戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

89 / 114

先ず、本年元旦に発生した「令和6年能登半島地震」の被災者の方々に心から哀悼の意を申し上げます。
まさか…ガルパン最終章第4話の主役・継続高校の地元・石川県がこんな事になろうとは。
何れ、本作でも継続高校メインの話を作りたいのですが、何時になる事やら……

其れでは、どうぞ。



第80話「カチューシャ対嵐の対決です!!」

 

 

 

試合開始前から様々な出来事が起きていた“第63回戦車道全国高校生大会準決勝・第二試合「プラウダ高校(青森)対県立大洗女子学園(茨城)」”。

 

今、試合は山場を迎えようとしている。

 

 

 

「“母校の廃校阻止”を賭けてプラウダ高の追撃部隊を撃破した大洗女子学園の原園 嵐選手率いる“ニワトリさんチーム( M4A3E8 )”の前に立ち塞がったのは、大会連覇を狙うプラウダ高校戦車道チーム隊長“地吹雪のカチューシャ選手”!此の2人が今、1対1の勝負に挑もうとしています!」

 

 

 

首都テレビの実況席では実況担当の加登川 幸太アナウンサーが張りの有る声で“此れから起きようとしている対決”の内容を告げると解説を担当する戦史研究家・吉山 和則が……

 

 

 

「プラウダとしては、此処で大洗のフラッグ車(アヒルさんチーム)を倒しに行ったノンナ副隊長が駆るIS-2を守る為、カチューシャ隊長が自ら体を張ってノンナ副隊長を狙う原園選手を止めようと決断した様ですね!2人の対決は此の試合の天王山になるかも知れません!」

 

 

 

と叫んだ後、もう1人の解説者である戦史研究家兼戦車道解説者の斎森 伸之も……

 

 

 

「特にカチューシャ選手の雰囲気が先程迄とは全く変わりましたね!先程は甦った“みなかみの狂犬( 原園 嵐 )”の気迫の前に怯えていたのに、今の彼女はまるで巨大なヒグマの様な威圧感に溢れていて、逆に原園選手は身動きが取れない感じです!」

 

 

 

と語った処、ゲストとして実況席に座っている346プロダクションの大学生アイドル・新田 美波が興奮気味の声で……

 

 

 

「でも、私は原園選手…いえ、大洗女子に勝って欲しいです!」

 

 

 

と叫んだ為、其の直後からネット掲示板やSNSでは彼女の発言が盛大にバズり、一部の掲示板やSNSではサーバーがダウンした程だった。

 

 

 

こうして日本中が“様々な因縁”に彩られた此の試合に魅了される中、遂に“みなかみの狂犬( 原園 嵐 )”対“地吹雪のカチューシャ”の“対決”が始まる!

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第80話「カチューシャ対嵐の対決です!!」

 

 

 

 

 

 

『なら、受けて立つ!』

 

 

 

プラウダ高撃破を狙った私・原園 嵐の前に立ち塞がったプラウダ高戦車道チーム隊長・カチューシャが発する強大なプレッシャーを感じ乍ら、私は其れに飲まれまいと必死の思いで叫ぶと“ニワトリさんチーム( M4A3E8 )”の仲間達へ指示を出した。

 

 

 

『相手の右側面へ回り込んでから1発撃つ!弾種は高速徹甲弾(M93HVAP-T)!』

 

 

 

此処で、私は愛車・M4A3E8(イージーエイト)の切り札で、弾芯に比重が大きくて硬度も高い金属・タングステンを用いて装甲貫徹力を増した高速徹甲弾“M93HVAP-T”を使う事を皆に告げる。

 

其れに対してチームの皆が「「「了解!」」」と返答したのを聞いた私は直ちに号令を掛けた。

 

 

 

Panzer Vor(パンツァー・フォー)!(戦車前進!)』

 

 

 

其れと同時にカチューシャが駆るプラウダ高のT-34/85も加速を始める。

 

すると御互いが“相手の右側面”を取ろうとして右旋回を始めたのだが…其処は我らが“ニワトリさんチーム( M4A3E8 )”の操縦手・萩岡 菫の独壇場。

 

彼女*1が持つドライビングテクニックの御陰で、私達のM4A3E8(イージーエイト)は相手よりもワンテンポ早く動けた結果、カチューシャ(T-34/85)車の右側面へ回り込むと反航戦の態勢で射撃準備を整える事が出来たのだ。

 

其れに対して、カチューシャ(T-34/85)車は私達を迎撃する為に砲塔を右へ回そうとしているだけで精一杯の状況。

 

こうなれば、後はこっちの物!

