戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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期間限定週刊連載も今回を入れてあと2回となりました。
今回は、親善試合その2…いよいよ大洗市街戦に突入です。
それでは、どうぞ。



第25話「もっとこそこそ作戦です!!(前編)」

 

 

 

私達・大洗女子学園戦車道チームは、待ち伏せに失敗して丘から撤退した後、大洗磯前神社参道を抜けて鳥居下の交差点を左折。

 

そこから大洗岬を望む急カーブを右に曲がり、サンビーチ通りへ入った。

 

追跡して来る聖グロリアーナ女学院・戦車道チームから砲撃を受けつつも、西住隊長が乗るAチームのⅣ号戦車D型を先頭に、CチームのⅢ号突撃砲F型、Bチームの八九式中戦車甲型、そして私達FチームのM4A3E8“シャーマン・イージーエイト”の順で、サンビーチ通りの長い直線道路を駆け抜ける。

 

そんな中、私達の前にいるBチームの八九式が時々、道路からコースアウトして中央分離帯を越えたり、大洗マリンタワー付近の草地に入ったりしながら前進しているので、心配した私は無線で、チームの戦車長であるバレー部の磯辺部長と交信した。

 

 

 

『磯辺先輩、大丈夫ですか?』

 

 

 

「ああ、原園ゴメン。ちょっとパワーに振り回されちゃってるけれど、河西が頑張ってくれているから心配していないよ」

 

 

 

磯辺先輩からは余裕のある返信が届いたが、Bチームの八九式中戦車甲型は自動車部によるレストアの際、戦車道連盟が推奨する電装品の交換だけでなく、エンジン本体や吸排気系等にライトチューンが施されているので、八九式が本来出せる最大速度25km/hを軽く超えるスピートが出せるから操縦手の忍さんは大変だな…と思っている内に、八九式は前にいたⅢ突を追い越して、Ⅳ号戦車の後ろにポジションを変えていた。

 

そして隊列が大洗シーサイドステーション前に差し掛かった時、西住隊長からの指示が全車へ飛ぶ。

 

 

 

「これより市街地へ入ります。地形を最大限に生かして下さい!」

 

 

 

Bei Gott!(神に誓って!)

 

 

 

「大洗は庭です、任せて下さい!」

 

 

 

それに対して、コスプレ元のロンメル将軍らしくドイツ語で応答したのは、Cチーム戦車長のエルヴィン先輩。

 

そして地元だけに、気合の入った応答をしたのはBチームの磯辺部長だ。

 

勿論、私も2人の先輩に負けない様に気合を入れて応答する。

 

 

 

『了解です!』

 

 

 

すると私の応答を聞いた瑞希が、不安そうに問い掛ける。

 

 

 

「了解って、嵐…私達、大洗の町は初めてなのだけど?」

 

 

 

『実を言うと私、入学前の春休みに大叔母さんから紹介してもらった大洗の民宿で、手伝いをしながら一週間宿泊していたの。だから大洗の町並みは大体分かるし、試合前に泊めてもらった民宿の女将さんから手作りの地図を頂いているので大丈夫だよ…それに、良恵ちゃんもいるしね』

 

 

 

私が、瑞希からの不安を払拭する様に明るい口調で説明すると、副操縦手の良恵ちゃんも元気良く答える。

 

 

 

「はい!大洗は地元ですから、詳しい事は何でも聞いて下さい!」

 

 

 

「「「あ…ありがとう」」」

 

 

 

こうして、大洗の地理に問題が無い事を確かめた瑞希達3人が返事をする中、チームの残存戦車4輌は、大洗シーサイドステーションの端にあるマリンタワー南交差点を右折して大貫勘十郎通りへ入った後、郵便局の先にある交差点から各車バラバラに方向を変えて、商店街と住宅街が混在する地域へ逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

丘での待ち伏せを難無く退けた後、接近してからの砲撃で大洗女子学園のM3中戦車リーを仕留め、38(t)軽戦車B/C型を脱落させた聖グロリアーナ女学院・戦車道チーム。

