戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
前回も少し触れましたが、実は聖グロとの親善試合を始める前に、その舞台裏を書いていたら嵐も西住殿も出て来ない話が一つ出来上がってしまいまして…と言う訳で、今回は番外編です。
あと、それだけでは味気ないと思いまして、物語の最後にちょっとしたコントを書いておりますので、そちらもお楽しみ頂ければ幸いです。
以上、イレギュラーな回ですが、宜しくお願いします。
茨城県大洗町を舞台に始まろうとしている地元・大洗女子学園と神奈川県の聖グロリアーナ女学院による戦車道親善試合“高校生戦車道チャレンジ”。
だが、ここで時間は試合開始の10分程前に遡る。
この試合の取材を担当する、首都新聞社の契約ライター・北條 青葉が、屋外スクリーンの置かれている広場から少し離れた場所にある「大洗女子学園」の名前が入った学校用テントの中に設置された来賓席へ、速足で駈け込んで来た。
「良かった、試合開始に間に合った…あっ!?」
息を弾ませながら来賓席へ入った青葉が小声で呟くと、目の前に着席している来賓達の中に、見覚えがある女性達の後ろ姿がある事に気付く。
そこには、近年全国の戦車道関係者や戦車マニアの注目を集めている新進気鋭の戦車整備工場「原園車両整備」の社長にして、昨年初出場した戦車道全国中学生大会でいきなり準優勝した戦車道のユースクラブチーム「群馬みなかみタンカーズ」の代表でもある“原園 明美”。
その明美の夫の親戚にして陸上自衛隊の元・陸将であり、陸自機甲部隊の指揮官として長年日本の戦車道の発展にも貢献して来た事で知られる“原園 鷹代”。
嘗て、聖グロリアーナ女学院戦車道チームの主要メンバーとして全国高校生大会準優勝に貢献し、現在は明美の秘書を勤める“淀川 清恵”。
そして、今日はこの試合の主催者兼特別協賛を務める周防石油グループの代表として出席している「周防ケミカル工業株式会社」社長の“周防 長門”。
近年の日本戦車道を知っている者ならば、名前位は知っている4人の女性が、他の来賓と共に並んで着席していたのだ。
勿論、青葉も戦車道の取材を続ける中で、彼女達の事は熟知している。
特に長門は、“ある理由”によって青葉の事を生まれた時から知っており、青葉が新聞記者を経てスポーツライターになってからも、親交が続いていた。
すると長門が突然振り返り、青葉に声を掛ける。
「後ろから気配がしたと思ったら…青葉ちゃんか。こっちへ来ないか?」
「あっ…いえ、今日は仕事ですから」
一瞬、長門からの誘いに乗り掛ける青葉だったが、今日は大事な取材の日。
幾ら親しいからと雖も、彼女とだけ一緒にいる訳には行かない。
青葉は済まなそうな声で長門からの申し出を丁重に謝絶しようとしたが…その時、背後から声が上がった。
「“ながもん”…もしかしてこの娘が、スポーツライターの北條さん?」
「えっ、原園 明美さんですよね…私の事を知っているのですか!?」
青葉にとって、ドイツの戦車道プロリーグで強豪チームの整備班長として活躍した明美は、日本戦車道のレジェンドの中でも“雲の上の人”だ。
勿論、本人に会うのは初めてなのにいきなり声を掛けられた事で、青葉は立場を忘れて舞い上がる。
すると明美は、思わぬ話を青葉に語り掛けた。
「うん。貴女や北條家の事は、周防さんから色々と聞いているわよ…周防さんのご先祖の方が終戦の夏に、偶々呉の北條家で一泊した時の話とか」
「えっ、その話をご存じなのですか?」
実は、今明美が語った話こそが、青葉と長門が親交を結んでいる理由だった。
時は、太平洋戦争末期の昭和20年8月5日…現在の周防石油グループの前身である“周防石油”の創業家である周防家の当主を戦前と戦後の2度に亘り務め「中興の女傑」と呼ばれた長門の先祖・イトと言う女性(周防家は明治時代からの家訓により、当主は代々女性が務めている)が、燃料問題の打ち合わせの為に海軍の呉鎮守府を訪れたが、本家のある防府へ帰る列車の切符が手に入らなかった為、鎮守府関係者の伝手で一晩、呉の北條家に宿泊した。
