戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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遂にコロナウイルス緊急事態宣言が全国に発令されましたが、此方は未だ感染していませんので、皆様ご安心くださいませ(色々としんどいけれど)。
そんな今の俺の希望は、Eテレの銀河英雄伝説 die neue theseであります…まあ、内容的には色々不満があるけれど文句は言うまい。

それでは第37話、大洗女子対サンダース戦を引き続きどうぞ。



第37話「相手の卑怯な作戦に反撃です!!」

 

 

 

第63回戦車道全国高校生大会一回戦。

 

私達大洗女子学園戦車道チームは、対戦相手であるサンダース大学付属高校を迎え撃つべく、試合会場内に在る森の中を進撃していた。

 

しかしサンダース大付属は、此方の動きを()()()()()おり、私達は森の中で包囲の危機に見舞われる。

 

これに対して西住隊長は、相手の包囲網を突破すべく森の出口で待ち構えているサンダース大付属の別動隊目掛けて突撃を敢行した。

 

だが…この時私は、サンダース大付属の“読みの周到さ”に不審を抱いたのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、此方は大洗女子学園側の応援席。

 

先程、サンダース大付属が大洗女子の“ウサギさんチーム”に攻撃を始めた時から、秋山夫妻は勿論の事、華恋・詩織・由良・光の中等部四人組と、その隣に座っている“OFFモードの大洗のアイドル(磯前 那珂)”も一斉に「「「ああっ!」」」と、大洗女子が窮地に陥りつつある状況を大型モニターで眺めながら、悲鳴を上げていた。

 

そんな中、観客席前の大型モニターには森の出口に回り込んだサンダース大付属のM4“シャーマン”中戦車2輌が走行間射撃で37.5口径75㎜戦車砲“M3”を撃ちながら、包囲網からの脱出を図る大洗女子学園戦車隊の突撃を阻もうとする姿が映し出される。

 

 

 

「「「うわぁー!」」」

 

 

 

その時、M4中戦車からの一弾がM3中戦車リー(ウサギさんチーム)の左側面前方の装甲板を掠ると、観客席周辺にあるスピーカーから金属同士が擦れ合う時に生じる“嫌な音”と共に、梓達“ウサギさんチーム”メンバーの悲鳴が車内無線から響いて来る。

 

更に、サンダース大付属のケイ隊長が無線で「今日のアリサの勘、ドンピシャね♪ナイス冴えだわ!」と仲間に呼び掛けている声が聞こえて来る頃には、大洗側の“応援団”の危機感はピークに達しており、全員悲鳴さえ上げられなくなっていた。

 

 

 

しかし…私達大洗女子学園戦車チームの4輌は、“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型を先頭に、臆する事無く正面から迫り来るサンダース大付属のM4中戦車2輌目掛けて突き進んでいた。

 

勿論、私も西住隊長が率いるⅣ号戦車の後方右側で、自分が指揮する“ニワトリさんチーム”のM4A3E8(イージーエイト)を加速させる…前方にいる相手戦車(M4)に衝突する覚悟で突っ込むのだ。

 

その次の瞬間、先に森を抜けて平原に出た西住隊長のⅣ号戦車が前方から来た2輌のM4の内、左側に居る車輛に自らのⅣ号の左側面を接触させながら通過。

 

更に、私達のM4A3E8も右側に居たM4と自らの車体側面左側を接触させて、火花を散らしつつ擦れ違った。

 

そして私達の後ろから“アヒルさんチーム”の八九式中戦車甲型と“ウサギさんチーム”のM3中戦車リーも続いて行く。

 

こうして私達は、サンダース大付属の包囲網を突破すると、前方に在る丘を勢い良く登り切って、危機を脱したのだった。

 

 

 

 

 

 

「ドンマイ、深追いNGよ!」

 

 

 

結果的に大洗女子の戦車の撃破には失敗したものの、サンダース大付属の隊長・ケイはこれ以上の攻撃を戒めた。

 

未だ試合は始まったばかりであり、この後も先手を打つチャンスは幾らでも有るからだ…しかし、そうは考えていなかった者がサンダース大付属の中に一人だけいた。

 

サンダースに二人居る副隊長の一人で、チームではケイとナオミに次ぐNo.3の立場にある“アリサ”である。

 

