戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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2018年最後の投稿になります。
この秋から毎月第3日曜日に投稿する事を決めて執筆していた所、予定よりもペースが進んだ為、今回は本編の臨時掲載と言う形になりました。
今後も執筆が上手く進めば、この様な形の投稿を続けたいと思います。
それでは皆様、年末年始の息抜きにどうぞ。



第16話「練習試合は、まさかの展開です!!」

 

 

 

西住先輩達Aチームが、ワイヤーの一部が切れている吊り橋から戦車ごと転落する危険があった為、蝶野教官に事情を説明して練習試合を一旦中断してもらった後、Aチームと私達Fチームはそれぞれの戦車に乗り、乗っていた戦車を撃破された他のチームよりも先に学園の戦車格納庫へ戻りつつあった。

 

この後は、格納庫で燃料や砲弾の補給と戦車の整備を行ってから、他のメンバーが集まるのを待って昼食を摂った後、午後から勝ち残った2チームで再試合を行う予定だ。

 

 

 

その道中、私は見覚えの無い人がAチームのⅣ号戦車D型を操縦しているのに気付いたので、西住先輩に尋ねてみた所、その人は冷泉 麻子さんと言って、武部先輩の幼馴染なのだそうだ。

 

何でも練習試合の時に、演習場内で夏目漱石の作品集を読みながら居眠りしていた所、危うくⅣ号戦車に轢かれそうになったが、飛び乗って事なきを得たと言う。

 

するとCチームからの砲撃で、本来操縦手だった五十鈴先輩が失神した際、何と自ら操縦マニュアルを一読しただけで戦車の操縦を覚えて、危機に陥っていたAチームを救ったのだそうだ。

 

もっとも当人は、操縦手のハッチから顔を出して外を見ながら「太陽が眩しい…」と呟きつつ、眠そうな顔でⅣ号を操縦しているのだが…あれ?

 

 

 

 

 

 

私…以前にこの人とどこかで、出会った事がある気がするのだけど?

 

 

 

 

 

 

いや、思い出せない…一体、何時の事だったかな?

 

 

 

 

 

 

そんな疑問を抱えながらも、その事ばかり考えていると事故を起こしかねないので、私はすぐ頭を切り替えて自分の戦車の周囲と安全に注意しながら前進を続けると、程なくして出発地点であった戦車格納庫に到着した。

 

すると格納庫前の校庭に、先程私達が集まっていた吊り橋前の草地上空を飛行していた白い軽飛行機…フィーゼラーFi 156“シュトルヒ”が着陸している。

 

その周囲には蝶野教官や鷹代さんだけでなく、戦車道を履修するかどうかを決める為、見学に来ていた農業科の長沢さんと名取さん、そして2人を見守る為に傍にいたのであろう、母さんの秘書の淀川さんも来ており、Fi 156から降りて来たらしい2人の女性と会話をしているのが見えた。

 

一方、私達がここを出発する時には格納庫の前にいた工場長の刈谷さんや張本さん達、原園車両整備の人や自動車部の部員は、撃破されたB~Eチームの戦車とメンバー回収の為に、ここにはいない様だ…と思いながら戦車を降りた、その時。

 

 

 

蝶野教官や鷹代さんと立ち話をしていた人が、突然私に向かって声を掛けた。

 

 

 

「嵐~、高校生になって初めての練習試合どうだった♪」

 

 

 

『か…母さん!?』

 

 

 

何と…声を掛けて来たのは、私の母親・原園 明美だったのだ。

 

まさか、ロシア製のヘリでこの学園艦を離れてから僅か2日で戻って来るとは!!

 

その次の瞬間、母の後ろに駐機している“シュトルヒ”に、虹色のストライプと「Suou Petroleum Group」のロゴが描かれているのに気付いた私は、思いっ切り後悔した。

 

あれは、周防石油グループ…母の親友の実家がオーナーである大企業の所有機ではないか…と言う事は、母と一緒に飛行機に乗ってやって来た人とは!?

 

何で、さっきアレが飛んでいるのを見た時に気付かなかったのよ、私の馬鹿!!

