戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

45 / 114

前話投稿後に感想を読んでいた所、ニワトリさんチームの囮作戦に注目が集まっていたので急遽ストーリーを練り直したのは秘密です(自爆)。
と言う訳で、一回戦も佳境に入ります。
それでは、どうぞ。



第39話「勝利を賭けた鬼ごっこです!!」

 

 

 

私達“ニワトリさんチーム”は、西住隊長からの偽通信で“128高地”に誘き寄せられたサンダース大付属高校・戦車道チーム本隊を喰い止める為の“囮”となるべく、愛車であるM4A3E8“シャーマン・イージーエイト”がサンダース大付属のM4“シャーマン”と同系列で形状が似ている点を利用し、サンダース本隊の車列へ忍び込むと言う“ソックリさん作戦”を決行した。

 

だが、サンダースの隊長車を奇襲しようとした私達は群馬みなかみタンカーズ時代の私の親友で、今はサンダース大付属チームの戦車長である原 時雨の機転によってその姿を発見されてしまった結果、逆にサンダース本隊からの追撃を受けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

『此方“ニワトリ”より“あんこう”へ。済みません隊長、サンダース本隊に発見されました。“ソックリさん作戦”失敗です!』

 

 

 

「原園さん!大丈夫なの!?」

 

 

 

『私達は健在ですが、今後ろからサンダース本隊のM4“シャーマン”6輌と“シャーマン・ファイアフライⅤC”1輌に追われています!』

 

 

 

「了解!其の儘逃げながら随時情報を送って下さい」

 

 

 

『此方“ニワトリ”了解しました!其方へ近付かせない様、出来る限り粘ってみます!』

 

 

 

緊急事態につき、此処迄使って来なかった無線で現在の状況を西住隊長へ報告した私・原園 嵐は、操縦手の萩岡 菫に『隊長達が居る地点から徐々に離れる様に逃走して!』と指示した。

 

此処からは、私達が“囮”として出来る限り、サンダース本隊を隊長達の所へ行かせない様に行動しなければならない。

 

 

 

 

 

 

だがこの時、サンダース本隊を率いるケイ隊長は嵐の意図を完全に見抜いていた。

 

 

 

「ウフフ…仲間達の為に体を張るなんて、()()()()()()()()()()♪」

 

 

 

味方フラッグ車(M4A1)が待機していた“0765地点”を目指しているケイは不敵な表情で独り言を呟くと、敢えて進路を一時的に“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”寄りに変更して相手の思惑に乗ったかの様に見せ掛けた直後、再び部隊の進路を本来の方角へ戻すと言うフェイントを見せる。

 

その為、嵐達による必死の“囮作戦”もケイには通用せず“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”はサンダース本隊に追い越されない様に彼女達の前を走り回るのが精一杯、と言う状況に陥って行く。

 

こうして、大洗女子学園は相手フラッグ車撃破のチャンスから一転、大ピンチに立たされようとしている。

 

しかしこの時、サンダース大付属の副隊長・アリサが指揮するフラッグ車(M4A1)も“ニワトリさんチーム”に優るとも劣らぬ()()に見舞われていた。

 

 

 

「何をやっている!相手は八九式だぞ!?」

 

 

 

アリサは、自分達を発見した大洗女子の八九式中戦車甲型(アヒルさんチーム)を追撃しながら乗員に檄を飛ばしたが、此処で操縦手が悲鳴を上げる。

 

 

 

「視界が!」

 

 

 

これは“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”の戦車長・磯辺 典子がフローターサーブでM4A1の正面目掛けて投げた発煙筒が、偶然M4A1の車体前部右側のフェンダーに引っ掛かった結果、発煙筒の煙が上がり続けている所為でM4A1の乗員の視界が奪われてしまった為である。

 

だが、相手を仕留めようと焦っているアリサは操縦手の悲鳴にも関わらず「いいから撃て!」と叫び、八九式への砲撃を続ける。

 

一方、M4A1からの砲撃による至近弾で震えながらも逃走を続ける“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”の車内では、砲手の佐々木あけびが本来の所属であるバレー部のキャプテンで戦車長の典子へ新たな発煙筒を渡しながら「キャプテン、激しいスパイクの連続です!」と悲鳴を上げるが、典子は真剣な表情でこう指示する。

 

 

 

