真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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始動編
第一話 始まる日常


――――――川神市。

この街には、古来より武士の血を引く家柄が多い。

故にこの市に存在する川神学園では文武両道でありながら、特に『武』に重点を置いた教育方針を採っている。

その中でも最たるものが、この―――――。

 

 

「東方! 準備は良いか?」

 

「おう!」

 

「西方! 転入してきたばかりの命知らずA! お前も良いな?」

 

「何か凄く分かりやすい設定を背負わされた名前だが突っ込まない! ウス!」

 

 

――――――『決闘』というシステムである。

 

 

川神学園の生徒達は皆、入学時に学生証等の他に学園のシンボルが刻まれたワッペンを授与される。

このワッペンを相手に叩きつけることで勝負を挑み、屈服させることが出来る。

勝負の方法は挑戦者、もしくは相手が提案する他に学園長が指名、またはそれを見物しに来たギャラリーの意見を採る場合もある。

大変物騒かもしれないが、川神学園は大変個性豊かな生徒が生活している。当然個々の主張は食い違うこともあるわけで、それに伴い衝突することもあるわけで。

 

 

「転入生ながら私に挑んでくるとは……その心意気や見事!」

 

「舐めないでくださいよ~? こー見えても俺、結構やっちゃうんで!!」

 

 

喧嘩も絶えないわけで。

そうした揉め事を解決する手段として、この決闘システムが採用されたのである。

元々武士の血を色濃く引くものが多いこの学園では勝負に対して積極的なものも多く、そういう意味では適したシステムといえよう。

今回は分かりやすく戦闘が行われようとしている。

西方から構える男は名前の通り転入してきた男子生徒。確かに体つきはいい。戦闘経験もあるようだ。

対するは、美しい黒髪の女性。

 

 

「武神と呼ばれるアンタを討ちとりゃ……俺のLet's天下統一Yeah!!」

 

「上等だ! ……一年上の先輩として、教えてやる!」

 

 

凛とした佇まい、堂々とした声、そして纏うは圧倒的気迫。

ある時は武神、ある時は武道四天王、ある時はこの川神市に存在する武道を教える流派の川神院の後継者。

様々な名前で呼ばれてきたが、彼女は名乗る。一年年下の、生意気な後輩に。

彼女の名は―――――。

 

 

 

 

 

「3-F、川神百代………行くぞぉッ!」

 

 

 

 

 

拳を構え、叫んだ。

 

 

 

 

 

因みに相手はこの時咆哮で生じた衝撃波の所為で吹き飛ばされ、気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ~真剣で私に恋しなさい!X~

 

 

 

 

 

 

 

―――――2-F。

この川神学園では成績によりクラスが振り分けられている。

最高の能力を持つものはSクラスと呼ばれる特進クラスに入ることが出来る。最高級のカリキュラム、待遇、優越権などが認められ、その将来たるや輝かしいものが約束されている。

一方最低な実力を持つものはFクラスに入れさせられるのだ。

当然、この2-Fはその中でも最低の集まりなワケで。

 

 

「お前達ッ! たるんでいるぞッ!!」

 

 

教師―――小嶋梅子が持つ鞭が、嬉々として生徒達の身体を打った。

教育的指導の一環として。

そんな彼らを冷ややかに見る影が一つ。彼の名は。

 

 

「全くこの程度の問題に答えられぬとは……直江大和! この問題を解いてみろ!」

 

 

梅子が指を突きつけた人物。

それはごく普通そうに見える男子生徒。この最低と称されるクラスの集まりの中でも、その普通さはある意味浮いているのかもしれない。

だが、皆からは『軍師』と頼りにされる男。それがこの直江大和なのである。

 

 

「4ⅹ余り1です」

 

「正解だ。 よく勉強しているな」

 

 

軍師と呼ばれるこの男は、特に頭がいい。

テストの点ならば、それこそSクラス入りしても可笑しくない実力なのである。

だからこそこの程度の問題スラスラと解いてみせる。

 

 

「それに比べ島津岳人! ……どうやらお前は夏休み返上してでも補修したいようだな」

 

「い、いえいえとんでもないッスよ梅子先生ェ!!」

 

 

彼女に慈悲を請うかのように涙を流す筋肉質の男。

大和の親友の一人、『島津岳人』である。

好物は肉汁に溶かして飲むプロテイン。そして日々鍛え上げたトレーニングの結果、凄まじい肉体を手に入れた。

しかしそんなキャラは大抵頭がザコい。

 

 

(ちゃーんと勉強しておかねーからだよガクト)

 

(うぅ……大和ぉ……)

 

(わーってるって。 今度の集会で勉強見てやるよ。 ……コイツと)

 

 

彼らはアイコンタクトで会話が成立する仲。

そして大和は目の前に視線を落とした。目の前には赤みが掛かった髪を持つ、ポニーテールの少女が。

この落ち着きの無い背中を見るだけでも活発な印象が受け取れる。

アイコンタクトを途中で打ち切った大和は梅子を観察した。軍師たるもの、相手の表情から流れを読み取る力を持たねばならない。

 

 

(まずいなあのため息……他の連中の学力も気になってる。 そしてガクトと同レベルの学力の持ち主で先生に目を付けられていると言えば……ワン子だなこりゃ)

 

 

大和は震え上がっている、目の前の背中を凝視した。

彼女の名は『川神一子』。一子という事で仲間内の愛称は『ワン子』となっている。

川神の名を継ぐ者として武の鍛錬に、誰よりも努力を打ち込んできた快活な少女。そんな彼女は今。

 

 

(お願いしますどうか私に当たりませんようにあたりませんようにアタリマセンヨウニ……)

 

 

勉学に全く励んでおらず、現在は授業の流れについていけていないために自分が当たらないように祈っている。

涙目で、頭に犬の耳を生やしている。このように犬のように人懐っこく、感情がコロコロ変わることも『ワン子』と呼ばれる所以。

因みに彼女は大和が主導で調教している。

 

 

(先生の視線から察するに次は右隣の問題……をすっ飛ばして更に隣の問題だな)

 

 

このままでは一子が怒られてしまう。

先日、挑戦者と戦い勝利を収めた。彼女自身「いい経験になった」と喜んでいたことは記憶に新しい。

それだけにさすがに怒られて彼女のテンションをどん底に落とすことは少し憚られる。

悪態交じりにメモ帳の一ページを破り、問題の式及び答えを書く。

後は丸め、密かに一子の膝の上に放るだけ。

 

 

(あっ! 大和からだ! ひょっとしてこれは助け舟!?)

 

 

一子は勇んで開く。

分かりやすい回答がそこにあった。しかも念のため途中の式も書いてくれている。

最後には「次はもうありませんよ犬っコロ」と書かれていた。

恐怖が織り交ざったその一文に一子は「ゴメンナサイ……」と項垂れながら呟いた。

 

 

「川神一子! 次はこの右隣の問題……と見せかけて更に隣のこの問題を解いてみよ!」

 

「は、はい! えー……っと、√5ⅹです!」

 

 

大和の予想はズバリ当たっていた。

戸惑い気味ながらも一子は答えてみせる。梅子も頷いていた。

幸い、途中式まで突っ込まれることは無かった。

 

 

(ありがと大和! 助かったわ~!)

 

(ナイスフォロー! さすがだよ大和!)

