戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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お待たせしました。
今回は、渾身のネタ回でございます(苦笑)。
さおりんの「あの台詞」も原作より早めに登場します…理由は、読んで頂ければ分かるかと。
それでは、どうぞ。

※2019/4/22 本文の一部(バレー部の八九式中戦車甲型に関する記述と誤字)を修正しました。



第20話「まさかの痛戦車、大集合です!!」

 

 

 

色々な意味で、大騒ぎだった練習試合の翌日。

 

今日も戦車道の授業を受ける為に教室を出た私は、途中で西住先輩達Aチームのメンバーや農業科1年生コンビの長沢さん&名取さんと合流し、皆で雑談をしながら戦車格納庫を目指していた。

 

因みに私と同じクラスだが、戦車道ではチームが異なる梓、あゆみ、あやの3人は、別のクラスにいる友人兼チームメイトの優季、桂利奈、紗希と合流する為に別行動を取っている。

 

そんな時、武部先輩が私に向かって“変な渾名”で呼び掛けて来た。

 

 

 

「実はね、“らんらん”……」

 

 

 

『らんらん?もしかして私の事ですか、武部先輩?』

 

 

 

今まで渾名を付けられた事が無かった私は、目を点にしつつ武部先輩へ問い掛けると先輩は、苦笑いを浮かべながら渾名の理由を教えてくれた。

 

 

 

「うん、名前が嵐(あらし)と書いて『らん』だから“らんらん”って呼んだら可愛いかなって思ったのだけど…ダメだった?」

 

 

 

「沙織…それじゃあ、まるで上野動物園に昔いたパンダみたいだぞ?」

 

 

 

「え~っ!?」

 

 

 

すると冷泉先輩が呆れ声で私の渾名を批評したので、武部先輩はガッカリした声で返事をしたが、そこへ西住先輩が私に問い掛ける。

 

 

 

「原園さん、私は可愛いと思うけど…もしかしたらダメかな?」

 

 

 

『いえ…今まで、そんな渾名で呼ばれた事が無かったからつい、戸惑っただけで…私は別に構いませんよ?』

 

 

 

そうしたら武部先輩は、ホッとした表情となり、私と西住先輩に向かってこう語った。

 

 

 

「あっ、良かった~じゃあこれからは、みほの事も“みぽりん”でよろしくね?」

 

 

 

「ふえっ…みぽりん?」

 

 

 

今度は、武部先輩から“みぽりん”と呼ばれた西住先輩が目を丸くしていると話を聞いていた長沢さんと名取さんがポカンとした表情で、武部先輩へ問い掛ける。

 

 

 

「あの…確か昔、そんな渾名で呼ばれていたアイドルがいた様な気がしますけど?」

 

 

 

「武部先輩って、意外と古い話を知っているんですね?」

 

 

 

「古い話…私、そんなに年増に見られているのかな?」

 

 

 

「「あ…ごめんなさい」」

 

 

 

2人の農業科1年生から、ある意味で“絶妙な”ツッコミを受けた武部先輩は、目を点にして呟きながら落ち込んでしまう。

 

その落ち込みぶりは、ツッコんだ方の下級生2人も思わず口を揃えて謝る程だったので、私は話題を変える事にした。

 

 

 

『そうだ、武部先輩。昨日お風呂から上がる前に西住先輩達を誘ってどこかへ行こうとしていましたよね?あの時私は、瑞希達と一緒に真っ直ぐ下宿へ帰ったから、その後どうなったのか知らないのですよ』

 

 

 

「ああ、そうそう。実は、その事なんだけどね……」

 

 

 

私からの質問を受けた武部先輩は、話題が変わったせいか気を取り直すと昨日お風呂から上がった後、西住先輩達と一緒にどこへ行ったかを語ってくれた。

 

 

 

「実は、あの後みぽりん達と一緒にホームセンターへ行って、クッションやアクセサリーを買って戦車に持ち込む事にしたんだ。だって戦車のシートは、硬くてお尻が痛いし車内もキレイにした方がいいでしょ?」