「相手のスパイクを絶対受けないで!()()()()よ!」

 

 

 

典子は、バレーボールの選手のポジション・“リベロ”の役割が相手のサーブやスパイクをレシーブする事だけに特化した“守備専門の選手”である事から「相手の砲撃を全部躱せ」と言う意味で“()()()()”と言ったつもりだったが…言われたあけびは唖然とした表情で「あ…意味分かりません」と零すしかなかった。

 

バレーボールでは、相手のスパイクやアタックを“受けなかったら”即失点に繋がる為、あけびが戸惑うのも当然である。

 

 

 

そんな中、M4A1(76.2㎜砲型)の車内ではアリサが不機嫌そうに左足を踏み鳴らしていたかと思うと、装填手へ「早くしなさい!」と叫ぶと同時に彼女を蹴る。

 

だが装填手は、砲塔バスケットの床に寝そべった状態でこう返事するのが精一杯だった。

 

 

 

「済みません、砲弾が遠くて……」

 

 

 

そんな彼女の様子を見たアリサは唖然とする。

 

実はこの装填手の言葉には、M4中戦車(76.2㎜砲型)の弾薬庫配置が関係しているのだ。

 

先ず砲手席の下に6発分の76.2㎜砲弾が入った弾薬ケースが在り、これは直ぐ撃てる様ケース内に収められている*1のだが、問題は之を()()()()()()()だ。

 

その場合は、車体左側に在る砲弾ラック*2から砲弾を取って来れば良いのだが…何と装填手は、()()()()()を探っていた。

 

何故なら、M4中戦車(76.2㎜砲型)でも後期型の弾薬庫は、“湿式弾薬庫”と言って被弾時の砲弾誘爆を防ぐ為、凍結防止のグリセリンを混ぜた水が弾薬庫の周囲に張ってあるのだが、実はこのタイプの弾薬庫を持つ後期型のM4中戦車(76.2㎜砲型)は、車体左側では無く()()()()()に弾薬庫が在る。

 

つまり…この装填手は“一軍に上がって来たばかりで経験不足”の為、“湿式弾薬庫”を持っているM4中戦車(76.2㎜砲型)後期型の()()()()()()()()()()()()のだ。

 

この為、そのタイプに当て嵌まらないアリサのM4A1(76.2㎜砲型)には()()()()()“車体の床下にある弾薬庫”のハッチを探し回っていた、と言う訳である。

 

そんな装填手の有様を見たアリサは苛立ちながら「機銃で撃ちなさい!」と言い出すが、今度は砲手が「機銃で撃つなんてカッコ悪いじゃないですか!」と抗議して来た。

 

これは“鉄の塊である戦車の中から機銃掃射をするなんて非人道的行為だ!”と言う“第二次大戦後に女性の間で浸透した思想”によるものだが、勝負に拘るアリサは激怒してこう言い放った。

 

 

 

「戦いにカッコ良いも悪いも有るか!?手段を選ぶな!」

 

 

 

その瞬間、大洗女子の八九式中戦車甲型が放った57㎜弾がアリサのM4A1に命中し、撃破判定こそ下らなかったもののM4A1の車体が揺れた。

 

 

 

「「ウワッ!」」

 

 

 

いきなりの被弾による衝撃で悲鳴を上げるアリサと砲手。

 

これに怒ったアリサは、砲手に同軸機銃の射撃を命じつつ大洗女子の八九式を必死に追っていたのだが…その時既に、大洗女子学園の主力部隊はサンダース側のフラッグ車を待ち伏せる準備を整えていたのである。

 

 

 

 

 

 

準備完了を確認した隊長の西住 みほが、待機している各チームと自らが率いる“あんこうチーム”のメンバーへ攻撃開始の指示を出す。

 

 

 

八九式(アヒルさん)来ました。突撃します!但し、カメさん(38t)ウサギ(M3リー)さんとカバさん(Ⅲ突F型)で守って下さい…パンツァー(Panzer)フォー(Vor)!」

 

 

 

そして……

 

 

 

「車長、煙幕晴れます!」

 

 

 

乗員からの報告を受けたアリサが車長用キューポラの中に在る視察窓から前方を見ると…開けた平野部の右側へ逃走する八九式の隣に、前方から迫って来る3輌の戦車の姿が見えた!