 

 

一子がアイコンタクトで礼をする。

更にそのアイコンタクトに混ざるもう一人の男。それは岳人の後ろの席に座る細身の少年、『師岡卓也』。通称『モロ』。

岳人とは一番付き合いが長い、所謂オタクである。

友達を大切にし、仲間を傷つけたものに対する怒りの表情はある意味彼らの仲間の中で一番恐ろしい。

 

 

「よし! 残りの問題はクリス、そして椎名! お前達に解いて貰おう」

 

「はい!」

 

「……(コクリ)」

 

 

続いて指名されたのは二人の美少女。

クリスと呼ばれた女子は金髪を持つ、ドイツからの留学生。本名『クリスティアーネ・フリードリヒ』。ドイツ軍中将を父に持つ、義に厚く頭は硬くも根は優しい女の子。

そんな彼女は梅子から渡されたチョークでスラスラと問題を解いている。

 

 

「正解だ! うむ、椎名も合っている!」

 

「……どうも」

 

 

対する椎名と呼ばれたこの少女。名は『椎名京』という。

ショートカットでおしとやか。普段は物静かで少々閉鎖気味。だがこの通り頭もいいため黙っていればこれほどの美少女は居ないのだが。

 

 

(……大和ぉ~。 褒めて撫でてキスして結婚して子供作ってHAPPY ENDにして!)

 

(よくやった後で撫でてやるキスはしてやらん既成事実も作らんそんなENDもない)

 

(……ケチ)

 

(撫でてやる時点で褒められるべき最大譲歩だと思うのだがね)

 

 

大和に対してひたすら一途で積極的。今、彼女から熱い視線が注がれている。

発育も相まって彼女の視線及び仕草はかなり色っぽい。大和はいつものように白けた色の視線で言葉を送った。

ダメだったと悟った京はため息つきながら席に座る。因みにこの間1秒。

 

 

「……む。 チャイムか。 今日はここまで! 日頃の予習復習を欠かさないように!」

 

「起立、礼!」

 

 

クラス委員長の挨拶で全員がキビキビと立ち上がり、一礼する。

……こうでもしないと、「たるんでいる」との一言と共に鞭が飛んでくるのだ。

 

 

「大串! 礼はしっかり! たるんでいるぞッ!!」

 

「ギャア!!」

 

 

このように。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……これだから三次元女は……!」

 

「大丈夫スグル?」

 

「な、何とかな……心配するな兄弟よ」

 

 

先程鞭を打たれた男は背中を摩っている。

卓也も心配そうにしているが、何とか平静を保ち、親指を立てた。

いかにも溢れるオタクオーラ……『大串スグル』。三次元を侮蔑し、二次元を崇拝する男である。

こんな性格だから、卓也とは親友を超えた兄弟の中にまで発展している。

 

 

「スグルなんかまだいい方だろ。 俺なんか授業中にヌこうとしたら股間に集中砲火だもんな……俺のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が使い物にならなくなっちまう……」

 

 

同じく痛そうに股間を摩っているのは同じFクラスの『福本育郎』。底なしの変態である。

そんな彼だけに性に関する執着心は凄まじく、首から提げているカメラで女性のパンチラは勿論生着替えを激写する。

因みにヨンパチというあだ名は四十八手を全ていえたことに由来し、岳人から送られた。

 

 

「ヨンパチ君のはどうかと思うけど。 それより食べる? オススメベーカリーのマドレーヌ」

 

「おうクマちゃん。 一個貰っちゃおうか」

 

「俺も貰おう。 徹夜でネトゲするには体力が要る」

 

 

この太った青年は『熊飼満』。温厚な性格でクラスの皆からはクマちゃんで親しまれている。

グルメで、川神市の美味い店を全て網羅しており、また自身も最高級の食材を使って最高の料理を作る等こちらは食に対する執着心が強い。

ただこうして皆にお菓子や料理をお裾分けすることもあってクラスの皆から好かれている。

 

 

「ふぅーっ。 私もあんな目に合いかけていたのね」

 

「そうですねーワン子さん」

 

「……ごめんなさい、反省します勉強します頭に詰め込みます」

 

 

大和が目の前で安堵している一子に、冷ややかに告げる。

言葉の冷たさを感じ取った彼女はまさに子犬のように全身を振るわせた。

 

 

「全くだぜワン子。 このままだとお前夏休み無くなっちまうなー」

 

「何をぉ!! そーゆーガクトだって結構危ないくせに!」

 

「黙れ! 俺は数学じゃぁな、お前より4点も上なんだぜ!?」←数学27点

 

「ハン! 古典の点数がアタシよりも低いガクトに言われたくなーい!」←古典31点

 

 

低レベルな言い争いが勃発していた。Fクラスたる所以である。

 

 

「大和、ああいうのを似たもの同士というのだろう?」

 

「正解だクリス。 因みに同義語に『五十歩百歩』というものもある。 他にも、『どんぐりの背比べ』とか『目くそ鼻くそを笑う』なんて言葉も」

 

「「人の喧嘩で和やかな講義をするなッ!!」」

 

「………しょーもない」

 

 

仲間達の、こんな“いつもの”ドタバタ騒ぎにクラスの皆が大笑いする。

何とも馬鹿げて、下らなく、温かい一時。

そんな空間に存在するたった一つの空席。

 

 

「にしても……まだ帰ってこないのかキャップ」

 

「旅に出たらしばらく帰ってこないのはもう暗黙の了解」

 

「だね。 今度は確か香川に行ったんだっけ? 長宗我部に触発されて」

 

 

大和がふと、それに視線を向けた。

その席の持ち主は大和達の仲間にして彼らのグループのリーダー。

彼はまさに自由人。楽しみを見つければ即時行動。

今回は香川の名物を食べに行ったらしい。

 

 

「アンタらのリーダーは本当に自由系よね~」

 

「まぁね」

 

 

ガングロ女子も会話に混ざってきた。『羽黒黒子』である。

見た目どおりのギャルだがプロレスラーの娘でそれなりの戦闘力がある。

しかも必殺技は毒霧で男癖が非常に悪い。

 

 

「みなさーん! 連絡です~!」

 

「はい注目ー! マヨが伝言あるんだってさー!」

 

 

幼くも、張りのある声が教室に響き渡った。

振り返るとそこにいるのは一見幼き少女とも見紛う外見を持つこのクラスの委員長『甘粕真与』。

その隣にいる女性は彼女の親友こと『小笠原千花』だ。Fクラスの中でもクリスや京と並ぶ美女だがあだ名はスイーツと呼ばれている。

 

 

「次の物理の先生が少しだけ遅れるそうです! 10分くらい」

 

「10分……微妙な空き時間だな。 音量小さめにしてテレビで情報収集するか」

 

 

委員長の一言でクラス中から喜びの声が多くあがった。大和も一応混ざり、リモコンを手に取った。

クラスの一台だけあるテレビ。普段は昼休みに見ることが多い。

さすがに教室の中で堂々とアニメを見ることはしないので、ここは誰もが親しめる(かどうかは微妙だが)ニュースを見ることに。

政治家の横領問題、資源を巡る島の領有権など有り触れた話題が話されていく中。

 

 

『次のニュースです。 先日、香川県で演説中だった蘇我氏に向けられた発砲事件が発生しました』

 

 

蘇我とは蘇我梅雪――――議員のことだろう。

彼は総理の以降に強く反対していることで有名だ。だが政には常に恨みが付きまとう。

今回はそれ関係のものだったらしい。

更にキャストの元に一枚の分が送られる。

 

 

『蘇我氏の無事で、蘇我氏に発砲した暴漢はその場にいた男性に取り押さえられ―――』

 

 

子供の頃、総理大臣を志したことがある大和。

故に本、ニュース、新聞。聞きかじれるものは全て聞きかじり、見るもの全てを見てきたつもりだ。

だからこそ、こんな世の中に愛想を尽かしているわけで。

今回の事件に関しても、冷ややかに見ていた。

 

 

『ではここで暴漢を取り押さえた風間翔一君にお話を窺いたいと思います』

 

「ゴふっ」

 

 

