戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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第63回戦車道大会総集編も劇場公開された、今日この頃。
おかげ様で、本作も去る10月8日に投稿開始から1周年を迎えました。
活動報告に1周年記念の書き込みをしておりますので、そちらも読んで頂けると幸いです。
また、出来ましたら本作を読んで頂いた後で、投票と評価も付けて頂ければ助かります。
それでは今後とも、本作をよろしくお願いいたします。



第13話「いよいよ、戦車に乗ります!?」

 

 

 

泣いたり笑ったり…色々な事があった、あの日の翌朝。

 

昨日と同じく戦車格納庫の前に集まったのは、私達戦車道履修生と会長が見つけて来た履修希望の見学者が2名。

 

今日は、陸上自衛隊・富士教導団から教官を招いて丸一日、戦車道の授業を行う予定だ。

 

しかし、今朝は西住先輩が遅れてやって来たので、私達は心配しながら先輩を待っていた。

 

 

 

「遅いから心配しました」

 

 

 

「私達も心配でした、何かあったのですか?」

 

 

 

「寝過ごしちゃって、つい…」

 

 

 

五十鈴先輩と瑞希が、それぞれ心配そうに出迎えると、西住先輩は済まなそうに謝っていたので、菫と舞もホッとした表情で答えていた。

 

 

 

「西住先輩が寝坊って、ちょっと意外ですね」

 

 

 

「でも、無事に来てくれて良かったです」

 

 

 

その様子を眺めながら、私はホッと安堵の吐息を吐いていた。

 

…だが、実を言うと私には、もう一つ心配事があったのだ。

 

 

 

「教官も遅い~、じらすなんて大人のテクニックだよねー」

 

 

 

それは、富士教導団からやって来る予定の(カッコいい男性)教官を待ちかねている、武部先輩が不満そうに一言漏らした時に現れた。

 

 

 

「あら、教官がまだ来ていないのかい?」

 

 

 

突然、目の前にジャージ姿の、熟女にしては背が高い長髪の女性がやって来たかと思うと、武部先輩へ話し掛けていた。

 

 

 

「あっ…おばさんは、確か?」

 

 

 

その女性に心当たりがあるらしい武部先輩が答える前に、五十鈴先輩が問い掛ける。

 

 

 

「あの、失礼ですがどなた様でしょうか?」

 

 

 

だが…その姿を見た私は、思わずこう口に出していた。

 

 

 

『大叔母さん? やっぱりここへ来たの!?』

 

 

 

「「「「大叔母さん!?」」」」

 

 

 

私の声を聞いた西住先輩達が一斉に驚くと、その女性…大叔母さんは、屈託の無い笑顔を浮かべると、皆に向かってこう答えた。

 

 

 

「ああ、先に名乗らなくて済まなかったね。私の名前は、原園 鷹代。嵐の大叔母…つまり、嵐の御祖父さんの妹でね。嵐が戦車道の授業で皆のお世話になっていると聞いて、ついここへ来てしまったのさ」

 

 

 

そう…私の心配事とは、この事だったのだ。

 

そこで、私も済まなそうな声で説明する。

 

 

 

『実は昨晩、今日は陸上自衛隊から教官がやって来て、戦車道の指導をしてくれるって話したら「何だって…それは心配だね。何なら私もついて行ってあげようか?」と言って聞かなかったの』

 

 

 

すると、鷹代さんが少し怒った顔で、私に文句を言う。

 

 

 

「嵐、余計な事は言わなくて良いんだよ。何でも殆どの娘達は、今日初めて戦車に乗ると言うじゃないか。ちゃんと教官が指導するのか、心配で仕方なかったんだよ…実は、私も戦車を知らない訳じゃないからね」

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 

自らの一言で、西住先輩達が不思議そうな反応をするのを余所に、鷹代さんは隣にいる角谷会長へ問い掛ける。

 

 

 

「おはよう、角谷さん。早速だけど、陸自から来るって言う教官はどうしたんだい?」

 

 

 

「もうすぐ来ると思いますよ?」

 

 

 

会長は、素早くそう答えた…但し、干し芋を食べながらだったが。

 

