戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

46 / 114

色々有りますが、無事脱稿出来ました。
“色々有る”件に関しては、7月15・16日付の活動報告をご参照下さい。

また今回は、後書きの方で重大なお知らせが有りますので、必ず最後までご覧下さい。

それでは、どうぞ。



第40話「一回戦、正念場です!!」

 

 

 

第63回戦車道全国高校生大会・一回戦“サンダース大学付属高校対大洗女子学園”の試合は、大洗女子による“予想外の健闘”から新たな局面を迎えようとしていた。

 

サンダース大付属本隊を偽通信で明後日の方向へ向かわせた後、単独行動中のサンダース大付属のフラッグ(M4A1)車を追撃していた大洗女子主力の後方に、サンダース本隊が味方フラッグ(M4A1)車を救援すべく接近して来たのだ。

 

しかも、その後方にはサンダース本隊に潜入して攪乱すると言う“囮作戦”を遂行する筈だった大洗女子の“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”が居る。

 

彼女達はサンダース本隊のメンバーで、チームの戦車長・原園 嵐とは“群馬みなかみタンカーズ”で親友だった原 時雨によって正体を暴かれた結果サンダース本隊から引き離され、後ろからは時雨が率いる“E(イージー)”チームのM4“シャーマン”の追撃を受けると言う状況に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

一方、追われる立場だったサンダース大付属のフラッグ(M4A1)車の車内では……

 

 

 

「キター!」

 

 

 

「「よっしゃー!Yeah(イェイ)!」」

 

 

 

待ち望んでいた、本隊からの救援が到着したのに気付いた副隊長兼戦車長のアリサが涙目から一転、歓喜の声を上げると嬉し涙を流している砲手と共にハイタッチを決める。

 

その横では、先程までアリサに怒鳴られていた装填手も涙を浮かべながら笑顔を見せていた。

 

()()()()()が招いた、“通信傍受”のピンチからの逆転劇。

 

正に今の状況は、彼女達にとって“地獄に仏”…いや、サンダース風に言うなら“God in hell”と言うべきだろうか?

 

 

 

「百倍返しで反撃よ!」

 

 

 

元気百倍になったアリサが気合の入った号令を仲間達に下すと、彼女達のフラッグ車(M4A1)が再び52口径76.2㎜戦車砲を撃ち始める。

 

更に、後方から大洗女子戦車隊を追い上げるサンダース本隊のM4“シャーマン”からも行進間射撃が始まり、M4中戦車の37.5口径75㎜戦車砲から発射された砲弾が、次々と大洗女子各戦車の周囲に着弾し始めた。

 

 

 

 

 

 

その時私は、“イージーエイト(M4A3E8)”の車長用キューポラから顔を出したまま前方を眺めつつ、自分の失敗で仲間達を窮地に陥れてしまった事を後悔していた。

 

 

 

『ああっ…サンダースの本隊が皆の所まで来ちゃった!』

 

 

 

心の中で“如何しよう!?”と思い乍ら、頭がフリーズし掛かっていた次の瞬間。

 

 

 

「しょうが無いわよ嵐!兎に角、隊長に報告しなさい!」

 

 

 

砲手の瑞希の怒鳴り声で我に返った私は、彼女に「御免……」と謝りつつ、副操縦手の良恵ちゃんに車内無線で新たな指示を出す。

 

 

 

『良恵ちゃん。今から“あんこうチーム”へ私の言う通りにメールを打って…此方“ニワトリ”、“あんこう”からサンダース本隊までの距離が1000mを切りました!』

 

 

 

すると、良恵ちゃんが「了解!」と返事をしてくれた。

 

私は、その返事を聞きつつ車長用キューポラから顔を出したままの状態で、ずっと前方を見詰めている…此処からサンダース本隊までの距離は500m足らず。

 

更に此処から400m後方には、時雨のM4“シャーマン”が私達に追い縋っている。

 

 

 

 

 

 

一方、大洗女子学園戦車道チームの隊長車・“あんこうチーム(Ⅳ号戦車D型)”の車内では、通信手の武部 沙織が切迫した口調で“ニワトリさんチーム”からの緊急連絡を隊長兼戦車長の西住 みほへ伝えた。

 

 

 

「“ニワトリさん”から、サンダース本隊と此方迄の距離が1000mを切ったって…如何する、“みぽりん”!?」

 

