戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
プラウダ戦記の富永…彼奴は何れ、本作中で“ぶっ飛ばす”(宣言)。
それでは手前味噌ですが、どうぞ。
「副隊長?」
その声は、突然“ルクレール”店内に響き渡った。
「あっ!」
声に気付いた西住先輩が、視線を通路の方へ向ける。
その先には、銀色に近い薄いベージュ色のセミロングと濃い茶色で西住先輩に似たショートカットの女子高生2人が、WW2中のドイツ軍兵士を思わせるデザインの制服姿で、西住先輩達が座っている席の前に立っていた。
すると……
「ああ、“元”でしたね」
セミロングの女が西住先輩を蔑む様な口調で“皮肉”を言った…この女、思い出した。
確か名前は、“逸見 エリカ”。
黒森峰女学園の現・副隊長で高1の時から、
そして…彼女の隣にいるショートカットの女性も知っている人だった。
「お姉ちゃん……」
「「「「「あっ!?」」」」」
西住先輩が自分に似た髪型をした女性の姿を目の当たりにして、“自分の姉”であると呟くと他の先輩方や瑞希達が驚いている。
その様子を見た私は、敢えて彼女の正体を口にした。
『黒森峰女学園戦車道チーム、現・隊長“西住 まほ”』
「「「「「!?」」」」」
私からの一言に皆が驚く中、西住 まほは冷たい口調で実の妹に向けて言い放つ。
「
「あっ……」
実姉からの冷たい言葉に、西住先輩は悲し気な表情を浮かべながらも姉の姿を見詰める事しか出来ない。
流石に私も居た堪れなくなり、西住 まほへ一言言おうと思った、その時……
「お言葉ですが“あの試合”のみほさんの判断は、間違ってませんでした!」
秋山先輩が毅然とした表情で席から立ち上がると、去年の全国大会決勝戦で起きた出来事を引き合いに出し、西住先輩を弁護する。
流石、秋山先輩…私も指摘しようとした事をストレートに言えるなんて凄いなと、その時は思ったものだ。
一方、西住先輩は“あの試合”の事を秋山先輩が知っているとは思っていなかったのか、驚いた表情で「あっ!?」と口に出していたのだが…そこへ“あの女”が秋山先輩を威嚇する様に吠えた。
「部外者は、口を出さないで欲しいわね!」
「済みません……」
エリカからの一声で、あっさりと引き下がってしまう秋山先輩。
この瞬間、私は思わず“カチン”と来た。
ふざけるな…そっちこそ、去年の全国大会決勝戦でアンタ達は“何をやっていた”っけ?
此処で一切合切ぶち撒けてやろうか…と私は心の中で闘志を燃やしていたが、相手の隊長は妹の顔を見る以外に興味が無かったらしい。
「行こう」
西住 まほはそう告げると、エリカを促して、その場から立ち去り始める。
「はい、隊長」
エリカも同意すると、隊長の後に続いて立ち去ろうとした。
歴史に“IF”は無いと言うけれど…もしもあの時、逸見 エリカが此の儘
何故なら…その直後、彼女は西住先輩に向かって、
「1回戦は、サンダース大付属と当たるんでしょ?