 

 

 

「私は、その時沙織さんと相談して芳香剤や鏡を買って来たんですよ」

 

 

 

「私も自分用のクッション買って来ました」

 

 

 

『はあ…クッションや芳香剤に鏡、ですか』

 

 

 

武部先輩に続いて五十鈴先輩と長沢さんも買って来た物について説明してくれたが、私は「戦車道では役に立たない物」のオンパレードを聞かされた気がして、呆気に取られていた。

 

すると今度は、冷泉先輩と秋山先輩がホームセンターでの出来事を語ってくれる。

 

 

 

「あと沙織は、戦車の中を()()()()にしようとしたから、それはやり過ぎだと言って止めたんだ」

 

 

 

「おまけに武部殿は、戦車の色を塗り替えたいなんて言い出して…戦車は、あの迷彩色が良いんですから“私は嫌だ”と言ったら武部殿は、不機嫌になってしまわれて困りました」

 

 

 

「もう、ゆかりんは…女の子ならもうちょっとかわいい物に興味を持とうよ?」

 

 

 

『あの…“ゆかりん”って、秋山先輩の事ですよね?』

 

 

 

その時、西住先輩が興味深そうな表情で私に質問して来た。

 

 

 

「原園さん、私は戦車にクッションとかを持ち込んだ選手は見た事が無いんだけど、原園さんがいたみなかみタンカーズではどうだったかな?」

 

 

 

なるほど…確かに、戦車道経験者だとそこが気になりますよね。

 

そこで私は、先輩達にタンカーズでのオシャレ事情を説明する事にした。

 

 

 

『はい。みなかみタンカーズだと毎年新入団する娘達の中に必ずいるんですよね、クッションやアクセサリーを買って来て戦車に持ち込む娘。でも……』

 

 

 

「でも?」

 

 

 

『戦車って車内が油臭いし、結構角が立っている場所があるので、クッションをシートの上に敷いても大体半月位で、あちこちに油汚れや鉤裂きが出来てボロボロになっちゃうんですよね』

 

 

 

「えっ…そうなの!?」

 

 

 

武部先輩が私の話を聞いて驚いていたので、私は小さく頷きながら話を続ける。

 

 

 

『ええ…それに戦車の中は、狭くて動いている時はよく揺れるから鏡とか芳香剤等のアクセサリー類もすぐ床に落ちて割れたり壊れたりしちゃうし、小さな物だと無くしてしまう事があるので、新入団の娘は大抵そこで泣いちゃうんです…でも水筒は、熱中症対策で持ち込みOKだから、そこでオシャレをする娘が多かったですよ。お気に入りの柄の水筒を選んだり、名札代わりに好きなアクセサリーを水筒のバンドの所に付けたりとか』

 

 

 

「水筒でオシャレをする所は、私が見て来た戦車道の選手とはちょっと違うね」

 

 

 

ここで西住先輩が話に反応して、感心しながら他の戦車道の選手とは異なる点を指摘してくれた。

 

そこで私は、こう付け加える。

 

 

 

『うちの母は、何時も「戦車道は楽しんでナンボ」って言っているから、そんな所では少し融通を効かせてくれるんですよ……』

 

 

 

ところが、話が盛り上がっていたその時。

 

前方から瑞希が、慌てた表情でこちらへ駆け寄って来た。

 

その後ろからは菫と舞も付いて来ている。

 

 

 

「嵐―!!大変よ、私達の戦車が!!」

 

 

 

『瑞希…まさか戦車が盗まれたの!?』

 

 

 

私は、戦車が盗難に遭ったのか?と思ったので、瑞希に向かって尋ねてみた。

 

実際、私達がタンカーズに入団したばかりの頃、夜中に酔っ払いが戦車格納庫に忍び込み、チーム所有のⅢ号戦車N型を動かそうとしている所を警備員に見付かり、御用となった事件があったのだ。