 

だが、大洗女子が丘から撤退した際に殿を務めたM4A3E8からの砲撃と煙幕弾射撃で、行き足を一瞬止められた影響から距離が開いてしまい、その後の追撃戦では戦果を挙げる事が出来ないでいた。

 

そうしている内に大貫勘十郎通りへ入って行った彼女達は、郵便局の先にある大きな交差点で、大洗女子の戦車4輌を見失ってしまった。

 

 

 

「うん…消えた?」

 

 

 

相変わらず、ティーカップを手にしながら“()()()()()()()()()()()()()()()()”と訝しむダージリン。

 

だが…実はこの時、消えたのは大洗女子の戦車()()ではなかった。

 

 

 

「ローズヒップも消えましたわ」

 

 

 

彼我の状況を確認していた砲手のアッサムが、隊長へ“一番懸念していた事項”を伝えると、ダージリンは渋い表情を浮かべながら小声で呟く。

 

 

 

「あの娘、“深追いだけは避ける様に”と言ったのに……」

 

 

 

ダージリンも予想はしていたが、ローズヒップは聖グロでもトップクラスの操縦技能を持つ反面“飛ばし屋”でもある為、練習でもしばしば周囲の状況を把握せずに突出した結果、思わぬ失敗をしでかす事があった。

 

しかしこの試合では、大洗女子に“みなかみの狂犬”と呼ばれていた勇猛な戦車乗り・原園 嵐がいる事を考慮した結果、同じく積極性があるローズヒップを起用する事にしたのである。

 

それは、丘の攻防戦では有効に機能したのだが…どうやら移り気な勝負の女神は、彼女の欠点もご覧になりたいらしい。

 

とは言え、これは“事前に予想していた事態”だったので、ダージリンは無線も担当する装填手へ指示を出した。

 

 

 

「オレンジペコ、無線でローズヒップに呼び掛けて」

 

 

 

だが…この時、聖グロ戦車道チームには()()()の危機”が迫りつつあったのである。

 

 

 

 

 

 

それは、私達Fチームが郵便局の先にある交差点から住宅街へ飛び込んだ時だった。

 

1輌のクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲが私達を追って、凄い勢いで住宅街の狭い路地へ入り込んで来たのだ。

 

 

 

『あのクルセイダー…さっきから様子がおかしいと思ったら、私達をストーキングしているつもり?』

 

 

 

「ずっと派手な動きをしているクルセイダーの事?()しかしたら、戦車長は“あの娘”かな?」

 

 

 

私達を追って来るクルセイダーの事を(いぶか)しんでいると、砲手の瑞希に思い当たる節があった様なので、尋ねてみた。

 

 

 

『ののっち、その娘を知っているの?』

 

 

 

「うん。実は、この試合が決まった後で聖グロの近況を“戦車道WEB”の投稿掲示板で調べている時、気になった事があってね……」

 

 

 

瑞希の話によると、今年の聖グロの1年生の中に“聖グロの暴走乙女”なる異名を持つ、クルセイダーの戦車長がいると言う。

 

その名は“ローズヒップ”…本来はバラの果実の事で、ハーブティーの材料としても用いられるそうだ。

 

何でも彼女、中学時代はデコチャリで地元を徘徊していた“ヤンキー女子”だったのだが、中2の初夏に偶然、戦車道高校生大会の生中継で聖グロの試合を見たのがきっかけで「これだ!」とばかりに戦車道の世界へやって来ると、その無謀…否、勇気ある操縦テクニックであっと言う間に頭角を現したと言われている。

 

そして高校入試では、そのドラテクを生かして聖グロへ“一芸入学”を決めたのだと、聖グロファンの間では噂になっているらしい。

 

尤も…そうでなくても“常に礼儀正しく優雅で上品な態度”を心掛けている聖グロ生徒の中に在って、彼女は“真逆の性格と態度”の持ち主なので普段から目立つ…否、校内では“浮いている”だけに、周囲からはすぐ名前を覚えられている様だ。