 

 

「チッ!」

 

 

 

チームのフラッグ車であるM4A1中戦車(76㎜砲型)の車内で、隊長からの指示を聞いた彼女は、不服そうに舌打ちする。

 

何故なら…アリサは序盤の包囲戦で、“一切の勝負の決着”を付けるつもりだったからだ。

 

その為に敢えて彼女は、公式戦車道のルールでは罰則化されていないものの、戦車道をやっている学校では“マナー違反”として戒められている「通信傍受」を実行していたのだ。

 

勿論、隊長のケイにもこの事は()()告げていない。

 

ところが……

 

 

 

「あ~っと、サンダース大付属のフラッグ車から気球が上がっています…如何やらサンダースの選手が通信傍受をやっているみたいですね?」

 

 

 

「一寸、信じられないですね。サンダースのケイ隊長は“フェアプレイ”をモットーとする選手なので、ルール違反では無いとは言えこんな“マナー違反”を許すとは思えないのですが……」

 

 

 

何と、アリサのフラッグ車(M4A1)からケーブルを介して空へ上がっている通信傍受用の気球の姿が、首都テレビの実況中継によって試合会場の観客席前に在る大型モニターは勿論の事、全国のお茶の間にも生放送されてしまっていたのだった。

 

今、観客席前の大型モニターと連動しているスピーカーや全国のテレビの前では、この試合の実況を担当する首都テレビの加登川 幸太(かとがわ こうた)アナウンサーと解説を担当する戦史研究家兼戦車道解説者の斎森 伸之(さいもり のぶゆき)の声が流れているが、二人共サンダース大付属のフラッグ車の行動を見て首を傾げていた。

 

一方、先程までの危機的状況を切り抜けた母校の奮闘に、ホッと胸を撫で下ろしていた大洗側応援席の“応援団”の中等部生徒達はこの光景を見て、一斉に怒りの声を上げる。

 

 

 

()()だなんて…この卑怯者!」

 

 

 

「お姉ちゃん達、負けるなぁ!」

 

 

 

()()するんじゃないよ、サンダース!」

 

 

 

()()()()()するサンダースなんて、ぶっ飛ばせ!」

 

 

 

華恋・詩織・由良・光の中等部四人組が、其々大声で対戦相手への野次と母校への声援を送ると、その様子を眺めていた秋山好子・淳五郎夫妻も続いて応援を始める。

 

 

 

「頑張って、優花里!」

 

 

 

「優花里、卑怯な事をする奴等に負けるなぁ~!」

 

 

 

すると、その声を聞いた他の観客達からも「通信傍受だって!?」「サンダースらしくないぞ!」「フェアプレイは何処に行った!」と、サンダース大付属への野次が次々に上がる。

 

その結果、先程まで勢い良く母校を応援していたサンダース大付属の応戦席も“アッ”と言う間に静まり返ってしまった。

 

 

 

 

 

 

その頃…此処は、サンダース大付属の包囲網を突破した私達“ニワトリさんチーム”の車内。

 

 

 

「何とか、切り抜けたわね」

 

 

 

瑞希の呟きで車内は安堵に包まれた…多分、他のチームも同じだろう。

 

しかし、私は先程の森での戦闘を思い出しながら、ずっと考えて来た“或る疑惑”が膨らんでいた。

 

 

 

『如何考えてもおかしい。10輌中9輌に包囲され掛けて、しかも相手のフラッグ車だけは包囲に参加していないなんて…まさか!?』

 

 

 

そんな考えを巡らせながら“ウサギさんチーム”の救出を始めた時から、ずっと車長用キューポラから外を眺めている私が“或る可能性”に思い当たって、視線を真上へ移した次の瞬間。

 

 

 

『やっぱり…通信傍受機!』

 

 

 

頭上に、1基の白い気球がワイヤーに繋がれた状態で空に浮かんでいた…案の定、相手側は私達の無線交信を傍受する事で、先手を打っていたのだ。

 

私は思わず小声で呟くと、西住隊長へ通信傍受の事実を伝えようとしたが、“相手に傍受されている無線では、隊長にこの事を伝える事が出来ない”事に気付いて、一瞬『如何しよう!?』と思いながら困惑する。

 

