戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

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今回は“決勝戦を目指す大洗女子の準備回”の後編です。
決勝戦の準備以外にも話題が有るので、御楽しみに。
其れでは、どうぞ。



第85話「決勝戦へ向けての準備・後編です!!」

 

 

 

其れは黒森峰女学園との決勝戦も間近に迫った、或る日の出来事だった。

 

大洗女子学園・戦車格納庫の中で行われていた戦車道チーム各車輌の整備・改造作業が一段落した後、チーム全員で其々が乗る戦車の点検を行っていた時、自動車部と原園車輌整備(母・明美の会社)の手によって愛車が43口径75㎜砲装備のⅣ号戦車F2型仕様から48口径75㎜砲&シュルツェン( 増加装甲 )装備のH型仕様へと変貌した姿を見た“あんこうチーム”装填手・秋山 優花里先輩が興奮気味の声でこう叫んだ。

 

 

 

MarkⅣ( Ⅳ号 )スペシャルだ!カッコイイですね!」

 

 

 

すると隣で様子を見ていた私・原園 嵐率いる“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”砲手・野々坂 瑞希(ののっち)が……

 

 

 

「あっ…其のニックネーム(MarkⅣスペシャル)は北アフリカ戦線でⅣ号戦車F2型の43口径75㎜砲に叩かれた英軍が付けたのですが」

 

 

 

と“余計なツッコミ”をした処、チームメイトで副操縦手の長沢 良恵も……

 

 

 

「えっ?じゃあ、其のニックネームはプラウダ戦の時のⅣ号の事なんだ!」

 

 

 

と“追い撃ちとなる一言”を言った為、秋山先輩が「え~っ!?」と叫んだ後、心底ガッカリした顔になったのを見かねた私は思わず大声で……

 

 

 

『“瑞希(ののっち)”に良恵、其のツッコミは野暮!』

 

 

 

と返したら、秋山先輩は笑顔に戻って「原園殿は優しいです~♪」と答えてくれたので、私も『あっ…如何も』と相槌を打った処、突然目の前に我が母・原園 明美がツナギ姿で現れたかと思ったら……

 

 

 

「其れと西住さん」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

突然の母からの呼び掛けに戸惑う西住先輩を余所に、母はこう告げた。

 

 

 

「今回、私がⅣ号のエンジンとトランスミッシ(変速機)ョンを新品に載せ替えたから、此れから試運転をやってみて♪」

 

 

 

『えーっ!?何時の間に!?』

 

 

 

唐突な母の言葉に、私が驚きの声を上げると秋山先輩が「原園殿、如何したのですか?」と訪ねて来た為、私は『は、母がエンジンを載せ替えたと言う事は……』と言葉を選び乍ら答えていると西住先輩が“其の答え”を先に言ったのだ。

 

 

 

「あの、明美さんがⅣ号のエンジンをチューンしてくれたのですか!?」

 

 

 

「うん♪仕上げに手間取ったけど、何とか決勝戦に間に合ったわ」

 

 

 

先輩の問いに母が笑顔で答えた途端、先輩は何時もの自信無さげな表情から一変して凄く明るい笑顔になると“あんこうチーム”の仲間達に向けてこんな指示を出した。

 

 

 

「皆、早速試運転するから急いで準備をして!後、冷泉さんには今から伝えて置く事が有るから此処に残って!」

 

 

 

其れに対して冷泉先輩が「西住さん、珍しくテンション高いが…もしかして明美さんがチューニングしたエンジンってそんなに凄いのか?」と訪ねると西住先輩はこう答える。

 

 

 

「うん。でも、其の分扱い方が難しくなっているから、今から注意すべき事を伝えておくね」

 

 

 

其れに対して冷泉先輩も「分かった」と答えて2人で何やら相談を始める中、話を聞いて居た良恵が不思議そうな声で私に問い掛けて来た。

 

 

 

「嵐、明美さんがエンジンをチューンしたって言っていたけど、明美さんってそう言うのが得意なの?」

 

 

 

