戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない   作:瀬戸の住人

98 / 114

漸く全国大会決勝戦の開始前迄辿り着きました。
皆様、本当に有難う御座います。
只、此処から決勝戦の終わりを書き上げる迄、何年掛かるか分からない模様(絶望)。
と言う訳で…其れでは、どうぞ。



第89話「決勝戦・直前の様子です!!」

 

 

 

此処は静岡県御殿場市に在る陸上自衛隊・東富士演習場。

 

今日は“第63回戦車道高校生全国大会”決勝戦『熊本県代表・黒森峰女学園対茨城県代表・大洗女子学園』の試合会場となっている為、入場口から観客席迄の通りには朝から数多くの出店が立ち並んでおり、其処では試合開始を待っている観客達が出店に用意されている弁当・飲み物・スイーツ類に御土産(其れもプラモデルやラジコン等の戦車関連グッズが中心)を購入している他、通りの途中に設置された広場では展示されている旧・日本陸軍の九七式中戦車に子供が登ってスマホを持った母親に画像撮影をして貰う光景が繰り広げられている中、其の一角では大洗女子学園の生徒が手の平サイズのハイビジョンカメラで、熱心な声で喋っている別の生徒を撮影していた。

 

 

 

「はい!私は今、決勝戦会場に来ています。いやーっ、凄い人出、熱気ですね!」

 

 

 

今、カメラの前で熱心に喋っているのは大洗女子学園放送部員・王 大河。

 

彼女達放送部員は此の決勝戦で現地応援はせずに大洗女子学園・学園艦や大洗町内に設置されたライブビューイングで試合観戦をする一部生徒・父兄・関係者や大洗町々民の為に現地からの動画配信(勿論『学園関係者や地元の人達向けのライブビューイングでのみ配信する事』を条件に戦車道連盟と大会の放映権を持っている首都テレビの許可は得ている)を行う目的で戦車等が展示されている広場の撮影をしていたのだが、其処へ自分達よりも大規模な撮影機材を持った大人達が数人やって来ると……

 

 

 

「おはよう御座います!」

 

 

 

突然、栗毛のショートカットが印象的な明るい表情の若い女性が王に向けて話し掛け乍らマイクを差し出して来たのだ。

 

 

 

「はいっ!?」

 

 

 

予想外の展開に王が戸惑う中、若い女性は自己紹介を兼ねてこんな事を言って来た。

 

 

 

「首都テレビで“御昼のニュース”の取材を担当している首都テレビアナウンサー・永瀬(ながせ) (うらら)ですが、大洗女子学園の生徒さんですね?此れから始まる黒森峰女学園との戦車道全国大会決勝戦、母校の廃校撤回を賭けた大一番ですが、宜しければ今、どの様な御気持でいらっしゃるのか、一言御願いします!」

 

 

 

何と“決勝戦の取材をしていた放送部の自分達がプロのTV局に取材された”と言う事態に王は……

 

 

 

「え~っ!?私、今取材中なのに本物のTV局から取材をされちゃいました!」

 

 

 

と、此方も当惑気味の同級生が構えるハイビジョンカメラ目掛けて絶叫したのであった。

 

 

 

以上が決勝戦の試合開始迄、後1時間半余りの出来事である。

 

 

 

 

 

 

戦車道にのめり込む母に付き合わされてるけど、もう私は限界かもしれない

 

 

 

第89話「決勝戦・直前の様子です!!」

 

 

 

 

 

 

其の頃、私達大洗女子学園・戦車道チームは会場内に在るチームの戦車整備用ピット(コンクリート製の本格的な建物だ)の中で各チームが駆る戦車の最後の整備点検を行っていた。

 

其の時、ピット入り口から複数の人影が……

 

 

 

「『?』」

 

 

 

西住隊長と私がほぼ同時に人影に気付いて戸惑っていると……

 

 

 

「御機嫌よう」

 

 

 

聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長・ダージリンさんが声を掛けて来ると御付きの人である1年生・オレンジペコさんと一緒に私達の前へやって来た。

 

其れに気付いた西住隊長と私も……

 

 

 

「あっ、こんにちわ」

 

 

 

『ダージリンさんとオレンジペコさん、こんにちわ』

 

 

 

