第63回戦車道全国高校生大会・第二回戦「アンツィオ高校(栃木県)対県立大洗女子学園(茨城県)」も佳境に入り、両校の本隊が其々フラッグ車と護衛が1輌ずつの状態で擦れ違ってからの砲撃戦に突入していた頃。
私・原園 嵐と“ニワトリさんチーム”の仲間達は、元・群馬みなかみタンカーズ隊長で、私と瑞希・菫・舞の仲間だった大姫 鳳姫…今はアンツィオで“マルゲリータ”のソウルネームを名乗る少女が駆るⅣ号戦車G後期型の前に苦戦を強いられていた。
『くっ…流石は“姫ちゃん”、隙が無い!』
“マルゲリータ”の巧みな戦い方の前に苛立つ私の声を聞いた副操縦手の良恵ちゃんが「あのⅣ号、周囲の林や高台の陰に上手く隠れて居て、中々姿を見せませんね」と語ると、操縦手の菫が「偶に姿を見せたと思ったら直ぐ撃って来る…此れじゃあ、攻め切れ無いよ!」と悲鳴を上げる。
此処で、砲手の瑞希が「“姫ちゃん”は地形を上手く使って時間を稼いでいるわね…此の儘だと決着が着かないわよ?」と“相手の目論見”について語ると、装填手の舞が「如何する嵐ちゃん?早く決着を着けないと西住隊長達が危ないんじゃあ?」と私に進言して来た。
確かに、二人の言う通りだ。
“マルゲリータ”は此方を徹底的にマークしつつも無理攻めはせず、此の場所に釘付けにしようと目論んでおり、“此の儘グズグズしていると時間を稼がれている間に、此方の本隊がアンツィオ高にやられてしまう”可能性が高い。
そう考えた私は苦い表情を浮かべつつ『仕方が無い。此処はリスクを冒してでも攻めに出るしか……』と呟いて“決断”を下そうとした時、私の通信用ヘッドホンに“思わぬ人物”の声が飛び込んで来た。
「此方“カバさん”。“ラングカイト”、聞こえるか!?」
『エルヴィン先輩!?』
同じ頃、マルゲリータは自らが乗るⅣ号戦車G後期型の車内で仲間達と語り合って居た。
「まさか、嵐と一対一になるとはね……」
自分が考えていた作戦とは異なる状況に陥った事を自嘲する、戦車長・マルゲリータ。
すると、砲手席から金髪のショートヘアーでボーイッシュな印象を与える小柄な少女が彼女を慰める。
「仕方無いよ。作戦が何時も上手く行くとは限らないから…ましてや今日は“あの”ペパロニ先輩がやらかしたし」
これに対して、マルゲリータは話し掛けて来た砲手へ「御免、リコ。私もペパロニ先輩が“地図も読めないバカ”だとは思っていたけど、まさか本当に“マカロニの数”を間違えるなんて思っても居なかったわ」と答えると、眼鏡を掛けたロングヘアーの通信手が冷静な声でこう語る。
「でも、一匹狼で有名な“みなかみの狂犬”がチームプレイをするなんて。此の目で見ても信じられ無いわ」
彼女の言葉に、マルゲリータも「クラエス、其の通りよ」と答えると、今度は栗毛のショートヘアーで黒いカチューシャを付けた操縦手が“自分達が遂行する筈だった作戦内容”について振り返った。
「本来なら、十字路で大洗女子が足止めされて居る時に、嵐が“マカロニ”に気付いた後、私達を捜しに十字路後方へ単独で突撃を始めたタイミングで、待ち伏せしていた私達のⅣ号と2輌のセモヴェンテM41が彼女の乗るイージーエイトを攻撃する作戦だったよね」
此処で、彼女の話を聞いていたマルゲリータが「うん、ヘンリエッタ」と返答した後、“実際の試合の状況”を振り返る。
「でも、まさか先頭の戦車が嵐のイージーエイトじゃ無くてM3中戦車リーだったとは…御蔭で、2輌のセモヴェンテM41はM3中戦車リーの追撃に回してしまった。今迄、嵐は他人の指図で動く事は一切無かったのに、何が有ったんだろう?」
