戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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この所、風邪気味でしんどいであります…と言う訳で、早速ですが本編をどうぞ。



第15話「練習試合、続いています!!」

 

 

 

遂に始まった、私達・大洗女子学園戦車道チーム最初の練習試合。

 

 

 

序盤、バレー部員で構成されたBチームと歴女達Cチームが手を組んで、西住先輩達Aチームに攻撃を仕掛けるが、出発前の戦車格納庫で両チームのメンバーがその相談をしているのを偶然聞いていた瑞希からの情報で、私達は先輩達が戦っている現場へ急行。

 

そこで、吊り橋から落ちかねない状態で停止していたAチームのⅣ号戦車D型へ向けて、Ⅲ号突撃砲F型で砲撃を加えたCチームに対して怒りを感じた私は、吊り橋の上で戦いを再開したAチームの砲撃とタイミングを合わせて、Cチームの後方へ砲撃を加えてこれを撃破した。

 

実は…AチームのⅣ号戦車D型の24口径75㎜砲では、あの時正面にいたCチームのⅢ号突撃砲F型の正面装甲を貫通して撃破する事が出来ないから、手を貸してあげたんだけどね。

 

そして今度は、私達Fチームが囮役をやっている間に西住先輩達Aチームが、Bチームの八九式中戦車甲型を撃破した。

 

 

 

 

 

 

一方、Aチームがいる吊り橋の向こう側には、生徒会役員で構成されたEチームの38(t)軽戦車B/C型がAチームに接近しつつあった。

 

Eチームの後方には、梓達Dチームが乗るM3リー中戦車がいるが、こちらは戦況を静観している様だ。

 

そこで私は、即座にチームの皆へ指示を出した。

 

 

 

『Aチームは、まだ吊り橋の上にいるから自由に動けない…だから、次も私達が囮になって西住先輩達を援護するよ』

 

 

 

そこへ、菫が操縦席から大声で次の指示を仰ぐ。

 

 

 

「じゃあ、吊り橋が掛かっている谷まで近づいてみる?」

 

 

 

『うん、でも谷から落ちない様に余裕を持ってね』

 

 

 

私も菫に負けない位の大声で答えると、続けて舞と瑞希にも指示を出す。

 

 

 

『それから、舞は榴弾を用意して装填。瑞希は舞が装填次第、38(t)の手前で良いから榴弾を地面に当てて頂戴。それで生徒会を挑発してやるわ』

 

 

 

これに対して、舞は無言で頷くと弾庫から榴弾を取り出す。

 

そして、瑞希が不敵に笑いながら答えた。

 

 

 

「OK、嵐…生徒会の面々にたっぷり土を被せてあげるわよ♪」

 

 

 

『頼むわね』

 

 

 

頼りになる瑞希の一言に、私は人の悪い笑みを浮かべて返事をした。

 

入学前から、母さんとグルになって、無理矢理私を戦車道へ引き摺り戻した生徒会には、ここでちょっと戦車道の厳しさを教えてあげないとね……(笑)

 

 

 

 

 

 

こうして、嵐達Fチームが再び戦闘準備を整えていた時。

 

Eチームが駆る38(t)軽戦車B/C型の車内では、砲手となった河嶋 桃が不気味な笑みを浮かべながら、吊り橋の上にいるAチームを狙っていた。

 

 

 

「ふっふっふ…ここがお前等の死に場所だ!!」

 

 

 

戦車道の趣旨から考えると、些か不穏当な発言をしながら、砲の照準をAチームのⅣ号戦車D型へ合わせる桃。

 

だが、その時。

 

別方向から砲弾が飛んで来たかと思うと、砲弾は38(t)手前の地面に落ちて、盛大に炸裂。

 

38(t)は、砲弾の炸裂で巻き上がった土砂をたっぷりと被る破目になった。

 

この時、Aチームへの砲撃を邪魔されて頭に来た桃は、自分達の戦車に土砂を降り掛けた相手がFチームのM4A3E8であると知って、いきなり怒鳴り散らした。

 

 

 

「くっ…あれは原園か、小癪な奴め!!」

 

 

 

そもそも、桃にとって嵐は初対面の時から最悪の相手だった…これは、嵐にとっても同じだが。

 

戦車道へ勧誘する為に教室で嵐と初めて会った時、彼女は生徒会からの命令を頑なに拒否し続けた。

 

その翌日に起きた生徒会長室での口論では、敬愛する角谷会長を脅迫犯呼ばわりされただけでなく、それに同調した自分まで共犯者扱いされた。

 

