戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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如何もこの処、執筆ペースが落ちていて困っていますが、今回も何とか書き上がりましたので読んで頂けますと幸いです。
其れでは、どうぞ。


第70話「カチューシャの罠に落ちて行く、大洗女子学園です!!」

 

 

 

此処は“第63回戦車道全国高校生大会準決勝・第二試合「プラウダ高校(青森)対県立大洗女子学園(茨城)」”の試合会場内に在る針葉樹林の外れ。

 

其処で待機して居たプラウダ高校戦車道チームの主力部隊に此処から5km程先に在る丘へ偵察に出したT-34/85中戦車の戦車長から無線連絡が入る。

 

 

 

「此方“ラウラ*1”。敵は全車(7輌)北東方面に走行中。時速約20キロ」

 

 

 

彼女は此の近辺で一番見晴らしが良い丘の麓へ到着後、目立たない様に戦車から降りると砲手の“ファイーナ*2” を連れて丘の頂上へ登り、此処の下の雪原を進撃すると思われる大洗女子学園・戦車道チームの動きを探っていたのだ。

 

其の報告に対して副隊長・ノンナが素早く指示を出す。

 

 

 

「此方ノンナ、了解。“ラウラ”、“ファイーナ”と一緒に直ぐ戻れ。予定通り、今から行動を開始する」

 

 

 

其れに対して“ラウラ”が「了解。直ちに戻ります」と応答したのを聞いたノンナは彼女の傍で無線を聴き乍ら木製の小さな椅子に座って缶詰を食べていた隊長・カチューシャへ報告した。

 

 

 

「カチューシャ様、偵察班からの報告は以上です」

 

 

 

其れに対してカチューシャは缶詰の具を食べ乍ら、普段の愛くるしい表情からは想像出来ない“獰猛な目付き”を見せつつ、こう言い放つ。

 

 

 

「ふーん。大洗女子は一気に勝負に出る気?生意気な!」

 

 

 

そして、食べていた缶詰の具を一気に飲み込んでから「ノンナ!」と呼び掛けると彼女は何時も通りの冷静な声でこう進言した。

 

 

 

「分かっています…手筈通り、大洗女子を()()()()()へ誘い込みましょう」

 

 

 

其れに対してカチューシャは缶詰を食べた時に出来た口元の汚れをノンナに見せ乍ら、こう語る。

 

 

 

「本来なら3輌位は()として態と撃破させても良かったのだけど…大洗に“みなかみの狂犬( 原園 嵐 )”が居る以上、下手に囮作戦をやったら囮毎全車撃破されちゃうわ」

 

 

 

するとノンナは小さく頷き乍ら、こう告げる。

 

 

 

「其の通りです。なら()()()()()にして態と逃げましょう…“出来るだけ無様に逃げる”のです」

 

 

 

其れに対して、カチューシャは“我が意を得たり”とばかりに大きく頷くと、こう告げたのである。

 

 

 

「そうしましょう。“逃げるは恥だが役に立つ”って言葉もあるしね。じゃあ……」

 

 

 

続けてカチューシャが周囲に待機して居る全戦車の乗員へ向けて「出撃!」と叫ぼうとした時。

 

ノンナが「御待ち下さい」と告げた後、彼女は白いハンカチを取り出すと缶詰の具で汚れたカチューシャの口元を綺麗に拭き取った。

 

 

 

「ノンナ…有難う」

 

 

 

ノンナの心遣いにカチューシャが感謝の言葉を掛けると彼女は微笑み乍ら「いえ、此れ位は当然の事です」と答えてから、こう告げた。

 

 

 

「其れより、出撃の御命令を」

 

 

 

彼女の進言に“ハッ”と表情を変えたカチューシャは「そうだったわ!」と叫ぶと、表情を引き締めてから周囲に居るチームメンバーへ命令を下した。

 

 

 

