戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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お待たせしました…漸く、全国大会開始で御座います。
此処まで来るのに二年以上も掛かるとは、私も未熟で御座いますが、今後共精進しようと思いますので、応援宜しくお願いします。

そして、もう一つ。
月刊コミックフラッパー2020年3月号のリボンの武者で、ムカデさんチームが“サイコロ”をやりやがった!
どうでしょう藩士としては…ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!(歓喜)


第35話「強豪・シャーマン軍団登場です!!」

 

 

 

遂に開幕した、“第63回戦車道高校生全国大会”

 

此処は、大会の第一回戦・Aブロック第四試合「サンダース大学付属高校(長崎県)対大洗女子学園(茨城県)」が行われる試合会場である。

 

会場内は、対戦校の生徒や父兄だけでなく、全国各地から集まった戦車道ファンや一般の観客で賑わっている。

 

近年、種々の事情による戦車道の人気低迷によって、高校生全国大会も各試合会場の観客席は空席が目立っていたが、今年は満員とまでは行かないものの、空席の数が例年よりも減っていた。

 

やはり今年の大会から、在京TVキー局の「首都テレビ」が、久しぶりに地上波生中継を全国ネットで復活させた事が客足にも影響したのだろうか?

 

それは兎も角、会場の一角に設置された大洗女子学園の生徒・父兄用応援席に、大洗女子学園の制服を着た少女達がやって来た。

 

五十鈴 華恋・武部 詩織・若狭 由良・鬼怒沢 光の“中等部仲良し四人組(カルテット)”である。

 

彼女達は、大洗町で行われた聖グロリアーナ女学院との親善試合を見たのを機に、母校で戦車道を復活させた先輩達を応援しようと心に決めた“たった四人の応援団”であった。

 

 

 

「やっと着いた!」

 

 

 

「他の皆より、席に着くのが遅くなっちゃったね」

 

 

 

応援席に辿り着いた華恋と詩織が、会場到着から応援席に着くまで時間が掛かった事を語り合うと、二人の後に付いて来た由良が友人を窘める様に、その理由を語った。

 

 

 

「“鬼ちゃん”が試合会場前の屋台で、何を買うか迷ったから……」

 

 

 

「御免、皆…お好み焼きか焼きそばかで、迷っちゃった」

 

 

 

“鬼怒沢”と言う姓と漢っぽい性格と口調で、皆から“鬼ちゃん”と呼ばれている光は、由良から文句を言われると、済まなそうな声で“応援席に着くのが遅くなった理由”を告げた後、華恋達に頭を下げて謝罪した…その時。

 

 

 

Let's go, Saunders Fight(レッツゴー サンダース ファイト)!」

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 

対戦相手であるサンダース大付属側の応援席から、元気の良い声援が響いて来た。

 

その声に驚いた四人が、サンダース大付属側の応援席に目を向けると、更なる衝撃を受ける。

 

其処には、サンダース大付属のチアガール達がボンボンを持って、自分達の母校のチームへ声援を送りながら、見事なパフォーマンスを決めていた。

 

それだけでは無い。

 

応援に来ている生徒の数も大洗女子学園より遥かに多く、生徒達は「GO GO!サンダース!」等と書かれた応援幕まで用意して来ている。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

その威容を見て、衝撃を受けた華恋が戸惑いの声を上げていると、詩織も同じ様に「凄い……」と、一言零しただけで、相手校の応援に圧倒されている。

 

その隣では、由良が「私達、何の準備も出来ていなかったのに……」と、悔し気な表情で涙を滲ませていると、彼女達の様子を見た光が励ます様に声を掛けた。

 

 

 

「何言ってんだよ。今日は平日で、中等部はウチのクラスも含めて皆都合が付かないし、私達も学校の許可を取るのが大変だったじゃないか?此処へ来られただけでもラッキーなんだから、私達だけでも頑張ろうぜ!」

 

 

 

実は…光の言葉通り、今日の試合は平日開催と言う事もあって、本来なら中等部は全員学園艦で通常授業の筈だった。

 

だが、「どうしても先輩達の応援がしたい!」と願った四人が学園長へ掛け合った結果、高等部戦車道チームの支援者である原園 明美の口添えもあって「校外授業の一環」との名目で、学園長から「応援の許可」を貰い、此処までやって来たのだ…その代わり、彼女達を除く中等部の生徒は、全員学業を優先したのだが。