大和は盛大にむせた。

何を隠そう、今テレビでインタビューを受けている青年こそあの空席の持ち主こと『風間翔一』なのだ。

今日もトレードマークのバンダナを頭に巻いている、爽やか美青年。

彼を中心としたグループ『風間ファミリー』のリーダーであるため、皆からキャップと呼ばれている。

 

 

「キャップ、ふらっと香川まで旅に出るって言ったけど……」

 

「今度は暴漢を取り押さえか。 益々エレガンテ・クアットロに箔がついたな」

 

「さすがの風間系! アタイが食べちゃいたい系~」

 

 

風間翔一。彼はまさに『風』のような人。

旅好きな性格で、旅に出かけてはこの通り必ず目立ってくる、皆のヒーロー。行動力もさることながらその強運を超えた豪運、そして綺麗な顔立ちからこの学園のイケメン四天王こと『エレガンテ・クアットロ』の一人となっている。

つまりは超優良物件。

 

 

「ねーそこんトコどう? 同じエレガンテ・クアットロのゲンさん?」

 

「一々俺に聞くなボケ」

 

 

大和が背後に振り替える。

そこにいたのは机に顔を突っ伏していた男、『源忠勝』。彼もまたエレガンテ・クアットロの一員なのだ。因みにあだ名のゲンさんとは源の姓からきている。

鋭い眼光とその言葉づかいは荒いものの、

 

 

「……俺ぁンな称号に興味ねーし、風間が目立ってんならよかったじゃねぇか」

 

 

この通り律儀に質問に対して答えてくれるいい人だったりする。

恐らく大和が属しているグループの人物を含めても、一番なついている人物かもしれない。

人付き合いの殆どがギブ&テイクと信条としている大和が、これだけアプローチする人物はそうそういない。

 

 

「ねー大和。 今日の集会キャップ来られるかなぁ?」

 

「大丈夫だろ、何だかんだで来る人だよキャップは」

 

「うん。 心配するだけ無駄」

 

 

翔一の話題がテレビで、しかも生放送されたものだからクラス中その話題で持ちきりだ。

小笠原も超優良物件である風間を狙っているらしく、委員長である真与や同じクラスの羽黒と話し込んでいる。

それから物理の先生が来るのは間もなくのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――時間は過ぎ、チャイムが鳴る。下校の合図だ。

無論ここから先は放課後という時間なので部活するもの、帰宅するもの、教室等に残り勉強するものと分かれることになる。

因みに大和はその中でも、帰宅部だった。

 

 

「実際はだらけ部なんだけどな……でも今日は集会あるしな」

 

 

大和は歩を進める。仲間達が集う集会に。彼らが集まる秘密基地に。

基地に向かうまでの間、大和は携帯電話を弄る。

ボタンを押せば次々と開いていないメールが溜まっていた。

 

 

「柿崎さんから? ……今度は西方十勇士の毛利を紹介しろか。 OKっと」

 

 

大和はメールを丁寧に返す。こうして彼は様々な人物と人脈を築いていく。

この直江大和という男は頭がいい事と回避能力の高さ以外はごく普通の少年だ。だからこそ、こうして徹底的に人付き合いなどで人脈を深めていく。

ただしギブアンドテイクの仲。時に助け、助けられるだけの関係。敢えて仲間ではなく知人と割り切る。

 

 

「おっ、寒川君から……よし、見返りにテスト範囲が聞きだせるな。 この誘いは受けておこう」

 

 

こうして彼は人脈を築き、己にとってのメリットを作り出す。

尊敬する父が教えてくれたことは、彼の利となっている。

メールを一つ残らず返信し終えたところで後ろから声が聞こえてくる。

 

 

「大和さーん」

 

「この声は……まゆっちか」

 

 

振り返るとそこには美少女がいた。

翠がかかった黒髪。気品を感じさせる立ち振る舞い。ボンッキュッボンッと三拍子揃ったスタイルの良さ(尻軍師曰くこの桃尻が最高とのこと)。

彼女もまた風間ファミリーの一員、1-C所属『黛由紀江』である。あだ名はまゆっちで親しまれている。

今日も刀を手に、大和に駆け寄る。その顔はほんのりと赤い乙女の顔。

 

 

「そっちも帰りか」

 

「はい。 伊予ちゃんの方は用事があるとのことでしたし、今日は集会ですし」

 

 

こうして話していると誰もが認める女性である。

実際、彼女は成績も本来なら上位のクラスであるSクラスに入れても不思議ではない。家事スキルも47(要するに完璧)であり、料理の腕前は料亭級。

加えて彼女の実家である黛家が伝えし剣技、体術ともに実力もトップクラス。そしてついに授かった称号が武道四天王。

まさに言うなれば才色兼備―――――であるのだが。

 

 

「あ、弁当美味しかったよ」

 

「あああああありがとうございますッ! 私にはもったいなきお言葉ぁッ!!」

 

「リラックスリラックス。 そんなんじゃ友達100人には程遠いよ」

 

「あぅあぅ……すみません、つい」

 

 

そんな彼女だって友達が欲しい。剣聖、黛十一段の娘であることから地元では畏怖され、特別視され、友達という存在ができなかった。

風間ファミリーという仲間や、大和のサポートで友達は手に入れたものの、まだまだ心に寂しさを窺わせる。

 

 

「まゆっちは自然にしていればいい感じなのにな……」

 

「し、自然ですか!? こ、こうでしょうかぁッ!?」

 

「だから怖いって! あと人に尋ねている時点でナチュラルではない!」

 

 

彼女の欠点と呼べるものの一つに、テンパった末の強張った笑顔。初見の人は恐れ戦く迫力になってしまうのだ。

更には彼女が持っている刀。勿論国から許可が下された真剣だがこれもまた恐怖の象徴となってしまっている。

そして何より、彼女から人が遠ざかる原因。それは彼女が手にしている携帯ストラップにある。

 

 

『まゆっちさー八方美人なんだからやれば出来るって』

 

「そ、そうですよね松風! 私くじけません! 大和さんもついてくれていますし!」

 

『ファイトだよユ・キ・エ~~!!』

 

 

突如馬の携帯ストラップが喋りだした……のではなく、由紀江が腹話術し始めた。

このストラップには『松風』という名が付けられている。父親が送ってくれた携帯ストラップに九十九神が宿った……という設定らしい。

彼女はことあるごとに松風と話をしだす。これは彼女が友達欲しさの末に生まれた寂しさから生まれたもう一つの彼女。彼女の寂しさを紛らわせるための荒業。

つまり要約すれば自重しない真なるまゆっち。フリーダム。

 

 

『大和もそんなまゆっちに惹かれ最終的にはHAPPY END……』

 

「もう松風本人を前にして余計なことをー!」

 

「? ……何言ってるか分からないけど相変わらず飛ばしてるなぁ」

 

 

大和達からすればこの松風の存在は最早別個体として扱われているが、当然他人から見れば一人芝居をしているという奇妙な光景。

ヒかれても仕方がない仕方がない。

 

 

「大和は渡さない!」

 

「ぬお! 京いつの間に!?」

 

「まゆっちから危険な波動(オーラ)が出ているッ! これは私色に染め上げるしかないんだッ!」

 

 

などと言いつつどこからか京が大和の腕を絡めようとしてきた。

持ち前の回避力で大和はそれを避ける。

その回避力や、由紀江も感心してしまうほどだ。何せ彼女達を初めとした武士娘達の攻撃を日々避け続けているのだから。

 

 

「チッ」

 

「鋭い舌打ちするな。 それはさておき京はいいのか? 弓道部」

 

「うん。 まぁ、昨日行ったし今はあのしょーもない中二病がいるし」

 

「京さん、そんなんじゃまた幽霊部員になってしまいますよ」

 

