第十三話 想い ~クリスティアーネ・フリードリヒ
貴方は、自分に教えてくれた。
自分は正しく生きて来た。悪いことなど何一つしていない。
だから、自分が正しいと。そう思い込んでいた。
けれどもその自分の物差しが人に受け入れられないことを知った。そしてそれが人を傷つけることも。
彼の言葉でなければきっと自分はそれを受け入れられなかっただろう。
ちょっと頭にくる物言いだったが……だからこそ、より深く理解できた。
自分が重んずる『義』とは本来誰かのための言葉。
誰かのために動くことが『義』なら、彼はまさしく『義』そのものだ。
だから私は貴方を見続けた。そして貴方は自分のためではなく、仲間のために知恵を出した。
そして時には自らの身を挺することもあった。
貴方のその姿が、何よりも眩しく見えた。“義”に輝く、貴方が。
自分はそんな貴方についていきたい。 心から。
大和……そんな貴方だからこそいつまでも、一緒にいたい。
☆
「勧善懲悪……うん! これぞ侍魂!」
自室にてクリスはDVDを鑑賞していた。
その名も『大和丸夢日記』という大河ドラマで日本国内は愚か海外でも高い評価を受けている。
日本大好きなクリスはその昔の日本の心意気を特に表したこの作品を特に気に入っている。
そして鑑賞の傍らに好物の稲荷寿司を頬張るのが日課だ。
「もぐもぐ……テレビは面白い、食べ物も美味しい! 日本は最高だな!」
クリスは日本に馴染んでいた。
熱烈な日本好きになったのも父親であるフランクの影響だが、今では彼女は日本の虜になっている。
日本のサブカルチャーの発展具合、食文化といった面に心惹かれている。
そして何より壁に貼り付けられた写真。そこに写る仲間たちと自分と、そして惚れたあの男の写真。
「……本当に……良かった」
もし日本に来なければ、素敵な仲間と出会えなかっただろう。
もし日本に来なければ、自分は『義』を履き違えていたかもしれない。
もし日本に来なければ――――、自分はこの男、直江大和と出会えなかっただろう。
「ん? メール?」
そこに携帯電話が震動する。
開いてみるとそこには大和からのメールが。
内容は今、『モロが来てゲームしているから一緒にしないか』というもの。OKという返信を出し、遊びに行く。
「大和、遊びに来たぞ」
『おうクリス入れ。 因みにゲンさんからの差し入れもあるぞ』
ドアを開けるとそこにはテレビの前でスタンバイしている大和と卓也がいる。
しかもすぐ傍には美味しそうな紅茶とケーキまで用意されていた。
鼻歌を歌いながらクリスは大和の傍に座る。
「ふっふっふ。 大和、騎士に正々堂々挑戦状を出すとは見上げた精神だ!」
「挑戦状と受け取られたか……まぁいい。 今回はクイズゲームだ」
「バラエティ番組を元に作られたゲームでね。 結構面白いんだよ」
卓也が自慢するかのようにソフトを取り出した。
そこには『クイズ! ペンタゴン!』というタイトルが刻まれている。
この番組は司会者がとてもバラエティに富んでいてクリスも気に入っていた。
「対戦格闘かカーレースかと思っていたが、これも違った趣向で面白いかもな」
「ただ割りと頭使うからなこれ。 クリスに出来るかな~?」
「なっ何をー!! 騎士クリスを愚弄するか!!」
名物、大和の栗弄り(一子命名)である。
「ホントかな~? 一人で出来るかな~?」
「ひっ、ひっ……一人で出来るもん!!」
某番組のようなことを言い始めた。
クリスのお嬢様気質がここに発揮される。とそこに舞い込む一人の影。
「お嬢様を侮辱するのはお前か!」
「マルさん来たこれで勝つる!」
ドイツ軍中将フランク・フリードリヒの右腕こと少佐のマルギッテ・エーベルバッハであった。
事あるごとにクリスのためと託けて颯爽と登場してくる。
妹のように可愛がってきた彼女を心配する気持ちは分からなくもないが部屋に侵入されるのはいい気分ではない。
「折角だ。 私もこのゲームに混ぜなさい。 それで屈服させて謝罪させてやる」
(……って強引ぽく見えるけど本当に大和の言った通りになっちゃったね)
実はマルギッテの登場は大和の予想通りというよりも彼の望んだことだったのだ。
と言うよりも実は卓也が持ってきたこのクイズゲーム、最大四人同時プレイが可能なのだ。
本来ならこの寮にいる人物を誘うべきなのだが現在由紀江と京は外に出ており忠勝も夜勤、キャップこと翔一はバイト疲れで爆睡している。