 

幸い、この時酔っ払いが乗り込んだ戦車には、燃料も弾薬も搭載されていなかったので、大事には至らなかったのだけど。

 

だが瑞希は、首を横に振って否定する。

 

 

 

「違うわよ。でも…ある意味、それより()()()()()()()()()

 

 

 

「「「『はあ?』」」」

 

 

 

「とにかく、百聞は一見に如かずだから、先輩方も一緒にこちらへ来て下さい」

 

 

 

突然の事で、しかも一体何が起きたのか理解出来ない私達は、瑞希に連れられて戦車格納庫前の運動場へやって来ると…次の瞬間、その場にいた全員が言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

目の前にある5輌の戦車の内、4輌までが“異様なカラーリング”を施されていたのである。

 

左から砲塔と車体側面に“バレー部復活!!”と大書された八九式中戦車甲型。

 

車体全体がピンク一色に染め上げられたM3中戦車リー。

 

何やら“訳の分からないカラーリング”と“幟”が特徴のⅢ号突撃砲F型。

 

そして何故か、金色に塗り上げられた38(t)軽戦車B/C型。

 

因みに最後の1輌であるⅣ号戦車D型は、特にカラーリングが変わった訳でも無く、外観に変化は無いが…内部は、先程説明した通り武部先輩達が購入した“ファンシーな小物類で埋め尽くされている”と聞かされていた私は、頭がクラクラして来た。

 

 

 

「はあ~」

 

 

 

西住先輩も、戦車道をやる娘ならまずやらないであろう“痛戦車”の姿を見て、目を丸くしている。

 

 

 

『こ…これって、一体誰がこんな事を?』

 

 

 

私も呆然とした表情で、その姿を眺めながら呟いていると“痛戦車”を作った面々が色々な事を喋っていた。

 

 

 

「これで自分達の戦車がすぐに分かる様になったー」

 

 

 

やり方は兎も角、理由自体は割と真面目だったのが、バレー部の磯辺キャプテン。

 

 

 

「やっぱ、ピンクだよねー♪」

 

 

 

普通の女の子らしい理由を述べているのは、梓だけど…この間、私言ったよね。

 

『戦車は、敵に見付かり難い様にする為、周辺の風景に溶け込み易い色にする事が多い』って。

 

まあピンクも、実は“特定の状況下”では迷彩効果が結構ある、とされているけれど、日本では恐らく鳥取県へ行かないと、“その効果”は発揮出来ないだろう。

 

そして「カワイイー」と喋っているのは、梓と同じ1年生チームのあやだ。

 

あやもこの間、私が説明した戦車道の事をもう忘れているのだろうか…凄く不安だと思っていたら武部先輩が、頬を膨らませて不満をぶち撒けた。

 

 

 

「む~う…私達も色塗り替えれば良かったじゃ~ん!!」

 

 

 

続いて秋山先輩が悲鳴を上げ、瑞希は怒りの声を上げる。

 

 

 

「ああっ、38(t)が、Ⅲ突が、M3が八九式が何か“別の物”にー!?」

 

 

 

「全くもう、最初の練習試合が済んだと思ったら…秋山先輩、すぐに塗り直させましょう!! 皆、戦車道を舐め過ぎているわよ!!」

 

 

 

「同感です、野々坂殿!!」

 

 

 

その様子を見た私は、すかさず秋山先輩と瑞希を諫める様に口を挟んだ。

 

 

 

『あーっ、秋山先輩にののっちも落ち着いて…まずは、深呼吸してから皆の戦車をじっくり見ようよ』

 

 

 

秋山先輩と瑞希は、このままだと“痛戦車”を作り上げた仲間達目掛けて()()()()をやりかねない形相だったので、私はゆったりした口調で問題の戦車達を検分しようと提案したら、瑞希が憤懣遣る方無い表情で、“ある戦車”を指差した。

 

 

 

