真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

12 / 41
幕間
第十二話 西方さん、いらっしゃ~い


畳が敷き詰められた、川神学園の一室。

多くの生徒がズラリと壁を背に並んでいる。その中に、風間ファミリーのキャップこと風間翔一もいた。

彼の目に“映っている”人数は精々3,4人だった。

 

 

「井上に矢場先輩、そんで京極先輩に生徒会長までいるのか」

 

「ユキ達が退屈しているからな、ここで憂さ晴らしも兼ねてな」

 

 

2-S所属、井上準は翔一の隣に座っている。少し薄暗い部屋にも拘らず今日もスキンヘッドがツルリと光っている。

対するように彼の目の前に座っているのは2-Fに在籍している弓道部主将の女性、矢場弓子。

 

 

「何せ久しぶりで候。 武士の血を引き継ぐ者として血が騒いでいるので候」

 

 

凛とした声が返ってきた。

ストレートヘアーに理知的な眼鏡、整った佇まいに堅苦しい喋り方。

いかにも“武士”を思わせる要素だらけだ。だがその実は。

 

 

(はぁー……今日はトーマ君いないんだぁ……まぁ京極君がいる分目の保養になるけどね)

 

 

大変に可愛らしい女性である。

その優しすぎる性格が仇とならないように気丈に振舞っているだけのことであった。

彼女のそんな性格をこっそり見抜いているのは隣に座っている言霊部主将、和服を着込んだイケメン。

 

 

「今回は興味深い“客人”がくるからな。 面白い体験に出会えればいいと思っている」

 

「HAHAHA! 生徒会長ノ仕事ダケジャ、体ナマル! Let's Exciting!!」

 

「いや、お前がキチンと仕事しているのを見たことがないで候……」

 

 

川神学園エレガンテ・クアットロ最後の一人、3-Sに籍を置いている京極彦一である。

常に自らの好奇心を満たそうとしている、ある意味物好きな人物であり『言霊』を武器にすることが出来る。

そして更にその隣に座っているのがこの学園の生徒会長、南條・M(ミシェール)・虎子だ。

 

 

「アームコール……キルゼムオール!!」

 

「いや生徒会長、別に喧嘩するわけじゃないんスから」

 

 

骨法部に所属しており、エキセントリックな言動が特徴の美少女。

彼女も川神百代や弓子と同じ3-Fである。

その人懐っこさが生徒会長になれた決め手であり、また彼女の作るアクセサリーは数ヶ月先まで予約殺到しているほどの出来栄えだとか。

 

 

「ハイハイ、そろそろ始めるヨ」

 

 

他にも幾人か詮索しているとジャージ姿の体育教師、そして川神院師範代のルーも姿を現す。

次いで京極とは違った、平安時代を思わせる着物に白粉とヘアスタイルが特徴の男が現れる。平安時代をこよなく愛する歴史教師、『綾小路麻呂』だ。

 

 

「ふむ、今日は中々の人数が揃っている、の」

 

 

唇に扇子を当てて、出揃った面々を見定めている。

彼は教師であると同時に不死川心と同じ日本三大名家、御三家の一つ綾小路家出身。

名家出身=優雅をモットーとし、そのために平安時代に惚れ込み、教える教科は平安時代だけ、喋り方や趣味も平安時代に沿わせている。

 

 

「ではこれより~……依頼の競りを始めるでおじゃ」

 

 

麻呂の一言で場が一気に緊張した。これは川神学園の特殊なシステムの一つ、『依頼』だ。

学校側が報酬を進呈し、生徒達に様々な事柄を解決して貰うというものだ。武士の家柄の家系が多い川神ではこういった依頼に積極的に取り組むものも多い。

 

 

「尋ね人~ 遥々来たり~ 灘津(なだつ)より~」

 

「今回の頼み量は、食券100枚だヨ」

 

 

案件を麻呂が和歌にして読み上げる。平安時代の貴族を意識した趣味だ。当然これだけではわかりづらいが、既に案件は伝えられてある。

そして大抵の場合、依頼料は食券か豪華な食事が食べられる上食券で取引される。

時たまに図書カードや商品券、物品などの支給もあるが。

 

 

「では競りを始める!! 食券100枚から!」

 

「まずは小手調べ……95枚で候」

 

 

麻呂の一声で競りが始まる。

普通競りは提示額に上乗せし、最大レートを叩き出した者が勝利するというシステム。

今回の場合、提示された枚数を下げ、最低レートを提示したものに依頼を遂行する権利が与えられる。最もこれは基本であり、交渉次第では報酬をグレードアップも出来るが。

 

 

「83枚」

 

「HAHAHA! LUCKY Nomber! 77枚ー!!」

 

「70枚、言っておこう」

 

 

京極、虎子、そして準。

次々とレートを下げている者が現れる。強気な姿勢の彼らに他のものは諦めの姿勢を見せている。

この勝負は実質彼ら四人―――――に翔一を加えた五人の勝負になる。

 

 

「ふむ………67枚で候!」

 

「矢場先輩まだ頑張るなー……61枚」

 

「54枚……どうだ?」

 

「It's BAD Nomber!! 44枚!!」

 

 

一気にレートが下がっていく。

あまりに下げると依頼を請けたとしてもそれに見合うだけの報酬が得られなくなってしまう。

仮に依頼を請けても遂行できなければ罰則として受け取った報酬の倍を払わなければならなくなる。そんな最中。

 

 

「30枚!!」

 

 

破格の条件を提示してきた。

それは知る人ぞ知る自由人、風間翔一だった。破天荒な額に競り合っていた四人も諦めざるを得ない。

 

 

「うぐ……風間の奴、明らかに採算無視してんなー……」

 

(さっすが自由人と有名な風間君ね……私もあれぐらいにスパッっていきたいなー)

 

「ふむ、圧倒的不利な条件でも迷いなく飲むか……面白い」

 

「No!! Unbelievable!!」

 

 

釣り合いが取れないと地団太を踏むもの、羨望や好奇心の目で見るもの、利益を度外視したことを信じられないもの。

様々な視線を浴びる中、翔一は立ち、教師二名の前に立つ。

 

 

「では風間、頼んだヨ」

 

 

他に下げてくるものはいない。

ルーや麻呂も“彼ら”なら任せられると信じ、提示した食券30枚を贈呈した。

 

 

 

 

 

 

「よろしくでおじゃ……今度川神にやってくる“西方十勇士”の接待を、の」

 

 

 

 

 

 

川神市に、新たな風が吹き荒れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後の川神学園正門前。

ここに風間ファミリーが集合している。勿論、新入りである源忠勝もその中にいた。

彼らの目の前には、個性溢れる男女が計十名揃っている。

 

 

「……ほう、お前達が今回出世街道を歩む俺とその部下の案内をすると」

 

「そういう事になるね」

 

「嘗て戦ったお前らとか……ふん。 これもある意味宿命か」

 

 

その中の一人、刀を下げた黒髪の青年が代表するかのように前に出た。

彼らは博多にある、川神鉄心の弟子の『鍋島正』が設立した学園『天神館』の生徒である。

天神館の中でも文武が秀でた10人の戦士達が選ばれ、学園の代表となる。それがこの10人、俗に言う『西方十勇士』なのだ。

今回は東と西を代表する学園の友好の架け橋となるための訪問らしい。

 

 

「では川神市、そして七浜の案内をして貰おうか直江よ」

 

「御大将。 その言い方は無礼ですぞ」

 

 

西方十勇士の大将、それは先程の刀を下げた青年『石田三郎』。実力としては西方十勇士を率いるだけのものがある。

だが実家が裕福であり英才教育を施され、天賦の才を持っているために他人を軽んじる傾向がある。それを諌めるのが十勇士の副将である『島右近』の役目。

 

 

「直江殿。 申し訳ない」

 

「いいですよ島さん、今回はこちらが接待役ですからお気にせず」

 

「ありがたい。 ……それと以前も言いましたがそれがし、そなたと同い年ですぞ」

 

