戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない 作:瀬戸の住人
地元は梅雨明けを迎えましたが…正直クソ暑くて死にそうであります。
其れは兎も角、今回は西住殿と明美さんがメインの話です。
何時もより長い話になりますが、どうぞ御覧下さい。
原園 嵐が西住 みほ達に“戦車道を辞めようとした理由”を告白すると共に、“皆と一緒に戦車道を楽しみたい“との願いを告げ、みほが其の願いを聞き届けた後、彼女へのインタビューを終えた北條 青葉が大洗女子学園・学園艦を離れて首都新聞社へ帰った翌日の事である。
此処は、大洗女子学園・生徒会室。
目立つ場所に『三十六計逃如(さんじゅうろっけいにげるにしかず)』と書かれた額縁が掛けられている此の部屋は、学園だけで無く学園艦内に在る街の行政をも担当する生徒会の中枢部である。
其の一角で、パソコンに情報入力をしている数人の生徒が会話を交わしていた。
「はあ…今の戦力で二回戦勝てるかな?」
「絶対勝たねばならんのだ!」
生徒会副会長・小山 柚子が溜め息を吐き乍ら、近日中に予定されている“戦車道全国高校生大会・二回戦”の見通しについて不安を吐露すると、彼女が使っている物よりも大きな机で執務をしている生徒会書記・河嶋 桃が柚子の不安を打ち消すかの様に鋭い声を浴びせたが、柚子は不安な表情の儘桃に向かって話し掛ける。
「二回戦は、アンツィオ高校だよ?」
其処へ、生徒会では“戦車道担当・副会長補佐官”の肩書を持ち、事実上“大洗女子学園戦車道チーム・マネージャー”を務めている農業科一年生・名取 佐智子が二人に向かって語る。
「アンツィオ高校は栃木県が本籍地の学校で、イタリア製の戦車ばかり持っている所です」
すると、生徒会長の角谷 杏がオフィスチェアに座った儘三人の居る場所迄やって来て、一言。
「“
角谷会長が、何時もの“軽く調子の良い口調”だが“相手校の伝統的な特徴”について的確な指摘をすると、桃が生真面目な表情で頷く。
更に、二人の顔を見た柚子も「調子に乗られると手強い相手です」と語り、生徒会三役の話を聞いて居た佐智子も真剣な表情で頷いた時。
「其の事だが…今年のアンツィオは“
「「!?」」
背後からの“突然の発言”に驚いた生徒会四人組だが、其の正体に気付くと視線を相手の方へ向ける。
其の発言者の正体は、自分達の学園の戦車道チームの支援者の一人・「周防ケミカル工業株式会社」社長・周防 長門だった。
更に彼女の隣には、もう一人の支援者で原園 嵐の母親でもある「株式会社原園車輌整備」社長・原園 明美の姿もあった。
如何やら二人共、暇を見付けて遊びに…否、戦車道履修生達の様子を見に来たらしい(笑)。
すると、生徒会の視線に気付いた長門が“今のアンツィオ高校の状況”について、更なる発言をした。
「今のアンツィオの隊長は中々の“
「其れ、“
長門の発言を聞いた佐智子が驚きの余り悲鳴を上げるが、其処へ明美が苦笑いを浮かべ乍らこう語った。
「まあ、
すると桃が「野々坂達は、アンツィオについて何か知っているのですか?」と問うと、明美は微笑み乍ら
「みなかみタンカーズが在る
其の説明を聞いて落ち着きを取り戻した柚子が「成程」と呟くと、桃が角谷会長へ自分の意見を述べた。
「会長、其れなら早速野々坂達から話を聞きましょう」
「そうだね」
ところが此処で突然、長門がこんな事を言い出した。
「いや、其の前にみほちゃんからチームの状況を聞かないのか?」
