戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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2021年の正月三が日に、地元TV局が“水曜どうでしょう2020”を全話放送と言う暴挙(誉め言葉)をやってくれたんですが…何で、アイルランドへ行ってロンドンへレンタカーを返しに行くだけの話があんなに面白いんですかねー(笑)。
あと、ラストでアビーロードを行くどうでしょう班を見て映画「けいおん!」を思い出したのは秘密です(爆)。

それでは今回も手前味噌ですが、どうぞ。


第45話「取材です!!」

 

 

 

みほ達“あんこうチーム”のメンバーと“ニワトリさんチーム”のリーダー・原園 嵐、そして嵐の母・明美が水戸市の総合病院に入院中の冷泉 麻子の祖母・久子を見舞いに行った後、学園艦へ帰った翌朝の事である。

 

西住 みほは何時もの様に、大洗女子学園を目指して登校中だったが、表情は冴えなかった。

 

昨日の久子のお見舞いの際、久子と原園 明美の口から「九年前の夏に麻子と嵐が大洗で出会っていた」事を知らされたみほは、自分との間に“母親と分かり合えなかった”と言う共通点が有る事に気付くと同時に、一年前に実家を出て大洗へ転校する原因となった母・しほとの口論を思い出していたのだ。

 

 

 

「貴女も“西住流の名を継ぐ者”なのよ?西住流は“何が有っても前へ進む”流派。強き事、勝つ事を尊ぶのが伝統」

 

 

 

あの時、母から第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦で自らが起こした“()()”によって母校・黒森峰女学園が大会十連覇を逃した事を叱責されていたみほは、以前から抱いていた母の考えに対する疑問をぶつけようとした。

 

しかし、母は自分の疑問に対して答えようとせず、“西住流の戦車道”を押し付けて来るだけだった。

 

更に母の隣には、此れ迄共に戦車道を歩んでいた姉・まほも居たが、彼女も冷たい表情でみほを見詰めており、其の事がみほに“戦車道との決別”を決意させたのである。

 

昨夜、其の事を思い出したみほは中々寝付く事が出来ない儘一晩を過ごした結果、眠気と不安を抱えながら学園目指して通学路を歩き続けていたが、此処でもう一つの“心配事”を思い出す。

 

 

 

「あっ…“お母さん”と言えば、昨晩明美さんから直之さんの話を聞いたけど」

 

 

 

みほが抱いている“もう一つの不安”とは、自分を慕っている後輩・原園 嵐と彼女の亡き父・原園 直之の過去である。

 

以前から嵐は母親の明美と(いが)み合っており、常々明美の事を『ロクデナシ』とか『信用出来ない』等と酷評していた。

 

そして、嵐は明美と出会うと時折プロレス技の掛け合いをするのだが、母の前に()()()()である。

 

其れは兎も角、みほは原園母娘の諍いを心配しており、“何とか仲直り出来ないかな?”と考えている中で、嵐の亡き父・直之の過去にも興味を抱いていたのだが…昨夜明美から直之との馴れ初め話を聞いた時、“何故嵐と明美との仲は悪いのか?”と質問した所、意味深な事を言われてしまった。

 

 

 

「あっ…御免。やっぱり嵐から直接聞かないと、みほさんは()()()()()()()()()()()()と思うわ」

 

 

 

其の一言が気になったみほは、歩きながら悩み続けている。

 

 

 

「如何言う事なんだろう?“原園さんから直接聞かないといけない”なんて…其れに“()()聞かないとキチンと受け止められない”って、何故明美さんはそんな事を言ったのかな?」

 

 

 

自分は嵐と明美の仲が悪い理由を聞いただけなのに、何故“あんな事”を言われたのか…思い当たる理由が浮かばない。

 

そんな事を考え続けながら、みほは「如何しよう…原園さんに直接聞くには如何したら良いのかな?原園さん、怒らないかな?」と、不安を募らせていていた時だった。

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

人の気配に気付いたみほが声を上げると、目前に見えるコンビニの交差点から彼女が心配している“赤毛の可愛い後輩”原園 嵐がやって来て、朝の挨拶をした。

 

 

 

『あっ…お早うございます』

 

 

 

だがみほは、嵐の挨拶を聞いてハッとなる。

 

何時もなら“元気一杯の笑顔”で挨拶をする筈の嵐が、今朝は沈んだ声でみほへ話し掛けるのが精一杯の状態だったのだ。

 

