この物語は平凡な日常を淡々と書いたものです。過度な期待はしないでください。
あと、スマホからは3m離れて見やがってください。
大人になったら、結婚しよう。
そんなありきたりで、漫画の読みすぎで、歯の浮くようなフレーズを口にした記憶がある。
まだ小学生に上る前、僕は同い年の女の子にプロポーズをした。
今となってはほとんど朧げな思い出だが、そのときの彼女の答えはおそらく一生忘れないだろう。
『アンタはもうアタシの手下でしょう?』
手下。
彼女がその言葉にどんな意味を持っているのか、いやはやもしくはそのままの意味なのかは分かりたくはない。八年経った今でも身悶えするような黒歴史なのだ。
その子はいつの日か、小学校に上がる前に引越ししていき、僕は段々と彼女のことを忘れていった。
でもたまに、こんな風に夢に見る。
夢ーー
寝ているのか、僕はーー?
「
「んん……梨沙。今何駅だ」
「新横浜抜けたわよ。いい加減目を開けときなさい。寝起きな姿で事務所に行けないわよ」
妹の梨沙に起こされながら、僕ーー的場真斗は大きなあくびをした。
昨日も徹夜で設計図を描いていたから、とても眠い。新幹線で寝れるからと思っていたのが仇になった。こんなことなら梨沙の言うことを聞いていれば良かったのだが。
「全く、アンタはホントにパパに似ないわね。パパの子どもなんだから、アタシみたいにシャキッとしなさいよ」
「母さんに似たんだよ」
「ママだってかっこいいじゃない。どっちにも似てないわよ」
驚愕の真実、僕はもしかしたら梨沙と血が繋がってないかもしれない。
「結婚する?」
「まだ寝てんの? 寝言いってないで早く起きなさいよ」
ぐぅ。
妹の辛辣すぎる正論にぐぅの音しか出ない。
「まったく、なんでアタシの同伴がパパじゃなくて真斗なのよ」
「父さんが仕事で離れられないし、母さんは今フランスだろ」
「なら同伴なんて要らないし。結局寮住まいで、あんたはこの間亡くなったおじいちゃんの家じゃない。普通中学生に一人暮らしさせる?」
そう。
梨沙はこの度アイドルのオーディションに勝手に受け、そして見事合格してみせた。可愛いし個性抜群だからその結果には驚きは少なかったが、その後東京に移ると聞いて、父さんが僕も東京に引っ越せと言った方が驚いた。
梨沙は超が付くほどのファザコンだが、父さんも父さんで超が付くほどの親バカなのである。娘コンってなんで言うのだろうか。ドタコン?
「いやロリコンの発端は父親から娘に……だったか。ならロリコンでいいのか?」
「気持ち悪いこと言わないでよ……パパは素敵なんだから。アンタと一緒にしないでくれる?」
「僕はシスコンだ」
「嫌なカミングアウトされた!」
まぁこうして何の不満もなく梨沙に着いて来てる分、僕も思ったより父さんの気持ちがわかる。地元に未練がないわけではないが、ぶっちゃけあんまり友達いなかったし。
趣味は家のがやりやすいけど。
「まぁ父さんがどちらにせよ梨沙は何も気にせずアイドル活動しててよ。僕は僕で好きなことをするし、何かあったら、すぐに呼んでくれればいいから」
「ふんっ、言われなくてもわかってるわよ。真斗こそ、アタシの世話にならないでよね」
「…………」
「なにその間」
善処はするよ、うん。
そして数十分が経ち、僕らは東京への第一歩を踏み出した。
「転校生?」
「おぅ、どうやら来るみたいじゃの」
「どんな人……でしょうか」
「…………男の子みたい……だよ」
「ふーん、ま、ここらで従順な下僕が一人欲しかったのよね。いっちょ上下関係を教えてやろうじゃない」
「あまり面倒なことは起こさんようにな」
「アーッハッハッハッハッハッ……ゲホッゲホ! アタシがそんな遠慮すると思う!?」
「自分で言っちゃう……んですね……」
「…………そこが麗奈ちゃんの……良い所」
「まぁ、あんまりやりすぎるとーーバッサリいくけぇのぉ?」
「あ、あははは! ちょ、ちょっとくらいなら手加減しても良いかも、ね?」
「日和りました……ね」
「……日和ったね……」
的場真斗
的場梨沙の兄。
趣味は発明。発明コンテスト万年2位。AIの壁は高い。
幼い時にプロポーズするという黒歴史を抱える。
重度のシスコン。
的場梨沙
12歳新人アイドル。
この度オーディションに合格し上京を果たす。
重度のファザコンでぶっちゃけパパと離れたくはなかったが、これも一種の試練であると思い込みアイドルとして大成することを誓う。
実は隠れブラコンでもあるが本人に自覚はない。
プロポーズした相手……いったい何奈なんだ……。