 

しかし、声を掛けた光も自分達の側の応援席の様子を見て、絶句する。

 

大洗女子学園側の応援席に座っている人数が疎らで、他のどの観客席よりも明らかに空席が目立っていたのだ。

 

しかも、大洗女子学園側の応援席に座っている人数は、大洗女子の生徒やその父兄よりも一般の入場者の方が多い位である。

 

如何やら、この間学園艦で行われた「戦車道チーム・公開練習試合」や大洗町で行われた聖グロとの親善試合を間近で見学したにも拘らず、大洗女子学園の中等部だけでなく高等部の生徒の大半も「幾ら生徒会の肝入りとは言え、約20年振りに復活した戦車道チームがいきなり全国大会に出場して、初戦突破出来る筈がない」と考えている様だった…尤も、普通はそう考えるのが“常識”であるけれども。

 

 

 

「こ…こりゃ、流石にヤバいかな?」

 

 

 

母校の応援席の有様を見た光が困惑の表情を浮かべて、親友達に“何と言って誤魔化そうか?”と、思案していた時。

 

何と応援席から、自分達に向かって呼び掛けて来る人達がいた。

 

 

 

「あら…ひょっとして、優花里達を応援してくれている中等部の娘って、貴女達かしら?」

 

 

 

「えっ…この娘達が、優花里の言っていた“中等部の応援団”かい?」

 

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 

“自分達を知っている人”が居たのを知って、驚く中等部四人組だが、直ぐ様華恋が自分達に呼び掛けてくれた婦人と中年男性へ問い掛ける。

 

 

 

「あの、私達の事を知っているのですか?」

 

 

 

すると、まず婦人の方から、その問いに答えてくれた。

 

 

 

「ええ。私達、“あんこうチーム”で装填手をしている秋山 優花里の両親なの…私は、優花里の母の好子と言って、隣に居るのが優花里の父の淳五郎です」

 

 

 

「まさか、優花里達を応援してくれる娘が居てくれるとは、私も嬉しいよ!」

 

 

 

好子に続いて、淳五郎も笑顔で華恋達に答えると、今度は華恋と詩織が好子に向かって、嬉しそうな声で話し掛ける。

 

 

 

「本当ですか!実は、私の従姉が“あんこうチーム”で、砲手を務めているんです!」

 

 

 

「私の姉も“あんこうチーム”で、通信手をしています!」

 

 

 

それに対して、好子が「あら、そうなの!」と喜びの声を上げていると、今度は由良が淳五郎に向かって、思わぬ事を告げた。

 

 

 

「其方の方、淳五郎さんと仰いましたか…オジサン、結構カッコ良いですね!」

 

 

 

「えっ…私がカッコ良い!?」

 

 

 

「あら、お父さん!?」

 

 

 

由良からの“ラブコール”とも取れる発言に動揺する淳五郎と驚く妻の好子を他所に、様子を眺めていた光が呆れ顔をしながら、由良達へこう語り掛けた。

 

 

 

「おい由良…お前、本当に()()()()()()()()だな…それより私達、自己紹介未だだったよね?」

 

 

 

「「「あっ!」」」

 

 

 

光からの指摘で、自己紹介していなかった事に気付いた華恋達。

 

其処で、彼女達は其々の自己紹介を済ませてから、優花里の両親と一緒に戦車道の事で盛り上がっていた時だった。

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

華恋が応援席の外れにある野原で、屋外には場違いな英国風のソファーやパーティション等を用意して、ティータイムを楽しむ二人の女子高生が居るのに気付いた。

 

しかも彼女達の隣には、何故か“ピンク色をした()()()()()()()()()()()()()”が停まっている。

 

この車は、1970年代に英国陸軍特殊部隊・SASが砂漠地帯での作戦で隊員の移動等の為に使用した軍用オフロード車輌“ランドローバー・シリーズ1”で、“ピンクパンサー”の綽名で呼ばれていたのだが、兵器に関する知識に乏しい華恋達は、その事を知らない。

 

だが彼女達は、紅茶を飲んでいる二人の正体を知っていた。

 

 

 

「あの人達、聖グロリアーナ女学院戦車道チームの隊長さんと、その御付きの人だよね?」

 

 

 

「君達、あの娘達の事を知っているのか?」

 

 

 

