戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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この所、色々と多忙なので執筆が中々進まないのであります…助けてー!
と言う訳で、どうぞ。



第36話「1回戦、スタートです!!」

 

 

 

「説明した通り、相手のフラッグ車を戦闘不能にした方が勝ちです。サンダース大付属の戦車は攻守共に私達より上ですが、落ち着いて戦いましょう」

 

 

 

第63回戦車道全国高校生大会の初戦・サンダース大付属高校との試合直前。

 

西住隊長による作戦説明が続いている。

 

 

 

「機動性を生かして常に動き続け、敵を分散させてⅢ突の前に引き摺り込んで下さい」

 

 

 

「「「「『はいっ!』」」」」

 

 

 

無線による西住隊長からの指示に、各チームの戦車に乗り込んだ私達メンバー全員が元気良く返事をした時。

 

 

 

「さあ、行っくよー!」

 

 

 

試合開始の挨拶を終えて、英陸軍の“ディンゴ”ことダイムラー偵察車に乗ってやって来た角谷会長が皆を後押しする様に声を掛けると、“カメさんチーム”の38t軽戦車B/C型へ乗り込んだ。

 

そして此方の準備が整った次の瞬間、上空に「パァーン!」と1発の号砲が轟く。

 

これを合図に、私達大洗女子学園戦車道チームは、“アヒルさんチーム”の八九式中戦車甲型を先頭に、スタート地点から勢い良く出発した。

 

遂に、試合が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

「試合開始!」

 

 

 

会場に号砲が鳴り響いた直後、場内アナウンスで“試合開始”が告げられると観客席前に設置された巨大モニター(それは、第二次大戦中のドイツ軍が使った“28cm列車砲K5・Leopold”の車台部分を模した特製貨車に乗せられて、鉄道用の引き込み線で運び込まれていた)に、指定されたスタート地点から発進する両チームの戦車が四分割で映し出された。

 

 

 

「始まりましたね」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

この時、観客席の外れではSd.Kfz.222装甲偵察車*1に乗って会場へやって来ていた黒森峰女学園戦車道チームの西住 まほ隊長と逸見 エリカ副隊長が、持ち込んだ折り畳み椅子に座って試合観戦をしている。

 

エリカは、大洗女子学園側をやや侮る様な口調で試合が始まった事を告げたが、まほは特に何の感情も籠めず、冷静に答えるだけだ。

 

其処へ、副隊長(エリカ)の補佐を務める一年生の五代 百代が出来立てのコーヒーが入った金属製のコーヒーポットを持って来て、「両チームが接触するまで時間があるでしょうから、コーヒーをお淹れします」と告げた後、隊長と副隊長が着席している椅子の前にある机に置かれた金属製のカップにコーヒーを注ぎ終わった時。

 

 

 

「あらぁ、()()()()()お久しぶりー♪」

 

 

 

突然、楽天的な掛け声と共に、桃色の髪が印象的な“年上の女性”が笑顔を浮かべつつ、三人の前に現れた。

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

突然の“闖入者”の登場にエリカと百代は驚くが、まほは僅かに表情を緩めると、少し当惑気味の口調で相手の名を問うた。

 

 

 

「あの…明美さんですか?」

 

 

 

「うん♡最後に会ったのは、貴女が中一の時だから、もう5年振りね♪」

 

 

 

「はい…お久しぶりです」

 

 

 

此処までのポーカーフェイスな表情は何処へやら、まほは明美の顔を見ながらも戸惑い気味の表情を隠さない…彼女も明美とは、過去に色々あったのだろう。

 

すると、今度は隊長と副隊長の傍らに立っていた百代が緊張気味の声で、明美に話し掛ける。

 

 

 

「あの、原園さん…初めまして。私、副隊長補佐の五代 百代と申します!」

 

 

 

「ああ、貴女が五代さんね?去年の全国中学生大会での戦い振り、見事だったわよ♪」

 

 

 

「いえ、あの時の対戦相手のチーム代表から、そんなお言葉を頂くなんて…恐縮です!」

 

 

 

「別に緊張しなくて良いのよ。貴女も私の母校の大切な後輩なのだし♡」

 

 

 