 

 

其れに対してみほは、一瞬真剣な表情で考えると直ぐ様決断を下す。

 

 

 

「“ウサギさん”、“アヒルさん”は後方をお願いします。“カバさん”と我々“あんこうチーム”は引き続きフラッグ車を攻撃します!」

 

 

 

直ちに、メールの早打ちで各チームへみほからの指示を送る沙織。

 

その指示で大洗女子本隊の5輌の戦車の内、最後尾を走っていたフラッグ車“カメさんチーム”の38(t)軽戦車B/C型が隊列の中央へ入り、その後方を“アヒルさんチーム”の八九式中戦車甲型と“ウサギさんチーム”のM3リー中戦車が固める。

 

その内、M3リー中戦車の車内では“ウサギさんチーム”の戦車長・澤 梓が聖グロとの親善試合で自分達が犯した“敵前逃亡”を繰り返すまいと気合を入った決意を叫んだ。

 

 

 

「今度は逃げないから!」

 

 

 

「「「うん!」」」

 

 

 

梓の言葉に全員で頷く“ウサギさんチーム”のメンバー達。

 

 

 

一方、隊列の前方で“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型と共にサンダースのフラッグ車を追う歴女集団“カバさんチーム”のⅢ号突撃砲F型の車内では。

 

 

 

「この状況は“アラスの戦い”に似ている!」

 

 

 

チームの車長を務めるエルヴィンが、現在の状況を第二次世界大戦中の1940年5月、ドイツ軍のフランス侵攻時に起きた仏英連合軍による反撃作戦を自らが敬愛するドイツ陸軍のエルヴィン・ロンメル将軍が撃退した戦いに喩えると、Ⅲ突の操縦手を担当するおりょうがこんな事を言い出す。

 

 

 

「いや“甲州勝沼の戦い”だ」

 

 

 

此方は戊辰戦争中の1868年3月、甲府城の確保を巡って板垣退助率いる新政府軍と近藤 勇率いる旧幕府軍が激突した戦いに喩えていると……

 

 

 

「“天王寺の戦い”だろう?」

 

 

 

今度は砲手を務める左衛門左が、1576年5月に織田信長が石山本願寺や雑賀衆を中心とした一向一揆勢を迅速な攻撃によって撃破した戦国時代の戦いに喩えた途端、適当な戦いが思い付かなかったのか此処まで黙っていたカエサルを含む残り三人の歴女達が一斉に左衛門左へ向かって「「「其れだ!」」」と同意した…この状況下でも、彼女達は()()()()()()

 

 

 

同じ頃、大洗女子のフラッグ車・“カメさんチーム”の38(t)軽戦車B/C型の車内では、砲手兼戦車長の河嶋 桃が「此処で負ける訳には行かんのだ!」と気合の入った声と共に37㎜砲を後方へ向けて発射したが……

 

 

 

「桃ちゃん、当たって無い」

 

 

 

操縦手の小山 柚子の言葉通り、桃の撃った弾は当たらない処か目標である筈のサンダース本隊の手前、其れも大きく左へズレた場所に着弾した…深刻な“ノーコン”である。

 

しかし撃った本人は「五月蠅い!」と文句を言う中、相変わらず車内では干し芋を食べる事しかしない通信手(名目上)の角谷 杏生徒会長が「壮絶な撃ち合いだね~♪」と呑気な口調で喋っていたが…其処へチームの装填手・名取佐智子が“鬼の様な形相”で角谷会長を叱り付けた。

 

 

 

「会長は干し芋ばかり食べてないで、仕事をして下さい!」

 

 

 

これには、流石の会長も「あ…名取ちゃん、ゴメン」と、苦笑いを浮かべながら返事をするのであった。

 

 

 

 

 

 

一方、試合会場では大洗女子が追い詰められて行く戦況が伝わると共に、観客達の間で緊張感が高まっていた。

 

 

 

「優花里……」

 

 

 

「皆…頑張って!」

 

 

 

観客席前の大型モニターを見詰めながら、愛娘とその仲間達の勝利を祈る秋山夫妻。

 

中等部四人組も声を枯らさんばかりの勢いで「「「「先輩達、頑張れー!」」」」と大型モニターに向かって声援を送り続ける。

 