「……エエ、ソウデシタネ」

 

 

この通り三郎の慇懃無礼な物言いに対し即座にフォローを入れることから実質的なまとめ役であり、三郎が全幅の信頼を寄せている人物でもある。

こちらは堅苦しい言葉遣いとその厳つい顔つきで年上どころか中年として見られることもしばしば。

 

 

「さて、川神といえば以前修学旅行で美しく見学はしたが……」

 

「まだまだ案内されてない場所もあるんや。 教えてーな」

 

「おう! 俺ら風間ファミリーがお前らを楽しませてやるぜ!」

 

 

川神に興味を持っているのは西方十勇士の狙撃手であり天下五弓の一人、『毛利元親』。頭も非常にいいのだが極度のナルシストで、それ故慢心が強く実力を発揮できていない男。

彼と対になるように恰幅のいい、エセ関西弁を使う女性は『宇喜田秀美』。こちらも頭脳明晰で力も強いが所謂守銭奴なのが玉に瑕。しかしその手の男性から非常にモテモテだとか。

 

 

「ゴホッゴホッ。 七浜に……聖地巡礼出来るチャンス……ゴホガハッ!!」

 

「ええと大村君だっけ? 大丈夫?」

 

「すまない。 よっしー、からだよわいんだからむりするなってなんどもいってるだろ」

 

 

一方で咳き込む青年が一人。ノートパソコンを片手にしているのは彼らのサイバー担当の『大村ヨシツグ』。通称ヨッシーであるとか。

病弱な体質である上に相当のオタクであり、そのために卓也と仲良くなっているようだ。咳き込む彼の背中を共に摩っている小柄の人物は『尼子晴』。中世的な顔立ちだが、以前会った時は男だったらしい。

 

 

「ふっ、以前川神には下半身にトラウマを植えつけられたが……今度こそ女を食ってやる」

 

「直江。 龍造寺の馬鹿は放って置いてもいいぞ」

 

「ああ、うん。 (知り合いの下北沢君も似たような性格だし慣れっこだけどね)」

 

 

次に大和の視界に映った男は『龍造寺隆正』。人気ユニットエグゾエルのメンバーで、売れっ子ニュースキャスターでもある。

そして非常に女癖が悪いが、彼は西方十勇士の広告塔ということで甘やかされている。しかしさすがに場を弁えている三郎から辛らつなコメントを貰うことに。

 

 

「西方十勇士か……自分は以前戦えなかったが改めてみると個性的な面子ばかりだな」

 

「ふふん。 アタシ、島さんと戦ったわよ。 後大友さんとも。 強かったわ」

 

 

川神学園の生徒や風間ファミリーに負けず劣らずの強烈な個性が集うこの西方十勇士。

彼らとは以前、『東西交流戦』と称して学年ごとに戦ったことがある。彼らは二年生全員が揃った「キセキの世代」とも呼ばれ、苦戦を強いられたが結果川神学園側の勝利に終わった。

そんな思い出を懐かしんでいるクリスと一子、そしてその傍に立つ鼻に絆創膏をつけた女性。

 

 

「であるな。 だが大友も東の武士も実力、頭脳ともに侮れんということを学ばされたぞ」

 

 

西方十勇士の『大友焔』。実家が花火職人であり、そして彼女は銃マニアならぬ大砲マニア。大筒と称した大砲を武器にしている豪快な女性。

この通り武士らしい性格をしており、活発な印象を受ける。

 

 

「大友さん、お久しぶり」

 

「お、直江君。 いや、いつもメールしているから久しぶりっていう感覚が沸かないな」

 

「それでも実際こうして会うのは久しぶりだね。 元気そうで何より」

 

「あ、ああ。 それとこの間の件は助かったぞ。 何かあればまた連絡をくれ」

 

 

そのため男友達は多い焔である。しかし東西交流戦を通じて仲良くなった大和とはメル友関係であり、度々連絡を取り合っている。

彼女はその時、龍造寺曰く『女の顔』であったとか。

 

 

「やっぱりフラグを立てていたなッ!」

 

「京! 急に出てくるな!」

 

「大和の正妻として……絶対に見過ごせないんだ……ッ!」

 

「……閉鎖的なお前がついてくると言い出したわけが分かったよ……」

 

 

何やらいい雰囲気になりかけていたために京が割り入った。

どうやら焔に対して危機感を抱いているらしい。悪いのは全部フラグを立てている軍師だが。

因みにこの後、焔にはフォローを出しておくことを忘れていない辺りさすが軍師汚い。

そんな日常茶飯事はさて置き、川神百代はと言うと大分揃った面子を見渡している。

 

 

「おーおー。 さっすがナベさんの生徒。 面白いのが揃っているなー♪」

 

「モモ先輩。 今日は戦うために来たんじゃないんですから」

 

「分かってるさ。 まゆまゆも西方十勇士の誰かと友達になれるといいな」

 

 

彼女も西方十勇士とコミュニティを作れるチャンスという事で今回の接待に参加している。

由紀江も海を越えて友達を作れるチャンスと張り切っているようだ。目指せ友達100人計画。

 

 

『いいかまゆっち! お友達になれる三つの秘訣! 大和に教えてもらったこと!』

「はい松風! 笑顔と言葉遣い、それと態度です!」

『そうだ! それとまゆっちの完璧スキルがあればお前は大和の腕に抱かれるぜ~』

「もう松風ったらやめてください~」

 

 

「……オイ直江。 アレが武道四天王で剣聖黛十一段の娘とは世も末だな」

 

「ですよねー心配になりますよねー……ところがどっこい……これが現実……!」

 

 

そしていつものように松風とコントと称した腹話術が展開される。

当然心配になってしまう三郎を初めとした面々。大和は何とかフォローを入れることに成功した。

さてそろそろ落ち着いてきたことだし案内を始め等と思った矢先。

 

 

「ゴホッゴホッ。 御大将、ちょっと大丈夫だろうか……ゴボッグハァァ!!」

 

「いやアンタが大丈夫!?」

 

「直江殿、お気になさらず。 いつものことです」

 

「これがいつものことってヤバいでしょ!」

 

 

突然割り込んだヨシツグが盛大にむせる。

大和も心配するが右近達は余り気にしていない。薄情なのか、慣れっこなのか、それとも別の理由があるのか―――。

気にする間もなく大和と卓也は背中を摩り続ける。

 

 

「で、何だヨッシー。 そろそろ案内して貰わんと夜の食事が間に合わないそうだが」

 

「ハァハァ……すまない、ありがとう。 ……いや、長宗我部と鉢屋の姿が見えないんだが」

 

「拙者ならここにいる。 案ずるな」

 

 

言われてみればヨシツグの言うとおり、西方十勇士は全部で10人。

後二人ほど足りないのだ。と思われた瞬間、一人がスッと瞬間移動のように現れた。全身黒い忍者服を身に纏った男、『鉢屋壱助』だ。

 

 

(姉さん、今のは?)