昨年、黒森峰女学園中等部・戦車道チームの隊長として、戦車道全国中学生大会10連覇の偉業を成し遂げた自分を褒めてくれた“母校の偉大な先輩 (OG)”(しかも、決勝戦の相手チームの代表でもある)からの言葉に、思わず顔を赤くする百代。

 

一方、突然目の前に現れた“偉大な先輩(原園明美)”が気さくな態度で、隊長や後輩と語り合っている姿を見たエリカは、仰天しつつも“先輩”に向かって挨拶をする。

 

 

 

「あの…初めまして、原園先輩!副隊長の逸見です!」

 

 

 

すると明美は、エリカに顔を向けてから、丁寧な口調で挨拶をした。

 

 

 

「初めまして…貴女が逸見 エリカさんね?先日は、ウチの馬鹿娘()がまほさんや貴女達に大変失礼な事をしたそうで、本当に御免なさいね」

 

 

 

先輩であり、先日戦車喫茶で危うく手を上げる寸前まで口論した相手()の母親でもある明美からの()()()に触れたエリカは、その“()()”に気付くと、恐縮した表情で返答した。

 

 

 

「いえ…あの時は私も、彼女達大洗女子を『()()()』と蔑んだ上、先輩の娘さんと喧嘩までしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 

 

「まあ、幾ら私達の母校が戦車道の()()()でも、相手を見下していると思わぬ所で足を掬われる事になるわ…貴女も黒森峰の一員である以上、()()()()発言に気を付けないとダメよ」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

自らの謝罪に対して楽天的な笑顔のままだが、其れとは対照的に真剣な口調で語られる明美の言葉を聞いたエリカは、戦車喫茶での嵐との口論を思い出すと「あの時は、みほに拘っていたとは言え、本当に取り返しが付かなくなる所だった」と振り返りつつ「次は、もう少し“文句の言い方”を考えよう」と心に決めた、その時。

 

 

 

「前進、前進!ガンガン行くよ!」

 

 

 

観客席周辺のスピーカーから、サンダース側のチームラジオ(無線)が流れており、其処から隊長であるケイの指示が聞こえて来た。

 

米国のモータースポーツでは、観客がサーキットでチームラジオを聞きながら観戦するのが当たり前になっているが、戦車道でも“無線による選手同士のコミュニケーション”はオープンにされている。

 

その為、観客は試合会場に受信機を持ち込んだり、主催者側が貸し出している受信機を借りたりして、好きなチームの無線を聞きながら観戦する人が多いのだ。

 

主催者から、各車輌毎の周波数等のデータリストが公開されているので、観客は特定のチームの車輌の無線に合わせて無線交信を聞き続ける事が出来る。

 

また、試合会場やTVの実況中継でも無線交信の一部が流される事もある。

 

これは、“()()()()()()()()()()”を防止する意味合いもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

その頃、私達はスタート地点から然程離れていない森林地帯に布陣して、サンダース大付属を迎え撃つ準備を整えていた。

 

その準備完了のタイミングで、西住隊長から先ずはサンダース大付属の攻撃意図と布陣状況を摑むべく、“ウサギ&アヒルさんチーム”へ偵察に向かう様、指示が出る。

 

 

 

ウサギさんチーム(M3中戦車リー)、右方向の偵察をお願いします。アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)は左方向を」

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

「此方も了解!」

 

 

 

両チームの戦車長である梓と磯辺先輩からの報告を確認した西住隊長は、他のチームへ指示を出す。

 

 

 

カバさん(Ⅲ号突撃砲F型)ニワトリさん(M4A3E8)は、我々あんこう(Ⅳ号戦車D型)と共にカメさん(フラッグ車)を守りつつ前進します」

 

 

 

『此方ニワトリさんチーム、了解しました』

 

 

 

私は、西住隊長からの指示を受信した後で“了解”の返信を送ると、車内に居るメンバー全員へ指示を出す。

 

 

 

『皆、これから私達は、あんこうとカバさんと共にカメさんを守りつつ前進する。準備はいい?』

 

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

私の指示に対して、メンバー全員元気良く返事をしたが…その時、操縦手の菫が視線を前方へ向けたまま、皆へ車内無線でこんな事を語り出した。

 

 

 

「そう言えば河嶋先輩、試合前に『()()()()()()は何とかならんかったのか?』って文句を言っていたけど、可愛くて良いよね?私は好きなんだけど」

 

 

 