 

椎名京はこう見えて弓の名手。天下五弓という、弓使いの最高峰に立つ少女。

その集中力と狙撃精度に勝るものはいない。

当然所属も弓道部なのだがその閉鎖的な性格の所為でまさにユーレイ部員となってしまっていた。

今では大和のアドバイスや新入りの中二病で改善はされたが、やはりまだ垢が抜け切っていない。

 

 

「いいの。 私は大和やファミリーの皆が居れば」

 

「おいおい俺はそんなんじゃダメだって言ったろ、もっとコミュニケーションをだな」

 

「うん。 ちゃんとソコも踏まえてるよ大和結婚して」

 

「踏まえてるならいいぞお友達で」

 

 

閉鎖的な性格で愛する大和や仲間以外に興味を示さない京。

大和の指示やサポートでそれは修正されていくが、やっぱり第一はそこになる。

それでも大和の約束や他人との関わりの嬉しさを知った彼女はそれを壊すつもりは毛頭ない。

そして今の言葉に「うん」や「よし」で返さなかった大和はさすがである。返していれば即この物語は完結していた。

 

 

「うー!」

 

『相変わらずナチュラルな図々しさだぜー。 まゆっちも見習ってどんどんアタックしていけよなー!』

 

「まゆっち。 今の君も中々に図々しい」

 

 

今日も松風は絶好調にうるさかった。

 

 

「っと、もう基地だな」

 

 

話し込んでいると時間も過ぎていくというもの。あっという間に目的地到着だった。

彼らの目の前に聳え立つのは廃ビル。このビルこそ、彼らの憩いの空間なのだ。

当然勝手に使って言い訳ではないが、あの手この手でこのビルのオーナーにパトロール名目で使わせてもらっているのだ。

彼ら以外誰も居ないこの空間。階段を上がる足音が響く。

 

 

「お、大和に京。 由紀江さんもいるね」

 

「クッキー。 今日も警備お疲れ様」

 

 

部屋を空ければ突如現る卵型のロボット。その名はクッキー。

九鬼財閥という大財閥がその威信をかけて作り上げたお世話ロボット。

本来はとある人物がその恋路のために送ったものであるが、現在は紆余曲折を経て翔一の世話をすることになっている。

 

 

「ふふふ、任せてよ。 コーラが冷えてるよ」

 

「サンキュ。 ふー……やっぱここは落ち着くなぁ」

 

「うん。 これこそ至福の空間、至福の一時」

 

「私もこの空間が大好きになりました」

 

 

大和はコーラを受け取る。程よい冷たさだった。

それを片手にどっかりとソファに座り込む。このソファや目の前にあるテーブル、そして背後にある漫画等が詰まった本棚は全て調達してきたものだ。

電気こそ使えないがそれは蝋燭等でどうにも出来る。まさに秘密基地といえる空間。

この集会を生み出す切欠になった京は勿論、新参者である由紀江すらこの空間が恋しくなっている。

 

 

「それじゃ気分を変えて演歌でもかける?」

 

「さすがクッキー。 古臭いチョイス」

 

「何だよその言い方! 僕だってたまには和風に浸りたいだけなのに!!」

 

 

一見その丸っこいボディだけに温厚そうなクッキーではあるが存外キレやすい。

製作者が製作者だからだろうか。

口調荒々しく、彼はいきなり変形を始める。

 

 

「大和。 それはつまりこの最先端技術の結晶たる私をポンコツ呼ばわりするのだな」

 

「そこまで言ってねぇ! つーか冗談なのに第二形態になって光る剣持つな!」

 

「“そこまで”とは何だ!」

 

 

彼は大抵キレると第二形態に変形する。つまり戦闘形態。

第一形態からは想像できないほどの人型になり、明らかに星の戦争で出てきそうな光るセイバーを手にしていた。

 

 

「どうどう、どうどう」

 

「フーッ、フーッ………京が止めるから落ち着いた」

 

「本当に仲いいですね、お二人」

 

 

そんなクッキーであるが、京とは仲がいい。

仲間を大切にする京はクッキーの身体を丁寧に拭いてあげているためだ。

彼女のおかげでクッキーはまた元の第一形態に戻る。

 

 

「お、来てる来てる。 MELLSINGの新刊入れとくね」

 

「うーす。 なんだキャップはまだ来てねぇのか。 俺様はポテチ持ってきたぜ」

 

 

そうしていると卓也に岳人も入ってきた。

卓也は買ったばかりの漫画を棚に押し込み、岳人はテーブルに三袋のポテチを置いた。

彼らもまたファミリーの一員で、この空間が大好きな人間。差し入れは欠かさない。

 

 

「キャップからメール着たけど事情聴取終わったし、お土産持って帰るって」

 

「相変わらずだな……今日、学校じゃどこもかしこもキャップの噂で持ちきりだぞ」

 

「僕もニュースで見たよ。 さすがマイスターって感じだね」

 

 

事情聴取ですら後回しにしたい男。まさに翔一は自由人であった。

そんな彼だからこそ、いなくてもしっかりとメンバーの心を繋ぎとめている。

 

 

「おっ待たせー! 遅れてゴメ~ン! クリとベーゴマ勝負しててさー」

 

「当然自分の勝ちだったぞ! えっへん!」

 

「とうとう勝負が遊びのベクトルに向かっちゃったねこの二人……」

 

 

今度は一子とクリスだった。この二人は何かと張り合いやすい。というのもお堅いクリスに一子が勝負を吹っかけているのが日常なのだ。

しかし遊びの域に達していることにモロは突っ込みを隠し切れなかった。

 

 

「クリってばドイツ人のクセにベーゴマの扱いが上手いのよ」

 

「当然だ! 大和丸夢日記に出てくる、大和丸の趣味だからな!」

 

『そこまで網羅するとはさすがジャパニーズマニアだねクリ吉ー』

 

 

クリスは熱烈な日本好き……なのだが所謂『日本を勘違いしている外国人』。

日本の文化を愛しているのは正直日本国民として嬉しく思うが時々とんでもない間違いをしている。

そんな彼女の間ぬk……もとい幼さが逆に可愛くもあったり。

因みに彼女の言う『大和丸夢日記』とは彼女が大好きな大河ドラマシリーズである。

 

 

「これで後は姉さんとキャップだけか……うわ!?」

 

 

これで残るメンバーは後二人。

と思いきや大和の目の前で突如プラズマ波が飛び散った。

眩い閃光の後、目を開けるとそこには黒髪の美女が居る。

 

 

「大和ー。 私ならここにいるぞー!」

 

「うわわ……ね、姉さん……く、苦しい……」

 

 

光の中から現れた女性は早速大和にべったりと絡みつく。

彼女の名は『川神百代』。武道の総本山である川神院の総代である川神鉄心の孫娘にして武神と称えられる最強の美女。

武器は美少女らしく拳のみらしい(というワリにはビーム撃ったり出来るが)。

 

 

「お姉様凄い! とうとう登場もスタイリッシュになってきたわ!」

 

「おーワン子。 よしよ~し」

 

『いやスタイリッシュとかというレヴェルじゃねー! ターミ○ーターやんけ』

 

 

大和にねっとりの百代であったが、その背後から一子が更に抱きつく。

百代と一子。同じ姓を持つことから姉妹ではあるのだが、本当の姉妹ではない。しかしそれはまた別のお話。

この通り姉妹間は良好以外の何者でもない。

 

 

「モモ先輩! 今朝の決闘も凄かったッスね!」

 

「だね。 何せ叫んだ衝撃波だけで気絶とか ○NE PIECEの覇気を彷彿とさせるよ」

 

「ああ、アレか。 アイツ意気込みは良かったんだがなー」

 

 