 

そんな感じで、私は心の中で自分を責めながらも母に向かって毒のある文句を言った。

 

 

 

『何しに来たのよ!? 学園の授業参観はまだ先の筈よ!?』

 

 

 

すると母は、皆に同情を買いたいのか涙目になりつつ(但し、ウソ泣きだろう)、悲し気な声音で泣き真似をしながら返事をした。

 

事実、その様子を見ていた鷹代さんは胡散臭そうな顔で、秘書の淀川さんは苦笑いを浮かべながら母の姿を眺めている。

 

 

 

「え~っ、だって今日がこのチームの初練習だって生徒会長さんから聞いたから、時間を作ってここへ来たのに…って、あら?」

 

 

 

そこで突然、母が話すのを止めると目線を私から外した。

 

その視線の先には、母と同年代と思われる長い黒髪が美しい女性が…何と、西住先輩に抱き付くと涙を流しながら喜んでいた。

 

 

 

「み…みほちゃん、会いたかった~!!」

 

 

 

「ふ…ふええっ!!」

 

 

 

いきなり抱き付かれた西住先輩は瞬間的に固まってしまい、どうしたら良いか分からなくなってしまっている。

 

また、この場にいる人達や丁度遅れて帰って来ていたB~Eチームの人達もこの光景を見て、唖然となっていた。

 

だが次の瞬間、私は西住先輩をフリーズさせてしまっている女性が自分のよく知っている人だと気付くと、その人に向かって怒鳴った。

 

 

 

『誰かと思ったら…母さんの親友である“長門さん”じゃないですか!! 西住先輩に何をしているんですか!?』

 

 

 

「だ…だってぇ、みほちゃんがいなくなってから随分心配したんだもの~」

 

 

 

こう私に反論しつつ、西住先輩に抱き付いたまま目の幅涙を流して泣いている母の親友…「周防 長門」さんに向かって、今度は母が憮然とした表情で問い掛けた。

 

 

 

「“ながもん”…あんた、もう子供を2人作っているでしょ?確か中学2年と小学6年だったっけ?」

 

 

 

「だって2人共、男の子なんだも~ん」

 

 

 

母からの問い掛けに対して、身も蓋もない返事をする“ながもん”の姿に、集まって来た履修生全員が呆れ果てていると、母も呆れた口調でこう指摘した。

 

 

 

「あんた…さすがは、みほさんが去年、熊本から離れて転校するって知った時『私がみほちゃんを養子に迎える!!』って言い出しただけの事はあるわね」

 

 

 

そこへ、この話を私達と一緒に最初から聞いていた秋山先輩が“ながもん”を警戒する表情で、私に問い掛けて来た。

 

 

 

「あの…原園殿、今西住殿に抱き付いている怪しい人は、何者なのでありますか?」

 

 

 

『秋山先輩…あの怪しい人は、周防 長門と言って、母さんの高校時代からの親友なんですけど』

 

 

 

「そこの2人、怪しい人って言うのは止めろ…」

 

 

 

ここで、私と秋山先輩の会話に気付いた長門さんが、ジト目で私達を睨みながら文句を言ったが、実は母の親友と言う事で、幼い頃から長門さんと親しくしている私は、逆にこう切り返した。

 

 

 

『周防さん、思いっ切り怪しいじゃないですか? 西住先輩、急に抱き付かれて固まっていますよ?』

 

 

 

そして秋山先輩も、西住先輩に抱き付いたままの長門さんを睨みながら詰問する。

 

 

 

「原園殿の言う通り、いきなり西住殿に抱き付くなんて、やっている事が怪しいです。一体、西住殿とはどう言うご関係なのですか!?」

 

 

 

「うっ…」

 

 

 

私と秋山先輩からの詰問を受け、涙目のまま狼狽えている長門さん。

 

だがここで、遅れて戦車格納庫に帰って来た後、私達の話を途中から聞いていた生徒会副会長の小山先輩が、驚いた顔で私に問い掛けて来た。

 

 

 

「原園さん、もしかして周防 長門さんって…あの周防石油グループ創業家所縁の方ですか!?」

 

 

 

さすが、小山先輩。

 