と挨拶した処、オレンジペコさんが「まさか、貴女達が決勝戦に進むとは思いませんでしたわ」と語りかけて来た為、西住隊長が「わ…私もです」と戸惑い気味の声で答えたら、ダージリンさんは微笑み乍ら……

 

 

 

「そうね。貴女方は此処迄毎試合、予想を覆す戦いをして来た…今度は何を見せてくれるのか、楽しみにしているわ」

 

 

 

と語ってくれた。

 

其れに対して西住隊長も「あ…頑張ります」と答えた直後、ダージリンさんの後方から新たな人の気配がしたと同時に……

 

 

 

「ミホーッ!」

 

 

 

サンダース大付属高校戦車道チーム隊長・ケイさんが大声で西住隊長に呼び掛けると若干興奮気味の声で……

 

 

 

「またExciting(エキサイティング)Crazy(クレージー)な戦い、期待しているからね!Fight(ファイト)!」

 

 

 

と激励をした処、西住隊長も「有難う御座います!」と答えた為、私もケイさんやダージリンさんへ向けて何か答えようとしたら、更なる掛け声が……

 

 

 

「ミホーシャ!」

 

 

 

今度はプラウダ高校戦車道チーム隊長・カチューシャさんが副隊長のノンナさんに肩車をされた状態でやって来たかと思うと何時もの調子で西住隊長に向けて呼び掛けた後……

 

 

 

「此のカチューシャ様が見に来てあげたわよ!黒森峰なんかバクラチオン並みにボコボコにしちゃってね!」

 

 

 

と言って来たのだが、其れを聞いていた私の相方・瑞希(ののっち)が呆れ顔で「彼女…“バクラチオン作戦*1”がどう言う戦いだったのか知らないのかしら?」と小声で呟く中、私も……

 

 

 

『確かに彼女の言う通り、バクラチオン作戦って旧ソ連軍御得意の“圧倒的な物量を背景にした縦深戦術理論の成功例*2”だからね……』

 

 

 

と心の中で呟いたが、気が付くと西住隊長は戸惑い気味乍らも「あ…あっ、はい!」と健気に答えていた…隊長御免なさい。

 

此処は私が一言、助け船を出すべきでした。

 

でも、此処で口を挟んだらカチューシャさんは怒っただろうからなあ…と私が思い悩んで居た時。

 

ケイさんから“思わぬ一言”が飛び込んで来た。

 

 

 

「其れと嵐、貴女にも激励をしたい人達が来ているわよ!」

 

 

 

其の発言に意表を突かれた私が『えっ!?』と大声を上げた処、目の前にケイさんの右腕であるサンダース大付属のNo.2(副隊長)・ナオミさんがやって来ると大声で……

 

 

 

「嵐!昨日の合同インタビュー、チームの皆と一緒にTVで見ていたけど“黒森峰をボコボコにする”と言った時はアタシも皆も盛り上がったぞ!」

 

 

 

と呼び掛けて来た為、昨日の“黒森峰をボコボコにする”発言が新たな“黒歴史”になってしまったと思い込んでいる私は頭がフリーズしてしまい……

 

 

 

『あ…ど、どうも』

 

 

 

と生返事をしたら、ナオミさんは両手で私の肩を掴んだ後……

 

 

 

「今になって固まるなよ♪何時もの御前の戦い方をすれば良いだけさ。なあ西住さん?」

 

 

 

と語り掛けた処、西住隊長は「あ…はい!」と明るい声で返事をしたので、私も苦笑いを浮かべつつ『は…はい、何時も通り戦って来ます』と答えたのだが、其処でふと西住隊長の横顔を見ると何と無く隊長の頬の辺りが赤いですが…まさか隊長、ナオミさんに惚れました?

 

そんな事を想像した瞬間“嫌な予感”がしたので秋山先輩の方を見ると先輩の目からハイライトが消えている…まさか、此れは嫉妬の表情では!?

 

と思って青い顔になった私がナオミさんへ一言声を掛けようと思って視線を彼女へ向けた処、当人はニヤリと笑い乍ら私へ向けて……

 

 

 

「じゃあ、次!」

 

 

 

と言われたので、意表を突かれた私が思わず『次?』と呟いたら……

 

 

 

「嵐!」

 

 

 

目の前に、群馬みなかみタンカーズ時代の親友にして、今はサンダース大付属の次期エース候補である原 時雨が勢い良く私に抱き着いて来た!

