戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
お待たせしました。
聖グロとの親善試合、スタートです。
それでは、どうぞ。
鳥の
その一角にある丘の上から、2人の少女が下方に見える
大洗女子学園・戦車道チーム隊長兼Aチームの戦車長・西住 みほとチームメイトで装填手の秋山 優花里である。
彼女達は現在、地元・大洗町で神奈川県の聖グロリアーナ女学院と親善試合中であり、相手チームの動きを偵察しているのだ。
その背後には、自分達Aチームが乗るⅣ号戦車D型と味方チームの戦車5輌の姿がある。
「クルセイダー1輌、マチルダⅡ4輌、そしてチャーチル1輌前進中」
「流石、綺麗な隊列を組んでますねぇ…先頭のクルセイダー以外は」
みほが双眼鏡で見詰めている前方右手から左手に向かって、聖グロリアーナ戦車隊6輌が前進しているのを優花里に告げる。
しかし優花里は、綺麗な傘型隊形を組んでいるチャーチル歩兵戦車Mk.ⅦとマチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳの姿に感嘆しながらも、その隊列の前方で妙に
「う~ん…でも、あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて、凄い。先頭のクルセイダーは“戦車長の性格”がああなのかも?」
「成程」
だが、自らの呆れ声を聞いたみほからの返事を聞いた優花里は、敬愛する戦車道の“先輩”の言葉に納得すると、この試合における最大の問題点を指摘する。
「此方の徹甲弾だと、クルセイダー以外の正面装甲は抜けません」
優れた機動力の代償として、装甲が薄いとされているクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲだが、それでも砲塔部の正面装甲は最大51㎜ある。
一方、みほ達Aチームが駆るⅣ号戦車D型が持つ24口径75㎜戦車砲の徹甲弾では、射程距離100mで41㎜の装甲板しか貫通出来ないので、クルセイダーにさえ撃ち勝つのは難しい…それでも、車体正面や側面部なら何とかならない事も無いが。
況してや、砲塔部の正面装甲が75㎜あるマチルダⅡや152.4㎜もあるチャーチルに至っては、ボクシングに例えると“戦う前からレフェリーストップでTKO負けが決まっている”様な戦力差だ。
事実、大洗女子学園が保有する6輌の戦車の中で、マチルダⅡやチャーチルに対して“常識的な射程距離”から撃破が期待出来るのはCチームのⅢ号突撃砲F型と、FチームのM4A3E8“シャーマン・イージーエイト”の2輌しか無かった…しかし。
「そこは、戦術と腕かな?」
みほは、絶望的な戦力差など気にしないかの様に優花里へ語り掛けると、優花里は笑顔を浮かべて元気に答えた。
「えへへ…はいっ!」
こうして偵察を手短に終えた2人は、素早く愛車であるⅣ号戦車D型へ駆け戻って行った。
事前に、チームの皆と打ち合わせていた作戦を遂行する為に……
その頃。
聖グロリアーナ女学院戦車道チームの先鋒を務めるクルセイダーの戦車長・ローズヒップは、初の対外試合に心を弾ませながらも敬愛する隊長からの指示を忠実に守っていた。
「ダージリン様からのご指示は『先陣を切って前方の偵察任務を遂行し、相手の位置と布陣が分かり次第、素早く報告する事』…必ず、相手より先に見付けますわ」
元気一杯なその表情からは窺い知れないが…入学以来、周囲から「我が校らしい優雅さと気品が足りない」と、しばしば手厳しい評価をされている自分を、“今日の試合に起用してくれた隊長の期待”に応えたいと願う彼女は、必ずやこの任務を果たそう、と前方を注意深く睨み付けていた。