「うん。楽しいし、私も大好き!」

 

 

 

「会長も『いいじゃん、可愛くて♪』と言って、賛成していましたしね」

 

 

 

「皆、そんな事を言っていると命令を聞き逃すわよ?」

 

 

 

菫の語り掛けに対して舞と良恵が賛同する中、皆の様子を見ていた瑞希が苦笑しながら、三人に向かって釘を刺した時。

 

 

 

Panzer vor(パンツァー・フォー)!」

 

 

 

西住隊長から、“戦車、前進!”を意味するドイツ語の号令が私のヘッドセットに響いた。

 

勿論、私も反射的に皆へ向かって同じ号令を叫ぶ。

 

そして、私達は対戦相手(サンダース)を探し出すべく、前進を始めた。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、サンダース大付属側では、隊長のケイが率いる主力部隊と“フォックス(Fチーム)*2の戦車長が率いる別動隊に別れて、大洗側が布陣していると思われる森林地帯を包囲しようとしていた。

 

主力部隊はM4“シャーマン”中戦車(75㎜砲型)5輌と副隊長のナオミが砲手を務める“シャーマン・ファイアフライⅤC”1輌で編成され、別動隊はM4(75㎜砲型)のみ3輌で編成されている。

 

尚、もう一人の副隊長であるアリサが戦車長を務めているフラッグ車のM4A1(76.2㎜砲型)は、単独で主力部隊の後方に居る。

 

その時、ケイ隊長車の無線機に、主力部隊のM4の1輌である“イージー(Eチーム)”の戦車長を務める一年生・原 時雨の声が響いて来た。

 

 

 

「“イージー(Eチーム)”より、“エイブル(Aチーム)*3へ。隊長、お願いがあります」

 

 

 

「“シーズー(時雨)”…急に、如何したの?」

 

 

 

ケイはチーム期待の一年生で、何時も本名との語呂合わせで“シーズー”と言う綽名で呼んでいる時雨からの頼みを不思議そうに聞きながら、彼女の過去を思い出す。

 

 

 

時雨は、サンダース大付属高校学園艦の母港・佐世保出身である。

 

サンダースには付属幼稚園から通っていた事もあり、幼い頃から“サンダースで戦車道を修める”のが彼女の夢だった。

 

しかし、付属小学校に進学した直後、その夢を聞かされた上級生や同級生達に“サンダースの戦車道は誰でも出来る訳じゃないのに、入学早々“戦車道をやりたい”と言うなんて生意気だ”と嫉妬された上、酷い虐めに遭ったのが原因で引き籠もりになってしまう。

 

そんな時、「群馬県みなかみ町に戦車道の新しいクラブチームが結成される」話を聞いた両親の薦めで、小学3年生の春に結成されたばかりの“群馬みなかみタンカーズ”に入団したのが、彼女の転機になった。

 

それから時雨は、みなかみ町の中学校を卒業するまでタンカーズの寮で生活をしながら戦車道を7年間続けて来た結果、レギュラーの戦車長として優秀な成績を挙げると共に、念願だったサンダース大付属高校へ「戦車道特待生」として“里帰り”を果たしたのだ。

 

その技量の高さは、五百人以上もの戦車道履修者を擁し、戦車道チームも一軍から三軍まであって毎年激しいレギュラー争いが繰り広げられているサンダースで、入学早々()()()()()()に抜擢されただけでなく、先日行われた福島県の伯爵高校戦車道部との練習試合でも活躍しており、この全国大会一回戦でも()()()()()としてこの場に居る事で実証済みだ。

 

因みに…小学校時代に時雨を虐めていた連中の“その後”だが、今春彼女が“付属高校に戦車道特待生として帰って来る”との噂が流れた途端、戦車道を履修していなかった者達はサンダースの学園艦から蜘蛛の子を散らす様に姿を消した、と言う。

 

そして、サンダースの戦車道チームに所属していた連中は、新学期最初の新入生との交流試合で、()()が時雨の実力の前に“惨敗”。

 

中には、ケイ隊長の判断で「()()()()()()()()」として、最初から()()()()()()()()()()()()()者さえいた。

 

その結果、嘗て時雨を虐めていた()()()()()()()()()()()()()()の過去と交流試合での醜態がアッと言う間に学園艦内で噂となり、チームに居辛くなった彼女達は時雨本人と他のチームメイトの前で過去の虐めを土下座して謝罪した後、戦車道を辞めて別の学科へ転入するか、自主退学したのである。

