戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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此の処、しんど過ぎて死にそうであります……
と言う訳で、今回は準決勝開始直前。
何が起こるかは御楽しみ。
其れでは、どうぞ。



第69話「もう直ぐ、全国大会準決勝です!!」

 

 

 

此処は、“第63回戦車道高校生全国大会”準決勝・第二試合「青森県代表・プラウダ高校対茨城県代表・大洗女子学園」の試合会場内に在る、大洗女子学園・戦車道チームの待機場所。

 

 

 

間も無く、前回大会優勝校を相手に準決勝を迎えようとしているチームとは思えない()()()()()()()()()()()を目の当たりにした西住 みほ隊長や秋山 優花里先輩、そして私・原園 嵐と野々坂 瑞希(ののっち)が揃って苦笑いを浮かべて居た時、目の前に第二次世界大戦中のソ連軍を代表する多連装ロケット自走砲“BM-13・カチューシャ”がやって来た。

 

其れが停車すると、運転席から母娘(ははこ)程の背丈の差が有る二人の少女が降りて来る。

 

其の姿を見た“あんこうチーム”通信手・武部 沙織先輩が「誰?」とチームメイトの中で戦車道に詳しい西住隊長と装填手の秋山先輩へ問い掛けると西住隊長が「あれは…プラウダ高校の隊長と副隊長」と答え、続けて秋山先輩が二人の名前を告げた。

 

 

 

「“地吹雪のカチューシャ(チビのロリ隊長)”と“ブリザードのノンナ(長身巨乳の副隊長)”ですね」

 

 

 

すると私の隣に居た“ニワトリさんチーム”装填手・二階堂 舞が「カチューシャが“カチューシャ(BM-13)”に乗ってやって来た!?」“大ボケ”をカマした為、操縦手の萩岡 菫が呆れ声で「舞ちゃん、其処は“()()()”じゃ無いから!」とツッコむ破目になった。

 

だが此の直後、私達・大洗女子の戦車を見たカチューシャが突然「ウフフ…アハハ!」と笑い出すと傲慢な口調で私達を揶揄(からか)ったのだ。

 

 

 

「此のカチューシャを笑わせる為に、()()()()()を用意したのね!」

 

 

 

『彼奴…!』

 

 

 

挑発とも取れる彼女の発言を聞いた私は思わず両手で握り拳を作り乍ら怒りを堪えていたが、其処へ角谷会長と河嶋先輩が彼女の許へ赴くと角谷会長が「やあやあ。カチューシャ、宜しく。生徒会長の角谷だ」と挨拶をした。

 

しかし、彼女は自分よりも角谷会長の方が背が高い(但し、彼女は身長142㎝で、私達のチームの中では一番背が低い)のが気に入らなかったのか、挨拶に答えない儘「ノンナ!」と隣に居る“長身巨乳の副隊長”に呼び掛けた後、呆気に取られている角谷会長と河嶋先輩を余所に、ノンナに肩車をして貰ってから“上から目線”で、こう言い放ったのだ。

 

 

 

「貴女達はね、全てがカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」

 

 

 

其処へ河嶋先輩が呆れ声で「肩車してるじゃ無いか!」と指摘するが、其の途端カチューシャは彼女を睨み返すと……

 

 

 

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね、しゅくせ(粛清)ーしてやる!」

 

 

 

と口走った後、副隊長へ「行くわよ、ノンナ!」と告げてから肩車をされた儘其の場を離れようとした…ところが。

 

 

 

「あら、西住流の……」

 

 

 

西住隊長の姿に気付いたカチューシャが、彼女へ向けて呼び掛けたのだ。

 

 

 

いきなり呼ばれた西住隊長が不安気な声で「あっ……」と呟く中、カチューシャは追い討ちの言葉を投げ掛ける。

 

 

 

「去年は有難う♪貴女の御陰で、私達優勝出来たわ♪」

 

 

 

そう…昨年の“第62回戦車道高校生全国大会”決勝戦「プラウダ高校対黒森峰女学園」で増水した川の中へ落ちた黒森峰女学園のⅢ号戦車J型の乗員5名を救出する為、当時黒森峰戦車道チーム副隊長兼フラッグ車々長だった西住隊長が川へ飛び込んだ時、彼女が居なくなった為に動きを止めていた黒森峰戦車道チーム・フラッグ車“ティーガーⅠ型重戦車”を狙い撃ちする様命じたのが当時プラウダ高戦車道チームの隊長代理だったカチューシャであり、実際に黒森峰側フラッグ車(ティーガーⅠ型重戦車)を狙撃して黒森峰の十連覇を阻み、プラウダ高に勝利を(もたら)した人物が彼女の腹心・ノンナなのだ。