すると前方の左側にある切り立った崖の上に、不自然な人工物…WW2初期のドイツ戦車特有の“ジャーマングレイ”で塗装された戦車の姿が見えた。
「こちら6号車。ダージリン様、前方11時方向、距離
ローズヒップからの警報を無線で受信したダージリンは、即座に操縦手のルフナへ指示を出し、愛車であるチャーチルの進路を僅かに右へずらした。
その直後、先程までチャーチルが走ろうとしていた場所に砲弾が着弾し、激しい土煙が巻き起こった。
命中こそしなかったが、かなり近くに落ちた至近弾だった為、チャーチルの車内は激しく揺れる。
しかしそこは、歴戦の聖グロ戦車道チームの隊長車。
乗員は誰一人悲鳴を上げる事無く、自らの役目に集中する。
そんな中、装填手兼隊長車の乗員に紅茶を注ぐ役を司るオレンジペコが、冷静な口調で戦況をダージリンへ告げた。
「仕掛けて来ましたわね」
すると、相手が先に攻撃して来た事を意外そうに思っていたダージリンもティーカップを手にしたまま、不敵な表情を浮かべて「こちらもお相手しますか」と後輩の装填手へ答えた後、全車へ指示を出した。
「全車輌、前方Ⅳ号へ攻撃開始」
最初の砲撃失敗直後、隠れていた崖から素早く離れて荒地へ逃げるⅣ号戦車を狙い、全車右旋回で追い掛ける聖グロ戦車隊。
間も無く、先頭のクルセイダーを始め6輌の戦車から次々に砲撃が開始されるが、命中精度に難のある行進間射撃である事と、相手が巧みなジグザグ走行で砲撃を回避する為、発射した砲弾が命中する事は無かった。
そのままジグザグ走行を繰り返しながら、両側の崖に挟まれた一本道を激走する大洗女子学園のⅣ号戦車。
「思っていたよりやるわね…速度を上げて、追うわよ」
その様子を見ていたダージリンは、相手の回避機動に感心しつつも鋭い声で味方に指示を出した後、ローズヒップへ追加の指示を出した。
「但し、ローズヒップはⅣ号から
そしてダージリンは、車内で僅かに揺れながらも決して自らが持つティーカップから零れない紅茶の水面を眺めながら、こう
「どんな走りをしようとも我が方の戦車は、一滴たりとも紅茶を零したりはしないわ」
それは、まるで毎晩秋名峠を猛スピードでドリフトするAE86“パンダトレノ”のカップホルダーに挿した紙コップから決して水を零さなかったと言う、群馬県出身の某・ダウンヒルスペシャリストを連想させる様な光景であった。
こうして、偵察兼囮役である西住先輩達Aチームが奮闘していた頃。
私達・大洗女子学園戦車道チームの戦車5輌は、待ち伏せ地点である丘の上で待機…と言うよりは、暇を持て余していた。
勿論、私はチームの愛車であるM4A3E8の砲塔にある車長用キューポラから身を乗り出して、周囲の監視をしているが……
例えば、私達Fチームの右隣では、梓達Dチームの6人がM3中戦車リーのエンジンルーム上で、トランプゲームの“大富豪”をやっている。
丁度今、あやが「革命~♪」と大富豪の特殊ルールを決めたので、優季は「しまった、どうしよう」と困っているが…緊張せずにリラックスしているのは良いけれど、試合中にカードゲームをやるのは、ちょっとねぇ。
更に、左端にいるBチームのバレー部員4人は戦車から降りて、磯辺部長の「いつも心にバレーボール!」の掛け声と共にラリーの練習をしている…今、「そ~れ!」と掛け声を上げたのは、ブロッカーの佐々木 あけびさんだな。
でもバレー部の皆さんも、今は「心に戦車道」を忘れて欲しくないのだけど…まあ、これは仕方ないか。
こんな状況なので、今の所私以外に周囲を真面目に監視しているのは、Cチームのエルヴィン&カエサル両先輩と私達の左隣にいる生徒会Eチームの…と思った、その時。