折角なのでチーム対抗で遊んだほうが面白いという卓也の提言を受け、大和はわざとクリスのみならずマルギッテをも呼び寄せたというわけである。
「お嬢様、ご安心ください。 この私が参戦したからにはどんな問題も撃墜して見せます」
「おお~マルさんが加わってくれるなら百万馬力だ!」
「百人力ね、クリス」
安定の卓也のツッコミが入った。
(ふっ。 学園内のテスト成績は私はほぼ上位に入っている。 直江大和、お前と私とでは元の出来が違うと知りなさい)
マルギッテのテスト成績は上位に位置する。
葵冬馬、九鬼英雄、武蔵坊弁慶に次ぐ頭の良さなのだ。年齢が21歳というのもあるが、確かの彼女は名家出身だけあって素養は凄まじい。
故に相手を侮る癖がある。
『第一問、人気ユニットエグゾエルのファーストアルバムは?』
「ほい、『俺のマグナムが君を貫く』だ」
いきなりカジュアル問題だった。
カジュアル問題に慣れていないマルギッテは動揺してしまい、その瞬間大和が答えた。
因みにこのゲームは文字を選んでキーワードを完成させるという方式になっている。
「よし一番手柄を取ったぜモロ」
「さすが大和。 この手の問題はお手の物だね」
「くっ。 しかしそう何度も同じジャンルの問題は出ないと知りなさい」
「自分だってバカにされたまま終われない!」
まだまだ余裕を見せるマルギッテ。クリスも食らい突こうとしている。
『では問題。 1998年に登場したPS用ゲームの最も売り上げが高かったのは?』
「簡単。 メバルギアジョリットだよ」
今度はゲーム関係については専門分野この上ない卓也が答えてみせる。
続けてサブカルチャー方面の問題が出たことによりマルギッテも苦虫を噛み潰す。
「まさかそんなコアな問題まで……」
「これも列記としたクイズだぜ。 今更文句は言わないのが騎士だよなクリス?」
「そっ、そうとも! つまり自分でもチャンスがあるということだ!」
「今サラッと残念な台詞を言っちゃったねクリス」
卓也が同情する間にも三問目に突入した。
『問題。 文学小説“雪国”を書いたのは』
「簡単です! 川端康成!」
『ですが』
「何ッ!? 引っ掛け!?」
冷静さを欠いていたマルギッテが先走ってしまった。
クイズ番組でよくあるブラフというものだ。
『その“雪国”の冒頭の漢字二文字は何でしょう』
「はいはい。
京のおかげで文芸系知識を得られている大和は何なく答えてみせる。
クリスは近代日本文学は全く手をつけていないので答えることが出来なかった。
あっという間に三問答え、次に大和達のチームが正解すれば彼らの勝利となる。
「さぁこのままだと俺たちが勝っちゃうぞ~」
「そ、そうは行かない! なぁマルさん!」
「その通りですお嬢様! 私とお嬢様ならばここから逆転することぐらい
(何で英語?! ドイツ語じゃなくて!?)
安定のモロのツッコミ二回目。
『問題。 徒然草を書いたのは誰でしょう?』
「ここは自分が! 兼好法師だ!」
さすがに何度も遅れを取るわけには行かないとクリスが意地で正解した。
無論大和にとって見てもこれは常識問題であったのだが、ここは譲ってやろうという自愛の目線が働き、卓也もそれに同調した。
『続いての問題。 元素記号Auとは何のことでしょう』
「今度こそ! 金です!」
続いてはマルギッテが答えた。
さすがはSクラスに籍を置く軍人。あっという間に答えて見せた。
「どうだ大和! 自分だってちゃんとやれるんだぞ!」
「確かに私はサブカルチャーについては疎いかもしれませんが、それ以外のジャンルは完璧であると知りなさい」
「意気込み結構。 だけど俺らリーチが掛かってるんだよ」
つまりそれは逆転されるまで後一問分の余裕があるという事になる。
大和は以前余裕の表情だ。傍に控える卓也はサブカルチャーの問題で奮起すべく構えている。
しかしマルギッテはその中でも余裕を取り戻している。負ける道理は無いと、本気で思っている。
『さぁこれで決着なるか! 第五問目!』
運命の問題が始まった。
『太陽が沈む直前、一瞬だけ緑色のように輝くこの現象を何と言うでしょう?』
この問題は中々難題だった。自然現象だったからだ。
クリスは太陽、という単語の時点で混乱している。その最中、マルギッテが動く。
「これ紋様に教えてもらった。 答えは緑閃光だ」
「なっ!!?」
が、時既に遅し。大和が正解していた。
これにて四問先取したことにより大和のチームが勝利した。
「やったぜモロ、俺達ドイツ軍人を屈服させたぞ!」
「うん……僕一問しか正解していないけどね」
