真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第十話 “川神一子”

大和が斑目風牙に襲われてから早2時間が経過した。

ここは川神市内最大の病院、葵紋病院。葵冬馬の父親が院長となって経営していた病院だ。

だがその彼と井上準の父親が「何故か」大怪我を負ってしまい、そのために現在では九鬼の最高位の医者がこの病院の臨時院長に就任している。

 

 

 

 

 

「………大和………大和ぉ……」

 

「一子……いい加減元気出せ。 直江なら大丈夫だ」

 

 

 

 

 

手術室前の廊下では、一子を始めとした風間ファミリーの面々が揃っていた。

その中には当然川神院から即駆けつけた百代も、そして一子や大和とも縁が深かった忠勝も心配してきてくれていた。

その他、葵冬馬に榊原小雪もそこにいた。

 

 

「おい葵冬馬! 大和は!! 大和は大丈夫なんだろうなあぁぁぁぁ!!?」

 

「落ち着いてください島津君。 今、九鬼でも最高レベルの医者や医療設備を持って大和君の治療に当たっています」

 

 

岳人に涙混じりに問い詰められる。

しかし医者の息子として冬馬は全く乱さず、あくまで平静を装って応えた。

狼狽していては良くない雰囲気を漂わせてしまい、それが手術室にも伝わる可能性が高いからだ。

 

 

「大和……お願い、頑張って……!」

 

「僕のましゅまろもあげるから……大和……」

 

 

手術室の前では京と小雪が必至に祈りをささげていた。

だがそれは他の面々も同じである。

 

 

「……斑目風牙……奴はこの私を怒らせた」

 

「だね。 ……そいつには地獄を見てもらってから死んで貰おうよモモ先輩」

 

 

何よりも大切な舎弟を傷つけられた。そして大切な仲間に重傷を負わせた。

百代と卓也の怒りも最高潮に達している。

万が一彼を見つけようものなら殺しかねない制裁を加える心積もりだ。

 

 

「それは私も同じです。 ………大和さんと同等の怪我を負っていただく所存です」

 

「ああ。 ………斑目風牙……絶対に許さん!!」

 

「俺達風間ファミリーの仲間を傷つけた奴だ……ケジメは俺らで取ろうぜ」

 

 

大和を慕っている由紀江、そしてクリスも同等の殺気を見せ付ける。

彼女達とは違う感情だが仲間として、そしてリーダーとして。翔一も斑目風牙を許すつもりはなかった。

そんな最中、手術室から一人の男と女が現れる。九鬼英雄と忍足あずみだった。

彼らはこの凶報を聞きつけ、大阪からUターンしてきたのだ。

 

 

「九鬼クン!! 大和は……大和はどうなったの!!?」

 

「無事なんだろうな!?」

 

「大和さん……! どうなんですか!?」

 

「大和……お願い!!」

 

「さっさと答えろ九鬼英雄!! 大和は無事なんだろう!?」

 

 

彼の姿が見えるなり武士娘達に問い詰められる。

あずみが無理矢理押しのけて距離を空けさせようとしたが、英雄がそれを手で制した。

まるで責任を取っているかのようだ。

 

 

 

 

 

「安心されよ一子殿、そして皆の衆。 直江大和の手術は成功した」

 

 

 

 

堂々とした英雄の宣言に、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えた。

 

 

「ほ、ホント!?」

 

「はい。 命に別状は無く、しばらくの入院が必要となりますが完治します」

 

 

九鬼英雄の報告に一子を始め、全員が安堵のため息をついた。

普通あれだけの攻撃を一般人が受ければ数ヶ月の入院が必要なはずだがそこは九鬼が誇る世界一の技術力で無理矢理可能としたらしい。

そして手術が終わった大和は近くの病室に移された。

 

 

「ごめんね、急に……その、あ、アタシのお金ちょっとしかないけど何でも働くから……」

 

「いえこれは九鬼の責任です。 入院費や治療費は全てこちらで負担します」

 

 

これだけの手術は億単位の金が掛かるに違いない。

財布を確認しながら一子が問うが、全て自らの責任であると言い切った英雄。

彼の言う責任とは監視のために放っていたステイシーや李といったメイド達が風牙に倒され、結果横暴を許してしまったことだろう。

 

 

「改めて……此度の直江大和の負傷、そして斑目風牙の件。 九鬼に全責任がある。 真に申し訳ないッ!!!」

 

 

誠意を込めて、九鬼英雄が頭を垂れた。

あのプライドが高く、世界の王を自称している九鬼一族の御曹司が。

一子だけではない、風間ファミリー全員に向かって英雄が誠意ある謝罪をしている。

 

 

「いえ、今回は部下の監督不届きである私の責任です! 英雄様が頭を下げては……」

 

「あずみ。 部下の失態、それは王たる我の責任だ。 我が謝罪しなければならないのだ」

 

 