「遅い!」
そのEチームの38(t)軽戦車B/C型の砲塔キューポラから、半身を出して前方を見ていた河嶋先輩が待つのに焦れたのか、大声で西住先輩達Aチームがやって来るのが遅いと一喝した。
『全く……』
先日の作戦会議での一件もあり、“そんなに西住先輩が憎いのか”と思った私は、河嶋先輩を怒鳴ってやろうかと思ったが、そこへ38(t)軽戦車のエンジンルーム上にビーチチェアを持ち出して日向ぼっこと言う、
「待つのも作戦の内だよ~」
「いや…しかし」
会長の言葉に対して、河嶋先輩は尚も食い下がろうとしたので、私がここで一言口を挟む。
『会長の言う通りですよ、河嶋先輩。“急いては事を仕損じる”と言うじゃないですか、今がその時だと思いますよ…そうですよね、小山先輩?』
「そうだね、原園さん」
「そうですよ、河嶋先輩…ここで短気を起こしたら、折角の待ち伏せが台無しじゃないですか?」
私は河嶋先輩へ進言しつつ、38(t)軽戦車の右側後部の端に座って休んでいる小山先輩へ問い掛けると小山先輩も同感だったらしく、私へ相槌を打ってくれた。
更に、この間の練習試合終了後よりEチームの新メンバーとして加入した、農業科の名取 佐智子ちゃんも座っていた38(t)軽戦車の左側後部から立ち上がって、砲塔の後部へ体を預けながらの姿勢で河嶋先輩へ忠告すると……
「原園、お前はなぁ……」
河嶋先輩は“自分の味方”がいなくなったのが気に障ったのか、私へ文句を付けようとした、その時。
「Aチーム、敵を惹き付けつつ待機地点にあと3分で到着します」
河嶋先輩が待ち兼ねていた、西住先輩からの報告が飛び込んで来た。
すると河嶋先輩は、表情を一変させて「Aチームが戻って来たぞ、全員戦車に乗り込め!」と皆へ叫ぶ。
この時、大富豪をやっていたDチームでは優季が「え~っ、ウソ~」と困り顔になり、あやは「せっかく革命起こしたのに」とガッカリしていたが、今は其れ処ではない。
勿論私は、無線でチームの皆へ『敵との接触まであと3分、全員戦闘準備!』と号令を下す。
「此方、瑞希。照準器と主砲の準備はOK、何時でも撃てるわよ!」
「此方は菫、点検終了。何時でもエンジンスタート出来ます!」
「此方、舞。弾薬庫と主砲閉鎖器の点検完了、何時でも行けるよ!」
「此方、長沢…車体機関銃と此方側の弾薬庫…えーと、準備出来ています!」
イージーエイトに乗り込む仲間4人が次々と返事をする中、新メンバーの長沢さんだけが少し手間取っていたので、私は一言励ます。
『良恵ちゃん、もう少し落ち着いて。ゆっくりで良いよ…誰だって初陣は緊張するから、安全確実にね』
「うん…有り難う」
話を聞いた長沢さんが、ホッとした様子で返事をしたのを聞いた私は、少し安心すると無線で河嶋先輩へ『こちらFチーム、戦闘準備完了です!』と告げた。
そして河嶋先輩が「原園、了解した!」と鋭い返事を返した直後、西住先輩からの続報が入電する。
「あと600mで敵車輌射程内です!」
残り600mと言う事は、イギリスの歩兵戦車が鈍足だと言う点を考慮しても、あと2分程でこちら側の射程内へ入る事になる。
この時、私は待ち伏せ攻撃を
『瑞希、ギリギリまで発砲は粘るよ』
「ええ、敵の先頭までの距離が
瑞希も私の意志を汲んで、M4A3E8の照準器用目盛りの単位に合わせたヤードで射撃開始予定距離を告げていた時。
「撃て、撃てぇ~!」
無線から、河嶋先輩の声で
『えっ!?』
私がその指示に驚愕した途端、Eチームの38(t)軽戦車B/C型の37㎜主砲が盛大に発砲した!
それに釣られて、私達Fチームを除く各チームも砲撃を開始するが…その砲撃は、あろう事か西住先輩達AチームのⅣ号戦車を目掛けて飛んで行くではないか!