岳人とモロが絶賛する。敵に動くことすら許さなかった百代の叫び。

実際彼女は国家間では核兵器にも匹敵する戦力として恐れられるほどだ。ドイツ軍だろうが目ではない。

一方で勝利した百代はとても不満そうだ。

 

 

「まぁ姉さんの咆哮でやられちゃぁね」

 

「そうなんだよー戦ってすらいないんだよー」

 

「……自分としてはこの会話がとても恐ろしく聞こえる……」

 

 

まだ風間ファミリーに入って日が浅いクリスは恐れ戦く。無論由紀江も同様である。

が、大和達はさも当たり前のように接している。

何せ絡んできた不良達を使って人間テトリスをくみ上げる人外生物なのだから。

 

 

「お、そうだ。 これ私のファンからの差し入れだ。 はい大和、あーん」

 

「……あ、あーん」

 

 

百代は懐から紙袋を数個取り出した。

中には和菓子等が詰められている。川神百代は最強と名高い武神であり、尚且つ美(少)女であることから女性ファンが非常に多い。

百代もよく女の子を侍らして食事をおごったりして貰っている。この菓子はそうした戦利品の一つ。

彼女は袋からマドレーヌを取り出すと舎弟としての関係を結んだ大和に食べさせてあげる。

 

 

(……大和、嬉しそうだな……)

 

(そりゃお姉様だもの……でも……)

 

(大和さん………私じゃダメなんでしょうか……)

 

(―――……なーんて皆羨望と嫉妬で見てるけど、大和はいずれ私のもの。 ククク)

 

 

そんな百代を羨ましくもあり、嫉妬の念を込めてクリス達四人の少女が視線を送る。

一方の百代もそれに気づいたのか更なるマーキングをつけようとする。

 

 

「おいおい口の周りにカスがついているぞ大和。 私が舐めてやろう」

 

「オイ大和テメェ!! 羨ま……しいぜ畜生がァ!!」

 

「ガクト! 修正できていない! 妬みと憎しみの余り素が出ている!」

 

 

年上好き、女好きとして岳人が威圧してくる。

これもいつものことなのだが。因みにそんな彼の背後では京達が一斉に各々の武器を手に取っていた。

――――皆、大和に惚れていたのである。

 

 

「モモ先輩、もういいでしょ」

 

「離れてくれ」

 

「ふふ……京にクリ、いい闘気だ……隠してこそはいるがワン子やまゆまゆもな……」

 

 

弟分と激しいスキンシップが出来た上に将来有望な対戦相手に百代は満足そうだ。

大和もようやく逃れられたことにふぅっ、と詰めていた息を吐き出す。

新鮮な空気を味わっているとビルの外から吹き上がりのいい、マフラーが鳴る音が聞こえる。

これは原付のものだ。

 

 

「これはマイスターのだね」

 

「気で確認した。 間違いなくキャップだろう」

 

 

風間翔一を主人としているクッキーや武神というその戦闘能力から気配探知できる百代が判別した。

バン、と開け放たれたドア。そこにいたのは赤いバンダナを頭に巻いた風来坊。

皆が頼るリーダー、風間翔一の登場であった。

 

 

「たーだーいまー!! 今日はなんと! 香川名物骨付き鳥大量GETだぜー!!」

 

 

すぐに場を明るくしてくれる快活な声。

翔一の持ち味の一つである。そして彼の両手には何やら物が詰まったビニール袋が提げられている。

中身は香川名物の一つ、骨付き鳥。

こんがりと焼いた地鶏と絶妙なスパイシーさ、ジューシーさ等から大変人気が高い食事だ。

 

 

「うわーい! ありがとうキャップー!!」

 

「ナイスだ。 久々に美味いものが食える~」

 

 

川神姉妹は文字通り食らいついた。

因みに今回は食べやすいように全員分がひな鳥となっている。

親鳥はコリコリとした固さがあるのに対し、ひな鳥は柔らかく、食べやすい。

 

 

「おう待て待て! このキャベツで肉を包んで食うのが通な食べ方だぜ!」

 

「うん、これは美味しいな~。 さすが讃岐名物! 日本の食文化はレベルが高い!」

 

「はい。 私の地元でも地鶏は中々食べられないので本当に美味しいです」

 

『あれだなーこうビールの中ジョッキをグイッと行きたくなる美味しさだよなー』

 

 

やたらおっさんぽい松風であった。

 

 

「ンじゃ俺も頂くか……とその前にキャップ、どうやって手に入れたこれ?」

 

「ホント、ひな鳥だけでも870円前後するのに」

 

「ああそれか。 いやなんか蘇我ってオッサン助けたらせめてものお礼だってさ」

 

 

そう言えば彼は香川で暴漢の魔の手から議員を救ったのだった。

恐らく相手からしても有力な議員の一人であるものが青年にお礼の一つもできないのは見っとも無いと痛感したのだろうか。

何れにせよ、今日の集会の食事はやたら豪勢になった。

 

 

「おっと! そう言や食事にかまけてて忘れてたぜ」

 

「あ、そう言えば」

 

 

大和が相槌を打つ。

彼が来たことでようやくメンバー全員が揃ったのだ。

 

 

彼らのリーダーにして豪運の旅人、風間翔一。

鍛え続けた肉体美が誇る圧倒的パワーが自慢の島津岳人。

メディア関係ならばこの中の誰よりも優れた常識人、師岡卓也。

 

皆のマスコットキャラにして切り込み隊長、川神一子。

騎士道精神を重んじる誠実な少女、クリスティアーネ・フリードリヒ。

天下五弓の一人にして精密狙撃得意な大和命の椎名京。

神速の斬撃“黛流”継承者、新武道四天王の一人である黛由紀江。

武神の異名を持つ最強のチート格闘家美女であり姉貴分、川神百代。

 

 

そしてそんな彼らを裏ながらサポートする軍師、直江大和。

 

 

彼らが揃って初めて「風間ファミリー」なのだ。

 

 

 

 

「よーし!! それじゃ今日も金曜集会!! 始めるぜー!!!」

 

「「「イェーイ!!」」」

 

 

 

 

彼らがこの秘密基地に集い、好きに寛げる空間。

皆が金曜日にそろうこの空気。

これこそが「金曜集会」なのである。

ただ、何の目的も狙いもない。皆が集まっている、この一点だけが重要なのだ。

他愛もない会話をして、ただ目の前にあるものを摘んで、皆で遊んで。それだけが、幸せだった。

 

 

「? ゲンさんからだ……」

 

 

その時、大和の携帯が鳴り響いた。

開いてみると忠勝からの着信だった。メールでない辺り急ぎなのだろうか。

 

 

「どうしたのゲンさん?」

 

『直江すまねぇ! お前の部屋に強盗達が入った!』

 

 

いきなりの超ド級展開。漫画やラノベでも中々お目にかかれない展開である。

電話から伝わる忠勝の声は非常に大きいため仲間達にも行き渡った。

事件、しかも強盗と聞いて翔一は目をキラキラさせているが。

 

 

「ご、強盗!? ってかヤドンとカリンは無事なのか!?」

 

『あ、お前が飼ってるヤドカリだっけか……?』

 

「ゲンさん調べて!!」

 

『お、おう』

 

 

大和の有無を言わせぬ迫力に忠勝も従うしかなかった。

彼は列記としたヤドカリマニアなのである。

母親から贈られた生き物で(ヤドンとカリンはそれぞれ二代目だが)以来偏執狂と呼ぶに近い愛情を抱いている。

 

 

『……安心しろ、一ミリも動かした形跡はねぇ』

 

「よかったー! そしてヤドンとカリンの水槽の位置もチェックしてくれてるゲンさん愛してるー!」

 

『死ね。 って今はそれどころじゃねぇな』

 