だが、長門の隣に居た明美がジト目で彼女を睨み乍らこうツッコむ。
「“
「ゲッ!」
明美のツッコミは“
「でも、長門さんの言い分も正論ですね。“孫子の兵法”にも“彼を知り己を知れば百戦危うからず”と言うじゃないですか?」
しかし、明美は笑い乍ら反論する。
「角谷さん、“
「オイ、“
明美の発言に対して血相を変えた長門が反論するが、明美は悪びれ無い態度でこう言ってのけた。
「如何だか?確か学園内で練習試合を公開した後、皆で御風呂に入って居た時にみほさんや一緒に居た武部さんも巻き込んだ“乳比べ”をやろうとして嵐と秋山さんに風呂桶でド突かれたのは、アンタでしょ?*1」
「ウッ……」
明美から以前やらかした“
「あ~明美さん。先ずは味方の状況を把握する為に西住ちゃんを呼びましょう。其れと長門さん、西住ちゃんに
「あ…うん」
会長からの“御願い”を聞いた長門が“神妙な顔”で頷く中、三人の会話の様子を眺めていた桃が呆れた表情で会長に声を掛ける。
「会長…ウチは何時から
だが桃による“ピント外れの皮肉”を聞かされた会長と長門が苦笑する中、明美・柚子・佐智子の三人は、偶然にも桃に向かって
「「いや、
…生徒会四人組と明美&長門のコンビは、今日も“平常運転”の様である。
そして、十分後。
此の日の戦車道の練習を終えた西住 みほが柚子と桃からの“呼び出し”を受けて生徒会長室に入ると、其処には執務机の椅子に座って干し芋を食べている角谷会長と、先程迄生徒会室に居た面々が揃っていた。
其処で、角谷会長がみほに問い掛ける。
「西住ちゃん、チームも良い感じに纏まって来たじゃないの?」
「あっ、はい」
「西住ちゃんの御蔭だよ~ありがとね♪」
みほが答えると、会長は笑顔で礼を述べた。
すると、みほは戸惑い乍らも「いえ、御礼を言いたいのは私の方で……」と語った後、両手を胸に当て乍ら語り続けた。
「最初は如何なるかと思いましたけど…でも私、“今迄とは違う戦車道”を知る事が出来ました」
其処へ桃が鋭い視線をみほへ向けつつ「其れは結構だが、次も絶対に勝つぞ」と“余計な一言”を告げた為、長門が桃を睨んでいるのに気付いた明美が「河嶋さん、余計なプレッシャーを掛けちゃダメよ?」と苦笑いを浮かべ乍ら桃に注意すると、角谷会長が皮肉気な声で「勝てるかね~?」とみほに問い掛けて来た。
其れに対して、みほは少し俯き加減になり乍ら答える。
「チームは纏まって来て、皆のやる気も高まっていますけど…正直、“今の戦車だけ”では」
其の言葉に明美と長門が互いに頷く中、右手を口元に当てて考え事をしていた桃が皆を代表する形で答える。
「ふむ…分かった。戦車の事は直ぐに解決は出来ないが、考えて置こう。西住、今日は時間も遅いから帰って良いぞ」
すると、角谷会長が頷いて無言の裡に“今日の結論が出た”と桃と柚子に伝えると、今度はみほに向かって「じゃあ西住ちゃん、明日の放課後も此処に来てくれるかな?」と告げた処、みほは「分かりました」と答えた直後、明美に向かってこう告げた。
「其れと、今日は明美さんに『御願い』が有ります」
「何?」
其の言葉に明美が笑顔で問い掛けると、みほは真剣な表情でこう述べるのだった。
「嵐ちゃんの事で“御話ししたい事”が有るので此の後、もう一度御会い出来ませんか?」
其の時、みほは明美の表情が一瞬引き締まったのに気付いたが、彼女は直ぐ笑顔に戻るとみほの頼みを快諾した。
「良いわよ。場所だけど…今日のみほさんは練習上がりだから、此の後艦内の大浴場で御風呂でしょ?良かったら、一緒に御風呂に入り乍らでも良いかしら?」