しかも嵐の顔は何時もの笑顔では無く、調子が悪いのか青い顔をしている。

 

 

 

「お早う…原園さん。顔色が悪いよ、大丈夫?」

 

 

 

みほが心配そうに嵐へ声を掛けると、嵐は済まなそうな声でこう答えた。

 

 

 

『えっと…大丈夫です。実は今朝、“凄く怖い夢”を見ちゃって』

 

 

 

「怖い夢?」

 

 

 

『ええ。実は、夢の中で戦車に……』

 

 

 

「戦車に?」

 

 

 

“怖い夢”“戦車”と聞いて、其の関わりに疑問を抱くみほ。

 

だがみほの問い掛けは、二人の後ろから聞こえて来た少女の声によって遮られた。

 

 

 

「みぽりん~」

 

 

 

「『あっ!』」

 

 

 

其の声に気付いたみほと嵐が後ろを振り返ると、其処には眠っている冷泉 麻子を負んぶしながら千鳥足で歩いて来た武部 沙織の姿が在った。

 

 

 

「お早う~」

 

 

 

「沙織さん!」

 

 

 

『武部先輩?』

 

 

 

寝言を呟きながら眠る麻子を背負う沙織が、重そうな声で挨拶するのを見たみほと嵐が心配そうに話し掛けると、沙織がしんどそうな声で答える。

 

 

 

「何とか……」

 

 

 

「大丈夫!?」

 

 

 

そんな沙織の姿を見たみほが心配そうに駆け寄ると、続いて駆け寄って来た嵐も沙織に向かって心配そうな声で話し掛けて来た。

 

 

 

『何とか、じゃないですよ、武部先輩…そんな風に負んぶしていたら腰を痛めちゃいますよ?』

 

 

 

そして嵐は、沙織が背負っていた麻子の肩を借りると『後は私に任せて下さい』と静かな声で沙織に告げた後、麻子を立たせつつ右肩で支えて歩かせようとする。

 

其処へみほも「私も手伝う、沙織さんは楽にしていて!」と話してから自ら麻子の左肩を支えて、彼女を歩かせる様にした所、二人に助けられた沙織が「みぽりんも“らんらん”も有難う!」と礼を言いつつ麻子を支え乍ら歩き出した二人の後に続いた。

 

こうして四人が学園の正門へ向かうと……

 

 

 

「“寝ながら登校”とは、良い御身分ね?」

 

 

 

学園の風委委員長・園 みどり子(そど子)が正門前で仁王立ちになっており、寝ながら登校した麻子を叱ったのだった。

 

ところが此処で、みほ達に支えられていた麻子が目を覚ますと、一言。

 

 

 

「おおっ、()()()…ちゃんと起きてるぞ~」

 

 

 

そして、麻子は寝惚けた儘千鳥足で歩くと、行き成り()()()に抱き着いて来た。

 

 

 

「ちょっと、()()()って呼ばないでって言ってるでしょ!」

 

 

 

()()()()()()♪」

 

 

 

抱き着かれた()()()は悲鳴を上げるが、麻子はそんな事はお構い無しに寝言を呟く。

 

其の姿を見たみほと沙織が微笑んでいると、彼女達の前に“ニワトリさんチーム”の瑞希・菫・舞の三人が並んでやって来た。

 

 

 

「「「お早う御座います!」」」

 

 

 

「「『お早う』」」

 

 

 

朝の挨拶をした瑞希達にみほ達も揃って挨拶を返すと、“ニワトリさんチーム”の装填手・二階堂 舞が元気な声で正門の奥に在る校舎を指差しながら、皆にこう呼び掛けた。

 

 

 

「其れより先輩方に嵐ちゃん、あれを見て!」

 

 

 

舞の声を聞いて校舎を見たみほは、思わず「あっ!」と感嘆の声を上げる。

 

 

 

其の校舎の壁には「祝・戦車道全国大会一回戦突破!」と大きく書かれた垂れ幕が掲げられており、更に奥の校舎からは「祝!戦車道」の幕を掲げた巨大な“戦車のバルーン”が浮かべられていて、登校中の生徒達が興味深そうに眺めていた。

 

 

 

「あっ、スゴーイ!私達注目の的になっちゃうかな?」

 

 

 

垂れ幕とバルーンを見た沙織が嬉しそうな声で皆に話し掛けると、瑞希が笑顔で返事をする。

 