崇拝している九鬼英雄が、庶民に向かって頭を下げている。

それは英雄に心酔している忍足あずみにとって耐え難い光景だ。すぐさま自分の責任として謝罪しようとするが、英雄がそれを止めた。

まさに九鬼英雄は、九鬼一族の名に相応しい誠意を持った態度で臨んでいた。

 

 

「ううん。 いいよ九鬼クン………悪いのは……アタシ、なんだから……」

 

「……ワン子……」

 

 

だがその威光は逆に一子を暗くさせるものとなっていた。

無論九鬼英雄に悪気など一切あるはずがない。寧ろその逆だ。それでも今の一子は大和を守りきれなかったことによる“責任感”に押しつぶされそうになっている。

百代にはそれがたまらなく、痛く見えた。

 

 

「おい九鬼!! 大和と話できるか!?」

 

「今は手術後もあって面会できない。 しばらくすれば回復するから面会はその時だ」

 

「だよね……でも今は大和が無事なだけマシか……」

 

 

岳人が大和と面会したがっている。仲間として当然の反応だ。

対する英雄の対応も当然のもので、そう返されては岳人も、卓也も納得するしかなかった。

 

 

「……大和が一命を取り留めたのは喜ばしいが、斑目風牙の方はどうなんだ?」

 

「申し訳ありません。 現在総力を挙げて捜索中です」

 

「私も気を探知していますが……少なくともこの近辺にはいないようです」

 

 

大和の無事で安心する一方、もう一つの不安要素である斑目風牙の行方。クリスの疑問も最もだった。

だがこちらについては忍足あずみも悩ませている問題で、探知を得意とする由紀江ですらまだ発見できていないようだ。

 

 

「斑目風牙……ワン子が手も足もでなかったって言うがそんなに強ぇのか?」

 

「足に関してはユキや同じ従者の桐山鯉と同じく“壁を越えた者”に数えられます」

 

 

壁を越えた者――――それは武道家であれば誰もが目指したがる、武の頂点。

その域に達していれば殆ど達人と相違ない強さだ。

だが中には一部の、得意分野だけがその領域に達する人間もいる。それが足であれば榊原小雪、そして九鬼家従者部隊の一人である桐山鯉もそれに入る。

あの斑目風牙も、足に関しては“壁を越えた者”であると、あずみが断言した。

 

 

「…………………」

 

 

怒りに燃える一方で、百代はその発言から冷静に分析していた。

その斑目風牙という男と、そして一子を。

彼女の視線に気づいたらしい、一子が今にも消えそうなか細い声で問いかける。

 

 

 

 

「ねえお姉様………アタシって、才能……ないかな………」

 

 

 

不意にそんな質問をされて、百代の心臓が飛び跳ねた。

取り乱したかのように振り返る。

 

 

「ど、どうしたんだワン子。 急に………」

 

「さっき……斑目と戦っている時に……そんな事、言われたの」

 

 

一子の発言に、百代が固まってしまう。

彼女の表情を察した翔一達も何も言えずにただその成り行きを見守る。

 

 

「………これは今のお前にいう事じゃ……」

 

「お願い!! 言って!!」

 

 

一子の強い発言に百代も唸ってしまう。周りの意見を聞きたいところであったが、この場には鉄心もルーもいない。増してや釈迦堂も。

川神院としての意見を言えるのは百代だけだ。

目を伏せた後、百代は戸惑いながらも口を開いた。

 

 

「……ワン子、今日の試合はな。 それを見極めるためのものだったんだ」

 

「!」

 

「だが、話を聞いただけの私の意見……これは武道家の意見としては弱いが」

 

 

百代は一瞬、息を吸い込んだ。まるで覚悟を決めたかのように。

本来、傷ついている彼女にこんな事を言えば追い討ちになるのは分かっている。

それでも彼女は答えを求めている。はぐらかしても、嘘を言っても、看破されてしまう。

何より武道家として、“誠”を信念とする百代にとって。嘘はつけなかった。

 

 

 

 

「………武道の才能がない。 このままでは、川神院師範代にはなれない」

 

 

 

 

残酷な一言を告げた。一子は覚悟していたものの、そのショックは大きかった。

あの憧れで、大好きだった姉から言われたのだから。

 

 

「本来、今回の試合でお前は私に攻撃を当てさせれば合格とするつもりだった」

 

「………だった………」

 

「だが話を聞く限り、斑目風牙程度の相手ならば倒さなければならない」

 

 

武道家としての厳しい意見が次々と突き刺さる。

自分の未熟さ、それを容赦なく叩きつけられて一子も茫然自失となってしまう。

 

 

「無論、この件が沈静化したら試験を改めて執り行う。 だが――――」

 

「………そ、だったんだ……」

 

 

力ない、彼女の声が百代の発言を遮った。

完全に俯き、前を見ようとしない。

 

 

「……やっぱり……アタシが弱かったから……や、大和が………」

 

「ワン子、それは違……」

 

「違ってなんか、ない。 アタシが……アタシがっ……!!」

 

 