 

勿論其れは、大洗女子のM3リー中戦車・Ⅲ号突撃砲F型・38t軽戦車B/C型である。

 

 

 

「ああっ!」

 

 

 

驚愕するアリサが慌ててキューポラの視察窓越しに周囲を見回すと、左方から1輌の戦車…大洗女子のⅣ号戦車D型が迫って来るのが見える。

 

その姿を認めた瞬間、アリサは車内の乗員に向けて絶叫した!

 

 

 

「うっ、ストップ、ストップ!」

 

 

 

その御蔭で、大洗女子のⅣ号戦車D型からの砲撃を辛うじて躱したサンダースのM4A1(フラッグ車)(76㎜砲型)。

 

その車内でアリサは再び「後退、後退!」と叫んだ後、急ぎ無線でケイ隊長へ状況報告を行った。

 

 

 

「大洗女子の戦車5輌、此方に向かって来ます!」

 

 

 

すると、先程から本隊の戦車7輌で大洗女子の“イージーエイト(M4A3E8)”を巧妙に追い立てながら味方フラッグ車(アリサ)が待機していた“0765地点”を目指して前進を続けているケイ隊長が怪訝な口調でアリサへ返信して来る。

 

 

 

「一寸アリサ、薄々おかしいとは思っていたけど、やっぱり話が違うじゃない?こっちは“128高地”に何も居ないと思ったら何時の間にか大洗の“イージーエイト(M4A3E8)”がこっちの隊列に潜り込んでいたし…何で?」

 

 

 

このケイからの詰問に、アリサは貧乏揺すりをしながら遂に“事の真相”を隊長へ告白した。

 

 

 

「はい。恐らく、無線傍受を…逆手に取られたのか、と」

 

 

 

その次の瞬間…“真相”を知らされたケイからの(怒号)が、アリサの無線のヘッドホンに飛び込んで来た!

 

 

 

「馬っ鹿もーん!」

 

 

 

「申し訳有りません!」

 

 

 

隊長を「女の勘です」との一言で()()つつ、無線傍受と言う“アンフェアな行為”を行っていた事を涙目で謝罪するアリサ。

 

これに対してケイは、自分達の“モットー”を口に出して副隊長(アリサ)が仕出かした行為を強く諫める。

 

 

 

「“戦いはフェアプレイで”って、何時も言っているでしょ!」

 

 

 

だが、その最中にアリサのフラッグ車から轟く砲声が無線を通じて飛び込んで来た事に気付いたケイは、軽く舌打ちするとアリサへ新たな指示を出した。

 

 

 

「いいからとっとと逃げなさい!Hurry(ハリー)Up(アップ)!」

 

 

 

Yes,ma'am(イエス・マム)!」

 

 

 

こうしてケイからの指示を“了解”したアリサは、フラッグ車(M4A1)を一気に加速させて大洗女子の包囲網からの突破を開始する。

 

一方、隊長のケイは大洗のM4A3E8を追撃しながらも或る“気懸かりな事”を考えていた。

 

 

 

「う~ん。無線傍受しといて()()()()()()ってのも“アンフェア”ね……」

 

 

 

そしてケイは少し考えた後、或る“決断”を下す。

 

 

 

「こっちも()()()で行こうか!」

 

 

 

このケイの“決断”は、()()()試合の勝敗だけを考えるなら、寧ろ“悪手”だろう。

 

だが彼女の…そしてサンダース大付属の“戦車道”のモットーである“フェアプレイ”を()()()()()()()()ならば、全く異なる論理が生まれる。

 

 

 

「こっちが先に“アンフェア”な行為な行為をした結果“返り討ち”に遭ったのに、相手よりも多い戦車で反撃するのは、到底“フェアプレイ”とは言えないのでは無いだろうか?」

 

 

 

そんな“勝利”が、自分達にとって意味が有るのだろうか?

 

そんな“勝利”で、自分達は()()()()()次の試合へ臨めるだろうか?