 

因みに『愛してる』の一言で京は愚か、女性陣が怒りを爆発させそうになったのはまたの話。

 

 

「押し入った奴らってどんなの? 顔は見た!?」

 

『リーダー格っぽい奴が金髪で手にナイフを持ってた。 そのナイフで鍵穴をこじ開けたっぽいぞ』

 

「他は?」

 

『5人組でそのリーダーが赤いハーレに乗ってたな……アイツの顔、どっかで見たような』

 

 

忠勝から次々に情報が送られてくる。

彼は強盗と遭遇したわけではなく、入れ違いに近い形になったため怪我一つ負っていないという。

とにかく、彼から提供される情報でどんどん絞り込めてくる。

 

 

『それと強盗団は多馬川の方に走っていったぞ』

 

「うん、ありがとうゲンさん! 何とかなりそうだよ!」

 

『別に。 一子達だけに任せきりにさせるわけにはいかねぇからな。 それと女性陣の部屋に被害がないか調べたい』

 

「分かった」

 

 

さすが一子と同じ孤児院の出。彼女に対しての感情は大きいようだ。

とにかく、情報は集まり、女性陣から忠勝に二階に上がる許可を出してから一旦彼との電話を切る。

大和は己が『軍師』と呼ばれる、その頭脳とネットワークをフル回転させる。

 

 

「モロ! ネットで『指名手配、金髪、ナイフ、赤いハーレ』で検索かけろ! ゲンさんが見たことあるってのはきっと指名手配書のことだ!」

 

「了解! ……出たよ! 『千刃(せんじん)ジャック』だって!」

 

 

モロが愛用のノートパソコンですぐに検索してくれた。

辿り着いたのはFBIが一般に公開している危険指名手配者のリスト。その中でも特に危険で国際手配をされているAランクの犯罪者。

そこに名が刻まれていた。

 

 

「イギリスに実在した『ジャック・ザ・リッパー』にあやかってナイフで次々と殺人、強盗を繰り返している犯罪者……」

 

「部下がいるはずだ! どんなのだ!?」

 

「えーと、拳銃に鉄パイプにチェーンハンマー……もう危険すぎるよコレ!」

 

 

確かに国際手配されるだけある、危険人物の仲間達というところだろう。

だが自分の部屋が荒らされて黙っている直江大和ではない。

無論、それはここにいる風間ファミリー一堂がそうである。特に女性陣からは尋常ではない殺気が。

 

 

「許しがたいね。 大和の部屋を……!」

 

「ですね。 ……この黛由紀江、久々に真剣(マジ)になります」

 

「私だってー! 部屋だろうが大和のものを荒らすのは許せない!」

 

「だな! 例え大和の部屋でなくとも、強盗等という下賎な行為、見逃せん!」

 

「思い知らせてやろうじゃないか。 その強盗共に……真の地獄を」

 

 

今、様々な怒りが混ざり合っている。

それを目撃した翔一達は知る事になる。『あの強盗死んだな』、と。

 

 

「落ち着け皆。 今、目撃情報を提供して貰って………来た! 下北沢君から!」

 

 

大和は持ち前の人脈を使って目撃情報を割り出していた。

赤いハーレがつれたバイクの群れ、非常に目立ちやすいことこの上ない。

案の定知人の一人に目撃されている。

常日頃愛用している携帯電話に目撃情報を報せるメールが届く。

 

 

「今、多馬川の土手……多分奪ったものの品定めって所か……!」

 

「大和! 多馬川に……」

 

「待てクリス! 相手はバイク、すぐに追いつけない! 回り道する!」

 

 

大和はモロにこの川神市の地図を出して貰っていた。

港までしっかりと映されている拡大地図。

特に大和はこの港の部分に焦点当てていた。既に顔は、『軍師』と呼ばれるものとなっている。

 

 

「回り道って相手はバイクだろう!?」

 

「けど名の知れている犯罪者! ゲンさんが手配書で見たことあるってことは整形はしていない!」

 

「そんな顔がバイクでブイブイ言わせてたら目立つよね、相当」

 

「それなのに堂々と盗みに入ってるってことは出入り口になる特別なルートがあるはず!」

 

「なるほど、そこに待ち構えていれば一網打尽なんですね!」

 

「いいセンだまゆっち! そして相手が外国からやってきたってことは………!」

 

 

大和が次々と手を生み出していく。

不謹慎だとは思うが、それを百代は微笑ましげに見つめていた。

策を講じることに関して大和は誰より抜きん出ている。正々堂々を好むクリスは余り言い顔はしないが、それでも彼の策は皆を成功に導いてくれる。仲間のために。

因みに頭を使うことが苦手な一子は頭をショートさせていた。

 

 

「……ここだ! 皆、ここに俺が言うとおりの陣形を組んでくれ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「こら大和ー! リーダーは俺だぞぅ! 俺が号令かけるんだ!」

 

「はいはい。 それじゃキャップ、よろしく」

 

 

何だかんだで目立ちたがり屋なキャップ。

しかもこんな非常時に号令役すら守りきるとは本当にマイペースである。

兎にも角にも、彼が号令をかけないと始まらない。

 

 

「皆! 敵は五人組の、名の知れた犯罪者だ!」

 

「いいじゃねぇか! 俺様、ウズウズするぜ!」

 

「気を抜くなよ! しかし怯えるな! 勝利は我にあり!」

 

 

何だかんだで皆から頼りにされる男、風間翔一。

その彼の言葉だから、皆が安心感を覚える。

更にそれを決定付けるのは大和が講じた策。確実に、何より皆が安全に事が運ぶための。

 

 

 

 

「行くぜ! 風間ファミリー、出動!!」

 

「「「「「「おおぉ――――――!!!」」」」」」

 

 

 

 

街の外れにある、廃ビル。

彼らの空間に、怒号が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――港。

ここでは怪しく、ムーディーに夜霧が立ち込める。

誰も寄り付きたくなさそうな、しかしどこか人を引き込む魅力を醸し出す闇。

 

 

「ヒヒヒ。 上手くいったな」

 

「ああ。 ったく、なんでこんなショボい依頼を受けちまったのかね」

 

 

五人の男達はバイクを押してこの港に誘われた。

バイクを走らせるとどうしても音で目立ってしまう。彼らは暴走族などではなく、列記とした犯罪集団。

だからこそあくまで隠密に行動する。

 

 

「まぁいいじゃねぇか。 ショボい内容のワリにデッカイ額貰ったんだ」

 

「ッスね。 んじゃ帰りやしょーよ」

 

「そーそー。 KAWAKAMIに見つかっちゃ元も子もねぇ」

 

 

海外にも川神の恐ろしさは伝わっている。

何せ武の最高峰。つまりは世界最強の格闘家集団。そんな彼らに見つかれば即ゲームオーバー。

だがそんなスリルも、彼らの餓えを満たす一因となっている。

彼らを率いる狂気の男―――――千刃ジャック。ナイフを片手に、舌で張り付くように舐める。

 

 

「しかし、俺らはやり遂げた。 つまりKAWAKAMIも恐るに足らずだ」

 

「ッスねぇ! 俺らマジパねぇッス!」

 

 

男達は下賤な笑い声を浮かべる。

愉快に笑ったところで、後はここから脱出するのみ―――――。

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「な!? 矢!? どこから!?」

 

 

すると突然、流星のごとく一条の光を纏った矢が闇夜を駆け抜けた。

矢は油断していた大男の米神に命中する。

幸い矢の先端は尖っていなかったのか突き刺さることはなかったものの、人体の急所である一部分に痛烈な一撃が入ったため、大男はもんどりを打っている。

 

 

「あ、あそこ!! あそこの……鉄塔の上に……お、女の子ッス!」

 

