そして逸般人になりつつあるお兄ちゃん。
何処までも、何処までも広がる。大海原。
天候にも恵まれ、まるで吸い込まれそうな蒼さを湛えている。
「きゃーーッ!?タッツンが車にはねられたーッ!?」
ふと横を見やると小学生組が騒いでいる。
元気だねぇ。最後にはしゃいだの最後いつだっけ。
所で轢かれたことに関しては誰も突っ込まないのね。士郎、一成、無事とか関係なく犯罪だぞ…?
冬木の人間の倫理観はすごい。
流石九州。
「あの!」
背後から声がかけられる。はて、と思い振り返って見ると。
む、えーっと…スズカ、だったか。
一体なんの様だい?
「三人はどのような関係で?」
「と言ってもだな…兄弟と普通の友人、としか答えようが…」
「だが衛宮、普通の一言だけと言うのもいささか寂しいな…」
そこから、二人だけの空間が形成されるのには、早かった。
周りがざわめいている。スズカは喜びに震えている。
うん、アイスでも食うか。
「ああ!ちょっと待ってください、まだお兄さんの話を聞いてません!」
兄弟と友人。残念だが、あの二人は兎も角、此方には薔薇は咲いてないし咲かないぞ。
「なっ…!?いいや!ノンケの弟、情熱的に迫る兄とその親友…!イケる!」
あ、何言っても妄想できる筋金入りだったか…アイス食べよ…。
イリヤ、クロエ…は美遊ちゃんを始めとしたお友達と遊んでるな。善哉善哉。
アイスが無くなった!士郎!一成!買いに行ってくる!
「ああ、わかった」「了承した」
二人の許可も得たことだし…と。
さて、歩こう。
アイスー、アイスはどーこに売って…あ。
「あ、貴方は!」
バゼッ…ダメットさん!ダメットさんではないですか!
「バゼットです!!」
ものすごい剣幕で怒られる。
人を殺めてそうな目つきだ!
「まさかこんな所で…」
頭を抱えるバゼット。
まさかアイスキャンデー売ってるとはねー。
一本下さい。
「3000円です」
「嘘だろぉ!?」
「いいえ、貴方にはこれくらい妥当です」
何か嫌われる様な事したっけ!?
「とぼける気か!?」
そんな親の仇を見つけたような目で見ないで下さい!
あとアイス安くしてください!
「嫌です!」
そこをなんとか!
「おにいちゃーーん!!なにを言い争って…っええええ!?」
クロエが近くを通ったのか、声をかけて来た。しかし、なにやら驚かれる。
「バゼットーー!?」
「なんで!?なんでここに!?」
「は…?お兄、ちゃん?」
バゼットがクロエのお兄ちゃん呼ばわりに疑問を覚えたのか、訪ねて来た。
どうも、イリヤとクロエの兄です。
「貴方が兄…いや、しかし…」
こちら養子なんですよ。
「それは…すみません、聞き辛い事を」
いや、良く説明する機会あるから気にしないけど…。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って!?お兄ちゃん、この人と知り合いなの!?」
うん?ああ、知り合いと言えば知り合いだな
、イリヤ。
「いつ!?どこで!?なんで!?」
「そこまで露骨に驚かれると少し落ち込み…ませんね。最悪の出会いでした」
なーにを宣うか、道端で半分行き倒れだった所を拾い上げて飯まで奢ったとゆーに、あまり言いたくないが、恩を仇で返すとは…。
「飯!?アレを食事と!食事と言いますか!」
失礼な!謝れ!店主と全国の辛いモノ好きに謝れ!
「辛いモノ!?アレを辛いと言うレベルで済ませる気か!?」
「あー…なるほど…だいたい読めて来た…」
イリヤが引きつった笑みで零す。
「お兄ちゃんとバゼットが知り合いだった、って事に関してちょーっとおはなししよっかなーって思ったけど…アレを食わされたバゼットを哀れむべきか…悩みどころよねー」
目を閉じ、指先を唇の下に当て、考え込むクロエ。
「そんなに、辛いの?」
美遊が、素直に疑問に思い、イリヤとクロエに尋ねる。
「辛いってもんじゃないわよ、アレは。地獄よ。…本当、お兄ちゃん良く食べれるわよね、アレ。ひょっとして辛いのがわからなかったりして」
「そうかもしれない…」
(どんなのなんだろ…)
結局、バゼットに10000円支払い、アイスを4本手に入れた。
財布が軽くなった。畜生。
「さて、そろそろ会場に移動しようか」
との士郎の声で、「海の家がぐまざわ」に移動する事なった。
「イリヤ&クロ&美遊、お誕生日おめでとー!!」
とまあ、誕生日会が始まったのだが、暫くしないうちに。
「誕生日って祝うようなものなの?」
美遊の言った一言に、会場は凍りついた。
どうも、誕生日を祝って貰った事がない、と言う。地雷を踏んでしまった、と思われている。
が、士郎のナイスフォローで場が取り直される。
そうそう、正確な誕生日が判明していない奴だっているしな!