 

勿論…之について議論をしても、万人が納得する答えは出ないだろう。

 

何故なら“戦車道”も人間が行う行為である以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

しかし…これだけは言える。

 

この時ケイは、彼女なりの“私の戦車道”に従って決断を下した。

 

そして、自らが率いる本隊の7輌の戦車へ次の指示を出したのだ。

 

 

 

「敵は6輌だけど、目の前に居る“イージーエイト”は“囮”だから、先ず4輌だけ私に従いて来て。次に“シーズー(時雨)”は1on1で“イージーエイト”をマークし、私達から出来るだけ引き離す事。そしてナオミ、出番よ!」

 

 

 

次の瞬間、隊長からの指名を受けた“シャーマン・ファイアフライⅤC”の砲手兼チームの副隊長・ナオミが、チューインガムを噛むのを一旦止めると気合の入った声で答えながら、隊長に忠告を入れる。

 

 

 

「漸くか…だが隊長も嵐には気を付けろよ。アレは“闘犬”並みにしぶといぞ!」

 

 

 

信頼するナオミからの忠告を受けたケイは、不敵な笑みを浮かべると冷静な口調でこう返信した。

 

 

 

「OK。嵐は私達の車列に忍び込んだ位、度胸のある娘だからね。油断出来ないわ…そして“シーズー(時雨)”、今の聞いたわね?嵐は絶対に逃がしちゃ駄目よ!」

 

 

 

するとケイからの返信を聞いたナオミが不敵な笑みを浮かべて「Roger(ラジャー)!」と返信した直後、同じくケイから指示を受けた時雨も、先程のナオミ以上に気合の入った声で返信して来た。

 

 

 

Yes,ma'am(イエス・マム)!必ず嵐を仕留めます!」

 

 

 

そして時雨からの返信を受信したケイは、表情を引き締めると前進を阻もうと苦心しながら動いている大洗女子のM4A3E8(ニワトリさんチーム)の姿を睨みながらこう呟いた。

 

 

 

「さあ嵐、貴女に付き合うのは此処までヨ…後は“シーズー(時雨)”に任せるわ!」

 

 

その次の瞬間、サンダース本隊は2輌のM4をその場に残しつつ、ケイが率いる4輌のM4とファイアフライが大洗女子の5輌を追って速度を上げる。

 

すると、其れを喰い止めようとした大洗女子の“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”の背後に回った時雨のM4が牽制射撃を加える。

 

その結果、急旋回で時雨の砲撃を躱した“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”はケイ達の後方へ下がってしまい、更に自車の後ろから時雨のM4に追われる態勢に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな展開になるとは」

 

 

 

「うふふ…まるで鬼ごっこね」

 

 

 

一方、会場の外れでは聖グロのオレンジペコとダージリン隊長が試合観戦をしながら会話を楽しんでいた。

 

予想外の試合展開に半ば当惑しているオレンジペコに対して、ダージリンは上品な態度こそ崩さないが、笑顔で現在の両チームの状況を“鬼ごっこ”に喩えている。

 

だが此処で二人の会話を眺めていた“もう一人の観戦者”である聖グロOG・淀川 清恵が口を挟む。

 

 

 

「でも二人共忘れていないかしら…鬼を追っている()達の後ろにも()()()()()()()()()?」

 

 

 

その瞬間、オレンジペコは「ハッ!」と息を呑みながら不安気に会場前の巨大モニターを見詰め、ダージリンも清恵に向かって小さく頷くと、表情を引き締めてオレンジペコと共にモニターに映されている戦況を見詰めていた。

 

 

 

一方、其処から少し離れた一角では、陸上自衛隊のNBC偵察車と並んで駐車している10(ひとまる)式戦車の砲塔上で、陸上自衛隊の常装冬服*3を着用した若い女性が巨大モニターに映っている試合中継を観戦している。

 

だが彼女は、何と胡坐をかいて座っており、しかも到底“乙女”とは言い難い大きな笑い声を響かせていた。

 

 

 

「アッハハハ!新鮮で良いわ!こんな追いかけっこ、初めて見たわね!」

 

 

 

その“若い女性”とは…ご存知、陸上自衛隊駒門駐屯地に駐屯する機甲教導連隊からやって来た蝶野 亜美一等陸尉である。

 

すると、蝶野一尉が座っている10式戦車の前にポニーテールをした女性がやって来て、蝶野一尉へ声を掛けた。

 

 

 

「あの…蝶野一尉、そんな所で胡坐を掻いて大丈夫ですか?」

 

 

 

その声を聞いた蝶野一尉は、以前から戦車道を通じての顔見知りである女性に向けて声を掛ける。

 

 

 

「あら、首都新聞社の青葉ちゃんじゃない。何?」

 