その隣では、“大洗のアイドル”こと磯前 那珂が手を組みながら「神様、お願いします…あの娘達を勝たせて下さい」と、何時もポジティブな彼女にしては珍しく“静かな祈り”を捧げていた。

 

そして、観客席の外れで戦況を見守る聖グロのオレンジペコも不安そうな声で、隊長のダージリンに語り掛ける。

 

 

 

「大洗女子、ピンチですね」

 

 

 

だが此処でダージリンは“奇妙な発言”をする。

 

 

 

「サンドイッチはね、パンよりも中の胡瓜が一番美味しいの」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

唐突な隊長の発言にオレンジペコが当惑していると、ダージリンは澄まし顔でこう(のたま)った。

 

 

 

「挟まれた方が、良い味出すのよ♪」

 

 

 

そんな二人の会話を眺めていた清恵が微笑みながら「胡瓜は“最もローカロリーな()()”としてギネス認定もされているしね♪」“奇妙な発言”をすると、隣で紅茶の準備をしているアッサムが「先輩までダージリンの真似をなさるのですか?」と心底呆れていた。

 

 

 

 

 

 

そんな中、サンダース大付属の攻撃を必死に凌いでいた大洗女子学園だったが…遂に、彼女達にも被害が発生する瞬間が訪れた。

 

 

 

「左!」

 

 

 

“アヒルさんチーム”の戦車長・磯辺 典子がサンダースからの砲火を見定めて回避機動を指示すると、操縦手の河西 忍が八九式中戦車甲型を左へ一輌分スライドさせる。

 

その瞬間、寸前まで八九式が進んでいた場所に砲弾が着弾し、彼女達は辛うじて被弾を免れると、すかさず典子が砲手の佐々木 あけびへ発砲を命じる。

 

 

 

「撃てー!」

 

 

 

バレー部らしくキャプテンである典子の命令に続いて部員三人が気合を入れた「「「アタック!」」」の掛け声を掛けると同時に、砲手のあけびが57㎜砲を発砲する。

 

八九式の18.4口径57㎜砲の威力では、M4を撃破する事は先ず不可能だが、相手を牽制する程度なら出来る…と思われたその時!

 

サンダース側が撃ち返して来た砲弾が八九式のエンジンルームを撃ち抜いた!

 

 

 

「「「ア~ッ!」」

 

 

 

“アヒルさんチーム”に所属するバレー部員の悲鳴と共に、八九式はエンジンルームから黒煙と火の粉を噴き上げながら隊列から離れると、目の前に在った岩に衝突して停止した。

 

 

 

「『!』」

 

 

 

その様子を目撃したみほと嵐が衝撃を受ける中、この試合の大洗女子にとって最初の“損害”となった八九式は、エンジンルームから激しい炎を上げると同時に白旗を上げた…戦闘不能、“撃破”である。

 

 

 

「アヒルチーム、怪我人は?」

 

 

 

みほが切迫した表情で炎上した八九式の中に居る“アヒルさんチーム”のバレー部員へ安否確認をすると、直ぐ様バレー部員達から返事が届いた。

 

 

 

「「「大丈夫です!」」」

 

 

 

更に、エンジンからの出火を備え付けの消火器で消火中の典子が「済みません、戦闘不能です!」と自分達の八九式は撃破されたが、チームのメンバーは全員無事である事を無線でみほへ伝えると、彼女はホッと溜め息を吐いて安堵の表情を浮かべた。

 

みほにとっては、“試合の勝敗”よりも試合中の事故で“仲間達が負傷する事”の方が一番の心配事なのだ…去年の“全国大会決勝戦”がそうであった様に。

 

 

 

しかし“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”を撃破して勢いに乗るサンダースは、更なる攻撃を仕掛ける。

 

副隊長のナオミが砲手を務める“シャーマン・ファイアフライVC”が手前の坂を下りると、ファイアフライの車内でガムを噛みながら集中力を高めていたナオミが、先程大洗の八九式を仕留めたのと同じ様に、今度は行進間射撃でM3リー中戦車を狙う。

 

 

 

 

 

 

その時サンダース本隊の後方に居た私は“ウサギさんチーム”のM3リーがサンダースのM4“シャーマン”の1輌から狙われているのに気付いた。

 

 

 

『梓、後方4時方向からM4が狙っている!』

 

 

 

私が無線で梓に警告すると、彼女は「了解!桂利奈、少し左へ!」と操縦手の桂利奈ちゃんへ回避機動を指示。

 

するとM3リーが進行方向を僅かに左斜めへ変えた瞬間、サンダースのM4が放った75㎜砲弾がM3リーの右隣に着弾して土砂を跳ね上げた。

 

 

 

「良かった。皆が無事で……」

 

 

 

取り敢えず梓達を救った事に安堵していた私だったが…次の瞬間、此方から11時方向の場所に激しい発砲炎を目撃して、私は悲鳴を上げた!