『得意処か、母がドイツ戦車道プロチーム・ムンスターの整備隊長をしていた時代には「戦車道の世界で最高の戦車用エンジンをチューン出来る女」って海外メディアから称賛されていた位なんだ…私にはそんな物、1台も寄越さない癖に!』

 

 

 

私は昔を思い出して忌々し気な声で答えたが、今度は瑞希がニヤニヤ笑い乍ら「明美さんは昔から“自分の娘だからと言って、特別扱いは一切しない”が口癖になっている位、何かと嵐には厳しいのよねえ♪」と言ったので、私は腹立ち紛れにソッポを向きつつ『ふんっ!』と叫ぶしか無かった。

 

 

 

 

 

 

其れから約30分後。

 

校内の戦車演習場で、パワーアップした“あんこうチーム”のⅣ号戦車H型仕様のテスト運転が始まると車内では……

 

 

 

「成程。アクセルの反応が鋭くなった分、エンジン回転数の制御が難しくなっているな」

 

 

 

先ず、ウォームアップ走行を終えた操縦手の麻子が頷き乍ら新しいⅣ号のエンジンの印象を語ると車長兼チームリーダーのみほが「うん」と答えた後……

 

 

 

「今迄より微妙なアクセル操作が要求される分、慣れないとスピンやエンストばかりして動けなくなるから注意して」

 

 

 

と告げて“明美がチューンしたエンジンを扱う際のリスク”を説明すると麻子は微笑み乍ら「分かった」と答えた後、こう続けた。

 

 

 

「今のウォームアップ走行で、新しいエンジンの癖は掴めたから心配しなくて良い。此処からは全開走行を試してみる」

 

 

 

其れに対してみほは「うん、気を付けて!」と元気良く答えると“あんこうチーム”Ⅳ号戦車H型仕様は勢い良く戦車演習場を駆けだした。

 

するとⅣ号から、此れ迄とは違って重低音の効いた迫力が有り乍ら“オーケストラが奏でるシンフォニ(交響曲)ー”の様な艶の有るエンジン音が演習場内に響き渡り、其の様子を眺めて居た戦車道チームの仲間達も時が経つのを忘れる程、其のエンジン音に聞き入っていた。

 

特に“ウサギさんチー(M3中戦車リー)ム”リーダー兼車長・澤 梓が笑顔で「Ⅳ号のエンジン音が凄く良い響きだね!」と語ると“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”車長・エルヴィンは「しかもⅣ号の動きが以前よりも明らかに素早くなっている!」と答え、Ⅳ号の機動力が想像以上に高まっている事をチームの仲間達も実感していた。

 

其処へ“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”操縦手・萩岡 菫が「冷泉先輩、ほぼ完璧に明美さんがエンジンチューンをしたⅣ号を乗り熟していますよ!」と告げた処、其の声を聞いた原園車輌整備工場長・刈谷 藤兵衛が感嘆しつつ……

 

 

 

「凄いな、麻子ちゃんは!もう“原園チューン(明美のエンジン)”の特徴を見抜いたか!」

 

 

 

と語ると、彼の部下で会社では整備課副班長を務める張本 夕子も「西住さんもだけど、冷泉さんも天才だよ!社長の組んだエンジン特有の癖をウォームアップ走行1回だけで掴んで自分の物にするなんて!」と興奮気味に語る姿を見た明美が不敵な笑みを浮かべ乍らこう言った。

 

 

 

「其れが分かる()達だからこそ、決勝戦に備えて“あんこうチーム(Ⅳ号戦車H型仕様)”用エンジンのチューンを済ませて置いたのよ!」

 

 

 

そして“ドヤ顔”を浮かべて仁王立ちを決めた彼女の姿を見た娘・嵐は……

 

 

 

『うん。()()()()は私も母さんの言う通りだと思う』

 

 

 

と呟いた為、隣に居た瑞希がニヤリと笑い乍ら……

 

 

 

「おっ、珍しく明美さんと(母と娘)嵐の意見が一致したわね!流石は“原園チューン”!」

 

