「うっかり家元に手を出してしまいそうになるエリまほ前提のエリしほ」
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長串さん自身が酔っぱらった状態で書いているので気にしないでね!
自分の仕出かした不始末をアルコールのせいにするような人間は大抵ろくでもない奴らだ。アルコールで酩酊状態に陥るのはまともな教育を受けた人間なら誰でも知っていることだし、明瞭な意識を保てない位にアルコールに弱いとわかっているならば最初から自重するべきなのだ。確かに、呑まざるを得ない状況、涙と一緒に酒を呑む羽目になるアルコール・ハラスメントなど、アルコール摂取を拒めない場合はあるかもしれない。しかしだからといって、アルコールが全ての免罪符になるという考え方は最低なものだと思う。結局のところは自分の意志の弱さが原因なのだ。貧困が、環境が、社会が冷たい北風となって襲い来る中、酒に逃げる他なかったと、そう涙するものもいるだろう。しかしそれでも私は言わねばならない。あなたは抗わなくてはならなかったのだと。
何が言いたいのかと言えば、この一言に尽きる。
「……もう金輪際、酒なんて飲まないわ」
頭痛と胃痛と嘔吐感に盛大に顔を顰め、辛うじて体にまとわりついていた寝間着を直して、上り過ぎた朝日を睥睨する。
抗えなかった結果の地獄絵図に背を向けて、私は酒精から逃げるように爽やかな朝の空気を深く吸い込んだのだった。
まだ肌寒い春先、梅の花から桜の花へと切り替わる頃、私はこの世に生を受けた。その生か知らないが、私は春が好きだ。年度末であり、別れの季節でもあるが、それだけに一年の全てが思い起こされ、そしてこれからの一年へと思いを馳せる、大きな節目なのだと思う。
だから誕生祝をしてもらうと、ついぶっきらぼうに応対してしまうが、実のところ結構嬉しい。黒森峰を卒業するときも、お別れも兼ねて盛大に祝ってもらった時は堪えきれず涙を溢してしまい、鬼の攪乱だと散々からかわれたものだ。追い出し戦でぼろくそにしてやったというのに堪えない連中だ。お返しに一年の総浚えとして各車に手厳しく批評をしてやったら、却って待ってましたとばかりに拍手で迎えられ、お家芸扱いされてしまった。
そんなこともあって密かに毎年の誕生日は楽しみにしていたのだが、今年は少々訳が違った。
ポンコツアンドロイドもとい西住まほ元隊長の後を追って大学進学し、そして今年の誕生日でついに私は二十歳になるのだった。物理的には大した変化はないのだろうけれど、しかし成人するというのは社会的には大きな節目だし、心理的にもいよいよかと奮うものがある。
ある、のだが、その二十歳の誕生日当日、私は同棲中のアパートでゆっくりするでもなく、実家に帰るでもなく、どうしてかド田舎のお屋敷にお邪魔していた。その筋の人間にとっては一つの聖地でもある、言わずと知れた西住本家邸宅である。
少し前からまほさんには、折角二十歳の誕生日なのだから一緒に酒を飲んでみないかと言われていて、実家にも恋人と過ごすからと連絡は入れていた。いささか常人とは感性のずれた、お嬢様育ちの上に頭のネジの外れたまほさんのことだから大抵の事では驚かなくなっていたが、まさか当日の早朝からたたき起こされて実家に拉致られるとは思わなかった。
そしてご実家の方で待ち構えていたしほさんにも、よく来てくれたわね、誕生日おめでとう、などとお祝いの言葉を頂くのだから驚いた。娘さんと恋人関係にあることもあり、また互いに苦労性なこともあり、何かと親しくさせて貰っているが、戦車道西住流家元にご近所のお姉さんのようなノリで祝われるのは甚だ心臓に悪い。