 

(私やヒュームさんと同じく凄く速く移動しているだけだ)

 

(なるほど。 忍者だけあってタネも仕掛けもあるってか)

 

 

何でも出来る男であり、何でもする男。

親が内閣調査室に勤めているらしく依頼を請ければ汚れ仕事を平然とこなせるらしいので大和も仲良くこそしたいと思っているが警戒はしていた。

 

 

「おい、いないって言えば島津もいねぇんだが」

 

「それなのだが、長宗我部と島津は向こうの橋で力比べをしていた」

 

 

ここで忠勝も気になったことを告げた。こちらでは岳人が姿を見せていないのだ。

鉢屋に寄れば橋のほうで勝負しているとのことらしいが、大和の頭には嫌な予感が過ぎった。

 

 

「では迎えに行くと同時に案内しましょうか」

 

「頼むぞ直江。 その橋は名所なのか?」

 

「川神の名所の中の名所、多馬大橋でございます」

 

 

大和を先頭にして一同が歩き出す。

辿り着いたその先は多馬大橋。その中央では風間ファミリーの力担当島津岳人と西方十勇士最強の攻撃力を持つ男、『長宗我部宗男』が筋肉と筋肉を合わせていた。

 

 

「ぬおおおおおおお!! 俺様のプロテインパワァァァァ!!!」

 

「香川のさぬきうどんのコシのように俺様のパワーは最強!! おおおああああ!!」

 

 

どうやら筋肉キャラ同士で勝負していたとのことだ。

長宗我部は上半身裸の筋肉質という事で岳人とキャラが被るかもしれないが焔曰く、郷土愛に溢れておりまた出来る男なので四国ではモテモテだとか。

そんな彼らをバックに大和が案内を始める。

 

 

「ここは多馬大橋。 変人とのエンカウント率が高い通称『変態大橋』でもあります」

 

「何だそのホラースポットは一度取り壊したらどうだ」

 

 

三郎の突っ込みは的確であった。

 

 

「はいお前ら川に入って頭冷やしてこーい」

 

「ぐほああああああああああああああ!!!」

 

「いきなり現れてそりゃないッスよモモ先輩―――――っ!!!」

 

 

そして目の毒となった筋肉達は百代によって殴り飛ばされ、川に落とされた。

と思いきや川に落ち込んだ瞬間、川からまるで投げ飛ばされたかのように橋の上に落ちてきた。

全員がその落下地点からサッと避ける。

 

 

「どうしたんだガクト?」

 

「い、いや……川に誰かいて……投げ飛ばされた……」

 

「お、俺様もだ……あの強さ何者だ……四国に役立てて貰いたいものだ……」

 

「お前らを投げ飛ばすだけの相手が川の中にいるのかねぇ」

 

 

クリスも何が起こったのか気になったらしく尋ねる。が、彼らの説明だけではどうもよく分からない。龍造寺が試しに橋の上から川を見下ろした。

その瞬間、彼の尻が何者かに触られる。

 

 

「よう兄ちゃん。 いいケツしてんじゃねぇか……じゅるり」

 

「ウギャアアアアアアアアア!!! 何だこのガチホモはぁぁぁぁ!!!」

 

「あ、竜兵」

 

 

板垣竜兵(ガチホモ)の登場であった。

今日も変態大橋は名前負けしない活躍である。因みにこの後竜兵はやはり百代に殴り飛ばされ、川に落とされる。

と、思ったら岳人達と同じように川から投げ出され、端の上に落とされる。

 

 

「おいおい誰だ川に変態を捨てる奴は! ゴミはキチンとゴミ箱だろうが!」

 

「あ、釈迦堂さん」

 

「お前達の知り合いかあのハンターは」

 

 

一子の視線の先には釈迦堂刑部がいた。

どうやら川の中にいたのは彼らしい。一子や百代、そして大和たちがいると知るや否や刑部は川課の中から飛び出し、橋の上に着地した。

それだけでも凄いのに彼を初めて見た西方十勇士は彼が醸し出す圧倒的な威圧感に気圧される。

 

 

「何やってるんですか釈迦堂さん」

 

「いや俺さ漁やってんの。 今日のシフトは夜だからよ、それまでのメシ作ろうと思ってな」

 

「な、直江君。 誰なんだあの人……館長と同じくらい……かそれ以上の重圧を感じる」

 

「あの人は釈迦堂刑部。 姉さん……モモ先輩の師匠で元川神院師範代」

 

 

言動は飄々としていても威圧感までは払拭できない。

このままではあらぬ誤解を与えてしまいそうなので大和や一子、そして百代達も説明した。

不審者ではないとは理解して貰えたが、それでも三郎達には固唾を飲ませる。

一方で『漁』と聞いて晴が興味を持っていた。

 

 

「りょう……ってなにがとれるんだ?」

 

「ここじゃなピラニアとかアロワナとか。 外来種が多く住んでんだよ」

 

「ほんとうか! りょうしのちがさわぐぞ!」

 

 

どうやら尼子の実家は漁師らしい。道理で褐色の肌を持っているわけだ、と一斉に納得する面々。

百代や一子と短い会話を済ませた釈迦堂は挨拶をするとそのまま川に潜っていく。

 

 

「元とは言え川神院師範代か……さすがの重圧だったな」

 

「ですな。 因みに一子殿は釈迦堂殿のご指導を受けたことがおありですか?」

 

「勿論! 釈迦堂さん、ああ見えて可愛がってくれるんだ~」

 

「意外だな……」

 

 

釈迦堂の登場により右近や長宗我部を始めとした面々との会話が盛り上がる。

ここで『川神院』という単語も出たことで次は川神院へ行くことに。

さすがに西方十勇士の誰もが川神院見学を希望していたこともあり、従順についていく。

 

 

「ここが川神院よ! お姉様やアタシの家でもあるの!」

 

「でっか! こんだけデカかったら金には困らんやろうな~」

 

「そりゃ川神院は関東三山の一つだからな」

 

 

誰も川神百代という武神を育てた環境、その大きさに息を呑む。

仲でも宇喜田秀美はお金という観点から川神院の大きさに驚いていた。一子や忠勝が説明に入っている。さりげなく誰もが退屈しないように配慮してくれている。

だが外を見るだけではつまらない。そう考えているとタイミングを見計らったように中からはルー師範代が現れる。

 

 

「おお、百代に一子、それに直江達や西方十勇士もきたネ」

 

「ルー師範代。 つれてきましたよ」

 

「はいはイ。 ではここは私が案内するネ。 因みに総代は不在だヨ」

 

 

川神院は武道の修練場であると同時に寺院でもある。

参拝客も多く、故に寺の一部や練習風景などは開放されている。ルーが案内する中、西方十勇士の誰もが真剣に魅入っていた。

無論例外はいるが武道に真摯な彼らの表情に大和達も感心する。

 

 

(さすが西方十勇士……特に石田や島、大友さんの視線は濃厚だな)

 

(まぁ龍造寺や毛利、後大村君は視線を外しているけどね)

 

(ううん。 大村はあの中でも石田と並ぶ位に注意深く見ている)

 

 

卓也が視線を外している面々を見ていた。

美しければ全て良しの毛利と、人気ユニットのメンバー故に余り強さに拘っていない龍造寺の二人だ。オタクのヨシツグもカウントされるかと思ったが、京曰く違うらしい。

パソコンに設置されたカメラで映像を撮っているものだろうかとでも思ったが、彼も西方十勇士として興味があるのだろうか。

 

 

「さすがは館長の師、川神鉄心が構える拠点……訓練の質が違いますな」

 

「ああ。 ……ヨッシー、練習風景は撮影済みか?」

 

「勿論……ゲホゴホッ。 鉢屋、そっちは?」

 

「奥の修練場は腕の立つ門下生が見張っている。 現状では侵入不可能」

 

 

強さは盗むもの、でもあるらしい。

こっそりとそんな事を話し合っている西方十勇士。その会話内容は大和には聞こえなかったものの、百代や由紀江、そしてルーはキチンと聞き取れている。

 

 

「さぁて見学できる部分はここまでだヨ」

 

「ルー先生。 お忙しい中ありがとうございました」

 

「天神館、西方十勇士を代表して礼を言おう」

 

「いやいや。 私達が頼んだことだしネ」

 

 

彼らを外まで送り届けたルーは川神院へと戻っていく。

門下生の指導に行ったのだろう。そして彼の指導はまさに熱血であると聞く。

西方十勇士が今も尚名残惜しそうに川神院を見つめていると、岳人と翔一が何やら相談を持ち掛けてきた。

 

 

「でよ大和。 そろそろ七浜に行ったほうがいいんじゃねぇのか?」

 

「だな。 でないと昼飯予定のあの店込むってクマちゃん言ってたしな」

 

「確かに。 んじゃそろそろ駅に行って七浜まで行こう」

 

 