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

カチューシャから“傷口に塩を擦り込む”様な発言をされて傷付く西住隊長を余所に彼女は“トドメ”の一言を加えた。

 

 

 

「今年も宜しくね。家元(西住流)さん♪じゃーねー、ピロシキ♪」

 

 

 

其処へ副隊長・ノンナも「Дасвиданья(ダスビダーニャ)(また御会いしましょう)」と付け加えて、二人は立ち去って行く。

 

だが私は、不安気な表情を浮かべた西住先輩の横顔を目の当たりにした事で()()()に火が付いた。

 

 

 

『彼奴…私達の戦車を馬鹿にしただけじゃ無く、西住隊長迄侮辱するなんて許さない!』

 

 

 

此処で私の呟きを聞いた瑞希(ののっち)が「嵐、落ち着いて!」と小声で諫めるが…私はプラウダ高の二人を乗せて走り去る“BM-13・カチューシャ”の後ろ姿を見乍ら、瑞希(ののっち)にだけ聞こえる声で決意を語った。

 

 

 

『決めた。あのチビのロリ(カチューシャ)隊長、試合で絶対に泣かしてやる!』

 

 

 

すると瑞希(ののっち)は納得した表情を浮かべ乍ら「成程ね……」と呟いた後、不敵な表情を私に見せつつ、こんな事を言い出した。

 

 

 

「私もあのデカ乳副隊長(ノンナ)に思い知らせてやりたくなったわ!“胸部装甲の分厚さが戦車道では決定的な差にならない”と言う事を教えてやるわよ!」

 

 

 

『あ…そう』

 

 

 

彼女から予想の斜め上を行く決意(ヒンヌーコンプレックス)を聞かされた私は毒気を抜かれた思いで、鼻息荒い瑞希(ののっち)の顔を見詰めるのだった……

 

 

 

 

 

 

一方、此方は試合会場の外れで何時もの様に観戦して居る聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長・ダージリンと常に彼女に付き従う一年生のオレンジペコ。

 

此の寒さの中でも動じる事無く紅茶を飲んでいるダージリンにオレンジペコが心配気な声で問い掛ける。

 

 

 

「此の寒さ、プラウダより圧倒的に劣る車輌。此れで如何やって勝つ心算でしょう?」

 

 

 

だが此の問いに答えたのは、ダージリンでは無かった。

 

 

 

「と、()()なら思うよね。“マルゲリータ( 鳳姫 )”?」

 

 

 

「そうね、時雨。でも此の状況(一対多数の戦車戦)は嵐にとって“()()()()()()()()”よ

 

 

 

突然、聖グロの二人の後方から会話をしつつ現れたのは、昨年度迄“群馬みなかみタンカーズ”で、原園 嵐と共に戦車道に打ち込んでいた二人の“戦車乙女”。

 

原 時雨と“群馬みなかみタンカーズ”前隊長・“マルゲリータ(大姫 鳳姫)”だった。

 

因みに、時雨はサンダース大学付属高校、マルゲリータ( 鳳姫 )はアンツィオ高校の次世代エース候補であり、共に一年生乍ら母校の戦車道チームの隊長や隊員達からの信頼も篤い実力者同士である。

 

そんな“来訪者”の登場に慌てて「貴女達!?」と問うオレンジペコ。

 

だが呼ばれた二人は、彼女へ答える代わりに“意味深な表情”を浮かべ乍ら後ろを振り返る。

 

すると()()()()()()()がマントを羽織ったパンツァージャケット姿で現れた後、ダージリンへ向けて“挑発的な台詞”をぶつけて来た。

 

 

 

「フッ…だから、()()()()()()()()!」

 

 

 

ボンプル高校戦車道チーム隊長・ヤイカである。

 

そして彼女は会場に持ち込んだ椅子に座って紅茶を嗜むダージリンの傍に立つと、こう呟いた。

 

 

 

「ダージリン。こんな格言を知っている?“優れた戦車兵は優れた兵器に勝る”