 

 

 

『よしっ、撃て!』

 

 

 

「貰った!」

 

 

 

私の射撃指示に対して、長年の相棒である砲手・野々坂 瑞希が命中を確信した声を返して来る。

 

彼女が発砲時に此の台詞を言った場合、私が覚えている限りでは砲弾が外れた事は一度も無い。

 

なので、私も“此れでカチューシャ(T-34/85)車を仕留めた!”と確信したのだが……

 

 

 

「ガキィン!」

 

 

 

其の時、酷く嫌な感じの金属音が響いたかと思うと、私の目前で信じられ無い事が起きた!

 

 

 

『あっ!?』

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

思わず、私だけで無く同じ光景を76.2㎜砲用の照準器越しに見ていた瑞希も驚愕の叫びを発すると副操縦席のハッチから顔を出していた副操縦手・長沢 良恵も驚きの声を発した。

 

 

 

「砲弾が砲塔に弾かれた!?」

 

 

 

そう…何とカチューシャ(T-34/85)車は私達に対する迎撃が間に合わないと思ったのか、私達が撃った76.2㎜高速徹甲弾(M93HVAP-T)を“砲塔の装甲板で受け止める”様な態勢で弾き返したのだ!

 

だが、1発弾かれた位でヘコたれる様な私達じゃない!

 

戦車砲弾と云えども相手戦車に命中した時の砲弾の角度や場所によっては、普通ならば撃破出来る様な局面でも相手戦車の装甲板に弾かれる事は珍しくない。

 

だから私は、皆を鼓舞する様に叫ぶ。

 

 

 

『慌てるな!もう1発!』

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

私の叫びに装填手の舞と砲手の瑞希が反応してから、ほんの数秒で2発目の76.2㎜高速徹甲弾(M93HVAP-T)カチューシャ(T-34/85)車目掛けて発射されたのだが……

 

其の時、カチューシャ(T-34/85)車は不可解にも私達が発射した砲弾目掛けて突き進みながら砲塔を微妙に旋回させた途端……

 

 

 

「ガギィーン!」

 

 

 

今度はさっきよりも更に嫌な感じの金属音が響いたかと思うと、私達が撃った2発目の76.2㎜高速徹甲弾(M93HVAP-T)カチューシャ(T-34/85)車の砲塔側面…其れも先程、彼女が微妙に旋回させた為にT-34/85の特徴である鋳造砲塔の丸みが強調された部分に当たった途端、明後日の方向へと弾かれてしまったのだ。

 

 

 

「嘘!?又弾かれた!?」

 

 

 

76.2㎜砲の照準器越しに砲弾が弾かれた光景を目撃した瑞希が驚愕の叫びを発すると……

 

 

 

イージーエイト(M4A3E8)高速徹甲弾(M93HVAP-T)はティーガーⅠ重戦車の砲塔防盾を1000ヤード*2前後の距離で貫通出来る位の威力が有るんだよ!?」

 

 

 

装填手の舞が此れ又驚愕の叫びを発するが、私は気を取り直して操縦手の菫に……

 

 

 

『回避機動!』

 

 

 

と叫んだ処、彼女は冷静な声で「了解!」と返した後、急旋回を決めてカチューシャ(T-34/85)車が放った反撃の85㎜徹甲弾を鮮やかに(かわ)してから相手との距離と取って見せた。

 

其の直後……

 

 

 

「嵐ちゃん。今、カチューシャさんがやったのは若しかしたら“()()()()()”かな?」

 

 

 

相手の反撃を回避したばかりの菫が落ち着いた声で私に告げたので、私も……

 

 

 

『うん。私も菫と同じ考えだと思う』

 

 

 

と返した処、話を聞いた舞と良恵が揃って当惑気味の表情を浮かべて考え込んで居る処へ私と菫の推理の内容に気付いた瑞希が叫んだ。

 

 

 

「そうか!カチューシャはT-34/85の砲塔の避弾経始を意図的に利用して、こっちの砲弾を受け止める様にして弾いたのか!」

 

 

 

『正解!』

 

 

 

そして此の時、私は“カチューシャが採った防御法の正体”を見抜いた上で“対応策”を考え付いていた。

 