でも、ふと隣にいる“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型を見ると、砲塔のキューポラから西住隊長も上半身を出して私と同じ様に上空を見上げているのに気付いて、ハッとなる。

 

その時の西住隊長は…後にも先にも私達に見せた事が無い、“怒りの表情”を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「確かに…原園殿の言う通り、ルールブックには“傍受機を打ち上げちゃいけない”なんて書いて無いですね」

 

 

 

西住隊長と私が“サンダース側が打ち上げていた通信傍受機”を発見してから、少し後。

 

私達“ニワトリさんチーム”と “あんこうチーム”は、合流後近くの林の中に隠れると、現在の状況と打開策について打ち合わせていた。

 

其処で、私が状況説明の中で「公式戦車道では、通信傍受は反則ではありません」と語ったのを受けて、秋山先輩が財団法人日本戦車道連盟発行の「戦車道るーるぶっく」を読んでルールを確認した結果、私の発言内容を肯定すると……

 

 

 

「酷い!幾らお金が有るからって!」

 

 

 

「抗議しましょう!」

 

 

 

武部先輩と五十鈴先輩が怒りの声を上げたが、私は首を横に振りながら、二人に事情説明をする。

 

 

 

『武部先輩、五十鈴先輩…無駄ですよ。公式戦車道のルールでは、()()()()()()()は禁止されていません

 

 

 

「そんな!」

 

 

 

「原園さん、何とかならないんですか!?」

 

 

 

私の説明を聞いた五十鈴先輩が“ルールで禁止されていないのは不条理だ”とばかりに憤り、良恵ちゃんも同調するが、通信傍受と言う()()()()がルールで認められている以上、抗議する事は出来ない。

 

しかし此処で、私達のM4A3E8の操縦席ハッチから顔を出して話を聞いていた菫が、不思議そうな表情で皆に語り掛けて来た。

 

 

 

「でも、戦車道をやっている大抵の学校は、“卑怯だからマナーに反する”と言う理由で、通信傍受なんて()()()やらない筈だけど?」

 

 

そう…戦車道では“例え、()()()()()で禁止されていなくても、客観的に見て()()とされる行為は、()()()()()として極力やるべきでは無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”と言う()()()()()()があるのだ。

 

更に、私の隣に在る装填手用ハッチから顔を出している舞も、“別の角度”からサンダース側の問題について触れる。

 

 

 

「其れに、サンダースのケイ隊長と言ったら“常にフェアプレイ”がモットーの人だよ…其れが何故、通信傍受を?」

 

 

 

「「『?』」」

 

 

 

そう…サンダース大付属は元々フェアプレイを尊ぶ上に、現隊長のケイさんは“常に正々堂々と戦い、卑怯な事はしない”人だ…そんな人が、何故()()()()()()通信傍受等と言う“何処の学校もやらない様なマナー違反”を許しているのだろうか?

 

そんな疑問が私や仲間達の頭を過っていた時。

 

 

 

「西住隊長、少し宜しいでしょうか?」

 

 

 

M4A3E8には専用のハッチが無い為、已む無く車内から無線を介して話を聞いていた砲手の瑞希が、西住隊長へ“或る進言”をした。

 

 

 

「これは私の推測ですが、若しかすると、この通信傍受はサンダースの()()がケイ隊長の許可を得ないまま“勝手にやっている”のかも知れません…其れ以外に、サンダースが()()()()をやる理由が見当たらないのです」

 

 

 

その言葉を聞いた西住隊長が、次の瞬間「ハッ…だったら!」と表情を変えると、何かを決心した様に“凛々しい表情”を私達に見せながら、一言指示を出した。

 

 

 

「皆さん、これから“私の話す通り”に動いて下さい」

 

 

 

 

 

 

「全車0985の道路を南進、ジャンクション(交差点)まで移動して!…敵は交差点を北上して来る筈なので、通り過ぎた所を左右から狙って!」

 

 

 

「了解です!」

 

 

 

「こっちも了解!」

 

 

 

みほからの新たな指示を受けて大洗女子の各チームが動き出す中、サンダース大付属のフラッグ車々内では、副隊長のアリサが無線機を操作しながら、大洗女子の無線交信を傍受して彼女達の作戦内容を把握すると、ケイ隊長へ向けて状況報告と対抗策を進言する。