 

 

 

其処でヤイカは一旦言葉を切ると自らが投げ掛けた“()()()()()”について述べる。

 

 

 

「例え、圧倒的に不利な状況下でも“真に優秀な戦車兵”が一人でも居れば、数の差を覆す事が可能よ…特に強襲戦車競技(タンカスロン)で鍛えられて来た()はね。そして大洗女子には公式戦車道と強襲戦車競技(タンカスロン)の世界で“みなかみの狂犬”と呼ばれて来た()が居る」

 

 

 

「…原園 嵐」

 

 

 

ヤイカからの“挑発めいた呟き”に対して、やや目を細めつつ彼女の呟きを聞いて居たダージリンが静かな声で“ヤイカが語った()()()()()()()()の名”を答えると、こう指摘する。

 

 

 

「でも、今のあの()からは嘗て“みなかみの狂犬”と呼ばれた程の獰猛さは感じないわ」

 

 

 

だが此処で、彼女の指摘に対して反論した()が居る…ヤイカでは無く、アンツィオ高校の次期エース候補・“マルゲリータ( 鳳姫 )”だ。

 

 

 

「いいえ、ダージリンさん。あの()の“本性(狂犬)”は消え去っていません。眠っているだけです」

 

 

 

其の指摘を聞いたオレンジペコが驚愕の声で「何ですって!?」と叫ぶ中、同じく話を聞いて居た時雨が問い掛ける。

 

 

 

マルゲリータ( 鳳姫 )…やはり、貴女は嵐が“西住さんに出会った事で変わった”とは思っていないの?」

 

 

 

其れに対して話を聞いて居たヤイカが微笑み乍ら、マルゲリータ( 鳳姫 )に向けて話を続ける様に小さく頷くと、彼女は軽く会釈をしてから“自分の考え”を語り出す。

 

 

 

「私は時雨が思う程、嵐が変わったとは思っていません。確かに西住さんと大洗女子の()達と言う“信じられる仲間達”に出会えた事で、彼女は本当に“戦車道を楽しめる様になった”のかも知れない」

 

 

 

其処で彼女は一旦言葉を切った後、こう断言する。

 

 

 

「でも、其の仲間達に“()()”と言う名の()()が迫っているとしたら?」

 

 

 

其の一言に、オレンジペコと時雨が“ハッ”と表情を変え、ダージリンとヤイカが共に“意味深な表情”を浮かべつつ小さく頷くと、マルゲリータ( 鳳姫 )はこう語るのだった。

 

 

 

「ダージリンさん、ヤイカさん。恐らく大洗女子と隊長の西住さん、そして嵐にとって此のプラウダ戦が試金石になると思います…強大な力を誇るプラウダ高校の前に西住さん率いる大洗女子が窮地に立った時、嵐の中の“()()”が目覚めるのか否かで、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

其の頃、私達・大洗女子学園戦車道チームは待機場所で“準決勝開始前・最後の打ち合わせ”を行っていた。

 

先ず、西住隊長がチームの全員に指示を出す。

 

 

 

「兎に角、相手の車輌の数に飲まれないで、冷静に行動して下さい」

 

 

 

そして西住隊長は此の試合のフラッグ車を担当する“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”のメンバー達(バレー部)へ視線を移しつつ、更なる指示を出す。

 

 

 

「フラッグ車を守り乍らゆっくり前進して、先ずは相手の動きを見ましょう」

 

 

 

其処で私は敢えて挙手をして“此の試合の戦い方”について質問する。

 

 

 

『西住隊長。今回は此方がゆっくり動く事によって相手から先に手を出させて、調子に乗った相手の攻撃に隙が出来た処で此方の砲撃を集中させると言う作戦で宜しいのでしょうか?』

 

 

 

幾ら私がプラウダ高校隊長・カチューシャによる“西住隊長への侮辱”で怒りに燃えて居たとは言え、T-34/76&85やIS-2・KV-2と言う優秀なロシア製戦車を15輌持つプラウダ高校*1に対して、たったの7()()しか居ない私達・大洗女子がフラッグ車狙いの積極策を取ろうものなら“引いてからの反撃(カウンター攻撃)”が得意なプラウダによって返り討ちに遭う事位は充分承知していた…因みに瑞希の分析によると私は「怒れば怒る程冷静になる」タイプなのだそうだ。