もう百代の言葉ですら今の一子には届かなかった。

まるで逃げ出すかのように一子は背を向けてしまう。振り返ったその際、涙が宝石のように煌いて飛び散る。

 

 

 

「……アタシがっっ!!!」

 

「おい、ワン子!! ……ワン子のことは俺に任せろ!!」

 

 

 

長い病院の廊下をかけて行ってしまう。怪我しているとはいえ彼女のスピードは相当なもの。

それでも追いかけると立候補したのは翔一だった。

ファミリー最古参として、リーダーとして。一子のことは放っておけなかった。誰の意見を聞かずとも、翔一は一子を追いかけていく。

 

 

「あずみ! 今の外は危険だ! 一子殿の護衛に行け!」

 

「しかし英雄様の警備が……」

 

「今は我よりも一子殿だ! 命令だ、行け!!」

 

「………了解しました!」

 

 

英雄の命令に躊躇いつつも、あずみが護衛に向かう。

一方で忠勝と、そして卓也はその凄まじい剣幕を隠していなかった。

 

 

「おいモモ先輩! 今このタイミングで……あんな言葉はねぇだろ!!」

 

「そうだよ!! もう少し言葉を選んであげても良かったんじゃ……」

 

 

一子のことを妹のように気遣ってきた忠勝、そして仲間のことを第一に考える卓也が百代に詰め寄る。

しかし次の瞬間、二人は一歩下がらざるを得なくなった。

百代の顔つきに脅されたのではない。寧ろその逆。百代の顔が――――余りに切なかったからだ。

 

 

「………ワン子は、“武道家”として私に意見を求めた。 だから私は、“武道家”として……それに応えたまでだ……」

 

 

百代は拳を震わせながら、そう答えた。

そんな彼女の顔は武道家ではない、川神一子の“姉”だった。武道家でもあるが、彼女の姉でもある。

だからこそ、誰よりも切なく、誰よりも悲しく、誰よりも苦しい。

忠勝も卓也も、それを感じ取ったからこそ引いたのだ。

 

 

「……ご、ごめん」

 

「………すまねッス」

 

「いいんだ。 モロロも……ゲンも、優しいな……」

 

 

彼女に当たることは場違いと知った卓也と忠勝はすぐに謝罪した。

気にしないと取り合った百代だが、拳が震えていた。

一子に事実を告げた悲しさもある。だがそれと大和を傷つけられたその怒りはまた別だ。

百代は再び、斑目風牙に対する殺気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

「………斑目風牙……妹と……何より大和を傷つけた罪は重いぞ!」

 

「私も行きます!」

 

 

 

 

 

 

百代は沸きあがった怒りを堪え切れず、そのまま外に出た。

合わせて由紀江も彼女と共に出動する。斑目風牙に報復しに行ったのだろう。

百代と鉢合わせれば間違いなく死、由紀江と出会えば病院送りか一生チューブ食。それを考えると岳人達の鳥肌も立ってしまう。

 

 

「……………」

 

「どうしたよゲン。 大和はもう大丈夫だって九鬼が――――」

 

 

ふと岳人は忠勝の様子も可笑しいことに気づく。彼は大和の病室に顔を向けている。

声をかけようとしたが、やめた。

彼の拳が震えていることに気付いたからだ。これは先程の百代の“悲しみ”とは違う。自責の念に近いものだと、岳人は悟った。

 

 

(……直江は一子を守った……。 一子は傷ついた、モモ先輩は自分か傷つくの承知で事実を告げた……。 俺は……何やってんだ……?)

 

 

忠勝は、自分に失望していた。

友人が命をかけて一子を守り、その姉が覚悟を決めて非情な言葉を放った。

その一方で何もしていない自分に、心底腹が立ってきた。

 

 

「ゲン…………」

 

「……源殿」

 

 

同じような経験を、岳人は何度も体感している。

だからこそ忠勝の心境が良く分かる。岳人ほど敏感ではなかったが、クリスも忠勝を気遣っていた。

さすがに下手な言葉をかけるようなことはしないが。

 

 

「ぼ、僕がこういうのもなんだけど……ゲンさんは悪くないよ」

 

「そうだよ。 だから、今からワン子と大和のために出来ること……を!?」

 

 

知人が落ち込んでいるのを見過ごせない卓也は励ましに掛かる。

彼に同調して京も後に続こうとした。

しかし、天下五弓として目のよさに定評のある彼女がふと窓に目をやって発見したもの。それは危険な物体が飛来してくるその一瞬だった。

 

 

「モロ!! 伏せて!!」

 

「え?」

 

 

急に京が叫ぶ。

と同時に窓ガラスが割れる。何かの物体が高速で卓也に飛んでくる。

 

 

「たぁぁぁっ!!」

 

 

高い反応力で咄嗟に動いたのはクリスだった。

レイピアを抜き取り、鋭い突きでその物体を打ち落としてみせる。それは石礫だった。

 

 

「これは石……? どうして……」

 

「トーマ下がって!!」

 