「皆、準備はいい!?今から大洗女子の奴等を撃滅して、誰にも文句を言わせない形で決勝、そして連覇を果たすわ!じゃあ全車出撃!」

 

 

 

こうして、プラウダ高校・戦車道チームは全力で大洗女子を迎え撃つ事になった…“()()()()”を仕掛けた上で。

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第70話「カチューシャの罠に落ちて行く、大洗女子学園です!!」

 

 

 

 

 

 

其の頃、私達・大洗女子学園戦車道チームは準決勝の対戦相手であるプラウダ高校が“罠”を仕掛けているとも知らず、“フラッグ車狙いの短期決戦”を狙って試合会場中央部に在る雪原を前進していた。

 

途中、雪道の走行に不向きなフランス製・ルノーB1Bis重戦車に乗る“カモさん(風紀委員)チーム”操縦手・後藤 モヨ子(ゴモヨ)が斜面を正面から登ろうとして失敗した為、“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”操縦手・冷泉 麻子先輩が一時的に操縦を替わり“カモさんチーム(ルノーB1Bis)”リーダー兼戦車長の園 みどり子(ソド子)先輩から文句を言われ乍らも斜面を斜めに登って事無きを得たり、進撃中に現れた雪の壁を“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”砲手・五十鈴 華先輩が遅発信管をセットした榴弾で吹き飛ばす等、様々な障害を乗り越えて索敵を続けていた。

 

 

 

 

 

 

因みに…此れは試合後、五十鈴先輩の御実家の奉公人・新三郎さんから聞いた話なのだけど、先輩が砲撃で雪の壁を吹き飛ばした時、彼は応援席で拍手をし乍ら、一緒に応援に来ていた先輩の御母様である百合さんに「奥様!撃ったのは御嬢()ですよ!」と話し掛けた処、未だに(むすめ)が戦車道をやるのを善しとして居なかった彼女は悲し気な声で「花を活ける手で……」と嘆いた為、進三郎さんは「此処迄来たんですから、応援して差し上げて下さい」と告げた時。

 

 

 

「あれ?ひょっとして貴女は大洗女子の五十鈴 華選手の御母様ですか!?」

 

 

 

「初めまして!」

 

 

 

「私、一回戦のサンダース戦で相手フラッグ車の狙撃を決めた時から、娘さん()のファンになったんです!」

 

 

 

「今夜は折角一緒になったのだから、一緒に応援しましょう!」

 

 

 

何と二人の周囲に居た応援席の観客が“五十鈴先輩の御母様(百合)が近くに居る”事に気付いて次々に話し掛けて来た為、一寸したパニック状態になったのだ。

 

此の為、二人は“五十鈴先輩を含めた私達・大洗女子の人気の高さ”を知って「「ええっ!?」」と、声を上げて驚いたのだそうです。

 

 

 

 

 

 

一方、私達・大洗女子戦車道チームは着実に進撃を続け、特に“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”では75㎜砲々手・山郷 あゆみが車体側面のハッチから身を乗り出して何かを見ている…と思ったら、木の上を登っているリスの親子を見ていたのだった。

 

 

 

「ああ…梓達はリラックスしているなあ」

 

 

 

と呟くのは、私・原園 嵐である。

 

但し、“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”の車内ではリーダー兼戦車長の私と砲手・野々坂 瑞希(“ののっち”)、操縦手・萩岡 菫、装填手・二階堂 舞の4人から成る“群馬みなかみタンカーズ組”が皆、困惑気味の表情を浮かべて居た。

 

私達・大洗女子の作戦が昨年の大会覇者・プラウダ高校に通用するとは思えなかったからだ。

 

其処へ、一人の少女が声を掛ける。

 

 

 

「原園さん…皆、()()してるみたいですけど、一体如何したんですか?」

 

 

 

ニワトリさんチーム(M4A3E8)”副操縦手で、チームメンバー5人中唯一“群馬みなかみタンカーズ”出身者では無い少女・長沢 良恵ちゃんだ。

 