「鉄塔……!? 馬鹿な、この暗闇の中で……更に女のガキだとッ!?」

 

 

部下の一人が指をさす。

そこには凡そ100ヤード程度離れた鉄塔。拳銃だろうが飛び道具がもはや当たるかどうかも疑わしいこの距離を、矢は飛び越えてきた。

しかも人体の急所の一つを一ミリの狂いもなく。

そんな離れ業をやってのけたのは、鉄塔の上に立つ青いショートカットの女子。

 

 

「椎名京……参る!」

 

 

静かに弓を構える京。

彼女の視線の先に、最早男達の逃げ場はない。

ならばと物陰に隠れようとする男二人。その判断は間違っていない。

だが、寸前で刃が二つ飛んできた。

鋭い突きと、薙ぎ払い。明らかに武器二つ。

 

 

「ぬッ!? な、何だぁ!?」

 

「だ、誰だ!?」

 

 

彼らの目の前には、二人の女の子が立っていた。

凛とレイピアを構える、金髪の美女。その瞳はレイピアのようにただ、真っすぐ。

そしてその反対に位置する女の子は豪快に薙刀を振り回す、快活さ。

 

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ……推参!」

 

「同じく川神一子参上っ!!」

 

 

男達は即座に理解した。目の前の少女達は武士(もののふ)であると。

そして一子が名乗った姓、「川神」であることを。

 

 

「大和の指示通り矢を恐れて物陰に来たわね!」

 

「だが物陰に隠れるということは自ら退路を断つということ……最早逃げ場はない!」

 

 

恐れていた川神の登場。そして自ら逃げ場を断ってしまったという絶望感。

この投げかけも大和の考案した通り。

男達は恐怖に足をすくわれ、カタカタと震えている。

 

 

「こ……このぉぉぉぉッ!」

 

「俺達を舐めてんじゃねぇ小娘がァ!!」

 

 

自棄気味に襲い掛かってくる。

片やスタンロッド、片や釘バット。今時でもお目にかかれないバイオレンスな得物。

しかし動きは何とも醜い。足取りも慌ただしい。

一子とクリスは静かに一息つくと、左右に散った。

 

 

「動きに無駄ありすぎ! 川神流奥義旋風(つむじかぜ)!!」

 

「何より口ではどうと言えても……実戦経験がないな! たぁぁーっ!!」

 

 

「がばぁっ!?」

「ウボァー!!」

 

 

一瞬で二人は相手の動きを見切った。

一子はそのまままさに旋風のごとく薙刀の柄を振り回し、男の脇腹に当てた。鋭い衝撃が、風のように広がり、男は倒れる。

対するクリスはまるで魅せるかのような動きで電流流れる棒の一撃を掻い潜り、レイピアで突いた。

鋭い痛みが突きぬけ、男は吹き飛ぶ。

 

 

「く、くそォッ!!」

 

「強すぎだろこの女ァッ!!」

 

 

男達は一子とクリスのレベルの差を知った。

越えられない壁に突き当たった男達は尻尾を巻いて逃げる。隠し持っていた発煙筒を投げつけ、二人を文字通り煙に巻いた。

これ自体、別に悪い判断ではない。

 

 

「あ、あれ!?」

 

「う、動かねぇ!?」

 

 

しかし、幾らアクセルを全開にしようともバイクはレスポンスを聞かせることなく停止する。

何かが可笑しい。先程盗みを働いた時には動いていたはずなのに。

 

 

「オイオイ、バイクとかはマフラーを詰まらせとけば動かなくなるってのは常識だろ?」

 

 

それは物陰に隠れていた軍師、大和と卓也の仕業だった。

一子達の強さに圧倒されれば何人かは敵前逃亡を図ることぐらい予測される。

だからこそその先手を打ち、二台のバイクに布を詰め込んだのだ。

 

 

「そして大和の読みどおり……この俺様が仕留める!! 男のパワーで!!」

 

「あッ!? お、お前!!」

「俺のバイクを……俺達ごと!?」

 

 

しかし、既に岳人が阻んでいた。

岳人は男達を乗せたバイクを軽々と、それぞれの手で持ち上げる。武士娘の陰に隠れがちではあるが、島津岳人はベンチプレス190キロというパワーならば人外級。

 

 

「左手は………添えるだけぇっ!!」

 

「ぐはぁー!!?」

「ウボァー!!!」

 

 

岳人はそのまま持ち上げたバイクを敵に投げつけた。しかもほぼ片手で。

野球で言うならばレーザービームと比喩されそうな勢いで投げつけられたバイクは男二人を巻き込んでコンテナに叩きつけられる。

コンテナは激しい軋りを挙げてへこんだ。

 

 

「さすがだなーガクト。 指示通りの働きをしてくれるぜ」

 

「おうよ! にしてもモロ、しゃしゃり出てこなくても」

 

「僕だって仲間だもん。 せめて見届けるさ」

 

 

物陰からは卓也も現れる。

彼は最低限の戦力すらもない。言うなれば情報担当の存在。それでも友を思う気持ちは風間ファミリーの中でも随一を誇る。

 

 

「それに……大和の部屋を荒らした、愚者を僕の手でグシャグシャにしないとね」

 

 

それゆえ、友を傷つけるものに対しては容赦のない怒りを露にする。

コンテナに叩きつけられ、伸びていた男達に容赦のないスタンピングを浴びせる。男達は整形されていく。

 

 

「にゃろぉッ! 調子に乗ってんじゃねぇよ!!」

 

 

だが強盗団も食い下がった。

男が一人、鉄パイプを握りしめ、バイクに乗りかかる。

見つかった以上隠密行動も無意味と悟ったためだ。バイクを走らせ、一子とクリスに向かう。

走らせながら鉄パイプを地面に擦らせる。火花が一筋を地面に描きながら散る。

 

 

「うぅぅるぁぁぁ!!」

 

 

二人に向かった振り下ろされた鉄パイプ。

しかしそれは刹那の一閃に切り裂かれた。パイプだけではない、前輪も。

 

 

「ゲェッ………アアァァァアアアアア!!?」

 

 

武器を、そして前輪を失ったことで男を乗せたバイクはバランスを失う。

そのまま一子にも、クリスにも、切り裂いてきた本人にもぶつかることなく暴れまわる。

制御を失った暴れ馬に乗りかかるのは危険と判断したのか、男は飛び降り、地面を無様に転がる。

主を失ったバイクはコンテナに突っ込み、爆発した。

その爆発の隣にいた。華麗な一閃を見舞ったあの少女は。

 

 

「黛由紀江……見参」

 

 

バイクの爆発にも動じることなく、刀を構えていた。

見るだけで切り裂かれそうな、その威圧感。

ここまでに現れた三人の少女以上の重圧を感じさせた。一瞬、背後に阿修羅すら見えた。

男は瞬時に悟る。この娘には絶対勝てないと。

 

 

「な、何がどうなってやがんだ……剣聖黛十一段の娘まで……!?」

 

 

世界最高峰の犯罪者ジャックは、さすがに危険人物のピックアップくらいはしていた。

だが顔と名前、実力くらいで人物相関図などは頭に入れてすらいない。

まさか取るに足らない小僧の部屋を漁ったくらいでここまでの大物が出てくるなど。

 

 

「出るに決まっているだろう? ええ?」

 

「!? お、前は………!!」

 

 

その背後から声が聞こえた。

声の主はしっかりと捉えている。男の背中が情けなく震えあがるその様を。

まるで小物を見下したかのようなその声色。

男は慌てて振り返り、そして戦慄する。そこに、最も恐れていた人物が顔を出していた。

 

 

「いやーしかし船でバイクごと乗せて海を渡ってくるとはなー。 ま、大和の読み通りってわけだ」

 