 

拾おうとした冬馬にまたもや石が飛んで来た。窓ガラスをもう一枚突き破って。

それは小雪が足で蹴り落としてみせる。

彼女のテコンドー、そして足の筋力。先程あずみが告げた通り壁を越えた者としての強さを誇るからこそ出来る芸当だった。

 

 

「誰だ!! こんな事をしてくる無礼者は!!」

 

「……あそこだ!! アイツは……!!」

 

 

英雄や岳人が割れた窓から確認する。

無論飛来してくる石に注意しながら。覗き込んだ先には激しく息を荒立てる男の姿があった。

続けて外を見てみた忠勝の目にもその姿が捉えられる。

 

 

 

 

「斑目風牙か……!!」

 

 

 

 

派手な格好、黒いジャンバー、鳴り響く装飾。

紛れもない今回の騒動の発端、斑目風牙だった。先程の礫の数々は風牙が蹴って打ち込んできたものらしい。

弾丸とも変わらない威力のそれを、風牙は蹴ることで実現させている。

足元に転がしている。ただの石ころで。

 

 

「ここかァ……俺を馬鹿にしたあの生意気なガキがいるトコはよォォォォオオ!!」

 

「アイツが……アイツが大和をぉッ!!」

 

「奴が……犬と大和の仇………!」

 

 

まさか自らで向いてくるとは思っても見なかったが、京とクリスにしてみれば仇敵が目の前にいるこの状況を逃すはずがない。

弓とレイピア、それぞれの武器を構える。が、風牙はそれに構わず石を蹴っては病院のいたるところに打ち込む。

 

 

「死ね死ね死ねぇぇえええええッ!!」

 

「いけません!! この病院には多くの患者が………」

 

「ええいやめんかこの愚か者が!!」

 

 

彼の蹴りが叩き出す礫の威力は壁すら砕くほどだ。

万が一それが院内の壁や窓を突き破って機材に当たれば多くの患者の命が危険に晒される。

英雄もその危険性に気づきやめさせようとするが声ではもう届かない。

 

 

「ヤロォ……モモ先輩や黛がいない隙を窺っていやがったな……!」

 

「それよりどうするの!? このままじゃ患者の人たちが……大和が……!!」

 

 

連続で打ち込まれる石の礫。その数々はまるでマシンガンだ。

それをしゃがみこんで回避する忠勝。迂闊に出れば医師礫の直撃を受けて即昇天だ。

かと言って卓也の言うとおり手を拱いているわけにも行かない。

既に九鬼の従者部隊が主である英雄を守るために展開されているが思いの外圧倒されており、既に倒されているものが出始めた。

 

 

 

 

「持ちこたえるに決まってんだろ! モモ先輩が、まゆっちが……ワン子が!!

戻ってくるまで………俺様達が粘るんだよおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

 

岳人が吼えながら石を叩き落す。

彼の怒声に触発された忠勝も促され、立ち上がる。その間、卓也はすぐさま仲間達に連絡を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ……はぁ……………はぁ……!」

 

「おい、ワン子落ち着けって!!」

 

 

病院から遠く離れた、多馬川の土手。

そこで一子はようやく足を止めて膝を地に着けた。さすがの翔一も息を切らしているが、自身に構わず一子に近寄る。

彼らの目の前にこそ現れないが、忍足あずみも近くで待機している。

 

 

「げほっごほっ……!」

 

「咳き込んでるじゃねぇか! マジで落ち着け!!」

 

 

慌てて翔一が背中を摩る。

しばらく摩っていれば彼女の呼吸は次第に落ち着いていく。

それでも彼女の心は穏やかでもなんでもなかった。

 

 

「………アタシ……やっぱ、ダメなんだね………」

 

「ワン子………」

 

「お姉様の助けになれないどころか………大和も、守れない……なん、て…」

 

 

彼女にとって衝撃的な展開が立て続けに起こった。

突如現れた男に蹂躙され、夢だった川神院師範代を否定され、そして大好きな人を守れなかった。

時々涙目にもなることがある一子だが、今流している涙は違う。

もっと痛々しい輝きを帯びた雫が、地面に落ちて吸い込まれていく。

 

 

「……役、立たずだったんだ………無能……なんだ………」

 

「おいワン子。 自分を卑下するのはやめろ」

 

「だって! アタシ……何も……出来なかった………出来なかった!」

 

 

翔一が厳しい口調で宥める。

仲間として、風間ファミリーのリーダーとして。だが武道家ではない彼の言葉は今の一子にはやはり届かない。

まるで取り付く島もない。

 

 

 

「おいおい。 随分落ち込んでるな一子」

 

 

 

そこに、一人の男の声が。

この声には聞き覚えがある。中年の声だ。

一子が顔を上げるとそこにはあの無精ヒゲを生やした男が立っている。

 

 

「釈迦堂……さん……」

 

「どうしたってんだ。 いつも元気ハツラツゥ~のお前が」

 

 

