真剣で私に恋しなさい!X   作:テンペスト

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第二十三話 募る

翌日、週明け。天気は晴れていた。

皆のリーダーである風間翔一は相変わらず冒険に出ており不在だった。

島津寮を揃って出た大和達を出迎えたのは。

 

 

「やぁ皆。 おはよう」

 

 

爽やかに挨拶をする師岡卓也だった。

何の違和感も無い、いつもの挨拶。それは彼の一番の親友である島津岳人も同じだった。

 

 

(ん? モロの奴いつもと同じか……やっぱ俺様の考えすぎか)

 

 

変わりない親友の挨拶に杞憂だったと安心する。

心配して損したと思いながらも、胸を撫で下ろしていた。

そしていつものように卓也が買ってきてくれた雑誌を覗き込んだ。

 

 

「おっほぉー! 今週のトラブるんもいい露出だぜぇ!!」

 

「朝一であのテンション………しょーもない」

 

 

卓也がいつも通りだと安心するや否や熱心に萌え要素のある漫画を読み込む。

いつものように京からも呆れられてしまうのだった。

卓也も漫画を覗き込みながらふとこんなことを考えていた。

 

 

(そうだよね………大和のことは大和自身、僕のことは僕自身で決めなくちゃ)

 

 

昨晩、あの女性に声をかけられ卓也は一人夜を徹してその答えを出した。

やはり友人の将来くらい本人が決めるべきである。

当たり前の答えでよかったのだと、卓也は納得していた。ただ、大和を見るその視線には一つ新たな“色”が付け加えられている。

 

 

(でも、大和が他の誰かと付き合ってるようなら………行動してもいいのかな)

 

 

そんなことを考えながら、彼は歩を進める。

直江大和。大切な仲間にして―――――ライバルを。

 

 

「ところでワン子ォ。 どーして姉さんの後ろで隠れてるのかなぁ?」

 

 

漫画を岳人と一緒に読み進めているとふと大和の眼が光った。

彼の視線の先にはまるで生まれたての子犬のように震えている一子がいる。彼女は姉の百代を隠れ蓑に涙目になっていた。

 

 

「お前宿題やってないのかよ」

 

「犬、鍛錬はいいがしっかり勉強しないとダメじゃないか」

 

「し、仕方ないじゃないのよ! 古文!? あれのどこが日本語なの!?」

 

 

忠勝とクリスの厳しい視線が突き刺さる。

何だかんだでこの二人はしっかりと学業をこなしている。特に兄貴分である忠勝の呆れようは一子の心にしっかりと刻まれた。

 

 

「おいおいお前等、妹を苛めるのはやめてやれ」

 

「そうだね姉さん。 姉さんが姉としてしぃぃぃっかりと指導していてくれればね」

 

「私はいいもーん。 ファンの子にお願いするもーん」

 

「何というダメ人間の思考。 人間ああはなりたくない。 っていうかなれない」

 

 

大和も多少姉に責任があるのでは無いかと厳しい視線を投げかける。

しかし天上天下唯我独尊を体現する百代にその手の言葉は通じない。分かりきっていたとは言え京も難しい顔を示した。

 

 

「一子さん、そろそろ期末です。 しっかり勉強しないと大変ですよ」

 

「まゆっちにまで言われたわ!!」

 

『そりゃまゆっちは勉強できるんやからね! 才色兼備の北陸美人娘やで!!』

 

「北陸なら北陸言語に統一しろ松風」

 

 

由紀江も友達としてしっかりと注意する傍ら、しっかりと大和に突っ込まれていた。

 

 

「そ、それにね………」

 

「それに?」

 

 

ここで一子が急に顔を赤らめた。

何やらよからぬ空気を京は感じ取る。由紀江も話に乗じて渡そうと思っていた弁当をそっとカバンの中に戻す。

同時に一子は勢い良くカバンの中から可愛らしい風呂敷に包まれた何かを取り出した。

 

 

「じゃーん! アタシ特製対大和用弁当!!」

 

「何やら言い方が兵器っぽく聞こえるが俺のために作ってきてくれたのか」

 

「うん。 じーちゃんがお弟子さんからの頂き物が余ってるって言うから」

 

 