其の時、今迄黙って話を聞いていた金髪ツインテールで褐色の肌を持つ装填手が「如何する?」と“次の作戦”について問い掛けた処、マルゲリータは頷き乍らこう答える。
「トリエラ、心配しないで。地形はこっちに有利だから上手く相手の攻撃を凌いで時間稼ぎをしよう。さっき、ドゥーチェから“本隊のセモヴェンテM41が救援に来る”って連絡が有ったし」
其の言葉に、トリエラとリコが頷いた時、ヘンリエッタが“外の異変”に気付いた。
「あれっ!?イージーエイトがこっちに正面を向けて来た!」
其の報告を聞いたマルゲリータは、車長用キューポラに備え付けられているペリスコープ越しに正面を見ると、嵐の乗るイージーエイトが此方とほぼ正対する位置に居る。
更に、イージーエイトの車長用キューポラから、彼女が“決意を秘めた表情”を浮かべて自分達の乗るⅣ号戦車G後期型を見据えている事に気付いたマルゲリータは“或る確信”を抱くと、こう言い放った。
「そう、やっぱり1対1で決着を着けたいのね…嵐、喜んで相手をしてあげるわ!」
そして、彼女も車長用キューポラのハッチを開けて外へ顔を出すと、砲手のリコが「本隊のセモヴェンテM41が救援に来る前に、仕掛けても良いの?」と問い掛けた処、マルゲリータはこう答える。
「ええ。こっちと正対した位置に居るのは“相手も焦っている”証拠よ。なら、彼女の誘いに乗るのも悪く無いわ」
すると、通信手のトリエラが「要は戦いを長引かせて、本隊のセモヴェンテM41が救援に来たタイミングで“挟み撃ち”にする訳ね?」と問うと、マルゲリータは微笑み乍ら「其の通り!」と答えた後、皆に向けて気合の入った大声で号令を出した。
「じゃあ皆、前進!」
彼女の号令と共に、隠れていた林の中から前進を始めるアンツィオ高校・戦車道チームのⅣ号戦車G後期型。
そして、自分と同様に車長用キューポラから上半身を出している原園 嵐の表情を見詰め乍ら、マルゲリータは心の中で決意する。
「遂に“此の時”が来たわね…嵐、1対1では貴女の方が有利だと思っているでしょうけど、私もみなかみタンカーズで7年間貴女と一緒に戦車道をやって来たのよ。貴女の実力は分かっているわ…此処はしぶとく粘り抜いて、アンツィオに勝利を齎して見せる!」
実の処、みなかみタンカーズ時代のマルゲリータは“嵐との1対1の勝負”では正直勝てる自信は無かったが、其れでも“負けない戦いをして時間を稼げば、其の間にドゥーチェ達が大洗女子のフラッグ車を撃破して試合に勝ってくれる”と確信していた…要するに“此の場に嵐の乗るイージーエイトを釘付けにすれば良い”と思っていたのである。
だが…そう考えていた事が彼女達に取って“命取り”だったのかも知れない。
“決意表明”をした直後、周囲を一瞬だけ見渡したマルゲリータは右側面に“強烈な違和感”を感じて、視線を止めた。
そして、其の先に“見えた物の正体”を確かめた彼女は絶叫する。
「えっ、アレは“Ⅲ突の砲口”…しまった!?」
林の中から出て来て、ほんの一瞬だが遮蔽物が無い状態で前進していたマルゲリータのⅣ号戦車G後期型の右側面を…周囲の茂みの中に隠れて待ち伏せて居た“大洗女子のⅢ号突撃砲F型”が狙っていたのである!
そして、次の瞬間…非情にも“Ⅲ突の砲口”からマズルフラッシュが煌めくと、“マルゲリータ”のⅣ号戦車G後期型右側面に激しい衝撃が襲い掛かった!