 

 

「いや~っ、みなかみ町でも大会の一回戦勝っただけで、あんな垂れ幕は出ないですよ。凄いですね!」

 

 

 

すると……

 

 

 

「生徒会が勝手にやっただけだから…其れより冷泉さんを何とかしてよ!」

 

 

 

正門前で麻子に抱き着かれた儘困り果てている()()()が困惑した声を上げるが、其の姿を見たみほは苦笑するしかなかった…だが、隣の嵐に視線を向けたみほはハッとなる。

 

何時も笑顔が絶えない筈の嵐が、此の時だけは校舎から揚がっている戦車のバルーンを一瞬見ただけで、直ぐ沈んだ表情になると其の儘俯いてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

其の後、()()()に抱き着いていた麻子も含めて無事登校したみほと嵐達は其々の教室でホームルームを済ませた後、他の戦車道履修生と共に戦車格納庫前へ集まった。

 

今日は午前中戦車道の授業が有り、放課後も全国大会の二回戦へ向けた特訓がある為、戦車道チームの副隊長である河嶋 桃が皆へ訓辞を垂れていた。

 

 

 

「一回戦に勝ったからと言って、気を抜いてはいかん!次も絶対に勝ち抜くのだ、いいな“腰抜け共”!」

 

 

 

毅然とした態度で訓示を述べた桃に対して、先ず“アヒルさん(バレー部)チーム”が一斉に「はいっ!」と応えると、“ウサギさん(一年生)チーム”のツインテール娘・大野 あやが元気良く返事をする。

 

 

 

「頑張りまーす!」

 

 

 

続けて、“カバさん(歴女)チーム”のリーダー・カエサルが「“勝って兜の緒を締めよ”だーっ!」を気合を入れると、チームの残りのメンバー達が「オーっ!」を気勢を上げた。

 

其のノリに釣られて、“ウサギさん(一年生)チーム”の特撮好き操縦手・阪口 桂利奈も「エイエイオー!」と掛け声を挙げると、周囲からも気合の入った声が次々と上がり、場の雰囲気が盛り上がって来た。

 

そんな仲間達の雰囲気を見たみほが驚いて周囲を見回す中、五十鈴 華が「皆、凄いですね」と感心した声で語り掛けて来たので、みほは「うん」と答えていたが…此処で()()()()()だけが違う雰囲気になっている事に気付き、ふと呟く。

 

 

 

「あれっ、原園さん達?」

 

 

 

そう…“ニワトリさんチーム”のメンバーの内、未だ沈んだ表情をしている嵐を除く瑞希・菫・舞・良恵の四人が、何やら言いた気な表情で目の前に居る桃の顔を睨んでいたのだ。

 

其れに気付いたみほと華が心配気な顔で彼女達を見ていると、嵐に次ぐチームのサブリーダー格である砲手の野々坂 瑞希が、桃に向かって挑発的な発言をしたのである。

 

 

 

「あの…河嶋先輩。()()()()()()()()()()皆を“腰抜け”呼ばわりって、良い度胸ですね?」

 

 

 

「な…何だ、野々坂!それにお前達(ニワトリさんチーム)、何故私を睨んでいるんだ!?」

 

 

 

瑞希達に睨まれた桃は、聖グロとの親善試合で起きた“同士撃ち”の際に嵐から“ダメ人間!”と言われた事を思い出したのか狼狽した顔で言い返したが、瑞希は桃を睨んだ儘語り続ける。

 

 

 

「河嶋先輩、皆知っていますよ。一回戦でサンダースの追撃に遭って大ピンチになった時……」

 

 

 

と瑞希が語った直後、瑞希本人と菫・舞・良恵の四人が一斉にこう叫んだ。

 

 

 

「「「いや、もうダメだよ柚子ちゃ~ん!」」」

 

 

 

其の瞬間、集まっていた戦車道履修生の内、未だ沈んだ表情の儘の嵐を除く全員が爆笑するか、みほや華の様に呆気に取られた表情で、一回戦での()()をバラされた結果「ヒッ!」と短い悲鳴を上げつつ赤面している桃の姿を見詰めていた。

 

此れに対して醜態をバラされた当人は「な、何故其れをお前達が知っている!?」と絶叫したが、其処へ“ニワトリさんチーム”の副操縦手を勤める長沢 良恵が“してやったり”の表情でこう説明した。

 

 

 