その言葉を受けた西住先輩が「あっ」と口にして、少し脅える様な仕草をした次の瞬間。
「何よ、その言い方!」
「余りにも失礼じゃあ!?」
武部先輩と五十鈴先輩が席から立ち上がるとエリカに対して怒りの抗議を行ったのだ。
だが、エリカは先輩達を睨むと再び“許し難い事”を言い出した。
「貴女達こそ、戦車道に対して失礼じゃない…
更に彼女は、先輩達へ侮辱的な発言を続ける。
「この大会はね、戦車道のイメージダウンになる様な学校は参加しないのが暗黙のルール…何よ、アンタ?」
そこで突然、話を止めるエリカ。
そう…此処で私は、遂に我慢出来なくなって席を立ち、彼女に威嚇されていた先輩達に代わって“あの女”の前へ立ちはだかったのだ。
その時、向かい側の席に居る冷泉先輩が「原園さん!?」と口走りながら、私を止めようとしたが…私はそれに構わず“あの女”の前に立つと、努めて冷静な口調でこう告げる。
『黒森峰戦車道チーム副隊長・逸見 エリカ“先輩”とお見受けします…逸見先輩、私達の隊長と先輩達をこれ以上侮辱するのは、止めて頂けますか?』
「侮辱するな…誰よ、アンタ?」
いきなり目の前に現れた私の姿を見て、苛ついた表情で名前を問うエリカに向けて、私は毅然とした口調で自己紹介をする。
『大洗女子学園1年、原園 嵐』
その瞬間、エリカの傍で話を聞いていた西住 まほが驚いた表情を浮かべながら「原園 嵐…まさか!?」と小声で呟いていた。
恐らく、黒森峰では“伝説の整備班長”としてその名を知られている母の事を思い出し、私の正体を察したのだろう。
だがエリカは、自分の隊長の呟きを聞いていないのか、或いは下級生である私を侮ったのか、私を睨み付けながら威嚇する。
「アンタ、
だが…それは西住先輩達には効果的だっただろうが、私にとっては正に“想定内”の反応に過ぎなかった。
そこで私は、エリカを睨み返しつつも冷静さを保ったまま、こう切り返す。
『失礼ですが逸見先輩。私、去年の全国大会決勝戦は
「「!?」」
その瞬間、エリカと西住 まほの表情が真っ青になるのが分かった…“この件”で私に“部外者では無い”と宣言されたのが、余程“想定外”だったのだろう。
そこで私は2人を睨み続けながら、鋭い口調でこう言い放った。
『勝つ為なら、仲間を
「「!」」
「「「「「!?」」」」」
私からの指摘を受けて驚愕する黒森峰の2人と西住先輩達。
その時、私は一瞬だけ視線を後ろに向けて西住先輩の顔を見ると“あの全国大会決勝戦”を私が現地で見ていたのを知った所為か、衝撃を受けている様に見受けられた…黙っていて御免なさい、西住先輩。
でも先輩方を愚弄した“この女”だけは、絶対に許せません。
心の中で私は西住先輩に詫びながら、逸見 エリカに向けて一言、啖呵を切った。
『でも私達の隊長は、絶対にそんな“
「アンタ!今、何て言ったの!?」
その瞬間、エリカが私の胸倉を摑みながら叫んだ。
その叫び声で、店内の客も私達が只ならぬ様子になっていると気付いたのか、私達に注目している。
だが私は、エリカとは対照的に冷静さを失わない様に意識して、ゆったりした口調で話し続けた。
『何って、
「ア…アンタ!」
胸倉を摑まれながらも一歩も引かない私の表情を見たエリカが、焦りの表情を見せているのが私にはよく分かった。
その上で私は、彼女へ向けて静かに告げる。
『如何やら、私が言った事は理解出来ている様ですね…貴女達は去年の大会で“あんな事”をしでかしたのに、私達を無名校扱いしたり、西住隊長や先輩達を愚弄する資格があるのですか?』
「…くっ!」
私から“キツイ事実”を指摘されたエリカは、歯噛みをしながら一言零すと右手で私の胸ぐらを摑んだまま、体を震わせつつ突っ立っている。
ふと視線を彼女の左手の方へ移すと、拳が固く握られており、必死になって“何かを堪えている”様な印象を受けた。
その時、西住 まほが焦った声で「おいエリカ、もう止めろ!」と話し掛けているが、彼女は私の胸倉を摑んでいる右手を放さない…多分、“止めるに止められない”のだろう。
そう思った時、私の心にある“どす黒い考え”が浮かぶ。
さあ、逸見 エリカ…早く私に手を出せ。
誰だって大会で勝ちたい、優勝したいって思っているのは分かっている。
特に黒森峰は去年10連覇を逃しているだけに、今年は絶対に全国制覇をして完全復活を成し遂げたい筈だ。
アンタもそう願っているから、去年の事を蒸し返した私に摑み掛かって来たのでしょう?