「じゃあまずは、バレー部の八九式!!何よ、あの『バレー部復活!』ってスローガンは!?」

 

 

 

『あー、でも“砲塔にスローガンを書いた戦車”ってWW2のソ連軍によくあるよね。「ファシストに死を!!」とか「同志スターリンの為に!!」とか、色々あるじゃない?』

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

「言われてみればそうでした、原園殿……」

 

 

 

瑞希と彼女のツッコミを聞きながら頷いていた秋山先輩も、史実を元にした私からの指摘を受けると、互いに顔を見合わせて頷きながら、納得せざるを得なくなっていた。

 

特に、この手のスローガンが数多く書かれていた事で知られる、『KV-1重戦車』が好きな瑞希は「私とした事が……」と呟きながら反省している様だ。

 

 

 

『だから、バレー部の八九式中戦車は、セーフ。じゃあ、次行ってみよう』

 

 

 

続いて瑞希と秋山先輩は、ピンク色の戦車を指差して怒りをぶち撒ける。

 

 

 

「じゃあ梓達のM3リーは?全面ピンクなんて目立ち過ぎよ!?」

 

 

 

「そうですよね、野々坂殿」

 

 

 

『う~ん、でも戦車じゃないけれど、確か英陸軍の特殊部隊SASが使っていたランドローバーにも、ピンク色の仕様があったよね…確か“砂漠迷彩の一種”で』

 

 

 

「「あっ……」」

 

 

 

先程私が思った様に、日本では鳥取砂丘で戦車道の試合をやらない限り、その迷彩効果は発揮出来ないだろうけれど、ピンク色が砂漠迷彩として効果がある事に気付いた秋山先輩と瑞希は、これまた絶句したまま黙り込んでしまった。

 

 

 

『なので梓達のM3リーは、色の選択が間違っているとは思うけれど、“ギリセーフ”ね』

 

 

 

これで、4輌中2輌の“痛戦車”が「現実でも全く有り得ない訳では無い」と私に論破されてしまった瑞希は、次の車輌を指差してこう指摘した。

 

 

 

「それじゃあ…歴女先輩達のⅢ突は?幾ら何でも、これは無いわよ!?」

 

 

 

『ゴメン、ののっち…これは弁護出来ない』

 

 

 

流石に、これ程“派手な()()()”は私も肯定出来なかった…と言うか、砲塔を廃止した分、“全高を低くして待ち伏せ攻撃を容易にした”のが突撃砲のデザインなのに、それを否定するかの様に幟を立てたり目立ち過ぎる塗装をしたりするのは……

 

すると、Ⅲ号突撃砲F型の乗員であるCチームの歴女先輩の内の1人が、土佐弁で私と瑞希に向かって文句を言って来た。

 

 

 

「何故ぜよ?これが“カッコエエ”と思わんのか?」

 

 

 

『済みません、おりょう先輩…これは、ハッキリ言って“何処かのチンドン屋”にしか見えないのですが?』

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

私から“当たり前のツッコミ”を喰らって、言葉に詰まるおりょう先輩だが、そこへ2人目の歴女先輩“カエサル”が抗議をする。

 

 

 

「チンドン屋とは失礼な。この姿から“支配者の風格”を感じられないのか?」

 

 

 

だが、その抗議に対して、瑞希がこれ以上無いツッコミを返して来た。

 

 

 

「あの、カエサル先輩…カッコイイとか支配者の風格とか言う以前に、これじゃあ目立ち過ぎて、試合では“タダの的”にしかならないのですが?」

 

 

 

「えっ…おい左衛門佐、お前も何か文句を言え!?」

 

 

 

瑞希からのツッコミに狼狽えたカエサル先輩は、傍らにいた3人目の歴女先輩“左衛門佐”に抗議をするよう促したが、彼女は……

 

 

 

「…それだ」

 

 

 

「「納得するな!?」」

 

 

 