「佐智子から聞きましたよ。何でもあの時、『河嶋先輩、何で真っ先に諦めるんですか…この“ダメ人間”!』って佐智子に言われたんですよね?」

 

 

 

此れで自らの醜態を暴露した張本人が、自分も所属する“カメさん(生徒会)チーム”の仲間で後輩の名取 佐智子だと知った桃は小声で「オイ名取…あの時の事を!」と、自分の傍らに居る佐智子を叱ったのだが…本人は澄まし顔で桃の怒声を聞き流し乍ら、桃の耳元で()()()()()()()()()()()でこう言ったのだ。

 

 

 

(良いんですか、河嶋先輩?“あの件(廃校)”を此処でバラしても?)

 

 

 

「何!?」

 

 

 

“生徒会の最重要機密(学園の廃校)をバラすぞ”と佐智子から脅された桃が驚愕の視線を会長と柚子へ向けると…二人共苦笑いを浮かべた儘だ。

 

そして先程まで自分を睨んでいた瑞希達四人も、今は一転して人の悪い笑みを向けている。

 

其の瞬間、桃は悟った。

 

 

 

(今の話、小山に会長迄承知していたのか!)

 

 

 

“今年の戦車道全国高校生大会で優勝出来なければ、大洗女子学園は廃校になる”と言うのが生徒会の最重要機密だが、実は“ニワトリさんチーム”のメンバーの内、長沢 良恵を除く“群馬みなかみタンカーズ”の卒業生四人は事前に其の事を知らされている…其れが彼女達を大洗女子学園の戦車道チームに加入させる条件だったからだ。

 

と言う事は…恐らく、佐智子が幼馴染の同級生である良恵を通じて瑞希達へ全国大会一回戦での自分の醜態を伝えたのは、会長の杏と副会長の柚子も了承済みだったと言う事だ。

 

勿論、良恵は此処迄の事情を知らされていないから単純に“自分()の醜態”を佐智子から教えられた上で瑞希達へ伝えただけだろう。

 

恐らく自分が敬愛する生徒会長は、普段の自分の態度と練習や試合での振る舞いのギャップに不満を抱いているかも知れない他の戦車道履修生を宥める為に、敢えて自分を()()にする事で皆の不満を笑いに変えようとしているのだ…会長なら其処迄考えてもおかしくない。

 

そんな事を思い浮かべた桃が驚愕している最中、“ニワトリさんチーム”の砲手である瑞希がにこやかな笑みを浮かべながら桃へ告げる。

 

 

 

「先輩として皆をちゃんと練習させたい気持ちは分かりますけれど、其の前に“先輩が()()を示して下さい”ね♪」

 

 

 

そんな彼女の“()()”に、皆も「うんうん♪」と頷いている中、桃は「グッ!」と唸ると、皆の前で項垂れるしか無いのであった。

 

だが、桃はこの時「何時もなら真っ先に私の事を()()筈の原園が、今は何故沈んだ表情の儘何も言わないのだ?」と心の中で訝しんだが、其の理由まで察する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

斯くして桃の話題で盛り上がった後、今度は生徒会長の角谷 杏が皆の前に出て来て「え~と皆、河嶋の事はこの辺で許してあげて」と皆へ告げると、皆が「は~い!」と返事をすると静かになる。

 

こうして場を仕切った角谷会長は、続けてこんな事を言い出した。

 

 

 

「で、此れから練習に入る前に()()()()があるから伝えて置くね…小山」

 

 

 

此処で会長の指名(呼び出し)に合わせて副会長の柚子が前に出ると、皆へ“今日のお知らせ”を告げたのである。

 

 

 

「はい。実は今日と明日、戦車道全国大会の特別後援社である“首都新聞社”の記者(ライター)の方が私達の取材を行います」

 

 

 

「「「おおっ!」」」

 

 

 

“自分達を取材する為に新聞記者がやって来る”と知り、一斉に盛り上がる履修生達。

 

其処へ角谷会長が苦笑いを浮かべながら、今回の取材に至る事情を説明する。

 

 

 

「実はね、其の記者さんは聖グロとの親善試合の時にも取材に来てくれたのだけど、其の時は時間が無かったから私達生徒会役員だけが取材に答えたんだ…でも、この間首都新聞社さんから“其れだけでは十分な取材にならないので、一回戦を突破したこのタイミングで改めてチームの皆さんの練習を取材したい”との申し出が有ってね。戦車道連盟からの要請も有って引き受ける事になったんだよ」