 

其の姿を見た西住隊長や秋山先輩・そして母校の仲間達が騒然となり、特に“ウサギさんチーム(M3リー中戦車)”リーダーで先日私とデートした澤 梓に至っては「えーっ!?」と悲鳴を上げる中、抱き着かれた私は完全に固まってしまっていると更なる声が……

 

 

 

「嵐…真っ昼間から()()()ね?」

 

 

 

と言って来たのは、此れ又群馬みなかみタンカーズ時代の仲間であると同時に昨年度のタンカーズ隊長だった大姫 鳳姫…いや、今はアンツィオ高校の一年生エース候補・マルゲリータだったから、慌てた私は……

 

 

 

『ち…違う!マルゲリータ、此れは時雨が勝手に!』

 

 

 

と釈明したのだが、其れを聞いた時雨は「ああ、御免ね。私もサンダースの仲間達と一緒にTVでの嵐の発言を聞いて“やっぱり凄いな”って思っていたから、つい大胆になっちゃった♪」と惚気たから、皆が一斉に「「「おおっ!」」」と叫び出し、梓は今にも泣きだしそうな表情で私を見詰めるので追い詰められた私は……

 

 

 

『ひええ!私、()()()()()()()なんてやっていません!』

 

 

 

と悲鳴を上げた時、“此の儘だと不味い”と気付いたらしいマルゲリータが仏頂面で「時雨…貴女の発言も誤解を招いていると思うけど?」と軽くツッコミを入れると、ツッコまれた相手は“てへぺろ”顔を浮かべ乍ら……

 

 

 

「御免。でもマルゲリータが“嵐は大洗で澤と言う新しい彼女を作った”って言ったから、つい、ね♪」

 

 

 

と“釈明と言うよりは爆弾発言”と取られかねない話をした為、梓が「えっ!?」と驚きの声を発したのを聞いた私は真っ青な顔で……

 

 

 

『止めて、時雨…本当に心臓に悪いから!』

 

 

 

と叫んだ処、漸く時雨も“てへぺろ”顔を止めると「御免、御免。嵐に百合の趣味は無いって言うのは知っているし、私もストレート(異性愛者)だから」

 

 

 

と答えたので、漸く私も『ああ…良かった』と胸を撫で下ろしていると再び彼女が……

 

 

 

「でも、今日の決勝戦は母校の廃校撤回を賭けた大一番だけど、嵐は緊張してない?」

 

 

 

と話し掛けて来た為、西住隊長達は皆当惑気味の表情を浮かべていたが…私は“此れは絶対に言われるだろう”と思っていたので表情を引き締めた後、凛とした声でこう答えた。

 

 

 

『任せて!TVで“黒森峰をボコボコにする”って言ったのは本心だし、打つ手も考えてあるから』

 

 

 

私の声を聞いた西住隊長達がホッとした表情を見せる中、時雨は大きく頷くと皆を励ます様な大声でこう言った。

 

 

 

「嵐、此の試合が終わったら、また私達サンダースと一緒に練習試合をやろう!嵐と西住さん達が心を一つにして戦う限り、大洗女子は絶対廃校になんてならないよ!私はそう信じてる!」

 

 

 

『うん!』

 

 

 

と、時雨の声に私が答えた後、彼女の隊長であるケイさんが笑顔で「言ったわね、“シーズー(時雨)”!誰もミホ達の事を心配して廃校の事は言わなかったのに」と問い掛けると、時雨は背筋を伸ばしてから……

 

 

 

「廃校の事は言うべきか否か迷いました…だけど、言葉にしないと伝えられない気持ちも有りますから!」

 

 

 

と答えたのに対してケイさんが笑顔で「Good(グッド)!皆を励ます為に勇気を出すのも激励の大事なPoint(ポイント)だものね!」と返した処、彼女達の話を聞いていたカチューシャさんが「ケイ、アンタの所の新人は中々やるじゃない。興味が出て来たから、今度大洗と練習試合をやる前にウチとやりなさいよ!」と話し掛けた処、ケイさんは「考えて置くわね♪」と返したのだが…此処で西住隊長が頻りに周囲を見回した後、当惑気味の声でこんな事を問い掛けて来た。

 

 

 

「あの、マルゲリータさん…アンチョビさん達は?」

 

