戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
此の物語も漸く重要な局面に差し掛かって来ました。
今回は、此れ以上の前置き無しで行きます。
其れでは、どうぞ。
追記:毎回多数の誤字が有るのですが、今回は特に「原園 嵐」を「原園 青葉」と書き違える等の誤りが有りましたので、4月19日に誤字訂正をしております。
非常に恥ずかしい話ですが、毎回御指摘をして下さる方々には心から御礼申し上げます。
「如何しよう…原園さんが戦車道から逃げ出した真相を知るには、“本人から直接聞かないといけない”だなんて」
其の日の昼休み。
大洗女子学園・戦車道チーム隊長の西住 みほは、学生食堂へ通じる校舎内の廊下を歩き乍ら悩んでいた。
前々日と前日に原園 嵐と彼女の家族の過去の事で、原園 明美と刈谷 藤兵衛から聞かされた話が頭の中を駆け巡っており、如何すれば良いか分からなかったのである。
発端は、「嵐が
彼女は其の悩みを解く鍵として、嵐の父親であった原園 直之に関して知りたいと思っていた処、“あんこうチーム”の操縦手・冷泉 麻子の祖母で病院に入院中の久子を見舞いに行った帰りに学園の連絡船内で偶然、明美から直之との馴れ初め話を聞いたが、話題が「嵐と
「あっ…御免。此の話は、やっぱり嵐から
翌日、嵐が戦車道の練習中熱中症になって病院へ一時入院した後の放課後、みほは用事で戦車格納庫へ行った際、原園車輌整備・工場長の刈谷 藤兵衛と彼の部下・張本 夕子から直之や嵐の過去に関する話を聞いた。
更に藤兵衛からは、戦車道の事故で亡くなった直之の葬儀に参列した際に、初めて明美と出会って会社の工場長を引き受ける迄の
「“去年の秋に起きた出来事”
其の時、嵐を良く知る
「ああ。何故なら…みほちゃん、其の話は君にとって“
こうしてみほは、“嵐が
だが、普段は引っ込み思案のみほに取って、当事者から“聞き辛い事”を聞き出す事は容易では無い。
そして、“此の話を聞けば
此れに関して、みほは全く心当たりが無いだけに戸惑うばかりである。
「何故、二人共そんな話をしたのだろう…でも、こうなったら原園さんから直接聞くしか無い」
分からない以上は嵐に聞かねばならないが、一体どんな話なのか見当が付かない上、
言い知れぬ不安が、みほの心を覆っていた時だった。
「西住先輩、如何かしたのですか?」
「先輩、顔色が悪いですよ?」
突然二人の“後輩”から声を掛けられたみほは、驚き乍らも落ち着いた声で返事をした。
「あっ、澤さんに野々坂さん…御免。何でも無い」
尤も、みほの答える
何故なら、此の時みほから見て左側に居た“ウサギさんチーム”のリーダー・澤 梓が、不安気な声でみほに尋ねて来たからだ。
「西住先輩、嵐を見掛けませんでしたか? 実は午前の授業中『気分が悪い』と言って保健室へ行ったのですが、さっき保健室へ様子を見に行ったら居なくて。何時もは午前の授業が終わったら、必ず私達と一緒に御弁当を食べるのに、今日は何処にも居ないから心配で……」
続いて、梓の隣に居る“ニワトリさんチーム”の砲手・野々坂 瑞希も、少し沈んだ声で事情を説明した。
「其れで、澤さんは食堂に居た私達“ニワトリさんチーム”の所へ来たのですが、私達も嵐が何処へ行ったのかは知らなくて…其処で、私も澤さんと一緒に嵐を探す事にして、西住先輩から手掛かりが無いか聞こうと思いまして、此処迄来ました」
話し終えた後、不安な表情を浮かべている二人の後輩の姿を見たみほは、ふと“或る事”を思い出すと、二人に自らの考えを話した。
「若しかしたら…“戦車格納庫”へ行ったのかも?原園さん、時間が有ると何時も
実を言うと、みほは昼休みや放課後の時間に戦車格納庫に在る