詩織が二人の正体を述べると、淳五郎が驚いた表情で問い掛ける中、何時の間にか彼の左隣の席に座っていた由良が、ダージリン達を知っている理由を説明する。

 

 

 

「だってあの人達、この間の親善試合で対戦したチームのメンバーですから」

 

 

 

「あら、本当だわ!」

 

 

 

由良の説明を聞いた好子が親善試合の相手選手の顔を思い出すと、後ろの席に座った光がこう語った。

 

 

 

「確か、金髪の人が隊長の“ダージリン”で、オレンジ色の髪の娘が“オレンジペコ”って名前だっけ。でも、本当に英国貴族みたいな雰囲気で紅茶を飲んでいるな…堅苦しくないのかな?」

 

 

 

中等部員達と秋山夫妻は其々、不思議そうな表情を浮かべながら、優雅に紅茶を飲むダージリンとオレンジペコの様子に見入っていた。

 

しかし…この時中等部生徒達と秋山夫妻の隣に、お団子付きのショートカットと言う髪型をした大洗のアイドル(那珂ちゃん)が、サングラスと帽子で顔を隠した“プライベートモード”で着席している事を知る者は、()()()()では誰も居ない。

 

 

 

 

 

 

その頃、私達大洗女子学園・戦車道チームは、試合前最後の戦車の整備・点検作業を行っていた。

 

 

 

「整備、終わったかぁー!?」

 

 

 

河嶋先輩が、皆の前に立って号令を出すと、皆が其々返事をする。

 

 

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

先ず、梓達“ウサギさんチーム”全員が元気良く返事すると、“カバさんチーム”を代表してカエサル先輩が「準備完了!」と返答する。

 

続いて、“アヒルさんチーム”リーダーの磯辺先輩が右手を上げて、「私達もです!」と報告した。

 

そして、“あんこうチーム”リーダーも務める西住隊長が「Ⅳ号も完了です!」と告げると、私も気合を入れて河嶋先輩へ報告する。

 

 

 

『“ニワトリさんチーム”、只今準備出来ました!』

 

 

 

その瞬間、河嶋先輩が皆の様子を一瞥すると、(此処だけは)副隊長らしく、「じゃあ試合開始まで、待機!」と、鋭い声で皆に指示を送った…その時である。

 

 

 

「待って下さい、河嶋先輩!」

 

 

 

私達“ニワトリさんチーム”の砲手である野々坂 瑞希が右手を上げて、河嶋先輩を呼び止めた。

 

 

 

「如何した、野々坂?」

 

 

 

河嶋先輩が鋭い目で瑞希に問い掛けると、彼女は何時の間にか“ウサギさんチーム”の通信手兼75㎜砲装填手である宇津木 優季の隣に立つ。

 

すると、瑞希は()()()()()()()()()()()で、優季の右肩に軽く左手を添えてから、耳元でこう囁き掛けたのだ。

 

 

 

「優季…M3リーの砲弾の積み込み、忘れているわよ?」

 

 

 

その瞬間、瑞希の囁き声を聞いて持っていたクリップボードに挟んだチェックリストに目を通した優季が、「あーっ、ホントだ!」と、驚きの声を上げる。

 

すると、優季のチームメイトでM3リー中戦車の37㎜砲々手である大野あやが「あっ…それ、一番大切じゃん!?」とツッコミを入れた所、優季は頭を掻きながら「ごめ~ん」と、緩そうな口調で謝った。

 

それを聞いた梓達“ウサギさんチーム”の皆(無口な紗季を除く)が、一斉に「「「あはは~!」」」と笑い声を上げて、その場が和んでいた時。

 

 

 

「呑気なものね」

 

 

 

「それでよく、ノコノコ全国大会に出て来れたわね?」

 

 

 

突然私達に向かって、二人の女性の無粋な声が響く。

 

皆が、その声がした方向へ目を向けると…其処には、サンダース大付属の制服を着た女子生徒が二人。

 

 

 

『はっ!』

 

 

 

次の瞬間、私はこの二人に見覚えがあるのに気付いて、息を呑んだ。

 

あの二人は…サンダース大付属の副隊長コンビ!