だが其処へ、長門が口を挟んで来る。
「みほちゃん、私も一緒では駄目か?」
みほは長門からの頼みに一瞬戸惑ったが、直ぐ頷くとこう答えた。
「あっ…長門さんが“如何しても”と言うなら大丈夫ですよ。其れでは失礼します」
そしてみほが会長達に一礼して生徒会長室を出た後、角谷会長は難しい表情で部屋の扉を見詰めている明美と長門に向かって心配気な声で問い掛けた。
「御二人共…如何かしました?」
すると、長門が不安気な声でこう語る。
「
「長門さん、其れって!?」
「其の話、会長や私達が明美さんから聞かされた“
長門の話を聞いた柚子と桃が揃って驚く中、佐智子が戸惑い乍ら問い掛ける。
「小山先輩に河嶋先輩、“
其の問い掛けを聞いた柚子と桃が揃って動揺する中、角谷会長が落ち着いた声で答えた。
「ああ、名取ちゃんは知らないから仕方無いね…実はね、私達生徒会は明美さんと初めて会った時に、西住ちゃんと原園ちゃんが“戦車道を辞めて
其の時、明美の表情から笑顔が消えて唇を嚙み締める表情に変わると、長門が真剣な表情で佐智子に向かってこう語り掛けた。
「だが、此の話は“残酷”だから心して聞いてくれ。其れと此の話は、当事者であるみほちゃんと嵐の二人以外には“他言無用”で頼む」
「はい…分かりました」
長門の説明を聞いた佐智子は、戸惑いつつも表情を引き締めてから頷いた。
其の後、佐智子は会長や明美と長門から“みほと嵐が大洗へ来た理由”…つまり、先日戦車格納庫でみほと嵐が行った“告白”とほぼ同じ内容の話を聞かされて、絶句する事となる。
其の日の夕刻。
学園艦内の大浴場で、みほと明美・長門の三人は並んで入浴していた。
彼女達が大浴場へ来た時、其処には三人の他に誰も居なかったが、みほは念の為に周囲を見廻して他の人が居ないか確かめてから入浴しようとした時、先に浴場へ入る明美の背中を見て“ハッ”とする。
彼女の背中の中央部に大きな傷跡が一つ有り、其れは僅かに右斜めの角度で一直線に走っていた。
「あっ、みほさん。“此の傷”に気付いちゃった?」
明美が振り返り乍ら、自分の背中を見て棒立ちになって居るみほに向かって笑顔で話し掛けると、みほは悲し気な声で答える。
「はい…最初の練習試合で嵐ちゃん達と一騎打ちをした後で入浴した時は明美さん、体にバスタオルを巻いていたから気付きませんでした」
すると明美は、笑顔の儘“背中の傷”について説明する。
「此の傷はね…中学一年の初夏に行われた“戦車道全国中学生大会”の一回戦に出場した時に起きた事故で出来たの」
其処で明美は一旦言葉を切ると、悲し気な表情で話を聞いて居るみほを気遣う様に語り続ける。
「試合中、味方の全戦車がフィールド内の川に架かる橋を渡る途中、相手チームから砲撃を受けて偶々橋桁に相手の砲弾が当たって橋が崩落してね。其の時私が車長をしていた戦車が橋の崩落に巻き込まれて川に転落して…私は其の時、乗っていた戦車の砲塔上に在るキューポラから上半身を出して指揮を執っていたから、其の儘戦車から投げ出されて川へ落ちて、其れから収容先の病院で目を覚ます迄の丸一日、意識不明だった」
「明美さん……」
中学一年の時、“命に係わる戦車道の事故”に遭遇した事実を語る明美の告白に、みほが泣きそうな顔で聞いて居る中、明美は笑顔の儘“其の後の話”を語った。