その翌朝、イトは当時結婚したばかりでホームシックだったすずと、すずの夫の姉である黒村径子と一緒に互いの身の上話をしていた時、広島へ投下された原子爆弾によるキノコ雲を目の当たりにする事になる……
北條家の歴史に残る大きなエピソードとして、すず達青葉の先祖から語り継がれている話を、明美から聞かされた青葉はビックリして問い返した。
すると、長門が笑みを浮かべながら青葉へこう指摘する。
「青葉ちゃんは忘れていないかな…私と明美は、“黒森峰女学園高等部の同窓生”なんだ」
「あっ…済みません!西住流師範の西住 しほさんと共に、高校戦車道で“公式戦3年間無敗”の伝説を作った話、忘れていました!」
「あら~♪記者さんにその事で名前を覚えてもらえていないなんて、まだまだ私も未熟だわ~♪」
「いえ明美さん、私の方こそ未熟で申し訳ありません!まさかお声を掛けてもらえるなんて思ってもいなくて……」
長門からの指摘に青葉は恐縮した表情で謝罪したが、その様子を見た明美が笑いながら揶揄った為に、彼女は赤面しながら釈明する羽目になった。
そんな青葉の姿を見た長門は苦笑いを浮かべつつ、助け舟を出す。
「まあ、青葉ちゃんも仕事だろ?なら、私達と一緒に試合を見ると良い。終わったら取材も受けよう」
「なら、私も取材を受けるわね」
「あ…ありがとうございます」
長門からの提案に明美も乗った事で、青葉は漸く安堵した顔でお辞儀をしてから、長門の隣に着席した。
その一部始終を、心配しながら見ていた鷹代と清恵が、互いに顔を見合わせながらホッとした表情を浮かべ、漸く場が落ち着き掛けた、その時だった。
「試合、開始!」
審判からの号令と同時に、大洗女子学園戦車道チームの戦車6輌が前進を開始する姿が、来賓席に設けられたモニターに映し出される。
その姿は、メイン・パブリックビューイング会場の、大洗シーサイドステーションに設置された巨大な屋外用スクリーンにも映し出された。
「始まったー!」
「動いたー!」
約20年ぶりとなる、地元戦車道チームの試合に熱狂する観客達の歓声が来賓席にも響いて来る。
その時、来賓席専用のモニターで始まったばかりの試合を観戦している鷹代が、明美へ静かに話し掛けて来る声が青葉の耳に届いた。
「始まったよ…明美さんは、この試合をどう考えているんだい?」
「
鷹代からの問い掛けに、明美は普段のざっくばらんな雰囲気とは異なる真剣な表情で答えたので、鷹代だけでなく話を聞いていた青葉も思わず表情を引き締めた。
そこへ、鷹代の隣に座っている清恵が、心配そうな表情で明美へ問い掛ける。
「社長…それって、“私の後輩達”に気を遣っていませんか?」
だが、明美は先程までとは対照的に、何時も通りのにこやかな笑みを浮かべてから、“聖グロ戦車道チーム時代”の
「そんな事は無いわよ、先々代の“
「やだ社長、昔の呼び名を使うのは止めて下さい……」
一昔前、戦車道に打ち込んでいた聖グロ時代の“呼び名”で呼ばれた清恵は、恥ずかしさの余り顔を真っ赤にしたが、その表情から笑顔が滲み出ていたのに気付いた明美は、微笑みながら更に語り掛ける。
「清恵ちゃん、顔が笑っているわよ。でも先輩としては、ここで後輩達にしっかり勝って欲しいでしょ?」
「え…ええ」
明美から「ダージリン達には母校の後輩として、是非勝って欲しい」と言う、自らの本音を見抜かれた清恵は、顔を赤くしたまま苦笑いを浮かべていたが、そんな遣り取りを複雑な表情で眺めていた青葉は、“記者としての立場”から明美に向かって厳し目の質問をする。
「明美さん…じゃあ大洗の娘達は、一体何の為に?」
だが、明美はその様子に気付いており、青葉が質問を始めた所で、その先を読んでいたかの様に自らの思いを打ち明けた。
「御免なさい、青葉さん。でも大洗の娘達にはどんな
明美の言葉をメモに書き取りながらも「みほ」の単語を聞いて、思わずハッとなる青葉。