其処で、私はこう答える。

 

 

 

『良恵ちゃんも…此の“一気に決着を着ける”作戦が上手く行くと思っているの?』

 

 

 

「えっ!? 西住隊長も“一気に攻めます!”って言っていたじゃ無いですか!?」

 

 

 

私の答えに驚く良恵ちゃんに対して、今度は瑞希(ののっち)がキッパリとした声でこう告げる。

 

 

 

「あれはね、チームの皆が勝ち進んで来た“勢い”から調子に乗っちゃったので、西住隊長も止められなくなったのよ」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

其の発言に再び良恵ちゃんが驚いていると彼女の隣の操縦席に居る菫が呆れ声で、こう指摘した。

 

 

 

「そんな作戦、上手く行く筈が無いよ…抑々(そもそも)、プラウダはそう言う作戦をやる相手を自軍のキルゾーンへ誘い込んでからボコボコにするのが得意なんだから」

 

 

 

「そんな!?」

 

 

 

菫の発言に対して悲鳴を上げる良恵ちゃんだが、更に舞がこう告げる。

 

 

 

「だから、嵐ちゃんと“ののっち(瑞希)”は試合前の打ち合わせの時、西住隊長に“こっちはゆっくり動いて、焦った相手が先に手を出した所で彼女達の隙を突く作戦をやろう”って進言しようとして居たんだよ」

 

 

 

其れに対して、良恵ちゃんが震え声で……

 

 

 

「じゃあ、皆がやりたいと言っていた“積極策”は!?」

 

 

 

と問い掛けて来た処で、私はキッパリとした声でこう伝えた。

 

 

 

『去年の優勝校・プラウダ高相手では“自滅”も同然よ!』

 

 

 

「そんな!?」

 

 

 

私は良恵ちゃんが更なる悲鳴を上げるのを聞いた後、冷静な声でこう返したのだった。

 

 

 

『だから、そうならない様に今から無線で西住隊長と打ち合わせる』

 

 

 

 

 

 

『此方“ニワトリ(M4A3E8)”より“あんこう(Ⅳ号戦車F2型仕様)”へ。西住隊長、此の作戦について意見具申を願います』

 

 

 

「原園さん、如何かしましたか?」

 

 

 

私の無線交信に対して西住隊長が返信したのを確かめた私は、ハッキリとした声で問い掛ける。

 

 

 

『隊長、本当に“プラウダのフラッグ車を一気に叩ける”と思っているのですか?』

 

 

 

「其れは……」

 

 

 

私からの意見具申を聞いた西住隊長が口籠ったのを聞いた後、私は畳み掛ける様にこう告げる。

 

 

 

『プラウダは、こっちの思惑に乗って来る程()()では無い筈です。きっと、こちらを待ち受けているのでは無いでしょうか?』

 

 

 

「……」

 

 

 

無線から西住隊長が息を飲む声を聞いた私は“もう一押しだ”と思いつつ、更なる進言を続ける。

 

 

 

『勿論、今更積極策を放棄しろと言う心算は有りません。でも其れならせめて……』

 

 

 

と話していた時、西住隊長が“何かを決断した”らしく、急に私の進言の途中で話し掛けて来た。

 

 

 

「原園さん、其の事で貴女に頼みたい事が有ります…“もしも”の時の為に私達の後衛に付いてくれませんか?」

 

 

 

『隊長!やっぱり其の事を気にしていたんですね!』

 

 

 

西住隊長からの返信が“私が進言しようとしていた事”とほぼ同じ内容だった事に気付いた私は嬉しくなり、元気一杯の声で答えると隊長は続けて具体的な指示を出した。

 

 

 

「はい。今から“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”はプラウダが此方を待ち伏せいていた場合に備えて下さい。もしも待ち伏せが有ったら撤退援護を御願いします…あっ!