皆、長門さんが何者なのか分からずにいる所で、彼女の姓と“シュトルヒ”に描かれているロゴから、長門さんの正体の見当を付けた様だ。

 

そこで、私が詳しく説明する事にした。

 

 

 

『はい、小山先輩。長門さんは日本の石油元売り業界第2位である周防石油グループの創業家で、現在もグループの実質的なオーナーである周防家現当主の長女であると同時に、次期当主でもあるのです』

 

 

 

すると、小山先輩と共に戻って来ていた河嶋先輩と最初から話を聞いていた秋山先輩が同時に驚いて、私に話し掛けて来た。

 

 

 

「えっ…じゃあ原園、あの人は日本有数の大企業である周防石油グループの後継者なのか!?」

 

 

 

「原園殿、周防石油グループと言えば日本戦車道との関わりが深くて、学生・社会人を問わず戦車道大会のスポンサーや戦車道チームへの支援を長年行っている事で有名な大企業ですよね…? まさか、この怪しい人がその後継者?」

 

 

 

『その通りです』

 

 

 

「「「「「「え~っ!?」」」」」」

 

 

 

私の言葉に、履修生の皆が驚いていたその時、ようやく落ち着きを取り戻した西住先輩がこう付け加えた。

 

 

 

「実は…長門さんと私の実家は、明治時代の初め頃から深い交流があって、その繋がりで長門さんと私のお母さんは長年の友人同士なの。それで長門さんは、私が生まれた時から自分の娘みたいに可愛がってくれた人なんだ」

 

 

 

すると、母が更に一言付け加える。

 

 

 

「まあ彼女は、早い話がみほさんを可愛がり過ぎて、いつもストーカー紛いの事ばかりやっていた“変態”なのよ」

 

 

 

「変態言うな、あけみっち!!」

 

 

 

母の余計な一言に憤慨した長門さんが文句を言うが、母はニヤニヤ笑いながら長門さんをからかい始めた…これは、2人が口喧嘩をする時の典型的なパターンだ。

 

 

 

「いや、久しぶりに会った途端、すぐ抱き付いている時点で充分変態だって…よく言うでしょ? 『淑女と言う名の変態』って」

 

 

 

「それは『紳士という名の変態』だろ!? 勝手に言葉を作るな!!」

 

 

 

すると母は、両手を広げつつ長門さんに背を向けると、皆に向かってこう言った。

 

 

 

「と言った所で摑みはこの位にして、本題に入りましょうか…戦車を撃破されたチームの皆も、ここに集まって来た様だし」

 

 

 

「あけみっち…貴様!!」

 

 

 

「ながもん、悪いけれど異論も反論も聞かないわよ♪」

 

 

 

こうして、長門さんからの異論を封じた母は、皆の前で改めて自己紹介を始めた。

 

そう言えば、ここには生徒会長室での騒動の時にはいなかった履修生もいるから、その人達にも挨拶をするつもりだろう。

 

 

 

「さてと、これで全チーム戻って来たみたいね…早速ですがAチームとDチーム、そして生徒会の皆さん、こんにちは。そして他のチームの皆さんは初めまして。私はFチームの原園 嵐の母、明美と申します」

 

 

 

「「「「「「こ…こんにちは」」」」」」

 

 

 

いきなりの挨拶に、皆は当惑しながら返事をしたが、母は笑顔を浮かべて話を続ける。

 

 

 

「私の事は、昨日戦車を届けた時に会長の角谷さんから説明があったと思うので、詳しい事は省きますが、今回この学園で戦車道が復活する話を聞いて、皆さんの力になろうと決めました。それはこの学園艦で生まれ育ち、10年前に不慮の事故で亡くなった主人の直之さんとの約束だったし、私自身も戦車道が大好きだからね♪」

 

 

 

次の瞬間、年甲斐もなくウインクしたついでに、その年齢に不釣り合いな位の若々しい笑顔を見せた母は、こう語り掛けた。

 

 

 

「それでね、ここへ到着した時に練習試合が中断していたので、ここにおられる陸上自衛隊の蝶野 亜美教官から事情を聞いたら、ちょうどAチームとFチームの2輌が生き残っているので、この後、皆でお昼ご飯を食べてから2輌による再試合で決着を着ける予定だ、と聞いたのだけど…」

