本日は土曜日。
普段であれば学校は休みになるところが多い。しかし川神学園では時たま土曜にも授業が入る。
故に教室に入る面々は皆、気だるそうにしている。
そんな中でも大和は挨拶を忘れない。
「大和君、おはようございます」
「その探偵口調の敬語はなんだヨンパチ」
「先程スイーツでLet's賢者モードになってきましたからね」
「出会い頭そんな発言をされた俺はどうコメレスすればいいんだ」
相変わらずの変態であった。
「大和。 気分が悪いの座薬入れてくれない?」
「京。 お前は公衆の面前で変態扱いされろと?」
こちらも相変わらずの変態であった。
「おはようナオっち。 聞いたわよ夕べの活躍」
「私も聞きました! 世界的に有名な犯罪集団を捕まえて大手柄だって!」
「でもアタイだってその気になりゃ相手次第じゃ食ってやんよ!」
一方、気さくに語り掛けてくる千花と真与、そして黒子。
彼女達は早くも昨夜の事件の報道を聞き取ってきたみたいだ。
千花にとって見ればその事件を解決した一人に翔一がいる、というのが大きな要因ではあるが。
「僕も聞いたよ。 相当派手だったらしいね」
「川神百代の制裁で海保出動ってツィートされてたぞ」
満とスグルもよってきた。
個性が非常に強いこのクラスではあるが、何だかんだで結束力は高い。クラスメートを心配してくれている節がある。
「姉さんも凄かったけどキャップが大男の頭をバイクで撥ねた時は俺もビックリしたよ」
「だろー!? 俺チョーカッケーだろ!」
自分の噂を聞きつけてか翔一も会話に紛れ込んできた。
すぐ傍には卓也も控えている。
「でもその後免停食らいそうになったんだよね、キャップ」
「うげっ! そういうこと言うなよモロ~!」
鋭い指摘、もといツッコミに罰の悪そうな顔をする。
基本的にヒーローでありたいこの男は余り格好悪いところは見せたくないらしい。
こういった子供っぽさも、キャップらしいのではあるが。
「何であれ犯罪者を潰すことができた。 良かったじゃないか」
「そうそう! 大和も盗まれたもの返して貰えたし、その後賠償請求出来るらしいし」
その会話にクリスと一子も混ざってくる。
結局部屋は荒らされていたものの、ドアノブをナイフで引っかかれた以外は大した損害は無かった。
とは言え迷惑かけたのは事実なのでしっかりと搾り取るつもりである。
「そー言えば女子達の部屋はどうなったの?」
「タッちゃんが言うには特に被害は無かったって」
一子が何故か誇らしげに言う。
当の本人は後ろの席でうつ伏せて寝ているが。
そうこうしていると扉が開けられた。入ってきたのは教師ではなく、岳人だった。
「おーい。 今日の一時間目の授業、職員会議で遅れるだってよー」
「またか。 先生達最近忙しいみたいだな」
思えば昨日もそうだった。
とにかく時間が空けば人は何かしたがる生き物。このクラスの場合は当然フリートークが始まる。
「そうだスグル。 これインストール終わったから返すよ」
「おう。 大和、二次元のことならば幾らでも相談に乗るぞ」
今のうちに大和はスグルから借りていたゲームのソフトを返却していた。
知人と割り切ってはいるが、こうも気さくに接してくれている人物をその程度で割り切るのは失礼なのかもしれないと大和は内心思う。
「クマちゃん。 それ何食べてるの?」
「駅前ベーカリー『クラウン』のコク美味カレーパン! 一個食べる?」
「わーい! ありがと~!」
「気に入ってもらえたら嬉しいよ。 クリスさんに椎名さんも一個どう?」
「む……まぁまだ授業は始まっていないし、頂こう」
「どれくらい辛いのか興味ある……ではお言葉に甘えて」