 

 

すると、その女性…北條 青葉は非常に気拙そうな表情を浮かべながら、蝶野一尉へこう()()した。

 

 

 

「あの、此処からだと、その、スカートの中が…と言うか、()()()()()()()()()

 

 

 

「え…え~っ!?」

 

 

 

青葉から()()()()()()指摘を受けて10式戦車の砲塔上で赤面する蝶野一尉。

 

何れにしても、彼女は()()()()の様である……

 

 

 

 

 

 

一方、試合会場一帯では砲撃音が次々と轟いている。

 

その大半が、サンダース大付属のフラッグ車(M4A1)を狙う大洗女子からの攻撃によるものだ。

 

そんな中、サンダース大付属のフラッグ車(M4A1)内では、副隊長兼フラッグ車長であるアリサが正気を失う寸前の精神状態で“意味不明”な事を口走っていた。

 

 

 

「このタフな“シャーマン”がやられる訳無いわ!何せ、5万輌も作られた大ベストセラーよ!丈夫で壊れ難いし、おまけに居住性も高い!馬鹿でも乗れる位操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!」

 

 

 

その瞬間、大洗女子の砲撃による至近弾でフラッグ車(M4A1)が揺れる中、砲手がアリサへ文句を言う。

 

 

 

「お言葉ですが、自慢になってません!」

 

 

 

「五月蠅いわよ!」

 

 

 

砲手の文句に言い返すアリサだが、口論した所で大洗女子の戦車5輌に追われている現状が変わる筈も無い。

 

今は、初夏の日差しが眩しい昼下がり。

 

南の島にある試合会場では、観客の大半が必死になって逃げるサンダース大付属のフラッグ車(M4A1)を全力で追う大洗女子の戦車5輌の姿を巨大モニターで見詰めながら大洗女子へ「いいぞー!」「頑張れー!」「サンダースなんてやっつけろ!」等々、惜しみ無い声援を送っており、その中には勿論、秋山夫妻や華恋・詩織・由良・光の大洗女子学園中等部四人組に、プライベートでやって来た“大洗のアイドル”こと磯前 那珂の姿も在った。

 

一方、そんな試合を観客席の外れで観戦していた黒森峰女学園副隊長・逸見 エリカは、半ば呆れ顔で「ある意味、予想外の展開ですね」と隊長の西住 まほへ語り掛けるが、まほは無言を貫いている。

 

其処へ二人の様子を眺めていた一年生の五代 百代が「でも、直にサンダース本隊の救援が来ますよ?」と試合の戦況を述べて二人に注意を促すと、彼女達の様子を眺めていた黒森峰OGにして嵐の母親でもある原園 明美が、不敵な笑みを浮かべながら百代へこう告げた。

 

 

 

「流石は百代ちゃん…勝負は此処からよ♪」

 

 

 

一方、大洗女子の追撃に音を上げたアリサは、半ばキレ掛けた状態で更なる文句を言い始めた。

 

 

 

「何で、あんなしょぼくれた戦車に追い回されるワケ!?」

 

 

 

続いてアリサは、砲手の肩を叩きながら砲撃を指示する。

 

 

 

「其処、右!私達の学校はアンタ達とは()()()()のよ!撃て!」

 

 

 

だが、折角撃った砲弾は大洗女子の戦車隊を飛び越え、後方へ大きく外れてしまう。

 

 

 

「何よ、その戦車!小さ過ぎて的にもならないじゃない!当たればイチコロなのに!修正、右3度!」

 

 

 

その有様を見たアリサは、状況を考えれば理不尽な文句を言いつつ、砲手へ照準を修正する様指示をしながら、装填手にも新たな指示を出す。

 

 

 

「装填急いで!全く、何なのあの娘達!力も無い癖にこんな所出て来て!どうせ直ぐ廃校になる癖に!さっさと潰れちゃえばいいのよぉ!」

 

 

 

実は…アリサは自分が持っている各地の戦車道履修者からの情報網によって「大洗女子学園は文科省の学園艦統廃合計画に伴い、今年度限りで廃校になる()()()」との“噂”を摑んでいた為、つい「廃校」の一言が出たのだが…実の処、“噂”は“噂”であって、アリサも確証は全く摑んでいなかった。

 