その姿を見た鷹代さんは、眉を顰めながらも、こう返す。

 

 

 

「おかしいねぇ…陸自の教官なら、普段は演習場の下見があるから、前日に使用する戦車と一緒にここへ着いている筈なんだが…ん?」

 

 

 

そこで、鷹代さんが何かに気付いて話すのを止めると、学園上空にジェットエンジンの音が響いて来た。

 

そして、普通科の校舎群方向から白い飛行機が高度を下げながら、こちらへ向かって飛んで来る。

 

その飛行機の姿を、胸に下げていたオペラグラスで確認した鷹代さんは、珍しく驚きの声を挙げた。

 

 

 

「空自のC-2改輸送機じゃないか。まだ岐阜基地で試験中の試作機が、何故ここに?」

 

 

 

すると、C-2改は高度を下げ続けながら機体後部のランプドアを開けて、何かを投下する態勢に入った…その次の瞬間。

 

C-2改は、私達のいる戦車格納庫手前の駐車場上空で突然、10式戦車をパラシュートで投下した!!

 

 

 

「10式戦車を空挺投下だと!?」

 

 

 

その姿を見た、鷹代さんが険しい表情で叫ぶ。

 

一方、投下された10式戦車はパラシュートでスピードを殺しつつも凄い勢いで地面を滑って行く内、駐車場の隅に停めてあった赤いスポーツカーに接触。

 

それを跳ね飛ばしてしまった。

 

 

 

「学園長の車が!!」

 

 

 

「あ~やっちゃったね~」

 

 

 

その様子を見て、悲鳴を挙げる小山先輩と干し芋を食べながら不真面目そうに呟く角谷会長。

 

しかも、悲劇はそれだけでは終わらない。

 

ようやく停止した10式戦車は、あろう事か、後ろで引っ繰り返っていた学園長の車目掛けて後進を掛けると、それを勢いよく踏み潰してしまった。

 

 

 

「ふぅ~♪」

 

 

 

「ああ…」

 

 

 

「ポテチ…」

 

 

 

見るも無残な姿になった学園長の車を見て、三者三様の感想を述べる生徒会トリオ…でも何故、河嶋先輩は大破した車を見て、ポテチに喩えたのだろうか?

 

しかし、その姿を見て一番の悲鳴を挙げたのは、菫だった。

 

 

 

「ああっ…フェラーリF40が!! エンツォおじ様が最後に手掛けた赤い跳ね馬がぁ!!」

 

 

 

そんな菫の悲鳴が余りにもマニアックだった為、周囲にいた全員が唖然としているのに気付いた舞が、仕方なさそうにフォローする。

 

 

 

「菫ちゃん、凄い車オタクだからね…」

 

 

 

「あっ…皆さん、ゴメンなさい」

 

 

 

舞のフォローで、自分がかなりのオタク発言をした事に気付いた菫は顔を真っ赤にすると、小声で皆に謝っていた。

 

その時、鷹代さんが憤懣遣る方無い顔で、独り言を呟く。

 

 

 

「思い出した…私の知る限り、こんな無茶をする馬鹿はこの世に1人しかおらん!!」

 

 

 

そして、鷹代さんは10式戦車が着地した駐車場へ向かって、足早に歩き出す。

 

もちろん、私達戦車道履修生も全員、鷹代さんの後に付いて行った。

 

 

 

 

 

 

駐車場の隅で学園長の車を踏み潰した10式戦車は、そこから急加速すると戦車格納庫からやって来た私達がいる運動場のフェンス近くで急停止した…そして。

 

 

 

「こんにちわ~」

 

 

 

10式戦車のキューポラから顔を出した陸自の隊員が挨拶した、次の瞬間。

 

私達よりも先に、運動場のフェンス際へ来ていた鷹代さんが、10式戦車のエンジン音にも負けない大声で怒鳴った。

 

 

 

「こら~っ!! 蝶野一尉、やはり貴様かぁ!?」

 

 

 

「え、ええっ!! 原園閣下、何故こちらへ!?」

 

 

 

大叔母さんの姿を見た、蝶野と言う名の一等陸尉は、仰天した表情で悲鳴を挙げると、その場で固まってしまった。

 

