ヤンデレ☆イリヤ   作:鹿頭

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そう言えば書いてなかった


兄との出逢い

 

 

 

 

 

とつぜん、ママが「一緒に暮らす事になった」なんていって、パパといっしょにしらないひとをふたり、つれてきた。

 

こわい。

 

でも、ママもパパもむこうにいる。

どうしようもなくなっちゃった。

 

セラとリズは、おかいものにでかけたらしくて、いまはいない。

こまっていると、ひとりこっちにくる。

 

「えーと…怖がらせちゃった、かな?」

 

わたしのまえでしゃがんだそのひとは、こまったかおをしてた。

 

「はじめまして、イリヤ。僕は……うん。君のお兄ちゃん、になるのかな?」

 

「おにい……ちゃん?」

 

「うん。お兄ちゃん」

 

おにいちゃん、っていうのが、ちょっとよくわからない。

 

でも、やさしそうなひと。

 

「ああ、あっちのは士郎。ほら、こっち来いよ士郎」

 

「あ、ああ」

 

あかいかみの、しろう、ってよばれたひとがくる。

 

「ほら座れ。それと挨拶も」

 

「はじめまして。オレは士郎。よろしく!……なあ、ところで、オレの方が兄貴なのになんか納得いかないんだけど」

 

「別にいいじゃないの、 士郎。お前もお兄ちゃんなら、それくらい気にしない、気にしない。俺がそっちの立場だったら気にしないぞ」

 

「そうなのか?」

 

 

 

「しろうも、おにいちゃんなの?」

 

おにいちゃんってなんだろう。

いっぱいいるの?

よくわかんないや。

 

「そうそう、士郎お兄ちゃんって呼んでやれ」

 

「しろう、おにいちゃん。……これでいいの?」

 

「そそ。それで良いの」

 

「よろしく!」

 

しろうおにいちゃんがてをのばしてくる。

 

「ああ、そういう時は握手するもんなんだよ、イリヤ」

 

おにいちゃんがわらいながらおしえてくれる。

 

「ほら、僕とも」

 

てをのばす。

そういうものなんだな、っておもって、わたしはあくしゅ?をする。

 

 

 

「大丈夫そうだね、アイリ」

 

「ちょっと心配したけど、ええ」

 

 

 

ちなみに、わたしがお兄ちゃんってのがなんなのか、理解するのはもうちょっと後の事だった。

 

 

 

 

 

この事から、ちょっと過ぎた頃。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、あーそーぼー!」

 

「うん?何するんだ?」

 

「うーん…おままごと!」

 

「オーケー、士郎は……何してんの」

 

「ちょっと料理の練習を……」

 

「鬼の居ぬ間になんとやら、ってヤツか。焦がさないでよ?」

 

「焦がさねーよ!?いつの話してるんだよ!」

 

「はは、悪い悪い。頑張ってくれ」

 

「勿論だ」

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

士郎お兄ちゃんと話こんでる所悪いけど、わたしにもかまってほしい。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

お兄ちゃんはみんなにやさしい、すごい人。

 

わたしにもちゃんとやさしいし、わがまま言っても、なんだかんだで聞いてくれる。

 

わたしがお兄ちゃんのやさしさに甘えてる、ってのは、良くセラに注意されるけど……。

 

そんな時にも、お兄ちゃんは「気にするな」って後で言ってくれる。

 

おおきくなったら、お兄ちゃんみたいな人と結婚したい……ううん。お兄ちゃんと結婚したいなー、なんて思う。

 

だから、おもいきってお兄ちゃんに言ってみる!

 

「お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

「わたしね、おおきくなったらお兄ちゃんと結婚したいな」

 

一瞬、お兄ちゃんは驚いたような顔をしてから、優しくほほえむ。

 

「ああ、待ってるよ」

 

そう言って、頭をなでてくれる。

えへへ、お兄ちゃんもわたしと結婚したいって!やった!