 

 

 

「ああっ!」

 

 

 

其れは、先程75㎜砲を発砲したM4の傍らに隠れて発砲のチャンスを窺っていた“シャーマン・ファイアフライVC”が、必殺の17ポンド砲を発射した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

“群馬みなかみタンカーズ”時代から戦車長として天才的な実力を発揮していた原園 嵐だが、この瞬間に悲鳴を上げたのは無理もない事だろう。

 

何しろ、専用の装弾筒付徹甲弾(APDS)を使えばドイツのティーガーⅠ重戦車を撃破する事も可能な58.3口径17ポンド砲を持つ“シャーマン・ファイアフライVC”からの砲撃である。

 

大威力の17ポンド徹甲弾が第二次大戦前半の時期に登場した“中戦車”に過ぎないM3リーのエンジンルームを射抜くのは造作も無い事だった。

 

呆気無く撃破された“ウサギさんチーム”のM3リーは、先程撃破された八九式と同様にエンジンルームから黒煙を噴き上げて車列から離れた直後、右側の履帯が外れると同時に先程のサンダース側の砲撃によって地面に出来たクレーターへ転落して停車。

 

其れから間も無く車体から白旗が上がった…これで大洗女子の損失は2輌目、残る戦車は4輌である。

 

 

 

「済みません、鼻が長いの(ファイアフライ)にやられました!」

 

 

 

“ウサギさんチーム”の戦車長・澤 梓から撃破された報告を受け取ったみほの表情が固まる中、みほと同じ“あんこうチーム”の装填手・秋山 優花里が落胆した表情で「ファイアフライですね……」とみほに語り掛ける。

 

 

 

「M3も……」

 

 

 

“作戦失敗”の責任を感じつつあるみほが俯きながら呟く中、砲手の五十鈴 華が心配そうにみほを見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

この時、試合の行方は完全に決した…と、この試合を観戦していた人々は思っていた。

 

依然フラッグ車が大洗女子からの追撃を受けているものの、サンダース大付属は大洗女子の残存戦車を追尾しており、大洗女子の戦車はサンダースからの砲撃で“袋叩きに遭っている”様に見えたからだ。

 

その為、本来なら“未だ、()()()()()()()()()()()()()()可能性に気付くべき“戦車道の絶対王者”黒森峰女学園戦車道チームの逸見 エリカ副隊長でさえ、隣に座っている隊長の西住 まほへこう語る有様だった。

 

 

 

「もう時間の問題ですね」

 

 

 

だがこの時…この試合を見ている人間の中で、恐らく()()()冷静な視点を持っている黒森峰OG・原園 明美が“試合のカギを握る、或る重大な要素”を指摘する。

 

 

 

「あら、そうかしら?“フラッグ車が一発喰らったら終わり”なのはサンダースも同じよ?」

 

 

 

「!」

 

 

 

その指摘を聞かされたエリカが、思わず“ハッ”と表情を変える。

 

彼女の隣では、まほが微動だにせず巨大モニターに映っている試合状況を見詰めているが、その傍らではエリカの補佐役・五代 百代が、小さく頷き乍ら明美に向かってこう呟いた。

 

 

 

「明美さん、次の“一発”を()()()当てるのか…其れが勝敗を分けるのですね?」

 

 

 

「そうよ、五代さん♪流石は“戦車道の神童”と呼ばれ、しほさんから()()スカウトを受けただけの事は有るわね」

 

 

 

「いえ…ですが明美さん、大洗女子は()()()()()()()()()()()()事を理解出来ているのでしょうか?」

 

 

 

明美は、百代からの問い掛けに答えないまま、巨大モニターに映る試合状況を真剣な眼差しで見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、この時の大洗女子は百代が指摘した通り、迫り来る敗北に怯えて戦意を失いつつあった。