川神院総代である川神鉄心は高齢であり、今まで何人もの門下生にその武道と心を教えてきた。

故にルーのように彼を慕うものがとても多く、中には卒業した後も感謝の意としてその地方の特産物や農家で取れた新鮮な野菜や穀物、肉類を送ってきてくれるのだという。

一子はそんな食材の中から大和のために弁当を作ったのだ。

 

 

「朝っぱらから何かしているかと思えば中々やるじゃないか妹ぉ」

 

「えへへ………勿論栄養バランスを計算してあるわ!」

 

「お前の計算ほど怖いものは無いが食に煩いお前のことだから大丈夫か」

 

 

一子は不器用というわけでもないが器用でもない。料理だって経験上殆ど造ったことは無いはずだ。しかしその努力はしっかり評価するべき。

そういった意味で百代は愛くるしい妹の頭を撫でるが一歩リードされたな、と少々つまらなさも覚えた。大和はそれを知ってか知らずか一子の弁当を受け取ろうとする。

 

 

「や、大和さん! あの件の如くお弁当を!!」

 

「な!? や、大和!! マルさんが用意してくれた稲荷弁当もあるぞ!」

 

「そうはいくかッ!! 口にするならカラミゲンAを………」

 

「弟ぉ。 お姉ちゃんと一緒に食堂で食べるよな? お前の奢りで」

 

 

即座に大和が四人の女性に囲まれた。

少なくとも京と百代の提案は断りたかった。いつもなら由紀江の弁当を手に取るところだが今日は一子が折角作ってくれたのだ。

無碍にしたくないと思った大和は一子の弁当に手を伸ばした。

 

 

「悪いけど今日はワン子のを貰うよ」

 

「ホント!? やったぁー!」

 

 

自分の弁当を選んで貰った一子は嬉しさあまりに飛び跳ねる。

一方、提案を受け取ってもらえなかった由紀江達はため息交じりに肩を落とした。

 

 

「仕方ありません………このお弁当はイヨちゃんと分けましょう……」

 

「そしてまゆっちは俺様達に分けるという選択肢は無いのね!?」

 

 

さりげなくショックを受ける岳人だった。

 

 

 

(でも大和………ウチの女子達からモテモテだなぁ………)

 

 

 

項垂れる岳人の隣で、羨望の目を向けていた卓也がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2-F。川神学園二年生の中でもあまり成績がよろしくない、と判断されたものが集うクラス。

だが現在、このクラスはそんなレッテルを跳ね除けるほどにまで話題となっている。

軍師大和を始め、エリート揃いの2-SことSクラスを二度も下し、そして最近梁山泊と呼ばれる傭兵集団の中から2名の女生徒がこのクラスに転入した。

あれから数日、彼女達――――楊志と史進である。

 

 

「おー大和。 おはようさん」

 

「おはよう二人とも。 さすがにもう適応してるね」

 

「まぁ、君達の計らいのおかげだね。 感謝感謝~」

 

 

学生服姿というものも最初こそ互いに慣れなかったが、傭兵集団としての適応力の高さからか数日経てばもう馴染めていた。

大和が主導でコミュニケーションの場を設け、クラスに溶け込めさせるという狙いは上手くいった。

今やもう彼女達も立派なFクラスの一員である。

 

 

「ちょっと楊志! それアタシの下着じゃない!」

 

「あ、やばチカリンだ。 ってことでサイナラ~」

 

「待ちなさーい!!」

 

 

ただし楊志のパンツ収集癖はいまだ健在のようである。

今日も千花といった美人から下着を掻っ攫っている。こればかりはどうしようもないと大和は肩を竦めていた。

 

 

「楊志は相変わらずだね」

 

「まぁあれは楊志の体質みたいなもんさね」

 

「何気に京に近いものがあるな」

 

 

逃げる楊志。追いかける千花。

最近ではこの構図も日常茶飯事に近くなってしまっている。

千花の方も友人として接している部分はあるものの、まだこのパンツ収集癖には悩まされているようだ。

それは仲間である史進も同じであった。

 

 

「大和酷い。 私はあそこまでじゃないのにヨヨヨ」

 

「そうだね。 お前はあれ以上だもんね」

 

「アンタら普段どんな生活を送ってんの!?」

 