私達のツッコミに、呆気無く同意した左衛門佐先輩に対して、おりょう先輩とカエサル先輩が文句を言う中、私と瑞希の目の前に歴女先輩達のチームで車長を担当するエルヴィン先輩が現れると、こんな話を始めた。

 

 

 

「聞いてくれ、2人共…私は“アフリカ軍団仕様が良い”と仲間達に訴えたのだが、受け入れてもらえなくて…結果、Ⅲ突がこんな姿になってしまったのだ」

 

 

 

実際には、北アフリカ戦線に配備されたⅢ号突撃砲は短砲身のD型だけらしいのだが、その気持ちはよく分かるので、私と瑞希は互いに顔を見合わせてから、エルヴィン先輩に同情の言葉を送った。

 

 

 

「『エルヴィン先輩…私達も先輩の案が一番妥当だったと思います』」

 

 

 

「「「あっ…そうだったのか」」」

 

 

 

私達とエルヴィン先輩の会話を聞いた3人の歴女先輩達はガックリと肩を落としていたが、次の瞬間、瑞希がハッとした表情になると私に向かってこう訴え掛けて来た。

 

 

 

「そうだ嵐、実はこのⅢ突よりもっと酷いのがあるの…これよ!!」

 

 

 

そして瑞希が怒りの表情で指差した先には、見事な金色に染め上げられた生徒会の38(t)軽戦車B/C型が鎮座している。

 

これには、流石の私も頭に来た。

 

直ぐ様、この“トンデモない戦車”を思い付いた()()()であろう人物目掛けて、大声で怒鳴る。

 

 

 

『会長…何ですか!?この金ピカの38(t)は!?』

 

 

 

その直前、私が怒鳴り付けた相手である角谷会長は「いいねぇ…この勢いでやっちゃおうか?」と河嶋先輩に何事か指示しており、指示を受けた河嶋先輩は「はっ、連絡して参ります」と返事をして、その場から立ち去って行くのが目に入った。

 

そして2人の会話を聞いた小山先輩が困惑しながら「えっ、何ですか?」と会長に問い掛けるのを見た私は、一体何が始まるのかと考えたが、その時はこれと言った答えが浮かばないまま気が付けば、会長を怒鳴っていた。

 

 

 

「あー、原園ちゃんに野々坂ちゃん。これ位“目立つ色”にした方がイイかなって思ったんだけど…ダメだった?」

 

 

 

私の怒鳴り声を聞いた筈の角谷会長だが、悪びれない様子で返事をしたので、カチンと来た私は、こう言い返した。

 

 

 

『これじゃあ、まるでZガンダムの百式じゃないですか!会長は、クワトロ・バジーナ大尉のつもりですか!?』

 

 

 

「ちょっと待った、嵐。幾ら何でも百式は古過ぎるわよ?」

 

 

 

『はあ?』

 

 

 

そこへ突然、瑞希が口を挟んで来たので当惑する私。

 

すると瑞希は、予想外の喩えを口にしたのだ。

 

 

 

「喩えに出すなら、せめて『SEED DESTINY』のアカツキにしなさいよ?」

 

 

 

更に、隣にいる菫と舞も楽し気な表情で“余計な”ツッコミをする。

 

 

 

「瑞希ちゃん、それを言うなら『OO』のアルヴァアロンでしょ?」

 

 

 

「3人共、それだったら『UC』のユニコーンガンダム3号機フェネクスだよ!」

 

 

 

『アンタ達!?』

 

 

 

明らかに、私が会長に言った文句で遊んでいる瑞希達へ怒鳴り返す私。

 

その様子を見た会長も、自分に向けられた批判が誤魔化された事に安心したのか「ほう…面白いねぇ」と呟きながらニヤニヤ笑っていると……

 

 

 

「あの…皆、それを言うなら……」

 

 

 

新たに私達のチームメイトになった長沢さんが、突然右手を上げながら小声で話に加わろうとして来るので、私達は一斉に長沢さんへ視線を向けた。

 