まあこれが用意されたサプライズなら驚きながらも素直に喜べたが、これこれこういう訳でと訳を話したら、玄関に娘を正座させて説教する戦車道西住流家元と、まるで反省の色が見えない戦車道国際強化選手という雑コラみたいな絵面になってしまった。なおオプションで絶対に笑ってはいけない西住流を性懲りもなくやっている菊代さんがもれなくついてきた。
祝いの席は夕食にて、とのことで、昼は軽めのものを頂いて、腹ごなしがてら犬の散歩に付き合うことになった。大学では一応人目を気にしてか、カジュアルながらモデル雑誌から切り抜いたような恰好が多いので、まほさんがラフなTシャツにジャケット姿でリラックスして外を歩いているのはなかなか新鮮だった。家の中では全裸か下着かジャージの三択しかないし、もう少しいろいろ着て見て欲しいものだ。
まほさんのラフなスタイルにはそんなざっくりとした感想だったが、問題は犬のリードを引いているのが戦車道西住流家元である件だった。
「しほさん、犬の散歩するんですね」
「娘たちが出て行ったら、運動不足が気になったものだから」
そう言って恥ずかしげにするしほさんだったが、片手にビニール袋を引っ提げ、色落ちしたTシャツに二年前くらいの春物のカーディガン、ダメージ加工でない自然な色褪せと擦り切れの見られるジーンズを履き、いかにも適当に突っかけてきましたと言ったスリッポンに安っぽいサンバイザーと、かなり年季の入ったスタイルである。いつもは下ろしている髪を大雑把なポニーテールにまとめている辺りも新鮮だ。これを見て誰が戦車道の家元だと思うだろうか。私は思えない。
きりっと凛々しい顔で戦車道の未来について語り合っているのは大変結構な事だが、傍から見てる限り完全にそこら辺の近所の一般家庭の母娘だ。成人向けCG集なんかで何ページか後には町内会長のおじさんとか宅配のお兄さんとかにダブルピースしてる感じの。
ちょっと新鮮過ぎる光景に下世話な想像をしてしまったが、戦車道家元というワードと目の前のラフなスタイルがあまりにも釣り合わなかったために脳が混乱しているせいだと思って欲しい。
しかし、犬の散歩というからちょっとその辺りをゆっくり回ってくるくらいのものだと思っていたが、そこはそこ、西住流は伊達ではなかった。旦那が出張中に、などというタイトルをつけたくなる絵面ではあるが、現実は甘くなかった。
「今日は天気もいいですし、ちょっと走りますか」
「えっ」
「そうね。走りましょう」
「えっ」
躊躇いのない、良い走り出しだった。私も毎日ジョギングしているし、体力には自信のある方だった。なにしろ戦車道というものはとにかく体力勝負だし、そうでなくても体力お化けのまほさんの相手をしなければならないので、こちらも相応の体力を身に付けなければならなかったのだ。だからついて行くことは出来た。出来たが、まさかちょっと犬の散歩をと聞いていたのに、十キロばかり走らされるとは思わなかった。しかも40分切るかどうかというペースだ。不整地で、坂もある中、どう見ても玄関にあったの履いてきましたという靴で、しかものんびり会話を続けながらだ。そりゃあ化け物も生まれるわ西住家。
犬っころになんざ負けられるかという気持ちで何とかついて行ったけれど、途中途中で菊代さんがスポーツドリンクを差し入れてくれなかったら流石にきつかった。あれは助かった。助かったけれど、菊代さんは一体どこから出てきたのか。はなはだ不思議だったが、にやにやと絶対に笑ってはいけない逸見エリカを実行中だったのでぶん殴ってやりたいという気持ちの方が大きく、深く考えられなかった。
ようやく屋敷に戻ってきた頃にはすっかりへとへとで、ぜえはあとへたり込んでしまったが、さすがに体力お化けのまほさんはけろりとしたもので、ぴんしゃんして菊代さんからタオルを受け取って汗を拭いている。相変わらず顔だけはいいから、CMのワンカットのようだ。一方で、流石にそれなりに疲れたらしいしほさんは縁側に腰掛けてふうふうはあはあと息を整えながら菊代さんに汗を拭いてもらっているのだが、背筋はピンと伸びているし、私の様にだらしなくはない。