 

 

 

『隊長!?』

 

 

 

指示を出した直後、西住隊長が“何か”に気付いて驚きの声を上げたのを無線で聞いた私は、思わず隊長へ声を掛けたが、其の直後隊長が緊張した声で私達チームの全車へ警報を出した。

 

 

 

「11時に敵戦車・各車警戒!」

 

 

 

其れに従って直ちに警戒態勢を取る私達・大洗女子学園戦車道チーム。

 

勿論、私も“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”の直ぐ後方から前方の様子を双眼鏡で確認すると…前方に在る林を背にした高台に、プラウダ高校・戦車道チーム所属のT-34/76中戦車3輌の姿が見えた。

 

 

 

「3輌だけ…外郭防衛線かな?」

 

 

 

無線で西住隊長が前方に居るプラウダ高部隊の意図について推測を述べたのを聞いた私が『此方の動きを牽制する為の()()()の様な気がします』と返信した直後。

 

プラウダ高のT-34/76中戦車3輌中2輌が此方の姿に気付いて発砲して来た。

 

 

 

「原園さん、発砲せずに周囲を警戒して下さい!」

 

 

 

西住隊長が緊迫した声で私に指示を出す…何時も隊長が仲間達に指示を出す時は、必ず“○○さんチーム”と呼んで居るのに、今はチーム名では無くて私の名前を出しているのは“余程事態が切迫しているからだ”と思った時、隊長が仲間達へ新たな指示を出す。

 

 

 

「“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”、射撃!」

 

 

 

そして“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”と“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”が43口径75㎜砲を発砲すると、先に攻撃をしていたプラウダのT-34/76中戦車2輌が呆気無く撃破されて白旗を揚げた。

 

 

 

「やった!」

 

 

 

「昨年の優勝校を撃破したぞ!」

 

 

 

「時代は我らに味方している!」

 

 

 

「此れはイケるかも知れん!」

 

 

 

「此の勢いでGOGOだねぇ!」

 

 

 

先手を取った事で、次々に歓声を上げる仲間達。

 

だが其の様子を目撃した私は疑念の声を上げる。

 

 

 

『あれ?粘り強い守備が得意な筈のプラウダ高がアッサリやられるなんて…やはり此の3輌は囮部隊!?

 

 

 

すると西住隊長が私の声を無線で聞いて居たらしく、冷静な声で私に向けて話し掛けて来た。

 

 

 

「うん、原園さん。上手く行き過ぎてるよね?」

 

 

 

其れに対して、私も……

 

 

 

『はい。と言う事は…あっ!今、“3輌目のT-34/76”が発砲!

 

 

 

私が西住隊長へ連絡をしている最中、前方の高台で撃破された2輌のT-34/76の右隣に居た3輌目の同型車が其の備砲である41.5口径76.2㎜砲を発砲し乍ら、高台からの脱出を図ったのだ。

 

 

 

「全車輌前進!追撃します!」

 

 

 

すかさず西住隊長が指示を出す中、私は“相手の意図が分かって居ながら、相手のペースに()まるしか選択肢が無い”と言う現実に苦虫を嚙み乍らも、操縦手の菫に前進の指示を出す。

 

 

 

『しょうが無い…やっぱり、そうするしか無いか!?』

 

 

 

思わず、心の中で呟く心算だった言葉を口に出してしまった私が“しまった!?”と思った時、砲手席に座って居る瑞希(ののっち)が冷静な声で話し掛けて来た。

 

 

 

“虎穴に入らずんば虎子を得ず”と言うものね…しかし勝つ為とは言え、相手のペースに嵌まるのは歯痒いわ」

 

 

 

すると話を聞いて居た良恵ちゃんが「其れって…“今、私達が勝つ為には逃げる相手を追わなければならない”から、プラウダ高は其の先に罠を仕掛けているって事ですか?」と問い掛けた処、舞がこう答える。

 

 

 

「うん。罠はね、相手にも“勝ち目が有る”と思わせる様に仕掛けないと、上手く行かないんだよ」

 

 

 