 

 

とツッコミを入れたので、言われた嵐は当惑気味の声で『そ…そりゃ、西住隊長と麻子先輩の腕前が良いから!』と答えた処、其れを聞いた舞が笑顔で……

 

 

 

「嵐ちゃん、()()()()になってるよ♪」

 

 

 

と言った為、嵐は顔を真っ赤にして『舞は黙っていて!』と叫んだ。

 

 

 

其れに対して彼女は「わーい、嵐ちゃんに怒られちゃった♪」と反省の色を一切見せずに御道化た声で答えた処、其れを見ていた良恵が嵐に向けて恐る恐る問い掛けて来た。

 

 

 

「嵐…“原園チューン”って、戦車道の世界ではそんなに有名なの?」

 

 

 

其れに対して、問い掛けを聞いて居た明美が突然「ああ…私の知名度って、世間じゃあ其の程度なのね」と悲し気な声で呟くと手で涙を拭う様な仕草を見せるが、此れを見た嵐は猜疑心に満ちた声で……

 

 

 

『母さん、嘘泣きをするな!』

 

 

 

と叫んだ為、“嘘泣き”がバレたのに気付いた明美が舌を出し乍ら“アカンベェ”の顔芸を見せたのを見た嵐と良恵達が呆れ顔を見せる中、瑞希が「まあ、戦車道の事を良く知らない良恵達は無理無いか」と言った後、こんな事を語り始めた。

 

 

 

「実は“原園チューン”って、明美さんが結婚してからの呼び名で結婚前は旧姓の“石見チューン”と言われていたんだけど……」

 

 

 

と語った後、瑞希は“原園チューン”に付いての逸話を説明したのだが、要約すると以下の通りとなる。

 

 

 

嘗て、黒森峰女学園・高等部戦車道チームが西住 しほ隊長の下“戦車道全国高校生大会3連覇&公式戦3年間無敗”の金字塔を打ち立てた時代にチームの整備班長を務めた明美がしほの駆る隊長車・ティーガーⅠ重戦車の為に整備したエンジンは戦車道の専門家から「高校生のレベルを遥かに超えた“日本戦車道最強のエンジン”だ!」と絶賛され、其の時から彼女がチューンした戦車用エンジンは“石見チューン(結婚後は原園チューン)”と呼ばれる様になった。

 

事実、彼女がチューンしたエンジンを積んだしほ専用のティーガーⅠ重戦車は公式戦で一度も撃破された事が無いばかりか、試合中にエンジントラブルを起こす事すら無かった“無敵のエンジン”だったのである。

 

そして明美が黒森峰を卒業後、ドイツ戦車道プロリーグ『Deutschland-Panzerliga(ドイッチュランド・パンツァーリーガ)*1』の強豪チーム・ムンスターへスカウトされてチームの整備隊長を務めていた時代、彼女がチューンした戦車用エンジンは海外メディアから“漆黒の宝石”と称えられる程の高性能を誇ったのだ。

 

其の本領だが…実は、単純にパワーアップした出力やトルクでは無い。

 

と言うか、公式戦車道ではレギュレーションの規定上エンジンのパフォーマンスは向上出来る余地が有るとは言え、極端なパワーアップは出来ない様にされている。

 

其の為、“原園チューン”のエンジンも数値上の性能はノーマル仕様よりも数%程度向上しているに過ぎない。

 

そんな“原園チューン”エンジン最大の特長は“どんなに長時間回しても決して壊れない”点に有る。

 

此の特長は、試合によっては一昼夜に及ぶ事も珍しく無い上、メカニカルトラブルによる自滅も有り得る戦車道では非常に心強い要素であった。

 

反面、此のエンジンはアクセルに対する反応が非常に敏感になる特性が有り、其れ故に“ライバルの戦車よりも加減速が素早く行える”メリットが有るのだが、其の代償として生半可な腕の戦車乗りが扱うとコントロールが効かなくなってしまい、エンストやスピンの嵐に見舞われてロクに動かなくなるリスクが有ると言う代物だったのだ。