釈迦堂刑部、その人であった。

彼から見れば今まで笑顔一番だった門下生が涙でクシャクシャになっている。

昔から可愛がってきた人物のそんな顔を見過ごせるはずもなく声をかけたという事らしい。

 

 

「釈迦堂さん………アタシ……アタシ………」

 

「どうしたってんだ。 おいニイチャン、教えてくれや」

 

「あ、ああ。 実は――――――」

 

 

しかし今の一子の精神状態では上手く話せるはずもない。

代わりに翔一にこのあらましを聞くことにした。

彼女の目の前で話すことは少々憚られたものの、それでも事実は事実。翔一は包み隠さずこれまでの出来事を釈迦堂に話した。

 

 

「―――――そうか。 とうとう言われたか」

 

「とうとう……ってどういうことッスか」

 

 

瞬時に釈迦堂は納得の表情を見せる。

だが翔一はその中の言葉に引っかかったようで尋ねてくる。

 

 

「………俺やルー、そして鉄心のジジイは最初一子の門下を反対してたんだ」

 

「ワン子もそれとなく言ってたけど……どうして?」

 

「動きに対する才能がなかったんだよ」

 

 

釈迦堂は何の躊躇いも無く、そう言い切った。

少々反感を覚える翔一だったがかと言ってカッとなって飛び掛るほど無鉄砲ではない。

 

 

「だが一子は血を絞り出してまでジジイの試練を乗り越えた」

 

「…………………」

 

「一子は川神院入りした。 が、俺は無理だろって思ってた……その時までは」

 

「そ、“その時までは”?」

 

 

が、ここで釈迦堂が妙な言葉を使った。

「その時まで」ということは、その後は何かが違ったという事だ。思わず一子も嗚咽の声を止めて顔を見上げる。

 

 

「一言に武道の“才能”って言ってもよ、色々あるんだよ才能って」

 

「例えばどんなのッスか」

 

「動きは勿論、発想力も必要だ。 基本を如何に応用するか、これも立派な才能だぜ」

 

 

元とは言え、川神院師範代の男の言葉は違うものがあると翔一もあずみも、そして一子も感じ取っていた。

刑部はまだ何か続けるつもりらしい、そのまま唇を開いた。

 

 

「まぁ一子は頭が残念だからそこは期待できなかったが」

 

「うえぇぇぇぇぇん」

 

「ちょーい!! トドメさしてどうするんスか!」

 

 

思わず突っ込んでしまう。

だが、刑部の話はこれで終わりではなかった。

 

 

「……でもな、俺は一子の“才能”を目の当たりにすることになるんだぜ」

 

「え…………?」

 

「一子、覚えてるか? 初めて俺がお前の目の前で模擬試合を見せた時だ」

 

 

顔を挙げてやっと気付いた。刑部は今、懐かしんでいるのだと。

目を伏せて、まるで味わっているかのような顔に思わず一子の荒んだ精神が落ち着いてしまう。

あの戦闘狂といわれた釈迦堂がこんな表情をするとは、さすがの一子も知らなかった。

そのまま釈迦堂が話し始める。それは遠い過去の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――――――――

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

十年以上前の、川神院。

 

 

「はぁあッ!」

 

「遅ぇ。 体重移動がなってねぇ!」

 

 

一子が門下生となって翌日。

川神院での修行がどんなものかを見せるために模擬試合の稽古を見学することになった。

今回は釈迦堂と、そして川神院師範代の候補生との稽古だった。

 

 

「うおおぉぉぉっ!」

 

「どっちを見てんだ。 相手から目を逸らすな」

 

 

常人であれば吹き飛んでしまうような蹴りの嵐。

釈迦堂刑部はそれをまるで風に揺れる柳の枝の如く、避けていく。門下生の中ではトップクラスとも呼ばれるこの男が、釈迦堂の前ではまるで赤子扱いだ。

 

 

「す、すごい………」

 

「すごいだろワン子。 私の師匠だからな」

 

 

傍では幼き日の一子、そして百代もそれを観戦していた。

まだ武道を始めたばかりの一子でも分かる。相手の蹴りが凄まじいものであることを。

それはこの試合前のデモンストレーションで立てられた木材を一瞬にして木っ端微塵にしたのだから。

凄まじい蹴りの嵐を、釈迦堂は全く意に介さないように避けている。

 

 

「川神流………地の剣!!」

 

「敵の体勢が崩れてねぇのにそんな大仰な技使うな」

 

 

鋭い回し蹴りも、一歩足を引くだけで刑部には届かない。

何より回し蹴りとは片方の足を軸にして勢いを乗せた上で足を振りぬく。つまり威力が期待できる分、隙も大きくなるのだ。

門下生は一気に顔が青ざめた。釈迦堂がトドメの姿勢に入っているからだ。

 

 

「小技だって重要なんだよ。 覚えておきな! 川神流無双正拳突きぃっ!!」

 

「ぐぱぁ!!!」

 

 