勿論、敵戦車には1発も向かって行かない。
車長用キューポラの上からこの有様を見た私は、思わず…今まで控えていた、河嶋先輩への罵倒の言葉を口にした。
『あの…バカ先輩!』
「こんな安直な囮作戦、私達には通用しないわ」
一方…聖グロ戦車道チーム側では、隊長のダージリンが紅茶を一口飲んだ後、ほくそ笑みながら相手チームの作戦の浅はかさを一人語っていた。
実はダージリンは、Ⅳ号戦車が単独で自分達の前に現れた時点で、大洗女子が“待ち伏せ攻撃に出る可能性を予見していた。
そこで、自らの予見が正しいか否かを確かめるべく、ローズヒップのクルセイダー巡航戦車を先鋒に出して、大洗女子の布陣を見抜こうとしたのである。
ローズヒップは、その性格上チームの一員としては様々な欠点を持っている為、この任務が務まるかどうかは疑問の余地があったが、ダージリンは入学当初から“隊長の命令には常に忠実であろう”としている彼女の態度に賭けた。
そして…ローズヒップは隊長の期待に応えただけでなく、自らは欠点が多いものの、
「こちら6号車!ダージリン様、Ⅳ号の前方
自分達が、大洗女子の待ち伏せていた一本道の先のT字路前にある丘へ突入する約3分前に
こうして…大洗女子の河嶋 桃が立案して、隊長の西住 みほが実行しようとしていた「こそこそ作戦」は、
「あっ、待って下さい!」
「味方撃ってどうするのよー!?」
「撃てぇ!撃て撃て撃てぇ~!」
無線には、味方に撃たれた西住先輩からの呼び掛けと武部先輩からの抗議が響くが……
それも
本来、河嶋先輩が立てた“丘の上から真下にある逆T字路へ向けて砲撃を加える”と言う待ち伏せ作戦をベースに、西住先輩が「こそこそ隠れて、相手の出方を見て、こそこそ攻撃を仕掛けたいと思います」との方針で行われるはずだった「こそこそ作戦」。
しかし、それは皮肉な事に
更に河嶋先輩に続いて砲撃を開始した他の味方チームも、ここまで充分な射撃訓練が出来ていなかった事が災いして、まるで命中弾が出せていない。
『あの…バカ先輩!』と、諸悪の根源である河嶋先輩へ呪詛の言葉を吐いた次の瞬間、砲撃を試みようとしていた砲手の瑞希から悲鳴が上がる。
「嵐、これじゃあ皆の砲撃による土煙が邪魔で、砲の照準が出来ない!」
『そうね…ちょっと待って』
それを聞いた私は砲撃を諦めて、代わりに視界に入った聖グロの先頭車・クルセイダーが向かう方向を見極める…西住先輩達の後に従いて来た、すばしっこい巡航戦車だ。
これは単なる直感だが、あの戦車は“真っ先に潰さないと後々困った事になる”気がしたのだ。
「そんなバラバラに攻撃しても…
一方、聖グロ戦車隊はご丁寧にも、緩やかなスロープ状の坂になっている丘の両側から頂上にいる私達を包囲しようとする中、自陣へ到着した西住先輩が皆へ指示を出しているが…
何故なら、履帯を狙おうにも私達のチームは“
そう…私達は、“この待ち伏せ作戦に必要な準備”が全く出来ていなかった。
相手を絶対に撃破出来る距離まで、何もせずに待ち受けられる度胸。
戦車を敵に発見されない様、周辺の地形に隠れる為の迷彩塗装と偽装の準備。
例え短距離であっても、正確に相手へ命中弾を送れる射撃技量と砲撃圏内の地理条件の把握。
その
しかし…この待ち伏せ攻撃を失敗させた張本人は、完全な
「もっと撃てぇ~!」
河嶋先輩は、自分の叫び声が無線でチームの全車に聞こえているのに
「西住撃てぇ、見える物は全て撃てぇ!」
『あのトリガーハッピー…一体、何処の特車2課第2小隊の2号機フォワードよ!』
思わず、河嶋先輩の馬鹿さ加減に毒吐く私だが、当人は気にもせず喚き散らしている。
その声を聞いた私は、
『よしっ、右から来る奴を押さえる…瑞希、先頭のクルセイダーを狙って!』
「よし来た!」
私からの号令を聞いた瑞希が、漸く出番が来たとばかりに返事をする。
聖グロが、戦車隊を3輌ずつ二手に分けて丘の両側にある坂から攻め上がって来るのを見た私は、取り敢えずDチームのM3中戦車リーとEチームの38(t)と組んで、右側から攻めて来るクルセイダーとマチルダⅡ2輌を相手にする事に決めた。
隊長車のチャーチルはマチルダⅡ2輌と一緒に左側から攻めて来るが、そこはCチームのⅢ突と西住先輩がいるから何とかしてくれるだろうと思っていた…のだが。