 

 

 

そして更に、桃が真面目な顔で一言付け加える。

 

 

 

「首都新聞は全国紙だから、今度の取材は二回戦の直前頃の朝刊に掲載されるそうだ。つまり私達の活動が全国に伝えられる事になる」

 

 

 

「「「おおっ!」」」

 

 

 

桃からの一言で“自分達が全国紙の朝刊に載る!”と知った履修生達のほぼ全員が歓声を上げた。

 

特に沙織の喜び様は尋常では無く「やった!全国紙に私が紹介されちゃう!」と口走っていると、華が「沙織さんが取材されるか如何か、未だ分からないのですよ?」と辛辣なツッコミを入れていたので、其の様子を見たみほは「アハハ……」と照れ隠しの様に苦笑いを浮かべている。

 

そんな中、優花里が「それで、記者さんはもう来られて居るのですか?」を期待を込めて生徒会役員達に質問すると、柚子が微笑みながら「じゃあ皆、静かにして下さ~い」と呼び掛けて、皆を落ち着かせてからゆっくりした口調で話し出した。

 

 

 

「と言う訳で…其れでは御紹介します。首都新聞社の“北條(ほうじょう) 青葉(あおば)”さんです!」

 

 

 

すると生徒会役員達の前に、薄いグレイッシュピンクの髪をポニーテールに纏めた若い女性が現れた。

 

キュロットスカートを履いた姿が印象的な其の女性は、履修生の前に立つと明るい声で皆に自己紹介をした。

 

 

 

「皆さんお早う御座います。首都新聞社の“戦車道担当・専属契約ライター”、北條 青葉です。今日と明日、皆さんの練習を中心にこの学校と皆さんのチームを取材しますので、宜しくお願いします!」

 

 

 

すると周囲から拍手と共に「あっ、若い!」「結構美人!」と好意的な歓声が上がったせいか、青葉はハニカミ乍らこう答える。

 

 

 

「えへっ、此れでも今年で27歳ですよ♪」

 

 

 

其の瞬間、再び周囲から「おおっ!」「お姉さん可愛い!」等と言ったどよめきが起こった。

 

そんな中、優花里が目を輝かせながら「あの、北條さんは戦車道が好きなのですか?」と質問すると、青葉は笑顔で返答する。

 

 

 

「小さい頃はそうでも無かったけど、仕事で自衛隊関連の取材をしている内に興味を持って…今では戦車道の取材がメインの仕事で、プライベートでも戦車が好きになりました」

 

 

 

其の答えを聞いて「わあ!」と、目を輝かせながら喜ぶ優花里。

 

続いて“ウサギさんチーム”のリーダー・澤 梓が「御出身は?」と問い掛けられた青葉は、一瞬複雑な表情をしたが、直ぐ笑顔に戻って返事をする。

 

 

 

「出身は広島県の…呉市。()()()()()()()()()()()()()()()()()()に在って、毎朝呉港と戦艦大和の生まれ故郷のドックが在った場所を見て育ったわ」

 

 

 

其の瞬間優花里が「戦艦大和のドックが在った場所を毎朝見ていたのですか!」と嬉しそうな声で返事をしたのを聞いた青葉は、苦笑しながらこう説明した。

 

 

 

「ドック自体は随分前に埋め立てられたけど、ドックを隠していた建物の屋根の部分が今も現役だからね」

 

 

 

「「「へぇー」」」

 

 

 

青葉の説明に皆が盛り上がる中、当人は笑顔を絶やさずに皆を見ていたが、直ぐに視線を角谷会長の方へ向ける。

 

すると会長も頷いたタイミングで、青葉は改めて皆へ説明をした。

 

 

 

「えーと、本当はもう少し皆さんとお話したいのですが、此れから練習の時間との事なので、この後私は皆さんの練習の様子を安全な場所から取材させて頂きます」

 

 

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

青葉からの説明に皆が元気良く返事をする中、青葉は視線を西住 みほへ向けると挨拶をする。

 

 

 

「其れと、初めまして。隊長の西住 みほさん」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

突然の挨拶にみほが戸惑っていると、青葉は再び笑顔を浮かべながらこう語る。

 

 

 

「実は西住さんには、明日の放課後に私の単独インタビューを受けて頂く予定を組んでいますので、宜しくお願いします」

 

 

 