春先だというのに恐ろしく暑い。暑いというより、熱い。黒いジャケットなんて着てくるんではなかった。縁側にへばりついて涼を取りたいくらいだったが、なんとか矜持をかき集めて、猫背で座り込む程度で堪えていた。汗はだらだらとあとからあとから流れ出てくるし、呼吸はなかなか落ち着かない。見かねたしほさんがあらあらとタオルで汗をぬぐってくれる。流石に二児を育て上げただけあって手慣れた手つきなのだけれど、なんだか甘い臭いもするしみっともない顔を見せているのでやけに恥ずかしいし、などと思っていると今度は反対側からまほさんもタオルで拭いてくる。ありがたいはありがたいのだけれど、なにしろ手つきがなっていない。まるで戦車でも磨くみたいにするものだから痛い。そしてそれを眺めて菊代さんが古びたカメラのシャッターを切りまくっているのだからますます手に負えない。
そうして段々落ち着いてきた頃合いを見計らって、菊代さんが冷えたお茶を出してくれる。それも、小洒落た切子のグラスでなんて見目の良いものではなくて、武骨な大き目の茶碗に並々寄越してくれて、これが却って気が利いている。がぶりがぶりと呷るように呑み干せばとぷとぷともう一杯。それも呷って一息つくと、とくとくと半ばくらいまで注いでくれる。それをちびりとやれば、なるほど茶の甘みが心地よい。ふうと息をつけば鼻息に紛れて香りも立つ。いいお茶だった。
暫くそうして縁側で涼みながら茶を頂いて、茶菓子など齧りながら大学での事やまほさんとの生活などを話している内に、今度は汗が引いて冷えてきた。ぶるりと身を震わせると、そろそろいい時間だし、湯あみしてくるとよいと勧められた。その頃には夕餉の祝いの席も支度が整っているだろうと。
一応遠慮して見せると、まあまあと菊代さんに手を引かれる。そう仰ると思ってもう湯は沸かしてあるんです。無駄になりますからお気になさらずと言われれば、あえて固辞する理由もない。その上、家元もまほお嬢様も婿様もすっかり
畏れ多くも一番風呂を頂いてさっぱりとした気持ちであがると、浴衣が用意されていたのでありがたく着てみたが、いやに寸法があっていて少し不思議ではある。とはいえ、まほさんもざっくりとは寸法を知っているし、なにしろあの菊代さんという人は全く得体が知れないから、不思議ではあっても不気味ではない。そういうものなのだと思って受け入れてしまうと、諦めにも似た納得が落ち着いてしまうものだ。
案内された部屋でお茶を頂いていると、入れ替わりで風呂に向かったはずのまほさんが、大して間もおかずに戻ってくる。まほさんは風呂嫌いという訳ではないのだが、湯船にゆっくりと浸かるあまり性に合わないようで、てきぱきと体を清めてそれで終いという烏の行水だ。まあ綺麗にしてくる以上はそこまで言いはしないけれど、髪も余り拭かずに適当に済ませてしまうのはいただけない。
仕方がないと座らせて、後ろから髪を丁寧に拭いてやると、何だか心地よさそうに目を細めるものだから、もしかすると人に髪を拭いてもらいたいからいつもずぼらなふりをしているのではないかと思う時もある。最近髪を伸ばしてきているのもそのせいではないかと疑っている。
そうして暫くまほさんとのんびり過ごしている内に、しほさんも湯浴みを終えてやってきた。流石にしほさんは丁寧に髪も乾かして、すっかり戦車道家元の貫禄を取り戻している。
しばし歓談した後、菊代さんに呼ばれて移動した先には豪勢な膳が用意されていた。以前家族旅行でちょっと値の張る旅館に止まったことがあるが、まるで引けを取らない。戦車道家元とその娘によるプライベートな祝いの席となればそのプレミアは天井知らずだろう。私の中のミーハーな部分が叫びかけるのをなんとか理性で堪えた結果が、「んっふ」という空咳ともうめきとも取れる何とも言えない間抜けな響きだった。