 

 

「……嘘…だろ…」

 

「父さん!?帰ってきたのか!?」

 

士郎お兄ちゃんの声も気にせず、真っ直ぐお兄ちゃんの方に向かうパパ。

 

「僕はね」

 

「お、おう」

 

「イリヤと結婚する男は、どんな男でも消すと決めているんだ。例えそれが、自分の息子であろうと例外ではない」

 

「なんだそれ!大人気ないぞ親父!肩を掴む手が本気だぞ!痛い痛い痛い!目が怖い!本当に殺す気か!?」

 

 

「…………じゃあ「もう!パパ!お兄ちゃんをいじめないで!」

 

 

「イ、イリヤ……」

 

「そんな事するパパなんてキライ!」

 

パパも好きだけど、大好きなお兄ちゃんをいじめるパパは嫌いになっちゃうもん。

 

「な……」

 

「今のは……確かに大人気ないわね、キリツグ」

 

「アイリ……」

 

「もう…まだイリヤはちっちゃいのよ?第一、こーゆー時期は誰にでもあるわよ」

 

「僕は、僕は……」

 

「それとも、もしかして言われたかったのかしら?」

 

「うっ」

 

「……ホント、わかりやすいんだから、もう。ほら、謝って。嫌われちゃうわよー?」

 

 

「……ごめん」

 

「わたしじゃなくて、お兄ちゃんに!」

 

「…………すまなかった」

 

「…う、うん。良いよ……うん」

 

 

「パパ、もうお兄ちゃんの事いじめない?」

 

「あ、ああ。いじめないよ、イリヤ」

 

「ふーん…ならパパもすきー」

 

「イリヤ…!」

 

「おひげ痛い」

 

 

だっこするのはいいんだけど、おひげ痛いのはヤダ!

 

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

「キリツグったら……あら、シロウ。セラに内緒で料理?」

 

「内緒って……いやまあ、そうだけどさ」

 

「ちょっと食べちゃおっかなー……あら、上手」

 

「練習してるからな」

 

「なんど黒いの食った事か……」

 

「あん時は悪かったって、オレも未熟だった」

 

「失敗はなんとやら、だし。気にしてねーよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある時、わたしは迷子になった。

 

パパはお仕事に行っちゃったけど、ママやお兄ちゃん達一緒にお祭りに来てた時、想像以上にすごい人で、はぐれてしまった。

 

たくさんの人に紛れて、方向がわからなくなるし、人に押されて自分で思った方向とはぜんぜん違う所で押し流されて行く。

 

 

人混みから弾き出される。

流れ行く人は、わたしなんかには目も止めない。

 

今ここはどこなのか。

辺りを見回す。

 

ますます、わからなくなる。

 

 

「何、ここ……どこ?どこに行けばいいの…?」

 

「ママ……?お兄ちゃん……どこ…?」

 

 

ママやお兄ちゃんの事を呼んでみるけど、と結局変わらない。

 

「士郎お兄ちゃん……セラお姉ちゃん…リズお姉ちゃん……みんな…」

 

わたし、どうなるんだろう。

帰れるのかな?みんなにまた会えるのかな?

 

不安で胸がいっぱいになる。

どうしようもなくなって、涙が溢れてくる。

 

「こわい……こわいよぉ……」

 

あんなに人が居るのに、ここにはわたし一人だけみたいな感覚がして、とっても寂しい。

 

ああ、帰れないんだ。もう会えないんだ。

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、心配かけた」

 

よく知ってる声が聞こえてくる。

涙を拭って、顔を上げる。

 

「おに……いちゃん…!」

 

 

お兄ちゃんは、駆け寄るわたしを力強く抱きしめてくれた。

 

お兄ちゃんの温もりに包まれて、安心からか涙が出てくる。

 

「こわかった……こわかったよ…」

 

「だろうな、こわかったよな。うん、俺が悪かった」

 

「おに…いっ……「あー、わかったわかった。わかったから。な?抱っこしてやるから、帰ろう」

 

「………」

 

あんまり声が出ないから、うなづいて返事をする。

 

 

お兄ちゃんはひょい、と簡単にわたしを持ち上げる。

 

ちょうど、お姫様抱っこに近い。

 

ホントは恥ずかしいハズなのに、今はなんだかそんな事はなくて、安心した、って気持ちの方が強かった。

 

 