私が“姫ちゃん”との戦いで取った戦法…其れは“騙し討ち”だった。
戦いが膠着状況に陥った時、西住隊長の指示で私達の救援に来てくれた“カバさんチーム”を利用して即興で思い付いた此の戦法は、以下の通りだ。
“姫ちゃん”のⅣ号戦車G後期型の前に、私達のイージーエイトが囮として現れて『一騎討ちをする』振りをする事により、“姫ちゃん”のⅣ号戦車G後期型を近くの茂みの中に隠れた“カバさんチーム”のキルゾーンに誘い込んだ後、“カバさんチーム”がⅣ号の側面を狙撃する。
其の結果、“アンツィオ高校・真の秘密兵器”だった“姫ちゃん”のⅣ号戦車G後期型は、“カバさんチーム”の75㎜砲弾が右側面後部のエンジンルーム付近に命中した為、エンジンルームから白煙を噴き上げて停止後、砲塔から白旗が揚がった。
そして、砲塔の車長用キューポラから“姫ちゃん”が顔を伏せて蹲って居るのを見た私は、思わず目を伏せると心の中で彼女に向けて懺悔をした。
『御免、“姫ちゃん”…でも私達、此の大会を勝ち進まなければならないんだ』
そう…私達・大洗女子学園は此の戦車道全国高校生大会を勝ち進まないと、来春の廃校が決まってしまう。
だから母校の廃校を阻止する為、そして、御父さんの故郷である大洗女子学園・学園艦を守る為にも打てる手は全て打って置かねばならなかった。
例え“騙し討ち”の様な作戦で有ろうとも…と思って居た時。
「“ラングカイト”、大丈夫だったか?西住隊長も心配していたぞ!」
『エルヴィン先輩、有難う御座いました。私達だけでは倒せ無かったです!』
救援に駆け付けてくれただけで無く、“マルゲリータ”のⅣ号戦車G後期型迄撃破してくれた“カバさんチーム”車長・エルヴィン先輩に呼び掛けられた私は心の底から感謝した処、エルヴィン先輩から「此方こそ、あのⅣ号長砲身を倒すチャンスをくれて有難う!」との返信の後、“新たな指示”が飛んで来る。
「其れと今、“あんこう”と“カメさん”がアンツィオのフラッグ車と戦闘中だ。直ぐ戻ろう!」
『了解…アッ!』
其の時、車長用キューポラから上半身を出した儘の状態でエルヴィン先輩へ返信をしようとした私の目前に、アンツィオのセモヴェンテM41突撃砲が突入して来たのだ。
「ああっ…よくも、マルゲリータ達を!」
此の時、アンチョビ隊長からの命令で現場に駆け付けたアンツィオ高戦車道チーム副隊長・“ひなちゃん”が車体ハッチの上から肉眼で見た物は…時既に遅く、被弾して白旗を揚げて居るマルゲリータのⅣ号戦車G後期型と、未だ健在の大洗女子・“ニワトリさんチーム”のM4A3E8の姿だった。
そして“ひなちゃん”は、M4A3E8の車長用キューポラから顔を出して居る“みなかみの狂犬”の姿を見て絶叫する。
「原園 嵐…覚悟!セモヴェンテ前進!」
一年生乍ら、チームではエース格の“マルゲリータ”の仇を討つべく、“ニワトリさんチーム”のM4A3E8に勝負を挑む“ひなちゃん”のセモヴェンテM41。
此の時、彼女のセモヴェンテM41は直前迄周囲の林の中に隠れて居たのが幸いして、スタートダッシュを決めた時点で大洗女子のM4A3E8の目前に迄迫る事が出来た。
其処から一気にM4A3E8の砲塔防盾を撃ち抜こうと、セモヴェンテM41の18口径75㎜砲から成形炸薬弾が発射される寸前、其の正面に大洗女子のⅢ号突撃砲F型が現れて、体当たりを仕掛けて来た!
辛うじてⅢ突からの体当たりを凌いだ“ひなちゃん”のセモヴェンテM41だったが…此の時、彼女はⅢ突の車体側面に描かれた“或るマーク”を見て驚愕の叫びを発する!
「あの“パーソナルマーク”…“たかちゃん”!?」
大洗女子のⅢ号突撃砲F型・車体側面に描かれた“御尻を見せているカバさん”のマークは、“ひなちゃん”の親友である“たかちゃん”がSNSのプロフィール画像に使っている物と同じデザインだったのである。
一方、“ニワトリさんチーム”の目前に突入して来たアンツィオのセモヴェンテM41を咄嗟の体当たりで止めた大洗女子・“カバさんチーム”の車内でも車長のエルヴィンが驚きの声を上げていた。
「あの娘は…おいカエサル、あのセモヴェンテには御前の幼馴染が乗っているぞ!」
エルヴィンは試合開始前に、カエサルが“ひなちゃん”と旧交を温めている姿を仲間達と一緒に見ていた為、セモヴェンテM41の車体ハッチから姿を見せていた“ひなちゃん”の顔を覚えていたのだ。
其の言葉を聞いたチームの装填手兼リーダー・カエサルも驚いたが、彼女は直ちに“今、自分達がやるべき事”を判断すると仲間達に向けて叫ぶ。
「何だって…今直ぐ、あのセモヴェンテM41を押さえろ!此処で原園達を殺らせる訳には行かない!」
『エルヴィン先輩!』
“カバさんチーム”との無線交信に気を取られていた隙を突かれて、アンツィオ高のセモヴェンテM41に至近距離迄の接近を許すと言う大ピンチを招いた私達“ニワトリさんチーム”だったが…気付いた時には“カバさんチーム”がセモヴェンテM41に体当たりを仕掛ける事で間合いを取った結果、私達は其の場から後進を掛ける事で、此のピンチから逃れる事が出来た。
だが、私達の為に“突撃砲同士の超接近戦”を挑んでいる“カバさんチーム”の姿を見た私は思わず無線で叫んだが、其の時エルヴィン先輩から“気合”の入った返信が飛び込む。
「行け、“ラングカイト”!あのセモヴェンテM41には、カエサルの幼馴染が乗っているんだ!」
『えっ!?』
エルヴィン先輩からの“報告”に、私が“試合開始前に旧交を温めていたカエサル先輩とひなちゃん”の姿を思い出して叫ぶ中、再びエルヴィン先輩は私に新たな指示を出した!