「で、後遺症は残らなかったんだけど、全治二か月の重傷で更に手術後のリハビリに一カ月程掛かったから、退院して中学に戻った時にはもう二学期が始まって居てね…入院中“此の儘戦車道を続けていても仲間達に追い付けない”って気付いていたから、色々考えた結果、戦車乗りから戦車整備士への道を目指す事にしたの。元々、私の親戚が自動車の解体屋を営んでいて、私は小さい頃から其の解体屋へ入り浸っては廃車になった車やバイクを弄るのが大好きだったから“此れなら
「明美さん…凄いです。戦車道で大怪我をしたのに“其れでも
明美の告白を聞いたみほは、彼女の戦車道に賭ける情熱を知って感嘆しつつも“明美と御話ししたい事”を思い出すと、明美と二人の話をじっと聞いて居た長門にだけ聞こえる程の小声で語り出した。
「明美さん。私、昨日戦車格納庫で嵐ちゃん達に“戦車道を辞めて大洗へ来た理由”を話しました」
みほは其処で一旦言葉を切り、明美と長門が小さく頷いたのを確かめてから話を続けた。
「そして嵐ちゃんからも“戦車道を辞めて大洗へ来た理由”を聞きました。他にはあんこうチームの皆と澤さん、野々坂さん、そして先日取材に来ていた北條さんも聞いて居ます」
其の時、みほの言葉を聞いた長門が「青葉も聞いて居たのか?」と問い掛け、明美は心配気な表情で「みほさん、まさか青葉さんは……」と問うと、みほは首を横に振って二人の質問に答える。
「いえ、青葉さんは私と嵐ちゃんの話を聞いた後“今の私には此の話を記事に書く事は出来ないし、外には一切出さない”と言っていました。其の代わり、“何時の日か、私と嵐ちゃんが自分の意志で此の事を語りたい時が来たら、其の時はスポーツライターとして協力する”と言ってくれました」
すると明美が安堵の表情で「青葉さんが“節度の有る人”で良かったわ」と答えると、長門も苦笑いを浮かべ乍ら「そりゃそうだ。
「はい。だからあの時、私と嵐ちゃんの話を聞いて居た人全員が“此の話は他言無用”とする約束をしています」
其の言葉に、明美と長門は安堵の溜め息を吐いた後、明美がみほを労る様に語り掛けて来た。
「そう…みほさんは、“嵐が大洗へ来た理由”を知ったのね」
明美の言葉に、みほは真剣な表情で頷くと、改めて明美に向かって語り出す。
「明美さん、一つ訊いても良いですか?」
「ええ…
明美が“来るべき時が来た”と言わんばかりの表情で僅かに視線を下へ向けた時、みほは“去年の戦車道全国大会決勝戦の事で
「明美さんの“戦車道”では、私の
「其れは!?」
其の時、みほの問いを聞いて衝撃を受けた長門が声を上げたが、明美は二人に向かって「大丈夫よ」と明言した後、こう語った。
「みほさん、
明美の言葉を聞いたみほがホッとした表情で「其れじゃあ……」と語ると、明美が苦笑しながらこんな“告白”をしたのだった。
「と言うか、貴女の
其の言葉を聞いたみほが「えっ!?」と驚いた次の瞬間、長門がこんな発言をする。
「私もだぞ」
だが此処で、明美が長門の発言を補足した。
「いや、
明美の発言に、長門があっけらかんとした声で「ああ、そうだが」と答えた為、驚いたみほは大声で「長門さんの御実家もですか!?」と叫んだ直後“話が他の人に聞こえてしまったかも知れない”と思い、慌てて大浴場の周囲を見渡したが、誰も居なかった…実は生徒会が気を利かせて、みほ達三人以外は入れない様、大浴場の出入り口に「貸し切り中」の表札を掛けていたのだ。
一方、慌てるみほの様子を見た明美は、頷き乍らこう話す。
「そうか、みほさんは大洗へ転校する迄の
其の言葉に、落ち着きを取り戻したみほが「はい」と答えると、長門は小さく頷き乍ら「しほから聞いていないのなら仕方無いか……」と語ると、みほへ事情を説明した。