 

 

 

そこで一旦言葉を区切った後、母は笑顔のまま履修生の皆に向かって、こんな事を言い出した。

 

 

 

 

 

 

「皆、単純に試合をやるだけじゃ、面白くないと思わない?」

 

 

 

 

 

「「「「「「???」」」」」」

 

 

 

突然の母からの一言に皆が困惑していると、母は笑顔を保ちながら話を進める。

 

 

 

「特にAチームとFチーム以外の皆はこの後の再試合に参加出来ない訳だし…何だったら、戦車道と言えども皆で楽しくやりたいよね?」

 

 

 

「「「「「「……!!」」」」」」

 

 

 

私は、これが母による「悪魔の誘惑」であると気付いたのだが、再試合に参加出来ないメンバー達は顔を見合わせながらも、母からの提案を前向きに受け取ってしまっている……

 

マズイと思ったその時、私の悪い予感は見事的中した。

 

次の瞬間、母はこう口走ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、これから始まる再試合は…全校生徒全員参加の公開試合にしようと思います!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、私は大声で母に反論を始めた。

 

 

 

『ちょっと待て、母さん!!』

 

 

 

「嵐、悪いけれど異論も反論も聞かないわよ♪」

 

 

 

強引に反論を封じようとする母に対して、私も母を睨みながら言い返した。

 

 

 

『母さん…皆がいるのに勝手過ぎるわよ、教官でも無いのに!!』

 

 

 

さあ、ここから私と母の果てしない口論のスタートだ…と思ったその時、角谷会長が母さんに話し掛けて来た。

 

 

 

「あの~明美さん、今日初めての練習試合なのに、いきなり全校生徒に試合を見せるんですか? それはいきなり過ぎると思うんですけどね…?」

 

 

 

だが母は、澄ました顔を会長へ向けると、逆に問い掛ける。

 

 

 

「そうかしら、角谷さん? じゃあ聞くけど、今回戦車道履修者を募集して何人来たかしら?」

 

 

 

「えっと…」

 

 

 

母からの質問が意表を突く内容だったのか、角谷会長はバツの悪い顔をしながら考え込んでしまっている。

 

すると、そんな会長の姿を見た小山先輩が代わりに答えた。

 

 

 

「原園さん達Fチームの4人を除くと、21人。それに今日戦車道を履修するかどうか決める為に見学に来ている人が2人です」

 

 

 

実はこの時、Aチームにもう1人、偶然加わったメンバーがいるのだが、小山先輩はまだそれに気づいていない。

 

尤もその人は、戦車道を履修するかどうか、まだ分からないのだが……

 

それはともかく、母は小山先輩の答えに頷くと、ある事実を指摘した。

 

 

 

「そう、そしてこの学校は高等部だけで9000人程いるわよね。なのに戦車道履修希望者が高等部全体の1%にも満たなかった…それはやはり、戦車道がどんなものか分からないから履修したいと決められなかった人が大半だったからじゃないかしら?」

 

 

 

「「「は…はあ」」」

 

 

 

痛い所を突かれた生徒会の面々は、母の説明に同意するしかない。

 

ああ…何時もの事だが、母に文句や異論を言うと、それが誰であろうが、あの様に母からの論理的な反論で常に論破されてしまうのがオチなのだ。

 

そこへ、角谷会長の傍らで話を聞いていた河嶋先輩が、複雑な表情で一言付け加える。

 

 

 

「確かに、明美さんの仰る通りですね…戦車道履修者の募集は派手にやりましたが、戦車道の説明については広報用映画を見せるだけに留まりましたから」

 

 

 

すると母は生徒会の3人の前でウンウンと頷くと、回れ右をして私達に向き合うや否や胸を張ってこう提案した。

 

 

 

「なら、今からやる事は一つ!! 戦車道がどんなものか実際に、全校生徒の前で実演するのよ!!」

 

 

 

「「「「「「おおっ!!」」」」」」

 

 

 

母からの提案を聞かされた履修生全員が騒然となる。

 

 

 

「ですが、今から公開試合をやっても…」

 

 

 

