戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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この度の台風19号で亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。
また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
(令和元年10月20日)

今回で、聖グロとの親善試合篇が終わり、物語は全国大会へ進んで行きます。
尚、今回はガルパンならではの「登場人物が超人的な身体能力を発揮する場面」がありますが、ツッコまずに読み流して下さい(苦笑)。
それでは、どうぞ。



第29話「全国大会、間近です!!」

 

 

 

此処は、大洗町内の()()()道路上。

 

既に日も暮れて、学園艦に集合する時間が迫っている中、私達は五十鈴先輩のお屋敷から、学園艦へ急いでいるのだが……

 

 

 

「うっ…何時迄も待っています、お嬢様~!」

 

 

 

私達が乗っている車の前を行く人力車から、新三郎さんが泣きながら“主人の娘”であり、先程主人である五十鈴 百合から“勘当”された五十鈴 華先輩を案じる声が聞こえて来る。

 

しかし…その声を聞いた萩原 菫が呆れた表情で、私に話し掛けて来た。

 

 

 

「嵐ちゃん…()()()車の制限時速40キロで、人力車を走らせているよ?

 

 

 

『気にしない…それよりも、運転に集中して』

 

 

 

新三郎さんの人並外れた()()に驚いている菫の姿を見て、思わず余所見をしない様に注意する私。

 

実は…私と中学生の華恋ちゃんと詩織ちゃんの3人は、私がスマホで学園艦から呼び出した菫の運転する白いインプレッサWRX STI spec Cに乗って、新三郎さんが西住先輩達4人を乗せて牽いている人力車を後方から追い掛けているのだが…何と、4人乗りの人力車を牽いている新三郎さんが車道の真ん中を走っているにも関わらず、“この道路の()()()()()()のスピード”で走っているので、それを自分の車のスピードメーターで確認した菫が呆れているのであった。

 

因みに、五十鈴先輩のお屋敷で帰りの車の相談をした時、新三郎さんは「皆さんを人力車でお連れしますよ」()()()私に話し掛けて来たのだが、私は『それは、幾ら何でも無謀だと思います』と告げて断り、今日愛車が届いたばかりの菫へ迎えに来てもらう様、スマホで連絡したのである。

 

 

 

「と言うか、あの人イケメンなのに、残念な所は…北海道の人気劇団ユニットに居る“ミスター残念”みたいだね?」

 

 

 

私から注意されたにも関わらず、今度は新三郎さんが“北海道出身の某ローカルタレント”に似ていると発言する菫。

 

その言葉を聞いて、詩織ちゃんも「お姉ちゃんも同じ事を言ってそう……」と呟く。

 

実はこの時、西住先輩達と一緒に、新三郎さんが牽く人力車に乗っていた武部先輩も「顔は良いんだけどなぁ……」と、初対面の際、胸をときめかせていた時の印象とはギャップのある新三郎さんの性格に触れて、思わず落胆したと、後日本人から直接聞かされたのだが…それは兎も角、私は菫の発言を聞いて、“ちょっとした皮肉”を呟いた。

 

 

 

『菫…それ、北海道のローカルTV局がやっている“グルメ番組”の見過ぎよ?』

 

 

 

すると、私の皮肉を聞いた華恋ちゃんが、こんな問い掛けをして来る。

 

 

 

「えっ、それ“おにぎり何とか”って奴?」

 

 

 

次の瞬間、私は“此処にも()()()()のファンがいたのか”と思いつつ、天ならぬインプレッサWRXの天井を仰ぎながら、こう答えた。

 

 

 

『聞かぬが華よ……』

 

 

 

 

 

 

五十鈴先輩のお屋敷からの道程は意外に遠く、集合時間に若干遅刻してしまったが、私達は学園艦の出港直前に、何とか学園艦が停泊する大洗港の岸壁に到着する事が出来た。

 

 

 

「遅い!」

 

 

 

其処には、冷泉先輩が左足を係船柱に掛けていると言う、まるで昭和の大スター(石〇裕〇郎)みたいな姿で待っており、私達が来たのを見て、不機嫌そうにツッこんで来た。

 

 

 

「夜は元気なんだから~!」

 

 

 

武部先輩が、幼馴染の冷泉先輩にツッコミを返す中、西住先輩と私達は、新三郎さんが牽いて来た人力車と菫の愛車であるインプレッサWRXから降りると、急いでラッタルを上って、学園艦へ乗り込む。