 

 

其れに対して、問い掛けられた相手が何か言い難そうな表情で立ち尽くしている姿を見た時雨が不安げな声で……

 

 

 

「そう言えばマルゲリータ。アンツィオ高の人達、決勝戦はチーム総出で大洗の応援に行くって言っていたよね…誰も来ていないみたいだけど如何したの?」

 

 

 

と問うた処、彼女は目からハイライトが消えた状態で「実は……」と小声で答えた為、心配した私は……

 

 

 

『何か、良く無い事でも有ったの?』

 

 

 

と質問したら、何と彼女は大声で……

 

 

 

「“ドゥーチェ(統領/アンチョビ)”とアンツィオの仲間達全員は、東富士演習場近くの裏山で未だ寝ているんです!」

 

 

 

「「『ええーっ!?』」」

 

 

 

マルゲリータからの“トンデモ無い告白”で、周りに居た全員が驚愕の叫び声を上げる中、彼女が涙乍らに告白した内容は次の通りだ。

 

 

 

 

 

 

アンチョビ隊長・ペパロニ&カルパッチョ副隊長達アンツィオ高校戦車道チームのメンバー全員は、メガホン・双眼鏡・横断幕に多数の小旗や大旗・更には鮟鱇のゴム風船迄揃えた程の完璧な応援準備をした後、母校を出発して東富士演習場近くの裏山に“一番乗り”で集合したのだが、悪い事に到着時刻が決勝戦の前夜。

 

何でもアンチョビ隊長曰く「物事を進めるには、慎重な位が丁度良いんだ!」との事だが、幾ら何でも到着時間が早過ぎた事が、此の後起きる“悲劇”の発端になってしまった。

 

何故なら彼女達は、何と夕食(其の為に態々釜を炊いて湯を沸かし、本格的なイタリア料理を作ったのだから、正直凝り過ぎだ)を兼ねた“前祝の宴会”を深夜迄やった挙句、何とか目覚ましをセットしてから就寝したマルゲリータが翌朝……

 

 

 

「しまった、もう、こんな時間!早く身支度をして試合会場へ行かないと試合開始に間に合わない!」

 

 

 

と叫んでから皆の様子を見た次の瞬間……

 

アンチョビ隊長以下、チームメンバー全員は未だグッスリ寝ていたのだった!

 

此の事態に焦った彼女は必死になって皆を起こそうとしたのだが…ペパロニ&カルパッチョ副隊長や仲間達は勿論の事、アンチョビ隊長でさえ何度も起こそうとしても全く反応しない有様。

 

其の結果、今から出発しないと決勝戦の開始に間に合わないと悟ったマルゲリータはアンチョビ隊長が寝ている場所に……

 

 

 

「もう出発しないと間に合わないので、先に東富士演習場内の試合会場へ行って来ます!“ドゥーチェ(統領/アンチョビ)”達も起きたら直ぐ来て下さい! Byマルゲリータ」

 

 

 

と書いた書置きを残して、1人で此処迄やって来たのだった。

 

 

 

『うわっ…其れはシャレにならない!』

 

 

 

マルゲリータの告白を聞いた私が驚愕の叫び声を上げると、一緒に話を聞いていたチームメイトの萩岡 菫も呆れ顔で……

 

 

 

「あそこの“アンツィオ時間”って凄くルーズだって聞いていたけど、そんなに凄いとは……」

 

 

 

と絶句する中、同じくチームメイトである二階堂 舞が首を傾げ乍ら……

 

 

 

「アンツィオ高の人達って、先生から“朝寝坊をしてはいけません”って注意されていないのかな?」

 

 

 

と訝しんだが、其処へチームメイト兼私の親友・野々坂 瑞希(ののっち)が……

 

 

 

「舞。あそこはね、先生も御寝坊さんが多いのよ」

 

 

 

と“想像の斜め上を行くツッコミ”を入れたので、私やみなかみタンカーズの元メンバー(瑞希・菫・舞・時雨・マルゲリータ)を除く全員が大声で……

 

 

 

「「「マジか!?」」」

 

 

 

と叫んだ為、居た堪れなくなったマルゲリータが……

 

 

 

「アンツィオの皆、此れさえなければ最高の仲間達なのですが……」

 

 

 