しかし、鷹代さんは相手の様子に構わず、説教を始める…これは相当怒っているなぁ、無理も無いけれど。

 

 

 

「閣下は止めんか、蝶野。もう退官して2年になる。それに、この学園艦は私の故郷だよ。ここに住んでいて何が悪い?」

 

 

 

「あっ…はい」

 

 

 

先程挨拶をした時の明るい顔とは打って変わり、シュンとした表情で鷹代さんの説教を聞いている蝶野一尉だが、鷹代さんの説教はここからが本番だった。

 

 

 

「しかし蝶野、貴様は相変わらずだな。幹部初級課程を受ける為に富士学校へ入校した頃から変わっとらん。空自が試験中の新型輸送機を無理矢理持ち出すわ、学園の駐車場に10式戦車をLAPES(低高度パラシュート展開システム)で投下するわ…」

 

 

 

そして、鷹代さんは駐車場の隅で大破している学園長の車を指差して、こう糾弾した。

 

 

 

「オマケにあれを見ろ!! 民間人の財産まで破壊しおって!! お前は公務員だぞ、特別職国家公務員。お前が乗車しとるのはエヴァンゲリオン初号機か?98式AVイングラムか?トラウマ持ちの中学生や新米不良警官達が主人公のロボットアニメじゃないんだよ…分かっとるのか本当に!?」

 

 

 

「も…申し訳ありません~」

 

 

 

かくして、蝶野と言う陸自幹部は、鷹代さんの長い説教の前に、涙目になりながら謝罪する破目になっていた……

 

その様子を戦車道履修者全員が唖然とした表情で眺めている中、何かに気付いたらしい西住先輩が小声で私に話し掛けて来た。

 

 

 

「原園さん、ちょっと聞いていいかな…原園さんの大叔母さんって、もしかして?」

 

 

 

さすがは西住先輩、鷹代さんの過去をすぐに察した様だ。

 

そこで、私は正直に答えた。

 

 

 

『はい…鷹代さんは、一昨年の春まで陸上自衛官だったのです。職種は機甲科で、主に北海道や九州の戦車部隊や富士教導団の指揮官をしていて、退官した時は富士学校の校長先生でした…』

 

 

 

すると、今度は秋山先輩が何か思い出したらしく、びっくりした表情で私に話し掛けて来た。

 

 

 

「えっ…まさか!? 原園殿の大叔母様とは、女性で初めて陸上自衛隊唯一の機甲師団である第7師団の師団長を勤められた、原園 鷹代陸将の事でありますか!?」

 

 

 

何と…大叔母さんがかつて所属していた部隊まで知っているとは。

 

さすがは秋山先輩、凄い知識だ。

 

 

 

『秋山先輩…その通りです』

 

 

 

私が観念した口調で返事をすると、感極まった秋山先輩は、突然私に抱き付いて来た。

 

 

 

「嬉しいであります~!! 『陸自のパットン将軍』とも称えられた方のご親戚が、自分の後輩だなんて、最高であります!!」

 

 

 

『あっ…これはどうも…』

 

 

 

この手の免疫が無い私だが、額に汗を掻きながらも何とか秋山先輩へ返事をした。

 

そこへ、鷹代さんが少し不満そうな顔で秋山先輩に話し掛ける。

 

 

 

「私は、パットンじゃなくてロンメル将軍に憧れて機甲科幹部になったのだけどねぇ…あれ? あんたは秋山理髪店のお嬢さんじゃないか? 好子さんは元気かい?」

 

 

 

「あっ…はい」

 

 

 

『大叔母さん、秋山先輩を知っていたの!?』

 

 

 

秋山先輩と鷹代さんの意外な繋がりを知った私が驚いて問い掛けると、鷹代さんは頷きながら答えてくれた。

 

 

 

「私は、いつも秋山理髪店で髪を整えているからね。それで、好子さんから自分の一人娘が相当戦車に詳しいと聞かされていたのだけど、本人には今日初めて会ったよ」

 

 

 

その答えを聞いて、私や西住先輩達以外の戦車道履修者も「ほう」「へぇ~」と納得している。

 