 

其の為、明美が自らチューンしたエンジンを使うのを認めた戦車長は、知られる限りで2人だけ。

 

先ず明美の同級生で、黒森峰女学園高等部・戦車道チーム隊長時代の西住 しほ。

 

そしてドイツ戦車道プロリーグの強豪チーム・ムンスターの隊長兼エースだったヴィルヘルミナ・ビスマルク。

 

何れも当時の“日本の高校戦車道史上・最強の隊長”と“欧州最強の戦車道チーム隊長”と称えられた戦車道のレジェンド的存在の2人にしか使い熟せなかったのだ。

 

其れが…此処へ来て3人目の“原園チューン”の使い手が現れた事になる。

 

 

 

と言った処で瑞希の説明が一段落した時、明美が笑顔で嵐に呼び掛けて来た。

 

 

 

「嵐♪貴女なら、私が手塩に掛けたエンジンをみほさんに預けた意味が分かるよね?」

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 

明美の意味深な言葉を聞いたみほ達戦車道チームの全員が驚きの声を上げる中、唯一明美を睨んでいた嵐が真剣な声でこう答えた。

 

 

 

『つまり…母さんは、西住先輩が“未来における世界一の戦車道チーム隊長になれる”、()()()()()のね!』

 

 

 

すると明美は再び不敵な笑みを浮かべると娘・嵐に向かってこう言ったのだ。

 

 

 

「思ったんじゃ無いわ…()()したのよ!」

 

 

 

「「「えーっ!?」」」

 

 

 

明美の発言を聞いた戦車道チームメンバー(註・みほと嵐を除く)が一斉に驚愕の叫び声を発する中、チーム隊長のみほと事実上のエース格である嵐もこう返す。

 

 

 

「明美さん…私が“世界一の戦車道チーム隊長になれる”なんて、急に言われても信じられ無いです!」

 

 

 

『母さん、本気なの!?』

 

 

 

だが2人の返事に対して、ずっと此処迄話を聞いて居た明美の秘書・淀川 清恵が感極まった声でこう叫んだ。

 

 

 

「社長、遂に長年探されていた“最強の戦車道チーム隊長”の候補生が現れたんですね!」

 

 

 

すると明美も今日一番の笑顔で清恵に向けて答える。

 

 

 

「うん!みほさんこそ、私が求める戦車道の理想に限りなく近い戦い方をする()よ!だからこそ私は“彼女の背中を一寸だけ押してあげる”わ!此の大洗の学園艦を守る為にも!」

 

 

 

其の言葉を聞いたみほは「私の背中を押してくれる…明美さん、其処迄私の事を信じてくれているんですか?」と問うた処、明美は大きく頷き乍ら「勿論!だから今度の決勝戦、確かにまほさん達黒森峰は強敵だけど、最後迄諦めずに戦いましょう!」とチームの皆に告げた処、其の様子をずっと見て居た明美の親友・周防 長門も満面の笑みを浮かべ乍らこう叫んだ。

 

 

 

「此れでハードウェアの心配は無くなった!無論黒森峰は()()()()()()()()()()!後はみほちゃん達全員が普段通りの戦い方をするだけだ!だから明美の言う通り、決勝戦は最後迄戦い抜こう!」

 

 

 

そんな感じで大人達から激励されたみほや嵐達戦車道チーム全員は一斉に「『はいっ!』」と答え乍ら、心の中でこう確信した。

 

 

 

「『明美さん達が此処迄西住隊長の事を信じてくれているのなら…私達は西住隊長を信じて決勝戦を精一杯戦い抜こう!』」

 

 

 

 

 

 

…まあ此の時、私・原園 嵐としては『今回ばかりは母の口車に乗るしか無い』と思い乍ら返事をしていたんだけど。

 

何と言っても、優勝しなければ母校を廃校の危機から救う事は出来ないのだから。

 

だから、其れから僅か2年後に西住先輩が本当に“世界一の戦車道チーム隊長”になって、私が先輩の率いるチームの“絶対的エース”になるなんて、思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