 

実力を評価されているかどうかは、兎も角……

 

 

 

『ふ~ん…蠅みたいに五月蠅い奴ね。正直苛つくわ!』

 

 

 

瑞希から相手の戦車長と思われる人物の素性を聞かされた私は、しつこく追って来るクルセイダーに一瞬目を遣りながらも、“この試合に対する怒り”が沸々と湧いて来ていた。

 

 

 

「嵐…アンタ、まさか!?」

 

 

 

付き合いが長い分、私が怒っているのに気付いたのか、瑞希が脅える様な声音で私に問い掛けるが、私は“聞く耳持たない”と言う気持ちで、この試合に対する鬱憤をぶちまけた。

 

 

 

『それだけじゃない…彼奴らは丘の上で梓達が戦車から逃亡した時、梓達が安全圏へ逃げるまで待ってから、梓達のM3リーを狙い撃った。ドタバタしていた私達とは対照的に、聖グロは“腹立つ位に”冷静じゃない!』

 

 

 

あの丘での待ち伏せの時、トンデモないミスの連続で攻撃を失敗した私達とは対照的に、冷静且つ相手チームの身の安全にまで配慮した攻撃で戦果を挙げた聖グロの反撃を振り返りながら、自分達の不甲斐無さと情けなさを激白した次の瞬間…私の心の中で、“何か”がプツンと音を立てて切れた。

 

 

 

「嵐が…キレた!」

 

 

 

「ヤバいよ、ヤバいよ…嵐ちゃんがぁ~!」

 

 

 

「嵐ちゃん、落ち着いて!?」

 

 

 

完全にブチ切れた私の様子を悟った瑞希、舞、菫が、其々震える声で私を諫めようとしている中、初めての試合で状況が今一つ分からない新人の良恵ちゃんが「えっ…皆、一体原園さんに何が?」と無線で呼び掛けている。

 

そこで私は早速、良恵ちゃんに()()()()()を頼む事にした。

 

 

 

『大丈夫よ、皆…ちょっとした悪巧みを思い付いただけ。そこでね、これから良恵ちゃんの知恵を借りたいのだけど?』

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

いきなり私から頼み事を託された良恵ちゃんが当惑している中、私は人の悪い笑みを浮かべながら、これから始める作戦を簡潔に説明した。

 

 

 

 

 

 

『今からこの路地を利用して、あのクルセイダーをきりきり舞いさせてやるのよ』

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

嵐のイージーエイトを追い掛けて、住宅街の路地を走り回っていたローズヒップのクルセイダーは…案の定道に迷った挙句、住宅が立ち並ぶ路地の奥にある袋小路に辿り着いてしまった。

 

 

 

「ああ、いけませんわ…あの忌々しいイージーエイトを見失っただけでなく、現在位置も分からなくなってしまっただなんて」

 

 

 

と、ローズヒップが愚痴った次の瞬間。

 

無線から隊長の側近であるオレンジペコの声が響いて来た。

 

 

 

「隊長車より6号車ローズヒップ、直ちに応答して下さい」

 

 

 

「はい、こちら6号車ですわ…申し訳ありません。()()()()()()()のに、あのイージーエイトを深追いし過ぎましたわ」

 

 

 

ローズヒップが悄然とした声で応答すると、隊長車からの無線の声はダージリン隊長に切り替わっていた。

 

 

 

「その分だと道に迷った様ね…直ぐに路地を出て、大きな通りに出てから位置を再確認しなさい」

 

 

 

「はい、ダージリン様……」

 

 

 

「まだ大丈夫よ。確かに“深追いはするな”とは言ったけれど“みなかみの狂犬をマークしろ”と言ったのも私だから…過ぎた事は気にしなくていいわ」

 

 

 

