七耀歴:1198年
「うーん・・・父さん遅いなぁ・・・・・・」
ゼムリア大陸南西部。
ここリベール王国のある一軒家、夕飯の席に着きながら夜遅くまで少女は弟と共に父の帰りを待っていた。
「夜には帰るってギルドから連絡があったのにぃ・・・・・・」
「まぁ、父さんも忙しい立場だし」
言って弟はぶー垂れる姉を置いて一人思考する。
(もしかして、例の作戦で何か・・・・・・?)
「ヨシュア?」
「・・・・・・いや、何でもないよ」
帰りが遅い父の理由に少し心当たりのある弟は頭を振る。
かつては『剣聖』や『軍神』とも謳われていた父が後れを取るとは思えない。
それでも予定していた帰宅時間が大幅に遅れているということは、予定外の出来事が起きたとも考えられて。
「あー、つまんない。ご飯の前にもう一度棒術の練習でもしよっかな。ヨシュアも付き合ってよ」
「別にいいけど————―」
言って席から立とうとする弟だったが、
「——————ああ、その必要はないみたいだね」
「え?」
姉が疑問の声を上げるその前に。
「おーい、今帰ったぞ」
一人の中年男性が扉を開けて家に入ってきた。
「お父さん!」
嬉しそうに玄関に駆け寄る姉に、弟も「やれやれ」と付いて行った。
「ただいま、エステル、ヨシュア。待たせちまったようだな。エステル、いい子で留守番していたか?」
「ふふん、あったりまえよ!」
「本当にそうか、ヨシュア?」
「うん。特に問題は起こさなかったよ」
「おいコラ、どういう意味よ・・・・・・?」
父と弟のやりとりにジト目で返す姉。
そのやり取りは日頃の行いであることが見て取れる。
「父さんの方も何もなかった? 魔獣と戦ってケガしてない?」
「おお、ピンピンしてるぞ」
「その割には、予定よりも帰ってくるのが遅かったみたいだけど・・・・・・」
「ああ、それはな——————」
言って、父は肩に担いでいた何やら大きな荷物を見やり。
「お前たちにお土産を持ってきてな」
「え、ホント!? 釣り竿? スニーカー? それとも棒術の道具とかっ?」
「・・・・・・育て方、間違っちまったかな」
姉の嬉々とした反応に父はため息を一つ。
「お前ねぇ、女の子だったら服とかアクセサリーじゃないか?」
「綺麗な服は好きだけど、すぐに汚しちゃうんだもん。アクセサリーも、遊んでて壊したらヤダし。それより、その担いでる大きな毛布に何が・・・・・・」
言って、姉は「あれ?」と首を傾げる。
「なんか前にもこんなことがあったような・・・・・・」
「お、鋭いな・・・・・・」
「・・・・・・父さん、もしかして」
「ああ、流石にヨシュアは気づくか」
先ほどまで黙っていた弟は「まさか」と思い、父は「よっこらせ」と肩に担いでいた毛布を床に卸す。
その毛布の端っこから、丸っこくて黒い何かが出てくる。
「・・・・・・・・・・・・」
それは、10歳くらいの少年だった。
「・・・・・・ふぇっ?」
「・・・・・・やっぱり」
これが、この少年・・・・・・『マグナ』と名付けられた少年が、この家・・・・・・『ブライド家』に養子に入った日である。
◆◆◆
七耀歴:1202年
「ふああぁぁぁ~~~~・・・・・・・・・・・・」
窓から差し込む日の光に目が眩み、目が覚めてあくびが出る。
朝日が眩しい東向きに位置する部屋で、俺はムクリと上体を起こして伸びをする。
同室のルームメイトはまだ寝ているようで、起こさないように体操着に着替えてそっと部屋を出る。
「おう、マグナか。いつも早いな」
「はよっす、エフォート先生。日課なもんで」
この寮を宿直している先生に挨拶しつつ、俺は寮を飛び出した。
ここは『リベール王国』の西側にある『ルーアン地方』の東側、『メーヴェ海道』から『ヴィスタ林道』を越えた『ヴァレリア湖』の沿岸近くにある閑静な全寮制の高等教育学校だ。
学校の敷地内の外周を毎朝走り回るのが日課になっている。
日課といっても、まだこの学校に入学して一ヶ月ほどしか経過していないのだが。
「あっ」
突如、強めの風が吹いて、一人の女生徒の声が上がる。
見れば女生徒が両腕に抱えている書類の山が、一部風に攫われていた。
「おっと!」
飛んでいく書類を掴み、空高く舞い上がろうとする紙は木を駆け上がり高く跳躍。
見事にその手で掴み、宙返りで着地する。
「10.0‼」
「ありがとうございます、マグナ君」
一人ドヤ顔でポージングと共に着地を決め込む俺の背後から声をかけるは、先ほどの書類を風に飛ばされた女生徒。
「クローゼ
「はい、おはようございます」
此処は『ジェニス王立学園』。
俺、『マグナ・ブライト』が今年から通いだした学校である。