 

そして、菫は愛車に乗ったまま、学園艦に備え付けられているランプウェイから車ごと乗り込んで行く。

 

そんな中、ラッタルから学園艦の乗降口に乗り込むと、乗艦者の記録を取りながら私達を待ち受けていた風紀委員長の園 みどり子先輩から、お小言を言われてしまった。

 

 

 

「出港ギリギリよ?」

 

 

 

先頭の西住先輩が急ぎ足で進みながら「済みません」と謝って行く中、冷泉先輩も謝っていたのだが…そこで、園先輩へ一言。

 

 

 

「済まんな、ソド子」

 

 

 

ソド子?

 

何、その渾名…って、まさか?

 

“「ソドムとゴモラ」と園先輩の苗字を引っ掛けたのでは?”と思っていると、案の定、園先輩が冷泉先輩に向かって、怒りの声を上げた。

 

 

 

「その名前で、呼ばないで!」

 

 

 

想像が当たり、“あ~やっぱりね”と思いつつ、私も『遅くなって、済みませんでした』と園先輩に謝りながら、皆と一緒に学園艦の甲板まで上がると…西住先輩達が立ち止まっており、その前には梓達Dチームの1年生6人が並んでいる。

 

そして、Dチームの戦車長である梓が済まなそうな表情で、話し掛けて来た。

 

 

 

「西住隊長」

 

 

 

梓に呼ばれて、思わず「えっ?」と、小声を上げて当惑する西住先輩の後ろ姿と、梓の表情を眺めながら、私も『?』と小首を傾げた、その時。

 

梓はハッキリした口調で、今日の親善試合で、“チームが犯した失態”について謝罪した。

 

 

 

「戦車を放り出して逃げたりして、済みませんでした!」

 

 

 

「「「「「済みませんでした!」」」」」

 

 

 

梓以外のメンバーも先輩達に向かって謝罪する中、皆が其々に今の気持ちを語り出した。

 

 

 

「先輩達、カッコ良かったです!」

 

 

 

「直ぐ負けちゃうと思ってたのに……」

 

 

 

「私達も次は、頑張ります!」

 

 

 

「絶対頑張ります!」

 

 

 

あゆみを皮切りに優季、あや、桂利奈ちゃんの順で、其々の言葉を先輩達に伝える姿を見て、微笑む西住先輩…あっ、紗希も喋ってはいないけれども、済まなそうな顔をして謝っていましたので、念の為。

 

その様子を見た私も、思わず笑みを浮かべそうになったのだが…その時、今日の“ある出来事”を思い出した私は、敢えて表情を引き締める。

 

そして、このタイミングで梓達に向かって、話を切り出した。

 

 

 

『ねえ…梓達、一寸いいかな?』

 

 

 

「「「「?」」」」

 

 

 

今日の敵前逃亡の件を西住先輩に許してもらえたと思って、ホッとしていた梓達は、真面目な顔で話し掛けて来た私を見て、思わず不安な表情になる。

 

 

 

『実を言うと、私ね…皆に、“()()()()だけ”謝って欲しい事があるのだけど?』

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 

「嵐…私達が戦車から逃げた事じゃなくて?」

 

 

 

親友である私から“謝って欲しい事がある”と言われて、一斉に脅える梓達。

 

特に梓は、敵前逃亡の件を私が許していないと思って、問い掛けているが…私はそこで、笑顔を見せると、梓の不安を打ち消す様に説明した。

 

 

 

『ああ…私、その事については別に怒っていないよ。戦車に乗っていても、今日みたいに四方八方から撃たれると、例え撃破されなくても大の男でさえ、ビビッて逃げ出す位なんだから』

 

 

 

すると、あゆみが「じゃあ、何の事で謝って欲しいの?」と質問して来た。

 

そこで私は、ここぞとばかりに悲しいと言うか、“友人に裏切られた”と言わんばかりに、泣きそうな顔になると、涙を拭いながら“謝って欲しい事”の内容を告白した。

 

 

 

『だって…梓達、今日の試合の罰ゲームだった“あんこう踊り”からも逃げたよね…私、皆も一緒に踊ってくれると、信じていたのに!』

 

 

 

「「「「「そ…そっちかぁ!?」」」」」

 

 

 