さすがに、先日の戦車探しで嵐達が戦車を見付けられなかった時は、生徒会役員としての使命と上級生としての立場から嵐を非難せず、むしろ気を落とさない様にと諭したが、今となっては甘やかしたのではないかと思ってしまう。

 

要するに、今の桃には後輩の嵐が生意気に見えて、しょうがなかったのである。

 

かくして頭に血が上った桃は、38(t)の操縦手である小山 柚子からの「ちょっと桃ちゃん、落ち着いて!!」との呼びかけを無視し、FチームのM4A3E8目掛けて37㎜砲を発砲した…のだが。

 

 

 

 

 

 

『何…あのノーコン、一体誰が撃っているのよ?』

 

 

 

 

 

 

私達の挑発に対して、Eチームの38(t)軽戦車B/C型は、予想通り狙いを西住先輩達Aチームから私達へ変えて、攻撃を仕掛けて来た。

 

だが肝心の砲撃は、こちらから見て大きく左方向へ外れ、明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

 

まあ、38(t)の37㎜砲ではM4の正面装甲を撃ち抜く事は出来ない(至近距離だと側面は撃ち抜かれる可能性がある)事を知っているので、相手に車体正面さえ向けていれば、もし命中しても砲塔リングを撃ち抜かれない限りは大丈夫と踏んで、今回も囮役を買って出たのだけど…正直私は、相手砲手の下手くそぶりに呆れてしまった。

 

同じ初心者でも、バレー部の八九式はきちんとこっちの砲塔に命中させていたのになぁ…と思っている間に、西住先輩達のⅣ号戦車D型が、吊り橋の上から38(t)へ砲撃を加えた。

 

もちろん、こちらは見事命中。

 

Eチームの38(t)からは、白旗が上がっていた。

 

 

 

 

 

 

その頃、撃破されたEチームの38(t)軽戦車B/C型の車内では……

 

 

 

「あ~っ、やられちゃったね」

 

 

 

「桃ちゃん、ここで外す~?」

 

 

 

通信手席で何もしていない杏が、隣でへたり込んでいる桃に向かって呟くと、操縦手の柚子が自分の忠告を無視して発砲した結果、トンデモない外れ弾を出した桃を冷やかす様な台詞を口にする。

 

すると桃は、柚子から「ちゃん」付けで呼ばれたのが余程気に障ったのか、へたり込んだ姿勢のままジタバタしながら彼女に文句を言った。

 

 

 

「桃ちゃんと呼ぶなぁ~!!」

 

 

 

どうやら、生徒会は平常運転の様である……

 

 

 

 

 

 

一方、B・Cチームに続きEチームの38(t)軽戦車もあっさり撃破された姿を見たDチームは、パニックに陥った。

 

 

 

「やっぱ、西住流もみなかみタンカーズも半端ない~!!」

 

 

 

戦車長である梓が、Aチームと親友である嵐達Fチームの強さに驚愕の一言を発すると、M3リーが持つ37㎜副砲の砲手であるあやが「逃げよ、逃げよ~」とチームの皆へ呼び掛ける。

 

実は…彼女達Dチームは、戦車探しを手伝ってもらった縁で、嵐だけでなく瑞希達Fチームのメンバー全員から戦車道や群馬みなかみタンカーズの事について色々と聞いていたので、嵐達が戦車道で活躍していた事を知っていた。

 

更に出発前、みほの事を話そうとしていた蝶野教官が、嵐の大叔母である鷹代からヘッドロックを受けた光景を見て興味を持ったあやが、携帯電話で蝶野教官が話していた「西住流」を検索した所、日本有数の戦車道の家元であると言う事実も知っていたのである(但し、この時は検索に費やした時間が短かった為に、それ以上の事は分からなかった)。

 

だが、実際に目にしたみほと嵐の強さは、想像を遥かに超えていた。

 

その光景を目の当たりにして、逃げ腰になった彼女達はM3リー中戦車のエンジンを吹かして、この場を離れようとした。

 

その行為が、墓穴を掘る結果になるとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

Eチームを撃破して、これで残るは梓達Dチームのみ。

 

私は、DチームのM3リーを視界に捉えながら、自分に言い聞かせる様に呟く。

 

 

 

『梓達には悪いけれど、これも練習だからね…』

 

 

 