その会話を聞いていた鷹代が「成程ね」と、表情を和らげながら小さく頷くと、ずっと無言で4人の会話を聞いていた長門が、口元に笑みを浮かべてこう語った。
「皆、みほちゃんなら大丈夫だ。例え勝てなくても、聖グロに一泡噴かせる位の事は出来るさ。それに嵐もいるしな…しかし、聖グロリアーナはまだ動かないな?」
「えっ…あっ!?」
その言葉に戸惑った青葉が、来賓席専用のモニターの両端に表示されている両チームの動きを見ると、長門の指摘通りである事に気付いて驚きの声を上げる。
大洗の戦車隊は、試合開始と同時にスタート地点を出発しているのに、聖グロの戦車隊は未だスタート地点から動き出そうとしていない。
「何かあったのでしょうか?」
何らかのトラブルで動けないのかと訝しむ青葉を余所に、明美は薄っすらと笑みを浮かべながら、長門に自らの考えを述べた。
「“ながもん”、聖グロは恐らく“
「“例の時間”…ああ、ティータイムか。但し、ここで“ながもん”と呼ぶのは止めろ。他の来賓方も見ている」
「えっ…長門さん、“放課後ティータイム”って、何ですか?」
「青葉さん…それ、最近人気のガールズロックバンドですよ?」
「やれやれ……」
明美と長門の会話を聞いて、思わず大ボケをカマしている青葉に清恵がツッコミを入れる様子を見た鷹代は、苦笑いを浮かべていた。
一方、これと同時刻。
聖グロリアーナ女学院側のスタート地点では、隊長のダージリンが愛車であるチャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶの砲塔上で、未だ優雅なティータイムを楽しんでいた…いや、彼女は寧ろ“落ち着きを取り戻す為”に紅茶を飲んでいる、と言うべきだろう。
大洗女子学園戦車道チームは、彼女にそれ程までの衝撃を与えていた。
何しろ、出場している戦車の色が戦車道…否、“戦車を知っている者”なら、まずやらないであろう
だが、それだけではない。
実はこの試合を申し込まれた時、大洗側の使者として同席していた明美の秘書で、学院の先輩でもある淀川 清恵から提供された“大洗女子学園戦車道チームのデータ”が、彼女に更なる混乱を齎していたのだ。
ダージリンは、今回の試合を大洗女子学園から申し込まれた翌日に「紅茶の園」で、チームメイトであるアッサムやオレンジペコと共に、対戦相手の戦力分析を行った時に交わした議論を振り返っていた。
勿論、この日の議題の中心は、清恵から提供されたデータの内容と信憑性についてだったが、実の所、大洗女子学園の保有戦車の中に飛び抜けた性能を持っている物があった訳では無い。
問題は、チームメンバーの中に在った
「アッサム、まずは大洗女子の隊長とM4の車長について、もう一度確かめたいのだけど?」
まず、ダージリンは自らが乗る隊長車の砲手にして、チームの情報分析も担当する同級生・アッサムへ情報の確認を求めた。
「はい、西住 みほと原園 嵐ですね。淀川先輩から提供されたデータに関しては、GI6のグリーン部長にも確認を取りましたが、部長は『ここまでデータを明かして良いのか?』と驚かれていましたよ。勿論データの内容は正確で、GI6が全く摑んでいなかった情報まで含まれていたそうです」
アッサムからの報告を聞いたダージリンは、溜め息を吐くと微かに悲し気な表情を浮かべた。
「そう…西住 みほさんが、去年の全国大会決勝戦でプラウダに敗れた責任を取らされて、黒森峰のみならず実家からも見捨てられたと言う、淀川先輩からのレポートは事実だったのね」
「はい。私も、淀川先輩のレポートを読んだ時は驚きました」
隊長の悲しそうな呟きを聞いたアッサムも、彼女の心中を思い遣る様な表情を浮かべつつ、敢えて簡潔に報告する。
そこへ、同じく隊長の表情を心配そうに見ていた、後輩のオレンジペコが声を掛けて来た。
「ダージリン様、大丈夫ですか?」
「ああ、御免なさい。心配しなくていいのよ…ただ、去年の大会の決勝戦での出来事を思うと、みほさんの事が不憫に思えて仕方ないわ」