 

その為、大洗女子の各チームでは“目の前に居るサンダース大付属の()()()()()()()()()()()()()()()と言う現実を忘却しつつある。

 

皆の心が“絶望”と言う名の恐怖に陥りつつある中、彼女達を代表する様に“あんこうチーム”の車内では通信手の沙織が「もうダメなの…?」と縋る様な口調でみほに語り掛けるが…みほも車長席で俯き加減に座ったまま、一言も発しない。

 

逆にサンダースのフラッグ(M4A1)車内では、車長のアリサが自分の無線のスイッチが先程から“偶然”入ったままの状態である事に気付かずに傲慢とも取れる発言をした。

 

 

 

「ほ~ら見なさい!アンタ達なんか蟻よ蟻!呆気無く象に踏み潰されるね!」

 

 

 

当然…この発言を首都テレビの実況中継スタッフが聞き逃す筈は無く、アリサの発言は()()()()()()()()()試合会場のみならずTVを通じて全国に流されてしまった。

 

勿論、この言葉を聞いた観客達が黙ってはいない!

 

 

 

「対戦相手を“蟻”扱いだなんて…見損なったぞ!サンダース!」

 

 

 

「先に“マナー違反”の通信傍受をして置いて何だ、その言い草は!」

 

 

 

「此の儘じゃ、大洗の娘達が可哀想だわ…何とかならないの!」

 

 

 

其処から一気に、絶望的な状況に陥った大洗女子へ絶叫に近い声援を送る観客達。

 

 

 

「「「頑張れ、大洗女子っ!」」」

 

 

 

そんな観客達の声援が、応援席で絶望感に打ちひしがれていた大洗女子学園中等部四人組の心に響く。

 

 

 

「観客席の皆が…先輩達を応援してくれている!」

 

 

 

観客席からの大歓声に感動した華恋が皆にその思いを告げると詩織がこう答える。

 

 

 

「私達も頑張って応援しよう!」

 

 

 

「「うん!」」

 

 

 

その言葉に反応した由良と光が頷きながら答えると、再び勇気を奮い起こして母校の応援を始めた。

 

その姿を見た秋山夫妻や“大洗のアイドル(磯前 那珂)”も有らん限りの声援を大型スクリーンに映っている大洗女子に向けて送る。

 

だが、幾ら観客達の大半が味方に付いても大洗女子にとって“絶体絶命の状況”が変わる訳では無い。

 

その証拠に、周囲から撃たれ続けている大洗女子のフラッグ車“カメさんチーム(38(t)軽戦車B/C型)”をカバーするべく同チームの後方へ回った“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”では砲手の左衛門左が覚悟を決めたのか、こんな事を言い出していた。

 

 

 

「弁慶の立ち往生の様だ」

 

 

 

「最早これ迄……」

 

 

 

その声を聞いた車長のエルヴィンも同じ思いで一言呟くと操縦手のおりょうが“思わぬ事”を言い出した。

 

 

 

「蜂の巣に されてボコボコ サヨウナラ」

 

 

 

其処へ彼女の言葉を聞かされた装填手のカエサルが“縁起でも無い”と言わんばかりの表情で、おりょうに向けて文句を言う。

 

 

 

()()()()を詠むな!」

 

 

 

そんな中…相手側からの砲撃で激しく揺れながら逃避行を続けている“カメさんチーム”の38(t)軽戦車B/C型の車内では、装填手の名取 佐智子が“或る異変”に気付いていた。

 

 

 

「河嶋先輩、大丈夫ですか…顔色が良くないですよ?」

 

 

 

だが言われた当人は、真っ青な表情のまま車内の皆を不安にさせかねない一言を発する。

 

 

 

「ダメだ…もう終わりだ」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

その深刻そうな発言に、不安を感じた佐智子がもう一度、先輩の桃へ問い掛けた次の瞬間、38(t)軽戦車B/C型の砲塔側面左側を敵弾が掠める!