梓達には、既に戦車道の厳しさを伝えているだけに、少し可哀想だけど練習試合である以上、きちんと決着を付けなければと考えつつ、瑞希に指示して砲をM3リーへ向けた、正にその時だった。

 

照準器を覗いていた瑞希が報告する。

 

 

 

「あれ…梓達、ちょっと様子がおかしいわよ?」

 

 

 

『えっ?』と思いつつ、双眼鏡で前方のM3リーを改めて見詰めると、瑞希の報告内容がすぐに分かった。

 

 

 

『あ…まさか、泥濘でスタックした?』

 

 

 

梓達のM3リーは、林の端に停車していたのだが、どうやらそこに泥濘があったらしく、右側の履帯が泥濘にハマって抜け出せなくなってしまった様だ。

 

こちらからは距離があるので、それ以上の詳しい状況は分からないが、幾らエンジンを吹かしても履帯が空転して前進出来ない事はハッキリ分かる。

 

 

 

「あらら…」

 

 

 

砲弾を装填後、私と瑞希の会話を聞いていた舞が、装填手用ハッチを開けて砲塔から顔を出すと、ポカンとした表情で泥濘から抜け出そうと藻掻くDチームの光景を見詰めながら呟いていた。

 

だが…戦車は一般の想像とは異なり、一度泥濘にハマると自らの重量が仇になって動けなくなる。

 

その為、別の戦車か戦車回収車で引っ張り上げない限りは、まず自力で泥濘からは脱出出来ないのだ。

 

しかしその事を知らない、梓達のM3リーが更にエンジンを吹かして、強引に泥濘を抜け出そうとしているのに気付いた菫が悲鳴を上げる。

 

 

 

「あーっ、駄目だよ!! 動けないのにエンジンを吹かしたら!!」

 

 

 

だが菫の叫びも空しく、M3リーは次の瞬間エンジンルームから黒煙を吐くと、その場にへたり込んでしまった。

 

ここからは見えないが、多分履帯は、無理に泥濘から抜け出そうとした結果、切れてしまっているだろう……

 

 

 

「あ~あ、エンジンブローしちゃった…」

 

 

 

「せっかくレストアしたのに、またエンジン載せ替えかなぁ?」

 

 

 

舞がガッカリしながら梓達が自らの戦車のエンジンを壊した事を嘆いていると、菫は不安そうな表情で、レストアしたばかりなのにまた壊れたM3リーを心配していた。

 

 

 

しかし私は、エンジンブローした梓達Dチームの心配ばかりをする訳には行かなかった。

 

今、残っているチームは、私達Fチームの他は、西住先輩達Aチームのみ。

 

しかもAチームは吊り橋の上に居て、行動の自由が効かない状態だ。

 

そんな状態で自由に行動できる私達と試合を続ければ、結果は目に見えている…だけではない。

 

今Aチームがいる吊り橋は、ワイヤーの一部が切れている。

 

そんな所で砲撃戦を展開したら、AチームのⅣ号戦車D型が吊り橋から落ちかねない。

 

つまり、このまま試合を続けると危険なので、私は腹の底から大声を出して、西住先輩に向かって呼び掛けた。

 

 

 

『西住先輩、試合は一旦止めましょう!!』

 

 

 

「えっ?試合を止めちゃっていいの?」

 

 

 

私からの呼び掛けを聞いた西住先輩は、急に試合を中断する事を不思議に思ったのか、きょとんとした表情で答えて来た。

 

そこで、私は更に語り掛ける。

 

 

 

『このまま続けても、吊り橋の上にいる先輩達が圧倒的に不利なだけです』

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

自分達の状況が、非常に不利である事を指摘されたのに気付いて、驚く西住先輩。

 

そして私は、もう一つ大事な点を指摘する。

 

 

 

『それに、吊り橋のワイヤーが切れているから、このまま試合を続けたら、谷に落ちちゃうかも知れないじゃないですか?』

 

 

 

「うん…そうだね」

 

 

 

後輩が、自分達が危険な状態にある事を心配して試合を止めてくれたのだと知ったのか、西住先輩は私に向かって微笑を浮かべながら返事をしてくれた。

 

ホッとした私は、西住先輩へ向かってこう呼び掛ける。

 

 

 

『じゃあ先輩、今からその橋から落ちない様に、ゆっくりとこちら側へ渡って下さい』

 

 

 

「うん、心配してくれてありがとう」

 

 

 

『それでは、私は蝶野教官に状況を報告します』

 

 

 