稽古の一環とは言え試合。そして試合であり稽古。

一通り指導し終えた釈迦堂の正拳が、門下生の身体を打った。一見タダのストレートパンチだが、師範代クラスになるとこの正拳が必殺の奥義になる。

手加減しながらもその威力は絶大で、あっという間に相手が吹っ飛んだ。

 

 

「鍛え直しだなこりゃ。 技の基礎を振り返ってこいや」

 

 

一礼した後、釈迦堂が一言付け加えた。

だがそれは気絶している相手には届くはずもなかった。そしてこの戦いが終わったその直後、周りからが声が沸きあがった。

それには賞賛の声は少なかった。

 

 

『おいおい真剣(マジ)かよ……アイツが手も足も出なかったなんて……!』

 

『釈迦堂師範代、やはり強すぎる………! 本当に何なんだあの人……』

 

『噂によると人ならざるものなんじゃねーかってよ』

 

 

恐れの声が犇いていた。

無論師範代の手前聞こえないような小声で話しているつもりだ。だが壁を越えた強さを持つ釈迦堂の聴力はそれをも聞き取っていた。

 

 

「……ふん」

 

 

鼻を鳴らした後、舞台から降りようとする。

が、その足は止まった。

目の前に、先日門下生となったばかりの少女がタオルを持って立っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

「釈迦堂師範代! おつかれさまです!」

 

「………お、おう。 ありがとよ」

 

 

 

 

 

 

誰も近寄らぬ中、賞賛しない中、この娘だけは近寄ってきた。

岡本一子――――否、川神一子は眩しいばかりの笑顔でこの獣とも称される男に歩み寄ったのだ。

一子はそれを知らぬわけではない、寧ろ他の門下生から注意されていたくらいだ。

それでも彼女は自分から接している。

 

 

「後、飲み物もどうぞ!」

 

「あ、ありがとな……お前、気が利くねぇ」

 

「将来、師範代になりますから!」

 

 

理由になっていないような理由だった。

彼女の門下生入りに理解を示したルー師範代は「この情熱が化けるかもしれない」といった。

努力を否定するわけではないが、動きにセンスが見られなかったとは川神院としての総意。だが今、釈迦堂はその認識を少しだけ改めた。

 

 

「おい、確か……一子だったな」

 

「はい! 何ですか?」

 

「言っておくがよ、武道は怖ぇぞ。 ………俺のようにな!」

 

 

釈迦堂は少しだけ殺気を放出した。

一気に場が静まり返るほどの重圧感。当時彼の弟子であった百代も息を飲んでしまうほどだ。

慌ててルーや鉄心も駆けつけてくる中、川神一子は彼の目の前に立ったままだ。

足こそ震えている、汗だって振り出している。でも、目は逸らさなかった。

 

 

「どうした? 怖くなかったのか?」

 

「こ、怖い……です。 でも……」

 

「でも……なんだ?」

 

 

釈迦堂は興味が沸いてきた。

多くの者が「危険」と察するのこの殺気を目の当たりにして逃げない彼女がどんな答えを出すのかを。

返ってきた答えは、彼にとって眩しすぎるものだった。

 

 

 

 

「師範代になりたい! だから……怖くないんです!」

 

 

 

 

釈迦堂は己の認識を大きく改めることになった。

この娘には、武道において何よりも必要な「要素」が、誰よりも備わっていると。

 

 

「くっ………くくく……かーっかっかっか!」

 

「え……?」

 

「いや悪ぃ悪ぃ……そっか。 頑張りな一子。 俺でよけりゃ技、教えてやるぜ」

 

「は……はい! ありがとうございますっ!」

 

 

頭をポンポンと撫でた。

刑部は去り際に彼女が用意したタオルと飲み物を受け取り、そのまま去る。

一方の彼女は、形はどうあれ師範代から技を教えてもらえると喜んでいた。

 

 

「……意外ですネ。 あの釈迦堂があんなに穏やかに接するなんテ……」

 

「ふぉっふぉっふぉ。 ……ルーよ、あれが一子の才能の一つ、なのかもしれんぞい」

 

 

端から様子を見守っていたルーと鉄心も一安心だった。

この日以来、釈迦堂は一子を可愛がるようになる。ルー師範代に止められ、釈迦堂に稽古をつけてもらえる機会は少なかったのの、一子も釈迦堂も嬉しそうだったという。

無論傍にはきちんと百代も共に稽古していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

―――――――――――

 

 

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今でも一子の脳裏に焼きついている、あの日。

 

 

「……はい、覚えてます……」

 

「その時よ、俺はお前にあるものを感じたんだ。 師範代になれるかどうかは分からねぇが……武道家において最も必要なものが、よ」

 

 

いつの間にか、釈迦堂の言動のそれは「師範代」となっていた。

翔一やあずみにもそれが理解できる。

すると釈迦堂は先程の穏やかな声色から一転、険しい顔つきと声になる。

 

 

「川神一子ォッ!!」

 