次の瞬間、“私が謝って欲しい事”の中身を知った梓達は、一斉に私に向かってツッコんだ。

 

一方、その様子を見た西住先輩達も唖然としている。

 

そんな中、私は涙を拭くと梓達に向けて、微笑みながらこう話した。

 

 

 

『そうだよ。だって私、梓達が敵前逃亡した事よりも“そっち”の方が、ずっとショックだったんだから!』

 

 

 

そう…実際、私にとっては試合後の罰ゲームで梓達が“あんこう踊り”を一緒に踊ってくれなかった事の方がショックだったのだ。

 

一緒に戦車道をやる仲間なのに…何故、私や西住先輩達だけがあんな恥ずかしい踊りをやるのか、と。

 

その気持ちに気付いた梓が再び、済まなそうな表情で私に謝る。

 

 

 

「気付かなくて御免…嵐達にだけ恥ずかしい思いをさせて、本当に御免ね」

 

 

 

「「「「「本当に御免なさい」」」」」

 

 

 

梓に続いて、あゆみ達も一緒に謝ってくれたのを見た私は、今日一番の笑顔で梓達にこう伝えた。

 

 

 

『と言う訳で、次に踊る機会があったら、その時は罰ゲーム関係無しで、一緒に踊ってね♪』

 

 

 

「「「「「うん!」」」」」

 

 

 

すると、元気良く返事をしてくれた梓達だけではなく、西住先輩も微笑んでいたので、私は凄く嬉しかった。

 

そこへ角谷会長達生徒会トリオが、愛車を学園艦内の駐車場に停めてから、此処まで戻って来た菫や、先に学園艦へ戻っていた瑞希や舞に良恵ちゃんと一緒にやって来ると、会長が皆にこう告げた。

 

 

 

「これからは、作戦は西住ちゃんに任せるよ」

 

 

 

その通告を聞いた河嶋先輩は「えっ!?」と驚いているが…先輩、私達への味方撃ち(フレンドリーファイア)の件を除いても、今日の試合の“戦犯”は、“()()()()()()()()を蔑ろにした”貴女ですよ?

 

それを分かっているのかなぁ…と、私は考えながら河嶋先輩を睨んでいると、会長が今度は、西住先輩に話し掛けて来た。

 

 

 

「で、これ」

 

 

 

同時に、小山先輩が小さめのバスケットを持って来ると、西住先輩達の前で蓋を開けた。

 

バスケットの中身は、丁寧に梱包された5人分のティーセットだ。

 

そこには、表に「to friend」と書かれた1枚の小さな手紙が一緒に挟んであった。

 

 

 

「今日は有難う。

 

 貴女のお姉様との試合より面白かったわ。

 

 また公式戦で戦いましょう。

 

 ダージリン」

 

 

 

西住先輩達の前で、ダージリンさんからの手紙を読んでいた武部先輩の声を聞いた私は、西住先輩達に贈られたティーセットの“正体”に気付いて、驚きの声を上げた。

 

 

 

『これは…聖グロの戦車道チームメンバーが、御茶会で使っているティーセット!?』

 

 

 

その声を聞いた秋山先輩が私に向かって頷くと、嬉しそうな声でこう付け加える。

 

 

 

「凄いです、聖グロリアーナは()()()と認めた相手にしか紅茶を贈らないとか!」

 

 

 

それを聞いた武部先輩は「そうなんだー」と神妙な表情で返事をしたが、その姿を見た瑞希は小刻みに体を震わせながら、皆へ“贈り物の価値”を説明した。

 

 

 

「『そうなんだー』処じゃないです!私が知る限りでも1年に1つ出るかどうか位の数しか贈られない物なのです…それ位、凄い贈り物なのですよ!?」

 

 

 

そんな瑞希の話を聞いて、菫と舞も体を震わせながら、“ブンブン”と何度も頭を縦に振っている。

 

それを知ってか知らずか、秋山先輩は笑顔で「“昨日の敵は、今日の友”ですね♪」と皆に向かって話し掛けていたが…次の瞬間、会長が何かを思い出した様な表情で私達に向けて、こんな事を言い出した。

 

 

 

「あっ、忘れてた。実はね…小山、持って来て」

 

 

 

すると、小山先輩がバスケットをもう一つ持って来て、私達に向けて衝撃的な一言を告げる。

 

 

 