笑顔で私の提案に同意してくれた西住先輩からの返事を聞いた私は、直ちに蝶野教官へ状況報告と意見具申をするべく、無線交信を始めた。

 

 

 

 

 

 

『蝶野教官、意見具申があります』

 

 

 

 

 

 

「何?」

 

 

 

『現在、BとC、DとEチームが白旗を上げて行動不能となり、残っているチームは西住先輩達Aチームと私達Fチームだけですが、Aチームは今、吊り橋の上で移動の自由が効きません。ですので、この状態で戦いを続けるのはフェアじゃないと思います』

 

 

 

そこで私は、一度言葉を切ってから報告を続ける。

 

 

 

『更に、現在Aチームのいる吊り橋はワイヤーの一部が切れていて、このまま試合を続けると転落事故が起きかねない危険な状態です』

 

 

 

「なるほど…」

 

 

 

蝶野教官は、私からの報告を聞いて考え込んでいる様なので、続けて自分の意見を述べる事にする。

 

 

 

『そこで提案ですが、試合を一旦中断して全員運動場に戻り、車輌の回収と整備補給をしてから演習場の別の場所で、改めて生き残った2チームによる一騎討ちをやるべきだと思います。今日は一日中戦車道の授業と聞いていますので、時間は充分あると思いますが、教官、いかがでしょうか?』

 

 

 

「う~ん…」

 

 

 

無線越しに聞こえる蝶野教官の声には、何か迷いがある様に感じられたので、少し不安を覚えた、その時。

 

無線に鷹代さんの声が割り込んで来た。

 

 

 

「嵐、よく言った。このまま試合を続けても西住さん達を危険に晒すだけだ…蝶野、ここは嵐の言う通りに一旦試合を止めて、別の場所で再試合をしようじゃないか?」

 

 

 

「あっ、はい」

 

 

 

教官の嘗ての上官である鷹代さんが説得してくれたおかげで、私の意見具申に納得してくれた蝶野教官は、改めて無線で皆に指示を出した。

 

 

 

「今、試合中だけれどFチームの原園さんから、このまま試合を続けると事故の恐れがあるとの報告があったので、ここで一旦試合を中断します。回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いて、戻って来て」

 

 

 

 

 

 

それから、およそ10分後。

 

 

 

「ゴメンね原園さん。私達が橋から落ちるかも知れないと心配して、試合を止めてくれて」

 

 

 

『いえ、こういう時って、試合中と言えども安全第一ですから』

 

 

 

今、私達は試合を中断した後、吊り橋を渡って来たAチームと共に、乗っていた戦車を撃破されて停車しているBチームとCチームメンバーが集まっている場所にいた。

 

教官からは戻る様に指示されてはいるが、念の為、回収班が来るのを待ってから学園の戦車格納庫へ戻るつもりだ。

 

一方、吊り橋の向こう側で撃破されているDチームとEチームにも、別の回収班が向かっている筈である。

 

 

 

こうして4つのチームのメンバーが集まった時、西住先輩は真っ先に、自分達を心配して試合を止めようとした私にお礼を言ってくれた。

 

その一言に、私は心の底からホッとした。

 

 

 

西住先輩はもちろんだと思うが、私も黒森峰や西住流の「あの師範」とは違う。

 

そもそも戦車道は戦争じゃないのだから、例え試合であっても犠牲者を出してまで勝とうだなんて、間違っている。

 

だから西住先輩も、あの決勝戦の時に10連覇よりも仲間の命を優先したのだと思う。

 

もちろん、試合に敗れた責任は負わなければならないだろうけれど…あの時、黒森峰や西住流の関係者が先輩に対してやった仕打ちは、正直度を越していたと思う。

 

副隊長解任だけならともかく、先輩が助けたⅢ号戦車J型の乗員を追放同然に転校するよう仕向けたとか、先輩本人にも嫌がらせがあったとか…幾ら何でも酷過ぎる。

 

しかもあの時、先輩は実の母親である西住流の師範に…いや、これについては正直何も言いたくない。

 

 

 

ならば、黒森峰や西住流の人達に、一度聞いてみたい事がある。

 

あそこで、Ⅲ号戦車の乗員はチーム10連覇の為の犠牲になればよかったの?

 

そして…10年前、子供の命と引き換えに戦車に轢かれて死んだ父さんは…一体、何の為に死んだの?