 

向かって右側に居る背の高い()()()()()()()が、戦車道の世界では“高校生屈指の名砲手の一人”と噂されている、チーム№2のナオミさん。

 

そして左側に居る、ツインテールにしては短めの髪型をしている人が、“サンダース一の()()”とも噂される、チーム№3のアリサさんだ。

 

因みに…以前にも言ったけれど、私は高校の推薦入試でサンダースの学園艦を訪れた際、現・隊長のケイさんの案内でサンダースの戦車道チームを見学した時に、この二人と会っているので、先日の秋山先輩の潜入作戦に巻き込まれた事件も含めると、これで会うのは通算三度目になる。

 

 

 

『ヤバい…潜入の件で怒られるかも!?』

 

 

 

その瞬間、私が心の中で震え上がっていると、“潜入作戦の首謀者”だった秋山先輩も突然、「あっ!」と口走ると、冷泉先輩の後ろに回って姿を隠してしまった。

 

でも私は、近くに隠れる場所が無かったので、『これは私が謝るしかない!』と、覚悟を決めていたが…そこへ事情を知らない河嶋先輩が鋭い口調で、サンダースの副隊長コンビに向かって詰問する。

 

 

 

「貴様等、何しに来た!?」

 

 

 

だが、河嶋先輩の剣幕を見た菫が吃驚した表情を見せると、先輩へ諫める様な口調で説明した。

 

 

 

「河嶋先輩、言葉を慎んで下さい…その方達は、サンダースの副隊長ですよ!」

 

 

 

「何!?」

 

 

 

菫からの忠告を聞いた河嶋先輩は、一言叫ぶと真っ青な顔になったが、ナオミさんは先程の河嶋先輩の発言は“気にしない”とばかりに、私達へある“お誘い”を告げた。

 

 

 

「試合前の交流も兼ねて、食事でも如何かと思いまして?」

 

 

 

そこへタイミング良くやって来た角谷会長が「あっ、良いねぇ♪」と応じてくれたので、私達はそれ以上、場の雰囲気を悪化させる事無く、ナオミさんとアリサさんの案内でサンダース大付属の野営地へ向かう事が出来た。

 

因みに…この時私は、初めて「会長って、実は凄い人なんだな」と思ったのだけど…それは、決して間違いでは無かった事を後々知る事になる。

 

 

 

 

 

 

こうして、サンダース大付属の野営地にやって来た私達。

 

其処には、様々な支援車輌が集まっており、試合に臨む戦車道チームのメンバーだけでなく、応援に来た生徒のサポートまで行っていた。

 

 

 

「スゴっ!」

 

 

 

その様子を見た武部先輩が驚く中、秋山先輩は並んでいる支援車輌を眺めつつ「救護車にシャワー車、ヘアサロン車まで!」と叫びながら、サンダースが用意した支援車輌の豊富さに舌を巻いているが…サンダース側はこれだけでなく、ハンバーガーやホットドッグ、アイスクリームやコーラ等の“アメリカンフード”の移動販売車まで、ズラリと揃えていた。

 

 

 

「ホントに、リッチな学校なんですね」

 

 

 

その様子を見た五十鈴先輩が感心した様に感想を語ると、西住先輩以下“あんこうチーム”のメンバーが皆、呆気に取られた表情でサンダース側の野営地を眺めているので、私は先輩達に事情説明を始めた。

 

 

 

『リッチと言うか…サンダースの戦車道の()()の一つは「世界中の何処へ行っても、()()()()()()()()()()()で戦車道の試合が出来る」点にありますから』

 

 

 

すると、私の隣に居た瑞希が頷いて、更なる説明を続ける。

 

 

 

「あれだけの支援車輌を揃えているから、どんな場所で試合をしても常に選手のコンディションを最高の状態に保てるので、“サンダースは強い”って言われているのです…その為にはお金や手間を惜しまないのが、サンダースの戦車道なんですよ」

 

 

 

瑞希の言う通り、サンダースが“リッチ”なのは、単に()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

要は、“自分達の教育方針を貫く為なら、惜しみなく資金と人材を注ぎ込んで必要な準備を整える”のが、サンダース流の考え方。

 

それが端的に表れているのが、サンダースの戦車道なのだ。

 

そうで無ければ、M4“シャーマン”と言う「戦車道では決して弱くは無いが、強力でもない戦車」だけでチームを構成しているサンダースが、“高校戦車道四強の一角”を占めている筈が無い。

 

すると、話を聞いていた西住先輩が感心した表情で、私と瑞希に問い掛けて来た。

 

 

 

「原園さんも野々坂さんも、サンダースの事に凄く詳しいね?」

 