ダージリンからの命令を聞いた後、彼女から試合前に出されていた「深追いだけは避ける」との指示を守れなかった事を悔やむローズヒップだったが、ダージリンはその事を責めようとはせず、むしろその失敗を引き摺らない様にと慰めていた。

 

 

 

実際、ローズヒップにとって原園 嵐の駆るM4A3E8は、()()()()()()()()()だった。

 

そもそも、自分がこの試合に起用された理由は“みなかみの狂犬”の異名を持つ一匹狼でありながら、公式戦車道だけでなく非公式の強襲戦車競技でも優れた実績を誇る“天才・原園 嵐対策”である事を隊長のダージリンから直接告げられた時から、彼女は嵐を強烈に意識していた。

 

更に先程の丘の上での戦いで、自分達が優勢に試合を進めていたにも関わらず、大洗女子が丘から撤退を始めた際、それを追撃しようとした絶好のタイミングで嵐が駆るイージーエイトからの砲撃によって自分達は行き足を止められ、ダージリン達も発煙弾を見舞われて視界を遮られた結果、相手との距離を離されてしまい“更なる戦果を挙げられなかった事実”が、ローズヒップの心に火を付けた。

 

聖グロのメンバーの中でもトップクラスの闘争本能の持ち主であるローズヒップにとっては、それだけで“嵐の駆るイージーエイトを仕留める事”がこの試合の必須事項となり、その結果彼女は、試合前に“ダージリン隊長から出された指示”を破ってイージーエイトを深追いしてしまったのである。

 

 

 

「了解です、ダージリン様……」

 

 

 

こうして隊長へ返信をしたローズヒップが、チームに迷惑を掛けてしまった事を反省しつつ袋小路から抜け出そうと後進を掛けて手前の十字路へ出た、その時。

 

砲塔のキューポラから頭を出して周囲を監視していた彼女の目の前、車体右側面方向の道路から突然、ファンシー且つ()()()()()()が現れた。

 

 

 

「えっ…猫!?」

 

 

 

その巨大な猫の顔を見て驚いたローズヒップだったが…直ぐに、それが“猫ではない”事に気付いて、真っ青になった。

 

何故なら…ローズヒップが見た“巨大な猫の顔”とは…実は()()()()()()()()()()()()M4A3E8中戦車」だったのである。

 

しかもご丁寧な事に、そのM4の76.2㎜砲はこちらをバッチリ捉えており…その砲塔のキューポラからは、対戦相手の隊長である“西住 みほ”と同様に、車外へ顔を出して自らの戦車の指揮を執っている戦車長の少女“原園 嵐”の姿があった。

 

 

 

「あっ、失敗(しくじ)ったですわー!」

 

 

 

“猫の顔”の正体に気付いたローズヒップが間抜けな声で絶叫した、次の瞬間。

 

猫の顔を描いたM4の戦車砲から物凄い発砲音が轟く。

 

そして、クルセイダーの車体右側面中央部に盛大な着弾煙が上がった後、砲塔から白旗が上がった。

 

こうして…ローズヒップのクルセイダーは、大洗女子学園Fチームの“イージーエイト”によって、呆気無く撃破されたのだった。

 

 

 

 

 

 

『アホか……』

 

 

 

 

 

 

こちらの攻撃によって撃破されたクルセイダー巡航戦車の砲塔キューポラ上で、目を回して伸びている相手の戦車長らしき人物(後で知ったが、彼女こそが“ローズヒップ”だった)を目の前で眺めながら、私は思わず呆れていた。

 

相手が大洗の町をよく知らないはずである事を利用して、私達を親の仇の様に追い回していた彼女のクルセイダーを迷路の様な路地へ誘い込み、“迷子にしてから隙を見て仕留めよう”と思ったのは事実だが、こうも()()()()引っ掛かってくれるとは予想外だった。

 

 

 

「原園さん、やったね!」

 

 

 

一方、この路地の道順を移動しながら教えてくれた副操縦手の長沢 良恵ちゃんが、無線から嬉しそうな声で私に呼び掛けて来た。

 