「実はね、原園さん達の分のティーセットもあるのよ♪」

 

 

 

「「「「『えっ!?』」」」」

 

 

 

その言葉を聞いた私達、Fチームの5人は驚きの余り、絶句してしまった。

 

戦車道を始めたばかりの良恵ちゃんも秋山先輩の話を聞いて、ダージリンさんからティーセットを贈られる意味を何となく理解出来ているらしい。

 

そして、小山先輩が持って来たバスケットの中には、西住先輩達に贈られた物とは少しデザインが異なるものの、5人分のティーセットと1枚の手紙が入っており、手紙にはこう書かれてあった。

 

 

 

「今日は有難う。

 

 隊長のみほさんを守った貴女達こそ、“大洗の騎士”に相応しいわ。

 

 また公式戦で戦いましょう。

 

 ダージリン」

 

 

 

その手紙を読んだ瑞希は、嬉しさよりもショックの余り目を回しながら、喋り出した。

 

 

 

「あわわ…私達、ダージリンさんに“目を付けられちゃった”わ、どうしよう!?」

 

 

 

「凄いよ…私達入学したばかりなのに、西住先輩達と一緒に“高校生全国トップクラスの戦車乗り”だって、認められちゃった!?」

 

 

 

「私達、聖グロの隊長さんから褒められちゃった…胸がドキドキしちゃうよ!?」

 

 

 

瑞希に続いて菫と舞の順で、其々が高校進学早々に現役の聖グロ戦車道チーム隊長からティーセットを贈られてしまった事について、感激の余り声を震わせていると、私達Fチームの中で、唯一の戦車道初心者である良恵ちゃんが心配そうな声で、「そ、そんなに凄い事なの?」と質問して来た。

 

それに対してようやく、落ち着きを取り戻した瑞希が答える。

 

 

 

「そりゃ、もう…このティーセット、実は英国王室御用達で知られる工房の製品だから、1セット20万円以上はするのよ」

 

 

 

回答を聞いて「ええっ!?」と良恵ちゃんが驚いていると、瑞希が続けてこう説明する。

 

 

 

「そして何より、聖グロの隊長さんからティーセットを贈られたって“名誉”の方が凄いのよ…これは、公式戦負けられないわね!」

 

 

 

すると、作戦参謀を解任されたショックから立ち直った河嶋先輩が皆に向かって「ああ…公式戦は、勝たないとな!」とハッパを掛けると、西住先輩も元気良く「はいっ、次は勝ちたいです!」と答えてくれた。

 

すると、武部先輩が不思議そうな声で、会長に向かって「公式戦?」と質問したので、秋山先輩が武部先輩に向けて、こう答えた。

 

 

 

「戦車道の…全国大会です!」

 

 

 

そう…あと半月程で、『第63回戦車道全国高校生大会』の組み合わせ抽選会が開催されるのだ。

 

その事に気付いて、思わず緊張する私。

 

だが、その時だった。

 

 

 

「あーっ、その事なんだけどねー♪」

 

 

 

角谷会長がニヤニヤ笑いながら、武部先輩と秋山先輩の会話に口を挟むと、こんな事を話し始めた。

 

 

 

「実はね…今日の試合は、長門さんの実家の周防石油グループが費用を全額出してくれたので、本来この試合の為にウチが用意していた予算が丸々残ったんだ。そこでね…♪」

 

 

 

そこで会長は、小山先輩へ向けてウインクをすると、小山先輩がこう説明した。

 

 

 

「全国大会の前に、もう1試合、練習試合を組める余裕が出来たの」

 

 

 

「「「「『本当ですか!?』」」」」

 

 

 

その話を聞いて、一斉に問い掛ける私達。

 

すると会長は、何故か苦笑いを浮かべながらも私達の疑問に答えてくれた。

 

 

 

「今更、嘘吐かないって…只、大会が間近だから、相手が見付かるかどうか分からないけれど、出来るだけ早い内に相手を見付けるつもりだから、そこの所、宜しくね♪」

 

 

 

そして、小山先輩が笑顔で話を締め括る。

 

 

 

「相手が決まり次第連絡するから、明日から早速、練習と次の試合の準備をお願いね」

 

 

 

「「「『はいっ!』」」」

 

 

 