「其れと、リーダーのカエサルから伝言だ!『此処は私達に任せろ。“ラングカイト”は西住隊長の下へ行け!』」
其の時、私は“カエサル先輩とひなちゃんの友情”を心配していた余り、“自分達が試合の中でやるべき事”を忘れていた事に気付くと心の中で「歴女先輩の皆さん、済みません」と謝った後、無線でエルヴィン先輩へ“気合の入った返信”を送った。
『了解!』
こうして、“ニワトリさんチーム”が大洗女子・本隊を目指して転進した後、林の中では大洗女子・“カバさんチーム”対アンツィオの“ひなちゃん”副隊長が乗る“セモヴェンテM41”による「突撃砲同士による超接近戦」が繰り広げられる事になった。
アンツィオのセモヴェンテM41の車内では車長兼装填手の“ひなちゃん”が「向こうは側面は晒さない筈。正面なら防盾を狙って!」と“勝つ為の指示”を出すと、大洗女子・“カバさんチーム”の車内でもチームリーダー兼装填手を務めるカエサルが「何処でも良いから当てろ!Ⅲ突の主砲なら何処でも抜ける!」と“Ⅲ突の火力の優位性”を活かした“勝つ為の指示”を出して、凄まじいドッグファイトを展開する。
此の“熱戦”に、首都テレビの実況席も注目した。
「解説の吉山 和則さん、あの2輌の突撃砲はまるで“二次元の空中戦”をやっているみたいですね!」
実況を担当する加登川 幸太アナウンサーが両車の戦いを“空中戦”に例えると、吉山も興奮気味の声で答える。
「加登川さん、非常に良い事を仰いますね!両者共クルクル回り乍ら相手の攻撃を上手く躱しつつ攻撃しようとしていますから、戦闘機同士のドッグファイトを地上でやっているみたいです!」
すると、此の試合のゲストとして実況席に座って居る“346プロダクション”所属アイドル・渋谷 凛も興奮を隠し切れ無い声で叫ぶ。
「あの“突撃砲同士のドッグファイト”も凄いけれど、両校の隊長兼フラッグ車同士の戦いも激しさを増しているから、どっちを見れば良いのか分からないです!」
此れに対して、加登川アナウンサーも「そうですね!」と答えた後、更にテンションの高い声で視聴者に“試合の状況”を伝えるのだった。
「此の“突撃砲同士による二次元の空中戦”も見逃せませんが、ゲストの渋谷 凛さんも仰る通り、他の各戦車の動きも激しくなって来ました!今、試合の流れは大洗女子学園に傾きつつありますが、アンツィオ高校も此処が踏ん張り処です!」
一方、此方はアンツィオ高の“ひなちゃん”が乗るセモヴェンテM41の相手を“カバさんチーム”に任せて、一旦街道に戻った私達“ニワトリさんチーム”。
其の車長用キューポラから上半身を出しつつ地図を見ていた私・原園 嵐は、西住隊長や他のチームの車長と無線交信して摑んだ各チームの位置関係を確認した上で、“次に取るべき行動”を決断した。
『皆、此処からだと2輌のセモヴェンテM41に追われている“ウサギさんチーム”が一番近いから、先ずは彼女達を救援した後、西住隊長の下へ行く!』
チームの仲間達へ“決断した内容”を告げると、砲手席に座る瑞希が気合の入った声で「さて、面白くなって来たわね!」と叫んだのを車内無線で聞いた私は車内へ入って車長用キューポラのハッチを閉めた後、再び皆へ向けて指示を出した。
『じゃあ捲るよ!皆、危ないからハッチを全部閉めて!』
其の時、私の指示を聞いた副操縦手の良恵ちゃんが不安気な声で「えっ…原園さん、一体何をする気ですか!?」と叫んだので、私は微笑み乍ら“此れからやる事”について答えた。
『今から街道横に在る高台へ登った後、林の中をショートカットして“ウサギさんチーム”を追っている2輌のセモヴェンテM41の直ぐ後方迄追い付くのよ♪菫、こう言うのをやりたかったでしょ?』
すると、操縦席でM4A3E8を操縦していた菫が歓喜の声を上げた。
「やった!私、“怪盗アルセーヌ・ルパンの子孫が欧州の小さな公国で黄色いフィアットNUOVA・500(チンクェチェント)に乗って大暴れするアニメ映画”を見た時から、“一度で良いから、あの林の中を駆け抜けたカーチェイスシーンの真似をしたい!”って思って居たんだ!」
そんな私と菫の掛け合いに対して、良恵ちゃんは真っ青な顔で「原園さんも菫ちゃんも止めてよ!いきなり林のド真ん中を突っ走るなんて!」と悲鳴を上げるが、此処で装填手の舞が「良恵ちゃん、早くハッチを閉めないと危ないよ♪」と声を掛けた為、彼女も「ひええ…!」と怯えつつ目の前に在る副操縦手用ハッチを閉めた後、私達のM4A3E8は街道横の高台を勢い良く登り切ると其の儘の勢いで林の中へ突っ込んだ。
そして、私は車長用キューポラ内部に在る覗き窓から外の様子を眺め乍らM4A3E8が林の中の立ち木に激突しない様に注意していると、1分足らずでM4A3E8は林を抜けて高台の平野部に出る。
すると…高台から2m程下の道を駆ける“御目当ての目標”が見えて来た!