と呟いたので、皆がどうやって彼女を慰めようか悩んでいると、サンダース大付属のNo.3(副隊長)・アリサさんがやって来て……

 

 

 

「ケイ、そろそろ試合開始の時間だ!」

 

 

 

と告げた為、先ずケイさんが「じゃあミホ、そして大洗の皆、Good luck!」と激励してからナオミさんや時雨と一緒にアリサさんが運転するフォードM151MUTT*3に乗り込んでから颯爽と走り去る。

 

すると今度は、カチューシャさんが何時もの様に「じゃーねー、ピロシキ~♪」と皆に告げたのに続いて、彼女を肩車しているノンナさんが流暢なロシア語で「Дасвиданья(ダスビダーニャ)(また御会いしましょう)」と挨拶してから其の儘カチューシャさんを肩車して私達の前から立ち去って行く。

 

そして、ダージリンさんも此の場から立ち去るのだろうと思っていた時、彼女が西住隊長へ向けて、こんな問いかけを発して来た。

 

 

 

「貴女は不思議な人ね。戦った相手皆と仲良くなるなんて」

 

 

 

すると隊長は「えっ…」と当惑気味に呟いた後、少し照れている様な表情を浮かべつつ……

 

 

 

「其れは、皆さんが素敵な人達だから」

 

 

 

と答えたので、私も小さく頷き乍ら『そうですね、先輩。皆自分達なりの戦車道を持っていて、尚且つ試合が終わったら戦った相手を讃えてくれるから、私達も其れに対して敬意を持ってキチンと答えられる』と語った処、ダージリンさんは「フフ……」と微笑み乍ら、意味深な言葉を告げた。

 

 

 

「貴女達に英国の諺を贈るわ」

 

 

 

“四本足の馬でさえ躓く。強さも勝利も永遠じゃないわ”

 

 

 

其れに対して、西住隊長が「あっ、はいっ!」と答える中、私もハッとなり『確かに、私達も此の決勝で勝てる保証は何一つ無いし、其れは相手の黒森峰も同じだ!』と気付いて改めて闘志を燃やすと、ダージリンさんへ向けてこう答えていた。

 

 

 

『ダージリンさん!決勝戦も気を抜く事無く、最後迄諦めずに戦いますから、次に試合をする時迄待っていて下さい!』

 

 

 

其れに対して、ダージリンさんも無言だが私に向けて微笑みつつ頷いてくれた時……

 

 

 

「嵐!」

 

 

 

私を呼ぶ声が聞こえて来たので、西住隊長達が声のした方へ視線を向けた時、私は相手に向かって元気良く答えた。

 

 

 

『ヤイカさん!』

 

 

 

するとボンプル高校・戦車道チーム隊長は何時も通りの“不敵な笑み”を浮かべ乍ら私に向けて右手を上げると、其の意図を察した私は彼女に向けて小さく頷いてから一言……

 

 

 

『行って来ます!』

 

 

 

と答えてから互いの右手でハイタッチを決めるとヤイカさんは不敵な笑みを浮かべた儘、私に向けて軽く頷いてから無言で通り過ぎて行く。

 

更に其の様子を目撃したダージリンさんとオレンジペコさんも私達に向けて会釈をしてからヤイカさんの後を追って此の場から立ち去って行った。

 

そして、ふと私は腕時計を見た後……

 

 

 

『西住隊長、そろそろ試合開始です。審判団から指定された集合場所へ向かいましょう』

 

 

 

と告げると、隊長は小さく頷いた後、皆へ向けて号令を掛けた。

 

 

 

「皆さん、此れから集合場所へ向かいます!焦らず事故の無い様に気を付けて下さい!」

 

 

 

さあ…愈々“母校の廃校回避を賭けた大一番”の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

「ヤイカ…あの挨拶(ハイタッチ)だけで良かったの?」

 

 

 

一方、みほや嵐達・大洗女子学園戦車道チームメンバーと別れて、オレンジペコと共に観客席へ向かっているダージリンは先を進んでいたヤイカに追い付くと“先程の嵐との邂逅”について指摘をしたが、された当人は先程よりは柔和な表情を浮かべると落ち着いた声でこう語った。

 

 

 

「良いのよ…彼女も分かってくれる。彼女はね、私達“強襲戦車競技(タンカスロン)”で戦っている戦車乙女達にとっての“希望”なのよ」

 