「な、何で出てくるんだ……最強の武神がッ………」

 

 

その女性はポンポンとクルーザーを叩く。

彼らが使う、移動ルート。それがあっさり触れられているということは、クルーザー内部も制圧されている。

もう、詰んだ、と。

 

 

「当り前さ。 お前は私達の仲間であり……私の舎弟の部屋を荒したんだからな」

 

「なん……だと……」

 

「世界最高峰の犯罪者だったら身内関係くらい調べとけよな」

 

 

間違いない。彼女は怒っている。

今、目の前の男にオトシマエをつけるために。バキバキと指を鳴らす。空気が震える。殺気が膨れ上がる。

武神の異名を持つその女性は今、闇から一歩踏み出した。

 

 

「川神百代……登場!!」

 

 

最強の武神の登場だった。

ジャックは奥歯をカタカタと鳴らして恐怖を報せる。が、当の百代は知ったことはないと告げているかのように指をバキバキと鳴らしてゆっくり近づいてくる。

 

 

「う、うぅ……クソォッ!!」

 

 

自棄を起こしたジャックはナイフを回転させながら百代突っ込んでいく。

一般人程度ならば一瞬で葬らせる、必殺の構え。

だが百代にとっては、素人同然の動きだった。

 

 

「ワン子よりも動きが遅い」

 

「!?」

 

 

百代は足を一歩引いて突撃を避けた。

力任せに振るわせたナイフの一閃は空しく虚空を切り裂く。

慌ててもう片方のナイフで百代の首を狙う。

 

 

「突きに関してもクリみたく真っ直ぐじゃない。 迷いだらけだ」

 

 

百代はまた避ける。防御の必要性すら感じなかった。

掠りもしない。それどころか百代が遥か遠くにいるようにさえ感じてしまう。

慌てて距離をとったジャックはナイフを数本取り出し投げつけた。百代は一歩も動かない。

ナイフは、百代に当たることはなかった。

 

 

「京のような正確性もないな。 当然だろう、恐怖に囚われてりゃな」

 

 

まるで男の全ての希望をそぐように言い放つ。

ジャックの汗が止まることはない。

 

 

「う、るせぇ……ウルセェウルセェウルセェエエエエエエエエエエエ!!!」

 

「……まゆまゆのような鋭さもない。 最低だよ、お前」

 

 

百代は、この戦闘を楽しんですらいなかった。

―――――せめて何らかの才能が感じ取れればよかったのに。百代は静かに構えた。

最早我武者羅に突っ込んでくる、その男に。

 

 

「川神流……無双正拳突きぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

 

 

猛烈な拳を、打ち込んだ。

 

 

「!!?」

 

 

男はあっけなく吹き飛ばされた。

まるで弾丸のように飛んでいくジャックはコンテナの山を突き破り、海のはるか彼方へと吹き飛ばされる。

暫くして、沖のほうで激しい水柱が上がった。

 

 

「後で海保に連絡して捕まえて貰うか」

 

「その必要はないよ姉さん。 もう連絡済み」

 

「さすがだな我が弟~………!?」

 

 

少し離れた背後から舎弟扱いしている男の声。

百代はじゃれ付こうと振り返ろうとした。だが彼女の鍛え抜かれた五感が嗅ぎつけた。

大和の背後に、不穏な気配を感じ取ったのを。

 

 

「大和後ろだ!!」

 

 

百代の声に気づき、振り返る。

それは京の一矢によって倒された巨漢だった。だがその巨体に見合ったタフさだ耐え抜いたらしい。

大和を人質に取るべく、彼に手を伸ばそうとする。その時。

 

 

「イイイィィィリヤッホォオオオオォォォォォ――――――ッ!!!」

 

「ボヘミア!!?」

 

 

原付の突撃が男の後頭部を襲った。

時速60キロの突撃を受け、男は吹き飛ばされ、叩きつけられた。

ファミリーの中で原付を乗りこなす人物はただ一人。

 

 

「やったやったー! やっぱりラストはキャップである俺がシめなきゃなー」

 

 

風間翔一だった。

いつも予想の斜め上を行く彼だが、まさか原付で突撃とは某仮面ライダーもビックリだろう。

 

 

「俺の疾風号(バイク)で突撃! ヒーローっぽくね!?」

 

「ぐ……げぉ………な、んなんだ……お前……た、ち…特に女性陣………」

 

 

翔一の突撃を食らった巨漢は薄れていく意識の中尋ねる。

世界に名を馳せる犯罪集団が、まさか学生によって壊滅させられるとは夢にも思っていなかっただろう。

 

 

「努力大好き、川神一子! 武器は薙刀! 好きな言葉は勇気の“勇”!!」

 

 

一子が薙刀を華麗に振り回す。その瞳は常に活力に溢れていた。

 

 

「クリスティアーネ・フリードリヒ。 レイピアを使い、“義”を重んじる」

 

「余り他人に話す口無し……椎名京。 弓道を少々……好きな言葉は仁。 女は愛」

 

 

負けじとクリスも目の前にレイピアを立てる。その眼差しは、レイピアのように歪みない。

京も自己紹介の後に大和に熱烈な視線を送る。彼女曰く、「狙った獲物(やまと)は逃さない」。

触発されて、由紀江も隣に並び治めた刃を抜き取る。

 

 

「黛由紀江です。 刀を使い“礼”を尊びます」

 

 

ギラリと光る刀の切っ先。凛としたその姿勢に見合う鋭さで輝き、振るう。

刃を納めるとふわっと風圧さえ起こる。

 

 

「そして……武器は美少女らしく拳! 好きな言葉は“誠”! 川神百代!!」

 

 

最後に腕を組んだ百代が目の前に立つ。

ただ立っているだけで周りに砂煙が舞い上がるこの気迫。

盗賊団は悟った。川神に手を出した時点で、負けなのだと。薄れ行く意識の中、最後に翔一の声が聞こえる。

 

 

「俺ら全員で『風間ファミリー』ってんだ! 覚えておきな三下!」

 

「風間……ファミリー……げふっ」

 

 

まるでそれが最後の一言であるかのように、巨漢は気絶した。

無理も無い、バイクの突撃を脳天で受けたのだから。

 

 

「く~っ! イイトコ持っていきやがっただけなのに何だってんだこの説得力は!」

 

「ここで締めるのがキャップ、締めないのがだ」

 

「嫌な括りするんじゃねぇ大和!」

 

 

仲間達が楽しそうに笑う。

彼らは信じている。皆が揃えば出来ないことはない、無敵のチームだと。

そんな彼らを巻き込んでの慌しい日々が今、始まる――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――某国某所。

日と知れない空間に広がる闇。その闇の中にポツポツと光が浮かび上がる。

その光の中の二つ、鋭い眼光を持つものが。

 

 

「………どうだ? 九鬼財閥のシステムは」

 

「さすがの俺でも一苦労でさぁ。 貴方様から頂いた“目”を持ってしても」

 

「空白|≪ブランク≫だな。 なら丁度いい、目処がつくまで外で遊んで来い」

 

「んじゃ奴らに召集かけましょうかい?」

 

「ああ」

 

 

―――――少しずつ、目覚めていく。

 

 

 

 

続く




始めまして!テンペストです!まじこいの小説を書かせていただきます!
この物語は時系列で言うと「真剣で私に恋しなさい!S」のニューフェイス編、「それでもやっぱり風間ファミリーと一緒」を選択したその後をベースにしていきます。
因みにあの後ナレーションが「いずれ京と結ばれそう」とか言っていますが京と付き合うと決まったわけではありません。
しばらくはキャラ紹介に重点を置いてた話になりそうです。
感想ご意見、お待ちしておりま~す!
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