 

 

 

「ヒッ!」

 

 

 

敵弾によって生じた振動と擦過音に怯える桃の悲鳴を聞いた佐智子は「大丈夫ですか、河嶋先輩!砲手替わりましょうか?」と呼び掛けたが、当人は今にも泣き出しそうになり乍ら固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

尤も…この時河嶋 桃が抱いていた“絶望感”は、彼女一人()()のものでは無く、大洗女子戦車道チームのメンバー全員が多かれ少なかれ抱いていたものであった。

 

何故なら同じ頃、隊長の西住 みほも自身の左手が小刻みに震えているのに気付いた事で、自身も絶望感に囚われつつある事を自覚していたのである。

 

 

 

(分かってる。此の儘じゃ勝ち目が無い事は……)

 

 

 

心の中で自分達が絶体絶命の局面に立たされている事を理解し乍ら、自問自答するみほ。

 

だが、今の戦況では自分に出来る事は殆ど無い事をみほは理解しているし、同時に其れが一番辛い事も知っている。

 

 

 

(今は状況が変わるまで我慢する事しか出来ないし…皆の為にも、此処で投げ出す訳には行かない!)

 

 

 

心の中で答えの出ない問答を繰り返していたみほだったが、其処へ突然、仲間達からの悲鳴が無線で飛び込んで来る。

 

 

 

「あんなに近付いて来た!」

 

 

 

「追い付かれるぞ!」

 

 

 

「ダメだ、やられたー!」

 

 

 

その切迫した悲鳴を聞いたみほは、震えている左手を右手で押さえながら眼を瞑ると必死になって絶望感に耐えていたが、呼吸を整えると意を決して無線で仲間達へ向けて呼び掛ける。

 

 

 

「皆、落ち着いて!」

 

 

 

その声の大きさに驚いた華と優花里が自分に視線を向ける中、みほは皆への呼び掛けを続ける。

 

 

 

「落ち着いて攻撃を続けて下さい!敵も走り乍ら撃って来ますから、当たる確率は低いです。フラッグ車を叩く事に集中して下さい!」

 

 

 

隊長からの呼び掛けに意表を突かれた仲間達が無心になってその声を聞いている中、みほからの呼び掛けが続く。

 

 

 

「今がチャンスなんです!当てさえすれば、勝つんです!」

 

 

 

そして、みほは念を押す様に皆へ向けてこう叫んだ。

 

 

 

「諦めたら、負けなんです!」

 

 

 

 

 

 

『西住隊長!』

 

 

 

西住先輩からの必死な呼び掛けを聞いた途端、自分が考え付いた“ソックリさん作戦”の失敗が招いたピンチで沈み込んでいた私の心の中で、()()が弾けた。

 

 

 

『そうだ…私達、()()()()()()()()()()!』

 

 

 

さっきまで「自分が招いたピンチでチームが負けてしまう!」との責任感で圧し潰されそうになっていた私だったけれど、先輩は全く諦めていない、と知って勇気を奮い起こす。

 

でも実はこの時、西住先輩も“勝つ為の作戦”が思い付かず、隊長としての重圧に負けそうになっていた所へチームの先輩方が声を掛けてくれたお陰で辛うじて立ち直る事が出来たって、後で西住先輩や“あんこうチーム”の先輩方が教えてくれたのだけど、当然この時の私はそんな事が有ったとは知る由も無かった。

 

其処で、私が取った次の行動は……

 

 

 

『“勝つチャンス”が何処に有るか…もう一度、周囲を確認しよう!』

 

 

 

戦車長なら必ずやるべき鉄則…砲塔部の車長用キューポラから身を乗り出して周囲を確認する。

 

敵味方の位置は勿論、周囲の地形や状況等を把握して此方が付け入る隙を見付け出すのだ…と言うより、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

そう思って前方を見ると……

 

 

 

「あれっ…“あんこう(Ⅳ号戦車)”が前方の丘へ向かっている?」

 

 

 

あんこうチーム(Ⅳ号戦車D型)”が味方の車列から離れて、前方右側に在る小さな丘を駆け登って行く。

 

一方、逃げているサンダース大付属のフラッグ車はその丘の稜線に沿って迂回しようとしているらしい…その時、私は“西住隊長の意図”を察知した。

 

 

 

『そうか…西住隊長は、丘の頂上から相手フラッグ車を撃ち下ろすつもりなんだ!』

 

 

 

これは後になって知ったが、この時“あんこうチーム”は“相手フラッグ車をどうやって撃破すべきか”と考えた結果、砲手の五十鈴先輩が私と全く同じ考えを西住隊長へ提案し、隊長は私達よりも少しだけ早く行動に移していた、と言う訳だった。