今日は一日をフルに使用して彼らを案内すると決めたのだ。

直江大和と言う男は中途半端は好まず、接待する以上出来るだけ相手に楽しんで貰おうと計画していた。

そのためにこれから電車に乗り、七浜まで移動することに。

七浜までは距離があり、時間も空くため車内ではそれぞれのコミュニケーションが深められていた。

 

 

「ガッハッハ! 島津よ、今度なると金時を送ろう。 この甘さを知ればもう病み付きだ」

 

「おお母ちゃん喜ぶぜ。 んじゃ俺様はお返しに土地で取れた特製の島津野菜だ」

 

 

筋肉同士、岳人と長宗我部が意気投合していた。

似たもの同士であれば似たもの同士といえよう。ただ実のところ長宗我部はまさにデキる男なのが岳人とのエラい違いである。

 

 

「ほぅ、あのまだらめふうがをたおしたのか」

 

「うん! でね、その結果このタッちゃんがアタシ達風間ファミリー入りしたのよ!」

 

「ほう……どうやらそなたも、苦労性のようですな」

 

「ああ。 見守る立場ってのは厄介なもんだな、全く」

 

 

大和が視線を変えてみれば尼子や島が仲良く話していた。一子は持ち前の取っ付き易さから仲良くしているが、どうやら忠勝は島とも意見が合うらしい。

こちらも兄貴分という似たもの同士、なのだろう。

大和の右隣辺りでは翔一と卓也が楽しそうに会話を交わしている。

 

 

「でよ、いっきなり『アステカッター!』って井上みたいな声した武器が出てきたんだよ」

 

「ゴホッゴホッ……噂のナンデココニ遺跡を突破したのはお前だったのか……」

 

「あの遺跡は内閣調査室の人間でも制覇できていないと聞く……やるな」

 

「そりゃキャップの身体能力と運の良さは凄いからね」

 

 

興味深そうに聞いているのは情報通のヨシツグと忍者の壱助だ。

翔一が制覇したダンジョンの武勇伝を聞いているらしい。しかも卓也が持ってきているCDからは臨場感溢れる映像が。

ヨシツグ達も食い入るように見つめていた。

 

 

「ほうほう……お前、ほむほむとも呼ばれているのかー」

 

「ど、どうしたのだ川神百代……そんな狼のような目をして……」

 

「私が狼なら……ほむほむはウサギってトコかなー?」

 

「う、うわー!!」

 

 

女癖の悪い百代は、可愛いと評判の焔を追いかけていた。

まさに狩りを実施する狼の如く。

 

 

「なぁなぁクリスはん。 島津ってあの男やろ?」

 

「ああ、そうだが………まさかとうとうガクトに春が訪れようとしているのか!?」

 

「イヤ土地持ってるってことはごっつ金持ってるんやろうなってことで」

 

「……やっぱり脈なしか」

 

 

意外にもクリスは秀美と友好を深めていたようだ。

彼女の性格的に会わないのでは、と少し懸念していたがそんな事はなかったようだ。

そして彼女達は分かりきった話をしている。女同士の会話と言えば龍造寺辺りが食らいつくのではと思ったが。

 

 

「………」

 

「あれ? どうしたの龍造寺クン」

 

「気にするな直江。 椎名京に言い寄ってパロスペシャルをかけられただけだ」

 

「えへん。 この肌は大和しか受け付けない」

 

 

毛利が分かりやすく状況解説した。

どうやらいつも通りナンパしようとしたらしい。が、相手が悪すぎたとしか言いようがない。

残る西方十勇士のメンバーは石田三郎、風間ファミリーでは黛由紀江。

両名は剣士ということで互いに気になっていたようだ。

 

 

「黛。 お前の刀を見せてみろ」

 

「え? あ、は、はい! どうぞッつまらないものですがッ!!」

 

「凄むな! 無理なら無理で構わん!!」

 

「い、いえ違いますぅっ!!」

 

 

だがやはり彼女の固い表情が壁になっていた。

大和はひっそりハンカチを取り出して涙をふき取った。このままでは由紀江が誤解されたまま終わってしまう。

フォローに入るべく大和が動く。

 

 

「ところで石田って武士の家系だって聞いたけど凄いんだな」

 

「ああ。 故に俺は出世街道を歩み続ける。 昔も今も、これからも」

 

「なるほどね。 剣士、って聞いたらまゆっちもそうだよな」

 

「い、いえいえ! まだまだ修行中の身です!」

 

 

大和が仲介に入ることで互いの話を円滑に進めていく。

無論会話の中心が常に由紀江と三郎であることを忘れてはいない。

常に彼女達の話題を拾いながら、やがて大和自身その口数を減らしていく。すると自然と会話は由紀江と三郎だけで行われている。

 

 

「おお……」

 

「? どうしたの大友さん」

 

「いや、石田と話できるどころか別の人との会話を成立させるとは直江君は凄い!」

 

 

大変な事に彼女達の御大将はコミュニケーション能力皆無と思われているようだ。

しかもそれで大友から頼り甲斐のある目で見られるようになってしまった。

大和自身、全然悪い気はしないどころか寧ろ気分を良くする。

 

 

「やっぱり……このメンバーの中で大友焔は要注意……ギギギ」

 

「椎名落ち着け」

 

「あっちゃー。 京のアタックがまた激しくなるね」

 

 

京の嫉妬の炎が盛る。慌てて落ち着けようとする忠勝と卓也。

やはりこの二人はフォロー上手で苦労人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一同は七浜に到着した。

七浜にある中華街で、熊谷満オススメの料理店で舌鼓を売ってもらった後、彼らはテーマパークに来ていた。

このテーマパークは七浜名物でもある。ただ気質的に遊園地が好まないという人物もちらほら。そこで大和は一つの提案をすることに。

 

 

「これから七浜の名所を好きなように回りまーす」

 

「ただこれだけ広い街だ。 1,2箇所堪能するだけで日が暮れるぞ」

 

「その通り。 だからこれから班を三つほどに分けたいと思う」

 

 

三郎の声もご尤もだろう。だがそんな声を予測していないほど大和は手抜きでもない。

そこで大和はこの七浜の名所を予めピックアップしておいた。

当然、西方十勇士の情報を事前に仕入れ彼らの人物像から好みそうな場所を三つほど割り振ったのだ。

 

 

「七浜のオススメスポットはこの遊園地の他に水族館、それから街巡りの三つだ」

 

「前者二つというのは分かるけど後者は何だ直江君?」

 

「簡単に言えば買い物。 七浜は人や物、情報が集まるからね」

 

 

七浜は首都に近いだけあって川神、博多でもお目にかかれない発展振りだ。更にはすぐ近くに久遠寺家というお金持ちが住んでいるらしく、それによって更に栄えているとか。

何れにせよ、西日本でも販売していない物を手に入れたり出来るチャンスでもある。

 

 

「キャップである俺とクリス、モモ先輩は遊園地だ!」

 

「アタシはタッちゃんとガクトで水族館! 見学終わった後は近くのふれあい広場に行くわよ!」

 

「僕と京、まゆっちは街を回るよ」

 

 

既に指示済みである、風間ファミリーは三つの班に分かれる。

バラけ方も個性が現れているといえよう。ただ岳人や一子は遊園地辺りを好みそうではあったが。

 

 

「直江君はどうするんだ?」

 

「俺はそちらの要望にあわせて動くよ。 そっちは好きなところに動いてくれ」

 

 

軍師として大和は最低限の準備を怠らない。

どこか詰まらなくならないように配慮するつもりだ。そのために今回の大和の班は西方十勇士の希望にあわせることに。

 

 

「ウチ、いっぺんこんな遊園地で遊んでみたかったんや!」

 

「それじゃ俺も。 俺みたいな有名人が遊園地にいれば女の子は勝手に騒いでくれる」

 

「大友も遊園地だ! 遊ぶならド派手に遊ぶものよ!」

 

 

宇喜田、龍造寺、焔は遊園地で遊ぶことを決めたようだ。

因みにこの時、がっくりと項垂れたのは島津岳人その人。どうやら女の子はムーディな水族館を好むと深読みしすぎたらしく、見事にヤマを外していた。

 