一方で満は買ってきたパンをおすそ分けしていた。
相当美味しかったらしく口にした一子とクリスの顔がとろけている。京は辛味が足りなかったのかいま一つとう表情を見せていたが、味自体は文句なしのようだ。
何気にこの男、餌付けが上手いのではないか。
「でさー、アタイ龍造寺辺りがいいんじゃねー系と思うんだけどー」
「西方十勇士のアイツか? 東西交流戦じゃ全然活躍してなかったじゃん」
「そりゃ羽黒のおかげだからな全部」
岳人は黒子、育郎を交えて会話している。
どうやら話題は西方十勇士の中でどの男が魅力的か、と言ったところか。
「それにしてもキャップ、今朝の朝刊でどうどうと移ってたよね」
「ホントホント。 他のメンバー差し置いてデカデカと写ってるもん」
「風間ちゃんは目立ちたがり屋さんですね」
「おうよ! 目立たない人生なんて面白くも何ともねぇじゃねぇか!」
隅の方では卓也に千花、彼女の親友である真与に翔一で昨日の話題を語っているようだ。
何せ壊滅させた相手は世界を股に駆ける犯罪者なのだから、新聞でも一面を堂々と飾っている。
「やれやれ騒がしくなってきたな」
「ゲンさん。 珍しいね寝てないなんて」
「騒がしくなってきたからだ」
大和の後ろの席で机に突っ伏していた源忠勝は騒ぎで寝付けなかったようだ。
「じゃぁこれ、まゆっちからの差し入れビターチョコ饅頭」
「黛が? アイツ菓子作りも始めたのか」
「らしいね。 美味しいし眠気覚ましになると思うよ」
「おう、ありがとな」
中途半端な眠気を吹き飛ばすべく、大和から素直に菓子を受け取る。
礼を述べた後に一個を口の中に放り込んだ。
活力となる等分と活性を促す苦味の絶妙なブレンドが忠勝の脳を覚ました。
「……おお。 美味ぇなこれ」
「まだまだあるしもう一個どう?」
「んじゃ遠慮なく頂くぜ。 サンキュ」
きちんと礼は欠かさない源忠勝に萌える大和であった。
「む、大和それはまゆっちからか?」
「ああ。 朝起きた時にくれたんだ」
「むむ。 まゆっちめ、餌付けとは単純かつ効果的な手段を……!」
甘い匂いに釣られてきたのか、クリスと京が寄って来た。
大和が握る饅頭が由紀江からのものであると知るや否やクリスと京は面白くなさそうな表情になる。
「あー! 大和お菓子食べてるー!」
「欲しいか犬っころ」
「わんわん!」
一子はおねだりし始めた。
公衆の面前でもこういったやり取りをするのは全て大和の調教によるものである。
「待てwait」
「うー……」
「OK、食べてよし」
「わーい!」
まさに犬と飼い主の図である。
この光景に忠勝は何やらやりきれない表情をしていたが自制している。
彼のそんな姿に大和はまたも萌えた。
「ナオっち、それって噂の一年生から?」
「そうだよ。 実際美味いし眼が覚めるし助かる」
「ちょっと気になるねー……直江くん。 一個食べてもいいかな?」
「いいよクマちゃん。 はい」
饅頭を頬張ると更には千花と満も近づいてい来る。
人脈を築く能力に秀でている大和はこうして気がつけば人の輪が形成されていることは日常茶飯事なのだ。
「あー! ずるいぞう大和! 俺にも一個くれよー!」
「残念。 残りは俺とゲンさんの分」
「俺は別に予約頼んでねぇんだが」
中々グルメな翔一も由紀江の料理は気に入っていた。
それだけに食べたかったのだが一つは大和の口に放り込まれ、残り一つは忠勝の手の上に乗せられた。
そんな有り触れた日常会話をしている中。
「うるさいのじゃ!! 静かにせんか山猿共!!」
最もうるさい声が介入してきた。女の子のものだ。
振り返るとそこには着物を着込み、流麗さを出そうとしている女子がいる。彼女の後ろには他にも何名かの生徒が控えていた。