 

 

 

 

 

「つまり、()()()()()()()()()は避弾経始を積極的に利用する機動防御戦法で嵐と戦っているのよ」

 

 

 

此の時、観客席の一角では嵐の母・原園 明美が共に試合観戦をしている西住 しほ・まほの母娘と親友である周防 長門に対して“今起きた出来事”の説明を行っていた。

 

其れに対してまほが納得した声で「成程。基本的には、私やみほも実践している防御法ですね」と語ると長門も頷き乍らこう語る。

 

 

 

「素人の観客は()()を見て驚いているだろうが、戦車道の熟練者なら常に相手の動きを読み切ってさえいれば“敵弾を弾く様にして当てさせる”事は難しく無い…勿論、戦車道の試合で其れが出来る様になる迄には相当な鍛錬が必要だがな」

 

 

 

すると話を聞いて居たしほも小さく頷いてから冷静な声で「ええ。西住流でも上級者であれば熟せる戦法よ」と語った処、再び明美が微笑を浮かべ乍ら説明を続ける。

 

 

 

「ましてや、()()()()()()()()()の乗るT-34/85の砲塔は鋳造式だからね…戦車道で使える戦車としては理想的な避弾経始を持っているから、あんな感じで『相手の砲弾を当てさせる様に弾く』戦法を続ければ、焦った相手の隙を突いて勝利を得る事も可能よ」

 

 

 

其れに対して、しほは“今、自分の()と戦っている相手を褒めている”かの様に語った明美の態度に若干呆れ乍ら……

 

 

 

「おい“あけみっち(明美)”、相手を称えている場合か!?此の儘だと大洗女子は廃校の危機を脱する事は出来ないんだぞ!?」

 

 

 

と叫んだ為、“此の試合で大洗女子が負けたら、みほの居場所が無くなる”事に気付いてショックを受けたまほが「あっ!?」と小さな声で叫ぶと、其の様子を興味深そうに見ていた明美は御道化た声で……

 

 

 

「あら?“しぽりん(しほ)”やまほさんも大洗女子…いえ、みほさんの事を心配してくれているのかしら?」

 

 

 

と語った処、隠れシスコン(みほLOVE)のまほは顔を真っ赤にして黙り込んでしまい、しほも呆れ顔で明美の顔を見ていたが直ぐに気を取り直すと……

 

 

 

「そうじゃなくて!大洗女子とみほに肩入れしているのは御前(明美)だろう!?」

 

 

 

とツッコんだ。

 

其れに対して明美は不敵な表情を浮かべ乍ら「ふふ……」と呟いた後、こんな事を言ったのである。

 

 

 

「でも、今の()()()()()()()()()の戦法には一つだけ“重大な欠点”があるのだけどね」

 

 

 

「「欠点!?」」

 

 

 

明美の“意味深な発言”を聞かされて、思わず叫び返すしほとまほの親娘。

 

だが、此処で一緒に居た長門は“何か思い当たる節”が有ったのか、冷静な声で問い掛けて来た。

 

 

 

「明美…もしかして、御前が以前“其の戦法”について語っていた時に指摘した“()()”の事か?」

 

 

 

すると彼女は長年の親友・長門に向けて“我が意を得たり”と言わんばかりの微笑を浮かべると、こう言ったのだ。

 

 

 

「勿論!嵐も其の欠点は承知しているわよ…だって、彼女は此の私が“世界の戦車道の全て”を叩き込んで育て上げた戦車乗りなんだから♪

 

 

 

 

 

 

「フフ…原園 嵐!此れは予想していなかったでしょ!」

 

 

 

一方、カチューシャは不敵な笑みを浮かべつつ“自分が立てた戦法”に対して自信を深めていた。

 

1年生乍ら超・高校生級の実力を持つ“ニワトリさんチーム( M4A3E8 )”リーダー・原園 嵐と戦う為に選択した“自分が駆るT-34/85が持つ良好な避弾経始を利用し、相手の砲弾に向かって行った上で弾く様に当てさせる”と言う戦法は、元々カチューシャ自身が得意として来たやり方だ。

 

事実2年前の春、彼女がプラウダ高に入学してノンナと出会った頃に行われた“新入生対プラウダ1軍のフラッグ戦”でも、彼女が駆ったT-34/85は此の戦法で相手の攻撃を凌ぎ乍らノンナが駆るフラッグ車(T-34/85)をプラウダ1軍のフラッグ車(IS-2重戦車)手前迄導いた。