 

 

『良恵ちゃんが、この住宅街の道を教えてくれたおかげだよ。私達だけだったらこんなに上手く行かなかったよ』

 

 

 

「やるじゃん長沢さん、初陣にしては上出来よ」

 

 

 

早速、私が良恵ちゃんに御礼を言うと話を聞いていた瑞希も良恵ちゃんを褒めたので、当の本人は「えへへ♪」と嬉しそうに呟いていると、無線から更なる戦果が伝わって来た。

 

 

 

「こちらCチーム、1輌撃破!」

 

 

 

「Bチーム、1輌撃破!」

 

 

 

歴女先輩達CチームのⅢ突とバレー部員達Bチームの八九式からの戦果を聞いた舞が、興奮しながら皆に戦況を伝える。

 

 

 

「わーっ、凄い!聖グロの戦車を3輌も撃破したよ!」

 

 

 

「「「おーっ!」」」

 

 

 

舞の言葉を聞いた皆が歓声を上げる中、私は冷静さを保ちつつAチームの西住隊長へ簡潔に報告した。

 

 

 

『こちらFチーム、クルセイダーを1輌撃破しました』

 

 

 

「こちらAチーム、了解しました。皆頑張ろうね!」

 

 

 

私からの報告の後、Aチームの通信手である武部先輩からのエールが無線で届くと、Fチームの皆は「「「「頑張るぞー!」」」」と気合の入った掛け声を掛け合っていた。

 

だが…この時私は、この後の展開が容易ならざるものになると直感して、気を引き締めつつ操縦手の菫へ前進を命じる事にした。

 

 

 

 

 

 

この時…聖グロの隊長車にも、その凶報は直ちに届けられていた。

 

 

 

「こちら2号車ニルギリ、攻撃を受け走行不能!」

 

 

 

「こちら5号車ルクリリ、被弾につき現在確認中!」

 

 

 

「こちら6号車ローズヒップ…申し訳ありません、攻撃を受けて走行不能ですわ」

 

 

 

一瞬にして6輌あった戦力の半数が被弾、内2両が撃破されたのである。

 

親善試合とは言え、聖グロの長い戦車道の歴史でも一度にこれだけの損害を被った事例は、そう多くない。

 

しかも相手が“殆ど()()()()()”である事を考えると“屈辱的な事態”と言って良いだろう。

 

各車からの報告を受けたダージリンは、驚愕の余り「なっ…!?」と口走ると同時にティーカップが彼女の手から滑り落ちて、真っ二つに割れた。

 

 

 

「ダージリン様が、ティーカップを落とした!?」

 

 

 

その様子を見たオレンジペコが、驚愕の叫びを発する。

 

「どんな走りをしようとも私達の戦車は、一滴たりとも紅茶を零したりはしない」が最大のモットーである聖グロの戦車道にとって、“試合中に隊長がティーカップを落として割る”と言うのは、あってはならない事なのだ…しかし。

 

 

 

「おやりになるわね…でもここまでよ!」

 

 

 

これまで以上に真剣な表情で呟くダージリンの姿を見て、ハッとなるオレンジペコ。

 

それは「高校戦車道・無冠の女王」とも称される戦車道の名門・聖グロリアーナ女学院が、本気を出した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

その頃、私達Fチームはクルセイダーを撃破した十字路から少し外れた街角で、周辺の監視も兼ねて小休止していた。

 

尤も、試合中だから小休止と言っても5分経ったらこの場所を離れる予定である。

 

そんな中、市街戦に入ってから立て続けに戦果を上げて意気上がるM4A3E8の車内で、良恵ちゃんが元気良く私に話し掛けて来た。

 

 

 

「これで聖グロが3輌に対して、こっちは4輌残っているから逆転ですね、原園さん!」

 

 

 

だが…ここで私は、皆の雰囲気に水を差す覚悟で、こう答える。

 

 

 

『あ~皆、悪いけれど多分現状は4対2で、こっちが圧倒的に不利だと思う』

 