続けて菫も「つまり、罠を仕掛けられた相手から返り討ちに遭うリスクを計算した上で仕掛けるのが“優れた罠”なの」と答えた後、再び瑞希(ののっち)が“此の話の結論”を述べた。

 

 

 

「だから、こっちも“罠だと分かっていても、勝つ為には罠の中へ入らないと行けない”のよね」

 

 

 

此処で戦車戦の経験豊富な仲間達の話を聞いた良恵ちゃんが「単純に“罠”と言っても、そんなに奥が深いんだ…皆、みなかみタンカーズではそんな事を毎日教わっていたの?」と問い掛けた為、私は当時の事を思い出しつつ、こう返した。

 

 

 

『ええ。ウチの母(明美)が親切丁寧に教えていたわよ…全くあの母親、そう言う事だけは得意なんだから!』

 

 

 

つい話が我が母親(明美)の事に及んだ為、私は苛立ち気味に呟くとM4A3E8(イージーエイト)の車内では仲間達が揃って笑いを堪えて居た。

 

車内無線で其の事に気付いた私が恥ずかしい気持ちになっていた時、“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”リーダー兼戦車長・澤 梓から急報が入る。

 

 

 

「フラッグ車、発見しました!」

 

 

 

『!?』

 

 

 

彼女からの急報を聞いた私が直ちに双眼鏡で前方を確認すると逃走するT-34/76の先には、別のT-34/76がフラッグ車を含めて3輌とT-34/85が2輌の合計5輌が一直線の横隊で並んでいた。

 

其の姿を目撃した副隊長・河嶋先輩が勢い良く「千載一遇のチャンス!よしっ、突撃!」と無線で叫ぶと、仲間達の戦車が一斉に「行けーっ!」「アターック!」と叫び乍ら敵陣前方に展開しつつ砲撃を開始する。

 

すると私達の攻撃を受けたプラウダのフラッグ車(T-34/76)以下6輌の戦車は一斉に逃げ出してしまった。

 

ハッキリ言って其の姿は“()()”としか言い様の無い逃げっぷりだったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので*3、私の目には“絶妙な撤退”に映った。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、試合会場内の観客席では大洗女子の攻撃によって()()に逃げるプラウダ高校・戦車道チームの姿を見た観客達から(どよめ)きの声が上がった後、大洗女子学園側応援席からは戦車道チームの予想外の健闘に大歓声が沸いた。

 

しかし…試合会場の外れで観戦して居る少女達は敗走するプラウダ高の姿を見乍らも厳しい表情を浮かべて居る。

 

 

 

「……」

 

 

 

其の中でも、一際厳しい表情の儘黙っているダージリンの顔を見たオレンジペコが周囲へ向けて「皆さん…まさか大洗は勝っている訳では無いと言うのですか?」と問い掛けると……

 

 

 

「うん。ダージリンさんや皆の顔を見れば分かるでしょ?」

 

 

 

サンダース大付属の次期エース候補&群馬みなかみタンカーズ時代の嵐の親友・原 時雨が真面目な声で答え、続いてアンツィオ高校の次期エース候補&前・群馬みなかみタンカーズ隊長で嵐・時雨の同期生でもある“マルゲリータ(大姫 鳳姫)”も小さく頷く。

 

そして二人はダージリンの隣に立って居るボンプル高校戦車道チーム隊長・ヤイカへ視線を送ると彼女も厳しい表情を浮かべつつ、現在の戦況を説明した。

 

 

 

「其の通りよ。私達ボンプルは何度もプラウダとやり合って居るから分かる…プラウダは本来、粘り強い守備と攻撃に出た時の激しさが特徴のチームだから、()()はああも簡単にやられはしないわ」

 

 

 

すると試合会場に設置された超大型モニターを見詰めていたダージリンがヤイカへ向けて語り掛ける。

 

 

 

「そんなプラウダが、()()()姿()()()()()()()()()()と言う事は…()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()?」

 

 

 