一方、やって来た教官が女性と知らされた、武部先輩は憮然とした表情で「騙された…」とこぼしていたが、それを大叔母さんは聞き逃さなかった。

 

 

 

「あら…誰かと思ったら、武部のお嬢ちゃんじゃないかい?」

 

 

 

すると、武部先輩が鷹代さんの顔を見て驚きながら、こう口に出した。

 

 

 

「あっ…思い出した!! この人、私の幼馴染のお婆ちゃんと友達だったんだ!!」

 

 

 

「「「え~っ!?」」」

 

 

 

かくして、鷹代さんと武部先輩は顔見知りだった事まで判明し、西住先輩達と一緒に私も驚いた。

 

そんな私達の姿を見た鷹代さんは苦笑いを浮かべながら、さっきの武部先輩の発言に関して、こんな事を言い出した。

 

 

 

「そうそう、私もやっと思い出したよ。それで武部ちゃん、まさか戦車道の教官は男だと思っていなかっただろうね? 乙女の嗜みである戦車道の指導者は、大抵女性だよ」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

戦車道に関心を持っている人なら知っている常識を初めて知らされた武部先輩は愕然となったが、隣にいる五十鈴先輩から「でも、教官も原園さんの大叔母様も素敵そうな方ですよね」と慰められていた。

 

但し、秋山先輩は「先程の会話を聞いていなければ、その通りでありますね…」と、小声で率直な感想を述べて、それを聞いた西住先輩も「あはは…」と微笑みながら冷や汗を掻いていたが。

 

そんな中、皆の前に立った鷹代さんが本人に代わって、蝶野教官の紹介を始めた。

 

 

 

「せっかくだから、私が彼女を紹介しよう…特別講師の富士教導団・機甲教導連隊所属の蝶野 亜美一等陸尉だ。さっきも見たと思うが、私が富士学校で指導した教え子の中では一番破天荒な奴でな…しかし、戦車道と戦車の扱いにかけては日本でも屈指の腕前を持っているから、戦車道と戦車の事なら何でも聞いてみなさい」

 

 

 

続いて、鷹代さんから「戦車道と戦車の扱いにかけては日本でも屈指の腕前」と褒められて、元気を取り戻した蝶野教官が、皆へ声を掛けた。

 

 

 

「今、原園元陸将から紹介に預かりました、蝶野 亜美です。皆よろしくね!! 戦車道は初めての人が多いと聞いていますが、一緒に頑張りましょう…」

 

 

 

だがこの時、履修者の中に西住先輩がいる事に気付いた蝶野教官は、急に西住先輩へ話し掛けて来る。

 

それは、私が内心恐れていた事態だった。

 

 

 

「…あれ? 西住師範のお嬢様じゃありません? 師範にはお世話になってるんです。お姉様もお元気?」

 

 

 

「ああっ…はい」

 

 

 

蝶野教官が西住先輩の実家について、無神経に話し掛けて来たので、西住先輩は困惑した表情でようやく答える。

 

すると、その話を聞いた皆が口々に西住先輩の事を詮索し始めたのだ。

 

 

 

「西住師範って…?」

 

 

 

「有名なの?」

 

 

 

ちょっと皆、西住先輩が嫌がっているでしょ、止めようよ…と、私が声を掛けようとした時、追い討ちを掛ける様に蝶野教官が喋り出した。

 

 

 

「西住流って言うのはね…」

 

 

 

『あのっ…』

 

 

 

半ば強引に、西住先輩が知られたくない事柄を喋ろうとする蝶野教官を見て、思わず私が話を遮ろうとした、次の瞬間。

 

恐い顔になった鷹代さんが、西住先輩と私達の目の前で蝶野一尉にヘッドロックを極めると、そのまま戦車格納庫の扉の前で後ろを向いたまま、蝶野一尉をしばらくの間、動けなくしてしまった……

 

 

 

 

 

 

実は、この時。

 

原園 鷹代は、ヘッドロックを極めたままの蝶野にだけ聞こえる小声で、彼女を叱っていた。

 

 

 

「蝶野…貴様も戦車道連盟の公認審判員だろ。去年の戦車道高校生大会決勝の後、みほちゃんに何があったのか、忘れたのか?」

 