 

 

「「「『何?』」」」

 

 

 

私達からの視線を一身に浴びて、恥ずかしそうな表情を浮かべた長沢さんは、一言……

 

 

 

「ええと…それを言うなら、ゴッドガンダム……」

 

 

 

「「「『何故、()()()で“明鏡止水”を知ってるの!?』」」」

 

 

 

「あっ…実は、お兄ちゃんがGガンの大ファンで……」

 

 

 

「「「『あっ…なるほど』」」」

 

 

 

思いもよらぬ、長沢さんからのツッコミとその理由を聞いた私達Fチームの面々は、一斉に納得すると同時に38(t)戦車を金色にした会長の所業に対する怒りも失せてしまった。

 

 

 

『会長…戦車をこんな色にした件については、取り敢えず後回しにして、今から自分達の戦車を格納庫から出して来ます』

 

 

 

「うん♪」

 

 

 

と言う訳で、私は会長に一言伝えてから、Fチームの面々と一緒にまだ戦車格納庫から出していない、自分達の戦車を運動場へ移動させるべく格納庫へ向かう事にしたのだが…その時、ふと後ろを振り返ると、何故か菫と舞がコッソリ逃げ出そうとしているのに気付いた。

 

ここで“嫌な予感”がした私と瑞希は、ジト目で2人を睨みながら問い掛ける。

 

 

 

『ちょっと2人共。これから私達のイージーエイトを格納庫から出すのに、何で逆方向へ向かうの?』

 

 

 

「それに菫、アンタ操縦手でしょ?もしかして、舞と一緒に何か隠し事でもあるのかしら?」

 

 

 

「「え…え~と」」

 

 

 

私と瑞希に睨まれた菫と舞は、明らかに“何かを隠している”様子で脅えていた…まさか!?

 

私は次の瞬間、瑞希と傍らで心配そうに私達を見守っていた秋山先輩に目配せすると、戦車格納庫へ向かった。

 

そして格納庫の扉を開けて、まだ庫内にあるイージーエイトの姿を確認すると…私と瑞希、そして菫と舞を監視しながら一緒に格納庫へやって来た秋山先輩は、互いに呆然となった。

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

戦車格納庫から、運動場にいる西住先輩達の前へと引き出されて来たイージーエイトの車体前面には……

 

 

 

何とも愛くるしい“猫の顔”がデカデカと書かれてあった。

 

 

 

勿論、私と瑞希は怒髪天を衝く形相で、この“痛M4戦車”を描いた犯人と思われる2人へ詰問した。

 

 

 

『菫…これは、どう言う事?』

 

 

 

「舞…まさか、アンタ達がやったの!?」

 

 

 

すると2人共あっさり頷くと、その理由を其々の言葉で告白した。

 

 

 

「ごめんなさい…でも私達ね、昨日の放課後皆が“楽しそうに”自分達の戦車をデコレーションしていたから、私と舞もついやってみたくなったんだ」

 

 

 

「だって…朝鮮戦争の時に、米陸軍がシャーマン・イージーエイトやM26パーシング等で虎さんや妖怪さんの顔を書いた事があるもん!だから猫さんの顔なら大丈夫だと思ったの!」

 

 

 

『うっ……』

 

 

 

「た、確かに二階堂殿の言う通り、戦車に動物や妖怪の顔を描いた例は実際にありますし……」

 

 

 

菫が真剣な表情で、そして舞は目に涙を溜めながら実例を挙げて“痛いシャーマン・イージーエイト”を描いた理由を告白したものだから、私と秋山先輩は2人の気持ち(気迫)に押されてしまった。

 

だが瑞希は、ポーカーフェイスのまま2人に向かってこう諫める。

 

 

 

「でも舞が言った“アレ”は、当時の北朝鮮軍兵士が“虎や妖怪を怖がると言う()()”を信じた米軍がやっただけの事よ。戦車道でこれをやったらどうなるか、菫も舞も分かるわよね?」