『あっ、“ウサギさんチーム”とセモヴェンテM41・2輌を発見…“取ったー!”』
探していた“ウサギさんチーム”の姿を見た私が叫ぶと、菫が迷わずM4A3E8を高台の端…其れも高さが微妙に低くなっている所を選んでジャンプを決めて見せる。
御蔭でM4A3E8は大したショックも無く着地を決めて道路上に戻ると“ウサギさんチーム”を追うセモヴェンテM41・2輌の直ぐ後ろに着けた。
だが此処で、私は“前方の異変”に気付くと鋭い声で叫ぶ。
『前方、カルロ・ヴェローチェ4輌と“アヒルさんチーム”が直進中!』
此の声を聞いて、副操縦手席から前方を見ていた良恵ちゃんも“異変”に気付いて「危ない!」と叫ぶが…此処で操縦席に座る菫が「了解!」と叫んだ後、M4A3E8を少しだけ左側へ寄せる。
すると、私達“ニワトリさんチーム”が寸前迄居た場所をアンツィオ高校のカルロ・ヴェローチェ4輌が猛スピードで走り去り、続いて“アヒルさんチーム”が此れ又ハイペースで駆け抜けて行った。
「ふう…原園さん達って、何時もこんな試合ばかりやって来たんですか!?」
危うく正面衝突を回避した光景を見た良恵ちゃんが不安気な声で問い掛けると、菫が笑顔でこう答える。
「うん。こんなの何時もの事だよ♪」
其の答えを聞いた良恵ちゃんが震え声で「ひええ!?」と叫ぶ中、砲手席の瑞希が前方に居るアンツィオ高のセモヴェンテM41・2輌を照準器の中に捉えつつ、不敵な笑みを浮かべて一言。
「さあ…こっちの76.2㎜砲は、他の仲間達の砲弾とは一味違うわよ!」
だが、此処から瑞希が“ウサギさんチーム”を追っているアンツィオ高のセモヴェンテM41・2輌を狙い撃ちしようとした時。
「『あれ…逃げ出した?』」
私達の目の前を走っていたアンツィオ高のセモヴェンテM41・2輌が突然“ウサギさんチーム”を追うのを止めて、走っていた道から右方向に外れると其の儘道の右側に在る下り坂を降りて行ってしまった。
余りに突然の行動に、私と砲手の瑞希は戸惑っていたが、其の直後“あんこうチーム”から届いた“西住隊長からの無線交信”が此の謎を解いてくれた。
「P40が単独になりました。援軍が来る前に決着を着けます!」
『そうか!2輌のセモヴェンテM41は、フラッグ車のP40を救援に行ったんだ!』
理由が分かれば、何も言う事は無かった。
“恐らく、アンツィオ高のフラッグ車を護衛していたカルロ・ヴェローチェが撃破された為、慌てたアンチョビ隊長が生き残りの車輌を集めようとしているのだろう”と思った私は、さっき迄2輌のセモヴェンテM41に追われていた“ウサギさんチーム”のリーダー兼戦車長・澤 梓へ無線で呼び掛けた。
『梓、一緒にセモヴェンテM41・2輌を追撃しよう!』
当然、梓も大声で「了解!」と返答してくれた。
こうして私達“ニワトリさんチーム”と“ウサギさんチーム”はタッグを組んで、アンツィオ高のセモヴェンテM41・2輌を仕留めるべく追撃を開始した。
(第63話、終わり)