まあこの位の事は予想の内だった。何しろまほさんはお嬢様育ちだから、なにかとこういう世間と些かずれた感性については知っているつもりだった。
問題は酒だった。
この集まりは、私の二十歳の誕生日を祝して、解禁されたお酒を楽しもうではないかというそういう一席だった。当初私が考えていたのは、まほさんと二人同棲しているアパートでワインの一本もあけて、というささやかなものだった。まほさんに今日の一席を提案されてからも、まあせいぜいちょっと手の届かないような銘酒や、蔵元から直接買い付けた様な焼酎だとかそういうものを考えていた。
ちょっと甘かった。
「………これは?」
「うん? 知らないか? ほら、あの……ぱっかーんってする奴」
「ぱっかーんってする奴」
「馴染みの所ので悪いが」
知っている。勿論知っている。知っているが、普通の女子大生はこんなものに馴染んだりしない。
樽酒じゃないの。しかも一斗樽。一斗って事はなんだ。一升の十倍で、一升瓶が1.8リットルくらいだから18リットルか。18リットルって事は5ガロンくらい。お酒にガロンって単位はじめて使った。大丈夫。テンガロンハットよりは下。
混乱する私を余所に、常識人枠だと思っていたしほさんも気にした風ではない。この人お酒弱い癖に感覚が麻痺してるんだろうか。いや、もしかしてこの場で私だけが常識はずれなのだろうか。私も戦車道一筋でやってきたから、そういう所疎いかもしれない。女子大生はみんなガロン単位でカクテルとか飲んでるのかもしれない。そんな世界滅びてしまえ。
そうこうするうちに菊代さんがカメラを構え、たった三人で鏡開きするという訳のわからない写真を撮られた上、なし崩しのまま酒宴が開催されてしまった。
乾杯は私の知っているそれと同じだった。グラスに酒を注いで、乾杯の音頭と共に掲げて、さて、口をつけてみる。私の中で日本酒のイメージというとなんだか、昔酔っぱらって帰ってきた父の嫌なにおいといったマイナスのイメージだったのだが、実際に自分で飲んでみるとまるでそう言った嫌な感じがしない。
切子の美しいグラスに注がれた中でもなおわかる程に美しく透き通って冴えがあり、透明なのだけれど、光の加減か不思議な色彩にも見えて面白い。
軽く香りを嗅いだだけではよくわからなかったのだが、口元まで運んでみると、ふわりと立ち上る香りがある。口の中で転がしてみると果物の様な甘い、しかしピンとした爽やかな香りが鼻へ抜けていく。呑みこんで喉を過ぎていくときにさえまた香りが喉で感じられる。不思議だ。そうして呑んだ後、ふうと一息つくと、今度は呑み込んだ筈のお腹の方からまた香りがふわんと上がる。一連の香りが、しかしべしゃりと残ることなく綺麗にさばけて消えていく。するとまた飲みたくなる。
また香りばかりではない。一口目は、やはり慣れない酒精に幾らか舌が困る所もあったけれど、暫くしてくると何となく味の方もわかってくる。日本酒というと透明だし、あんまり味なんてしないんじゃなかろうかと思っていたのだけれど、とてもとてもそうは言えない。具体的にこれの味だあれの味だというには私のボキャブラリーは余りにも貧困だったけれど、言うなればある種の旨味ともいうべきものがあった。掴みがたいはっきりとしない味覚信号なのだが、しかし舌の先から根元までを楽しませる様な幅と奥行のある味わいで、香りと味とがそろって舞い踊る様はこれぞまさしく馥郁というものだろうと思わせる。