「……あー…それは、今言うのは…マズかった、かな」
「お兄ちゃん…」
「そっか、お兄ちゃん、わからないのよね…」
「イリヤのお兄さんって一体…」
「誕生日わかんねーってどう言う事なんだよ?」
「タツコ!なななに聞いてんのー!?」
文字通りの意味だよ。わからない。覚えてないし、記録もない。戸籍上は冬になってるらしいけど…
「ま、まあ、兎に角、三人とも、誕生日おめでとう」
と、士郎が誕生日プレゼントを取り出す。
「こっちの箱が…オレか」
はい、と渡した箱からはブレスレットが出てくる。
五芒星…ふむ、遠坂にも助力を仰いだそうだから…何らかの意味が…意味が…ないな。
「士郎お兄ちゃんからもあったんだ!」
「驚いたわ…意外とセンス良いし」
「オレだけじゃなくて、遠坂にもちょっと、な…ひょっとして誕生日プレゼントの事事前にバレたのか?」
あー、すまん。バレちゃった。
「おいおい…」
誕生日おめでとう。はい、どうぞ。
「これは…ネックレス?指輪…じゃないか…そう、だよね…」
「うわ、ひょっとして三人それぞれをイメージしてるの?指輪は…美遊が居るから仕方ない、とは言え…」
「お兄さん…コレ」
首を横に振る。違うよー。
「アレ、ひよっとして本…」
士郎が耳打ちしてくる。
違います。本物ではありません。良く似た奴です。口座まで下ろすほど何で金かけてません。
「まあ、良いけどさ……今度から一緒にしないか?」
それも良いかもなぁ…
イリヤは銀にルビーっぽいの。
クロエは黒曜石っぽいのにガーネットっぽいの。
美遊はサファイアっぽいのに琥珀っぽいの。
小ぶりだけど、これらを使って、ネックレスを仕立てました。
喜んでくれて嬉しいです!
「ありがとう、ふたりとも!大切にするね!」
「私も、大切にするわ!」
イリヤとクロエ。そうしてください。指輪?あーあーきっこえなーい。
うん?
美遊ちゃんは、イリヤに、みんなに、士郎に感謝か!
美遊ちゃんの感謝の言葉が重いぞ!
さらっと士郎が別枠だぁ!
む、すごい音。工事かな?
外に出てみると、
遠坂と、エーデルフェルトが。
そしてバゼットが。
士郎が、一成が。
なんとフルメンバーが集結してしまった。
呆気にとられて居ると、遠坂とエーデルフェルトがバゼットと一触即発の空気を醸し出しした。
しかし、直後、士郎にエーデルフェルトが気づき、一成が小姑ムーブを始め、森山奈菜巳の恋路が云々、と士郎争奪戦が幕を開けた。
「おい、ちょっと…」
なぜこっちをみるんだ士郎!やめろ!巻き込むな!巻き込まないでください!
「つまり…」「最初に…」
「「「「弟を落とした方が、(衛宮)(衛宮くん)(シェロ)(義兄さん)を…!」」」」
あ、やべ。逃げ…痛っ!
頭上から、何かが降って来た。
そうするとどういう事だろう、士郎に言いたい事がどんどん湧いてくる。
士郎!
「なんだ!?」
誰を選ぶんだ!?遠坂か?エーデルフェルトか?…桜ちゃんか!?まさか一成と言うのも…ハッ!美遊ちゃんか!?
「なんでさ!一体何の話をしているんだ!やめろ!両肩を掴むな、揺らすな!顔が近いぞぉ!!!」
いけない、いけない、美遊ちゃんはいけないぞ、士郎。それはマズイ。色々とマズイ。
桜ちゃんにしときなさい。そうしなさい。
「何の話だああああ!!!」
痛っ…「あ、間違えましたー!」
「ま、いいです。士郎さんの方にしちゃいましょー!」
その時、 私は悟った。
成る程、そういう事だったのか。
我々は。
世界とは。根源とは。
ああ。
全てが───その時、脳裏に浮かぶのは一人の女。
思わず魅入る。
本能が女を求め、理性がそれを後押しする。
いや、待て。そうじゃないだろう。
よく考えてみろ。
今の自分が、こんな女に興味を抱く訳が無い。必要がない。
ああ、そもそもの前提が違ったのだ。
何故、この女を想う必要がある、と。
疑問に思うべきなのだ。
こいつじゃない、と。
知っている。
この女は
だけど、お前に溺れるのは御免だ。
だから去ね。疾く去ね。
そう言ったような気がした、その時。
女が、顔を歪めた気がした。
あ!?