ここで、小山先輩が不安そうな表情で口を挟んだが、母は小山先輩の前で人差し指を立てると、それを左右に振りながら、こう語る。

 

 

 

「ノンノン、小山さん。今回は、例え履修生が増えなくても良いのよ…どの道、校内で戦車道をやるには、学内の理解と応援が必要不可欠なの」

 

 

 

「「「「「「……?」」」」」」

 

 

 

母の一言に、私達Fチームを除く履修生全員が頭に「?」マークを浮かべながら戸惑っていると、母はその理由の説明を始めた。

 

 

 

「戦車道はね、格納庫や整備場、更に演習場として広い敷地が必要だし、学園艦内の移動だけでも騒音等で他の生徒や住民の迷惑になる事が多いのよ。それに年間予算も馬鹿にならないわ…だから戦車道をやっているどんな学校でも、常に学内の生徒や周囲の応援が無いとやっていけないの」

 

 

 

「それで…?」

 

 

 

事実上、母の聞き手になっている小山先輩が問い掛けると、母は続けてこう話した。

 

 

 

「実際、巨大な学園艦でも他の部活や一般生徒、あるいは生徒会から『戦車道が広い場所を使うせいで、私達の部活の練習場やクラブハウスの敷地が足りない』とか『戦車道で部活の予算の大半が喰われる』と言われたり、更には学園艦の住民から『練習中の戦車のエンジン音や砲撃音がうるさくて迷惑』と言う批判があって、戦車道を廃止せざるを得なくなった学校が結構あるのよ」

 

 

 

「「「「「「なるほど…」」」」」」

 

 

 

「知りませんでした、戦車道の人気低迷にそんな事情があったとは…」

 

 

 

私以外の皆が母からの説明を聞いて頷いており、秋山先輩に至っては心の底から納得してしまっている。

 

ああ…母は、他人を口車に乗せる天才だと昔から知っていたけれど、まさかこれ程とは!!

 

こうして、皆が頷きながら母の考えに同意しつつある中、私はここで文句を言った…と言うか、私が何か言わないとなし崩し的に公開試合が決まってしまう。

 

 

 

『ちょっと母さん、試合の当事者を抜きにして勝手に話を進めないでくれる!? それに、西住先輩はまだ戦車道に戻って間がないのに、いきなり公開試合をやったら緊張し過ぎて震え上がってしまうわよ!!』

 

 

 

だがその時、話を聞いていた西住先輩が予想外の答えを語り掛けて来たのだ。

 

 

 

「原園さん、私の為に心配してくれてありがとう…でも、もう大丈夫だよ」

 

 

 

『先輩…無理しなくてもいいんですよ!?』

 

 

 

「大丈夫…確かに、今日の授業の最初は戦車に乗る事に抵抗があったけど、今は皆と一緒なら楽しく戦車道が出来そう」

 

 

 

『先輩…』

 

 

 

西住先輩は笑顔で大丈夫だと言ってくれているけれど、実は無理をしているのではないか…西住先輩が何故戦車から離れたのかを知っている私は心配でたまらず、先輩の笑顔を不安そうに見詰める事しか出来なかった。

 

だが西住先輩は、私に向けて予想外の事を問い掛けて来た。

 

 

 

「それに、試合中は原園さんも楽しそうに戦車に乗っている様に見えたし」

 

 

 

『えっ!?』

 

 

 

私が…楽しそうに戦車に乗っていた?

 

そんな馬鹿な。

 

私が楽しく戦車に乗っていたなんて、あり得ないはず…いや、よくよく思い出してみれば、西住先輩の言う通りだ。

 

確かに、今日の練習試合は「西住先輩がピンチに陥っているから助けなきゃ」と思って必死になっていたけれど、今までよりもリラックスした気持ちで戦車道が出来ていた気がする。

 

母とマンツーマンで戦車道を教え込まれた頃はもちろん、みなかみタンカーズにいた頃までの私が戦車道をやる時は、いつも肩肘張っていて、ギスギスした気持ちで常に自分の事ばかり考えていたし、練習や試合の時もチームプレイなんて一切考えず、目の前の相手を1輌でも多く倒すつもりで戦っていた。

 

だから、タンカーズ時代に私と対戦した相手チームの娘達や戦車道の熱心なファンからは「みなかみの狂犬」と呼ばれて、恐れられていた程だ。

 

それが、今日は西住先輩達Aチームを助ける為に行動していたなんて。

 

私の戦車道にとっては前代未聞の事態だ。

 

でもそれって、やっぱり西住先輩と一緒に戦車道が出来ると思ったから気持ちを切り替える事が出来たのかな?