長門によると、去年の戦車道全国大会決勝戦で黒森峰が十連覇を逃した直後に行われた“黒森峰女学園・OG総会”の席上で明美と長門はみほの行動を擁護したが、其の結果OG総会の出席者から不興を買い、其れ以降西住流だけで無く黒森峰女学園や同学園OG会とも絶縁状態が続いているのだ。
「そんな事が……」
自分やⅢ号戦車の乗員達だけで無く、“仲間達の命を救った行動”を擁護した明美と長門迄が
特に、明美と長門は自分の母であるしほと並んで“黒森峰戦車道の偉大なる先輩”と母校で長年称えられて来たにも関わらず、“みほの行動を擁護しただけ”で母校や同窓生にOG、そして西住流からも縁を切られたのだ。
其れは“西住流と黒森峰・戦車道チームの考え方は、
其処へ明美が“OG総会の内幕”を暴露する。
「みほさんには一寸辛い話になってしまうけれど…あのOG総会の時、西住流の関係者だけで無く黒森峰女学園やOG会の関係者の殆どが“
「えっ、そんな!?」
明美からの暴露話を聞いたみほが驚愕の余り絶句していると、今度は長門が其の後に起きた事を話した。
「其の様子を見た私も呆れ果てて、総会終了後に私の母…いや、
其の言葉を聞いたみほが「長門さんの“
「そうよ。“
だが、其処でみほが明美の発言内容を聞いて戸惑いの声を上げる。
「えっ…“
すると、長門がみほの疑問に答えた。
「ああ御免。私達は黒森峰女学園で初めて出会った時から、御互いを渾名で呼び合っているんだ。名付け親は明美でな、私を“ながもん”、しほは“しぽりん”、そして自分の事は“あけみっち”と呼んでいるんだ」
更に、明美も補足説明をする。
「因みに、私の渾名は小学3年に戦車道を始めてから中学校卒業迄の間、“一緒に戦車道をやっていた友達”が付けてくれたのよ…其の娘の名前は一寸
其の答えを聞いたみほは、頷き乍ら「そうだったんですか」と答えたが、直ぐ心配気な表情に変わると明美と長門に向かって再び問い掛ける。
「でも、何時も優しい日向小母さんが…
すると、長門が当時を思い出す様に、静かな声でこう答える。
「ああ…しかも
「そう…日向さんの御姉さんだけど “
「伊勢美小母さん迄……」
長門に続いて明美がみほに話し掛けると、みほは小さい頃から自分の事を可愛がってくれていた周防家の二人の姉妹・伊勢美と日向の面影を思い出して一言呟くと、自分達西住家と周防家の繋がりに思いを馳せていた。
明治時代の初め頃、当時は馬上鉄砲術と薙刀術の流派の家元だった西住家の当主が、中国地方に新たな道場を作る為に現在の山口県防府市を訪れた際、当時“周防屋”と言う屋号で油売りをしていた周防家の子女と出会った事が切っ掛けで周防家の当主と出会うと、二人は意気投合。
此れにより、西住家が中国地方の道場で使う油を“周防屋”から定期的に購入した事から両家の交流が始まった。
其の後、大正時代に西住流が戦車道を始めると、当時会社名を“周防石油”と変えていた周防家一族が戦車道に必要な大量の燃料を西住家へ手配した事で、両家は共に繁栄したのである。
こうして、約一世紀半の長きに亘り親密な関係に在った両家だが、去年の第62回戦車道全国高校生大会・決勝戦でのみほの行動を巡って深刻な対立を引き起こした結果、絶縁状態に陥っているのだ。
みほが、そんな事を考え乍ら不安を抱いていると、長門が先日起きた出来事を話してくれた。
「
「御免なさい…私、皆に心配ばかり掛けてしまって」