 

其の結果、最後にカチューシャ車は撃破されたもののノンナのフラッグ車がプラウダ1軍のフラッグ車を撃破して勝利を収めたのだ。

 

カチューシャはそんな過去を思い出し乍ら“目下の対戦相手・原園 嵐とどう戦うべきか?”について考えていた。

 

 

 

 

 

 

私だって、正面から“みなかみの狂犬( 原園 嵐 )”と戦って必ず勝てるとは思っていないわ。

 

彼女の戦い方は、今大会前に去年の中学生大会のVTRを全部見てチェックしたから分かる。

 

確かにアンタ()は、ノンナが指摘した通り、去年の中学生大会の時点で既に中学生処か高校生を凌ぐ位の実力が有ったわ。

 

そして、さっき私が率いたプラウダの追撃部隊を殲滅した事で、私は確信したわ。

 

 

 

原園 嵐、アンタは人間じゃない!

 

アンタは“戦車道で勝ち抜く為に必要な全てを叩き込まれて来た怪物”よ!

 

 

 

そうで無ければ、さっき私を睨み付けただけで、あの“西住 まほ”にも劣らぬ“恐怖”を感じさせる筈が無いもの!

 

あんな“怪物”に勝てる気なんて全くしないわ!

 

だけどね…此の状況で私達が勝つ為に必要なのはアンタ()に勝つ事では無い。

 

其れは“大洗のフラッグ車(アヒルさんチーム)をノンナが倒す迄の時間を稼ぐ事”!

 

其れなら、私でも出来る!

 

此の試合、私達はアンタに勝てなくても良いのよ…ノンナが大洗の大洗のフラッグ車(アヒルさんチーム)を倒す迄粘って粘り抜いて、そして私達が勝って決勝で黒森峰と戦う!

 

何故なら、今大会の私達は単純に連覇するのが目標じゃない!

 

去年の大会決勝戦や今大会の対ヴァイキング水産戦で起きた様な()()()が無くても私達は日本一になれる…私が育てた仲間達は本当の意味で日本一だって証明するのが私達の目標なんだから!

 

 

 

 

 

 

カチューシャは嵐を甘く見てはいなかった。

 

其れ処か、彼女は嵐の能力を高く評価し、“自分でも若しかしたら勝てないかも知れない”と考えた上で“試合に勝つ為の最良の選択肢”を選んでいたのだ。

 

“試合を決めるのは大洗のフラッグ車を追うノンナの役目。自分は其の為の「捨て石」となって嵐の前に立ち塞がる”と言うのがカチューシャの選択であり、同時に“自分が育てたプラウダ高戦車道チームが「本当の意味での戦車道日本一」になる為なら、自分は何でもする!”と言う決意表明だったのだ。

 

其の意味で、カチューシャは非常に優秀且つ視野の広い戦車道指揮官だと言えるだろう(時折見せる自信過剰から来る油断と、疲れると試合中でも眠くなってしまう体質を除けば)。

 

 

 

だが、不幸にもカチューシャは“或る事”に気付いていなかった。

 

原園 嵐は“カチューシャの戦法”を熟知していたのだ。

 

 

 

 

 

 

『T-34/85が持つ良好な砲塔の避弾経始を利用して「敵弾を弾く様に当てさせる」…確かに、此の様な競り合いでは有効な戦い方だね』

 

 

 

カチューシャの駆るT-34/85の動きを見乍ら、私は彼女の戦い方について素早く分析を終えていた。

 

 

 

『多分、彼女の戦い方の意図は「ノンナの駆るIS-2重戦車が“アヒルさんチーム( フラッグ車 )”を倒す為に必要な時間稼ぎ…此処で時間を稼がれると厄介だな』

 

 

 

私が“アヒルさんチーム( フラッグ車 )”を守る為、カチューシャ率いるプラウダ高追撃部隊の前に立ち塞がって此れを殲滅した様に、カチューシャも私の前に立ち塞がって牽制している間にノンナの駆るIS-2重戦車が“アヒルさんチーム( フラッグ車 )”を撃破しようと目論んでいるのだろう。

 

此の作戦は私の目から見ても“現在の状況から見て最善のやり方”だと言わざるを得ない。

 