なら、ここで“アンタ”が手を出せば…ライバルを1人、試合前に消す事が出来る!
だが、その考えに私の心が染まり掛かっていた時だった。
「西住隊長、逸見副隊長、此方に居られましたか!?」
突然、店の奥から鋭い声が上がったかと思うと、西住 まほや逸見 エリカと同じ黒森峰の制服を着た1人の小柄な少女が姿を現した。
その瞬間、副隊長を止めようと焦っていた西住 まほが、小柄な少女へ声を掛ける。
「
「顧問が御二人を呼んでおられます…何か、あったのですか?」
自分達の隊長の声を聞いた小柄な少女は、私の胸倉を摑んだままの副隊長の姿を見ると、怪訝な表情で西住 まほ隊長へ問い掛けた所、まほは冷静さを取り戻したかの様な口調で返事をした。
「ああ、済まない。ちょっとしたトラブルがあってな」
そして西住 まほは、エリカへ視線を向けると忠告する。
「エリカ、その娘から手を放してやれ」
「あっ…申し訳ありませんでした隊長」
そこで漸く、自分がやっている事の
その様子を確認した西住 まほは、一歩前に出ると私に頭を下げてから、謝罪と事情説明を行った。
「原園と言ったな…済まなかった。私達も去年の事では
その姿を見た私は、素直に『はい』と返事をして、軽く会釈した。
これがエリカとの1対1ならば、これで許そうとは思っていなかったのだが…相手は黒森峰の隊長、それに西住流の後継者候補でもある。
更に私は、“西住流の内情”をある程度知っているので、妹である西住先輩に対する冷たい言動も流派の後継者である立場上、“そう言わざるを得ない”のであろう、と考えていた。
なので、西住 まほに対してはエリカ程悪い感情を抱いていなかったし、これ以上話を大きくすると私達のチームにも悪影響が出るのは確実なので、彼女からの謝罪を受け入れる事にした。
すると、私と西住 まほの会話を聞いていたエリカが落ち着いた表情を取り戻すと、軽く会釈をしてから私達に向けてこう語る。
「原園さん。胸倉を摑んだのは、悪かったわ…でも、もし貴女達と試合で戦う事があれば、その時は“完膚無きまでに叩き潰してやる”から、覚悟しなさい」
つまり“謝罪はするが、此処で言われた事は忘れない”と言う意味だろう。
その言葉を聞いた私は、彼女に向かって毅然とした表情で軽く会釈すると黒森峰の隊長は「では、行こう」と副隊長を促した後、私達の前から立ち去って行く。
そして副隊長も「はい……」と少し元気が無さそうな声を上げていたが隊長の後に続いて立ち去って行った…その直後だ。
「あっ…そうだ。貴女に一言」
何故か、隊長達と一緒に立ち去ろうとしなかった黒森峰の3人目の“小柄な少女”が私に話し掛けて来る。
『何?』
彼女からの唐突な話に、思わず問い掛ける私。
すると…彼女は鋭い視線で私を睨みながら、啖呵を切った!