 

そしてさり気無く大和の背後からぬっ、と京がその姿を現す。

突然のエンカウント、生活臭がにじみ出るこの二人の会話にさすがの史進も引かざるを得ない。

と、ここに一子も会話に加わってくる。

 

 

「あれ? 史進、どうしたのその汗? 運動でもしてたの?」

 

「ん? ああ、朝一番に決闘を申し込まれてね、フルボッコにしてきたよ」

 

「うわぉ、さすが梁山泊の一員ね」

 

「戦った奴………武蔵小杉だっけ? 根性はあるけど、なんつーかね~」

 

 

どうやら今朝は一年の代表的存在出会った武蔵小杉と戦ったようだ。

最も伝説の傭兵部隊の筆頭でもある彼女がそう簡単に負けるはずもなく。

 

 

「あ、それよりアンタ昼空いてる?」

 

「ん。 空いてるっちゃ空いてるけど」

 

「リンがこの間のお礼がてら一緒に昼飯食べないかって」

 

「うん。 俺は弁当だけど是非ともお願いしようか」

 

 

更には史進から昼食に誘われる。

誘われれば付き合うのがこの大和という男。久々に梁山泊の三人と食事というのも悪くない。

美人達と会食という絶好の機会を得、大和は上機嫌で最近買った小説を目にする。

 

 

「ちぇっ。 早速大和の奴お誘い受けてんのかよ」

 

「最近大和のジゴロっぷりが半端ない…・・・絶対に負けてれられないんだッ!」

 

 

端から目撃していた岳人と亰はそれぞれ大和に対し悪態つく、或いは危機感を抱いていた。

亰の言うとおりこのごろの大和は女性から非常にモテている。彼女のように昔から想っている者もいれば、大友焔のようにごく最近になって彼に惚れたものもいる。

それが直江大和という男のスキルなのかもしれないが。

 

 

(……っていうかどうして梁山泊まで)

 

 

卓也は非常に面白くなかった。

先程、大和の恋愛関係のことは彼自身で決めなければならないと決めた。だがこの内に眠る感情を無視することはできなかった。

亰とならば兎も角、余りにも自分と関係ない女性が、惚れている女性を差し置くその光景が。

――――――それからしばらくして昼休み。

 

 

「大和君、久しぶりだな」

 

「どうも林沖さん。 見たところ学園生活にも慣れてきたようですね」

 

「ああ、おかげさまで」

 

 

食堂では林沖が既に席を取っていた。

大和を見かけた途端、彼女の顔が笑顔になる。何やら安心感を覚えているような、ふわっとした微笑みだ。

 

 

「リン、よく混雑する中取れたね。 パンツ頂戴」

 

「やらない! ……皆のためだ、この席は絶対に守らないとな」

 

 

まだ彼女は「守る」というキーワードに固執しているようだ。

楊志達いわく、その病気とも言えるべき性質はそう簡単に治るはずもないが。

そして大和達の席を守るときの彼女は武道四天王に匹敵するほどの殺気と威圧感だったという。

 

 

「で、やっぱり姉さんに燕先輩もいると」

 

「そりゃそうだ。 予想通り史進や楊志を連れてきてくれたな弟ぉ」

 

「ごめんね大和クン。 お邪魔してま~す」

 

 

そして彼女の隣にやはりいた、姉貴分の武神と納豆小町。

最も林沖も仲良くしているようなので特に気にしていないようだが。ついでに言えば百代は美少女と奢りに肖りたいだけなのだろう。

 

 

「まぁいいか。 じゃぁ早速食べるとしますか」

 

「因みに大和君のオススメは?」

 

「隠れメニューのこってりコテコテラーメンだ。 女の子にはオススメしないけどね」

 

 

人脈を駆使して手に入れた情報を早速使う。

さり気なく女の子として扱われると林沖は顔を赤らめる。傭兵として命を賭した戦いの中、女性として扱われることが少なかったためだろうか。

ただ、彼女は大和のさりげない一言に嬉しさを感じている。

 

 

「あーまた大和がコナかけてるー!」

 

「なるほど……こうやってフラグ立てていくのね大和クン」

 

 