 

 

 

「目標は交差点、左右に伏せているわ。囮を北上させて、本隊はその左右から包囲!」

 

 

 

「OK、OK!でも何で、そんな事迄分かっちゃう訳?」

 

 

 

一方、隊長のケイは信頼するチームNo.3からの進言を受け入れると、()()()()()()()筈のアリサ(フラッグ)車が何故其処まで知っているのかと言う“当然の疑問”を口にしたが、アリサは()()()()した口調で、こう答えるだけだった。

 

 

 

「女の勘です」

 

 

 

「アハハ!そりゃ頼もしい!」

 

 

 

アリサからの回答が余程()()にハマったのか、ケイは笑いながら納得したが……

 

 

 

彼女は、未だアリサが通信傍受を勝手にやっている事を知らない処か、其れが()()()()()()()()()()()事さえ気付いていない。

 

 

 

一方、此処は三つ又の交差点が一望できる丘の上。

 

私達“ニワトリさんチーム”は、“ウサギさんチーム”や“カバさんチーム”、そして西住隊長達“あんこうチーム”と共に、丘の上で待機している。

 

そして西住隊長は、“あんこうチーム”のⅣ号戦車のキューポラから双眼鏡で交差点周辺の様子を確認している…隊長は此方の無線が傍受されている事を逆手に取り、“交差点の左右で待ち伏せをする”と言う内容の“偽通信”を流した上で、相手が如何動くかを見極めているのだ。

 

其処で私も西住隊長と同様に、砲塔のキューポラから双眼鏡で見落としが無い様に周囲を監視していると…サンダース大付属の戦車隊が3つの道路を通って、交差点の左右で()()()()()()()()()()()を、挟み撃ちにするかの様に進撃して来た。

 

中央の道路に、3輌のM4。

 

右側の道路には“ファイアフライ”を先頭に、続いて3輌のM4がやって来る。

 

更に左側の道路からは、2輌のM4が進撃していた…フラッグ車のM4A1は、やはり()()()()()()()

 

そして相手の動きを確認した西住隊長は“味方の通信が傍受されている”と確信すると、新たな“偽通信”を発信した。

 

 

 

「囲まれた!全車後退!」

 

 

 

みほからの通信が発信された直後、交差点左側の道路脇にある大きな茂みに隠れていた“アヒルさんチーム”の八九式中戦車甲型が発進した。

 

その八九式は、ワイヤーで括り付けた丸太や木の枝を牽引しており、其れを引っ張りながら草地を走行する事で、派手な砂煙が舞い上がる…実はこれこそが、“交差点の左右で待ち伏せていた部隊”である、とサンダース大付属側に誤認させる為の“トリック”であった。

 

実は、このトリックは第二次大戦中の北アフリカ戦線でドイツ軍の名将エルヴィン・ロンメル元帥が砂漠地帯で用いており、対戦相手であった英連邦軍を欺いた事で知られている。

 

すると、 “アヒルさんチーム”が隠れていた茂みへ近付きつつあったサンダース側の別動隊に所属する2輌のM4がその砂煙に導かれる様に、通行していた道路を外れて追跡を始めた。

 

其処で今度は、みほが次なる通信を発信する。

 

 

 

「見付かった…皆バラバラになって退避!38(t)はC1024R地点に隠れて下さい!」

 

 

 

この“自軍に都合の良い情報”を、傍受していたアリサが聞き逃す筈が無かった。

 

 

 

「38(t)…敵のフラッグ車、貰った!」

 

 

 

何も知らずに勝利を確信したアリサは、先程の砂煙を手掛かりに追跡をしている別動隊へ命令を下す。

 

 

 

チャーリー(C)ドッグ(D)、C1024R地点に急行。見付け次第攻撃!」

 

 

 

「「はいっ!」」

 

 

 

2輌のM4中戦車で編成された別動隊の乗員は元気良く“了解”の返事を送ると、直ちに試合会場の地図に表示された位置座標“C1024R”地点へ向かった。

 

近くに居る筈の大洗女子のフラッグ車(38(t)軽戦車)を発見すべく、周辺の捜索を始めたサンダース別動隊は互いを援護しつつ、砲塔を旋回させて周囲を警戒しながら“C1024R”地点と呼ばれる小さな窪地に到着した。