 

 

「いえ、みなかみタンカーズ時代に明美さんやコーチから、高校戦車道については色々と教わっていますので」

 

 

 

先輩からの問い掛けに、瑞希が即座に返答すると、私も高校入試の時の出来事を思い出しながら、複雑な表情で答えた。

 

 

 

『私は…高校入試の時に、母から“サンダースは()()()受けろ”って言われたので、その時に貰った資料を読んでいましたから』

 

 

 

この時、中学時代の“嫌な思い出の一つ”を思い出しながら答えていた私の憂鬱な表情を見た西住先輩が、「原園さん……」と不安そうに呟く中、他の“あんこうチーム”のメンバーも私に向かって心配気な表情を浮かべていたので、私も『あっ、いえ……』と呟きながら戸惑っていると……

 

背後から、“チームメイトでは無いが、聞き覚えのある声”が響いて来た。

 

 

 

「Hey, Angie!」

 

 

 

『!?』

 

 

 

あの声は…サンダース大付属高校・戦車道チーム隊長のケイさん!

 

一瞬、その声が“自分に向けられているのでは!?”と感じた私は震え上がったが、その直後、小山先輩と河嶋先輩が此方へやって来たケイさんを見て、こんな事を語り出した。

 

 

 

「角谷 杏…だから、アンジー!?」

 

 

 

「馴れ馴れしい!」

 

 

 

確かに、サンダースの“フレンドリー”な校風を知らないと、こんな感想しか浮かんで来ないだろうが、そのお陰で私は、ケイさんが私にでは無く生徒会トリオに話し掛けていたのだと知って、安堵する。

 

すると、角谷会長が目の前にやって来たケイさんに向かって、挨拶をした。

 

 

 

「やあやあ“ケイ”、お招きどうも♪」

 

 

 

「何でも好きな物を食べて行って。OK?」

 

 

 

ざっくばらんな口調で挨拶をした会長に対して、ケイさんもフレンドリーな態度で会長へ話し掛けているので、私はホッとしていると……

 

 

 

「OK,OK…“おケイ”だけに♪」

 

 

 

「アハハ!ナイスジョーク!」

 

 

 

我らが会長、思わぬ所で“北海道の某・芸能事務所会長兼ローカルタレント並みの駄洒落”を持ち出して来た途端、ケイさんが腹を抱えて笑い出したのだ。

 

尤も、彼女の傍らにいるアリサさんは“寒い”表情を浮かべているけれど…まあ交流が深まっているみたいだから、良いでしょうと考えていた時。

 

 

 

「Hey,オッドボール三等軍曹!」

 

 

 

「ああっ、見付かっちゃった!」

 

 

 

近くに秋山先輩が居るのに気付いたケイさんが、先輩に向かって“あの偽名”で呼び掛けて来たので、可哀想な先輩は驚愕しつつも逃げ出す事が出来ないまま、彼女がやって来るのを眺めているしかない…ところが!

 

 

 

「それに、嵐もいるじゃない!まさか()()()()()()()()()()()()()()なんて、アンビリバボーね!」

 

 

 

『ああっ…私もバレていた!』

 

 

 

私が此処に居るのに気付いたケイさんが、私にも呼び掛けて来た…如何しよう!

 

私、ケイさんに「中学を卒業したら、戦車道は引退します」と言って、サンダースへの推薦入学を断ったのに。

 

これって、大ピンチじゃない!

 

しかも、其処へ秋山先輩が私に抱き着きながら、助けを求めて来たのだ。

 

 

 

「原園殿…如何したら良いでしょうか!?」

 

 

 

『如何したらって…スパイをした事を、謝るしかないじゃないですか!』

 

 

 

思わず、私と秋山先輩は一緒に抱き合いながら、“この後、一体如何なってしまうのか!?”*1と想像しつつ、震え上がる。

 

その様子を見ていた武部先輩も心配そうな表情で、「怒られるのかな?」と呟いていた時。

 

 

 

「二人共…この間、大丈夫だった?」

 

 

 

「『えっ?』」

 

 

 

ケイさんは私達を叱る処か、サンダース大付属の学園艦へ“潜入作戦”を行った時に怪我をしなかったのか、心配していたのだ。

 

予想外の問い掛けに戸惑った私達だったが、直ぐ落ち着きを取り戻すと、其々の言葉で彼女へ返事をする。

 