 

「美しい私には美しい水族館が似合う」

 

「わたしもすいぞくかんがいい。 りょうしとしてきになる」

 

「ガハハハ! 俺も水族館に決めたぞ。 将来は瀬戸内海で漁をするのでな!」

 

 

ナルシストに尼子、そして意外なことに長宗我部もそこを選んだ模様。

個々のクセは強いものの、しっかりものの忠勝がいるので何とかなるだろう。

 

 

「ゴホゴホッ。 俺は街だな……欲しかったグッズがこの手に……グボハァッ!!」

 

「七浜の街を見ておきたい。 俺も街案内されよう」

 

「それがし、御大将に従うのみ」

 

「では拙者も」

 

 

残るヨシツグ、三郎、右近に壱助は街巡りをすることに決めた。

大和は大体予想通りと微笑む。

彼らの人物像から誰がどの場所を好みそうか大体察せると言うもの。それを加味した上での、風間ファミリーの振り分けでもあった。

 

 

「直江君! 直江君も遊園地に来てくれないか?」

 

「そうだね。 人数的にそれがいいや」

 

「SHIT!!」

 

 

大友の要請、人数の割合から大和は遊園地にいくことに決めた。

勿論背後から京の嫉妬オーラが凄まじかった。今、彼女はiPodを片手に『嫉妬マスクのテーマ』を流している。

 

 

「では5時になったらこの七浜遊園地の前に集合という事で」

 

「いいだろう。 おい師岡と言ったな、しっかり案内しろよ」

 

「はいはい」

 

 

集合場所、時刻を告げた後に石田達は卓也率いるグループに入った。

街巡りをすることになった風間ファミリーのメンバーは彼のほかに京、そして由紀江(+松風)と少々頼りない印象を受ける。

そのため動向は携帯電話で連絡を取り合い、問題発生を大和の指示で未然に防ぐというスタイルを採る事になった。以前紋白や燕達とカラオケに行ったときとほぼ同じ手段である。

 

 

「んじゃこれから俺達は水族館に行く。 はぐれんなよ。 特に一子とお前」

 

「どうしてわたしをみながらいう!」

 

「ま、尼子が少々頼りないのは美しく同感だな」

 

 

忠勝の面倒見の良さならナルシストや小柄な尼子、自己主張の強い長宗我部に岳人がいても安心だろう。

こちらも同じく携帯電話で状況をチェックするので抜かりはない。

頼れる男を先頭に彼らは水族館へと向かって行った。

 

 

「よーし! それじゃ俺らも遊ぶぞーっ!」

 

「遊園地~♪ 遊園地~♪」

 

「宇喜田にほむほむ……西の果実はどんな味かな?」

 

 

この遊園地の面子はある意味身内が危険かもしれないと大和は今になって頭を抱えた。

それでも引き受けた以上やり通すつもりだ。

最低限、彼女達の貞操を魔王の手からは守らなくては。そして遊園地に入場するなり、多くの女子が駆けつけてくる。

 

 

「キャーッ! エグゾエルの龍造寺よ~!」

「サインして!! 握手してぇ!!」

「写メ写メ!!」

 

「ふっ。 さて東の女はどんな味がするのかな……」

 

 

こちらもこちらで貞操の問題が発生しそうだ。

とは言え相手も喜んでいる。その上一応この後で合流する予定だ、ラブホテル直行はないだろう。

本人も望んでいることなので龍造寺はここで放って置くことにした。

 

 

「さて龍造寺のアホは放って置いてや。 まずどこから行くんかいな?」

 

「お化け屋敷なんて如何でしょう」

「おー! 面白そうじゃねぇか!」

 

「「「ビクッ」」」

 

 

大和の提案に身体を震わせる女性が二名、いや三名。

クリスと百代と、そして焔だった。

対する翔一と秀美の反応はとても興味深そうではあったのだが。

 

 

「あれ? 大友さんお化けダメ?」

 

「そ、そそそそそんなことはなななないぞぞぞぞぞ」

 

 

口を開けば開くほど足の震えが止まらない。大和のドS魂に危うく火が点きそうになった。

が、今回はあくまで彼女達を楽しませることが目的。

胸のうちで暴れるドS心という名の獣を宥め、別の目的地を考えることになった。

 

 

「ってかクリスはんはともかく百代はんもお化け苦手なんかー意外やわー」

 

「あー。 モモ先輩、昔からお化けには攻撃が通じないから苦手なんだってさ」

 

「き、キャップ! 余計なことを言うなー!!」

「じ、じじ自分はたたた大して怖くなどどどどど」

 

 

因みに風間ファミリーの女性二名の反応は大体予想通りだった。

 

 

「二人の貴重な写真をケータイに収めたところでまずはジェットコースター行ってみよう」

 

「おい大和! その写真を何に使うつもりだ!!」

 

「思い出の一ページに」

 

「嫌な刻み方をするな!」

 

 

しっかりとクリスと百代の怯えた顔をゲットしている辺り、抜かりはなかった。

逃げようかと思った矢先、百代に先回りされ携帯電話を取り上げられた挙句消去されてしまった。

舌打ちするが記憶を消されなかっただけマシなのかもしれない。

しかし実はこっそり翔一の携帯電話に贈ったことは内緒である。さて、ジェットコースターを堪能した面々の反応は。

 

 

「いやー! やっぱりあれぐらいの迫力がいいよなー!」

 

「なー。 私もあれぐらいから刺激を感じるな」

 

「いや、あんさんの場合感覚が麻痺してるんとちゃいます?」

 

 

翔一に百代、秀美は高揚としていた。

反対に大和達はというと。

 

 

「「「…………」」」

 

 

ぐてっと全滅していた。何せ時速360kmの速さで5連続ループという重力の変化を味わわされ続けられたのだから。

先程のお化け屋敷をネタにされた百代は仕返しの如く大和の頭を突く。

 

 

「おーおー。 情けないぞ弟~もうヘバったのか~?」

 

「……そりゃ……ヘバリもするって……うっぷ」

 

「ダメだこりゃ。 飲み物いるか?」

 

 

大和達の無言の頷きを察した翔一達が飲み物及びクレープやソフトクリームを買うために出向く。

とは言えこの近くに売店はなく、少々歩かなければならなかった。

その間、大和達は遊園地と外を仕切る柵の近くに設けられたベンチで休むことに。

 

 

「あー……大分良くなった来た………クリスは………?」

 

「き、岸は……巻けない……ぐふっ」

 

「漢字を間違えてやがるもうダメだ」

 

 

結局そのままクリスは倒れてしまった。

しっかり訓練している彼女ですらダウンしてしまうほどの激しさ、大和も倒れてしまっても可笑しくないが日頃川神百代という無茶苦茶な姉のおかげで耐性が出来ているらしい。

気絶せず、そのまま用意していたハンカチを、近くの水道で湿らせ、寝転がっているクリスと焔の額においてやる。

 

 

「………ん」

 

「あ。 大友さん、大丈夫?」

 

「………直江君は平気なのか………」

 

「回復しつつあるよ。 姉さんの所為とでも言うべきか」

 

 

ここで焔が目を覚ました。

まだジェットコースターの影響が抜け斬らないのかグロッキー気味だが。

 

 

「いやーごめんね。 あそこまで激しいコースターだとは思わなくて」

 

「謝らなくていい。 宇喜田も、大友も楽しかったのだからな」

 

 

大和の謝罪に目も暮れず、精一杯の笑顔を向ける焔。

本当に楽しんでくれたらしく、大和もホッとしている。しっかりと準備してきた甲斐があったというものだ。

 

 

「それにしても直江君は凄いな……」

 

「え? 何が?」

 

「念の入れよう、がだ。 しっかりと計画したり、このハンカチだって」

 

 

焔は彼のの計画性の高さに関心を出だしていた。

川神から七浜という距離を移動しながらも、この間に西方十勇士の誰もが飽きを見せなかった。不測の事態に備え、しっかりと指示をしている辺りも。

何よりここまで優しく接されることが、焔にとって嬉しかった。

 

 

「ありがとう、直江君……いや大和君」

 

(オォッ!? 呼び方変わった……これはかなりの好印象?)