 

勿論、この時の私はそんな事情を知る由も無く当然の様に「“あんこうチーム”の動きは西住隊長の考えである」と理解していたのだけど。

 

でも、その時私は隊長達の作戦の“問題点”に気付く。

 

 

 

『でも、其れだと“あんこう”は相手から狙い撃ちされるんじゃ…そうだ!』

 

 

 

此処で直ぐ様対処法を考え付いた私は、直ちにチームの皆へ新たな指示を出した。

 

 

 

『菫、“あんこう”に続いて前方の丘を登って!其れと皆、私達は此れから隊長達を援護する!』

 

 

 

「原園さん、後ろから敵戦車が1輌追って来ているけど、如何するの!?」

 

 

 

「もうそんな事を言ってられないわ、此の儘()られるよりはマシよ!」

 

 

 

私の考えに対して副操縦手の良恵ちゃんが“追手”である時雨のM4を気にして不安を示したが、すかさず砲手の瑞希が“これをやらないと勝てない”と指摘したのを聞いた私は、即座に皆へ次の指示を出した。

 

 

 

『皆、敵の攻撃は私が見張るから其々の役目に集中して!』

 

 

 

「「「了解!」」」

 

 

 

私からの指示に、一斉に応えてくれる仲間達。

 

要は、良恵ちゃんが抱いた“不安”に対しては車長の私が“責任を持つ!”と宣言する事で不安を払拭した形になる…勿論、相手の砲弾は其れとは関係無しに飛んで来るが、私だって黙って撃破されるつもりは無い。

 

“例え百発飛んで来ても全部躱してやる!”と、決意を新たに目前の丘を登り始めた時。

 

 

 

『私…西住隊長の為なら何でも出来るもん♡』

 

 

 

「はいはい。隊長に惚気るのもその辺にしなさい」

 

 

 

無意識の内に、頬を少し赤く染めつつ呟いた私の独り言を車内無線で聞いた瑞希が、憮然とした口調で返事をする。

其れを聞いた私は、直ぐ気持ちを切り替えると新たな指示を出した。

 

 

 

『じゃあ良恵ちゃん、此れから私達が“あんこう”を援護すると、メールで隊長に伝えて!』

 

 

 

「了解!」

 

 

 

こうして“ニワトリさんチーム”の皆が私の指示に従って其々の役目を果たそうとしてる中、私は心の中でこの任務に立ちはだかる相手に思いを馳せていた。

 

 

 

「サンダースはフラッグ車を守る為に此方を潰しに来る筈。相手は多分、ファイアフライともう1輌……」

 

 

 

 

 

 

一方、大洗女子を追撃しているサンダース大付属本隊も“あんこうチーム”と“ニワトリさんチーム”の動きを見過すつもりは無かった。

 

本隊を率いる隊長のケイが、即座にフラッグ車(M4A1)車長兼副隊長のアリサへ警告を送る。

 

 

 

「上から来るよ、アリサ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

その無線を受信して思わず身構えるアリサ。

 

更にケイは、フラッグ車を狙う2輌を迎撃すべく、頼りになるもう一人の副隊長(ナオミ)と原園 嵐を追う一年生の戦車長(時雨)に指示を出した。

 

 

 

「ナオミ、“シーズー”。頼んだわよ!」

 

 

 

「「Yes,ma'am(イエス・マム)!」」

 

 

 

隊長からの指示に即座に答えるナオミと時雨(シーズー)

 

 

 

ナオミは“シャーマン・ファイアフライVC”の砲手席で、時雨も車長を務める“M4シャーマン”の車内で其々表情を引き締めると、其々が目の前で丘を登って行く敵戦車(ナオミは“あんこうチーム(Ⅳ号戦車D型)”、時雨は“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”)を追撃するべく其々の乗員へ指示を出すのであった。

 

 

 

(第40話、終わり)

 




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
最後に、以下のお知らせを必ずお読み下さい。

【重大なお知らせ】
諸事情により、本作の公開方法を今回より『お気に入りユーザー登録限定公開』へ変更させて頂きます。
現在、本作をご覧になられている方は直ちに「お気に入りユーザー登録」をお願い致します。
急なお知らせで申し訳御座いませんが、どうか宜しくお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。