(Sクラスの不死川か……また面倒ごとになりそうだな)
大和は心の中でため息をついた。
彼女はSクラスの一員、『不死川心』。日本三大名家である御三家、不死川家の出でそれゆえ権力と財力を持っている。
その力が彼女の他人を見下す姿勢を作り出した。
故に元々仲が良くないFクラスとSクラスの溝を深める原因を作ることが多い。
「此方達は神々しい明日に向かって勉強中なのじゃ。 それなのに隣から家畜どもの鳴き声が上がっては集中して勉強できんのじゃ戯け!」
随分と上から目線だった。
つまり彼女の話をようやくすれば「勉強中だから静かにしろ」である。
Sクラスは上位成績者が集められた、いわばエリートのクラスでそれ故身分やプライドの高いものが揃っている。
そんな彼らはテストの成績が50番未満になると即Sクラスから落とされてしまう。
故に日々の勉強が彼らの明日を作り出しているのだ。
「確かに騒がしかったのは悪ぃーけどよ他に言い方ってモンがあんだろ不死川」
「黙れゴリラ。 高貴なる此方が直々に家畜どもに命令してやっているのじゃぞ」
騒ぎを大きくして向こうの邪魔をすることの非自体はFクラスにある。
だから誰もそこについては文句は言わなかった。しかし彼女の余りにも高圧的な物言いが反感を買っている。
岳人が堂々と物申すが心は更に見下してくる。
「何よ家畜って! 黙っていればいいたい放題!」
「ヒュホホ。 当然じゃ、此方達とお前達とでは差があるからの」
千花からの反論にも取り合わない姿勢を見せるかのように扇子を広げてみせる。
SクラスはFクラスを見下す傾向にあるが彼女のそれは余りにも突出しすぎている。
故に誰も向こうの勉強を妨害したことに対して詫びる姿勢も見せなかった。
「まあまあ。 双方落ち着けよ」
「井上! 此方の邪魔をするでないわ!」
そこに一人の坊主頭が介入した。同じくSクラスの『井上準』である。
彼はSクラスの一員ではあるもののFクラスの面々をバカにすることなどなく寧ろ友好的な態度を見せている。
そのため彼の介入でFクラスも井上に対しては文句を言ってこない。
「不死川の物言いも問題はあるがそもそもお前達は騒ぎすぎた。 だから『喧嘩両成敗』ってことで双方引いたほうがいいと思うぞ」
実に中立を意識した、建設的な意見が飛んで来た。
彼からすればFクラスを責める理由などない。しかしかと言ってSクラスの立場を蔑ろにするわけにもいかないという彼ならではの視点だった。
この意見には大和や真与も納得している。
「私も井上ちゃんの意見に賛成です。 私達、うるさかったのは確かですから……」
「いいえ委員長! 気にしなくていいんですよ今後気をつけていただければ!」
そんな準にも欠点はある。生来の、そして重度のロリコンなのだ。
故に委員長である甘粕真与に対してかなり従順なのだ。最近は「幼女と一緒にお風呂入りたい」とか「ロリコニアを建設したい」とか終わっているが。
「そんな意見飲めるか! 此方があのような山猿の集いと痛み分けなど!」
「お前もその口調直さんと向こうから反感買うだけだってーの」
しかし心は認めなかった。あくまで自分よりも下だと信じているFクラスと同じ立場に立たされることが。
高いプライドも相まって準の意見すら蹴る。
この彼女の言葉に収まりかけたFクラスの怒りが爆発しそうになる。
「まぁまぁ。 私は準の意見に賛成ですよ。 そもそもこの時間こそ無駄じゃないですか」
「トーマや準の意見なら僕も従うー」
更に姿を見せたのは男女。一人は褐色の肌に眼鏡をかけた知的な顔立ちの美青年。
Sクラスの一員にして学年成績一位を誇る秀才の『葵冬馬』だ。傍に控える女子は『榊原小雪』。白い長髪と飄々とした言動が特徴である。