 

此処で2輌のM4は一旦停止すると、チャーリー(C)チームが右側を、ドッグ(D)チームが左側の捜索をする為に、其々砲塔を旋回させながら周囲の様子を窺う。

 

だがその時、左側の捜索を担当していたドッグ(D)チームの砲手が見た物は…其処に居る筈の大洗女子のフラッグ車(38(t)軽戦車)ではなく、少し高い場所に在る茂みに隠れていた“丸い物体”だった。

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

その“丸い物体”に不自然さを感じたドッグ(D)チームの砲手が目を凝らして“物体”のある茂みを見詰めると…その正体は“真ん丸に見える火砲の砲口”だった!

 

 

 

「Jesus(ジーザス)!」

 

 

 

この瞬間、“自分達は大洗女子の()()に待ち伏せされている”と悟ったドッグ(D)チームの砲手が絶望的な悲鳴を上げた直後。

 

 

 

()ぇー!」

 

 

 

ドッグ(D)チームの砲手が見た“真ん丸に見える火砲の砲口”の正体…大洗女子学園戦車道チームのⅢ号()()()F型を駆る“カバさんチーム”の車長・エルヴィンが、裂帛の気合で射撃命令を下した!

 

轟然たる砲声と共に、Ⅲ号突撃砲F型の48口径75㎜突撃砲“Stuk40”から徹甲弾が発射されると、窪地の周辺に隠れていた“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型と手近な草木を車体に架けて擬装していた“ウサギさんチーム”のM3中戦車リーも発砲する。

 

その結果、彼女達の待ち伏せ攻撃を受けたサンダース別動隊・ドッグ(D)チームのM4中戦車は、車体左側面に3発も命中して呆気無く撃破され、白旗を揚げてしまった。

 

 

 

「撤退しろ、撤退!」

 

 

 

余りにも予想外の事態に遭遇したサンダース別動隊・チャーリー(C)チームの戦車長は、幸いにも自車の近くに敵弾が1発着弾(これは、実を言うと75㎜砲と37㎜砲の2門を持つ“ウサギさんチーム”のM3中戦車リーが放った37㎜砲弾だった)しただけだった為、大慌てで指示を出すと、その場を離脱し始めた。

 

その姿を“ウサギさんチーム”が捉えたが、M3中戦車リーの固定式28.5口径75㎜戦車砲“M2”では方角の関係で攻撃出来ない為、車体上部の旋回砲塔に搭載された50口径37㎜戦車砲“M5”で砲撃したものの、初弾は目標であるM4中戦車の後方へ外れてしまった。

 

 

 

「逃げちゃうよ!?」

 

 

 

一方、M3中戦車リー(ウサギさんチーム)の車内では通信手の優季が叫ぶと、固定砲座なので左方向へ逃げるM4を撃てない75㎜砲の砲手・あゆみが「撃て、撃てっ!」と37㎜砲の砲手を担当するあやを急かす。

 

するとあやは、先程の汚名返上とばかりに「えーい!」と気合を入れて2発目を撃ったが…此処最近、特訓に付き合ってくれた“ニワトリさんチーム”の二階堂 舞の指導のお蔭か()()()()()()()()()()()()ものの、無情にも御椀型で避弾経始に優れたM4の砲塔部装甲板に弾かれてしまった。

 

その様子を見ていた操縦手の桂利奈が悔しそうに「あっ、惜しい……」と呟いた時!

 

窪地の坂を登って彼女達の待ち伏せから逃れようとしたM4のエンジンルームに“何か”が飛び込むと、其処から突然“炎”が上がった。

 

その炎は一瞬で消えたが、続けてエンジンルームから激しい黒煙が噴き上がる。

 

そしてM4はその場に停止した後、砲塔から白旗が上がった。

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

取り逃がし掛けた相手戦車を撃破した事を喜ぶよりも“自分達の攻撃は効果が無かったのに、何故相手を撃破出来たのか?”と、互いに首を傾げる“ウサギさんチーム”の面々。

 

だが此処で、“或る事”に気付いた車長の梓が嬉しそうな表情で皆に呼び掛けた。

 

 

 

「嵐だよ…“ニワトリさんチーム”が倒してくれたんだ!」

 