 

 

「えっ…はいっ」

 

 

 

『お陰様で…御覧の通り、無事です』

 

 

 

すると、ケイさんはニッコリと笑うと、一言。

 

 

 

「また何時でも遊びに来て。ウチは何時だってOpen(オープン)だからね。じゃあ!」

 

 

 

と、元気良く語ると手を振りながら、私達の前から立ち去ってしまった。

 

その姿を見た西住先輩達が、「「「あっ……」」」と漏らしながら呆気に取られている中、冷静にその様子を見ていた五十鈴先輩がホッとした表情で「良かった~」と呟くと、武部先輩は「隊長は良い人そうだね」と語り、冷泉先輩は「フレンドリーだな」と、其々の言葉でケイさんの印象を語っている中、先輩達の話を隣で聞いていた菫が笑顔を浮かべながら、こう語った。

 

 

 

「ケイさんは、フェアプレーを大切にする人だから、例え対戦相手であっても、ああやって気さくに接してくれる方なんですよ♪」

 

 

 

そして瑞希は、ケイさんが立ち去ってからも呆然としている私と秋山先輩を眺めながら、ケイさんについて、こう語る。

 

 

 

「“事前のスパイ行為”も()()()()()()()()()()()()()()()以上、ケイさんが怒る訳ないでしょ…嵐も秋山先輩も、ビビり過ぎですよ?」

 

 

 

そこへ、瑞希からの指摘を聞いた舞も笑顔で「うんうん♪」と頷いたから、その場に居た全員がケイさんと遭遇した事による緊張感から解放されて、ホッとした気分になった…その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

突然私達の目の前に、“子犬”の様な印象を持つ少女が現れた。

 

しかも、先程のケイ隊長や副隊長コンビと同じサンダース大付属高校の制服姿で。

 

だが、その姿を見た私達だけでなく、西住先輩達“あんこうチーム”のメンバーも全員驚いている。

 

そう…彼女こそ、私達みなかみタンカーズ組にとっては、嘗ての同期生にして、私にとっては、()()()()()()

 

そして、“あんこうチーム”のメンバーにとっては、先日秋山先輩と私がサンダースの学園艦へ潜入した時に撮影した動画に映っていた“スパイである事がバレた私達を追い掛けて来た少女”、その人だったのだ。

 

今、その少女は怒りの表情で私を睨み付けながら、こう口走る。

 

 

 

「嵐…本当に、戦車道に戻って来たんだ!」

 

 

 

『あっ!』

 

 

 

その怒りの声を聞いて、私はショックを受ける。

 

 

 

時雨(しぐれ)、これには理由があって……』

 

 

 

何とか説明しようと言葉を選ぶ私だったが、彼女は聞き入れようとしなかった。

 

 

 

「嵐の嘘吐き…“もう二度と、戦車道はやらない”って、言ったじゃない!」

 

 

 

『うっ!』

 

 

 

時雨に糾弾され、言葉を失う私。

 

だが、此処でみなかみタンカーズの同期生だった瑞希が、私に代わって反論する。

 

 

 

「時雨!この場では、()()()()()()()()()()があるんじゃないかしら?」

 

 

 

更に、同じく同期生の菫と舞も、何とか時雨に私の話を聞いてもらおうと説得に掛かって来た。

 

 

 

「そうだよ時雨、嵐ちゃんの事は許してあげて!」

 

 

 

「時雨ちゃん、嵐ちゃんも戦車道に戻って来るまで、色々と苦しんだから…とにかく話を聞いてあげて!」

 

 

 

「“ののっち”…それに、菫や舞まで!?」

 

 

 

それは、時雨にとって予想外の出来事だっただろう。

 

目の前に“嘗ての親友達”が揃っている事実を知った彼女は、驚愕の表情で私達を見詰めて居る。

 

そして、私は彼女の表情を見詰めながら、申し訳ない思いで一杯だった。

 

 

 

『時雨……』

 

 

 

だが、そんな私や嘗ての仲間達の思いも虚しく…時雨は“犬が吠える様な怒りの表情”で私達に向かって叫んだ!