 

 

 

そんな過去を持つ時雨だが、此処で思わぬ事を言い出した。

 

 

 

「隊長、私達“イージー(Eチーム)”も別動隊に加えて下さい!」

 

 

 

「駄目よ、“シーズー”。貴女は嵐が出て来た時、彼女をマークする為に私の傍に居る様、命じてあるでしょ?」

 

 

 

“自分達も別動隊へ行かせて欲しい”との時雨の懇願に対して、何時もの様に快活な口調ながら後輩の役目を再確認した上で、その願いを却下するケイ。

 

だが、普段なら素直に隊長の命令に従う筈の時雨が、珍しく激しい口調で反論して来た。

 

 

 

「しかし今の大洗なら、必ず原園さんを先頭に立てて来る筈です!」

 

 

 

だが、ケイは口調を真剣なものに変化させると、彼女へ言い聞かせる様に語り掛ける。

 

 

 

「“シーズー(時雨)”…嵐に対する気持ちは分かるけれど、()()を試合に持ち込んでチームワークを崩しちゃ駄目。いいわね?」

 

 

 

Yes,ma'am(イエス・マム)……」

 

 

 

サンダース大付属の戦車道の鉄則である“チームワーク”を守る様、ケイから諭された時雨は落ち込んだ口調で“了解”の返信をすると、通信を切った。

 

 

 

「やれやれ…親友に“裏切られた”と()()のも無理は無いけどね」

 

 

 

ケイは、自分の命令に大人しく従わなかった時雨の心情を理解していた。

 

何故なら、虐めで引き籠もりになっていた時雨が、新天地であるみなかみ町で立ち直る切っ掛けを与えた少女…原園 嵐の事をケイも知っているのだ。

 

実は、嵐もサンダース大付属高校への「戦車道特待生推薦入試」に合格していたが、入試後に行われた戦車道チームへのオリエンテーションへ嵐が時雨と共に参加した際、当時は“次期隊長”だった自分に向かって『申し訳ありませんが、私は高校進学したら戦車道から引退するつもりなので、其方へ入学するつもりはありません』と告げられたのである。

 

一応、ケイは母親の明美から事前に“嵐の事情”を聞かされていたものの、その話を聞いて衝撃を受けた時雨の姿を目の当たりにしている事もあり、「この娘()()()()()()()を理解出来ていないのね。ウチでチームワークを学べば戦車道の楽しさを知る事が出来るのに……」と、嵐の決断を惜しんでいたのである。

 

しかし嵐は今、対戦相手である大洗女子学園の一員として、自分達と対峙している。

 

その事も理解しているケイは直ぐ気持ちを切り替えると、頼りになる副隊長兼“シャーマン・ファイアフライⅤC”の砲手へ新たな指示を出した。

 

 

 

「ナオミ、2輌を率いて左側面へ回り込んでくれる?アリサの情報通りなら、此処で大洗の先鋒を包囲出来る筈だわ」

 

 

 

一方その頃、時雨は……

 

 

 

「“シーズー”だなんて…私の見た目が犬みたいだからって、犬の名前を綽名にするのは止めて欲しいな」

 

 

 

“駄洒落好き”な隊長が、語呂合わせが良い所為か何時も自分を“シーズー”と呼んでいる事に辟易としていた。

 

 

 

 

 

 

それは、私達がサンダース大付属の部隊を捜索する為に森林地帯で前進を始めてから10分近く経った頃だったと思う。

 

初夏の陽気で車内が蒸し暑くなっている中、先発して偵察に出ていたウサギさんチームの戦車長・梓から最初の報告が入って来た。

 

 

 

「此方B085S地点、シャーマン3輌を発見。此れから誘き出します…キャッ!」

 

 

 

だが報告の直後、無線越しに砲弾が飛翔する音と共に、梓の悲鳴が響く。

 

 

 

『!?』

 

 

 

一瞬、私は“ウサギさんのM3リーが被弾した!?”と思い緊張したが、直ぐに梓から次の報告が飛んで来た。

 

 

 

「シャーマン6輌に包囲されちゃいました!」

 

 

 