何故なら、此方としては一刻も早くカチューシャが駆るT-34/85を倒してノンナが駆るIS-2重戦車を追わなければならないのだが、だからと言って攻め急ぐとカチューシャに隙を突かれる危険が増すし、カチューシャも其れを狙ってT-34/85の砲塔が持つ避弾経始を利用した防御戦法を仕掛けている。

 

従って、此の場面でのカチューシャの戦法は単純な“守り”では無く、仲間達が攻撃する為の時間を稼ぎつつ此方側の隙を作る為に仕掛けた“攻めの守り”と見做すべきであり、其の点を考慮せずに此方が攻めると返り討ちに遭うのがオチだが、其れを恐れていたのでは此方のフラッグ車・“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”がノンナのIS-2に撃破されてしまうのだ。

 

だが、既に此処迄考えを進めていた私は“対応策”を決めると小声で自らの思いを呟いた。

 

 

 

『でも…此の戦い方って、実は“デカい落とし穴”が有るのを知らないのかな?』

 

 

 

 

 

 

そして覚悟を決めた私は新たな指示を出す。

 

 

 

『菫!此処から左へ回り込んだら同航戦に入る!出来るだけ相手に近付いて!其れと良恵は菫のサポートに専念!』

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

すると私達“ニワトリさんチーム”のM4A3E8(イージーエイト)は此方へ突撃しつつあったカチューシャのT-34/85を軽くいなしてから、左旋回。

 

其れに対してカチューシャのT-34/85は右旋回をして此方に並び駆けようとした時、此方は一気に距離を詰めてから、皆へ向けて号令を掛けた。

 

 

 

『砲戦用意!瑞希は舞が砲弾を装填次第、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

私からの号令に装填手の舞と砲手の瑞希が応答すると、私は不敵な笑みを浮かべ乍ら、カチューシャへ語り掛ける様な声で、こう呟いたのだった。

 

 

 

『其の戦い方、至近距離から車体を狙う相手戦車がそっちと並行に並んだ時は意味無いんだよ!』

 

 

 

 

 

 

「ああっ!」

 

 

 

其の時、試合会場内の観客席に設置されたスピーカーから、カチューシャの悲鳴が上がると同時に観客席手前の超大型モニターには彼女が駆るT-34/85がエンジンルームから出火して停止している光景が映し出された。

 

更に超大型モニターの画面が切り替わると…カチューシャのT-34/85の砲塔上面から“白旗”が高々と揚り、続いて会場内のスピーカーから場内アナウンスが流れる。

 

 

 

「プラウダ高校隊長車・T-34/85走行不能!」

 

 

 

カチューシャ対嵐の対決は、呆気無い形で決着が着いた。

 

嵐のM4A3E8(イージーエイト)からの2度に渡る砲撃を“砲塔の避弾経始を利用した防御術”で弾き返してから突撃を仕掛けたカチューシャ隊長のT-34/85だったが、嵐は冷静に見極めた上で其の突撃を(かわ)すとカチューシャ(T-34/85)車との同航戦に入った途端、一気に距離を詰めてから相手の車体後部に有るエンジンルームを至近距離からの砲撃で撃ち抜いて白旗を揚げさせたのだった。

 

実はカチューシャのT-34/85の車体後部も40度の角度が付いた40~45㎜の装甲板で構成されているのでソコソコの防弾力が有るのだが、500ヤード*3の距離から157㎜の装甲板を貫徹出来る性能を持つイージーエイト(M4A3E8)の高速徹甲弾・M93HVAP-Tを至近距離から撃ち込まれた為、一溜まりも無かったのである。

 

こうして“大洗女子の1年生・原園 嵐が去年の大会王者であるプラウダ高の隊長・カチューシャを倒した”と言う現実を目撃した観客達からどよめきの声が上がると、大洗女子学園側応援席では嵐の戦いで勇気付けられた大洗女子学園の生徒や応援団達が一斉に大声援を送り始めた。

 

当然、其の中には “大洗女子学園・中等部4人組”こと五十鈴 華恋・武部 詩織・若狭 由良・鬼怒沢 光も居る訳で、彼女達も口々に……

 

 

 

「原園先輩が勝った!」

 

 

 

「よぉーし!」

 

 

 

「次は“アヒルさんチーム(大洗フラッグ車)”を狙うIS-2をやっつけちゃえ!」

 

 

 

「原園先輩、行けーっ!」

 

 

 