 

 

 

「君達には失望したよ!」

 

 

 

「「『あっ!』」」

 

 

 

その言葉に衝撃を受ける私と菫、舞の三人。

 

 

 

だが、その中で唯一人…瑞希だけは冷静さを保ったまま、私達を睨み付けて居る時雨に向かって悲し気な口調で、こう語り掛けた。

 

 

 

「時雨…“言いたい事”は分かるけれど、此処から先は、試合で語り合いましょう」

 

 

 

その瞬間、時雨は意表を突かれたのか、一瞬だけ瑞希を見詰めながら当惑していたが、直ぐ視線を私に向けると、険しい表情でこう言い放つ。

 

 

 

「分かった…だけど、試合では容赦しないからね!」

 

 

 

そして、時雨は即座に“回れ右”をすると、速足でその場を立ち去って行った。

 

その様子を私達と共に不安そうに見守っていた“あんこうチーム”の先輩方の中で、一番心配そうな表情を浮かべている武部先輩が私に問い掛ける。

 

 

 

「ねえ、“らんらん()”…一体あの娘と、何があったの?」

 

 

 

『あの娘は…原 時雨(はら しぐれ)。私達と同じ“群馬みなかみタンカーズ”の第1期生で、ののっち達を除くと、数少なかった私の親友』

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 

秋山先輩が作った動画と彼女の発言を目の当たりにした事で、予想はしていたであろうが、私の発言で改めて“時雨”の正体を知った西住先輩達が驚いている中、私は先輩達へ彼女の過去を語り始めた。

 

 

 

『時雨は、長崎県佐世保市…つまり、サンダースの母港がある街の出身なんです。幼い頃から“サンダースで戦車道をやる”のが夢だったのだけど、小学校に入学した直後から酷い虐めに遭って、不登校になってしまったの……』

 

 

 

すると、私が辛そうな顔で話しているのを見兼ねたのか、瑞希が小さく頷くと、私に変わって話の続きを語る。

 

 

 

「でも、『群馬県みなかみ町に戦車道のクラブチームが出来る』と言う話を聞いた御両親が縋る思いで、彼女を佐世保から送り出した…それは、時雨が小学校3年になった春の出来事です」

 

 

 

そこで、瑞希の話を聞いていた冷泉先輩が「小学3年生で、親元から遠く離れた場所で戦車道を始めたのか……」と、悲し気な表情で呟いていると、瑞希が頷きながら話を続ける。

 

 

 

「はい、冷泉先輩…みなかみタンカーズには創設時から、そう言う娘達を受け入れる為の寮が準備されていたから、時雨も其処からみなかみ町の学校に通って、戦車道の練習はタンカーズで受けていたのです」

 

 

 

と、瑞希の話が一区切り付いたタイミングで、私が時雨との出会いを語る。

 

 

 

『そして、みなかみタンカーズ創設の日に、佐世保からやって来た時雨と初めて友達になった娘が、私だった…あの時、虐めの影響で他人と接する事が苦手になっていた時雨に、私が「名前がどっちも『原』で始まるね♪」って話し掛けてから、「友達になろう!」って言った時に涙を流しながら「うん!」って、答えてくれたあの娘の笑顔、今でも覚えている』

 

 

 

すると、今度は菫と舞の順でその後の時雨の事を語ってくれた。

 

 

 

「それから、時雨ちゃんは凄く元気になって、何時も嵐ちゃんの傍に居たね」

 

 

 

「そうする内に、時雨ちゃんは戦車道の腕も上達して、小学4年生になると戦車長になった。戦車道の練習や試合の時も、嵐ちゃんが指揮する戦車の動きに一番付いて行けてたのが、時雨ちゃんの戦車だった」

 

 

 

そして、瑞希が私達の話を纏めるかの様に、中学卒業の頃の話をする。

 

 

 

「だから高校入試の時、時雨は戦車道の成績優秀者だったから、地元のサンダースへ“特待生”として推薦入学したの…そして、実は嵐もサンダースの特待生として行ける資格があったから、時雨は『高校は、嵐と一緒にサンダースへ行けるね!』って、楽しみにしていたのだけど」

 

 

 

と、瑞希が語り終えたタイミングで、私は辛い表情のまま中学卒業の頃を思い出すと、先輩方へ当時の事を語ったのだった

 

 

 

『でも、その時の私は、もう戦車道を引退するつもりだったから、時雨に理由を話した上で、歩む道を別れた…其の筈だったんだ』

 

 

 

私達が語った時雨と私の過去を聞いて、西住先輩達は全員悲しそうな顔で私を見守っている。

 