その為、まさかその“噂”が“真実”だったとは、()()()()ではアリサも全く知らなかったし、隊長のケイや同じ副隊長であるナオミにも報告していなかった。

 

そして大洗女子学園にとっては幸いな事に、この時のアリサの発言は無線で発信されていなかった為、会場内の観客には聞こえなかったし、首都テレビの実況中継でも放送される事は無かった…其れは兎も角。

 

 

 

「あっ?」

 

 

 

同じ頃、サンダース大付属のフラッグ車(M4A1)を追撃中の大洗女子“あんこうチーム(Ⅳ号戦車D型)”の戦車長にして、大洗女子戦車道チーム隊長でもある西住 みほは、M4A1の乗員(アリサ)が車長用キューポラから顔を出して自分達に向かって何やら叫んでいる様子を見て不思議に思った。

 

同時に“あんこうチーム”の砲手・五十鈴 華も、唖然とした表情でみほに話し掛けて来る。

 

 

 

「何か…喚きながら逃げてます」

 

 

 

その言葉を聞いたみほは、華に向けて苦笑いを浮かべながら「うん」と答えたが…その時、サンダースの本隊を追っている“ニワトリさんチーム”の戦車長・原園 嵐が切迫した声で最新情報を伝えて来た。

 

 

 

『此方“ニワトリ”より“あんこう”へ。今サンダース本隊に振り切られました!現在其方迄の距離は約6000m。こっちは今1輌のM4に喰い付かれて振り切れません…気を付けて下さい!』

 

 

 

「了解、でも無理はしないで!」

 

 

 

『此方“ニワトリ”、了解!出来るだけ早く敵戦車を振り切ってから援護に行きます!』

 

 

 

遂にサンダースの本隊が此方へ近付いて来たのを知ったみほは、嵐へ可能な限りの遅滞行動を命じると、残りの各チームに相手フラッグ車への攻撃準備を指示する。

 

 

 

「目標との距離、詰まって来ています。60秒後攻撃を再開予定。順次発砲を許可します!」

 

 

 

自らの指示を通信手の武部 沙織がスマホメールで発信しているのを確認したみほは、続いて操縦手の冷泉麻子へ新たな指示を出す。

 

 

 

「前方に上り坂!迂回しながら目標に接近して下さい!」

 

 

 

其れに対して、麻子はぶっきらぼうな口調ながら「分かってる」とみほへ返事をすると、素早くレバーを操作して指示通り相手フラッグ車目指して機動を始める。

 

その動きは全く無駄が無く、戦車の操縦を始めてから間が無い少女が乗っているとは到底思えない程の素晴らしさだった。

 

 

 

一方“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型を先頭に、大洗女子の各チームの戦車がサンダースのフラッグ車を単縦陣で追う中、車列の最後尾に着いた“カメさんチーム”の38(t)B/C型の車内では、車長兼砲手である河嶋 桃が操縦手の小山 柚子へ発破を掛けていた。

 

 

 

「柚子、遅れるな!」

 

 

 

「分かってるよ、桃ちゃん!」

 

 

 

車内で二人が気合の入った声を掛け合っている中、何故か車内では干し芋を食べる以外に何もしない生徒会長の角谷 杏が「頑張れー♪」と声を掛けながら隣に居る桃に干し芋を差し出そうとするが、此処でチームでは装填手を勤める一年生の名取 佐智子が、“鬼の様な形相”で会長に向かって“普段の彼女なら絶対に言わない様な文句”を言った。

 

 

 

「其れより、今は()()()頑張って下さい!」

 

 

 

「こ…怖いなぁ、名取ちゃんは(汗)」

 

 

 

そんな佐智子の形相を見た杏は、珍しく冷や汗を掻きながら返事をしたが、佐智子は顔を引き攣らせたままもう一言文句を言うだけだった。

 

 

 

「当たり前です!」

 

 

 

 

 

 

だが、その頃。

 

観客席前に在る巨大モニターには、サンダースのフラッグ車を追っている大洗女子主力部隊の後方にサンダースの本隊が迫っている姿が表示された。

 

そのやや後方には大洗女子の“ニワトリさんチーム”が居るが、彼女達の直ぐ後ろにはサンダースの新鋭・原 時雨が率いる“E(イージー)”チームが迫っている。

 