すると、瑞希も納得した表情でこう語る。
「そう言えば、嵐は“みなかみタンカーズ”に居た時も、何か有ったら自分の戦車の点検や洗車を一人でやっていましたから、先輩の言う通りかも知れません」
其の言葉を聞いたみほも頷き乍ら、「実は、私も原園さんとお話をしたい事が有るから、一緒に戦車格納庫へ行ってみようか?」と二人に向かって問い掛けた処、瑞希は無言で頷き、梓も「はい、一緒に行きます」と答えた時、背後からもう一人の女性が話し掛けて来た。
「ああ、丁度良かった。西住さん、インタビューは今日の放課後に行う予定だけど、若し良ければ私と一緒に昼食を食べても良いかな?」
其の女性は、昨日から学園の戦車道チーム取材の為に滞在している首都新聞社の契約ライター・北條 青葉である。
彼女は笑顔で話し掛けて来たが、其の姿を見た瑞希が、嫌そうな声で青葉からの申し出を断ろうとした。
「北條さん、申し訳無いですが取材は……」
だが青葉は首を横に振ると、みほ達三人に向かってこう語る。
「大丈夫。私は何処かの“
同時に青葉は両手を広げて見せて、カメラも手帳も持っていない事を示そうとしたが、右手にお買い物用と思われるマイバッグを持っている事に気付いた瑞希が、彼女を睨み乍ら「何ですか、そのマイバッグは?」と詰問すると、青葉は申し訳無さそうな声で釈明した。
「あっ、バッグの中にはお弁当を入れているの…コンビニ弁当だけど」
そんな青葉の声を聞いた梓が申し訳無さそうな声で「あの、私達は今から原園さんを探しに行く
「原園さん? そう言えば彼女、今朝も会った時元気無かったから、私も心配していたの。若し良ければ、
青葉からの申し出を聞いた梓と瑞希は予想外の展開に驚いていたが、みほはその瞬間に曇っていた表情を一変させると、明るい声でこう答えた。
「はい、
すると青葉も笑顔で「有難う」と、みほに答えるのだった。
こうして、みほ達四人は戦車格納庫に辿り着くと中へ入った。
だが、格納庫に入ったみほは目の前に在る“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型の姿を見て、「二回戦…此の戦車で勝てるのかな?」と不安気な声で呟く。
其の姿を見た梓が「先輩……」と心配気な声で呟いた直後、彼女達の後ろから別の少女が声を掛けて来た。
「西住殿?」
「あっ、秋山さん!」
声の主が“あんこうチーム”の装填手・秋山 優花里だと気付いたみほがホッとした声で答えると、戦車格納庫へ入って来た優花里が「今日は、戦車と一緒に御弁当を食べようと思って」とみほに告げた時、今度は同じく“あんこうチーム”の通信手・武部 沙織と砲手の五十鈴 華が相次いで戦車格納庫の中へ入って来た。
「あっ、いたいた♪」
「教室にも食堂にも居ないから、きっと此処だと思って」
格納庫の中へ入って来た沙織と華がみほに話し掛けると、沙織がみほに向けて話の続きを語り出す。
「“みぽりん”、パン買って来たよ…って、澤ちゃんや“
「あら、皆さんも此処でお弁当ですか?」
「西住殿、何か有ったのですか?」
此処で、みほに話し掛けていた沙織と華、そして優花里が格納庫の中にみほと自分達の他にも人が居るのに気付いて驚いていたので、みほが其の理由を説明した。
「実は、澤さんと野々坂さんから“原園さんが午前中の授業を休んでから行方が分からない”と聞かされて、心配だから一緒に捜しに来たの」
「でも…新聞記者の北條さんもいらっしゃいますが?」
其の時、華が此の場に青葉が居る事に戸惑っていると、当の青葉がお辞儀をしてから事情を説明した。
「御邪魔しています。私も原園さんの事が心配で、西住さん達と御一緒しているのだけど良いかな?今はプライベートタイムなので、取材はしないから安心して」