 

 

「「「あっ!」」」

 

 

 

その瞬間、嵐達の存在を思い出した仲間達が喜ぶ中(但し、紗希は何時もの様に一言も発していない)、梓は真上にあるキューポラのハッチを開けて外を見回す。

 

すると…その傍らで停車していた“ニワトリさんチーム”のM4A3E8の車長用キューポラから、同じく顔を出していた原園 嵐が優し気な笑みを浮かべて、梓を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

梓達の砲撃に耐えて脱出しようとしていた相手のM4中戦車を此方が撃破した後、私はM3中戦車リーのキューポラから私を見詰めていた梓に向かって手を振りながら車内へ戻ると、梓へ向けて次に繋げるアドバイスをスマホメールで送る。

 

 

 

『ドンマイ梓。命中はしていたから、次は相手の()()を狙える様に集中しようね』

 

 

 

其れから間も無く、梓からメールで「うん!」と返事がやって来たのを確かめてから私が車内を見回すと、瑞希が小声で「あのM4、敵に後ろを見せて逃げるなんて…粗忽者!」と撃破した相手戦車に向かって毒吐いている。

 

実は先程の待ち伏せ攻撃の際、瑞希から「この配置だと、私達の手前に居るM4にだけ射弾が集中して、その奥に居るもう1輌のM4は狙い難い分、取り逃がす恐れがある」との進言が有った為、私が独断で初弾発射を遅らせていたのである。

 

その瑞希の予測は“大当たり”で、手前に居たM4には3発も当たったのに対して、奥にいた2輌目のM4は“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”の37㎜砲弾が手前に外れた事もあり、逃亡しそうな所で瑞希が必殺の一撃を見舞ったのだが…その時撃破されたM4は、私達から見て後部のエンジンルームが “丸見え”の状態で逃げていた為、その姿を見た瑞希が「相手戦車のクルーは警戒心が足りない!」と怒っているのだ。

 

なので私は、彼女へ「ののっち、未だ試合は始まったばかりだから、この後如何なるか分からないよ?」と諭すと、瑞希も小さく頷いて「そうね、一寸気にし過ぎたわ」と呟いた後、落ち着いた表情に戻ってくれた。

 

一方、車内前方の副操縦手席に座っている良恵ちゃんは「やった…先輩達の作戦、大成功ですね!」と喜び、皆も頷いている。

 

この時、私達は武部先輩の言葉を借りると「無線じゃなくてスマホメールで連絡してたんだも~ん♪」と言う訳で…要するに、傍受されていた無線を“囮”にして、サンダースの別動隊を誘き出し、“無線を聞いている限り”では此方のフラッグ車が居る()の窪地で待ち伏せていたのだ。

 

因みに、本来戦車道では“各戦車間の通信”は原則として『乗っている戦車に装備されている無線機』のみ使えるのだが…近年、携帯やスマホの普及で、肝心の“アマチュア無線資格”を持つ学生が殆ど居ない、と言う現実から、戦車道連盟も最近ルールを一部改訂し、「アマチュア無線資格所持者が不足している場合、()()()()()()()携帯やスマホを使用しての連絡を認める」事になっている為、今回の様な作戦が実行出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

その頃、試合会場では大型モニターに撃破されたサンダース大付属のM4中戦車の姿が映し出されると共に、チャーリー(C)チーム戦車長から「チャーリー(C)ドッグ(D)チーム、共に行動不能…済みません!」との無線連絡がスピーカーで流された。

 

続けて、その連絡を受けたサンダース大付属の隊長と副隊長の反応も、生中継で音声が流される。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「何っ!」

 

 

 

アリサとナオミの順で、思わぬ損害に驚く副隊長2人の発言の直後、隊長のケイが“そんなバカな!?”と言う表情で叫ぶ。

 

 

 

Why(ホワイ)!?」

 

 

 

その瞬間、会場も“大洗女子が先制した”と言う予想外の試合展開にざわつき始めた。

 

勿論、大洗女子を応援していた中等部四人組や秋山夫妻は大騒ぎである。

 

 

 

「「「やった!」」」

 

 

 

「先制したぞー!」

 

 

 

「良いぞ、優花里!」

 

 

 

「お父さん、他の皆も褒めてあげましょうよ!」

 