 

 

 

と思っていた時、突然母が口を挟んで来た。

 

 

 

「ああ嵐、ここで言い忘れていた事があったのだけれど」

 

 

 

『何よ!?』

 

 

 

「あなたが今乗っている“シャーマン・イージーエイト”、まだあなた達の物と決まった訳じゃないからね…忘れていない? 会長さんはあなた達を特別扱いしないって言ったと思うけれど」

 

 

 

『……!!』

 

 

 

た…確かに昨日、角谷会長は「もちろん、私も経験者とは言え原園ちゃん達を特別扱いする気は一切無いよ。これは原園ちゃんのお母様の意思でもある」と言ったけれど…と、思い返していた次の瞬間、母は私に衝撃的な事を告げた。

 

 

 

「つまりね、もしもこの再試合に負けたらイージーエイトは西住さん達Aチームの物になるわ…あっそうそう、他のチームもイージーエイトに乗りたかったら再チャレンジしていいわよ♪」

 

 

 

『!!』

 

 

 

「「「「「「……!!」」」」」」

 

 

 

いきなりの母からの提案に、当事者である私と西住先輩達はもちろんの事、他の履修生も当惑しているが、私と西住先輩達以外に再試合に挑戦しようと声を上げるチームはいない…これは後で知ったのだが、この時、他の人達は先程までの試合で私達と西住先輩達の強さが半端ないと感じており「例え再挑戦しても勝てない」と考えていたそうだ。

 

それはともかく、この母親…私と西住先輩に公開試合を受けさせる為には手段を選ばないってか!!

 

再試合に負けたら父との思い出であるM4A3E8から降りなければならないと言うのにもショックを受けたが、西住先輩達Aチームのメンバーも互いに顔を見合わせている…西住先輩も瑞希から私と父とイージーエイトの話を聞かされているので、もし私達に勝ったらその戦車が自分達の物に出来てしまうと言う点に困惑している様に感じた。

 

そして、自分と父との思い出の戦車を取られたくない思いと西住先輩達が困っている姿を見て、頭に来た私は覚悟を決めて、母に向かって啖呵を切った。

 

 

 

『分かったわ、母さん…勝てば良いのでしょ? 公開試合でも何でもやってやろうじゃない!!』

 

 

 

「じゃあ、決まりね!! 会長さん、早速放送部を抱き込んで…いえ、放送部の協力を仰いでもらって、全校生徒にすぐ通知しましょう」

 

 

 

「あ、はい…」

 

 

 

こうして、西住先輩達Aチームと私達Fチームによる練習試合の再試合は、母の思惑によって全校生徒を対象にした公開試合になると決まってしまった。

 

そして…公開試合が決まって喜んでいる母親を見ながら、私は心の中で誓った。

 

 

 

あの母親…試合が終わったら、タダじゃ済まさないんだから!!

 

 

 

(第16話、終わり)

 





ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
第16話をお送りしました。

済まん皆、本作の“ながもん”は西住殿が大好きな変態だ…後悔はしていない(本音)。
もちろん明美さんと一緒に、大洗の為に助力をする役どころだから、安心してね(何でもやるとは言っていない)。

また今回の冒頭で、嵐ちゃんが冷泉殿に「出会った様な気がする」と思った件は、後々真相を明らかにしますが、それ程大した伏線ではありません。

そして今回、明美さんのせいで嵐ちゃんと西住殿による練習試合の再試合は、何と全校生徒参加の公開試合に…怒りに震える嵐ちゃんと巻き込まれた西住殿の運命はいかに!?
と言う訳で、この公開試合は次回(開始前)と次々回(開始後)の前後編で展開する予定ですので、お楽しみに。

それでは、皆様良いお年を。

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