「心配無い、大丈夫だ。私もそうだが、周防家の女達は揃って心配性だからな」
長門の話に、みほは済まなそうな声で詫びたが、長門は笑顔でみほを励ますと明美も微笑み乍ら話し掛けた。
「そうそう。だからみほさん、貴女は一人じゃ無い。此の大洗女子の娘達だけじゃ無く私や私の会社の仲間達に長門達も味方に付いているから、もっと自信を持って良いのよ♪」
「あっ、有難う御座います!」
自分達の戦車道チームを物心両面で応援している二人の女性に励まされたみほは、二人を心配させまいと笑顔を見せ乍ら思い切り大きな声を上げて御礼を言ったのだが、此処で“明美に訊きたい事”を思い出すと、一度深呼吸してから明美に話し掛けた。
「そうだ…明美さん。実はもう一つ聞きたかった事が有るのですが?」
「何?」と明美が問い返したタイミングで、みほは
「あの、明美さんは嵐ちゃんと仲が悪いのは知っているのですが、其の…仲直りは出来ないのですか?」
すると、明美はバツの悪そうな表情を浮かべ乍ら“困った声”でこう答えた。
「う~ん、出来ない訳では無いけど、一寸難しいかな?」
「えっ?」
明美からの思わぬ返答の内容にみほが戸惑う中、明美はみほの質問に答えようとする。
「いや、実はね。私と嵐がギクシャクしているのは……」
「直之さんが死んだ後も二人で彼の
「はい!?」
突然明美の話に長門が割って入って来た上、其の内容が“予想外”だった為、驚いたみほが長門に向かって叫ぶと、明美が真っ赤な顔で怒鳴り出した。
「一寸“
だが長門は、不敵な表情を浮かべ乍ら明美に向かって「何時も私をおちょくっている仕返しだ」と言い返すと、みほに向かってこんな事を言ったのだ。
「みほちゃん。“
「えーっ!?」
“予想外の告白”に大声を上げるみほを見て、笑みを浮かべた長門は更に話を続けようとする。
「で、嵐が5歳の時に両親と一緒に戦車道をやると約束した時……」
「ストップ!其処から先は私が話すから!」
此処で、長門に“自分と
「もう…“
其処で漸く話の主導権を取り戻した明美は、深呼吸してから“自分と嵐の諍いの理由”を語り出した。
「でね、嵐が“戦車道をやる”と私と直之さんに約束した時、私は“自分だって直之さんと同じ位に嵐の事を愛しているんだよ!”と言う思いを、
此処でみほが「焦った?」と問い掛けると、明美は頷き乍ら話を続ける。
「うん。実は直之さんが亡くなった後、私は“工場を畳んで嵐の養育に専念するか、工場を続けて私と直之さんの夢である『此れから戦車道を目指す子供達が世界へ羽ばたく為に、自由に戦車道が出来る場所を日本の何処かに作る』を追い求めるべきか”で悩んでた…其の後、工場は刈谷さんが来てくれた事も在って続ける事が出来たから、私は工場経営の傍ら嵐に
「
明美の話の内容に“
「ええ。其れと同じ時期に私は、後に“群馬みなかみタンカーズ”として実現する事となる“地域密着型の戦車道ユースクラブチーム”の設立構想を抱いて、周囲に其の構想を説いたのだけど、周囲から“其の為には「勝てる戦車道」を子供達に教える為の
「!」
明美からの告白を聞いて衝撃を受けるみほ。
其れは、嵐からの告白で知った“幼い頃の自分が戦車道を始めようとした”切っ掛けとは真逆の話である事に気付いた為であった。
そして、明美の話は更に続いて行く。
「でも、嵐は其の考えに反発した…無理無いわ。御父さんが亡くなった直後に、其の死の原因になった戦車道をやれだなんて。でも当時の私は、そんな事を考える余裕さえ無かった」