今日の聖グロとの試合では、自分達の練習不足やケアレスミスが原因で敗れただけに、大会前にもう1度練習試合が出来る事を知って、皆喜びながら、明日からの練習に真剣に向き合おうと決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

そして、翌朝の戦車道の授業。

 

仲間達全員が戦車格納庫前で整列している中、毎週月・水・金曜日限定でコーチ役を勤める鷹代さんが、皆の前で昨日の試合の教訓を話していた。

 

但し…この授業には私の母も来ていたのだけど、授業の冒頭で鷹代さんが「明美が親善試合の罰ゲームとして、皆で踊った“あんこう踊り”の模様を動画撮影した上、自身が持っている動画サイトのアカウントへ投稿して、()()()に公開した」と言う“母の悪事”を暴露した為、西住先輩がその場で「ふぇぇ!」と叫んで目を回してしまい、武部先輩は「そんな…もうお嫁に行けないよ!」と絶叫した直後に、失神してしまった。

 

それを見て、激怒した私と仲間達が逃げ出した母を追って、校内を走り回ると言う“アクシデント”があったのだけど。

 

しかも、鷹代さんの話によると「生徒会は“母の悪事”を事前に知らされていたが、母から口止めされていた」とか、「母が全世界に“あんこう踊り”の模様を公開した目的は『動画サイトからのアフィリエイト収入で、大洗女子戦車道チームの経費の一部を賄う為』であり、それが生徒会に口止めをした理由でもある」とか…何時もの事ながら、母のやる事はエグ過ぎる。

 

更に、「もしも親善試合で私達が勝っていたら、ダージリンさん達聖グロの代表が罰ゲームとして“あんこう踊り”を、あのタイツ姿で踊る筈だった」だなんて!

 

ウチの母は、一体何を考えて生きているのか…いや、それは兎も角。

 

母を巡る騒動が終わった後で始まった鷹代さんの説明が、“昨日の試合の戦訓”で()()()()()()()に差し掛かって来た。

 

 

 

「さて、皆。昨日の試合で、身に染みて分かっただろうね…自分達が乗る戦車を目立つ色に塗っているのは『撃って当てて下さい』って、周りに言い触らしているのと同じなんだよ」

 

 

 

「「「「「はい」」」」」

 

 

 

口調こそ、落ち着いていて優し気だが、昨日の試合の敗因を的確に指摘する鷹代さんからの説明に対して、これ迄は遊び半分の気持ちだったチームの仲間達も全員、真剣な表情を浮かべながら、大きな声で返事をしている。

 

その姿を見た鷹代さんは、小さく頷くと鋭い声で、最初の指示を出した。

 

 

 

「折角、皆がやる気になっても肝心の戦車がこの有様じゃあ、どんなに練習しても絶対に勝てない…だから今日は、まず皆の乗る戦車の塗装を元に戻すよ!」

 

 

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

指示を受けたチームの皆は、まるで陸自時代の鷹代さんの部下の様に一斉に返事をすると、自分達が乗る戦車のデコレーションを落として、元の塗装に戻す作業を始めた。

 

あの聖グロとの試合に敗れた事が、皆に「勝ちたい」と思う気持ちを生じさせ、真剣に戦車道へ向き合う決意を固めさせたのだ。

 

そんな中、鷹代さんの所へ梓がやって来て、ある提案を始めた。

 

 

 

「あの…鷹代さん。提案があるのですが、やっぱりチーム毎に誰の戦車か分からないと困るので、車体にマークを付けようと考えて、幾つか案を描いたのですが、駄目でしょうか?」

 

 

 

「パーソナルマークか…どれ、出来上がっているのなら、見せてみなさい」

 

 

 

梓から出されたマークの案を見た鷹代さんは、表情を和らげるとこう答えた。

 

 

 

「ふむ。確かに、これはチーム毎の識別の役に立つし、これ位の大きさなら、私が勤めていた戦車部隊でも付けていたから、大丈夫だろう」

 

 

 

「有難う御座います!」

 

 

 

こうして、鷹代さんからの快諾を得た梓は、チームの皆で予め決めていたのか、愛車であるM3中戦車リーの車体色を元のオリーブドラブ(OD)色に戻した後、車体や37㎜砲塔にピンク色の兎のマークを塗り始めた…あれ?