 

 

その答えを聞いた良恵ちゃんが「えっ、何故ですか?」と、驚いた表情で問い掛けて来たので、私は、それを待っていたかの様に状況を説明しつつ瑞希へ質問する。

 

 

 

『まず、Bチームの撃破報告だけど…ののっち、八九式の短砲身57㎜砲でマチルダⅡを撃破出来たっけ?』

 

 

 

「あっ…それ、絶対無理」

 

 

 

『その通り。八九式の57㎜砲って、口径20㎜の対戦車ライフルより少し()()な威力しか無いのよね。更に八九式は装甲も薄いから、例えマチルダⅡへ命中弾を与えても即座に返り討ちに遭うのが()()ね』

 

 

 

瑞希からの返答を受けて、私が更に詳しく説明すると聞いていた良恵ちゃんが「えっ!?」と驚くと共に、菫と舞がほぼ同時に「「そうだった…」」と呟きながら、まるで“この世の終わり”の様な表情で俯いていた。

 

だが私は、冷静さを保ちつつ更なる状況説明を続ける。

 

 

 

『あとCチームのⅢ突だけど、あんな()()()()()みたいな幟と車体色じゃあ、幾ら町の中に隠れていてもすぐ見付かってやられるわね…多分、エルヴィン先輩達「Ⅲ突は、車高が低いからな」とか言いながら油断しているんじゃないかな?』

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 

私の説明で、車内の皆が嫌な予感を感じていた、その時。

 

無線で、正しく私が予想した通りの報告が飛び込んで来た!

 

 

 

「Cチーム走行不能!」

 

 

 

「Bチーム敵撃破失敗及び走行不能、済みません!」

 

 

 

「「「「ああ……」」」」

 

 

 

いきなり天国から地獄へと突き落とされた様な戦況の中で、皆は思わず落胆している。

 

そんな彼女達を奮い立たせる様に、私は大声で号令を下した。

 

 

 

『これで残るは、西住隊長達Aチームと私達だけ。菫、すぐ発進して!』

 

 

 

「了解!」

 

 

 

号令を受けた菫が、直ちにイージーエイトを急発進させると同時に、私はAチームのⅣ号戦車に無線連絡を入れた。

 

 

 

『こちらFチームより西住隊長、現在地を教えて下さい。今直ぐそちらへ向かいます!』

 

 

 

「原園さん!」

 

 

 

連絡を入れた直後、西住隊長から切迫した声で返信が入る。

 

 

 

「こちらは現在、永田商店街から曲がり松商店街方向へ移動中。急いで下さい!」

 

 

 

『了解!こちらは今、大勘荘を通過して若見屋交差点へ向かっています、以上!』

 

 

 

「了解!」

 

 

 

慌しく交信を終えると、私は春休み中に宿泊していた、大洗町内にある民宿の女将さんから試合前に頂いた手書きの地図で現在の位置関係を大まかに把握した後、どうやって西住隊長達Aチームと合流すべきか、考えを巡らせ始めていた。

 

 

(第25話、終わり)

 

 

 

 





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第25話をお送りしました。

待ち伏せ失敗を受けて、地の利を生かした大洗市街地へのゲリラ戦へ移行した大洗女子戦車道チーム。
この展開は原作同様ですが、嵐ちゃん達も地理面でのハンデを大洗の民宿の女将さんからの心遣いと地元メンバーの良恵ちゃんのサポートで克服、見事にローズヒップ車を撃破します。
しかし、これで本気を出した聖グロの反撃で、大洗側の残りの戦車は西住殿のⅣ号と嵐ちゃん達のM4のみに……

そして次回、白熱する大洗町内の市街戦で“大変な事態”が。
嵐ちゃんだけでなく、ダージリン様と桃ちゃんにも衝撃の展開が待ち受けています。
一体、試合中に何が起こったのか?

それでは、期間限定週刊連載企画のラストとなる次回をお楽しみに。

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