「止めてよね…私達の副隊長相手に挑発してから、先に手を出させて“暴力行為で出場停止”に追い込もう等と言う“セコイ真似”をするのは!」
「「「『!』」」」
あの時…私が心の中に抱いていた“どす黒い考え”を見抜かれて、動揺する私。
そして私の考えを知らされた西住先輩達も皆、驚愕している。
そこへ彼女は畳み掛ける様にもう一言、付け加えた。
「じゃあ、またね…去年の戦車道全国中学生大会で
『…くっ!』
相手に自分の考えを見抜かれた上、“私は、お前を知っているぞ”と釘を刺された私は、エリカと対峙した時とは逆に、何も言えないまま彼女を見詰める事しか出来なかった。
そして彼女は、立ち去り際に西住先輩と顔を合わせたが、彼女は西住 まほやエリカとは対照的に、無表情ながらも西住先輩に対して丁寧なお辞儀をしてから、その場を立ち去ろうとする。
その瞬間、彼女の
「
「あら、漸く気付いたみたいね?でも今日は時間が無いから、これで失礼するわね…“みなかみのバルタザール・ヴォル”、野々坂 瑞希さん♪」
「くっ…全部、お見通しって事なのね!?」
瑞希から言われた相手…五代 百代は、瑞希を揶揄うかの様な微笑を浮かべながら返事をすると、私達の前から立ち去って行った。
それに対して、瑞希が珍しく苛立ちながら百代を罵るが、当人は一切反応せずに店から姿を消してしまった。
「ねぇ、瑞希さん…あの娘、一体何者なの?」
その様子を呆気に取られながら見ていた仲間達の内、良恵ちゃんが真っ先に瑞希へ質問をすると、瑞希が忌々しそうな表情で説明する。
「五代 百代…佐賀県出身の15歳で、私達と同い年なのだけど、幼い頃から九州だけでなく西日本中の戦車道の小学生大会を総ナメにして、“戦車道の神童”って言われた位の実力者なの」
すると此処で、意外な人物が言葉を継いだ…西住先輩である。
「それでね…彼女は、小学4年生の夏休みから私のお母さんの推薦で、親元を離れて私の実家で戦車道の修行を始めたの。その時私は小学5年生で…その後、私もその年の2学期から黒森峰の中等部に入学するまでの約1年半の間、彼女と一緒に実家で戦車道を修めていた」
「西住先輩、先程五代さんが先輩にお辞儀をしていたので、ひょっとしたら…と思っていましたが、やはり彼女の事を知っていたのですね?」
とそこで、西住先輩からの話を聞いていた佐智子ちゃんが問い掛けると、先輩は頷きながら話を続けた。
「うん…私が黒森峰の中等部に入ってからの1年間、彼女は1人でお母様から直接指導を受けていたのだけど、次の年から彼女も中等部に入学して…それからは、去年まで“先輩と後輩”の関係だった」
此処迄で西住先輩からの話が終わった後、瑞希が“その後”の話を続ける。
「そして去年、『第61回戦車道全国中学生大会』に初出場した私達・群馬みなかみタンカーズは、決勝戦で当時中3だった彼女が隊長を務めた黒森峰女学園中等部に敗れた…その年の全国高校生大会・決勝戦が行われる1週間前の話です」
「「「!」」」
瑞希から因縁めいた話を聞かされた仲間達は、一斉に驚きの声を上げる。
そこへ、秋山先輩が不安そうな表情で話を付け加えた。
「野々坂殿の言う通り、黒森峰中等部は去年、それで中学生大会10連覇を果たしたのです。そして、今の黒森峰高等部は去年の高校生大会の準優勝校で、それまでは9連覇してて……」
「えっ、そうなの!?」
「あ……」
「「「『……』」」」
その瞬間、武部先輩が黒森峰の実績を知らされて驚くと、西住先輩がまた不安そうな表情で俯いてしまった為、私を含めてこの場にいる全員が西住先輩を心配そうに見守るが、皆も不安を抱えてしまっている…そこへ、五十鈴先輩が皆を落ち着かせようと“ある提案”をした。
「ケーキ、もう1つ食べましょうか?」
するとこの間、殆ど会話に加わらなかった冷泉先輩が手を上げると、意表を突いた一言を発した。
「もう2つ、頼んでも良いか?」
「おおっ…此処にも“魔神”が!?」
