら楽しく戦車道が出来そう!!』

 

 

 

「明美、明日から嵐にキチンと教えてやろうよ、戦車と戦車道を!!」

 

 

 

「そうだね、でも直之さん、今晩はお赤飯だね~嵐が戦車道をやるって決めた記念日だもの!!」

 

 

 

 

 

 

この年も暑かった夏が終わろうとしていた、あの日。

 

確かに、あの時、私と両親の心は1輌の戦車を通じて、一つになっていた……

 

 

 

 

 

 

その戦車は…M4A3E8中戦車、通称「シャーマン・イージーエイト」。

 

第2次世界大戦中の米軍を代表する戦車である、M4シャーマンシリーズの大戦中における最終発展型である。

 

第2次大戦末期の欧州戦線最後の大規模な戦い「バルジの戦い」の終盤に実戦投入されて辛うじて大戦終結に間に合い、戦後は朝鮮戦争で活躍した後、NATO諸国等の親米的な国家に供与されて長い年月に渡り活躍を続け、草創期の陸上自衛隊でも使用されたのだ(だから、土浦駐屯地に展示されていた)。

 

飛び抜けた性能を持っている訳ではないが、M4シャーマンシリーズの一員らしく、高い信頼性とバランスの取れた性能を持つ名戦車である。

 

この戦車こそ、私が生まれて初めて「好きになった戦車」であり、それから間もなくして亡くなった父さんとの数少ない思い出でもあった。

 

そんな大切な戦車を…母はわざわざ皆に見せ付ける様にして、ここへ持ち込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

『母さん…いつも戦車道の事ばかり考えていて、私の事なんて、ちっとも構ってくれない癖に!! 何で、こんな事だけは覚えているのよっ!! しかも私と父さんの思い出の戦車をこんな所で、皆が見ている前で…うっ…うわあぁぁぁん!!』

 

 

 

 

 

 

私はこみ上げて来る感情を爆発させると、その場にへたり込んで、思い切り泣き出した。

 

その目からは、滝の様に涙が流れて行く。

 

皆は、突然泣き出した私を見て当惑しているが、私はもう、この状況に耐え切れない。

 

私にとって、一番大切な父さんとの思い出まで持ち出して戦車道へ連れ戻そうとする、母さんの卑怯者!!

 

これじゃあ、二度と戦車道から逃げ出す事なんて出来なくなるじゃない……

 

 

 

 

 

 

そして、私の事が心配になった西住先輩達が「大丈夫…?」と話し掛けて来るまで、私はずっと泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

西住先輩達が話し掛けてくれたおかげで、ようやく泣き止んだ私だったが、それからも半ば放心状態で、気が付けば瑞希達と一緒に、学園を出て帰宅の途に就いていた。

 

そんな折、瑞希が私達に話し掛けて来る。

 

 

 

「ああそうだ…悪いけど私、これから近所の戦車ショップに寄って、予約していた戦車の新刊本を取りに行くから、皆とはここで別れるね」

 

 

 

『ののっち…いいよ、一緒に行っても』

 

 

 

その時、私は甘える様な口調で瑞希に呟いた…本当は、ここで瑞希と別れたら、また辛くなって涙が出そうな予感がしたからだったのだけど。

 

だが、瑞希は首を横に振ると、諌める様に話す。

 

 

 

「ダメよ、嵐。さっきまであの戦車とお父様の事で、泣きじゃくっていたでしょ…戦車ショップに行ったら、また泣くわよ?」

 

 

 

「そうだよ。嵐って、強情な割に泣き上戸な所があるんだから。それに、まだ目が赤いし、表情も落ち着いていないよ?」

 

 

 

同じく、私の様子を見ていた菫が瑞希の考えに同意すると、舞も心配そうに語りかけて来た。

 

 

 

「うん、今日は私と菫ちゃんと一緒に帰ろう?」

 

 

 

『みんな…しょうがないな』

 

 

 

寂しいけれど、ここは皆の言う通りにしようかと思っていた、その時だった。

 

私達が歩いている歩道から左舷端に張り出している公園のベンチに、西住先輩達がいるではないか。

 

 

 

 

 

 

その次の瞬間、私は一気に元気を取り戻すと『西住先輩~!!』と声を掛けていた。

 

 

 

 

 

 

今振り返れば…あの時の私は、西住先輩達と語り合う事で、戦車道から逃げ出せなくなった自分に、何らかの救いを求めていたのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

(第11話、終わり)

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第11話をお送りしました。

遂に登場した、嵐達が乗る戦車「シャーマン・イージーエイト」。
何故シャーマンがと言う方もいらっしゃるかと思いますが、ちゃんと理由がありまして。
実は「戦車道のレギュレーションで出場可能な外国製中戦車の中で、唯一日本国内で実物が見られる」と言う理由で登場させています。
実際、今回の話の舞台となった土浦駐屯地の他、全国の数か所の陸自の駐屯地で見られる様です…残念ながら私は見に行った事は無いのですが。
まあ、ガルパンの某プロデューサーがシャーマン大好き人間だと言うのも登場理由の1つなのですけれども。

あと今回初登場した方の中に1人だけおじさんがいましたが…。
このおじさんこと『刈谷 藤兵衛』さん。
名前で気付いた方もいらっしゃると思いますが、この方のモデルは、昭和仮面ライダーシリーズの『立花 藤兵衛』こと『小林 昭二』さんです。
原園車両整備の社員の設定を考えている時「ワンポイントでおじさんがいると良いのでは?」と思い、インパクトのあるモデルを検討していた所、昭和仮面ライダーシリーズで多くの仮面ライダー達を見守り、生前最後の出演作となった(註・遺作は「八つ墓村」)映画「ガメラ2 レギオン襲来」を当時劇場で見た時、航空自衛隊三沢基地の先任空曹の役で語った台詞「今度は絶対に守ろうや」のシーンがフラッシュバックしまして「この人しかいないだろうな」と。
この方には今後、物語の中でもある重要な役割を担ってもらう予定ですので、注目して頂ければと思っています。

それでは、次回をお楽しみに。

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