こうして生まれ変わったⅣ号戦車H型仕様によるテスト兼練習走行を成功裏に終えた翌日の戦車格納庫の中で、西住先輩は周囲を見渡した後、ホッとした声でこう呟いた。

 

 

 

「“カメさんチーム”の38(t)軽戦車は無事にヘッツァー駆逐戦車へ改造出来たし、ポルシェティーガーは自動車部の皆さんに乗って貰うとして……」

 

 

 

するとポルシェティーガーを点検中の自動車部の間で“戦車道トーク”が展開されている。

 

先ず“大洗一速い女”の異名を持つホシノ先輩が「コーナリングは任せて!」と言い出すと、ツチヤ先輩がノリノリの声で「ドリフト、ドリフト!」と連呼。

 

其れに対してスズキ先輩が冷静な声で「戦車じゃ無理でしょ」と返した為、ツチヤ先輩は「してみたいんだけどな」と零した処、自動車部々長・ナカジマ先輩がこんな指摘を……

 

 

 

「ミューが低い場所でモーメントを利用すれば出来なくも無いけど…後、雨が降れば尚良いね」

 

 

 

其処へホシノ先輩が「アクセルバックは如何かな?」と問い掛けるが、ナカジマ先輩は「ラリーのローカルテクニックだねー」と受け流していたのだが…其処へ5人目の自動車部員にして“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”操縦手・萩岡 菫が嬉し気な声でこんな事を言い出した。

 

 

 

「でも先輩方、一番良いのは雪上か氷上走行ですよ!私、大洗に来る前は実家が持っている裏山でブーンX4やTOYOTA 86等に乗って走っていたけど、冬場に雪が積もった時が一番楽しかったです。雪上だと路面が滑りやすくて運転が難しい分、ドリフトには向いているんです!」

 

 

 

すると自動車部の先輩方4人が一斉に……

 

 

 

「「「其れだ!」」」

 

 

 

と、まるで“カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲F型)”みたいな返しを入れた為、其の様子を眺めていた私は思わず……

 

 

 

『うわっ…自動車部の先輩方と菫の会話が熱過ぎる!?』

 

 

 

と叫んでしまった。

 

 

 

すると西住殿が苦笑し乍ら「うん」と答えた後、視線の別の方へ向けつつ「こっちは……」と呟くと……

 

 

 

「じゃあ、次は筋力トレーニング行くよー!」

 

 

 

“ニワトリさんチー(M4A3E8)ム”装填手・二階堂 舞がノリノリの声で“ねこにゃー”・“ももがー”・“ぴよたん”の「オンライン戦車ゲームプレイヤー出身の先輩3人組」のフィジカルトレーニングに取り組んでいた。

 

 

 

「「ハァハァ…ゼィゼィ……」」

 

 

 

彼女達は舞と一緒に連日続けている3㎞のランニングを終えた後、完全に息が切れた状態で水分補給を行っていたのだが、其の時“ねこにゃー”先輩が「戦車道って、本当に体力勝負なんだって思い知ったにゃー……」と零したのを聞いた私は……

 

 

 

『あっ…こっちは体力錬成で精一杯か』

 

 

 

と呟いたら、其れを聞いた西住先輩も「そうだね」と答えて居た処、戦車格納庫の扉が開いて人影が見えるのに気付いて……

 

 

 

「あっ!?」

 

 

 

と叫ぶと、其の様子を見ていた武部先輩が格納庫に入って来た相手の正体に気付いて声掛けをした。

 

 

 

「麻子、何処に行ってたのよ…あっ、那珂ちゃんと事務所の社長さん!」

 

 

 

何時もの様に遅刻して来た冷泉先輩は兎も角、意外な2人の来客に戦車道チームメンバーの視線も集中する中、私達の前にやって来た冷泉先輩は何時もの小声で「さっき戦車格納庫の入口で一緒になった」と事情説明をした為、私達チームメンバーも元気良く「「『那珂ちゃんと事務所の赤城社長さん、こんにちわ!』」」と挨拶をした。