其れに対して、ヤイカは小さく頷き乍らこう答えた。

 

 

 

「つまり“敗走自体がキルゾーンに敵を誘い込む為の罠”…珍しいわね。私と貴女が同じ考えに辿り着くなんて?」

 

 

 

其の言葉に対して、ダージリンは小さく頷いてから優雅に紅茶を飲んでいたが、ヤイカの目には彼女の姿が“みほや嵐達大洗女子の運命を案じている”かの様に映って居た。

 

 

 

 

 

 

一方、観客席でもダージリンやヤイカ達と同じ考えを抱く女性達が居た。

 

 

 

西住 しほとまほの母娘・周防 長門・そして原園 明美である。

 

先日、しほは家政婦の井手上 菊代を大洗へ向かわせて、みほへ“此の準決勝でプラウダ高校に負けたら勘当する”と告げようとしたのだが、其の動きを察知した明美が長門と共に二人の居た「みなかみ戦車堂・大洗学園艦店・和風喫茶」で彼女達と接触した後、“自分達が大洗女子の支援者になっている事をしほが知らない”と知った明美が菊代のスマホを借りて、しほに対して“大人の喧嘩”を仕掛けた結果、此の試合を一緒に観戦する事になったのだ。

 

そんな中……

 

 

 

「明美。今夜は貴女が来るから私も試合観戦に来たのだけど…此れが、貴女が認めたみほの戦いだと言うの?」

 

 

 

西住流師範であると共に、まほとみほの母親でもあるしほが疑り深い声で嘗ての親友・明美へ問い掛けると本人は憮然とした声で答えた。

 

 

 

「いや、全然。流石に二回戦の対アンツィオ戦に勝った後、チームのメンバー達が此処迄調子に乗るとは思ってもいなかったわ」

 

 

 

其処へ、二人の会話を聞いて居た長門が呟く。

 

 

 

「みほちゃんは周囲からの“()()()”には弱い()だからな…だが明美、流石に之は不味いぞ。プラウダ高の敗走は“罠”なのが明白だ」

 

 

 

彼女の声を聞き乍ら、険しい表情で明美を見詰めるしほとまほの母娘。

 

 

 

しかし彼女は戦況を懸念する三人を余所に飄々とした声で、こう答えたのである。

 

 

 

「でもね…試合と言うのは、終わって見なければ分からないものよ?」

 

 

 

其の声を聞いたしほは無表情で明美を見詰めていたが、何故か彼女の言葉が“虚勢を張っている”とは思えなかった。

 

何故なら…彼女は、明美が“勝算無くして行動する事は無い”タイプだと言うのを知っているからだ。

 

 

 

 

 

 

『之は!?』

 

 

 

私達の攻撃を受けて逃げ出したプラウダのフラッグ車(T-34/76)以下6輌の戦車の“無様”な姿を見た私は、其れが余りにも“絶妙なタイミングでの撤退”だと気付き、無線で皆に向けてこう叫ぼうとした。

 

 

 

(不味い!プラウダはフラッグ車を餌にして、私達を何処かで包囲する気だ!)

 

 

 

だが既に時遅し。

 

 

 

「逃がすか!」

 

 

 

「追えっ!」

 

 

 

「ストレート勝ちしてやる!」

 

 

 

勢いに釣られた仲間達が次々に無線で叫び乍ら、逃げるプラウダ高フラッグ車(T-34/76)以下6輌の戦車を追って“追撃ならぬ暴走”を始めてしまっていた。

 

中でも“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”からは「ぶっ潰せ!」「ぶっ殺せー!」「やっちまえ!」と、私の同級生兼親友達の発言とは到底思えない物騒な叫び声が聞こえて来た…親友達の名誉の為、誰が何を喋ったかは口が裂けても言えません。

 

あっ、でも紗希は此の時、一切喋っていませんよ?