「いやいや1と0は違うさ」
勝利した側は大はしゃぎだ。
一方の敗北したドイツ軍チームは反省会を行うかのごとく沈んでいる。
「申し訳ありませんお嬢様……まさかこの私が遅れを採ってしまうとは……」
「気にしないでくれマルさん……」
とは言うものの一番沈んでしまっているのはクリスだ。
何しろ格好いい台詞を吐いて置きながら結局負けてしまうのは恥さらしにも程がある。
そして互いにシュンとなっているのが可愛い。(´・ω・`)←こんな感じ
「大和! 自分達は敗北した! さぁ捕虜をどうにでもするがいい!」
「そんな大それた約定決めてないんだけどな……」
負けた責任は取る。それがクリスの方針らしい。
騎士道精神に溢れているのは結構だが、大和としてはどうにも気が引ける。とは言え折角ここまで言ってくれるので大和はニマリ、と薄笑いを浮かべる。
「よーし。 では今度プールで泳ぐからお前達は際どい水着を着けて来い」
「なっ!?」
「ま、待ちなさい! それは私もですか!?」
「そうですよーマルギッテさんだって戦敗者ですよー捕虜ですよー」
大和のドSが炸裂していた。
本来なら卓也が同情を示すべき場面であるが彼も生物学上オスと分類される身。
生唾を飲み込んで見守ることにした。
「お、お嬢様はともかく私はもう21歳でそんな際どい水着をつけたって………」
「いやいや。 マルギッテさん可愛いから結構似合うかと」
「そ、そんなことは……っ! な、ないですよ……」
(やっべ。 その顔超可愛ええ……!!)
大和の言葉に危うくノックアウトしてしまいそうなマルギッテ。
彼女にとっては不慣れで、でも心のどこかでは聞きたかった言葉なのかもしれない。だからこそ赤らめながらも嬉しそうな表情に大和も萌えてしまう。
そんな彼の視線に気づいたのか、対抗意識を燃やしたクリスが宣言する。
「う……い、いいだろう! 自分はそれで勝負してやる!」
「その言葉確かに聴いたぜ。 クリスの際どい水着か……楽しみだな」
大和も純粋に彼女の瑞々しい肢体を拝めると期待している。
最も一番喜ぶのは百代なのであろうが。
「た、楽しみなのか大和? 自分の……その……」
「うん。 露出が」
「ストレートに言うなっ! でも……そうなのか………」
大和が自分に対して期待している。
クリスの胸は高鳴った。これを気に更に気に入って貰えるかもしれない。
少々の恥じらいは飲むべきと、クリスは意を決した。
―――――そんな彼女の表情の変化を、マルギッテは見逃さなかった。
(お嬢様? まさか―――――)
彼女の中で、一つの結論が出た。
目を伏せるや否や立ち上がる。
「申し訳ありませんお嬢様。 私はそろそろ行きます」
「えーそうのかマルさん。 一緒に寝ていかないか?」
「すみません。 お言葉に甘えたいところですが中将殿に報告に行かなければなりませんので」
そういい残すとマルギッテは身を翻し、颯爽と部屋から出てしまった。
彼女にしては珍しく、クリスの意見を取り入れないことに大和や卓也も違和感を覚えていた。
「ど、どうしたんだマルさん………」
「僕達に負けちゃったから悔しかったのかもね」
「あり得るかもしれないが……俺は凄く嫌な予感がする」
並外れた大和の危機回避能力が危機を告げていた。
☆
イタリアン風商店街、『ラ・チッタ・デッラ』。
そこに構える喫茶店でマルギッテと彼女の上官は会合していた。
「どうしたのかね少尉。 緊急報告があると聞いたが」
彼女の目の前に立つ男の名はフランク・フリードリヒ。
姓の通りクリスの父親にしてドイツ軍の英雄、階級は中将。その圧倒的カリスマ性と指揮能力、そして兵器の操縦の腕前を持って軍に貢献してきた。
娘同様日本に憧れを抱き、そのためにクリスを日本に留学させた。
「中将殿。 これはあくまで私の主観であり、尚且つ今後によって左右される事態です」
「それは冷静になれ、と言っているのかね」
「失礼ながらそういう事になります」
「安心したまえ。 私は幾多もの死線を潜り抜けてきた。 ちょっとやそっとでは動じん」
フランク・フリードリヒ、齢47。
若くして軍の高官に就き、様々な戦争を体験してきた。
そんな彼はまさに大物の風格を漂わせる。今年で47歳。
「では単刀直入に。 クリスお嬢様が……“恋”をしている模様です」
「マルギッテ。 武器の手入れは欠かすな。 出動要請にいつでも応えられるように」
「ちゅ、中将殿! ここで銃の手入れは危険です!」
そんな彼も娘であるクリスが絡むとアッサリ怒る。