そして酒は酒ばかりではなかった。何しろ元が米であるから、米のおかずには大抵合う、というとあまりにも大雑把かもしれないけれど、しかし膳の料理のどれとも喧嘩することが無い。いっそ白飯とさえ合う。成程酒飲みの気持ちもわかると一瞬思ったが、安酒ではこうもいかないのだろうなということが察せられるくらいにはまだ知性が残っていた。
朗らかな心地だった。いつもより三割増し位に楽しい気分で膳をつつき、美酒をきこしめし、美人な母娘と歓談し、或いは明日死ぬかもしれないなとやけに冷静に考えられるようなそんな一席だった。
ここで終われば全く良い一夜だったが、生憎私の人生というものは呪われているらしい。神にというか、運命にというか、或いは西住家に。
まず歯車が狂ったのはまほさんだった。元から狂っているのは狂っているが、アルコールが潤滑油になってブレーキが壊れたようだった。
まほさんは一年先に二十歳になり、大学の知り合いと飲むこともあり、酔ったまほさんをアパートで迎えることもあれば、同席して私の運転で一緒に帰ってくることもあった。そうしてわかったことだが、まほさんは飲む相手によって酔い方ががらりと変わる。気の持ちようで酩酊具合が変わるといってもいい。
大学の飲み会などで他人と飲むときは、ザルか枠かという具合でいくら飲んでもけろりとしているし、他の人間を気遣う余裕さえ見せる。そのまま戦車に乗り込んでも平気で転がすのではないかと思う位平然としている。しかし人目がなくなると途端にダメになった。出迎えるときであればアパートのドアをくぐるなり、車で連れ帰る時などそれこそ信号を二つ三つ挟む頃にはべろんべろんに酔っ払いの体を晒す。実に楽しそうに酔う。その癖記憶はしっかり残っているし、頭痛を訴えたことはないし、朝食に飯一合と味噌汁二杯をぺろりと平らげる。悲劇に酔うよりはよっぽどマシな酔い方だが。
どうやら母親の前というのもいまやまほさんにとって気を許していい場所になったようで、そのこと自体は大変喜ばしく、西住家の不和が取り払われたようでうれしいことこの上ないのだが、となりで蛸の様にぐでんぐでんになりはじめたのは参った。
私も酒のせいか体も頭も重くて普段の様に対応できないのもあったけれど、なにしろこのポンコツ、顔と体力だけはいいので、絡まれると大変だ。
まほさんは酔っぱらうと私にべったりくっついて、そして私の口に手を突っ込んでくる。私が何を言おうと嫌がろうと、蛇口が壊れたみたいにえりかえりかだいすきえりかと甘ったるい声を垂れ流してくるので手に負えない。
私は自分でも自慢できるくらい歯並びがいいのだが、その中で犬歯だけがちょっと浮いている。物理的に、頬の肉の上から触ってもわかるくらい、犬歯が大きい。よく口の中を噛んで口内炎になったりするので腹立たしいのだが、どうもまほさんはこの歯がお気に入りだ。言われるままにまほさんに歯形を散々つけてやったからだろうか。一番食い込むこの犬歯が大層お気に召したらしい。アルコールが入る度にまほさんはわたしにへばりついて、私の口をこじ開けては、うっとりとした顔で私の犬歯を撫でて遊ぶ。涎が溢れてだらだらと口の端からこぼれてもまるで気にした風もなく、実に楽しげに私の口内を指で弄ぶ。そうして私がむらむらしてくると、遊び疲れた子供のようにぐーすか眠りに落ちるので、生殺しも甚だしい。
いつもはまあ、まほさんを寝かしつけて、ソロプレイに勤しむかジョギングにでも出て熱を晴らしたりするのだが、なにしろ祝いの席である。抜けて出るにも忍びない。それになにより義母予定のしほさんの目の前でこんなプレイを見せるのはどうなのかと戦々恐々していたら、しほさんはしほさんで問題だった。
一杯目は同じ日本酒だったが、やっぱり甘いのでないときついらしく、菊代さんが毎年つけているとかいう梅酒のグラスを両手で支えるように持っては、ちびりちびりとやっていた。しほさんは熊本人とは思えないくらいアルコールに弱い上に胃に沁みるし、あまり普段からお酒を嗜んだりはしないらしい。