と観客席手前の超大型モニターに映し出されている原園 嵐の姿に向けて声援を送っていたが、観客席の外れでは其の様子を見ていたボンプル高校戦車道チーム隊長・ヤイカが……

 

 

 

「不味い事になったわね……」

 

 

 

と不安気な声を上げたのに対して、隣で座って居る聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長・ダージリンが真剣な表情で頷く。

 

其の姿を見たダージリンの後輩・オレンジペコが「ダージリン様、形勢は逆転したのでは無いのですか?」と問い掛けた処、アンツィオ高校戦車道チームの次期エース候補・マルゲリータ(大姫 鳳姫)が一言……

 

 

 

「カチューシャは嵐に撃破される迄の間に時間を稼いだから、今大洗女子のフラッグ車(アヒルさんチーム)を追っているノンナのIS-2と嵐との間の距離が開いてしまっている」

 

 

 

と指摘した処、更にサンダース大学付属高校戦車道チームの次期エース候補・原 時雨も……

 

 

 

「其れに、ノンナさんのIS-2重戦車はWW2の戦車の中でも屈指の重装甲と大火力を誇るから、此の儘じゃあ嵐のM4A3E8(イージーエイト)が追い付く前に勝負が決まっちゃう!」

 

 

 

と語った後、2人の話を聞いたヤイカが頷くと現在戦っている両校の戦況を簡潔に説明する。

 

 

 

「カチューシャは自分が出来る事を最後迄やり遂げただけで無く、チームに対しても最善の指示を出した。其の結果、ノンナのIS-2は嵐のイージーエイト(M4A3E8)との距離を開け乍ら大洗女子のフラッグ車(アヒルさんチーム)に迫っている」

 

 

 

すると此処で、皆の話を聞いて居たダージリンが厳しい表情を浮かべ乍ら、こう呟いた。

 

 

 

「高校戦車道でも屈指の砲術能力を持つノンナとソ連最強の重戦車・IS-2のコンビネーションを打ち破って逆転勝利を収めるのは、例え原園さんであっても容易では無いわ」

 

 

 

其の話を聞かされたオレンジペコは真っ青な顔を浮かべ乍ら「そんな…此処迄頑張って来たのに、未だ大洗女子のピンチは続くのですか!?」と呟くのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

そして。

 

雪上を逃げる大洗女子のフラッグ車“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”と護衛の“ウサギさんチーム(M3中戦車リー)”“カモさんチーム(ルノーB1Bis重戦車)”の3輌を追うプラウダ高のIS-2重戦車を駆るチームの副隊長・ノンナは必死に逃げる“アヒルさんチーム(八九式中戦車甲型)”を睨み付け乍ら、心の中でこう叫んだ。

 

 

 

「カチューシャ様が体を張って作ってくれた此のチャンス…必ずモノにして勝利する!」

 

 

 

 

 

 

(第80話、終わり)

*1
菫は前年度レーシングカート全日本選手権・FS125クラス王者。此の詳細については第47話「原園 直之さんと大洗と戦車道です!!」を参照の事。

*2
メートル法では約914m。

*3
メートル法で約457m。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第80話をお送りしました。

遂に起きた嵐ちゃん対カチューシャの対決。
カチューシャは嵐ちゃんの技量を高く評価した上で、大洗女子フラッグ車の攻略をノンナに任せて自分は“負けない戦い”を遂行すべく、T-34/85の避弾経始を活かして“弾き返せる様に砲弾を受け止める”作戦を決行。
此の作戦は原作のスピンオフ漫画「プラウダ戦記」の第1巻でカチューシャがやっていた戦法ですので、此処で使ってみました(現実的に可能か如何かは分かりませんが)。

しかし、母・明美さんから“世界の戦車道の全て”を叩き込まれて来た嵐ちゃんはカチューシャの戦法を知っていただけで無く、其の欠点迄熟知していた!
其の結果、2人の対決は嵐ちゃんの勝利に終わりましたが…其の間にカチューシャは大洗女子のフラッグ車“アヒルさんチーム”を追うノンナの為に時間を稼ぐ事に成功。
果たして此の後、大洗女子は“アヒルさんチーム”に迫るノンナのIS-2重戦車の脅威を振り払ってプラウダ高フラッグ車を撃破する事が出来るのか?
そして嵐ちゃん達“ニワトリさんチーム”は如何動くのか!?

其れでは、次回をお楽しみに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。