 

其れは兎も角、今度は無線から西住隊長が困惑した声で「一寸…待って下さい!」と皆へ呼び掛けていたが、もう皆は隊長の声を聞かずに突撃してしまった。

 

 

 

『もう!皆…あれっ、此処は!?』

 

 

 

プラウダ高フラッグ車(T-34/76)を追って突撃中の仲間達の身を案じ乍ら、西住隊長率いる“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”と共に雪原を走って来た私達の目の前に、ややキツイ傾斜の下り坂が見えたかと思うと、其の先に鄙びた感じがする西洋風の村落が現れた。

 

 

 

『まさか…此処でプラウダは包囲攻撃を仕掛けて来る!?』

 

 

 

 

 

 

一方、此方は嵐が見た“西洋風の村落”の外れに潜んで居るプラウダ高校戦車道チーム隊長・カチューシャが乗る隊長車・T-34/85中戦車。

 

嵐が見抜いた通り、カチューシャは此の村落へ大洗女子戦車道チームを誘い込んでから、チーム全車で包囲攻撃をする心算だったのである。

 

 

 

「漸く罠の中へ入って来たわね!」

 

 

 

T-34/85の車長用キューポラから外の様子を眺めて居たカチューシャが、大洗女子が“罠の舞台で在る村落”へ入って行く姿を確かめていると彼女の声を無線で聞いて居た副隊長・ノンナが謝罪する。

 

 

 

「申し訳ありません…先行させた3輌のT-34/76の内、2輌が撃破されました」

 

 

 

しかし、カチューシャはノンナを咎める事はせず、むしろ彼女を気遣う様な声で語る。

 

 

 

「其れはやむを得ないわ。どんな作戦も予定通りには行かないものよ。只、仲間を撃破した相手が原園 嵐のイージーエイト(M4A3E8)じゃ無かったのは()()だったわ…如何やら、大洗女子は只の素人集団では無さそうね」

 

 

 

其れに対して、ノンナが毅然とした声で「だとすれば、此処での包囲攻撃で試合を決めないと行けませんね」と進言すると、カチューシャは「そうね!」と断言した後、改めてチーム全車へ向けて檄を飛ばした。

 

 

 

「隊長より全車へ。大洗女子の全車が村の中へ入ったら攻撃開始よ!其れ迄、大洗の奴等を確実に村へ誘い込みなさい!」

 

 

 

 

 

 

「原園さん、周辺の警戒を御願いします!」

 

 

 

『了解!』

 

 

 

西住隊長からの指示を受けた私は無線で返信後、前を行く“あんこうチーム(Ⅳ号戦車F2型仕様)”と共に“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”を率いて坂を降りると、既に仲間達は其の先に見える“西洋風の村落”へ逃げ込んだと思われるプラウダ高の戦車を砲撃していた。

 

其の様子を見た私は“何時、プラウダ高が私達に対して包囲攻撃を仕掛けて来るか分からない!”と焦り乍らも装填手席に座って居る二階堂 舞へ指示を出す。

 

 

 

『舞!徹甲弾を装填次第ハッチから顔を出して、私と一緒に周辺警戒!』

 

 

 

「了解!」

 

 

 

私の指示に舞が鋭い声で応答した直後、私が立って居る車長用キューポラの隣に有る装填手用ハッチから彼女が双眼鏡を持って顔を出すと直ぐ様後方警戒を始める姿を見た時、無線から河嶋&左衛門佐先輩の声が入って来た。

 

 

 

「フラッグ車さえ倒せば……」

 

 

 

「勝てる!」

 

 

 

だが…私は、前方で仲間達の砲撃を受けながらも巧みに砲弾を躱しているプラウダ高フラッグ車・T-34/76中戦車の姿を見乍ら、隣に居る舞にも聞こえる様、大声を出した。

 

 

 

『やっぱり、プラウダのフラッグ車の操縦手は腕が良い。此処で私達を捕まえる気だとしたら、もうそろそろ包囲網を閉じる筈!』

 

 

 

すると双眼鏡で後方を警戒していた舞が叫ぶ!