その情報を見た観客からは「サンダースが来たぞ!」「やばいな、大洗女子は」と、口々に大洗女子に危機が迫っている事を語り合っており、大洗女子の応援に来ている秋山夫妻や中等部四人組に磯前 那珂達は「ああっ……」と不安を口にしていたのだが…その時突然、サンダースのフラッグ車々長・アリサの声が会場内のスピーカーから響いて来た。

 

 

 

「何で“タカシ”は()()()が好きなのぉ…如何して、私の気持ちに気付かないのよぉー!?」

 

 

 

そう…全ては“不幸な偶然”だった。

 

何とこの時、アリサのフラッグ車(M4A1)の無線が何かの“偶然”でスイッチが入っていた為に発信状態となっており、しかも首都テレビによる実況生中継が丁度両チームの無線交信を流すタイミングだった事も重なった結果、彼女の悲鳴は試合会場だけでなく全国のお茶の間にも流されてしまったのだ…更に。

 

 

 

「あ…如何やらサンダース大付属のフラッグ車が()()()()になっている様です」

 

 

 

アリサの悲鳴を聞き付けた実況担当の加登川アナウンサーによる“天然ボケ”を思わせる様な解説も相俟って、会場内は大爆笑に包まれた。

 

勿論、TVで試合中継を見ている全国の視聴者も同様だ。

 

 

 

だが次の瞬間、試合会場に特徴的な重々しさの有る砲撃音が轟いた。

 

其れと同時に、爆笑していた試合会場の観客やTVの前の視聴者も、あっと言う間に静まり返る。

 

一方、その砲撃音を聞いた大洗女子“あんこうチーム(Ⅳ号戦車D型)”の車内では、みほが「今のは?」と呟いてから音がした方向を振り返ると、装填手の秋山 優花里が緊張した表情で“砲撃音”の正体をみほに報告した。

 

 

 

「“ファイアフライ”、17ポンド砲です!」

 

 

 

「何か凄い音だったよ?」

 

 

 

優花里の報告に続いて通信手の沙織も不安そうな表情で報告すると、意を決したみほは車長用キューポラから顔を出して後方を確認する。

 

同時に優花里も砲塔右側面の乗員用ハッチを開けてみほと同じ様に後方確認をすると、自分達からやや離れた丘陵の上に数輌の戦車が姿を見せているのが分かった。

 

その時みほは、“或る事”に気付いて不思議そうに呟く。

 

 

 

「こっちに来ているのは…4()()だけ?」

 

 

 

すると、みほの無線のヘッドホンに嵐から切迫した通信が入る。

 

 

 

『“ニワトリ”より“あんこう”へ。其方迄の距離凡そ5000mです!』

 

 

 

同時に優花里からも「距離、約5000m!原園殿の報告と一致します!」との報告を聞いたみほは、厳しい表情を浮かべながらも優花里へこう告げる。

 

 

 

「“ファイアフライ”の有効射程は3000m。未だ大丈夫です!」

 

 

 

みほはこの時、何故“ファイアフライ”が有効射程距離()からの砲撃を行ったのかを悟った。

 

サンダース大付属の切り札“シャーマン・ファイアフライⅤC”が戦場に到着した事をフラッグ車(M4A1)へ伝えるべく、“ファイアフライ”の砲手・ナオミが()()()17ポンド砲を一発発砲したのである。

 

(第39話、終わり)

 

*1
この様に、即座に撃てる様準備された砲弾の事を“即応弾”と呼ぶ。

*2
実はこの他にも車体右側に在る副操縦席の背後に別の弾薬庫が在るのだが、此処から砲弾を取り出すには副操縦手が装填手へ手渡しする必要がある。

*3
冬の制服。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第39話をお送りしました。

前回、時雨の機転で“ソックリさん作戦”がバレた嵐はサンダース大付属の本隊を喰い止めようとしますが、流石に“高校戦車道四強”の一角、サンダース大付属のケイ隊長にはお見通し。
逆にケイからのフェイントと時雨の行動によって振り切られてしまいました。
頼みの“ニワトリさんチーム”が機能せず、大ピンチの大洗女子学園…一体、如何なってしまうのか!?
そして“不幸な偶然”によって自分の片思いの相手へのジェラシーが全国放送されてしまったアリサの運命は…あっ、之はネタでした(爆)。

何れにしても次回、試合は緊迫した状況へと進んで行きますが、是非お楽しみ下さい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。