 

 

 

「「うん……」」

 

 

 

瑞希から諫められて、しょんぼりしながら返事をする2人。

 

その姿を見た秋山先輩は、困惑した表情で西住先輩へ問い掛けた。

 

 

 

「確かに、萩岡殿と二階堂殿の気持ちも分かりますが…西住殿、これは幾ら何でもあんまりですよねぇ!?」

 

 

 

でも、話を聞いた西住先輩は、不意に微笑みを浮かべていた。

 

 

 

「うふふ……」

 

 

 

「に…西住殿?」

 

 

 

その姿を見て、不思議な顔をする秋山先輩や皆に向かって、西住先輩は()()()その理由を語った。

 

 

 

「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど…“何か楽しいね”。()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

「「西住先輩!!」」

 

 

 

「「あ…うふふ」」

 

 

 

先輩の笑顔とその言葉に触れて、嬉し涙を浮かべながら感動している菫と舞。

 

そして、朗らかな笑みを見せる武部先輩と五十鈴先輩。

 

そんな西住先輩達の姿を見た私は、“痛戦車”の事について批判する事が出来なくなってしまった。

 

だって、西住先輩が「戦車で楽しいなんて思ったの初めて!!」って言うのだもの。

 

先輩が“戦車道を辞めた理由”を知っている私にとって、まさか先輩からそんな事を聞かされるとは、想像すらしていなかった。

 

 

 

『ののっち…西住先輩の顔を見ていると、私、何か怒れなくなっちゃった』

 

 

 

私は、隣にいる瑞希に向かって正直な気持ちを伝えると、彼女も仕方無さそうな顔で返事をしてくれた。

 

 

 

「仕方無いわね…西住先輩の気持ちを考えると、皆がやった事を全否定する事は出来ないし」

 

 

 

だが瑞希は、そこで表情を一変させると負け惜しみの様な感じでこんな事を呟いた。

 

 

 

「まあ、これから練習試合の一つでもこなせば、自分達が如何に“罪深い事”をやったのか“体で覚える”でしょうから、良しとしましょうか…うふふ」

 

 

 

『ののっち、顔が引き攣っているわよ?』

 

 

 

「別にいいでしょ?」

 

 

 

西住先輩や菫に舞達が、其々の“痛戦車”を眺めながらガールズトークに花を咲かせている中、不気味な微笑みを浮かべている瑞希を見詰めていた私は、“廃校問題”は別にしても、この先私達の学園の戦車道がどうなるのか、正直不安になっていた。

 

 

 

 

 

 

さて嵐やみほ達が“痛戦車”を巡る騒動に翻弄されていた頃。

 

舞台は、とある洋上に浮かんでいる聖グロリアーナ女学院・学園艦へ移る。

 

その巨大な艦内の艦首部、広大な森に覆われている場所の一等地にある、戦車道チーム用のクラブハウス「紅茶の園」。

 

それ自体、一見すると英国の名門ホテルを想像させる程の、瀟洒な洋風建築の建物だが、内部も学生用とは到底思えない程、豪華且つ歴史の長さを感じさせる部屋ばかりだ。

 

その中でも特に、上質かつ年代物の調度品に囲まれた一室で、この学院の生徒である1人の少女が電話で会話をしていた。

 

 

 

「大洗女子学園…戦車道を復活されたんですの?おめでとうございます…結構ですわ。受けた勝負は逃げませんの」

 

 

 

少女は最後に、優雅ではあるが強い決意を秘めた言葉で会話を締め括ると、アンティークな装飾が施された電話を静かに切った。

 

ここで、彼女の様子を他の学院生徒2人と一緒に見ていた1人の成人女性が、透き通った声で電話を切ったばかりの少女へ話し掛ける。

 

 

 

「ありがとう、ダージリン隊長。全国大会が近いから、日程的に厳しいと思っていたのだけど?」

 

 

 