 

 

「えっ…えっ~と」

 

 

 

「あの時、みほちゃんがどんなに辛い目にあったか、知らない訳じゃないだろ!? 以後、本件については別命あるまで口外を禁止する、分かったな?」

 

 

 

「あっ…はい」

 

 

 

但し、この2人の会話は小声だったので、他に内容を聞いた者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、鷹代さんと蝶野教官は、先程の一件を忘れたかの様に履修生達の方へ向き直ると、鷹代さんが問答無用と言う表情で皆に通告した。

 

 

 

「ああ諸君。今、蝶野教官が話された西住さんの件は個人情報に当たるので、一切忘れる事。尚、本件に関しては質問も口外も禁ずる。これ以外で何か質問は?」

 

 

 

その通告を聞いて、私は内心ホッとした。

 

大叔母さんは、西住先輩を守ろうとしているんだ……

 

そして西住先輩は、毅然とした表情で通告とした鷹代さんへ微笑むと、鷹代さんも西住先輩に向けてほんの僅かだけ口元を緩めていた。

 

一方、他の皆は鷹代さんによる有無を言わせない通告に唖然としていたが、その空気を変えようと思ったのか、通告を聞いてホッと胸を撫で下ろしていた武部先輩が手を挙げて、蝶野教官へ質問する。

 

 

 

「あの教官!教官はやっぱり、モテるんですか?」

 

 

 

「え? うーん…モテるというより、狙った的を外したことはないわ!! 撃破率は120%よ!!」

 

 

 

武部先輩…戦車道の教官相手に恋バナを振るのですか?

 

よっぽど恋愛に飢えているのかなぁ…と私が思っていたら、突然鷹代さんがこんな事を言い出した。

 

 

 

「あ~諸君。今の蝶野教官の回答だがな…先輩から補足すると、実は『過去12人の男性に告白して、全員に振られた』と言う意味だ」

 

 

 

「閣下ぁ~!!」

 

 

 

武部先輩からの質問に回答したせいで、自らの過去をバラされた蝶野教官は悲鳴を挙げたが、鷹代さんは「蝶野、本当の事だろうが。誤魔化すな…」と逆にツッコむと、更に追い討ちを掛ける様なエピソードを語り出した。

 

 

 

「…あと、貴様が北千歳の第71戦車連隊で戦車小隊長を勤めていた時、同僚の彼氏に手を出そうとしたのがバレて、官舎でその同僚と修羅場になっとったなぁ。今でも連隊の間では有名な話だぞ」

 

 

 

「閣下、止めて下さぁい~!!」

 

 

 

正直シャレにならない失態談までバラされた蝶野教官は、目の幅涙を流しながら鷹代さんに縋り付いていた。

 

 

 

「「「「「「あ…」」」」」」

 

 

 

自分の質問が原因で、教官のとんでもないエピソードを知ってしまった武部先輩以下、話を聞かされた皆は笑うに笑えない表情で蝶野教官と鷹代さんを眺めている。

 

中には、蝶野教官を哀れむ様な表情で見ている娘達もいた。

 

そんな中、ようやく正気を取り戻した秋山先輩が手を挙げて質問する。

 

 

 

「教官…!! 本日はどの様な練習を行うのでしょうか?」

 

 

 

だが、蝶野教官はまだ懲りていないのか、まさかの回答を寄越して来た。

 

 

 

「そうね、本格戦闘の練習試合、早速やってみましょう」

 

 

 

ちょっと待って…まさか、素人揃いの娘達にいきなり戦車戦の練習やらせるの!?

 

経験者である私や西住先輩だけでなく、皆も驚いてざわつく中、小山先輩が心配そうな表情で蝶野教官に問い掛けた。

 

 

 

「えっ!? あの、いきなりですか!?」

 

 

 

すると、蝶野教官は……

 

 

 

「大丈夫よ、何事も実戦、実戦!! 戦車なんてバーッと動かしてダーッと操作してドーンと撃てば良いんだから!!」

 

 

 

このぶっ飛んだ回答を聞かされた私は、開いた口が塞がらなかった。

 

少なくとも戦車と言う乗り物は、ゲームみたいに簡単に動かせる代物ではないからだ。

 

この人、本当に戦車道の教官なのだろうか…?