最初のM4中戦車“シャーマン”3輌を発見した直後、別の3輌が加わって包囲された…確かに“悪いニュース”だが、敵情が分かったので偵察任務は果たしてくれた事になる。

 

勿論、此の儘ウサギさんチームを見捨てる訳には行かないと私が思った、その時。

 

 

 

「ウサギさんチーム、南西から援軍を送ります!アヒルさん、ニワトリさんチーム、付いて来て下さい!」

 

 

 

流石は西住隊長。

 

事態の深刻さを把握すると、直ちに隊長自ら3輌の戦車を率いて救援に向かうと告げた。

 

 

 

「はい!」

 

 

 

『了解!』

 

 

 

“アヒルさんチーム”の磯辺先輩と共に私も返信を送ると、あんこうチームの後を追う。

 

こうして、Ⅳ号戦車D型を先頭に八九式中戦車甲型と私達のM4A3E8(イージーエイト)の3輌が“ウサギさんチーム”の救援に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

その頃、試合会場の外れでは聖グロリアーナ女学院戦車道チームの隊長・ダージリンが御付きの後輩・オレンジペコと共に紅茶を楽しみながら、観客席前の巨大モニターに映された試合のライブ映像に見入っていた。

 

今、試合はサンダース大付属の戦車隊に追われている大洗女子のM3中戦車リー(ウサギさんチーム)の映像を流している。

 

 

 

「流石サンダース、数に物を言わせた戦い方をしますね」

 

 

 

試合の様子を眺めていたオレンジペコが率直な感想を述べると、彼女が敬愛する隊長は朗らかな表情のまま、こう返答する。

 

 

 

「こんなジョークを知ってる?米国大統領が自慢したそうよ。『我が国には何でもある』って。そうしたら、外国の記者が質問したんですって…『“地獄のホットライン”もですか?』って」

 

 

 

だが、その時“聞き覚えのある”透き通った女性の声が二人の耳に聞こえて来た。

 

 

 

「その“地獄のホットライン”の正体は、“ソ連へのスパイ活動用ホットライン”だったんだけどね♪」

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

背後から、“母校の偉大な先輩”である淀川 清恵がダージリンの語ったジョークの“ネタ”を明かしつつ、驚いている二人の前に現れる。

 

すると辛うじて「あ…先輩。今日は明美さんや長門さんも試合を観戦に来られているのでしょうか?」と、彼女にしては珍しく困惑した表情で返答したダージリンに向かって、清恵は笑顔のまま、こう答えた。

 

 

 

「ああ、明美さんなら今、黒森峰の方へ()()に行っているわ。長門さんは仕事で来られないから、今頃“みほちゃんの試合を生で見られない!”とか言って、悔しがっていると思うけれど……」

 

 

 

だが此処で、清恵は視線をダージリン達から試合会場の上空へ移すと、笑顔から一転して険しい表情へ変化させると同時に、一言呟いた。

 

 

 

「でも、今日のサンダースは()()()()()()()()をしているわね?」

 

 

 

その一言を聞いて、無言で頷くダージリン。

 

一方、険しい表情で()()()()()()を睨んでいる淀川の視線を追っていたオレンジペコは、その視線の先に“ある物”を見て目を細めた。

 

その上空には、“サンダースらしくない()()()が浮かんでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

この時、6輌のM4“シャーマン”中戦車からの追跡を“やれば出来る子”(by 宇津木 優季)桂利奈ちゃんの操縦で必死に躱している“ウサギさんチーム”を救援するべく、森の中を急行していた私達は、右からⅣ号を先頭に八九式、M4A3E8の順で、左下がりの雁行陣を組んで進撃していた。

 

だが突如、西住隊長と殆ど同時に私も左方向から“殺気”を感じ、直ぐ様視線を左へ向けると……

 

 

 

「『!?』」

 

 

 

左側から戦車砲の発砲の閃光と音を感じ取った次の瞬間、砲弾が私達の周囲に弾着して土煙を上げると、後方からサンダース大付属からの新たな刺客…M4中戦車2輌と副隊長のナオミさんが駆る“シャーマン・ファイアフライⅤC”の合計3輌が襲い掛かって来た。

 

 

 

「3輌…囲まれた!?」

 

 

 

『北東から6輌、南南西から3輌…おかしい!()()()()()()()()9()()()()がこの森に来るなんて!?』

 