「は、はいッ!!」

 

 

覇気の篭ったその一喝に一子は思わず反応してしまう。

激しく泣きじゃくった後だったにも拘らず、背筋を伸ばして起立している。

 

 

「お前、名前は何だ」

 

「え……?」

 

「名前は何だっつってんだ。 言え!」

 

「は、はい! 川神一子です!」

 

 

先程名前を呼ばれたにも拘らず、奇妙な質問をしてくる刑部。

一瞬その意図が察せなかったものの、続けざまに降りかかる怒声に一子はキリキリと答える。

 

 

「次。 武器は何だ」

 

「武器は薙刀です!」

 

「師範代になろうとしてる理由はなんだ」

 

「お、お姉様………川神百代の助けになりたいからです!」

 

 

質問の意図がつかめないのは翔一も、あずみも同じだった。

彼らの視線には釈迦堂も気づいている。が、止める気配はない。

一子も混乱こそしているのだが、こうやって答えているのは最早条件反射に近かった。

 

 

 

 

 

「んじゃお前の好きな文字は何だ」

 

「それは………勇気の“勇”です!! ……………ぁ」

 

 

 

 

 

その時、一子の凝り固まった心が一気に溶け出した。

 

 

「努力、動き、発想。 確かに武道には必要だ。 けどな、何よりよ……武道家には相手に立ち向かう『勇気』が一番大切なんだよ」

 

 

一子だけではない。翔一や、あずみも納得してしまう。

幾ら才能を持とうが、幾ら努力を積もうが、それを実戦で発揮できなければ意味がない。

逆に才能がなくとも「勇気」を持つものが、初めて武舞台に立てる。

 

 

「一子、お前にはそれが備わってるんだ。 俺よりも、な」

 

「……釈迦堂、さん……」

 

「動きにセンスがない、発想力もダメ。 でもな、お前の最大の才能。 そいつは『勇気』だ。 川神魂で言う……勇往邁進だろうが!」

 

 

釈迦堂の、「師範代」としての言葉が一子の胸に届いた。

強い衝撃を伴ったその言葉に彼女の心臓が再び動き出したかのようだ。

血液が全身に流れ、アドレナリンが染み渡ってくる。

最初からあった。自分が求めていた武道家としての“才能”。

 

 

「もう一度聞く。 ………お前、何なんだ?」

 

 

それを踏まえた上で、刑部はもう一度質問してきた。

今度はもう、躊躇わない。

 

 

 

 

 

「アタシは……アタシは! 川神一子!! 好きな文字は勇気の“勇”です!!」

 

 

 

 

 

自信を取り戻した彼女は、迷うことなく言い切った。

彼女のその姿勢に釈迦堂も、そして翔一も満足している。

 

 

「言えたじゃねぇか……ったく、俺にこんなむず痒い台詞言わせんな」

 

「釈迦堂さん……」

 

 

こんなシチュエーションは本当は恥ずかしかったらしい、釈迦堂が彼女達に背中を見せて頭を掻いている。

けれども翔一は振り返る直前に見た。彼の顔が嬉しそうだったのを。

一子を立ち直らせることが出来て、良かったと感じている証だった。

 

 

(やれやれ……川神一子はこれで安泰っぽいな)

 

 

傍の木陰で見守っているあずみにもそれは見て取れた。

彼女の存在に気付いているのはこの場では釈迦堂だけだろう。後は彼らに任せて英雄の元に戻ればいい。

そう思って一歩踏み出した矢先、彼女が携帯している通信機に連絡が入った。

 

 

「アタイだ。 ……何!? すぐ戻る!!」

 

 

あずみの表情が一気に変わった。

メイドとしてではない、戦士の顔つきとなる。彼女は木陰から出ると一子達に声を駆ける。

 

 

「おいお前ら!!」

 

「おわっ! 忍足あずみか……どこに隠れてやがったんだよ」

 

「んなことはいいから速く病院に戻れ!!」

 

「病院がどうかしたのかよ?」

 

 

あずみのあの必死な形相はただ事ではない。

翔一もそれぐらい理解できるが何が起こったのかいまいち理解できない。

 

 

 

 

 

 

 

「病院が………葵紋病院が! 斑目風牙の襲撃を受けているんだよ!!」

 

「っ―――――!! 大和ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

彼女の言葉を聴いた一子はまるで弾かれたかのように走り出した。

後を追うのは勿論あずみと翔一。そして釈迦堂もため息を一つつきつつついて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるあぁぁぁああああ!!!」

 

「こんの………ヤロォッ! 岩なんてもん蹴ってきやがって!!」

 

「矢でも打ち落とすのが精一杯……!」

 

 

その頃、葵紋病院では必死の攻防が張り巡らされていた。

斑目風牙は撃ち出すその石の大きさを徐々に大きくしていく。こんなものが病院内に飛び込んでしまえば大変な騒ぎになる。

岳人が持ち前のパワーで、京がその狙撃技術で何とか打ち落としたり、逸らしたりしている。

 