 

 

 

『このピンク色の兎、両手に包丁を持ってかなりヤバい目をしているけれども…何処かで見た覚えが?』

 

 

 

思わず、そのマークを見た私が呟いていると、Dチームで37㎜()砲手を務める大野 あやが笑顔で、私に答えてくれた。

 

 

 

「ああ…それ、私がコレクションしているストラップの中から、選んだんだ♪」

 

 

 

『ああ、道理で見覚えがあった訳だ…で、その分だとチームの名前は?』

 

 

 

「うん、これから私達Dチームは『ウサギさんチーム』に変える事にしたよ♪」

 

 

 

『“ウサギさんチーム”…ああでも、これはこれで覚えやすそうだから、良い名前だね』

 

 

 

あやからの説明を聞いて、ファンシーなチーム名に戸惑いながらも納得する私に、あやは「良かった、嵐が気に入ってくれて……」と話すと、続けて、こんな伝言を告げた。

 

 

 

「そうだ、実は嵐達も含めて、“全部のチーム名とマークを今日中に決めて置いて”って、西住隊長が言っていたから、宜しくね」

 

 

 

『えっ、そうなの…分かった。今直ぐ、皆を集めて相談するね』

 

 

 

こんな調子で、その後、梓達Dチーム改め“ウサギさんチーム”以外の各チームも自分達の戦車を元の塗装に戻す作業に続いて、新たなチーム名とパーソナルマークを考える事になった。

 

その結果、各チームの新しいチーム名は、以下の様に決まった。

 

Aチーム(Ⅳ号戦車D型)は、大洗の特産品であるあんこうから、“あんこうチーム”。

 

Bチーム(八九式中戦車甲型)は、“アヒルさんチーム”。

 

Cチーム(三号突撃砲F型)は、“カバさんチーム”。

 

Dチーム(M3中戦車リー)は、先程説明した通り“ウサギさんチーム”に決定。

 

そして、Eチーム(38(t)軽戦車B/C型)は、“カメさんチーム”と名付けられて、其々のパーソナルマークも“チーム名に使われている動物”をモチーフとする事に決まったのだが…ここで、私達Fチームに“事件”が起きた。

 

チーム名とパーソナルマークを考案する為に集まったFチーム全員の前で、瑞希が何か案を考えていたらしく、真っ先に手を上げると、こんな提案をしたのだ。

 

 

 

「私達のチームは…鶏をパーソナルマークにして、“ニワトリさんチーム”と命名したいと思います!」

 

 

 

「「「『ニワトリ?』」」」

 

 

 

突然の提案に、提案者である瑞希の意図を読み取る事が出来ない私達は、一斉に疑問の声を上げたが…それを聞いた瑞希は、人の悪い笑みを浮かべながら、こう言い放ったのだ。

 

 

 

「その理由はね…嵐の()()が、鶏の()()にソックリだからよ♪」

 

 

 

その瞬間、私以外のチームメンバー3人は、瑞希の発言がツボにハマったのか、思わず「「「ぶっ!」」」と、噴き出しながら笑いを堪えていたが、幼稚園時代から、しばしばそう言われる事を気にしていた私は、瑞希を睨みながら、こう言い返した。

 

 

 

『ののっち…アンタ、今直ぐ表に出なさい!』

 

 

 

「あっ、嵐…怒った?」

 

 

 

私から睨まれているのに気付いて、思わず「てへぺろ♪」のポーズをする瑞希…当然、私は彼女に向かってこう宣言する!

 

 

 

『も・ち・ろ・ん・よ~!』

 

 

 

「アハハ!ゴメンね~♪」

 

 

 

私に怒鳴られた瞬間、笑いながら戦車格納庫から運動場へ逃げ出した瑞希を追って、私は『待てー!』と叫びながら、走り出した。

 

でも、瑞希を追い掛けていた私も、顔は()()()()()()()()()()()

 

何故なら…今までずっと、()()()()()()()戦車道をやって来て、相手の戦車を1輌でも多く撃破する事しか興味が無かった私にとって、こんな風に“心の底から、戦車道を楽しむ時間を過ごす”のは、初めての経験だったからだ。

 

だから、瑞希を追い掛け回した後、私は笑顔で「でも面白かったから、私も瑞希の言う通り“ニワトリさんチーム”でいいよ!」と返事をしたので、その様子を眺めていた菫や舞、良恵ちゃんも笑顔で同意してくれた。

 