 

 

味方が窮地に陥った事に気付いた西住隊長の言葉を無線で聞きながらも、私はサンダース側が()()()()()()()私達を包囲出来た上、フラッグ車が包囲陣に()()()と言う“相手に都合が良過ぎる展開”に不審を抱いていた。

 

其処へ砲手の瑞希が私の呟きを車内無線で聞いていたらしく、こんな事を言い出す。

 

 

 

「幾ら何でもそれ、大胆過ぎるでしょ…まさか、()()()()()()()()()()()()って事!?」

 

 

 

瑞希の“推測”は私から見ても“正論”だが、今此処で議論しても始まらない…と思った時、西住隊長が無線で“ウサギさんチーム”へ呼び掛けた。

 

 

 

「ウサギさん、此の儘進むと危険です!停止できますか!?」

 

 

 

「「「無理で~す!」」」

 

 

 

「6輌に集中砲火浴びてるって!」

 

 

 

隊長からの呼び掛けに対して、“集中砲火を浴びているので応じられない”と悲鳴を上げるウサギさんチームからの返信を“あんこうチーム”通信手の武部先輩が的確に西住隊長や私達に伝えた次の瞬間、西住隊長は決断すると私達に指示を伝えた。

 

 

 

「分かりました!ウサギさん、アヒルさん、ニワトリさん。あんこうと間も無く合流するので、合流したら南東に進んで下さい!」

 

 

 

その直後、梓が「分かりました!」と西住隊長へ返信したのを確かめた私は、直ちに『了解!』と発信した後、ウサギさんチーム目指してスピードを上げた。

 

勿論、“アヒルさんチーム”も戦車長の磯辺先輩が「了解!」と返信しつつ、私達と一緒に前進を続けている。

 

 

 

 

 

 

だが、この時サンダース側では、フラッグ車(M4A1)の戦車長・アリサ副隊長から、次の指示が飛んでいた。

 

 

 

「南南西に2輌回して下さい」

 

 

 

「OK!」

 

 

 

アリサからの通信を受信したケイ隊長は即座に返信すると、手持ちの戦車から2輌のM4を南南西に回す…だが、その時。

 

 

 

「此方“イージー(Eチーム)”、我々も行かせて下さい!」

 

 

 

先程、ナオミ率いる別動隊への編入を懇願した時雨が再び、大洗への矢面に立とうと南南西に向かう部隊へ志願して来た。

 

だがケイは、今度は少し怒る様な口調で時雨を諫める。

 

 

 

「駄目よ、“シーズー”!」

 

 

 

「!」

 

 

 

隊長から強い口調で諫められた時雨は、一瞬息を呑んだが、その直後にケイ隊長は優し気な口調に戻って再び、彼女へ指示を出した。

 

 

 

「御免。ついカッとなって…でも作戦は予定通り。嵐が出てきたら、彼女をマークして絶対に()()()()()()()()()事。“シーズー”には、必ずあの娘と勝負させる機会は作るわ。だから、もう暫く私の傍に居て」

 

 

 

「…済みません、隊長」

 

 

 

隊長から改めて指示を受けた時雨は、自分が指揮するM4の車内で飼い主に叱られた飼い犬の様に項垂れ乍ら返信したが、ケイはそんな時雨を労る様に語り掛ける。

 

 

 

「ううん…親友に“裏切られた”って思う気持ちは、私にも分かる。でもあの娘が戦車道に戻って来た以上、()()()()()()がある筈よ?それを理解する為にも、此処で嵐と勝負してみなさい。OK?」

 

 

 

その言葉に、時雨は勇気を貰うと気合を籠めた口調で、ケイに宣言した。

 

 

 

Yes,ma'am(イエス・マム)!そして必ず、嵐に勝ちます!」

 

 

 

するとケイは、満面の笑みを浮かべてから、何時もの快活な口調で時雨に命令する。

 

 

 

「OK!じゃあ、しっかり私に従いて来なさい!」

 

 

 

そして、ケイが率いるM4“シャーマン”の隊長車を先頭に、時雨車ともう2輌から成る本隊が大洗女子のM3リー中戦車(ウサギさんチーム)を追うと同時に、本隊から分離した2輌が南南西に向かう…此の儘だと大洗女子の隊長車を含む戦車4輌は、この森を出た所でサンダース側の戦車9輌に包囲されるだろう。