その時、私は梓が戦車長を務めるDチームのM3リーに危機が迫っている事に気付き、無線で叫ぶ。
『梓、戦車をすぐ相手の正面に向けて!でないと側面を撃ち抜かれる!』
この時、Dチームは岩場で僅かに前進と後退を繰り返しながら、聖グロの攻撃に対して右側面を曝していた。
戦車は普通、正面よりも側面の装甲が薄い。
M3中戦車リーの場合でも正面装甲が最大51㎜あるのに対して、車体側面の装甲は38㎜しかない。
しかも、戦車は正面よりも側面の面積が広いので、相手から見ると側面を狙って撃った方がよく当たるし、確実に撃破し易い。
その為、私は梓へ“直ちに戦車を相手の正面に向けて応戦し、極力やられない様に”と注意した。
丁度その時、西住先輩も「落ち着いて下さい、攻撃止めないで!」と皆へ必死の指示を出していた…ところが。
この時、無線にDチームメンバーの声が微かに入って来たのに気付いた私は、驚愕した。
「無理です~」
「もういや~」
誰かは分からないが、Dチームでパニックになっている娘がいる…と思った、次の瞬間。
梓の声が無線に響いて来た。
「待って~あっ、逃げちゃダメだってば!」
えっ…これは、まさかの敵前逃亡!?
慌てた私が無線で梓へ叫ぼうとした時、M3リーの車体側面にあるハッチが開け放たれると、何とDチームの面々が操縦手の桂利奈ちゃんを先頭に、一斉に逃げ出しているではないか!
『ちょっと皆…今は外へ逃げる方が危ないよ! 直ぐ戦車へ戻って!』
仰天した私は、あらん限りの大声で戻る様に叫んだが、皆を戦車へ戻そうと追い掛けている梓は兎も角、Dチーム全員があっと言う間にその場から逃げ出してしまった。
でも…実は、戦車道で使用されている戦車は、特殊カーボンのコーティングに代表される安全対策が充実しているから、去年の全国大会決勝戦の様に川へ落ちて水没したと言うなら兎も角、
寧ろ“戦車道の試合中”は、砲弾が飛び交っている
それはさて置き、乗員が逃亡してしまったM3中戦車リーは、聖グロの攻撃で呆気無く撃破されて白旗を揚げてしまったが、私達大洗女子の損害はそれだけに留まらなかった。
私達Fチームの背後で、37㎜砲の乱れ撃ちを続けていたEチームの38(t)軽戦車B/C型が、突然後退したかと思うと左側履帯が外れて暫く迷走した挙句、付近の窪地に擱座してしまったのだ。
後日、38(t)の車内で「何もしていなかった」と言う角谷会長に聞いた所、どうやら聖グロの攻撃による至近弾で履帯が外れてしまったらしい…まあ、38(t)は履帯が外れやすいから、これも仕方ないとは言えるけど、生徒会長とは言え“車内で仕事をしていない”とは。
でも、これで私達Fチームは単独で丘の右側から攻撃する聖グロの戦車3輌相手に戦わなければならなくなった…その時だ。
「Fチーム、Fチーム聞こえますか!?」
Aチームの通信手である武部先輩の声が響いて来た。
どうやら、西住隊長から各車の状況確認を命じられたらしいと察した私は、直ちに報告した…周辺にいる2輌の戦車の状況も含めて。
『こちらFチーム。私達は無事ですが、Eチームは履帯脱落で現在擱座。そしてDチームは……』
一瞬、私は親友である梓達の事を報告するのを躊躇ったが…嘘を言う訳には行かないので、覚悟を決めて報告した。
『…Dチームは全員、戦車を見捨てて逃げ出しました!』
「ええっ!?」
最後にDチームの状況を聞いて驚いたのか、武部先輩が息を呑む声が無線から聞こえた直後、河嶋先輩の無粋な声が響いて来る。
「無事な車輌はドンドン撃ち返せ!」
『全く…あの先輩は!』
そう毒吐いた時、無線に生き残っているB、Cチームの戦車長を務める磯辺部長とエルヴィン先輩から、西住先輩へ指示を求める交信が相次いだ。
「私達、どうしたら!?」
「隊長殿、指示を!」
「撃って撃って撃ちまくれ~!」
だが、そこへ河嶋先輩が戦況を読まない発言をしたので、私が口を挟む。
『河嶋先輩は、黙って38(t)の履帯を修理して下さい!』
「何をぉ!?」
河嶋先輩が言い返して来たが、私は無視すると西住先輩へ決断を後押しすべく、語り掛ける。
『西住先輩…いえ隊長!何でもやりますから、命令をお願いします!』
そして一瞬の間が空いた後…西住隊長から待っていた命令がやって来た!