誰も追いつけぬ頭脳の持ち主の登場に、心も口をふさがれる。
「ね? 大和君もそう思うでしょ?」
「俺も同意権だが顔を近づけるな! それとなんだこの熱っぽい吐息は!」
「私と大和君の意見が一致するとは嬉しいですね。 きっと私達合うんでしょうね体と体が」
「生々しい表現するな!」
一方で彼は大和に近づいていた。
川神学園のイケメン四天王ことエレガンテ・クアットロに数えられる冬馬だがあろうことかバイセクシャルなのだ。
しかも大和はストライクゾーンのド真ん中だったらしく、以降事あるごとに彼に接近を試みている。
「したくもなりますよ。 何せ私、策士という点から見ても頭脳と言う点から見てもライバルを超えた関係なのですから」
「そうだね天敵だね」
葵冬馬はただの秀才ではない。機転も働く。
故にFクラスの軍師と呼ばれる大和とSクラスの参謀である冬馬はライバル関係に見られていた。
――――が、最近は襲われてしまうのではないかと恐れている大和だった。
「しかしな葵君、ここは山猿どもに此方達の威厳を見せ付けなければまた同じことをするぞこの阿呆どもは」
「私も賛成です」
まだ心は食い下がる。プライドゆえの言動だ。
そんな彼女に同意を示したのは軍服を着た赤毛の女性だった。
凛とした佇まいに鋭い眼光、そして左目を覆う黒い眼帯。
「マルさんも不死川側なのか」
「申し訳ありませんクリスお嬢様。 しかしこのマルギッテ・エーベルバッハ、Fクラスの問題行為は見逃したくありません」
クリスと親しげに話すこの軍服の女性は自らの名を名乗りつつ立場を弁えた。
軍服から分かるとおり彼女は現役軍人でクリスの父の右腕、軍では少佐の階級を与えられている。
この学園に入学したのもクリスのお目付け役という立場なのだ。
昔から妹のようにクリスを可愛がってきた彼女だが、さすがに今回はFクラスに問題があると判断したのか退く様子を見せない。
「やれやれ、ドイツ軍人はどうしてこうも固いのか」
「直江大和。 そんな一方的な物言いはやめたほうがいいと知りなさい」
「その言葉がそっくりそのまま返ってくるマルさん可愛い」
「ッ! その言い方はやめなさい!」
規律正しいドイツ軍人である彼女だが直江大和の手に掛かればこうも赤面させられるのだ。
故にマルギッテは彼に対し苦手意識を持っていた。
大和もさすがにSクラスの面々に対して苛立ちを募らせているようだ。彼の態度を見抜いた冬馬のため息が、合図となった。
「フハハハハ! やはり簡単には従わぬか凡夫達よ」
「はいはい道を開けてくださーい」
現れたのはかなり派手なスーツにも近い礼服を着込んだ男。
頭には×の傷が刻まれている。威風堂々、という言葉が最もよく似合うが彼の登場でこの教室の気温が上がった。
そんな彼の傍にはメイドが控えている。
「今度は九鬼英雄に忍足あずみか」
「益々騒がしいのが来ちゃったね……」
堂々と現れた男の名は『九鬼英雄』。世界最大の財閥である九鬼財閥の長男で学年成績二位という実力を持つ男。しかもSクラスの委員長を務めている。
民を導くという意思の元、自らを王として振舞っている豪胆な漢。
ついでに言えばいつでもどこでもハイテンション。
「おいコラガキ共。 英雄様に向かって騒がしいだぁ?」
「「な、何でもありません」」
そんな彼のテンションに悪態つく岳人と卓也の背後に先程のメイドが。
あの礼儀正しそうな口調が一瞬にして崩れ極道に近い声色になっている。英雄の専属従者『忍足あずみ』だ。
元は傭兵だったらしいがめぐり合わせの結果九鬼英雄に心酔しておりそれ故彼のことを侮辱するものには容赦が無い。