其処へ、話を聞いた沙織が笑顔で「あっ、いいですよ。其れに取材も……」と調子の良い事を言い出したので、すかさず華が窘める。
「沙織さん、北條さんは
すると、沙織が苦笑いを浮かべ乍ら「いや華、流石に冗談だって……」と語ると、今度はみほに向かってこう告げた。
「其れより“みぽりん”。此れから皆で一緒にパンとお弁当を食べようと思ったのだけど、其れなら先に“
更に優花里も「そう言えば、原園殿はよく此処に置いて在る
「いや…一寸待ってくれ」
次の瞬間、みほ達の目の前に駐車している“あんこうチーム”のⅣ号戦車D型の砲塔部に在る車長用キューポラのハッチが開いたかと思うと、其処から“あんこうチーム”の操縦手・冷泉 麻子が眠そうな声で皆に話し掛けて来たのだ。
「あーっ、麻子!授業サボったの!?」
其の姿を見た沙織が大声で叫ぶが、麻子は眠たそうな声の儘「
此の様子を見ていた瑞希が「其れなら時間にも限りが有りますから、今直ぐ皆で嵐を捜しましょうか?」と皆に告げ、梓が「うん……」と、小声で瑞希に話し掛けた時。
「皆…実は、此処にもう一人“
突然、麻子が皆に向かって“
「「嵐!」」
「原園さん!」
『あ……』
梓と瑞希が揃って嵐の名を呼び、続いてみほも嵐に呼び掛けたが、当人は小声で何か喋ろうとしただけで、直ぐ黙り込んでしまう。
そんな嵐の姿からは、何時もの元気一杯な雰囲気は欠片も見られなかった。
こうして捜していた嵐が見付かった後、みほ達は全員でⅣ号戦車D型と隣に駐車している“ニワトリさんチーム”の
「
「凄い!“キャラ弁”じゃん!」
「食べるの勿体無いですね」
「あっ、其の御弁当見せて下さい!」
優花里が母・好子が作った“手作り弁当”のご飯の上に、海苔と薄切りのウインナーで“戦車の様な絵”を描いてある事について語ると、隣に居る沙織と華が羨ましそうな表情で感想を述べ、次いで隣に駐車している
すると、沙織が「一寸イイかな?」と優花里に告げてから彼女の“戦車キャラ弁”をスマホで撮影しているのを、瑞希と一緒に見ていた梓が「私にも撮らせて下さい!」と優花里に声を掛けて、自分もスマホを用意していると優花里が皆に話し掛けて来た。
「そう言えば皆さん、掲示板見ました?生徒会新聞の号外!」
其の言葉に、みほが少し恥ずかしそうな顔で「う…うん。凄かったね」と語る中、瑞希が憤懣遣る方無い表情で皆に向かってこんな事を語り掛けて来る。
「でも、あの記事に出ている河嶋先輩のコメントは
『……』
だが、瑞希から話を振られた嵐は、俯いた儘沙織から貰った菓子パンを見詰めるだけで、何一つ語ろうとはしなかった。
「うわっ、
そんな嵐の姿を見た瑞希が頭を抱えて嘆く中、優花里が皆の雰囲気を盛り上げようとしたのか大きな声で皆に語り掛ける。
「ですけど皆さん、サンダース大付属に勝ったんですから!」
其れに対して、みほは困った表情を浮かべて「“勝った”と言うより、“何とか勝てた”…って言う感じだけど」と優花里に答えたが、当の優花里は元気な声でこう力説するのだった。
「でも、勝利は勝利です!」
だが、みほは顔を俯かせると、皆に向かってこう呟いたのである。
「そう…だよね」
「「「?」」」
其の時、みほの表情が嵐と同じ位暗くなっているのに気付いた一同が心配気にみほを見詰める中、此の場に居る唯一の大人である青葉が「西住さん?」と話し掛けると、みほは沈んだ声で皆に向かって呟いた。
「勝たないと
其の言葉を聞いた青葉は、“
「そうですか?」
「えっ?」
優花里からの“思いも寄らぬ返答”にみほが戸惑っていると、再び優花里が明るい声でみほに語り掛ける。
「