そこへすかさず瑞希が、驚きながら冷泉先輩の事を“北海道ローカルTV局の甘いもの好きディレクター”呼ばわりしたので、それを聞いた菫と舞が呆れた口調でツッコんだ。
「「瑞希ちゃん…そこで言う?」」
その頃…此処は、「戦車喫茶ルクレール・さいたまスーパーアリーナ店」から少し離れた場所にある別の喫茶店。
勿論、戦車喫茶では無く普通の喫茶店である。
此処に、先程大洗女子学園の生徒達とトラブルになった黒森峰女学園戦車道チームの3人が集まっており、そこでは隊長を務める西住 まほが、副隊長・逸見 エリカに向かって、怒ってはいないが毅然とした口調で、先程のトラブルについて諫めていた。
「エリカ。今回は五代が間に入ったから助かったが、また同じ事が起これば取り返しが付かなくなる…次からは、気を付けるんだぞ」
「はい、隊長…本当に申し訳ありませんでした」
確かに、昨年の雪辱を果たすべく今大会に臨んでいる黒森峰にとっては、例え試合の外であっても今回の様なトラブルが表面化すれば、事は“エリカ1人の問題”では済まなくなる。
下手をすれば、母校や西住流にとって昨年の決勝戦敗退
あの時、その点に思い至らないまま相手選手に摑み掛かった事を思い出したエリカは、改めて隊長に謝罪すると下唇を嚙み締めたまま俯いている。
すると、その様子をエリカの隣で聞いていた1年生の五代 百代が、
「隊長、副隊長…あの“原園 嵐”って娘は、単に“戦車道が強い”だけじゃなくて“頭も良い”娘です」
百代の発言に、まほが無言ながらも小さく頷くと、エリカが「どう言う事なの?」と、自分の後輩に話の続きを促す。
そこで百代は、2人の先輩を前に冷静な口調で語り始めた。
「実は彼女、一昨年の秋に“群馬みなかみタンカーズ”が岡山県岡山市へ遠征した時、現地で対戦した地元中学校のエースで今はBC自由学園に居る“安藤”と言う選手とトラブルになった際、今日
その話を聞いたエリカが、思わず「まさか、その時は?」と問い掛けると、百代は頷きながら事件の結末を語った。
「2人の喧嘩を止めようとした、タンカーズの“野々坂 瑞希”って娘に“安藤”が平手打ちをした格好になり、それが『暴力行為』と見做されて“安藤”は出場停止処分。そして地元の中学は、“エースを失った状態”でタンカーズ相手に試合をやった結果、惨敗したそうです」
「と言う訳だ…もし五代が、『顧問が私達を呼んでいる』と
「!」
百代が話を締め括り、まほが今回の事件について一言付け加えると、事件の舞台裏を知ったエリカは、真っ青な顔で当時を振り返った。
「もう少しで、自分はあの
だが此処で、エリカが敬愛する隊長は意外な事を語り出した。
「しかし、エリカはまだ気付かないのか…あの原園 嵐と言う娘は、我が校の戦車道の輝かしい歴史を作った“偉大な先輩”の一人娘だぞ?」
「えっ?」
あの生意気そうな娘の母親が…母校の偉大な先輩?
隊長から告げられた言葉の意味が理解出来ず、呆然とした表情で自分を見詰めているエリカを見たまほは、苦笑しながら説明した。
「ああ、原園と言う姓だと分かり難いな…実は、あの娘の母親は“原園 明美”と言うのだが、私達やOGの間では旧姓の“石見 明美”の方が有名だ」
「“石見 明美”…まさか!?」
此処で漸くエリカも、“あの生意気そうな娘の母親”が、母校では伝説的なOGであると言う事実に思い当たった。
そこで2人の会話を聞いていた百代が、この事について説明する。
「はい、副隊長…“石見 明美”さんは、当時の我が校の戦車道チーム隊長だった西住師範、同じく副隊長で現在は周防ケミカル工業社長である周防 長門さんと共に、“伝説の整備班長”として高等部3年間無敗の金字塔を作り、後の戦車道高校生全国大会9連覇への礎を築いた、私達にとって尊敬すべき3人の先輩方の1人です」
「あの赤毛の娘、そんなに凄い先輩の娘さんだったの!?」
百代から詳しい説明を聞かされたエリカは、