 

「モロ!! モモ先輩やまゆっちと連絡がついたのか!?」

 

「まゆっちには連絡入れたけどモモ先輩、携帯電話の電池が切れてるみたいで!」

 

「ならばまゆっちが来るまで持ちこたえるのみ!!」

 

 

同じくレイピアで飛来物を打ち落としているクリスの背後で、卓也は必死に携帯電話を弄っていた。

幸い由紀江には事情を知らせすぐに戻ってくるよう指示したが肝心の百代は電話での連絡が繋がらなかった。

オフェンスに回るとその分防衛網が薄くなり、飛来物が一般人や患者、機材に当たってしまう。故に防御に徹するしかない。

 

 

「あのガキ………直江大和つったかァ!!? どこにいるんだァァァァアアア!!!」

 

 

一方の風牙の激昂は時間が経つ度に激しくなっている。

そして石の大きさは勿論、その威力、速度が徐々に増している。

 

 

「あそこかぁぁぁぁああああああああああ!!?」

 

「ヤベ………!!」

 

 

拳で打ち落としている岳人の手には相当のダメージが溜まっている。

その一瞬を狙って風牙が岩を打ち出してきた。

最悪な事にそこはまさに大和が収容されている病室だった。動こうにも岳人ではもう間に合わない。

 

 

「失せろ!!」

 

「なァ!?」

 

 

だがそれは何者かに打ち落とされた。

岩、と言っても頭の大きさほどだが威力は十分のはず。それが打ち落とされたのだ。何が起こったのか、風牙は信じられないでいる。

撃墜したのは、源忠勝だった。

 

 

「直江に手ぇ出してんじゃねぇよ………!!」

 

 

凄まじい眼光で風牙を睨みつける。

打ち落としたその拳からは血が流れていた。その迫力に思わず風牙も一瞬だけ攻撃の手を緩めてしまう。

が、次の瞬間には忠勝は膝を突いてしまう。

 

 

「痛っ………」

 

「おいゲン! 大丈夫か!?」

 

「あぁ! 直江が体張ったってのに……俺がノコノコ休んでるわけにはいかねぇ!」

 

 

今の忠勝から熱い物を感じる。

彼のその姿勢に岳人も「漢」を感じた。だが今はそれを気にしているヒマはない。

 

 

「それは我も同じだ! ホァッチャー!!」

 

「九鬼!?」

 

 

再び飛んでくる石を今度は英雄が蹴り落とした。

戦闘モードに移行した彼はいつもの格好を脱ぎ捨て、ふんどし一丁になっている。

露となったその肉体は筋骨粒々といえる。

 

 

「我はカンフーを齧っているからな! 多少の戦力ともなれよう! 何より……一子殿の大切な仲間を傷つける愚か者は、この九鬼英雄が許さぁん!!!」

 

 

九鬼英雄、彼もまた漢だった。

岳人だけではない、その姿勢は武士娘達にも感銘を与えていた。

 

 

「私は戦力になれませんが……大和君を守りたい気持ちは同じです」

 

「僕もー!! 大和を守るん……だっ!」

 

 

そして葵冬馬、榊原小雪の両名も協力してくれている。

しかし再開した風牙の猛攻は止まることを知らない。

 

 

「さっきからウゼぇんだよォ!! あのガキを……()らせろやあああああ!!!」

 

 

痺れを切らしたのかどこから用意した超特大の岩。

この場にあれだけの岩を砕け散らせる猛者はいない。百代なら可能かもしれないが、今この場にいない。

 

 

「あのガキもテメェらも……死ねぇぇぇええええええええ!!!」

 

 

斑目風牙はそれを打ち飛ばそうとしているのだ。

脚力だけならば小雪以上か。

一か八か全員の力を合わせて弾き飛ばすという作戦に出ようとしたその時。

 

 

「させない!!」

 

「ッ!?」

 

 

背後から気配を感じ取った。

すぐさま持ち前の脚力でその場を飛びのき、振りかぶるようにして繰り出された一閃を避ける。

慌てて振り返り、襲い掛かってきた相手を見つめる。

 

 

「……テメェ……どういうつもりだァ?」

 

 

その顔は、風牙も知っている顔だ。

というよりもつい先程見たばかりの顔。忘れろという方が難しい。

目の前のその人物は得物を激しく振るい、その切っ先を相手に向ける。

 

 

 

 

 

 

「アタシは……川神一子! 大和を傷つけ、尚も傷つけるアンタを……許さない!」

 

 

 

 

 

 

薙刀と決意と――――勇気を手に、一子が相手を見た。

 

 

 

 

続く




どうも~テンペストです。
実は今回の裏の主役は……釈迦堂さんです(オイ)
どうしてこう、ワン子が絡むストーリーは釈迦堂さんがいい人になっちゃうんでしょう……恐るべしワン子パワー。
さぁ、一子編もいよいよクライマックス。どうかお楽しみに。
感想お待ちしております!!
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