彼は相当の親バカで、娘を溺愛し、蝶よ花よと育ててきた。クリスのお嬢様気質の原因は彼にある。
親バカから分かるとおり、娘に近づく“男”に対しては一切の容赦はない。
フランクは娘のためならば第三次世界大戦を行う覚悟がある。
「す、すまない……。 報告を続けたまえ」
「はい……。 私からの主観ですが、お嬢様は直江大和に対し好意を持っているものかと」
「……認めたくないものだな……若さゆえの過ちと言うものは!!」
そして彼女はそこで全てを伝えた。彼女の報告、それに並ぶ証拠を突きつけられたフランクは憤怒を露にしている。
提示させられた写真、直江大和に対し今でも銃弾で風穴を開けそうだ。
「それで直江大和の方はどうなのかね?」
「今のところ友達関係に留まっています。 が、ここからどう転ぶかは」
「ならば今が好機! 今すぐ直江大和をしゅくせ……修正するべきだ!」
「しか川神百代、黛由紀江などといった猛者を相手にすることになります」
親バカなことこの上ないフランクは早速大和をターゲットに定める。
今まではクリスに言い寄ろうとする男に対し、マルギッテやドイツ軍の拷問エキスパート達が『浄化』していた。
だが彼に対し好意を持っている女性達が控えているという事実が彼らの頭を悩ませる。
「川神百代……彼女に7STARSを嗾けてはどうだろうか?」
「残念ながら1秒を待たずに返り討ちにされます」
「黛由紀江に関してはどうだ?」
「彼女には複数で取り囲んでも僅かな時間稼ぎ程度、でしょう」
冷静にマルギッテは分析していた。
川神百代、黛由紀江の両名は俗に言う「壁を越えた者」という無類の強さを持っている。
しかもどちらも武道四天王として数えられているのだ。
例えマルギッテが本気になろうが太刀打ちは到底出来ない。
「ドイツ軍を差し向けてもか?」
「川神百代に壊滅させられるでしょう。 彼女ならば、一国すら滅ぼせられる」
ギャグ漫画のような、しかし極めて真剣な結果を突きつけられた。
「それにその他の取り巻き……川神一子や椎名京も高い戦闘力を有しています」
「むぅ……!!」
フランクは怒りを露にしつつも地団太を踏んでいる。
彼が日本で彼是好きにやってきたのは全て武力のおかげだ。その圧倒的武力で娘をサポートしてきた(つもりだ)。
だがそれが通用しない相手となるとどうにも出来ない。
しかもドイツ軍を動かせる立場といっても所詮は私兵。人数にだって限りはある。
「……少尉。 君から見て直江大和はどうなのかね?」
「私が見た限りでは頭が嫌らしいほどに回りますが、人格的な問題はないかと」
と、ごく普通そうに報告している彼女だが、ドイツ軍の英雄は見逃していなかった。
大和のことを話題にした途端、マルギッテの顔が僅かに綻んでいることを。
(ま、マルギッテ少尉がここまで“女の子”するとは……)
普段は忠実にドイツ軍の猟犬として数多の相手を狩って来た軍人。
嘗ては忍足あずみとも戦場で渡り合ってきた猛者。それがここまで隠された一面を見せるとは。正直フランクも困惑どころか少しだけ女の子と認識してしまう。
「……以上が私からの主観になります」
「……確かに君の主観だけでは少々心許ないかもしれないな」
フランクは顎に手を当てて考えた。
今まで信頼してきた部下は愚か、最愛の娘ですら心を許している直江大和という男の存在を。
そして彼女が本当にその男に対し、真剣に恋をしているのかどうか。
「……ご苦労少尉。 早速だが君に任務を与える」
「ハッ。 軍の出動要請ですか」
「違う。 君は今まで通りの生活をしつつ、この任務をこなして欲しい」
「……なんでしょうか」
上官の顔がこれ以上ないくらいに本気である。
マルギッテも頭の中の雑念を取り払い、次の言葉を待つ。
「これから数日、クリス及び直江大和の動向を監視し、映像レポートを提出せよ」
所謂『監視』、だった。
続く
というワケで今回からクリス編になります。
皆さんお待ちかね……といいたいのですがコメントを見る限りマルさん大好きな人が多いなぁと感じますね(;^^)
勿論マルさんも出番がありますがメインはクリスですよー!
そしてクリスといったらやっぱり出ますフランクさん。娘に関しては名前の通りフランクになれない彼が一体この後どう出るのかお楽しみに。
……そろそろKOS編とか川神大戦編とかも書いてみたいな、などという野望を抱いている今日この頃でごわす。
では次回をお楽しみに!感想ご意見、お待ちしております!