 

 

 

 

 

 

この頃、西住隊長率いる3輌の大洗女子の戦車は、サンダースからの追跡を逃れて来た“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”の姿を捉えていた。

 

 

 

「あっ、いた!先輩!」

 

 

 

「はいっ、落ち着いて!」

 

 

 

“ウサギさんチーム”の戦車長・梓からの切迫した通信が入ると、西住隊長は梓を落ち着かせると同時に、目前に迫って来た“ウサギさんチーム”との合流のタイミングを計る。

 

そして“ウサギさんチーム”と擦れ違った次の瞬間、西住隊長の“あんこうチーム”と私達“ニワトリさんチーム”“アヒルさんチーム”の3輌は追って来るサンダース側へ応射しながら、右旋回をして“ウサギさんチーム”と合流。

 

其の儘、森の出口を目指して全速前進を始めた…のだが。

 

 

 

「嵐ちゃん、前方に敵戦車!」

 

 

 

操縦手の菫が切迫した声で叫び、隣に座っている副操縦手の良恵も「前方の森の出口に2輌、回り込んで来ます!」と緊張した声で報告して来る。

 

勿論、西住隊長と同様に車長用キューポラから身を乗り出して周囲を監視している私も、前方の森の出口で2輌のM4“シャーマン”が此方に向かっている姿を既に確認していた…やはり、サンダース側は私達の動きをほぼ完璧に摑んでいる。

 

しかし、見通しの悪い森の中を進撃している私達の動きを把握しているのは、幾ら何でも不自然過ぎる…一体、サンダースはどんな手を使ったのだろうか?

 

だがこの時、目の前の状況に対処しなければならない仲間達からの声が車内無線に入って来る。

 

 

 

「如何する?」

 

 

 

「砲撃はまだ?」

 

 

 

『!』

 

 

 

装填手の舞と砲手の瑞希から、私へ指示を求める声が飛び込んで来た時、私は一瞬躊躇したが、其処へ西住隊長からの指示が飛んで来た!

 

 

 

「此の儘全力で進んで下さい!敵戦車と混ざって!」

 

 

 

その瞬間、今度は私も躊躇せずにチームの皆へ次の指示を伝えた。

 

 

 

『了解…皆、此の儘突っ込む!菫、敵戦車とぶつかる覚悟で突っ込んで!』

 

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

私の指示に“ニワトリさんチーム”の仲間達四人が一斉に返事をすると、瑞希が小声で「西住隊長…結構過激ねぇ♪」と戯けていたが、私は彼女に向かって一瞬微笑むだけに止めた。

 

何しろ、いきなりのピンチの場面…思い切った事をやらないと、無事では済まされないのだから。

 

 

 

(第36話、終わり)

 

*1
第二次大戦中のドイツ軍が使った4輪装甲車。

*2
此処で使われているサンダース各車のコールサインは、1941年から1956年まで米軍で使われていた「統合陸軍/海軍フォネティックコード」のアルファベット発音を使用しており、現在NATO軍が使っている「NATOフォネティックコード」とは発音が異なる。

*3
この場合は、隊長車を意味するコールサイン。




此処まで読んで下さり、有難う御座います。
第36話をお送りしました。

遂に、全国大会初戦がスタート。
原作通り、サンダースが“らしくない戦い方”を展開して来て、大洗はピンチですが…片やサンダースの戦い方に不審を抱く嵐と、嘗ての親友との戦いの中で血気に逸る時雨。
更に、その試合を母校の後輩達と一緒に眺めている明美さんと清恵さん。
今回は、色々な人間模様が現れて来ましたが、此処から如何なるか?

あと、今回は作中にガルパンコミカライズ「樅の木と鉄の羽の魔女」からのネタを一つだけ入れています。
個人的には野咲ちゃん可愛いから、ナデナデしたい…いや、本作にも登場させてあげたい(苦笑)。
それと、むらかわ先生…“戦車は勿論、ミリタリーに全く素養が無い”ってコミック上巻のカバー裏に書いていたけれど、嘘やろ!
伝説のミリタリー漫画誌「コンバットコミック」を毎号読んでいた俺から見ても作画と描写の出来が良いのだけど!(錯乱)

それでは、次回をお楽しみに。

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