なんとなく泣き上戸のイメージだったのだが、べそべそ泣きながら置物に泣き言をいうようなことはなく、むしろキャラ設定をうっかり間違えた様ないい笑顔でにこにことしているものだから却って恐ろしくなった。弱いというのは本当らしく、すっかりゆでだこのように真っ赤になって、そして同じ熊本人であるはずの私にも理解できない熊本弁で何やら楽しそうに話しているのだが内容はさっぱりわからない。酔いで舌が回っていないのもあって完全に聞き取れない。
いけない。正気を保っているのは私だけなのか。そう思いはしたが、あとから思うとこの時すでにまともに箸が持てていなかったし、何故か膳の白飯に携帯電話が突き刺さっていたような気がする。
とにかくその時の私は、自分だけはまともでいようと思いながら酒を飲む手は止まらず、払っても払っても縋りついては私の犬歯をいじるまほさんにむらむらが止まらず、楽しそうに笑いながらもついに体を支えられなくなってぐでんぐでんに横になっているしほさんに呆れが止まらず、もはや全く正気ではなかった。
そしてついにまほさんが遊び疲れて寝息を立て始めた頃には私はすっかり頭がパーになっていた。いつもの習慣でまほさんを横にしてあげようと思ったがうまく行かず、殆ど投げ出すようにすぺーんと床に放り、多分腹を冷やさぬようにとでも思ったのか座布団を腹に叩きつけた。ぐえとかなんとか聞えた気がするが、ぐーすか気持ちよさそうに寝ているのでどうでもよい。
何だか喉が渇くので樽まで向かうが、畳が嫌に柔らかくて足元が落ち着かず、ふらりふらりといつもの倍以上の時間をかけて歩いた。ようやく樽に縋りついて手酌で一杯やろうとしたけれど、何しろ柄杓がうまく掴めない。グラスに注ごうにも上手く入らず殆どこぼれてしまう。仕方がないのでグラスを直接樽に突っ込んで、掬う様にして呑んだ。上手く口に入らず結構な量が零れてしまったが、あんまり濡れるような感触もしなかったので多分濡れていないのだろう。きっとそうだ。浴衣がぐしょぐしょで気持ち悪いのではだけて、もう一杯飲んだ。酒が入ると味覚がだんだん麻痺してくるようで、もう味の方はあんまりはっきりとは分からなくなっていたけれど、なんだかおいしいというのはわかる。少し喉の渇きが癒えたので辺りを見回すと、梅酒の瓶があった。菊代さんの自家製の梅酒であるという。あの人は全く得体が知れないけれどやることは大抵そつがないので、きっと梅酒もおいしいに違いなかった。呑もうと思って立ち上がると地震か何かか大いに揺れるのでバランスを崩してひっくりかえってしまい、頭から樽に突っ込んでしまった。一瞬覚めたような心地がしたが、酒の香りですぐに落ち着いた。頭から足先まで酒の香りがして却って気持ちがいい。悪くないじゃない。地面が揺れて危ないので四足で梅酒の瓶まではいずり、手に取る。しほさんも結構呑んだように思ったけれど、中身はまだだいぶ残っていた。私はかしこいので、先程の様にグラスに注いだら零れてしまうことが分かっていたため、ちょっと品が悪いが瓶を掲げて直接飲むことにした。ところがこの梅酒というものは結構濃いもので、甘いし濃いしでむせてしまった。しかし成程おいしい。よくわからないがおいしい。
なんだかおかしくなってきて、お腹から勝手に笑い声が漏れてきた。それでまたおかしくなってけたけた笑うと、酸素が足りなくなってふらふらする。呑み過ぎたかも知れない。冷静さがそう言い始めていたけれど、心地よいのであまり気にしない事にした。ふとそばを見遣るとしほさんがすっかり酔っぱらってぐでんぐでんになり、座布団を枕に横になっていた。この世のすべての悩み事から解放されたようなあどけない寝顔で、何だかそれを見ているとほっとするような切なくなるような不思議な心地だった。