 

 

 

「嵐ちゃん!6時方向左側からT-34/76…あっ、右側からもう1輌!」

 

 

 

『瑞希、撃てっ!』

 

 

 

私は、舞の報告に答える替わりに無線で砲手の瑞希へ指示を出すとM4A3E8(イージーエイト)の52口径76.2㎜戦車砲から既に装填済みだった徹甲弾が発射される。

 

包囲を企むプラウダ高の戦車を牽制すると同時に大洗女子の仲間達へ警報を出す為だ。

 

勿論、此の動作は村落へ入る直前に“ニワトリさんチーム(M4A3E8)”の仲間達との間で“プラウダが待ち伏せしていた時の手順”を素早く打ち合わせていたからこそ出来た事だ。

 

其処へ、私の隣に居た舞が「私、砲弾の装填に戻るね!」と叫んで砲塔内に在る装填手席へ戻るのを見た私は『OK!』と応答後、無線で西住隊長へ向けて叫んだ。

 

 

 

『此方“ニワトリ”!隊長、後方からT-34/76が2輌接近。此方は現在砲戦中!』

 

 

 

其れに対して西住隊長が「えっ…了解!」と驚き乍らも答えると、改めて「全車、東に移動して下さい、急いで!」と叫んだが…此の時、私は既に“プラウダの包囲網が狭まっている”事に気付いていた。

 

 

 

『駄目です!東からT-34/85が2輌、南々西からは…IS-2重戦車!』

 

 

 

「囲まれてる!?」

 

 

 

私の報告に驚愕する西住隊長の声を聞き乍ら、私は皆へ“最悪の事態”を大声で告げたのだった。

 

 

 

『此方“ニワトリ”より全車、(プラウダ)は既に包囲態勢…此れは罠だ!』

 

 

 

(第70話、終わり)

 

*1
「プラウダ戦記」の登場人物。プラウダ高戦車道チーム小隊長で、カチューシャとノンナ両名の不在時にはチームの指揮を執るプラウダのNo.3(「プラウダ戦記」第3巻裏表紙の記述より)。本作の時点では高校3年生。

*2
「プラウダ戦記」の登場人物。ラウラ車の砲手でチームではノンナに次ぐ狙撃能力の持ち主だが其れに驕らず、常に腕を磨く事を怠らない努力家(「プラウダ戦記」第3巻裏表紙の記述より)。ラウラ同様、本作の時点では高校3年生。

*3
此処で「あれ?原作と違う?」と感じた方、鋭いです。詳細は後書きを御覧下さい。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第70話をお送りしました。
今回、遂にカチューシャが仕掛けた罠にハマってしまった大洗女子…って、アレ?
…誰か来た様だ。

エルヴィン「オイ、作者」

作者「はい?」

カエサル「原作では私達は今回のシーンでT-34/76の他にT-34/85も撃破したのだが、其の場面がカットされているじゃ無いか!?」

左衛門佐「私達の戦果がカットされてるじゃ無いか、抗議する!」

おりょう「御主、坂本 竜馬が生まれた土佐の隣国出身の癖に良い度胸をしているぜよ!」

磯辺部長「そう言えば、私達“アヒルさんチーム”も、此の作品のアンツィオ戦でCV33を1輌分撃破したシーンがカットされているぞ!」

カエサル「ああ…あれはアンツィオがⅣ号戦車G後期型(マルゲリータの愛車)を投入したから、其の煽りでCV33が1輌減ったんだよな」

作者「あ…あれね、何れ別のシーンで埋め合わせするから許して」

カバさんチーム一同+磯辺部長「「「「本当だな?」」」」

作者「はい…マジですから、許して下さい」

…と言う訳で、今回は“カバさんチーム”と“アヒルさんチーム”の磯辺部長から吊るし上げられてしまいましたが、之はマジで何とかするから許して(迫真)。
其れでは、次回をお楽しみに。

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