特に、西住先輩は「そんな事が……」と呟きながら、私からの話に衝撃を受けてしまっている様だ。

 

だが、私は自分の事で西住先輩を不安にさせてしまっている事を承知しながらも今、自分が抱いている不安をどうしたら良いのか、先輩へ相談せざるを得ない状態に置かれていた。

 

 

 

『如何しよう…理由は兎も角、結果的に時雨を裏切ってしまった。先輩、私は如何すれば?』

 

 

 

「私は……」

 

 

 

私からの相談を聞いた西住先輩も、私と同じく辛そうな表情を浮かべながら、必死になって答えようとしていた、その時。

 

 

 

「嵐…今は、チームの勝利を優先するべきよ。その上で、時雨とは“試合中のプレー”で語り合いましょう。それしか、あの娘の心を開く方法は無いわ」

 

 

 

西住先輩と私の間に、瑞希が割って入ると毅然とした口調で、私に向かって一言諫めると、今度は西住先輩に向かって「西住隊長。私は、この様に考えますが、如何(いかが)でしょうか?」と問い掛けて来た所……

 

 

 

「野々坂さん。私も、そう思う」

 

 

 

先程まで私からの質問に困惑していた西住先輩の表情が凛々しい感じに一変すると、はっきりした口調で瑞希の意見に同意した。

 

 

 

『はい、隊長……』

 

 

 

瑞希と西住先輩からの毅然とした言葉に背中を押されて、私は不安を抱えながらも先輩に向かって小さく頷くと…私の後ろから、思わぬ人物の声が響いて来る。

 

 

 

「西住ちゃんに原園ちゃん…悪いけれど、今の話は聞いたよ」

 

 

 

何時の間にか、此処へやって来た角谷会長が、先程までのざっくばらんな態度からは想像出来ない程の真面目な口調で、私達に語り掛けて来た。

 

 

 

「その分だと、二人共ちょっと緊張しちゃってるみたいだから、試合前の挨拶は私が代わりに行くよ」

 

 

 

その言葉を聞いた西住先輩は、「えっ…私なら、もう大丈夫です!」と会長に話し掛けるが、角谷会長は首を横に振ると、こう語る。

 

 

 

「チームの隊長と()()()が不安を抱えたままじゃあ、とても試合に勝てないからね…なら、私が少しでも不安を解消出来る様に、手伝ってあげるよ」

 

 

 

『済みません、会長!私の所為で…隊長や先輩方だけじゃなくて、会長にまで迷惑を掛けて!』

 

 

 

その話を聞いた瞬間、私は反射的に角谷会長へ頭を下げてから謝罪したが、会長は微笑を浮かべると、こう述べた。

 

 

 

「いやぁ、そんなに大した事じゃないよ…でも原園ちゃん。若しも私達に()()()()()()()()()()()()のなら、この試合に勝つ為に、西住ちゃんや皆と一緒に頑張って欲しいんだけど…約束出来るかな?」

 

 

 

そう語る角谷会長は、何時もと違って真剣な表情を見せているのに気付いた私は、直ぐ様その場で背筋を伸ばすと、気合を込めて『はい!』と答えた。

 

すると、角谷会長は満足気な表情を浮かべてから、私達に一言。

 

 

 

「じゃあ皆、行って来るね♪」

 

 

 

そして角谷会長は、何時の間にか用意されていたWW2中の英国製4輪装甲車“ディンゴ”こと“ダイムラー偵察車”に乗って、一足先に試合会場へ向かって行った。

 

こうして、私達の戦車道高校生大会の初戦、サンダース大付属との一回戦が始まったのである。

 

 

 

(第35話、終わり)

 

 

*1
このフレーズを多用していた某バラエティTV番組を知っている人は、居るのだろうか?





此処まで読んで下さり、有難う御座います。
第35話をお送りしました。

遂に始まった、戦車道全国高校生大会の一回戦。
初戦に挑む嵐ちゃんの前に現れたのは、嘗ての親友“時雨”。
言うまでも有りませんが、彼女は“サンダースの学園艦の母港”繋がりでの選出で御座います(苦笑)。
しかし、彼女は戦車道の世界へ帰って来た嵐を「裏切り者」と見做し、恨んでいた。
戦車道で違えた二人の友情は、戦車道で向き合う事でしか仲直り出来ないと瑞希は言いましたが…その結末は?

それでは、次回をお楽しみに。


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