 

事故とは言え父さんの命を奪い、そして西住先輩をこの大洗へ追い遣った人達の答えが絶対に聞きたい。

 

でないと、私は……

 

 

 

そんな物思いに耽っていた時。

 

私の前に、Cチームのメンバーであるロンメル将軍のコスプレをした人が現れて、私に話し掛けて来た。

 

その両側には、Cチームの他のメンバーも並んでいる。

 

 

 

「原園 嵐さん、だったかな? 私はCチームの戦車長をやっている2年生の松本…いや、エルヴィンだ」

 

 

 

『エルヴィン先輩ですね。仰る通り、私が原園です』

 

 

 

「一つ聞きたいのだが…あの時、我々を真っ先に砲撃したのは、何故だ?」

 

 

 

『ああ、それはですね…』

 

 

 

エルヴィン先輩からの質問は、話し掛けられた時に内容が予想出来ていたので、言葉を選んで答えようとした時、瑞希が突然会話に割り込んで来た。

 

 

 

「その事ですか? 実は、バレー部の人達と秘密協定を結んでいたのを私が偶然聞いていまして…それを嵐に話したら、凄い勢いで前進しろって命令されたんですよ」

 

 

 

『ちょっと、ののっち!?』

 

 

 

私は、会話に割り込んだ瑞希に対して嗜める様に話し掛けたが、瑞希はそんな私の態度を気にせずに話し続ける。

 

 

 

「でも、橋の上で落ちそうになったⅣ号をⅢ突が砲撃した時『こんなの許せない』って口走って、Ⅲ突への攻撃を命じたのは嵐だよね?」

 

 

 

『あ…あれは、砲撃のショックで橋からⅣ号が落ちたら大変だと思ったから!!』

 

 

 

するとそこへ、菫が思わぬ事を言い出した。

 

 

 

「ホントは、愛する西住先輩に何かあったら許さないと思ったからだよね♪」

 

 

 

『ちょっと菫!! その言い方じゃあ皆が誤解するでしょ!?』

 

 

 

「え~っ? 嵐ちゃん、西住先輩にゾッコンなの皆知っているよ!?」

 

 

 

いや、菫…確かに西住先輩に何かあったら許さないと思って、Ⅲ突を後ろから砲撃してやろうと思ったけれど、その前に「愛する」は無いでしょ…と思いつつ、私が菫にツッコんだ途端、今度は舞がトンでもない発言をしたので、私は顔を真っ赤にして2人へ言い返した。

 

 

 

『舞、菫と一緒にそんな事を言っているから皆が誤解するのよ!! 私はそんな趣味無いから!!』

 

 

 

しかし私の反論に対して、2人だけでなく瑞希までがニヤニヤしながら聞き流している。

 

その為、周囲にいる皆も笑みを浮かべながら私の話を聞いている始末だ。

 

すると、私達の言い争いを聞いていたエルヴィン先輩が、笑うに笑えない表情で語る。

 

 

 

「な…なるほど。どうやら我々は『藪をつついて蛇を出してしまった』みたいだな…」

 

 

 

その一言で、自分達が真っ先に私達から攻撃された理由を納得してしまったらしいCチームの歴女の皆さんは、口を揃えてこう呟いた。

 

 

 

「「「それだ…!!」」」

 

 

 

その後、Cチームの先輩方だけでなくBチームのバレー部員達やAチームの先輩方までが、これまた複雑そうな笑顔で私を見詰めていたので、それに気付いた私は非常に恥ずかしくなった。

 

実はこの時、エルヴィン先輩を始めとする歴女先輩達とバレー部員達は、この光景を眺めながら全員「今後、原園達を敵に回すのは絶対に止めよう」と心に誓ったそうだが、もちろんこの時の私はそんな事を知る由もない。

 

 

 

と、そんな事で皆が盛り上がって、私が大恥を掻いていた時。

 

私達の頭上を、白い軽飛行機が高速で通過して行く。

 

そして、軽飛行機は学園へ向かって飛んで行ったかと思うと、間もなく着陸態勢に入ったらしく、徐々に高度を下げて行って、見えなくなった。

 

しかし、この学園に飛行場なんて無かった筈だけど…?