自分の傍に置いている下級生を心配させた事に気付いて、即座に安心させる様に諭すダージリンだが、その表情は未だ晴れない。
彼女にとって、西住 みほは姉のまほと同様、よく知っている存在だからだ。
何しろ去年の全国大会に、西住姉妹は“黒森峰女学園の隊長と副隊長”として出場していたのだ。
だから、あの大会の決勝戦での出来事と10連覇を逃した黒森峰が暫くの間混乱していた事は知っていたが、まさかみほが敗戦のスケープゴートにされていたとは…淀川先輩からのレポートを読むまで、その事実を全く知らなかったのは、彼女にとって不覚だった。
だが、このままの気持ちを引き摺る訳には行かないし、ましてや
何しろ試合を申し込まれた日、淀川先輩から別れ際に「もしも今度の試合、万が一にも負けたら
そんな事を思いながら、ダージリンは紅茶を一口味わってから気持ちを切り替えると、アッサムに母校の先輩の話を振る。
「でも、流石は先々代の“
「あ…それ、止めて下さい。昨日先輩から『頑張ってね、私の2代後の
隊長から、自分の呼び名が母校の名選手兼情報部員として名を馳せた先輩から引き継がれている点を指摘されて困り顔になるアッサムを眺めながら、ダージリンは漸く笑顔を取り戻すと、話題は大洗にいるもう1人の“要注意人物”へと移る。
「うふふ…そして、戦車道の名メカニックとして知られる明美さんの娘であり、昨年度まで“群馬みなかみタンカーズのエース”として活躍した、1年生の原園 嵐」
「えっ…ダージリン様、原園さんの事をご存じなのですか?」
嵐の名前が出た途端、実は彼女と同学年に当たる為、周囲から幾度となく彼女の名を知らされているオレンジペコが、意外そうな表情で問い掛けたので、ダージリンは当然の様に答える。
「勿論よ。去年の戦車道全国中学生大会で初出場ながら準優勝した“群馬みなかみタンカーズ”の快進撃は、チームのエースだった彼女の力に負う所が大きかったもの」
「はい。特に彼女の“戦車長としての実力”は、中学生のレベルを大きく超えていました。更に噂では、この春非公式の強襲戦車競技で、ここ数年王者に君臨している福井県のボンプル高校戦車道チーム現隊長・ヤイカと野試合で決闘して勝った、と言われています」
ここでアッサムが、古くから母校と友好関係にあり、現在でも交換留学が行われている程交流が深い、ボンプル高校からの留学生経由で仕入れた情報を披露すると、オレンジペコも「それは本当ですか!?」と驚きながら、自らが知っている嵐に関する噂話を語った。
「私は彼女と直接試合をした事はありませんが、小学生時代から有名な娘で非常に強い選手だって聞かされていました…実は、原園さんは漢っぽい感じの娘らしくて、下級生からの人気が凄かったのですけれど、戦い方が激しい上に一匹狼タイプなので裏では“みなかみの狂犬”と呼ばれていたから、ちょっと恐い人かなと思っていたのですが」
オレンジペコからの噂話をダージリンも興味深そうに聞いている中、アッサムが然り気無く嵐に関する情報を付け加える。
「周囲の評判もオレンジペコの話と同じで、実力と人気を兼ね備えている分、ライバルからは随分と恐れられていた様です。ところが、去年の秋頃から周囲に『中学を卒業したら戦車道からは引退して、高校は戦車道の無い所へ進学する』と公言したから、彼女を知る者は皆驚いたそうです」
オレンジペコも、アッサムからの情報に頷きながら「私もそう聞いていましたから、何があったのだろうと思っていました」と、不思議そうにダージリンへ語る。
すると、当人は微笑みながら紅茶を口にすると、オレンジペコの疑問に対して明快に答えた。
「何でも原園さんは、以前からお母様の明美さんと仲が悪くて、本人は常々“戦車道を辞めたい”と言っていたそうよ。今度の、大洗への転校や戦車道からの引退宣言も、実は“母親との諍い”が原因だったみたい」
ダージリンからの説明に、オレンジペコが納得した表情で頷くと、今度はアッサムが嵐の母親についての情報を口にした。