「いえ、“私達の先輩”からの()()()()()()とあれば。それに“どんな相手でも全力を尽くす”のが、私達の礼儀ですから」

 

 

 

聖グロリアーナ女学院・戦車道チーム隊長を務める金髪の少女、ダージリンが“先輩”と呼んだ成人女性に向けて答えると……

 

 

 

「その通りね」

 

 

 

“先輩”と呼ばれた女性もダージリンへ相槌を打った時、同席している2人の学院生徒の片方、金髪ロングヘアーの少女が彼女へ問い掛けて来た。

 

 

 

「それで先輩、今回対戦する大洗女子学園のデータについては既に頂きましたが、試合の方は準備出来ているのでしょうか?」

 

 

 

それに対して“先輩”は、淀みの無い声で返答する。

 

 

 

「大丈夫よ、アッサムさん。今回の練習試合は、周防石油グループがメインスポンサーに付きますから、そちらには一切負担を掛けさせません。既に、周防ケミカル工業の周防 長門社長が、山口県防府市にある本家へ向かわれていて、お母様でもある周防家当主様と、細かい打ち合わせに入っています」

 

 

 

「それは心強いわね」

 

 

 

“先輩”からの説明を聞いて微笑むダージリン。

 

すると今度は、アッサムの隣の席にいるもう1人の学院生徒…オレンジ色の髪を隊長に合わせたのか独特の形をした三つ編みで纏めている少女が“先輩”に質問した。

 

 

 

「と言う事は…今回の練習試合はもしかして、周防石油グループが毎年全国各地で行っている『高校生戦車道チャレンジ』の一環として行われるのですか?」

 

 

 

「その通りです、オレンジペコさん」

 

 

 

「凄い…高等部に進学してすぐなのに、“伝統ある試合”に参加出来るなんて、夢の様です」

 

 

 

オレンジペコが目を輝かせているのを見た“先輩”は、彼女へ向けて小さく頷くと、更に説明を続けた。

 

 

 

「また、試合会場となる茨城県大洗町との調整についても、大洗女子学園の生徒会が担当している他、サポートとして群馬みなかみタンカーズ代表・原園 明美と原園 鷹代元陸将が付いていますから、安心して大洗町へお越し下さい」

 

 

 

「なら私達は、手ぶらでも大丈夫ね…でも安心し過ぎて、戦車に乗るのを忘れて来ない様に注意しなきゃ」

 

 

 

「「ダージリン様……」」

 

 

 

「くれぐれも、戦車にはキチンと乗って、試合会場へお越し下さるようお願いしますね♪」

 

 

 

ダージリンの、冗談とも本気ともつかない発言に呆れているアッサムとオレンジペコを余所に、“先輩”と呼ばれた女性…原園車両整備社長・原園 明美の秘書である淀川 清恵は、笑顔を絶やさないまま語り終えると、静かに紅茶を口に含んだのである。

 

 

 

(第20話、終わり)

 

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第20話をお送りしました。

今回は色々とネタを仕込んでみましたが、いかがだったでしょうか(苦笑)。
特にあの“痛戦車”の中に史実ネタが微妙に混じっている点については、意外と語られていないかも知れません(強いて言えばピンク色のM3中戦車リー=SAS仕様のランドローバー“ピンクパンサー”は原作にも出ていたけれど、バレー部が八九式に書いたスローガンにも元ネタがあると指摘した人は余りいないはず)。
更に史実ネタについて付け加えるとシャーマン・イージーエイトの一部車輛が朝鮮戦争時、虎や妖怪の絵を車体前面に書いていた事に関しては、模型でもこれらの車輌をモデルにしたキットが複数あります(それを踏まえて“痛戦車”騒動のエピソードを改変したのは言うまでもない)。

あと清恵さんが何故ダージリン達がいる「紅茶の園」に来ていて、彼女達から“先輩”と呼ばれていた理由については、次回語られます。

それでは、次回をお楽しみに。

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