なんだ?何だったんだ、一体。
何があったん…む!
士郎がイリヤに迫ってる…?
いや、士郎はとても正気とは思えない。
雰囲気が明らかに尋常ではないもの。
ならば!
兄を正気に戻すは弟の務め!
本当はどっちが年上なのかはしらねぇけど!
よいしょ!
「あー!士郎さんが頭から砂浜にー!……え?お兄さんなんで動けて…涅槃の境地に軽く至るはずなんですが…」
「お…、おにい、ちゃん…」
変な音したけど…士郎…は、生きてる…な。
なら良いや。
イリヤを横目でみやる。
顔が真っ赤なのは、どういう意味なのかは伺い知ることは出来ない。
…まあ、当人同士がどう思っているのかは知らないけど、お薬とかむりやりとかそういうのはいけないと思うんだ。
「うーむむ…!不思議なこともあるもんですねー。まあいいです!当初の計画道理に行くだけです!今度こそイっちゃいましょう!」
痛っ
「ちょっ…ルビー!」
「いいじゃないですかー!イリヤさん!貴女だって…ねぇ?」
「そうだけど…いや、やっぱりそういうのはちゃんとした形で…」
「ルビーちゃん的には面白ければどっちでもいいんですけどねー。やっとマトモに保存できる機会が来てくれて感動です!」
「なんなの!?保存って!?……お兄ちゃん…」
イリヤ……っ、戻るぞ、あそこで固まってる連中叩き起こすの手伝ってくれ。
「ほえっ!?」「アレー?」
ああっ!頭がボーッとする!なんなんだ今日は…ああ、イリヤ、大丈夫だ。ああ、大丈夫だ。
「お兄ちゃん…?」
「うーん間違えたんですかねー。もう一発いってみましょ…「姉さん?何してるんですか…?」あー!これにはですね!深いわけが…アッー!」
なんか聞こえる…幻聴かな?
まあいいや、士郎を担い…
士郎を持ち上げた腕とは反対の腕を掴まれる。その手は、力強い。けれど、単純に力が強いだけ。そう思わせる掴み方だった。
…どうしたんだ、イリヤ。
「……あのね、お兄ちゃん。聞いても…いい?」
物憂げな、と言うよりは。絶望の淵に立たされるか否か。と言った方が適切だろうか。気丈に振る舞ってる様に聴こえなくも無いが。
一度担ぎかけた士郎を再び地面に投げ飛ば……置く。よし、無事に着…置けたな。
イリヤの方を向こうとしたが、手を離さなかった。そのまま声に耳を傾ける。
「ほんとうは、どう思ってるの」
どう、って?
「……お兄ちゃんのいじわる」
「でもいっか」
ぐいっ、と腕を引かれる。油断していた為、していなくても、するが。簡単に砂浜に転がされる。
「別にいいよ、お兄ちゃん。勝手にするから」
イリヤが馬乗りになる。
このまま放置すると絶対に後戻り出来ない。
いや、もう後戻り出来ないのか?
なんとか、説得を試みる。
イリ…ヤ?
「気づいてるクセに。知ってるクセに。私の気持ちなんてとっくの昔にわかってるんでしょ?」
「それなのに。それなのに。それなのに!それなのに!それなのに!!」
「なんにも知らないフリして、私の事をもてあそんでるお兄ちゃんが悪いんだよ?」
そんな事…「してるもん」言葉に詰まる。 そんな事言われたら何言っても同じじゃないか。
「それに突然クロが現れて…お願い聞いちゃったりして…知らないよ、そんなの。だからなんなのさ。お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなのにね。おかしな話だよね?」
話が根本的に通じない、と言うより。
答えがもうイリヤの中で決まっている、と言った方が適切だろう。
段階はすでに力づくで何とかするしかなくなっている。
「ねー?お兄ちゃん…♡」
イリヤは自分の身体を押しつけるように倒し、腕を首に回してくる。そしてがっちりと離さない。
「おに…ぃ、ちゃん…っん…」
吐息が聞こえる。耳にかかる。
「はむ…」
耳たぶを甘噛みされる。
押しのけるべきなんだ。でも、ここで押しのけようとも、しなくても。もう、元には戻れない。
だけど同時に、妹に手を上げる兄なんて、死ねば良いと思っている。
その事が、いつまでも、いつまでも。
優柔不断だと。頭の中で繰り返される。
「んくっ…ぇろ、ぁむ…んっ…」
そうしている間にも、変わらずこの少女によって噛まれ、舐られ、吸われる。
か細く、別の生き物の様に動く舌が、我が物だと示すように耳を蹂躙する。
「あむ…っん…っふぅ…ねぇ、お兄ちゃん、キモチいい?好きでしょ、お兄ちゃん。こーゆーの」
いや知らねぇよ。
好きかなんかも初めて体験したわ!