其の言葉に沙織が呼応して「うん!」と答えると、今だ戸惑っているみほに向かって、優花里が此れ迄の大洗に於ける戦車道の日々を振り返り始めた。
「サンダース大付属との試合も、聖グロリアーナとの試合も、其れから練習も、戦車の整備も、練習帰りの寄り道も皆!」
「うんうん♪最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど、何か戦車に乗るの楽しくなった!」
続いて沙織も戦車道の日々が“楽しかった”と皆に語った時、二人の話を聞いたみほの表情も和らいで、落ち着いた声で此れ迄の日々を振り返った。
「そう言えば…私も“楽しい”って思った。前はずっと“勝たなきゃ”って思ってばっかりだったのに」
しかし、此処でみほは再び顔を俯かせると、沈んだ声でこう語る。
「だから負けた時に、戦車から逃げたくなって……」
だが其の時、優花里がみほに向かってこう告げたのだ。
「私、
「!」
考えてみれば当然だが、優花里は大洗女子学園で戦車道が復活する前から戦車と戦車道に詳しく、更にみほの事を慕っている以上、彼女が昨年の“第62回戦車道全国高校生大会・決勝戦”で起きた“事故”を知っているであろう事は、全国高校生大会抽選会の後に行った“戦車喫茶・ルクレール”での一件を見ているみほなら容易に想像出来た。
そして同時に、みほは
“私、原園さんが何故
そして、みほは勇気を奮い起こすと、優花里に向かってこう告げた。
「優花里さん…其れじゃあ去年の全国大会決勝戦で、私と黒森峰の仲間達に何が起きたのか、良く知っているよね?私、今からその事を皆に話そうと思う」
其れは、みほが初めて皆に告げる“告白”だった。
そしてみほは、
みほの“告白”は、決勝戦のTV中継を見ている優花里に状況を確かめ乍ら進んで行った。
一年前、母校の戦車道全国高校生大会十連覇が掛かった決勝戦で、黒森峰女学園・戦車道チームの副隊長を務めていたみほは、当時も黒森峰の隊長だった姉・まほの命令によって別動隊を率いて崖と川に挟まれた狭い道を進撃していた所、自分達の動きを察知していた対戦相手・プラウダ高校の待ち伏せを受けた。
其の結果、黒森峰別動隊の先頭を走っていたⅢ号戦車J型がプラウダ高校からの待ち伏せ攻撃で前方の進路を遮られた途端、停止しようとして横滑りしてしまい、其の儘前日からの大雨で増水していた川へ転落した所迄話が進むと、優花里が皆に向かってこう解説した。
「あの時、西住殿は“戦列を離れて
「でも、私の戦車は“フラッグ車”だったから、其の
其れに対して、みほが沈痛な表情で当時を思い返していた時、優花里がキッパリとした口調でこう断言した。
「私は、西住殿の判断は間違っていなかった、と思います!」
「?」
其の言葉を聞いたみほが戸惑っていると、優花里は微笑み乍らこう告げたのである。
「前にも言いましたけど、助けに来て貰った選手の人達は、西住殿に感謝していると思いますよ?」
其の言葉にみほも微笑み乍ら「秋山さん…有難う」と告げると、優花里は飛び上がりそうになる程驚くと両手で頭髪を掻き混ぜ乍ら「ハッ!ああっ、凄い!私、西住殿に“有難う”って言われちゃいました!」と一人悶えるのであった。
しかし、其処で我に返った優花里は“或る事”を思い出す。
「ハッ…でも二度目かな?偵察に行った時も言って貰えた様な?」
自らの記憶を探る様に呟いていた優花里に向かって麻子が「オッドボール軍曹」と囁くと、優花里は恥ずかし気な声で「ああっ、其れ言わないで下さいよ~!」と言い出したので、皆が和んでいると華が皆にこう語り掛けて来た。
「“戦車道の道は
すると、沙織も勢いの有る声で皆にこう語るのであった。
「そうそう!“私達が歩いた道が戦車道になる”んだよ!」