 

 

呼称が変わった、しかも下の名前。これはかなり好感度を上げたに他ならない。

正直狙っていたわけではないが、こんな副次的効果が現れると心の中でガッツポーズをとらざるを得ない。

と、浮かれていると。

 

 

「いっただきいいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「え? あ、大友のカバン!!」

 

「何ィッ!?」

 

 

大柄な男が疾風のように現れ、焔のカバンを奪い去っていった。

そのまま流れるような動きであっという間にフェンスを乗り越えてしまう。飛び越してしまうと彼は壁際に停めてあったバイクに跨り、そのまま最高速度ブッチ切りで走り去ってしまう。

 

 

「アイツ……以前義経のカバンを引っ手繰った奴か!!」

 

 

大和はその男に見覚えがあった。

その男、『三好熊吉』。釈迦堂と同じく元内閣調査室に勤めていた人間だったが、その自堕落な性格からクビになってしまい、落ちるに落ちぶれた人間。

とは言え能力は高く、以前義経の手からカバンを引っ手繰って見せた。その後与一によって狙撃されたが。

 

 

「どうしよう……あのカバンには大友のケータイとか財布とか……」

 

「ンの野郎……よろしい!! ならば戦争だ!! 緊急指令を発動してやる!!」

 

 

目の前で知り合いのカバンを強奪するという横行は断じて許しがたい。

咄嗟に大和は日々愛用している携帯電話を取り出した。

そして神速の速さでメール作成すると風間ファミリー全員に一声送信。

 

 

「おい大和。 どうしたんだ?」

 

「何や何や? えらい殺気立っとるやないか」

 

「お、メール。 ……そういう事か大和」

 

 

ここでようやく百代達が飲み物を手に帰ってきた。

当然事情が飲み込めないでいたが翔一達の携帯電話に届いたメールの内容が、事の重大さを報せる。

大和は尚も携帯電話をフル稼働させている。

 

 

「ああ! これよりあらゆる手段を用いてもその引ったくり犯を捕らえてみせる!」

 

「で、でも相手は強い上にバイクに乗っているんだぞ! 出来るのか?」

 

「任せてくれ!! クリス起きろ!! 悪人のご登場でぇい!!」

 

「何ッ!? 悪、滅ぶべし!!」

 

 

焔の言葉に断言してみせる大和。

ついでにクリスも叩き起こし、以前のように知り合いのネットワークを利用して目撃情報を得ようとする。

それから数十秒後、大和の携帯電話に一本のメールが。

 

 

「よし、目撃情報ゲット!! ふれあい広場方面!!」

 

「お、ワン子達のいるところだな」

 

「ああ! これよりワン子達に指示を送り敵を迎え撃つ!!」

 

 

今、大和の顔は軍師になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬーっふっふぅ! やっぱりいきなり大物狙いはダメなのよね」

 

 

その頃、引ったくりを成功させていた熊吉はバイクの上でご機嫌だった。

運転をしながら焔から奪ったカバンの中身を確かめてみる。中身は携帯電話に財布と中々の品揃えだ。

 

 

「こういう地道な努力が実を結ぶって……んん?」

 

 

彼は手に入れたこの金と戦利品でどのような生活を送ろうか検討していた。

だが彼はその直後に思い知ることになる。

『引ったくりは、帰るまでが引ったくりなのである』と―――――。

 

 

「見つけたわよ!! 以前義経からカバンを奪った引ったくり班!」

 

「川神がダメなら七浜でとかとんだアホだな」

 

 

目の前には一子と忠勝が立ち塞がっている。

特に一子の方には見覚えがあった。このままではまずいと判断した熊吉はバイクを方向転換させる。

と、その矢先に猛烈な勢いで飛んで来る石の礫と矢。

 

 

「えぇい!! 何じゃこりゃぁぁぁぁ!!」

 

「テメェ!! 女の子から性懲りもなくカバンを奪うとかいい度胸じゃねぇかコラ!!」

「そんな輩には、この400万パワーズの力で沈めぇ!!」

 

「汗臭いのは美しい私に不似合いだが……美しい私の邪魔をしたのだ、美しく散れ!」

 

 

岳人と長宗我部が投げる石だった。

力自慢の彼らが投げつけるだけあって石ころといえど馬鹿に出来ない威力。

そして天下五弓として毛利が放つ、ボーガンの矢の数々。

嘗て弁慶が投げつけた石をも打ち落として見せた熊吉だが、余りにも数が多すぎる。こちらの道はダメだと方向転換した矢先。

 

 

「おおとものかばんをかえせっ!!」

 

「ぬっ!! なんだこのガキ!!」

 

 

尼子晴が爪を装備して飛び掛ってきた。

鋭い斬撃が襲い掛かってくるが、熊吉の脅威の身のこなしがそれを避ける。とは言えバイクの上では出来る動きも限られてくる。

彼を避けるべくまた方向を変えた瞬間。

 

 

「隙ありッ!!」

 

「うおおお!?」

 

 

なんと先程、切りかかってきた尼子と全く同じ容姿を持った人物が爪で切りかかってくる。

この一撃も避けて見せたが、熊吉は思わず振り返ってしまう。

後ろにいたはずの少年はいない。いるのは目の前だ。

 

 

「どうした。 逃げるなら大友のカバンを置いてからにしろ!」

 

「くっ! こいつらやりやがる!!」

 

 

瞬間移動でもしたのだろうか、熊吉にはどうやって目の前に移動したのかがわからなかった。

だが今はそんな謎解きに集中している場合ではない。

今度こそバイクを走らせ、公道に出る。

 

 

「逃がしたか……」

 

「すっごいわね尼子。 そんなに速く移動できるんだ」

 

「天神館の切り札の一つ、瞬間移動だ」

 

 

自慢している尼子。しかし目の前の人物と話していると一子は微妙に違和感を覚えた。

何か今まで話してきた相手と違うような。

 

 

「ってそんな場合じゃなかったわ!」

 

「安心しろ一子。 直江の指示通りの道に行った」

 

「あの道からだと七浜の中心街。 つまりまゆっち達のターンってワケだ」

 

 

忠勝と岳人は任務完了と誇らしげだった。

バイクが七浜中心街に向かっていったことを確認し、忠勝は大和に「任務完了」のメールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分して、熊吉は七浜の中心街に辿り着いてしまった。

引ったくりとして余り目立った行動は避けるべきなのだ。

だが成り行きは成り行き。仕方なく、信号で待たされる羽目に。

 

 

「ちぃぃ……どうなってんだあのガキ共は……まるで俺の動きを読んでいるように!」

 

「当然なり。 直江大和はお前の行動を全て先読みし、指示しているのだからな」

 

 

悪態づいていると、後ろから声が聞こえた。

振り返るとそこには黒装束の忍者が後部座席に座っていた。彼はあっという間に熊吉が抱えていたカバンを奪い去ると後ろに留まっているトラックの上まで飛翔してしまう。

 

 

「てめぇ!? 俺のカバンを返しやがれぇ!!」

 

「お前の、ではなく大友のだ。 さてお前にはきつい仕置きが待っている」

 

「冗談じゃねぇ!! こんなところで捕まってたまるかぁ!!」

 

 

トラックの上から見下してくる壱助。

彼一人ならば熊吉にとってどうってことはないが、彼が大友のカバンを奪い返してきたという事は近くに仲間がいる可能性があるということ。

折角の強奪品を奪い返されてしまった以上、逃げるしかない。

 

 

「ふむ、咄嗟の判断……伊達に内調に勤めていなかったな」

 

「とは言えもう詰みだね。 何せ大和の指示なんだから」

 