 

なので、此方は“相手の挑発に乗らず、慎重かつゆっくりとしたペースで試合を進めてプラウダ側の焦りを誘う”作戦が良いと考えた私は西住先輩に其の考えが正しいのか如何かを確かめようと思ったのだ。

 

其れに対して西住隊長が「はい」と答えた時、“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”リーダー兼装填手・カエサル先輩が思わぬ事を言い出した。

 

 

 

「二人共、ゆっくりも良いが、此処は一気に攻めたら如何だろう?」

 

 

 

「『えっ?』」

 

 

 

思わぬ所から“恐れていた積極策”を進言するチームメイトの登場に驚く西住隊長と私を余所に“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”メンバーの左衛門佐・エルヴィン・おりょう先輩の順でカエサル先輩の主張を擁護する発言が相次ぐ。

 

 

 

「うむ」

 

 

 

「妙案だ」

 

 

 

「先手必勝ぜよ」

 

 

 

『ええっ!?』

 

 

 

前回大会の覇者・プラウダ高校の強さを知らない仲間達の発言に私は唖然となったが、其れに対して西住隊長は困惑気味の声乍らも「気持ちは分かりますが、リスクが……」と反論したのだが。

 

何と此処で、此の試合のフラッグ車を担当する“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”リーダー兼車長・磯辺 典子先輩が「大丈夫ですよ!」と西住隊長へ声を掛けると、チームメイトの佐々木 あけび・河西 忍・近藤 妙子の“バレー部一年生トリオ(嵐と同学年)”が次々に“威勢の良い事”を言い出したのだ。

 

 

 

「私もそう思います!」

 

 

 

「勢いは大事です!」

 

 

 

「是非、クイックアタックで!」

 

 

 

『ひええ!?』

 

 

 

個人的にも親しい“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”からの発言を聞かされた私は悲鳴を上げるが、其処へ“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)リーダー兼車長(嵐の恋人(笑))・澤 梓迄がこんな事を言い出したのだ。

 

 

 

「何だか、負ける気がしません!其れに敵は私達の事を舐めてます!」

 

 

 

『あ…梓迄!?』

 

 

 

彼女迄が“威勢の良い事”を言い出した為、私は放心状態に陥っていたが、此処で“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”メンバーの阪口 桂利奈・大野 あや・山郷 あゆみ・宇津木 優季(但し、丸山 紗季だけは何時もの様に無言の儘佇んでいる)が、梓に続いて次々に声を上げたのだ。

 

 

 

「ギャフンと言わせて遣りましょうよ!」

 

 

 

「ええ、良いね~ギャフン!」

 

 

 

「ギャフンだよね!」

 

 

 

「ギャフン~!」

 

 

 

『あああ……』

 

 

 

梓達“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”メンバー迄が“威勢の良い事”を言った為、私の頭がフリーズ状態になる中、“カメさんチーム(38(t)軽戦車B/C型)”車長兼()()・河嶋 桃先輩が“トドメ”となる発言をした。

 

 

 

「良しっ、其れで決まりだな!」

 

 

 

其れに対して同じチームの操縦手・小山 柚子先輩が「勢いも大切ですもんね」と河嶋先輩に話し掛けた事で、私の焦りはピークに達した。

 

 

 

『ああ…プラウダ高校は“()()”で勝てる様な相手じゃ無いのに!』

 

 

 

私がクラクラした頭で辛うじて一言呟くと隣に居た私の“相棒”・野々坂 瑞希(ののっち)が呆れ声で話し掛ける。

 

 

 

「あちゃ~。アンツィオ高との二回戦で快勝した“勢い”が、こんな事になろうとは…嵐、西住隊長も困っているみたいだから、一言声を掛けようよ」

 

 

 

瑞希からの言葉に『そうだ!?』と思い直した私は、頭をフル回転させつつ、仲間達からの積極策を聞かされて困惑している西住隊長へ向けて進言をした。

 

 

 

『西住隊長、此の儘では不味過ぎます。皆相手(プラウダ)を知らな過ぎるから、此処でちゃんとプラウダ高校の強さを説明した方が……』

 

 

 

ところが…此処で西住隊長が表情を一変させると凛とした表情で“予想外の決断”をしたのだ。

 

 

 

「分かりました。一気に攻めます!」

 

 

 