そして、勢い良く右手を突き上げると人差し指を戦車格納庫の屋根に向ける姿を見たみほ達は、一斉に格納庫の屋根を見詰めるのだった…その先に“希望”が有るのを信じるかの様に。
だが、そんな和やかな空気に水を差す重苦しい声が、格納庫の中に響いた。
「皆…私も秋山さんと同じく、あの時の西住さんの行動は“間違っていなかった”と思っているわ」
「「「?」」」
其の声に驚いたみほ達は、一斉に“声の主”に視線を向ける…首都新聞社の戦車道担当契約ライター・北條 青葉に。
すると、彼女は沈痛な表情を浮かべた儘語り始めた。
「実はね、私も“あの試合”…去年の第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦は現地で取材していたんだ。其れも“
「えっ!?其れって、若しかして!?」
其の時、青葉の言葉の
「秋山さんは分かったみたいだね…実は、
「「「えっ!?」」」
其の言葉に優花里だけでなくみほ達も驚いていると、青葉は再び重苦しい声で当時の状況を語り始めた。
「あの事故はね…みほさん達を救助する為に、静岡県浜松市に在る航空自衛隊・浜松救難隊から救難
先程みほが告白した“決勝戦での人命救助”に隠されていた事実を指摘した青葉は、一旦言葉を切ると更に詳しく説明する。
「空自の航空救難隊はね、警察や消防は勿論の事、自衛隊でも“他の部隊では救出不可能な”人命救助を行う場合に出動する事から、“救難最後の砦”と呼ばれる程のプロ集団なの…あの決勝戦で起きた事故は、“
みほによる“人命救助”が、実は想像以上の“大事故”によるものだったと知った“あんこうチーム”の仲間達と梓が絶句している中、優花里だけが不思議そうな表情を浮かべ乍ら青葉に質問を試みた。
「あの…其れで以前から気になっていたのですが。何故、あの時“会場に居た戦車道連盟や陸上自衛隊の車輛とヘリ”が救助に来れなかったのですか?」
「簡単な事よ…会場に居た連盟や陸自の装備では、
「「「!?」」」
優花里の質問に対して、青葉は即答すると、其の場に居た者達の内、嵐と瑞希、そしてみほ以外の全員が当惑の表情を浮かべているのを確かめてから、当時の詳しい状況について語り始めるのだった。
「あの日、会場の静岡県御殿場市に在る陸上自衛隊・東富士演習場の一帯は、前日から停滞していた低気圧の影響で大雨が降り続いていてね。でも決勝戦当日の朝になって、雨は一旦止んだから予定通りに試合が始まったのだけど、会場は富士山に程近い場所に在るから、試合開始から一時間も経たない内に天候が急変して…みほさんが率いた黒森峰の別動隊が、プラウダの待ち伏せに遭った時にはかなりの大雨が降っていたわ」
「確かに、あの時の状況は北條さんの仰る通りです」
青葉の説明を聞いた優花里が当時の状況を思い出し乍ら相槌を打つと、青葉は小さく頷いてから話を続けた。
「問題は、みほさんが川へ転落したⅢ号戦車J型の乗員5名を救助した
「「「!」」」
青葉の言葉に、みほが当時を思い出したのか唇を嚙み締め、他の仲間達も深刻な表情を浮かべ乍ら話を聞いて居ると、青葉は更にこう語った。
「実はⅢ号戦車の水没事故が起こった場所
「飛行機やヘリコプターは使えなかったんですか?」
其の時、梓が“救いを求める”様な声で青葉に問い掛けると、彼女は「澤さん、良い質問よ」と返事をしてから答えた。
「東富士演習場の近くに在る富士山の周辺はね、『山岳波』と呼ばれる“特殊な乱気流”が発生する事が有るから、迂闊に航空機で接近すると墜落事故を起こしてしまうのよ。尤も、“悪天候の日は『山岳波』が起こり
其の言葉の
青葉も、其の様子を確かめてから静かに話を続けた。