 

他の皆も、私と同じ思いなのだろうか、蝶野教官を見詰めながら呆然と突っ立っている。

 

だが…次の瞬間、話を聞いていた鷹代さんが蝶野教官の右肩を摑むと、再び恐い顔で説教を始めた。

 

 

 

「おい蝶野…今日初めて戦車に乗る娘達にいきなり練習試合だと!? サバゲーじゃないんだぞ、何を考えとるんだ貴様!?」

 

 

 

「えっ!?…でも」

 

 

 

またしても鷹代さんに詰め寄られた蝶野教官が困惑していた、その時。

 

 

 

「あの…鷹代さん。今日の教官は鷹代さんではなくて、蝶野一尉ですから…」

 

 

 

思わぬタイミングで、教官に助け舟を出す人が現れた。

 

昨日から母さんと入れ替わりでこの学園艦にやって来ていた、母さんの秘書の淀川 清恵さんだ。

 

 

 

「あら、誰かと思ったら清恵さんじゃないかい? 確か明美さんは一昨日の朝、ヘリコプターでここから陸へ帰って行ったわね」

 

 

 

「はい、明美さんはみなかみ町の会社の仕事が多忙なので、昨日から私が代理でこちらへ伺っています。工場長の刈谷さんも一緒です」

 

 

 

「なるほど。確かに清恵さんの言う通り、今日の教官は蝶野だったな…」

 

 

 

淀川さんから話を聞いた鷹代さんは、納得して小さく頷くと、蝶野教官に向き直ってから頭を下げて謝った。

 

 

 

「蝶野、済まなかった。予定をちゃんと組んでいるなら、その通りにやってくれ」

 

 

 

「いえ、閣下…」

 

 

 

「いや、もう退官したから閣下と言わんで言い。せめて先輩と呼んでくれ」

 

 

 

「あっ…はい、原園先輩」

 

 

 

そして、ようやく落ち着きを取り戻した蝶野教官は、地図を皆に見せるとやっと練習開始の指示を出した…が。

 

 

 

「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かって…じゃなくて、まずは戦車の基本的な乗り方を教えるから、それぞれの戦車の前に向かってね…ですよね、原園先輩?」

 

 

 

と言う訳で、またしても鷹代さんを怒らせそうな指示を出しそうになった蝶野教官から話を振られた鷹代さんは、困った顔で呟いた。

 

 

 

「やれやれ、しょうがないな…それじゃあ嵐ちゃん達、ここは皆の手本として、戦車の乗り方を見せてやってはくれまいか?」

 

 

 

「「「『あ…はい』」」」

 

 

 

いきなり、鷹代さんから戦車の乗り方の実演を頼まれた私達、群馬みなかみタンカーズの元メンバーは一瞬当惑した。

 

けれど、言われてみればこの中で戦車に乗った経験がある娘達は、私達4人と西住先輩しかいない。

 

そして西住先輩はまだ、あの去年の大会決勝戦の時に負った心の傷から完全に立ち直っていないであろう事は、先程の蝶野教官との遣り取りで容易に想像できた。

 

なら、私達4人がやるしかない。

 

 

 

『瑞希、菫、舞…M4シャーマンに乗るのは今日が初めてだけど、一緒にやろう。まずは私達経験者がお手本を見せて、皆に分かりやすい様に戦車の乗り方を見せてあげようよ』

 

 

 

「「「うん!!」」」

 

 

 

私の指示に、瑞希達が明るい表情で答えてくれるのを確かめてから、私は一瞬だけ西住先輩の方へ視線を向けると、西住先輩と目が合った。

 

その時、先輩は薄っすらと微笑を浮かべながら小さく頷いてくれた……

 

よしっ、今から先輩達の前でしっかり実演するぞ!!