「大村、師岡。 御大将達に連絡は?」

 

「既にやったさ………ゲホッゴホッ。 後は御大将達が仕留めるだろう」

 

 

親が内閣調査室に勤めているだけあって鉢屋は熊吉の顔を知っていた。

だが任務が完了した今、それすらもどうでもいい。

近くに待機していた卓也とヨシツグも事の顛末を報告し終えたばかりだった。

 

 

「ちっくしょう……折角成功したと思ったのに…………!?」

 

 

狭い路地をバイクで駆け抜けていく。

まさに蜘蛛の糸といわんばかりの抜け道。しかし蜘蛛の糸は最終的に切れて落ちてしまうように、この路地もまるで用意されたかのように罠が待っていた。

 

 

「ぬお!? また矢!?」

 

 

上空から矢の雨が降り注ぐ。

それは路地のビルの屋上に陣取っていた京からの洗礼だった。幾らバイクが堅くても本人に当たっては意味がない。

必死に矢を防ぎながらいよいよ出口に差し掛かるが、一瞬顔を青ざめた。

出口に、由紀江と三郎の二名が刀を構えていたのだから。

 

 

「っ! へっ、何かと思えばこの防刃加工のバイクには歯が立たねぇぞぉ!!」

 

 

刀使い、と安心したようだ。

しかも相手は一度刀を弾いた由紀江。だが今回の誤算は二つある。

一つは由紀江が本気であるという事。そしてもう一つは、今回は石田三郎がいるという事。

 

 

「貴様如きに使うのもなんだがな……はあぁぁぁぁっ!!」

 

「!?」

 

 

突然、三郎の身体を気が覆い始めた。

光が彼を包み終えたその時、彼の黒髪は全て金髪になり、逆立っている。

身体中を覆っている気迫も、全然違う。

 

 

「奥義、光龍覚醒!! 寿命を使うほどの大技だ……とくと、味わえぇぇい!!」

 

 

これが三郎が天神館の、西方十勇士の大将と呼ばれる所以だった。

僅かな寿命と引き換えに身体能力を大幅に向上させる荒業だ。

そしてこの状態での彼の抜刀、その威力は防刃加工されていたはずのバイクを意図も簡単に切り裂くほどだった。

 

 

「な……な!?」

 

「逃げても……無駄です!」

 

 

初見でその威力を見切った熊吉が飛ぶ。

何とかその斬撃は避けることが出来た。だが、同時に由紀江も飛翔していた。

彼女の視界から、もう逃れることは出来ない。神速の斬撃が、舞った。

 

 

「ぐはぁ!?」

 

(速い……! 御大将の刀が力とするならば、黛殿の刀は速さ……か!)

 

 

素早い一閃が、熊吉を仕留めた。

その斬撃は島は愚か、三郎ですら見切れなかった。達人の域に達しているその斬撃は見る者を惹き込ませる。

熊吉は急所に一閃貰い倒れこむ。その隙に右近が素早く駆け寄り、縄で縛った。

 

 

「御大将、やりましたな」

 

「ああ。 全部直江の指示というのも癪だったが、見事と言うしかないな」

 

「はい。 大和さんは、私達の軍師ですから!」

『そして奴はまゆっちのモノなんだぜBOY!!』

 

「……その過激に喋るストラップ、そろそろ控えた方がいいかもな」

 

 

由紀江達は事件の終わりを確信し、息を抜いた。

それから数分後、犯人逮捕の報せを聞きつけ警察が、そして大和達が集まったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして火がくれ、夜の川神の海。海に浮かぶ屋台舟で、大和達は食事を行っていた。

元々これは紋白が以前のカラオケのお礼に用意してくれたもので、折角なので今回の接待に使わせてもらったというわけである。

滅多にお目にかかれない料理と屋台舟という環境に心躍らせている一同。

 

 

「それでは皆の衆。 大儀であった。 乾杯!」

 

『『『かんぱーい!!』』』

 

 

三郎の音頭で全員がグラスを掲げる。

中身は高級川神水だ。やはりこういう時は酔いが欲しいものだ。

西から来た面々も口にした川神水をかなり気に入ったようで、飲んだ瞬間に唸るものが続出。

 

 

「かぁ~っ! この一杯、たまらんっ!!」

 

「せやな~! 仕事したって感じやわぁ!」

 

「いや宇喜田。 お前は特に何もしていないだろう楽しんだだけだろう」

 

 

長宗我部や宇喜田もご満悦の様子。

ツッコミ終えた鉢屋も顔には出さないようだが気に入っているようだ。

 

 

「ささ、御大将。 もっと飲みなされ」

 

「ああ。 この後ビジネスホテルだからな、大いに飲むか」

 

「あれ? ホテルってことはしばらく滞在するってこと?」

 

 

大和は今回の幹事を務めたという事で三郎に近い位置で川神水を飲んでいた。

それだけ西方十勇士に気に入られたという事に他ならない。

気軽に話しかけても構わないという許可も取ってあるので訊ねてみることに。

 

 

「館長が川神は得るものが多いというので1ヶ月ほどを予定している」

 

「そんなに長く……」

 

「時々川神院や川神学園にも顔を出させて貰う。 既に川神鉄心からの許可は得ている」

 

 

天神館館長、鍋島正は川神鉄心の高弟だ。

元は武道四天王でもあったらしくそんな彼が天神館を設立したのも鉄心の教えを広めたいという考えがあってのものだ。

故に川神滞在は彼の狙いに大きく繋がることだろう。

 

 

「おうおう! また川神が賑やかになりそうだぜー!」

 

「……しょーもない」

 

 

結果的にこの引ったくり事件を通して西方十勇士と交友を深められたという事で翔一もご機嫌だ。

余り他人と関わる気がない京であったが、悪い気がしないでいた。

閉鎖的になるのは良くないと、大和に常日頃教えられているから。

 

 

「しっかし私の出番がなかったのがなー」

 

「いいじゃんいいじゃん。 姉さんは覇王らしくでーんと座ってなよ」

 

「ヒロインに向けてそんな台詞を吐くか弟よ」

 

「ヒロインは酒瓶を鷲掴みにしないと思うけど」

 

 

百代は暴れられなくてスッキリしていない様子だ。

実際百代は最終兵器彼女だ。物理的に彼女が殴れば解決する。しかし大和は今回の事件が友好を深められるかもしれないと利用したのだった。

ただでは終わらせない男、それが直江大和である。

 

 

「まぁまぁモモ先輩。 いいじゃない犯人捕まったんだから」

 

「そうだな。 どごーんちゃんの荷物も戻ってきたことだし」

 

 

卓也と龍造寺も事件の収束を祝う。

結果的に龍造寺は何もしていないわけだが、仲間の勝利を祝っているので良しとする。やはり広告塔として甘やかされているようだ。

 

 

「ごほっごほっ」

 

「よっしー。 せきこむのにむりにかわかみすいをのむなよ」

 

 

一方で大村と尼子もいつものように接している。

一子が言うには戦闘の時何か違和感を覚えたらしいが、どう観察しても今朝から行動していた尼子晴である。

混乱しているのは一子も同じようだ。

 

 

「一子殿。 グラスが空いておりますぞ。 源殿もどうぞ」

 

「おうありがとよ」

 

 

どうやら今日の一件を通して忠勝と右近は親近感を覚えたらしい。

何せ苦労性の苦労人なのだ。そして苦労人といえばこの男、直江大和もその一人に数えられる。

 

 

「そういう島さんも空いてまっせ」

 

「これは直江殿。 かたじけない」

 

「さすが。 混じるのは得意だな」

 

 

男三人で酒盛りを始めていた。

忠勝は以前の病院でもそうだったが、島もやはり酒は静かに飲むタイプらしい。最もこれは川神水ですが。

 

 

「ところで島さん、マッサージが得意だと小耳に挟みましたが」

 

「ええ。 残念ながら御大将以外にするつもりはございません」

 

「いえコツを教えていただきたいんです。 姉さんに時々要求されるので」

 