 

其れに対して、今やメジャーデビューが決まった“大洗のアイドル”磯前 那珂ちゃんと彼女の事務所の社長・赤城 景子さんは会釈すると那珂ちゃんから「先ずは、冷泉さんから如何ぞ!」と話を振って来たので彼女も会釈を返した後、西住先輩の前に持って来た袋包みを見せて「じゃあ……」と呟きつつ……

 

 

 

「おばあから、差し入れのおはぎ」

 

 

 

と語った処、秋山先輩が「退院されたんですか?」と問うたのに対して冷泉先輩は「うん。皆に宜しくって」と答えた為、西住先輩も笑顔で「良かったぁ!」と返した処、冷泉先輩は微笑み乍ら「決勝戦は原園のおばあと一緒に見に行くって」と皆に語ってから……

 

 

 

「じゃあ此処からは那珂ちゃん、如何ぞ」

 

 

 

と話を振ると、那珂ちゃんが「うん」と小さく頷いてから西住先輩の前に立って、改めて挨拶をした。

 

 

 

「先ず、西住さん達・大洗女子学園の決勝進出おめでとう!」

 

 

 

其れに対して、西住先輩も「那珂ちゃんも“全国ローカルアイドルバトル”優勝とメジャーデビュー、おめでとう御座います!私達も此の間録画で決勝での那珂ちゃんのパフォーマンスを見て“可愛くて凄い!”と思いました!」と答えた処、那珂ちゃんも笑顔で……

 

 

 

「私も西住さん達と一緒に戦う気持ちで歌い切った御蔭で優勝出来たから、皆も今度の決勝戦は思い切り戦って来て!実は私……」

 

 

 

と語った処で、彼女は一旦言葉を切ると深呼吸してから、こう告げたのだ。

 

 

 

「今度の決勝戦、首都テレビからの依頼で“試合開始前の国歌斉唱(君が代)を担当する事になったんだ!」

 

 

 

「「『す、凄い!』」」

 

 

 

其の告白に私や西住先輩達戦車道チームメンバー全員が驚き且つ喜びの声を上げると、赤城社長が此の事について詳しい話をしてくれた。

 

 

 

「実はね、今回の国歌斉唱は対戦する両校と同じ出身県のアイドルによるデュエットで歌う事になったから、那珂は茨城県代表として歌う事になったのよ

 

 

 

「「へぇ~」」

 

 

 

其の説明で皆が納得していると、再び那珂ちゃんが「で、私は黒森峰の在る熊本県出身のアイドルと一緒に歌う事になっているんだけど……」と語った処、赤城社長がこう説明した。

 

 

 

「此方は試合当日迄シークレットになっているから、皆楽しみにして居てね。其れと那珂が歌う件も当日迄口外禁止で御願いします」

 

 

 

其れに対して、私達は一斉に「『はい!』」と答えると、那珂ちゃんがこう語ってくれた。

 

 

 

「此の件、事前に首都新聞の青葉さんに尋ねたら『大洗女子・戦車道チームの皆には那珂ちゃんが歌う件だけなら教えても良いよ』って言っていたから、皆試合当日迄他の人には絶対に洩らさないでね!」

 

 

 

此れに対して、私達も「「『はい、有難う御座います!』」」と答えた処、那珂ちゃんは「じゃあ、私も決勝戦当日は頑張るね!」と告げてから赤城社長と共に戦車格納庫から立ち去って行ったが、其の後で瑞希(ののっち)が一言……

 

 

 

「う~ん。決勝戦の国歌斉唱、首都テレビなら346プロダクションのアイドルを出すだろうから“346プロ所属で熊本県出身のアイドル”となると…誰だろう?」

 

 

 

と呟き乍ら考え込んで居ると、其の姿を眺めていた良恵が……

 

 

 

「若しかして那珂ちゃんと一緒に歌うのは…神崎 蘭子?