「しかも、試合会場で救難用に待機していた陸自のヘリコプターは古いUH-1Jで、悪天候下でも飛行出来る性能を持った気象レーダーが装備されていなかった*1。だから其の時初めて、大会本部は“みほさん達を救助する
「「「えっ!?」」」
青葉からの説明で、みほが仲間達を助けに行った状況が想像以上に厳しかった事を知って衝撃を受ける優花里達だったが、其処で青葉は表情を少し和らげると“みほ達が助け出された理由”について語り出した。
「でも其の時、会場に来賓として来ていた地元・静岡県の知事さんが大会本部に居た戦車道連盟の責任者にこう告げたの」
「私が“知事の権限”で自衛隊に災害派遣を要請します!浜松市の航空自衛隊浜松基地に、此の様な状況に打ってつけの部隊が居ます。“
「そして、“静岡県知事からの災害派遣要請”で浜松救難隊が出動した結果、川の氾濫に由る濁流に呑み込まれそうになっていたみほさん達は、間一髪で駆け付けた救難隊のヘ
みほの回想や優花里の説明では語られなかった“真実”を知る青葉からの“告白”。
其れは、みほの行動が自分自身をも危険に晒す行為だったと同時に、
其の“証言”に、みほ以外の“あんこうチーム”のメンバーや梓が圧倒される中、青葉は静かな声で“其の後”の話を語る。
「そして、私は後日此の件で浜松救難隊を取材した際に、みほさん達を救助した隊員から当時の事を聞いたのだけど、皆『あの時自分達が現場に駆け付ける前に、みほさんが
そして青葉は、沈んだ表情のみほに「だからみほさん、貴女はあの試合で
「北條さん……」
青葉からの思わぬ激励に、みほは涙が零れそうになるのを堪え乍ら笑顔を作ろうと必死だった。
だが、其処から青葉は皆に向かって忌まわし気な声で「だけどね、実はあの後黒森峰は……」と語り出した時だった。
「青葉さん…其処から先は、私が話します!」
其の時、原園 嵐が先程迄の俯いた表情からは想像出来ない程の大声で青葉の発言を遮った。
「原園さん、貴女顔色が悪いわよ?」
「いえ、此の話は…
「原園さん?」
自分の発言を遮られた青葉だが、相手である嵐の顔が真っ青になっているのを見て、彼女を気遣う言葉を掛けたものの嵐は其れに構わず話を続ける。
其の姿を見たみほが、一体何が始まるのかと不安になっていると、嵐は泣きそうな顔で皆に向かって語り始めるのだった。
「西住先輩…そして皆さん。私、実は去年の決勝戦、現地で観戦していたんです」
(第49話、終わり)
此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第49話をお送りしました。
今回、みほ殿が助けに行ったⅢ号戦車の水没事故に関して考えたのですが…此れについてはファンの間でも賛否両論がある為、本作ではみほ殿が助けに行った状況を原作より肉付けする必要が有ると判断しました。
個人的に、あの事故は原作アニメでは描写されていない部分で、より切迫した状況があったのではないかと考えており、今回は其の考えを反映して書いています。
其の中で考え付いたのが「救難最後の砦」と呼ばれる、航空自衛隊・航空救難団の登場。
しかも東富士演習場がある静岡県内には航空自衛隊浜松基地が在り、其処に航空救難団の浜松救難隊が在る為、今回登場させました。
因みに、ガルパンのシャーマン戦車大好きな某・プロデューサーは嘗て、此の航空救難団を取材した映像作品をレーザーディスクで販売した事が有り、更には航空救難団・小松救難隊(石川県小松市に在る航空自衛隊小松基地に所在)を舞台にしたアニメ作品を担当したり、月刊航空雑誌と隔月刊の飛行機模型雑誌に航空救難団に関する連載も書いたりしていますので、航空救難団はガルパン原作には登場していないものの全くの無縁でも無かったりします。
其れでは、次回をお楽しみに。