風邪をひいてはいけないと乱れた浴衣を直してやろうとしたのだけれど、上手く手が動かず、ずるりと滑って却ってはだけさせてしまった。
しほさんの胸は大きかった。
まじまじと見つめてみるが、実際大きい。まほさんも大概大きい方だが、しほさんは尚更だ。それに横になっているのに、垂れることが無い。浴衣からまろび出た双球は張りがあって重たげだ。持ち上げてみると実際重い。自分の物と比べると悲しくなるほどだ。それに色がいい。まほさんと比べると少し色味が濃いのだが、それがなんだか不思議に目を引き付ける。じっとりと汗ばんで火照った白い乳房に色濃い点を見つけると不思議と誘われる。成程赤子が自然と乳を吸えるわけだ。人体の神秘だなと乳房をまさぐっていると、乳首がピンと硬くなってくるではないか。寝ていても酒が入っていても人間の体は反応するわけだ。しかしこのままではいけない。のそのそと起き上がって、前をすっかりくつろげてしまう。うん。整えるためには一度開かないといけないから仕方がない。するとなんということだろうか。下半身が丸見えになるじゃない。しかも下着をつけていない。浴衣の下には下着をつけないという昔ながらの習慣に従っているらしい。普段からオープンな裸族やノーパン主義ではないノーパンだ。普段のかっちりしたスーツ姿のときにはきちんと下着で覆われている箇所が、浴衣の時は無防備にさらされている。日本大勝利だ。意外な事に毛の方はまほさんより控えめだった。整えているという感じでもなく、元々薄いのだろう。あんまりまじまじ見ては失礼だけれど何しろアルコールが入っているので仕方がない。初めてのお酒であんなに呑まされたのだからこれは事故なのだ。筋肉の密度が感じられる足を撫で上げるように割り開いてやると、貞淑なほど落ち着いたたたずまいの観音様に思わず手を合わせずにはいられない。まほさんは道具とかいろいろ使うし痛みがないと満足できない面倒な人種だから、こういう穏やかな気持ちで向かい合えるというのは素晴らしく貴重だ。ありがたやありがたや。ありがたい気持ちで拝んでいるとアルコールのせいかむらむらしてきた。アルコールのせいだから仕方がない。これは事故だ。
湯だった頭でそう考えながら私は前をくつろげ、くつろげ、うん?
「………あれぇ?」
あとになって知ったことだったが、アルコールで神経が麻痺し、血流がよくなり過ぎると、
装填は済んで照準も合わさっているというのに、肝心の仰角がつかずすっかりへたれてしまったティーガーに困惑し、ぺしぺしと叩いてみるが、反応がない。バッテリー切れなのか。だったらさっさと交換したいが、その仕方がわからない。
なんだか考えているうちにどんどん面倒臭くなってきて、気付けば私はぐったりと倒れ込んでいたのだった。
昨夜はすっかり大騒ぎだったなあ、というのがまほさんの感想であり、恥ずかしい所をお見せしましたというのがしほさんの悔恨であり、いっそ殺せと言うのが私の懺悔だった。
幸い誰の意識もない状況での未遂事件だったのでこうして朗らかに会話などしているが、私は二日酔いと胃痛でそれどころではない。
せめて、せめてこの場から逃げ出せれば。
そんな最低に下種な考えに浸っていると、菊代さんにそっとぬる茶を差し入れして貰った。
「………うう……ありがとうございます……」
「いえいえ。それにしても近頃のけいたいでんわは便利ですねえ」
はてなんのことかと思えば、昨夜飯に突っ込んでいた携帯電話が綺麗に磨かれた状態で手渡された。これは恥ずかしいと赤面して受け取り、壊れていないかと起動させ、そして思いっきり投げそうになった。
「き、きくよさんっ!?」
「昔っから家元は女の子にばかりもてましたねエ」
待ち受け画面には罪の証が刻まれていた。