「『ええっ!?』」

 

 

 

まさかの“積極策への転換”に私だけで無く瑞希(ののっち)迄驚愕する中、西住隊長が車長を務める“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”装填手・秋山 優花里先輩からも「良いんですか!?」との声が上がり、続いて砲手を務める五十鈴 華先輩からも「慎重に行く作戦だったんじゃ……」と西住隊長へ話し掛けて来たが、隊長は仲間達へ向けて落ち着いた声でこう答える。

 

 

 

「長引けば雪上での戦いに慣れた向こうの方が有利かも知れないですし……」

 

 

 

そして西住隊長は此処で珍しく強気な表情を皆に見せると、こう言ったのだ。

 

 

 

「其れに、皆が勢いに乗って居るんだったら!」

 

 

 

「『ああっ!?』」

 

 

 

西住隊長迄が“プラウダ相手には無謀な筈の積極策”へ転換した事を知った私と瑞希(ののっち)が呆然となった時、追い討ちを掛ける様に角谷会長がこんな事を語った。

 

 

 

「孫子も言ってるしな。“兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久しきを見ず*2”。ダラダラ戦うのは国家国民の為に良くは無い、戦いはチャッチャと集中して遣る方が良いんだよ。ねっ、西住ちゃん」

 

 

 

其れに対して西住隊長は「はいっ!」と答えると、皆に向けて“最後の号令”を発した。

 

 

 

相手(プラウダ)は強敵ですが、頑張りましょう!」

 

 

 

「「「オーッ!」」」

 

 

 

…こうして本来“引いてからの反撃(カウンター攻撃)”が得意なプラウダ高相手に、よりにもよって戦車の数でも性能でも格段に劣る私達・大洗女子が“序盤からフラッグ車狙いの積極策”を取る事になってしまった事を知った私と瑞希(ののっち)は本気で頭を抱える破目になった。

 

 

 

『大変な事になっちゃった……』

 

 

 

「此れじゃあ、私達は“飛んで火に入る夏の虫”じゃない…試合会場は今、“冬”だけど。嵐、如何するの?」

 

 

 

『こっちが教えて欲しい位よ……』

 

 

 

だが、そんな私達の不安を余所に“準決勝・試合開始の号砲”が打ち鳴らされるのが、私の耳にも聞こえて来た……

 

 

 

 

 

 

一方、此方はプラウダ高校・戦車道チーム。

 

試合開始の号砲と共に、待機場所から一斉にチームの全戦車・15輌が出発して試合会場中心部に在る廃村を目指して勢い良く進撃する中、隊長車・T-34/85の砲塔キューポラから上半身を外へ出しているカチューシャ隊長が仲間達へ“気持ちを引き締める為の檄”を飛ばす。

 

 

 

「いい?彼奴(大洗)等にやられた車輌の乗員(クルー)は、全員“シベリア送り25ルーブル”よ!」

 

 

 

其れに対して、文字通りの“隊長の母親役”であるノンナ副隊長が「日の当たらない(シベリア)教室で、25日間の補習(ルーブル)って事ですね」と呟いて、隊長の“檄”の意味を解説する。

 

そんな中、カチューシャ隊長は此の試合に向けての“決意”を思い起こしていた。

 

 

 

此の試合の相手・大洗女子学園は自分達よりも保有戦車の数や質では格段に劣るが、其れでも“高校戦車道4強”の一角・長崎のサンダース大学付属高校と戦術面に長けた事で知られる栃木のアンツィオ高校に勝利している。

 

其れに対して自分達・プラウダ高校は昨年の優勝校であり、今年は連覇が掛かっていると言うのに、一回戦では福井県代表の“弱小高”・ボンプル高校相手に“フラッグ車を狙撃される”と言う“失態”を犯し、汚名返上を狙った二回戦では、岩手県代表で自分達と同じ東北の学校であるヴァイキング水産に勝ったものの試合終盤の攻撃でヴァイキング水産の選手2名を負傷させると言う“事件”を起こしてしまった。

 

其の結果、プラウダ高校は此の試合の独占配信権を持つ首都新聞と其の関連会社で全国高校生大会の独占実況中継を行っている首都テレビの報道で「彼女達に“王者”の資格は有りや?」との厳しい評価を受け、大会を見ている観客や実況中継の視聴者からは「今大会の悪役」と見做されてしまった。