「その母親の明美さんは、みなかみ町に本社のある『原園車両整備』と言う戦車整備工場の社長ですが、この会社は近年、東日本の小中学校を中心に年間120輌以上の戦車のオーバーホールやレストアを手掛けていて、急速に業績を伸ばしています」
「と言う事は…明美さんの戦車整備工場は、今や全国でも五指に入る規模になるわね。急成長していると言えるわ」
アッサムからの説明を聞いたダージリンが、明美の経営する工場は全国の戦車整備工場の中でも有力な存在になりつつある事を語ると、オレンジペコは小さく頷きながら、こう語った。
「成程…そんな方が大洗の戦車道復活に手を貸しているのですか?」
「何でも、今度大洗町に新しい工場を建設する事が決まったので、その縁で大洗女子学園の戦車道復活のスポンサーに立候補したそうよ。でも案外、原園さんはお母様に騙されて大洗女子学園へ進学させられた、と思っているのかもね…これこそ『親の心子知らず、子の心親知らず』ね。なると痛いのは“親知らず”の方だけど」
「「はあ……」」
オレンジペコの語り掛けに対して、ダージリンは本気とも冗談ともつかない駄洒落付きの諺を交えながら答えたので、アッサムとオレンジペコは共に呆れた様な口調で相槌を打つ事しか出来なかった。
そして、時は現在。
ここまで、紅茶を味わいながら物思いに耽っていたダージリンは、一気に気持ちを試合モードへと切り替える。
試合が始まってからもティータイムに興じていたのは、単に“英国流の格式と作法を重んじる母校の伝統”に従っていたからでは、ない。
対戦相手の隊長である西住 みほとその仲間の1人である原園 嵐の境遇に対して“同情の念”を抱いているからこそ、
それが出来なければ、高校戦車道4大強豪校の一角を占める母校の隊長は勤まらないし、何よりも毎日切磋琢磨しているチームの仲間達に申し訳が立たないではないか。
だが、ダージリンは隊長としての威厳と優雅さを保つ為か、そんな感情を表に出さない。
代わりに、砲塔のハッチから彼女を心配そうに見詰めているオレンジペコに向かって静かに微笑むと、共にチャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶの車内へ入った。
すると、それを待ちかねていたかの様に無線機から、元気そうと言うよりはやんちゃな少女の声が響いて来る。
「ダージリン様~!まだ前進命令は下さらないのですの~!?」
今回のチームで、唯一のクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲを預かる事になった1年生の戦車長、ローズヒップである。
何でも、中学時代は“デコチャリで地元を徘徊していたヤンキー女子”だったらしいが、中2の初夏に偶然、戦車道高校生大会の生中継で聖グロの試合を見たのをきっかけに「これだ!」とばかりに戦車道の世界へやって来ると、その無謀…いや、勇気ある操縦テクニックを短期間で磨き上げ、聖グロへ“一芸入学”を果たしたと言う少女。
その過剰なまでの勇気と積極性を買ったダージリンは、入学したばかりのローズヒップをクルセイダー隊のリーダーに抜擢したのだが、今日が彼女の“初陣”と言う訳である。
とは言え、聖グロの一員にしては多少はしたない発言をした彼女に対して、ダージリンは無線で釘を刺す。
「ローズヒップ、“慌てる乞食は貰いが少ない”と言うわ」
「あっ…ダージリン様、申し訳ありませんですわ」
隊長からの“お叱り”を受けたローズヒップは、途端に恐縮した口調で返事をした。
何時もの事だが、彼女は聖グロの一員としては数々の欠点を持っているものの、“隊長からの命令は忠実に聞く”と言う美点を持っている。
そんな彼女からの返答を聞いたダージリンは、微笑を浮かべながら優し気な口調でこう告げる。
「でも、このまま待つのも相手に失礼ね。そろそろ前進を始めるから、ローズヒップは先頭をお願い…何をすべきかは、言わなくても分かるわね?」