 

 

 

そして私達、群馬みなかみタンカーズの元メンバー4人で編成された“Fチーム”は、成り行きで自分達に割り当てられたM4A3E8中戦車へ乗り込む準備を始める。

 

こうして、ようやく大洗女子学園で復活した戦車道最初の練習がスタートしたのだった。

 

 

 

(第13話、終わり)

 

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第13話をお送りしました。
ここからは、いつもより長い後書きになります。

実は今回、渾身のネタ回だったりします。
だって蝶野一尉が初登場時にやらかした事って、所属の違う空自の輸送機を勝手に持ち出すわ、周囲への危険を顧みず10式戦車を空中投下するわ、オマケに一般人の車を潰すわと、本来ならどれか一つでも懲戒免職確実の所業なんだもの、やだもー(笑)。
と言う訳で「これは本来、誰かが叱らないと駄目だよね」と、原作を見た時から思っていたので、この為に鷹代さんのキャラを作った様なものです。
元上官で、かつて自分の教官でもあった人から叱られないと、蝶野さんも反省しないだろうし(爆)。
と言う訳で、前回「鷹代さんはかつて北海道で仕事をしていた」と書いたのは、このフラグでした。

さて、今回その経歴が明かされた鷹代さんですが、彼女のモデルは艦これではなく、アニメ版「戦闘妖精雪風」のリディア・クーリィ准将です。
その理由はですね…アニメ版雪風のプロデューサーの1人に、ガルパンの某シャーマン大好きなプロデューサーさんがいるからです(実話)。
なお、鷹代さんと秋山殿のお母様(但し秋山殿本人と会うのはこれが初めて)、そして武部殿が顔見知りだった事が明かされましたが、特に後者に関しては当然「あの娘」と「おばあ」との関係も今後語られますので、ご期待下さい。

ちなみに、ここで鷹代さんが所属していた部隊について紹介して置きます。

第7師団:陸上自衛隊唯一の「機甲師団」。
司令部は北海道千歳市の東千歳駐屯地にある。
ざっくり言うと第71、72、73の3個戦車連隊と第11普通科(=歩兵)連隊、第7特科(=砲兵)連隊が戦力の中核で、一時はこの師団だけで300両近い戦車が配備されていた程、陸自の戦車の多くが集中配備されている。
ちなみに以前、西住殿と秋山殿の中の人がファンの方々と一緒に北海道イベントツアーを行った際、戦車試乗をやった部隊がここです。

富士学校:富士教導団の上部組織で、陸自の普通科(=歩兵)・特科(=砲兵)・機甲科(陸自では戦車乗員だけでなく偵察隊員も含む)の幹部(=将校)は、ここで一度は教育を受けると言う重要な場所。
所在地は、静岡県駿東郡小山町の富士駐屯地内。
鷹代さんは退官時、ここの校長だった。
ちなみに富士教導団は、富士学校にやって来た幹部学生への戦闘訓練支援が主な任務で、富士総合火力演習はその訓練支援の一環として行われる行事。
鷹代さんは実戦部隊だけでなく、富士教導団で教官として勤めていた経験も長いです。
更に富士教導団長を勤めていた事もあり、この頃に幹部学生(鷹代さんは「幹部初級課程」と言っているが、要は戦車小隊長になる為の教育を受ける学生の事)だった蝶野さんと知り合っている様です。
なお、富士学校の校長は方面総監(陸自に5つしかない「方面隊」の司令官に当たる役職)と同格とされており、師団長もしくはそれに相当する要職を勤めた陸将が任命される役職なので、この役職を勤めた鷹代さんは陸自でもかなり偉い人だったのです。
陸自でこれより上の人は、恐らく陸上幕僚長(一般的な軍隊で言う参謀総長)や陸上総隊司令官クラス位だと思います。

最後にもう一つ。
蝶野一尉の所属部隊が原作の「戦車教導隊」から「機甲教導連隊」に変わっていますが、実は富士教導団の戦車教導隊は2019年3月までに富士駐屯地から駒門駐屯地へ移駐の上、偵察教導隊(富士駐屯地)及び第1機甲教育隊(駒門駐屯地)と統合し、機甲教導連隊として再編成される予定の為、それに合わせて部隊名を変更しております。
ちょっとしたこだわりですが、ご了承ください。

それでは長くなりましたが、次回をお楽しみに。

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