「B、CとFチーム、私達の後について来て下さい。移動します」
「分かりました!」
「心得た!」
「何、許さんぞ!」
『了解、では私達が殿を務めます!』
西住隊長からの命令に、希望を取り戻した磯辺部長とエルヴィン先輩が返事をする中、河嶋先輩は相変わらず隊長を軽んじていたが、私はもう河嶋先輩を
そして西住隊長が、新たな作戦の発動を命令する。
「“もっとこそこそ作戦”を開始します!」
この命令が届いた瞬間、私は皆へ指示を出した。
『今から前方のクルセイダーへ1発撃ったら左旋回して、八九式の後ろに付いて撤退する…その間に、砲塔を6時方向へ回して煙幕弾を用意!』
「「「「了解!」」」」
『では瑞希、前方のクルセイダーを撃て!』
次の瞬間、イージーエイトから発射された76.2㎜砲の徹甲弾が、前方のクルセイダーを掠めて行く。
命中はしなかったが、こちらへ突入しようとしたクルセイダーと2輌のマチルダⅡを、一瞬だけ足止めする事には成功した。
その隙に、菫が左へ急旋回しながらBチームの八九式中戦車甲型の後ろへ付く。
同時に、瑞希は砲塔を6時方向…真後ろへ向けると、舞が砲塔前方左側へ移動して、そこにある煙幕弾発射機に取り付いてから、私に報告する。
「煙幕弾、何時でも撃てるよ!」
そして私は、自分達の戦車が撤退する味方の最後尾に付いた事を確認しつつ、瑞希と舞へ命令を出した。
「瑞希、砲塔を今直ぐ3時方向へ回せ…よし舞、撃て!」
次の瞬間、3時方向へ回した砲塔の前方左側にある煙幕弾発射機から、煙幕弾が発射される。
それは丁度、前方正面にいた聖グロ隊長車であるチャーチル歩兵戦車の手前に着弾すると、派手な煙を噴き上げた。
多分、これで逃げ出した私達を追撃しようとしたダージリンさんは、出鼻を挫かれて悔しがっているだろう。
一時的ではあるが、追って来る聖グロ戦車隊の目を眩ます事に成功した私達は、丘から脱出すると大洗磯前神社参道目指して駆け降りた。
こうして、私達は漸く混乱から抜け出して、大洗町内へ撤退を始めたのだった。
(第24話、終わり)
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第24話をお送りしました。
原作の親善試合もそうでしたが、この「こそこそ作戦」最大の見せ場は「トランス状態に陥った桃ちゃんの本性が露になる」点に尽きますね(爆笑)。
そんな桃ちゃんが最終章では“ヒロイン”的立場とは…時代は変わった(笑)。
それと「こそこそ作戦」の様な待ち伏せ作戦は、地味な見た目以上に忍耐力と咄嗟の判断力、そして射撃能力と偽装技術等、高い技量が問われる難しい作戦なので、実は「素人同然の大洗女子にとっては“最悪の作戦”」に過ぎなかったのですが、これが今回上手く表現出来たかどうか…皆さんは、どう思われたでしょうか。
そして次回は、いよいよ大洗町市街戦。
大洗女子の面々と共に市街戦に挑む嵐ちゃん達Fチームは、いかに戦うのか?
それでは、次回をお楽しみに。