ああ、いや、何を言っているんだ俺は!こんなの…こんなの───
「そっか…ハジメテか…えへへ、嬉しいな」
微妙にニュアンスが違う。そんな気がする。
イリヤの顔が近づく。
何を、と言おうとしたが、その言葉は紡がれる事なく。イリヤによって塞がれる。
「んっ…お兄ちゃん、クロとはしたんだっけ?そんな事言ってたな、クロ。でもさ…」
「はむ…んっはぁ…っ……、んむ…ちゅ、れろ…ちゅ…」
唇を、唇でこじ開けられられ、そのまま舌が押し入ってくる。
思わず舌を引っ込めるが、こんな至近距離での接触。
抵抗虚しく、侵入者によって絡め盗られる。
口内が蹂躙される。歯の裏をなぞられ、舌と舌が絡み合い、唾液が混ざり合う、淫猥な音が響く。
義理とはいえ、妹と、こんな場所で、こんな事をしていると言う背徳感。しかしそれと同時に罪悪感と、こんな事を許容している自分への嫌悪に苛まれる。
「っはぁ…はぁっ…はあ…っ…ふう」
離れる口の間には、銀色の糸が引いている。
「これは…シた、ことないっ…よね?」
熱のこもった目。朱がさす頬。
呼吸に釣られ上下する肩。
思わず見惚れる。こんな事をされている。妹に、こんな事をしている。
そう述懐していると、首に回されている腕が解け、徐々に下に伸びていく。
「おい…それは、それはダメだ、イリヤ。それだけは、それだけは───「うるさい、お兄ちゃんは黙って私の好きにされてて」
手が胸板を滑る。腹の筋をなぞっていく。
そして、その手は下腹部へと────────物音。岩の一部が崩れ落ちる、そんな音が鳴る。
「誰!?」
「あっ…まずっ…」
確か、あの子はイリヤの…クラスメイトの…ダメだ、名前が出てこない。
岩陰に隠れていたのだろうか。
思わず身を乗り出して、崩した、と言った感じだろう。
「どうして…どうして…いっつも…いつも!肝心なところで!」
慟哭するイリヤ。その顔は憤怒に満ちている。
「あっ…ご、ごめ、イリヤ、わざと覗いてたわけじゃ…」
「なんで…なんで…こんな…わかんない、わかんないよ…」
伺い見るイリヤの表情は、苦悶、焦燥、憤怒、嫉妬。憎悪。そういったような負の感情を煮詰めた様な。
「申し訳ありません、イリヤ様!」
あれ?何だっ…け?
「おかしいな…2時間分の記憶がないような…?」
「俺もだ、衛宮…何があったんだ?」
何か、とりかえしのつかなさそうな事が有った気がする。なんだ?なんだこの感覚は?
「あーつかれたー!」
クロエが手を高く伸ばす。
「うーん…なんか、怖い事があったような…やってしまった感があったような…」
「ミミ、頭でもぶつけたか?」
「タッツンに言われたくない…」
そんな中、右で歩いている、イリヤだけが、暗い表情をしている。
イリヤ、どうかしたか?
「っ!…いや、なんにも。うん、なんにもなかったよ、お兄ちゃん」
?引っかかる言い方だな。何だ?この違和感は。
「お、バスは丁度だな、良かった」
そうだな、士郎。
違和感を片隅に置く。
このまま、何も起こらない。
そう、願って。
「そう、なんにも、なんにもなかったよ、お兄ちゃん。なんにも、最初っから無かったことにされちゃった」
「アハハ、どうしたらいいんだろうね?おにーちゃん…」
「本当に、どうしたら…どうしたらいいのかな、お兄ちゃん」
自分の中に、抑えきれないようなドス黒い感情が渦巻くのを感じていた。
決まったよ!ラスボス!やっばり伝統に倣うべきなんだよ!
当初の予定とは全然違う方向に向かっている…