此処で嵐からの告白を元に“話の先”を察したみほは明美に向かってこう問い掛けた。
「だから、其の話を聞いた野々坂さんを巻き込んで、嵐ちゃんを戦車道から逃げ出せない様にしたのですね?」
「うん。だから私、
みほの問い掛けに、明美が珍しく弱気な声で答えると、みほが彼女を労る様に声を掛ける。
「そうだったんですか…でも明美さんは、私の
其れに対して明美は、苦笑いを浮かべ乍ら頷くとこう語るのだった。
「ええ…でも私が其の“愚かさ”に気付いたのは去年の秋、みほさんの転校の事が“
「明美さん……」
明美の言葉の意味が“戦車道に対する母の願いと娘の想いが擦れ違っていた為に、取り返しの付かない結果を招いた”事で在ると知ったみほは、居たたまれない気持ちで明美に声を掛けると、彼女は自嘲気味にこう答えた。
「本当に、私は
其の時明美は、嵐が『
「いえ、気にしないで下さい。
「みほさん……」
みほの答えに対して明美が一言呟くと、“私は、みほさんとしほの仲を引き裂いてしまったのでは無いか?”と思い乍ら悲し気な表情を見せる中、長門は戸惑い気味に「みほちゃん…まさか、私達の事も嫌いになったのか?」と問い掛けたが、みほは再び首を横に振ると二人に向かってこう答えた。
「そうじゃ無いです。でも、嵐ちゃんが何故“明美さんの事を嫌っているのか”は分かりました」
「御免ね。我ながら
其れに対して明美が済まなそうな声で答えると、みほは小さく頷いた後 “
「でも、嵐ちゃんは私に『皆と一緒に戦車道を“楽しんで”も良いですか? そうすれば何時か必ず“
“
「私も…嵐ちゃんや皆と一緒に“
「!?」
みほの言葉に驚きの声を上げる明美。
其処へ長門が、普段の真剣な表情から一変して感極まった表情と声でみほに話し掛ける。
「みほちゃん、其の通りだと思うぞ。他の誰とも違う“
そんな長門の言葉に、明美も小さく頷いていた…其の目に涙が光るのをみほに気付かれない様に。
(第52話、終わり)
此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第52話をお送りしました。
今回は、嵐ちゃんの告白編の後日談です。
遂に、西住殿も“自分だけの戦車道”を見付けるべく動き出しました。
其の為に、西住殿は今回明美さんと御風呂で話をした訳ですが…そうしないと、今度は此の二人の間がギクシャクしてしまいますからね。
結果として、明美さんだけで無く長門さんからの共感も得られて、自分一人では無いと勇気付けられた本作の西住殿がどうなるか、嵐ちゃんと共に見守って頂ければと思います。
それと、今回はさり気無く今後の展開への伏線も入れています。
例えば、黒森峰のOG総会で起きた出来事…しほが言う“犠牲無くして、大きな勝利を得る事は出来ないのです”と言う考え方は、本作ではしほ個人だけで無く、西住流や黒森峰OGにも染み着いています。
当然、此の解釈は今後の物語の展開に影響すると思います。
次に、“群馬みなかみタンカーズとアンツィオ高校は隣県同士なので、様々な情報が入って来る”と言う点。
と言う事は、アンツィオ高校にも…?(意味深)
更に、明美の渾名“あけみっち”を付けた戦車道の友人の渾名が…?
まあ、此の伏線が明らかになるのはずっと後ですから、今は気にしなくても良いでしょう。
そして、次回は戦車格納庫での話になりますが…其の中で“ニワトリさんチーム”のメンバーの内の一人の“本性”が明らかに。
果たして、“本性”を顕わにするのは誰なのか!?
其れでは、次回をお楽しみに。