 

 

 

と口走った為、私は直ぐ様彼女へツッコミを入れた。

 

 

 

『良恵、あの中二病が入ったアイドル(蘭子)の言葉は熊本弁処か日本語ですら無いと思うよ』

 

 

 

すると彼女も「其れもそうだね…じゃあ、誰だろう?」と答えた処、呆れ顔を浮かべた武部先輩から「“らんらん()”…今、サラっと酷い事言ってない?」とツッコまれたので“如何答えようか?”と考えていたら……

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

突然、五十鈴先輩が何かを思い出したらしく、一言声を上げた後、心配気な声に変わって「みほさん。私、今日は此れで失礼させて頂いて良いですか?」と訪ねて来た為、西住先輩も「うん」と答えた後、武部先輩が「華、何か有るの?」と問うた処、彼女から……

 

 

 

「実は…土曜日から生け花の展示会が」

 

 

 

との話が寄せられたので、其れを聞いた西住先輩が「華さんが活けた御花も展示されるの?」と訪ねた処、彼女も「はい」と答えてくれた。

 

すると武部先輩が「わあっ、見に行くよ!」と嬉し気な声で答えると、彼女と同じ気持ちになった私もこう答えた。

 

 

 

『私も行きます!生け花は中学時代の友達がやっていたのを時々見ていたから好きなんです!』

 

 

 

すると此処迄心配気な表情を浮かべて居た五十鈴先輩は明るい声で「本当ですか!じゃあ是非!」と答えた為、私も『はい!』と答えたら、其処へ瑞希が()()()な声で……

 

 

 

「嵐、良かったじゃない?()()()()()()が決まって」

 

 

 

『へっ?』

 

 

 

思わず私は妙な声を上げてから瑞希の顔を見たが、彼女はニヤリと笑い乍らこんな事を言い出した。

 

 

 

「忘れていないよね?アンツィオ高との二回戦の時“勝ったら、梓とデートする約束”をした事を?」

 

 

 

『ゲッ!?』

 

 

 

彼女からの鋭い指摘に、アンツィオ戦での出来事を思い出した私は思わず大声を上げたが…次の瞬間、何時の間にか瑞希の隣に来ていた梓がこんな質問を!

 

 

 

「五十鈴先輩、土曜日の生け花展示会の会場は何処ですか!」

 

 

 

瑞希、アンタ!

 

本気で私と梓を百合の道に誘い込もうなんて…恨んでやる!

 

 

 

(第85話、終わり)

 

 

*1
本作独自設定。詳細は第44話「連絡船でお話しします!!」を参照の事。




此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第85話をお送りしました。

決勝戦の準備が着々と進む中、遂に明美さんも本気を出しました。
今回、高校とドイツ戦車道プロリーグ時代に戦車道の専門家やメディアから称賛される程のエンジンチューナーだった事が明かされた明美さんが西住殿達“あんこうチーム”の為にⅣ号戦車のエンジンを自らの手でチューン!
エンジン回転数のコントロールが難しくなると言うリスクと引き換えに“絶対壊れない”と言われる程の耐久性とアクセルに対する鋭い反応で素早い加減速が行えるポテンシャルを持つ明美さんのエンジンは西住殿達“あんこうチーム”にどれだけの力を与えるのか?
そして、決勝戦への激励の為にチームを訪れた那珂ちゃんから“決勝戦開始前の国歌斉唱を行う”と言うサプライズが!
しかも、黒森峰と同じ熊本県出身のアイドルとデュエットでと言うオマケ付きですが…さあ、決勝戦の国歌斉唱を那珂ちゃんと一緒に歌うアイドルは誰だ!?(爆)
以上、此の二つの話の展開については、決勝戦開始迄楽しみにして下さい。

更に…いよいよ次回、嵐と梓がデートで御座います(迫真)。
只、今後7月以降にパソコンの買い替えと書評の依頼を控えており、現状では次回以降の投稿が遅れる可能性が高い為、暫く御待たせすると思いますので、予めご了承下さい。
詳細は随時活動報告でお知らせします。

其れでは、次回をお楽しみに。

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