「はい、ダージリン様!クルセイダー6号車は先陣を切って前方の偵察任務を遂行。相手の位置と布陣を確認次第、報告致しますわ!」
任務確認を兼ねた問い掛けに、完璧な回答を伝えて見せたローズヒップに対して、ダージリンは愛おし気な気分を抱きながらも、それを表情と言葉に出さないまま、明快な命令を下した。
「その通りよ。では、前進の命令が下り次第、出発しなさい。本隊との間隔は
「了解ですわ!」
何時もの元気の良いローズヒップからの応答が無線に響いた直後、今度は彼女と隊長の無線交信を聞いていたアッサムが、少しばかり不安そうな表情でダージリンに問い掛ける。
「ダージリン様、ローズヒップを試合に出すのは、少し早過ぎたのでは?」
それに対して、ダージリンは試合特有の緊張感ある表情を保ったまま、信頼の置ける同級生へ静かに答える。
「確かにね…ただ、今の私達には“みなかみの猟犬”に対抗出来る人材があの娘しかいないのよ。なら、起用せざるを得ないわ」
そう…ダージリンが語った通り、ローズヒップは“本来であれば”今日の親善試合には、選抜する予定が無かった。
何故なら、彼女は入学したばかりと言うだけでなく性格上の問題も在って、未だ「母校生徒らしい気品」を備えていない。
その為、周囲からは“まだ試合に出すには相応しくない”と、思われていたのである。
だが…大洗に原園 嵐と言う“狂犬”がいると言う情報を得たダージリンは、自チームのメンバーに“嵐に対抗出来そうな積極性”を持つ選手が、ローズヒップしか見当たらない事に気付いた。
その結果、ダージリンは“勝つ為”に彼女を起用せざるを得なかったのである。
「成程…今の原園さんは“狂犬”ではなく“猟犬”であると」
アッサムが隊長の発言を聞いて、嵐の事を“みなかみの狂犬”ではなく“猟犬”と表現した事を指摘すると、ダージリンは真剣な表情で前方を見据えつつ答えると同時に、指示を出した。
「ええ。ある意味に置いて、彼女はみほさんとは
こうして、聖グロリアーナ女学院戦車道チームの戦車6輌は、ダージリン隊長の号令の下、試合開始から5分近く経って、漸くスタート地点から出発した。
先頭を行くクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲが、戦車長の性格そのままにあちらこちらを蛇行したりジャンプしたりを繰り返しながら、ハイテンポで前進する。
そこから
(第23.5話、終わり)
【ガルパン最終章第2話公開記念・ミニコント】
瑞希:武部先輩…実は私、“先輩に似合う男性って、誰か居るのかな?”と考えていたら、あるTV番組を見ていて“お似合いな方”を1人思い付いたのですが。
沙織:えっ…誰?
瑞希:それはですね…「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星」のドズル・ザビ中将。
沙織:ののっち…私に何か、恨みでもあるの!?
瑞希:えっ!?
嵐:はーい、ののっちさん。ここは素直に謝りましょうね~(暗黒笑顔)
(コント・完)
註・このコントのヒントは“ガンダム THE ORIGINのゼナ・ミア(ドズルの奥様でミネバのお母様)とさおりんの中の人が同一人物”と言う点にあります(爆)。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
今回は番外編に当たる第23.5話をお送りしました。
今回は冒頭でも書きましたが、青葉ちゃんと長門さんとの関係やダージリン様からの視点から見た西住殿と嵐ちゃんに、原作の親善試合には出場していないローズヒップが本作に登場している理由等を書いて行く内に、嵐ちゃんや西住殿が全く出て来ない話が1話分出来てしまった訳でして。
とは言え、この様な場面は本作のテーマの一つとしてやって行こうと思っていますので長い話になりますが、お付き合い頂ければ幸いです。
と言う訳で、次回から漸く親善試合へ入りますので、皆様お楽しみに。