「だから彼女が名乗った時に、私は『まさか!?』と思ったんだ…私が彼女に会ったのは今回が初めてだが、母親の明美さんには3回程会っている。だから彼女の名前を聞いた瞬間、“明美さんに雰囲気が似ている”と思ったので、私はハラハラしながらエリカを見詰めていたんだぞ?」
「それは…全く気付きませんでした」
敬愛する隊長からの説明を聞かされたエリカは、額に汗を掻きながら心底反省していた。
すると今度は、その様子を隣で見詰めていた後輩の百代が再び語り出す。
「それで話を続けますが、原園 嵐は母親が代表を務める戦車道ユースクラブ『群馬みなかみタンカーズ』に、小学3年生で入団してから中学卒業までエースを張っていた娘です」
するとエリカは、ハッとした表情で自らの記憶を探り出す。
「あっ、思い出したわ。確か“みなかみタンカーズ”って、去年の戦車道全国中学生大会の決勝戦で、百代が隊長を務めた
だが、それに対して百代は真剣な口調で返事をする。
「ええ…でもあの戦いは、正直言うと私の判断が一瞬でも遅れていたら、原園 嵐の迂回攻撃によって、私が乗っていたフラッグ車が撃破されていたと思います。それ位、“紙一重の戦い”でした」
「そうだな…だからエリカ、去年の中学生大会で“負けたチームのエース”だからと言って侮るのは危険、と言う事だ」
「はい」
去年、嵐と中学生大会の決勝戦で戦った経験のある百代からの説明にまほが一言付け加えると、エリカは表情を引き締めながら頷いた。
だが、此処で百代が考え込む様な表情で2人に話す。
「隊長の仰る通りです…ただ」
「「ただ?」」
百代からの話に、まほとエリカが怪訝そうな表情で問い掛けると、百代は表情を変えないままこんな話を語り始めた。
「原園 嵐は、去年『中学を卒業したら戦車道から引退する』と公言して、
「何故、そう言えるの?」
百代からの話を聞いたエリカが、不審そうな表情で問うと、百代は確信を持った表情でその根拠を語った。
「と言うのも、彼女は幼い頃から母親との仲が非常に悪くて、以前から『母からずっと戦車道を無理矢理やらされているから、何時かは辞めたい』と、友人に何度も話していた事があったそうです」
その話を、隊長と副隊長が頷きながら聞いているのを見た百代は、そこで一度テーブルに置かれたカフェオレを口に含むと話を続ける。
「そして彼女が進学した大洗女子学園の学園艦は、聞く所によると10年前に事故で亡くなった父親の故郷なのだそうです。そんな大洗女子に彼女が
「…確かに妙ですね、隊長」
チームの後輩達の中でも、最も抜きん出た実力を持つ為、高等部進学当初から“隊長の命”によって
するとまほも真剣な表情で頷くと、2人に向かってこんな提案をするのだった。
「私も少し、大洗女子に興味が出て来た。勿論みほの事もあるが、それと同じ位に原園 嵐の存在が気になる…今度の大洗女子とサンダース大付属の試合、3人で観戦に行くか?」
敬愛する隊長からの“お誘い”に、エリカと百代は揃って頷きながら「「はい」」と返事をするのだった。
(第31話、終わり)
此処まで読んで下さり、有難う御座います。
第31話をお送りしました。
遂に戦車喫茶で遭遇した、エリカと嵐。
原作では、エリカが散々西住殿達を愚弄した訳ですが、本作では西住殿を敬愛する嵐の逆鱗に触れて危うく、暴力行為を起こす寸前にまでなってしまいました…まあ、因果応報ですけれどね。
この様に最悪な出会いをした2人ですが、今後数奇な運命を辿る見通しになりますので見守って頂けると幸いです。
そして今回、初登場した本作オリジナルキャラ・五代 百代。
今後、1年生ながらエリカの補佐役兼黒森峰の若きエースとしてまほとエリカの間を取り持つ役目を担うと共に、嵐や西住殿達・大洗女子のライバルとして立ちはだかる事になります。
因みにモデルは、ドイツからやって来た潜水艦娘です(尚、呂500になる前の状態)。
此処で気付いた方もおられると思いますが、嵐と百代のモデルになった艦娘は中の人がさおりんと同じであると言う真実…キャスティングした後で気付いて爆笑したのは、此処だけの話であります。
それでは、次回をお楽しみに。