そしてみほに向けて御辞儀をする青葉を見たみほは、突然の“お願い”に「ふえっ?」と声を上げつつ戸惑っていたが、此処で青葉が今回の“お願い”の事情を説明した。

 

 

 

「実はこのインタビュー、本当は聖グロとの親善試合の後に予定していたのだけど、()()()()から出来なくなってしまったの」

 

 

 

「ああ、私達が試合後の罰ゲームで“あんこう踊り”をやった所為(せい)で、インタビューの時間が無くなっちゃったんだよね♪」

 

 

 

青葉の説明に続いて、彼女の後ろに控えていた角谷会長が人の悪い笑みを見せながら補足説明をした所、青葉は困り顔で今回の取材の“裏事情”を語る。

 

 

 

「御蔭で、私の上司であるデスクの中村さんからは『今度はちゃんと西住隊長からインタビューを取って来い。取って来る迄社には帰って来るな!』と怒鳴られてしまって……」

 

 

 

青葉からの“告白”に履修生達から「あーっ……」と同情の声が上がる中、会長が明るい声で誤魔化しつつ皆へ指示を出した。

 

 

 

「じゃあ、此れから午前の戦車道の練習を始めるから、各チームは其々の戦車に乗り込んで演習場へ出発する準備を整えてね~♪」

 

 

 

会長からの指示に、「はーい!」と元気良く答えてから其々の愛車へ乗り込む準備を始める履修生達。

 

しかし、そんな中で原園 嵐だけは沈んだ表情の儘、トボトボと自分達の愛車・M4A3E8(イージーエイト)へ向かって歩いて行く。

 

其の姿を見た青葉は、心配そうな表情を浮かべるとみほに向けて問い掛けた。

 

 

 

「西住さん…あの娘、原園 嵐さんだよね?この間の試合とは全然違う様子だけど、何があったのかしら?」

 

 

 

「いえ…今朝から様子がおかしいのだけど、私にはちょっと分からないです」

 

 

 

「御免ね、変な事を訊いて…でも私、彼女が中学時代の時から知っているのだけど、あんなに沈んだ表情を見るのは初めてだから」

 

 

 

「はい。原園さんは“何時も明るい声で皆を励ます娘”だから、心配で……」

 

 

 

だが此処で、みほによる嵐の話を聞いた青葉が意外そうな声でみほに問い掛けた。

 

 

 

「えっ、皆を励ます?」

 

 

 

其の一言にみほは戸惑い乍ら「あっ…はい、そうですよ?」と答えたが、青葉は怪訝な表情を浮かべると、みほへこう語り出したのだ。

 

 

 

あの娘()、群馬みなかみタンカーズに居た頃は“一匹狼”で、野々坂さんやこの大会の一回戦で戦ったサンダースの原 時雨さんの様な“(ごく)親しいチームメイト以外の娘”とは余り親しくしていなかった筈よ?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

青葉の口から、意外な事を聞かされて戸惑うみほ。

 

だが青葉は、そんなみほの表情を見ながらもこう語る。

 

 

 

「ええ…だから彼女、“()()()()()()()随分変わったな”って思っていたのだけどね」

 

 

 

(えっ…其れって、大洗に来る前の原園さんは“今と違う”って事?)

 

 

 

青葉からの話を聞いて“自分が知らない原園 嵐の過去”の一端を知ったみほだったが、此れから練習を控えているので其れ以上の詮索は出来ず「済みません、練習が有るので失礼します」と青葉へ告げて其の場を立ち去るしか無かった。

 

 

 

(第45話、終わり)

 




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第45話をお送りしました。
前回、嵐の父・直之さんの過去話を聞く中で、謎めいた発言をした明美の言葉の真意が分からず悩むみほ。
そんな彼女の前に、何故か元気の無い姿で現れた嵐。
しかし、そんな状況下にも関わらず大洗女子学園に来客が。
其の正体は、今回の戦車道全国高校生大会の特別後援社である首都新聞社の契約ライター・北條 青葉。
気さくなお姉さんである青葉の登場に皆が盛り上がる中、戦車道の練習が始まりますが、嵐は何時もの元気が無い儘……
そんな時、みほは青葉の一言から嵐の嘗ての姿を知り、現在の姿とのギャップに疑問を抱くが……

そして次回、戦車道の練習で思わぬトラブルが彼女達を襲います。
一体何が起きたのか?

それでは、次回をお楽しみに。


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