 

 

 

『何だろ?』

 

 

 

「小さい飛行機ですね、鳥みたい」

 

 

 

「みぽりん、あの飛行機は何だろう?」

 

 

 

「う~ん、よく見えなかったから分からないよ」

 

 

 

「西住殿、あれはフィーゼラーFi 156“シュトルヒ”だと思いますが?」

 

 

 

私がその飛行機の姿を目で追いながら呟いた時、西住先輩達だけでなく皆がそれぞれの言葉で「あれは一体何なのか」と口にしていたが、誰も明快な解答を持ってはいなかった。

 

この時私は、もうちょっとあの飛行機を注意深く見守るべきだったと後悔するのだが、それはまた後の話だ。

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

蝶野教官と共に、双眼鏡で各戦車の様子を確認していた鷹代は、嵐達Fチーム以外の履修生がごく短時間の操作練習だけで山中の演習場までキチンと到着しただけでなく、練習試合までこなした様子を見て、少なからず驚いていた。

 

 

 

「あの娘達…たったあれだけのレクチャーで、練習試合までこなせるとは、正直思わなかったよ」

 

 

 

「えっ、そうですか?」

 

 

 

自分の呟きを聞いて、思わず返答した蝶野一尉を、鷹代は胡散臭そうに見返しながら、こう指摘した。

 

 

 

「何をトボケとるんだ。陸自で3ヶ月間の前期教育を受けた新隊員が機甲科へ行ったら、戦車限定の大型特殊免許と戦車乗員としての特技を取る為に3ヶ月の教育期間をかけるだろうが。新隊員の後期教育と言うやつだ」

 

 

 

「あ…はい。確か、戦車道を始める娘達がマトモに隊列を組んで行進するまでに、同じく3ヶ月位かかると言われていますから…」

 

 

 

「そうだろ。普通は、初日の練習で戦車をキチンと動かせる所まで行かない筈なんだ。それが、経験者の嵐や西住さんだけならまだしも、他の素人娘達も戸惑ってはいたが、それなりに戦車を動かしただけでなく、試合までこなして見せた。もしかしたら…」

 

 

 

鷹代はそう語りながら、1年生で構成されたDチームのメンバーの1人であるツインテールで眼鏡を掛けた少女が、携帯電話を使って戦車の操縦方法を検索しようとしていたのを見た時の事を思い出した。

 

この時鷹代は、彼女を呼び止めて「お嬢ちゃん、ネットの情報に頼っていても分からない事は一杯あるよ。まずはこのマニュアルを皆でしっかり読むんだよ」と諭した後、戦車道連盟北関東支部から許可を得て持ち出した、M3リー中戦車の日本語版マニュアル(これは戦車道用に連盟が翻訳した物である)を渡していた。

 

あの時は「この調子では、彼女達が戦車を真面に動かすまで、どれ位の日数が掛かるだろうか…?」と心配していたが、やってみると彼女達は予想外のペースで戦車の操縦をマスターしつつある。

 

 

 

ひょっとすると、この学園の娘達は、戦車道の天才なのかも知れない……

 

 

 

鷹代がそこまで考えていた時。

 

戦車格納庫手前の運動場上空に軽快なエンジン音が響き渡ると、第二次大戦時にドイツ空軍が偵察兼連絡機として重用した事で知られる、フィーゼラーFi 156“シュトルヒ”が虹色のストライプと「Suou Petroleum Group」と書かれた青色のロゴを纏った白い姿を現して、学園の運動場へ着陸態勢に入った。

 

“シュトルヒ”は固定翼機ではあるが、抜きん出た短距離離着陸性能(STOL性能)を備えており、一説によると離陸には向かい風で50m、着陸には20mあれば十分であった、と言われている。

 

つまり、学校の運動場位の広場があれば離着陸出来るのである。

 

その様子を見た鷹代が、怪訝そうな表情を浮かべながら呟く。

 

 

 

「あのFi 156は、周防石油グループの専用機? まさか…」

 

 

 

「周防石油って、我が国の戦車道にも深く関わっている石油元売り大手ですよね?」

 

 

 

自身の言葉に頷きながら答える蝶野に向かって、鷹代は心配そうに語り掛けた。

 

 

 

「ああ…だとすると、何だか悪い予感がするんだけどね?」

 

 

 

その言葉を聞いた蝶野一尉が怪訝な表情をする中、運動場に着陸したFi 156から見覚えのある2人の女性が降りて来た。

 

その姿を見た鷹代は「悪い予感が当たったよ…」と蝶野に呟くと、珍しく頭を抱えるのであった。

 

 

 

(第15話、終わり)

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第15話をお送りしました。

さて早速ですが、次回はシュトルヒに乗って空からやって来た“誰かさん”のおかげで、練習試合がとんでもない展開を迎えます。
一体、何が起きるのか?
それでは、次回をお楽しみに。


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