 

 

華恋、詩織、由良が一斉に喜びの声を上げ、光はガッツポーズを決めて母校が先制したのを喜ぶと、秋山 優花里の父・淳五郎が娘を褒めちぎって居た為、妻の好子が他のメンバー達も褒めてあげようと言った所、淳五郎は慌てて「あっ、そうだ!皆凄いぞー!」と、更なる声援を送っていた時。

 

 

 

「よォし!大洗女子学園の皆行けぇー!()()()()()も応援するよー!」

 

 

 

「「「な…那珂ちゃん!?」」」

 

 

 

何と、中等部四人組や秋山夫妻も名前と歌声位は知っている“大洗のアイドル” こと磯前 那珂が、帽子と伊達眼鏡で変装しているものの、私服姿で自分達の隣の席から立ち上がっており、この応援席の誰よりも大声で大洗女子の娘達を応援しているでは無いか!

 

すると彼女は、自分の隣の席で呆然としている中等部四人組と秋山夫妻に向けてウインクすると、済まなそうな表情でこう告げた。

 

 

 

「あっ…今日は“OFFモード”だから、サインは勘弁してね?」

 

 

 

 

 

 

一方、観客席の外れで試合を観戦していた戦車道強豪校の面々も大洗女子が先制したシーンを目撃した。

 

先ず、野外でティータイムを楽しみながら試合観戦をしていた聖グロでは、オレンジペコが「やりましたわね」とダージリン隊長に話し掛けると彼女も「ええ」と呟き、喜びを後輩と分かち合っていた…二人共、表情こそ僅かに微笑んでいるだけだが、()()()()()()大洗女子の奮戦を喜んでいる様だ。

 

その証拠に、彼女達の様子を眺めていた淀川 清恵は苦笑いを浮かべつつ「二人共、未だ試合は終わっていないわよ♪」と口を挟みながら、アッサムから紅茶のお替りを貰っている…如何やら聖グロOGの清恵から見ると、ダージリンとオレンジペコは結構燥いでいる様に見えるらしい。

 

これに対して黒森峰女学園では、副隊長の逸見 エリカが大型モニターからの生中継画像を見て、「大洗女子が2輌も撃破!?」と呟きながら驚愕する横で、エリカの補佐役である五代 百代も「しかも通信傍受を逆手に取って待ち伏せを決めるなんて!?」と、大洗女子が展開した作戦の周到さに驚きを隠し切れないでいた。

 

だが、其れとは対照的に隊長の西住 まほは冷静な表情のまま「その様ね」と二人に向けて呟くだけだ…しかし其処へ、彼女達と一緒にちゃっかり百代が先程淹れたばかりのコーヒーを飲みながら試合観戦をしている明美が、明るい口調で話し掛けて来た。

 

 

 

「ふふ…後輩達、驚くのは此処からよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事を教えてあげる!」

 

 

 

だがこの時、先手を打たれたサンダース大付属のケイ隊長は、味方にとって不利な状況を楽しむかの様に、搭乗している隊長車のM4中戦車の車長席で不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「うふふ…さあ、面白くなって来たわね!」

 

 

 

そう…彼女は“不利な状況からの逆転劇”を狙っているのだ。

 

そして、サンダース大付属の隊員の中でもう一人、ケイとは真逆の心理状態で“逆転”を誓う少女がいた。

 

 

 

「嵐…アンタは私が倒す!そして私達が勝つ!」

 

 

 

その少女…原 時雨は試合の勝利以上に、嘗ての親友・原園 嵐の“裏切り”に対して決着を着けるべく、激しい闘志を燃やしていたのである。

 

 

 

(第37話、終わり)

 




ここ迄読んで下さり、有難う御座います。
第37話をお送りしました。

サンダース大付属の“アリサ”が仕掛けた通信傍受作戦に苦しめられながらも、その作戦を逆手に取り、見事待ち伏せを決めた西住殿と嵐ちゃん達。
今回は、この場面に関しては原作に微妙なアレンジと小ネタを加えていますが、お気付きになられましたら幸いです…気付かなかったら如何しよう(大汗)。
しかし、サンダース大付属も此処から反撃を伺います…ケイと共に戦う時雨にも注目です。

それでは、次回をお楽しみに。

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