「直江大和。 此度の件でそちらはどのような事をしでかした?」
「そっちの勉強を邪魔した」
「そうだ。 不死川の物言いが気に食わぬのは事実だが非があるのはお前達。 庶民は庶民らしい行動をするように弁えるべきだ」
心のように誰かを見下すという態度こそはしない。だからこそ人望はある。
彼の一言一句は力が篭っている。
とは言えやはり自らを上と意識した答えが返ってくる。Fクラスは心ほどではないがいい感情を持っていなかった。
「九鬼クン、あんまり人を見下げるのは良くないと思うわ」
「っ! これは一子殿! 確かにそれは慎むべき言動ですな」
一子が物申した。すると九鬼英雄がいきなり下手に出る。
お解りかもしれないが、彼は川神一子に惚れているのである。ことあるごとに告白もとい熱烈なアプローチを仕掛けているのが日課だ。
彼女も毎日ハイテンションに語り掛けてくる英雄に苦手意識を持っていたが、今は選り好みをしている場合ではなった。
「ですが我々の邪魔をされるのは遺憾です。 それに関してはご理解いただきたい」
「それはそうだけど……」
「九鬼英雄の言うとおりじゃ。 庶民は庶民。 高貴なる者達に物申す出ないわ」
だが惚れている相手であってもイエスマンになるほど小物ではない。
しっかりと正論を出してくる彼の言葉に一子も詰まらざるを得ない。そこに畳み掛けるような心の言葉攻め。
『さっきから庶民庶民って何だ!!』
『金と権力だけで威張りやがって!』
『お前達こそその上から目線何とかしたらどうだァ!』
一気に罵声が飛び交った。
売られた喧嘩を買うようにSクラスの面々も反論もとい罵詈雑言の数々を浴びせてくる。
それを主導しているのは勿論不死川心だ。
「あーあー。 トーマ、過激になっちゃったねー」
「ですねユキ。 困ったものです」
「若でも止められねぇとなると……相当ヤバいな今回」
小雪、冬馬、準の仲良しグループも歯止めの利かない現状に頭を悩ませていた。
彼らは所謂風間ファミリーのような成り立ちらしく、冬馬の父はこの川神市内最大の病院、葵紋病院の院長、そして副院長は準の父。
そういった関係から冬馬と準が仲良くなることは必然で、故に準は冬馬を『若』と呼ぶ。そこに小雪が加わって今の面子になったというわけらしい。
「や、大和これどうなっちゃうの!?」
「俺の予想通りだとそろそろあの英雄達が動き出すな」
一方的な物言いを好まない一子もさすがにこのヒートアップしてしまった論争に不安を募らせている。
言葉にこそしないものの、クリスや京、真与も同じだ。
しかしこの件に関し大和は動こうとしなかった。ある人物の介入が予想されたからだ。
「双方待って欲しい! 互いに悪意を持った言葉では説き伏せられないと義経は思う!」
大和の期待通りであるかのように一陣の風と共に少女が間に入った。
その姿はクリスが憧れる武士の威風を身にまとう。
彼女の傍にはグラマスな姉御肌の女性とどこか浮世離れした空気を放つ青年が立っている。
「ここは一旦、この源義経の名で預からせていただきたい!」
自らのことを、『源義経』と名乗った。だがそれはまやかしなどではない。
ここにいる面々が彼女の登場で静まり返ったのが証拠である。
「武士道プランで生まれた過去の英雄のクローン、源義経……そして武蔵坊弁慶や那須与一もいるね」
「説明台詞お疲れ様、モロ」
卓也の言うとおりであった。
彼女達は九鬼財閥の力で生まれた過去に実在した英雄なのだ。といってもタイムスリップしたわけではなく、あくまでクローンとして一から育てられた人間。
彼女の傍に控える男女も同じだった。
「おーさすが義経。 キマった~」