「何とそういう事でしたか。 それがしでよければお教えいたしますぞ」

 

 

ここで大和は彼のマッサージ上手と言う噂を上手く利用し、会話を広げることにした。

彼は忠勝の身体を使ってマッサージのコツを大和に伝授していく。

顔にこそは出さないものの、忠勝はとても気持ちよさそうであった。

 

 

「いい………あれはいいんだッ!」

 

「おい椎名。 男同士の何がいいんだ、美しくない」

 

「お前には分からないんだッ! あの男同士の友情というよりも連帯感がッ!」

 

 

毛利の言葉も当然と言えるが、BL大好きな京にとっては垂涎もののシチュエーションだった。

彼女の脳内で薄い本が出るとか出ないとか。

 

 

「くははは!! 1番クリス! 歌いまーす!!」

 

「ああああクリスさんダメです零れますって!!」

『まゆっちも酔えたらなー。 リミッターを外せたのに』

 

「まゆっちが松風になっちまうの俺様嫌だぜ」

 

 

そしてクリスはやはり暴走していた。酔いやすさも相変わらず。

一方由紀江もお酒に対する耐性は相変わらず。

ただ彼女が万が一酔ってしまえば毒舌前回の松風とほぼ同じだろう。それに関しては岳人に全面同意だ。

 

 

「で、まぁそれはさて置き焔ちゃん。 飲んでるー?」

 

「飲んでる飲んでるー」

 

「おやおや。 ほむほむの顔が火照ってきた……いい頃合に熟れてきたか……」

 

 

岳人が彼女達から視線を外して大友焔に語り掛ける。

顔や言葉から察するに出来上がっているようだ。

あの赤く染まった顔は百代に食べごろであることを報せる危険サイン。今彼女が舌をなめずる。

 

 

「ダメだよ姉さん。 その一線越えちゃダメ」

 

「ちぇー。 弟は自制利きすぎんるだよ」

 

「そうだぜ直江さん家の大和君。 ここは俺様達に曝け出させろ! BUSHIDO!」

 

「そんな薄汚ぇBUSHIDOがあってたまるか」

 

 

川神水が入った影響か、百代や岳人も暴走しつつある。

彼女達が暴走するとさすがに取り返しがつかないことになりかねないので大和が焔の前に立つことで守ってやる。

 

 

「大和く~~~ん。 今日は本当にありがと~~~」

 

「あははは。 どういたしまして大友さん」

 

「何だとッ!? 大和に対する呼称が変わっているっ……!」

 

「大和益々フラグ立てちゃったね。 恐ろしや」

 

 

大分仲良くなった焔は遠慮せずに彼を『大和君』と呼んでいる。

当然京及び風間ファミリーの女性陣はそれを見逃さないわけで。そんな一触即発の現状にハラハラドキドキしている卓也がいるわけで。

 

 

「すー………すー……」

 

「って大友さん? 大友さーん?」

 

「何だ大友の奴。 もう酔いつぶれたかだらしない奴め」

 

「いやいやこの場合はどごーんちゃんの大胆さに驚くところでしょ」

 

 

女関係には疎いらしい、三郎は暢気に川神水を片手にしていた。

逆に女関係は大得意の龍造寺はある意味で焔を哀れんだ。そして同時に周りの緊張感も一気に高まる。

 

 

「あー大和! 大友に枕にされてるー! なら自分も大和で寝るー」

 

 

触れてはいけない一線に触れたのはクリスだった。

 

 

「もう我慢できるかッ! 大和今すぐ布団をっ!!」

 

「ちょっとー!! 大和が可哀想でしょー!!」

 

「大和。 おねーちゃんを差し置いてそんな事しないよな? なァ?」

 

「大和さん! そそそそそんなことはまだ早すぎると思います! ……せめて私で」

 

 

あっという間に女性陣が大和の周りに集まる。

川神水が入った影響もあるのだろうか、皆が皆お構い無しだ。

大和はすぐ近くに焔やクリスが寝ていることもあり対応に困っている。

 

 

「爆発しろ軍師爆発しろォォォォオオ!!」

 

「いやいや血の涙を流さなくてもええやんか」

 

「やれやれ……。 直江の奴、せめて誰かにさっさと惚れちまえばいいのに」

 

「女に気を許すと寝首をかかれる。 ある意味で今の関係を保った方がいい」

 

 

岳人は血涙し、宇喜田はさすがに哀れんだのか彼のグラスに川神水を注ぐ。

色んな意味で忠勝も大和を心配しているが忍者として童貞を貫いていくと宣言している鉢屋は断固反対している。

本当に色んな個性が混ざっているカオス空間である。

 

 

「ふむ、直江は本当に顔が利くのだな」

 

「御大将?」

 

「その上我らに取り入ってみせる手腕……気に入った」

 

 

その最中、三郎は大和を実に興味深く見ていた。

実はここに来る前、三郎達天神館はある程度の人物のデータを収集していた。鉢屋を送り込んだり、ヨシツグのネットワークから情報を聞き出したり。

 

 

(まさか御大将、直江殿を引き入れる所存ですか?)

 

(ああ。 松永燕や九鬼にも顔が利くというではないか。 それにあの頭脳は惜しい)

 

(確かに……あのコミュニケーション力は交渉力ともなりますな)

 

(奴を引き入れれば我ら天神館にとって利になることばかりだ)

 

 

実はこれが今回一ヶ月ほど滞在する目的の本懐だった。

川神市と友好を深め、見聞を広めると同時にためになる人材を引き抜く。それこそが東高西低と呼ばれ続けてきた現状を打破する方法なのだ。

結局忠誠を誓った三郎に甘い右近も賛成してしまう。

 

 

「直江、少しいいか?」

 

「ん? な、何?」

 

 

大和はようやく女性陣から開放された。

疲れきった表情で三郎の傍に立つ。

 

 

「お前、我らが天神館に入ってみる気はないか?」

 

「……なるほど、それが今回の滞在の目的ですか」

 

「悪い話ではないだろう。 お前は西方十勇士に入れないだろうが、俺の補佐役にしてやる」

 

 

何ともストレートな物言いだ。ただ言い回しをしたとしても大和に見破られるのは日を見るよりも明らか。ならば直接告げたほうが誠意が伝わるはず。

着想は悪くなかったが当然、それを聞きつけるのは百代達である。

キラン、と彼女達の目が光ったことを三郎は知らない。知らないまま大和に勧誘を持ち掛けている。

 

 

「あらゆる人物とのコネ、交渉力、頭脳。 どれをとっても俺の目に留まるほどだ。 その能力を天神館、ひいては俺の石田鋼業で役立て――――――」

 

 

その瞬間、三郎は一気に取り囲まれた。

最強の武神とその妹、天下五弓に剣聖の娘に。

 

 

「石田クン? なーんの話?」

 

「なんでもないですハイ」

 

 

百代の怖い一声にすっかり固まってしまう三郎であった。

結局この後も食事会は楽しく(約一名落ち込んだ状態だが)続き、一日が終わったのだった。

川神市に、西からの武士達現れる。

このニュースは後日の川神学園でも持ちきりになったのだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの後、大友焔というライバルに焦燥した京がアタックを仕掛けたのは言うまでもなく。

 

 

 

 

 

 

続く




というわけで西方十勇士の登場に加え細かい人物なども一気に登場させたり、七浜を出せたりと個人的に細々とした回だなぁと思いました。
西方十勇士の中では焔と鉢屋、そして大村が結構好きですね。焔はAの方でヒロインになる予定なので期待。忍者は色々動かしやすいですし、大村は……まぁねぇ?
今後も西方十勇士がちょくちょく絡んでくると思うのでお楽しみに。
そしてお待たせしました!次回からクリス編!クリス中心になりますが皆大好きマルさんやフランクさんも登場。
コメントからマルさんの愛され度マジパねぇと感じたので書き甲斐があります。是非お楽しみに!!
では感想などお待ちしております!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。