しばらくして、わたしもだいぶ落ち着いてきて、心配してた事を聞く。

 

「ねえ、お兄ちゃん。……叱らないの?」

 

「なんだ、叱って欲しいのか?」

 

「いや……そういうワケじゃ…ない、けど……」

 

「はぐれたのはイリヤが悪いワケじゃない。ちょっと油断してた俺が悪いんだ。どうして俺が叱れるんだよ」

 

「……そう、かな」

 

「だから気にするなよ」

 

「………」

 

とは言うけど、やっぱり、心の中でモヤモヤしたような、胸が痛いような、不思議なものを感じる。

 

叱って欲しかったのか、なんなのか。

自分でも、なんて言えばいいのか、なんだかよくわからない。

 

「……そうだな」

 

お兄ちゃんが真剣な顔をする。

 

 

 

「側にいるよ、俺が」

 

「え?」

 

「イリヤがもうはぐれないように、怖がらないようにさ。俺がずっと側にいれば、こんな事、起きないだろ?」

 

「そばに……」

 

「うん、そう。もう、一人にはさせはしないよ。だから、イリヤもどこかへ行かないでくれよ」

 

 

「そばに…そっか。 ずっと一緒に……」

 

心の中のモヤモヤがきれいになっていく。

 

お兄ちゃんがずっといっしょにいるって言ってくれたのが、なんだかとっても嬉しくて、自然と笑顔になる。

 

「うん、行かないよ、お兄ちゃん。わたしも、ずっと、ずーっとそばにいる!」

 

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ」

 

 

お兄ちゃんが笑った。

お兄ちゃんのそんな笑顔をみると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。

 

「お、居たのか!」

 

まばらになって、もう人混みとは言えない場所に、士郎お兄ちゃんが居た。

 

「ああ、居たぞ」

 

お兄ちゃんはそう言うと、わたしを下ろしちゃう。

 

名残惜しいけど、お兄ちゃんは立ち上がっちゃった。

せめて、と思ってお兄ちゃんの手を握る。

すると直ぐに、お兄ちゃんは握り返してくれる。

 

「イリヤ、無事だったか?」

 

「うん、わたしは大丈夫だったよ」

 

士郎お兄ちゃんは、わたしの近くに来て、そう聞いて来た。

 

「心配したんだぞ?」

 

「うん、ごめんなさい」

 

「よし、ちゃんとごめんなさいが言えるならいい。向こうに母さんたちも居ると思うから、二人共行こう」

 

士郎お兄ちゃんに案内されて歩く。

 

お兄ちゃんはゆっくりとわたしに合わせて歩く。

手を繋いでるからあたりまえなんだけど。

 

 

そのあと、ママたちと合流した。

当たり前だけど、みんな心配していた。

 

ママがちょっと泣いていたのが、ああ、大変なことだったな、と改めて思った。

 

 

 

お兄ちゃんが見つけてくれて、本当に良かったと思う。

それと……いっしょに、えへへ。

 

思い出すだけでなんだかにやけちゃう。

 

そんなわたしは今、お兄ちゃんといっしょに寝てます。

 

今日はお兄ちゃんといっしょに寝る!って言ったら、ママはちょっと悲しがってた。

 

「悲しいなー、イリヤはママよりお兄ちゃんの方が好きなのねー…」

 

なんて言われたら、ちょっと困っちゃう。

 

確かに、ママも好きだけど、ママへの好き、とお兄ちゃんへの好き、ってなんか違うような気がする。

 

そこらへんをうまく言えなくて、あたふたしちゃったけど、士郎お兄ちゃんが「まあ、あんな事も有ったし、イリヤの好きにさせてやればいいじゃないか?」って言ってくれたお陰でなんとかなった。

 

「えへへー…お兄ちゃん」

 

「うん?どうした?」

 

「何でもないー、呼んだだけー」

 

「はは、こやつめ」

 

お兄ちゃんが頭を撫でてくれる。

それだけでなんだか幸せなキモチになる。

 

「ほら、もう寝るぞ」

 

「はーい」

 

お兄ちゃんに抱きつく。

すると、お兄ちゃんも抱きしめてくれる。

 

今日は、よく眠れそう。

 


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