 

 

其の言葉に対してダージリンが軽く頷き乍ら「なるほどね」と呟くと、其の意味を図りかねたオレンジペコが「何故、原園さんが“強襲戦車競技(タンカスロン)で戦う乙女達の希望”になるのですか?」と問い掛けた処、ヤイカは不敵に笑いつつ「だから、公式戦車道しか知らない()は世間知らずなのよ」と彼女をイジった後、其の問いに答えたのである。

 

 

 

「原園は戦車道だけの乙女じゃない。母親である明美さんから“戦車の差を超えた戦い方”を叩き込まれ、更に強襲戦車競技でも揉まれ続けて来た事で“戦車道の表も裏も熟知している戦車乙女”なのよ。だからこそ、彼女は私達では出来なかった“打倒・黒森峰”を成し遂げられる力を秘めている」

 

 

 

其処で、彼女は一旦話を区切って一呼吸置いた後……

 

 

 

彼女()は本気を出せば“チームのエース”になれる力を持っている。そして、今の大洗女子には“一匹狼”で誰にも頼ろうとしなかった彼女が心を許せる隊長・西住 みほが居る」

 

 

 

と語った後、こう締め括った。

 

 

 

「つまり原園と西住の2人が力を合わせれば“黒森峰に勝って母校の廃校を阻止する”と言う御伽噺(おとぎばなし)が現実になるかも知れないわ」

 

 

 

 

 

 

一方、此方は東富士演習場内に設けられた、大洗女子学園側の応援席。

 

此処では“大洗女子・中等部4人組”の五十鈴 華恋・武部 詩織・若狭 由良・鬼怒沢 光の前で、彼女達の友人である若い社会人の女性が困惑気味の声で「大変な事になっちゃった……」とボヤいていた。

 

 

 

其処へ華恋が「古鷹(ふるたか)さん、如何したのですか?」と彼女を名前で呼び掛けると彼女は自分達の居る応援席の最前列から後ろを振り返って一言……

 

 

 

()()よ……」

 

 

 

其れに対して応援席の様子を見た詩織が「アレって、“J”のサポーターさん達じゃないですか?古鷹さんが“今日応援に来る”と言っていた水戸の人達*4では?」と答える。

 

実際、其処には様々なユニフォームやキャップ・ミサンガ等のチームのグッズを身に着けた人々の一団が他の応援団と一緒に大洗女子の小旗やタオルを掲げて声援を送っていた。

 

だが、此処で応援席を眺めて居た由良が怪訝そうな声で……

 

 

 

「でも、妙に人数が多過ぎるし、水戸とは違うユニフォームやグッズを持っている人も沢山居る様な気がするんだけど?」

 

 

 

と問い掛けた処、其の社会人の女性・古鷹(ふるたか) 晶海(あきみ)は頭を抱えつつ……

 

 

 

「其の通り…実は私も所属している水戸のサポーターズクラブの代表が“関東近辺に在るチームのサポーターズクラブ”にも“皆も大洗女子を応援しに行こうぜ!”って声を掛けたら、呼び掛けられたメンバーが更なる声掛けをしたので人数が鼠算式(ねずみざんしき)に増えたらしくて。代表達の推定だけど其の数はざっと4千人位

 

 

 

と告白した処、話を聞かされた“大洗女子・中等部4人組(華恋・詩織・由良・光)”は驚きの余り……

 

 

 

「「「何ですと!?」」」

 

 

 

と叫んだが、古鷹は困惑気味の声で「其れだけじゃ無いのよ……」と告げてから、更なる告白をしたのである。

 

 

 

「実は席の都合で、黒森峰の応援席の隣にも浦●と鹿●*5のサポーターが陣取っているんだけど…あの2つのクラブは昔から色々と因縁が有るのに、今はサポーター同士肩を組んで大洗女子や西住さん達に声援を送っているわ」

 

 

 

其れに対して、光が冷や汗を搔き乍ら「え~と…其れって“J”の試合では有り得無いんじゃあ?」と問い掛けると、古鷹は一言……

 

 

 

「多分、日本代表の試合以外では有り得ない事態よね」

 

 

 

と疲れ果てた声で答える姿を見た“大洗女子・中等部4人組(華恋・詩織・由良・光)”は……

 

 

 

