事件の翌日、2人はまた57層を訪れ、昨日のレストランで飲み物のみを注文し、話を聞いていた
「ねぇ、ヨルコさん?あなた、グリムロックって名前に聞き覚えない?」
「えっ!?は、はい昔、私とカインズが所属していた、ギルドのメンバーでした」
御坂美琴の言葉に明らかな驚きの表情を浮かべたヨルコ。そして昔の自分とグリムロックについての関係性を語った
「実は…カインズさんの胸に刺さっていたのは、そのグリムロックさんが作った武器だったんです」
「えっ!? そ、そんな…」
「何か、思い当たることはありませんか?」
「はい、あります…」
上条当麻がそう聞くと、彼女は何やら気まずそうに話し始めた
「昨日…お話出来なくてすみませんでした…忘れたいし…あまり思い出したくない話だったので…でも、お話しします」
「「・・・・・」」
ヨルコの言葉に真剣に耳を傾ける2人。そして一呼吸置くと、ヨルコは話し始めた
「そのギルドの名前は『黄金リンゴ』という名前でした。メンバーは私も含めて全員で8人。半年前、たまたま倒したレアモンスターが、『敏捷力』を20もアップさせる指輪をドロップしたんです」
「敏捷力を20!?すごいわね…」
「それで、その指輪をギルドで使おうっていう意見と売り払ってお金にして儲けを分配しようという意見が出ました。結局最後は、多数決で決めることになって、結果は5対3で売ることになりました。前線の大きい街で競売屋さんに委託する為にリーダーの『グリセルダ』さんという人がみんなを代表して一泊する予定で出かけました」
「なるほど…」
「でも、グリセルダさんは帰って来なかったんです。その後になって、私たちはグリセルダさんが死んでいた事を知りました…どうして死んでしまったのか、未だに分かっていません」
「そんなレアアイテムを抱えて圏外に出るとはまず考えにくいわね…って事は、睡眠PKかしら?」
「いや半年前なら、睡眠PKが出回り始める直前だ。可能性はあまり高いとは思えない」
「にしても、手口は別として偶然とは考えにくいわね…となると、グリセルダさんを狙ったのは、指輪のことを知っているギルドのメンバーの誰かだと見てまず間違いないでしょうね…」
「・・・・・」
ヨルコの表情がその言葉を聞いてなおさら暗いものになる
「中でも、その指輪の売却に反対した3人の誰かが怪しいと思うわ」
「売却する前に指輪を奪おうとして、グリセルダさんを襲った…ってことか?」
「おそらくね…それで、武器の所持者のグリムロックさんって言う人は?」
「彼は、グリセルダさんの旦那さんでした…もちろん、このゲーム内の事ですけど…」
「旦那さん…ですか…」
「グリセルダさんは、とても強い剣士で、頭も良くて…グリムロックさんは、いつもニコニコしているような、優しい方でした。2人はとってもお似合いで、仲の良い夫婦でした…もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんだとしたら…指輪の売却に反対した3人を狙っているんでしょう…」
「つまり、カインズさんは指輪の反対に手を挙げた1人ってことですか?」
「ええ、というかむしろ…指輪の売却に反対した3人の内2人は…カインズと私なんです」
「「!?」」
「じゃ!じゃあもう1人は!?」
「シュミットという『タンク』です。今は攻略組の『聖竜連合』というギルドに所属していると聞きました…」
「シュミット…?聞いたことあるな」
「聖竜連合のディフェンダー隊のリーダよ。デッカいランス使いの人」
「ああ、あのツンツン頭のアイツか…って俺が言えることじゃないか」
「シュミットを知っているのですか?」
「まぁ、ボス攻略で顔を合わせた事があるくらいだが…」
「なら、シュミットに会わせてもらう事は出来ないでしょうか?彼はまだ、今回の事件のことを知らないかもしれません。だとしたら彼も…もしかしたら…カインズのように…」
「・・・シュミットさんを呼んでみましょう。聖竜連合に知り合いがいるから、本部に行けばどうにかなると思うわ」
「だったらまずは、ヨルコさんを宿屋に送らないと…彼女もおそらくその内狙われる。ヨルコさん、シュミットさんを呼びに行ってる間、宿屋で待っておいてもらえませんか?そして俺たちが戻ってくるまで、絶対に宿屋から外に出ないでくれ」
「はい…」
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「グリムロックの武器でカインズが殺されたと言うのは本当なのか?」
その後、聖竜連合の本部を訪れた2人は、事情を大まかに話しシュミットを呼び出す事ができ、まだ57層のヨルコのいる宿屋へと戻ってきた。しかし、そのヨルコと話しているシュミットの足は貧乏ゆすりをしており、苛立ちからなのか自分も狙われるかもしれないという焦りからなのか、どうにも落ち着きがない
「・・・本当よ」
「ッ!?何で今さらカインズが殺されるんだ!?アイツが…アイツが指輪を奪ったのか!?グリセルダを殺したのはアイツだったのか…グリムロックは売却に反対した3人を全員しらみ潰しに殺すつもりなのか…?俺やお前も狙われているのか…」
「グリムロックさんに槍を作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれなし、もしかしたらグリセルダさん自身の復讐なのかもしれない…」
「えっ!?」
「だって、圏内で人を殺すなんてこと…幽霊でもない限りは不可能だわ」
「あぁっ!?あああぁ…」
「私、昨夜寝ないで考えた…」
するとヨルコは突然立ち上がり、恐怖を込めたような声で語り始めた
「結局のところ!グリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!?あの指輪がドロップした時!投票なんかしないで!グリセルダさんの指示に従えば良かったんだわああぁぁぁ!!!」
「ッ……」
もはやほとんど蚊帳の外となってしまっている上条と美琴。しかしヨルコさんはその2人を気にせず、窓際に腰掛けまた語り始める
「でもただ1人、グリムロックさんだけは…グリセルダさんに任せると言った…だから、あの人には私たち全員に復讐して、グリセルダさんの敵を討つ権利があるんだわ…」
「冗談じゃねぇ…冗談じゃねぇそ…今さら…半年も前のことなんだぞ…何を今さらッ…!」
「お前はそれでいいのかよヨルコ!?こんな訳の分からない方法で!殺されていいのかよッ…!?っあ…」
「・・・・・」
つい感情的になり席を立ちヨルコの方へ寄ろうとするシュミットを上条と美琴が止める。するとその直後
ドスッ…………
「「「!!!!!」」」
どこからか飛んできた茨の形をした武器が、ヨルコの背中へと突き刺さった。ヨルコはその反動から体が180度回り、背中には赤い血のようなエフェクトが広がっていた。そして、堕ちる…まるで根元から生えていた茨が、ヨルコごと地に吸い込んでいくかのようにヨルコを地へと堕としていく
「ッ!?ヨルコさん!!」
ガシャアアアァァァン!!!
キンッ!…カキッ……キン………
上条が窓から呼びかけるが、ヨルコは光のオブジェクトとなり消えた。そして彼女の背中を貫いていた緑色の茨の形をしている短剣だけがそこに残された