「姐御、こういう時ぐらい川神水は外そうぜ……」
姉御と呼ばれた女性。彼女こそが『武蔵坊弁慶』だ。手にはお酒のように酔える川神水が入った杯を持っている。
弁慶と聞けば大男を思い浮かべるかもしれないが、実際はこの魅力的な女性である。
しかし女性とは思えぬ、まさに弁慶の名に相応しいパワーと凄まじい学力を有する。
「私が川神水がないと死んじゃう病気なのは分かっているだろ与一」
弁慶は男に反論した。
対する彼は『那須与一』。弓矢の名手と謳われた様に天下五弓にカウントされる実力者。
矢の飛距離と威力においては京のそれを凌ぐ。
が、姉貴分である弁慶には一切逆らえない。
「源氏一派のご到着だな」
「お~大和~。 お互い災難だな、こんな下らない騒動に巻き込まれて」
「全くだよ」
弁慶は大和の顔を見ると顔を緩めた。
大和は日頃、だらけ仲間として弁慶に川神水の肴を提供もとい餌付けしていた。更には彼の性格も相まって弁慶に相当気に入られていた。
「ハッ、さすがだな大和。 あの眠れる獅子である姐御を制するとは……特異点の中でもお前は特に異質だな……。 お前の
そんな彼に与一がクネッとしたポーズをつけながら話してくる。
しかも何やら会話内容がイタイ。
那須与一、彼は俗に言う中二病であった。大和は過去自分が患った病気による古傷で痛めつけられながらも彼に同調する。無論皆に聞こえないように。
「フッ、特異点にそれ以上もそれ以下もあるかよ。 だがそれが俺達の存在理由なんだ」
「そうだな。 ……ハッ、俺ともあろうものが
「だったら鍛え、それを拠り所にすればいい。 この歪なセカイの、数少ない
「ああ、俺達は許されざる存在……だからこその居場所、だな」
二人だけの会話が繰り広げられていく。
無論彼らだけに伝わる超絶イタイ会話。大和は誰かに聞き取られないよう最低限の注意を払いながら会話を打ち切った。
眼を向けると義経がFクラス軍勢とSクラス軍勢を抑えている。
「義経から見ても双方に問題がある。 井上君の言うとおり痛みわけとし、自重するべきだと思う」
彼女は自らが日本の英雄であることを誇りに思い、またコンプレックスにもなっている。
そのため常に人を導ける存在でありたいとしての行動だ。
同時に無益な争いの空しさも知っている。が、深まった溝は英雄の威光を持ってしても埋めることは出来なかった。
「義経、そういうわけにはいかんのじゃ。 ここで相手の意見を飲むことは此方達にとっては敗北も同然。 山猿たちに認めるものなど何一つ無い!」
「んだとコラ!!」
不死川を中心にFクラスを嫌悪している面々が押しのけた。
彼らに反発してFクラスの面々からも声が上がる。
最早自分の力が及ばないことを悟った時、義経は慌てだした。
「あ、あああ……そんな……義経はどうしたらいいんだどうしたら……!」
「義経落ち着いて。 一人じゃ出来ないことがあるんだから」
人を導けない。その焦りが義経をパニック状態に陥れた。
そこに大和が優しく宥める。
「その通りじゃ。 こんな時のためにワシら“教師”がおる」
そこにまた別の声が介入された。
だがこれは明らかに学生のものではないほどの年季の入った声。
振り返るとそこにいたのは仙人を思わせる風貌の老人。
「川神学園の学長、川神鉄心……」
彼こそがこの学園の長だった。
そして川神百代の祖父でもあり、武術流派“川神流”の総本山、『川神院』の総代でもある。
生ける武神として伝えられ、そのお年は100を優に越しているらしい。
元“最強”の手にした厳格な老人が間に入った。
「話は大体聞かせてもらったぞい。 学級崩壊を防ぐためにここはワシが仕切らせて貰おうかのう」