結果、私達Fチームは…この時から“ニワトリさんチーム”がチーム名になり、パーソナルマークは、何処かのコンビニで売っている唐揚げのキャラクターみたいな鶏の絵に決まった。

 

 

 

 

 

 

そして…その週末の土曜日。

 

遂に待ちに待った、2度目の練習試合の日がやって来た。

 

その結果は……

 

 

 

「マジノ女学院全車行動不能…よって、大洗女子学園の勝利!」

 

 

 

この練習試合で、私達は山梨県の古豪・マジノ女学院を相手に“初勝利”を収める事が出来た。

 

マジノ女学院側は、隊長のエクレールさんや副隊長のフォンデュさん、それにルノーB1 Bis重戦車を駆るエース格のガレットさん以下、全員悔しそうな表情をしているが、これも試合…実際、此方も楽勝と言う訳では無かったけれど、何とか勝てたのは有難かった。

 

これで皆、自信を持って全国大会に臨めるといいな。

 

 

 

と言う訳で、これから数日後には、第63回戦車道高校生全国大会の組み合わせ抽選会が私達を待ち受けている。

 

 

 

(第29話、終わり)

 

 





此処まで読んで下さり、有難う御座います。
第29話をお送りしました。

さて今回ですが、色々とネタを仕込んでありますので、一寸説明しようと思います。

☆その1:新三郎さんの体力(笑)。
だって、ガルパンって「西住殿による驚異のジャンプ力+砲弾やパンチからの回避能力と喧嘩の強さ(笑)」「ごく短期間の筋トレで、トンデモないパワーを手に入れるアリクイさんチーム(爆笑)」「クソ重いティーガーⅡの転輪や履帯交換を迅速に実行できる黒森峰の皆さん(苦笑)」と言ったシーンで分かる様に、「登場人物が訓練次第で、超人的な身体能力を発揮出来る世界」な訳ですよ。
と、言う事は…新三郎さんも人力車を極めた事により、大洗から水戸までの約22~23kmの距離を、4人乗りの人力車で走破する事は不可能では無い!
…あくまで、ガルパン世界だからこそのジョークでありますが(爆死)。

☆その2:北海道のグルメ番組(爆)
これは、私の趣味です(迫真)。
と言うか、本作でもネタにしている「某“旅番組”で有名な北海道のローカルTV局」が放送しているグルメ番組が元ネタですね。
因みに今回、菫が新三郎さんの事を“ミスター残念”と言っていましたが、これもそのグルメ番組に登場する“豚一家”のメンバーである、北海道出身のタレントさんの“番組内での渾名”から拝借しています。

☆その3:梓達があんこう踊りから逃げた点。
これは、割と真面目な理由でして「梓達一年生チームは、試合に負けた罰ゲーム踊っていなかったのに、西住殿は何も言わなかった」事が気になったので、此処を嵐ちゃんにツッコんで貰う形にしました。
西住殿は優しい娘だから、罰ゲームから逃げた事については責めようとは思わなかったのでしょうが、此処は梓達の親友である嵐ちゃんに「怒る」のでは無く「一緒に踊って欲しかった!」と言うニュアンスで語ってもらって、結果として皆が更に仲良くなる方向に持って行こうと思いましたが、これで良かったかな?

☆その4:そして、今回最大の“ネタ”。
皆様済みません…練習試合のマジノ女学院戦を“出オチ”にしました!(苦笑)
当初は漫画版の「激闘!マジノ戦ですっ!!」から、アレンジする事も考えたのですが、そうなると執筆量が多くなる上、内容的にも才谷屋先生の漫画版を超えられないと判断した結果、TV版のアンツィオ高と同じ扱いに…でも後悔はしていない。
その代わり、対アンツィオ戦についてはガッツリやるつもりなので、ご期待下さい…あっ、もしかしてフォローになっていない!?(大汗)。

そして次回ですが、実はその前に、今回までの間に登場した、本作オリジナルキャラクターと嵐達が乗る戦車の設定を“プロローグ~戦車道大会直前版”と題して公開する予定で、現在執筆を進めていますが、少々手間取っています。
その為、次回は投稿が何時もより遅くなるかも知れませんので、どうかご了承下さい。
また、このキャラ&戦車の設定に関しては、公開日時が決まり次第、活動報告にて報告させて頂きますので、宜しくお願いします。

それでは、次回をお楽しみに。


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