「「「ア…アハハ……」」」

 

 

 

と、乾いた笑い声を上げるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

(第89話、終わり)

 

 

 

*1
第二次大戦中の1944年6月22日(独ソ戦開戦日から3周年に当たる)に、ソ連軍が自国領土を占領中だった東部戦線のドイツ軍を撃破する為に発動した反撃作戦。作戦名はナポレオンによる1812年のロシア戦役中に戦死したロシア軍の将軍の名(ピョートル・イヴァーノヴィチ・バグラチオン)に因んでいる。此の作戦によってソ連軍は東部戦線のドイツ軍主力を撃破して自国領土全域を奪回した。

*2
バクラチオン作戦の特徴が此の一言に集約される。ソ連軍は此の作戦の為に約125万の兵力を結集(此の時の対象戦域に居たドイツ軍兵力は約85万)、東部戦線のドイツ軍に対して戦車・自走砲で約5倍、航空機も約5倍、砲兵戦力も約2.5倍と言う圧倒的な兵力差でドイツ軍拠点や部隊を包囲撃滅し、米国からレンドリースで供与された多数のトラックによる補給部隊の支援によって敵陣の奥深く迄突進してソ連領内に居たドイツ軍主力を撃滅した。

*3
第二次世界大戦後、フォード社がジープの後継として開発した米軍の1/4トン積み軍用小型車輌。1960年に採用された事から“ケネディジープ”(当時の大統領の名に由来)と呼ばれるが初期型はリアのサスペンション形式の問題からコーナリング時の横転事故が多発した為に後期型でサスペンション形式が変更された他、米軍では退役後は其の儘の形では民間に払い下げられず、車体を切断して解体された。其の為、旧車趣味の世界等で流通している個体は米軍以外の海外の軍隊からの払い下げか解体車輌を溶接して復元した物なので、原作TV版第10話に登場したサンダース大付属が持っている車輌もそう言う物だと思われる。

*4
本編第82話「此れにて準決勝・終了です!!」を参照の事。

*5
規約遵守の為、名称は一部伏せますが、どっちもユニフォームの色が赤です。





此処迄読んで下さり、有難う御座います。
第89話をお送りしました。

と言う訳で、前半は各校隊長による激励でしたが…本作では其処に嘗ての嵐の仲間・時雨とマルゲリータ、そしてボンプル高のヤイカ隊長も登場し、夫々嵐へ激励を。
まあ、時雨は誤解に満ちた激励内容でしたが…嵐ちゃんモテモテだもん、ちかた無いね!(爆笑)
一方、マルゲリータの告白内容は御察しの通り、アンツィオ編OVAエンディング後のパートで描かれた出来事が原作です…まあ、マルゲリータも原作のアンツィオには居ない真面目+苦労人ポジション(苦労人だけならドゥーチェが該当するが……)の娘だから、ちかた無いね。(笑)
そしてヤイカの登場は「公式戦車道では勝てないから強襲戦車競技(タンカスロン)を主戦場としている戦車乙女達」の立場から、公式戦車道と強襲戦車競技の両方で戦って来た嵐に“黒森峰を倒す”願いを託す役割を担っています。
実際、自分が本作を書いている内に原作キャラの中で一番立ち位置が変化したのがヤイカだと思っています。此れは強襲戦車競技の世界で以前から嵐と戦って来たと言う裏設定が有ったのが原因だと思っていますが、こうなると本作世界での「リボンの武者」も物語の内容が多少変わって来るかも知れないですね(だからと言って、其の話を書くとは言っていない)。

そして後半では、大洗女子の応援が切っ掛けで“大洗女子・中等部4人組”と友人になった“若い社会人の女性”の名前が判明…はい、オッドアイが特徴的な某・重巡洋艦娘がモデルです(爆)。
其れと彼女が第82話「此れにて準決勝・終了です!!」で語っていた「決勝戦では彼女も所属する“J”のチーム・水戸のサポーターズクラブが応援に来る」と言う話が現実になりましたが…何と、他チームのサポーターズクラブも巻き込んで大勢のサポーターが大洗女子を応援する為に東富士演習場へ集合する事態に。
因みに、此れが決勝戦で起きる或る出来事の“フラグ”になっていますので、御注目を。
一体、決勝戦で何が起きるのか?

其れでは、次回をお楽しみに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。