 

最早、此の汚名を(そそ)いで連覇を目指すには「此の準決勝で“無名校・大洗女子に対して()()()()()()()()()()()()()()()()()」しか無い。

 

そうしなければ、母校・プラウダ高校は“汚れた王者”と言う不名誉なレッテルを貼られてしまうだろう。

 

 

 

母校の大会連覇の為には()()()()()()()()()()と言う状況に置かれている事を思い返したカチューシャは、心中で「今度こそ、誰にも文句の付け様が無い勝利を手にするわ!」と決意を新たにすると無線で指揮下の全戦車へ向けて“戦闘直前・最後の指示”を発した。

 

 

 

「行くわよ!敢えてフラッグ車だけ残して後は皆殲滅してやる!“西住流家元の(西住 みほ)娘”や“みなかみの狂犬(原園 嵐)”が居ようとも恐く無いわ!“力の違い”を見せつけてやるんだから!」

 

 

 

「「「Урааа(ウラーッ)*3」」」

 

 

 

カチューシャからの気合の入った指示に対して、チーム全員が彼女に勝るとも劣らない気迫の籠った大声での返事を聞いた彼女は勢い良くソビエト連邦時代の軍歌“カチューシャ”を唄い出した。

 

其の歌声に合わせて試合会場内を疾走中の戦車に乗って居るプラウダ高校戦車道チーム・メンバー全員も合唱する。

 

其の勇壮かつ可憐な少女達の歌声は、各戦車の無線を通じて首都テレビの中継本部でも傍受され、同局の撮影部隊が捉えた映像と共に試合会場や首都テレビの実況中継でも流された。

 

更に試合会場内のプラウダ側応援席では、プラウダ高校・応援団全員も目の前に有る大型モニターに映し出された母校・戦車道チームの映像に向かって“カチューシャ”を大合唱した為、試合会場内の観客や御茶の前で実況中継を見ていた視聴者は全員、プラウダ高校戦車道チームの団結力の強さと共に“プラウダ高校が前回大会の王者である”事を実感させられたのだった。

 

特に大洗女子学園側応援席では、チームの準決勝進出で之迄よりも多くの大洗女子学園生徒が応援に来ていたし、更に数多くの一般人も応援に駆け付けていたが、プラウダ側応援団の力強い合唱に圧倒されてしまっていた。

 

勿論、一回戦から大洗女子・戦車道チームの応援を続けて来て、今回はナイトゲームの為に両親の付添付きで試合会場へやって来た“大洗女子・中等部四人組”の五十鈴 華恋・武部 詩織・若狭 由良・鬼怒沢 光もプラウダ側の応援に圧倒されて「「「「凄い!」」」」と小声で呟くのが精一杯だったが、其の一方で一回戦のサンダース戦の時から彼女達と親しくなっている“若い社会人の女性*4”はキョトンとした声で「“カチューシャ(隊長)”が“カチューシャ(軍歌)”を歌ってる!?」“大ボケ”をカマした為、彼女の周囲に居た大洗女子学園の生徒・父兄達を唖然とさせていた。

 

 

 

其れは兎も角…こうして、大洗女子学園とプラウダ高校・そして此の準決勝を見ている全ての人達に取っての“長い夜”が始まった。

 

 

 

(第69話、終わり)

 

 

*1
高校戦車道のルールでは準決勝で投入出来る戦車の最大数は15輌である。

*2
孫子の兵法・第二章「作戦篇」の一説に出てくる言葉。

*3
ロシア語で「万歳!」を意味し、突撃時の喚声としても使われる。

*4
第42話「一回戦、決着です!!」と第60.5話「番外編~全国大会第二回戦・スタートです!!」を参照の事。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第69話をお送りしました。
試合開始直前のカチューシャによる“挑発”でショックを受けた西住殿を目の当たりにして闘争心に火が付いた嵐ちゃん。
しかし、肝心の仲間達はプラウダ相手に禁忌で在る積極策に打って出る事に……
一方、此処迄の二試合で“王者の資格有りや?”との疑問符を付けられてしまい、追い詰められたカチューシャは“圧倒的な試合内容で勝たねばならない”と言うプレッシャーに直面していた。
共に“不安要素”を抱えた儘試合に臨む両者ですが、果たしてどんな運命が待っているのか?

其れでは、次回をお楽しみに。

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