「言っておくけど異議は認めないからネ」
彼の傍に立つジャージの男性教師――――ルー・イーも口を挟む。
彼も教師であり、更に川神院の師範代を勤める超人的強さの持ち主。
そんな彼と鉄心のセットでは誰もが逆らえ等しない。
「おーおー。 学長直々に仕切るとはえらい騒ぎだなオイ」
「ヒゲ先生」
「オヤジ……」
すぐ近くにはヒゲ先生こと『宇佐美巨人』という、頼りなさそうな中年もいた。
彼はSクラスの担任なのだが不真面目さと柔軟さ、人当たりのよさから生徒達から「ヒゲ」、或いは「ヒゲ先生」の名で親しまれている。
また彼は『宇佐美代行センター』という会社を経営している他、忠勝の育ての親でもある。
「やれやれ。 ほんの数分遅れただけで喧嘩とは……これも川神の血かねぇ」
「ヒゲ。 この山猿どもは此方達の……」
「大体話は聞かせてもらったって言ってるだろ不死川。 この場は黙って学長の話を聞きな」
だが時折妙な迫力がある。
不死川もそんな教師の言葉には逆らえず、黙って鉄心の指示を待つことにした。
「既に数名が言っておるように双方問題ありじゃ。 後で互いに謝罪するべきじゃ」
この老人もこの意見を採った。
それだけ当たり前であり、中立的な答えである。しかし今まで深められた溝がその意見をも跳ね除けた。
「じゃがこれだけでは納得すまい。 そこで互いの鬱憤を晴らすべく『プチ川神大戦』を提案するぞい」
突如そんな事をのたまってきた。
川神大戦――――それは川神学園の歴史における大戦争。クラス同士の喧嘩の最大発展と言ってもいい。
重傷者や死者がでないよう配慮されているとは言え、最早それは戦争。
それを提案するというとんでもない発想に誰もが唖然とした。
「学長、それはどういうことでしょうか?」
「お互い胸のもやもやを抱えたままでは謝罪などできんじゃろう。 ま、言わせれば『武士ならば拳で語れ』という奴じゃ」
冬馬の質問にそう返された。
どうやら喧嘩して鬱憤を晴らせ。と言っているようだ。
武士の血を引くものが多いこの川神学園ならではの無茶な提案といえよう。
「しかしいきなり大戦争に持ち込むのは時間も費用も要る。 そこでそれを縮小したのが『プチ川神大戦』じゃ」
「具体的なルールは?」
「双方五名の代表者を出し合って戦わせるのじゃ」
代表者=クラスの総意と取れる。
人数を狭めての戦いからプチということらしい。
「無論戦い終われば双方謝罪じゃ。 これも代表者で行う。 これでどうじゃ」
「フハハハ! 正直言って戦うメリットは感じられん……がこれも一興よ!」
九鬼英雄はその提案に乗ることにした。
委員長としてクラスメートの鬱憤を無視できなかったことによる結果だ。英雄は決闘として学園のシンボルを模したワッペンを叩きつける。
一方、Fクラスの委員長である甘粕真与は争いを好まない性格ゆえに戸惑っていた。
「委員長、任せてくれ」
「な、直江ちゃん? でも……」
「今回の件、これ終わらないとどちらも謝れない。 だったら受けたほうがいい」
軍師として大和が意見していた。
葵冬馬は実に正確な助言であると分析している。冬馬は頭脳こそ秀でているものの、戦闘に関しては全く役に立たないので冷静に相手を分析しているのだ。
そして甘粕真与は、信頼の置ける軍師の意見を受け入れ、ワッペンを差し出した。
「決闘成立! では双方10分後に代表者五名を出してグラウンドに集合じゃ!」
土曜の早朝、戦いの火蓋が切って落とされることになった。
というワケでタイトルどおりSクラスの登場です。
思うんですがFとSが仲が悪い、というよりも殆ど不死川の所為であるような気がしてならな(ry
次回は激しいバトルになります。乞うご期待!