間近で見せつけられた、女の子を意識させる大和のスキル。

亰が焦る気持ちも強ち間違いでないと二人は理解する。

……そんな彼女達と食事をする大和達を。遠く、寂しく見つめる影がひとつ。

 

 

「あれ、食事の席にモモ先輩達も加わってる」

 

 

今日は珍しく一人の卓也だった。

珍しく、というのには普段は親友である岳人や風間ファミリーを交えて食事しているからだ。

それぞれ諸用で共に食事が取れないということで一人で食事していたところにあの騒ぎである。

 

 

「………ホントに大和はモテるなぁ」

 

 

そんな、寂しげな言葉しか吐き出せない自分がまた嫌になる。

危うく昨晩の女の甘言に乗せられそうになるところだ。

どんな理由があろうと、友達を傷つけたくは無い―――――。卓也はその一言だけで、昨晩からの悪夢を振り切ってきた。

 

 

「やぁ大和君。 今日は松永先輩達も一緒か」

 

「今度は義経に弁慶か。 この際だ、一緒にどう?」

 

「うんうん。 大和も一緒だと食事の際の川神水も美味しくなる~」

 

 

更に義経と弁慶も混ざってきた。

昨日の一件から義経の好感度は急上昇しておりそのため事あれば大和に声をかける機会が多くなっていた。

対抗してかしていないのか、弁慶ももっと大和に甘えるようになっている。

 

 

「しかし数奇なものだな。 先日激闘を喫した梁山泊とこうして食事をすることになろうとは」

 

「こ、この間はすまなかった………」

 

「い、いや! 義経はそちらを責めているわけではない! こちらこそ失礼した」

 

 

思えば梁山泊と源氏一派の接触はあのクリスを懸けた戦い以来だ。

その際、梁山泊の一員として林沖達は激しく戦い、伝説の傭兵部隊の名に恥じない戦力となったのだがその猛攻を止めたのが他ならぬ義経達である。

互いに全力を出しつくしたとは言え、やはりどこか蟠りがあるらしい。気まずそうに沈黙する義経と林沖。

見かねた大和が目配せで百代に合図する。彼の意図を読み取った百代は。

 

 

「あーと、手が滑って大和にエネルギー弾を投げつけてしまったー(棒読み)」

 

「いやいやモモちゃんそれどんな滑り方!?」

 

 

何て燕が突っ込んでいる間にも小さなエネルギー弾が大和目掛けて飛んでいく。

小さな、と言っても百代が生み出した闘気は常人が食らってしまえばまず立てない危険な代物。だが大和は動こうともしない。

咄嗟に近くにいた林沖と義経が、それぞれの得物を使いそれを打ち消した。

 

 

「ちょっとモモ先輩!」

 

「幾らなんでも危ないだろう?」

 

「危ないも何もこれ大和の指示だからな」

 

 

二人から叱責を食らいそうになるところを、百代がため息混じりに返した。

彼女の指先の先にはニコニコとしている大和の顔が。どうやら百代の発言を信じたらしい義経と林沖が唖然となって大和の表情を見つめている。

 

 

「ほらね。 林沖さんも義経も俺を助けてくれた。 二人で力を合わせてね」

 

 

そう言って大和は微笑んだ。

下手すれば自身が危険に晒される可能性もある咄嗟の作戦。全ては二人を信じていたからこそだ。

何より手加減していたとは言え百代の気弾を被害なく打ち落とすことなど、完璧なコンビネーションがなければ不可能に近い芸当。それを二人でやってくれた。

大和の言葉に二人が顔を見合わせる。やっぱり恥ずかしそうだ。

 

 

「リン。 ここは笑顔笑顔」

 

「義経も。 恥ずかしがるところじゃないよ」

 

 

史進と弁慶が、それぞれの背中を押した。

おずおずと、縮こまりながらも互いに手を伸ばす。指先が触れあい、そして手に取った。互いの体温を感じ取って、二人は顔を見合わせる。

 

 

「さっすがだな弟。 険悪ムードをもう解消か」

 

「こういうのは軍師たる俺の役目だからね」

 

「うんうん。 仲良きことはいいこと。 これを機に義経のパンツも頂ける」

 

 

百代と楊志も彼の作戦を褒め称えていた。あっという間に仲良く話し込んでいる二人を見て、大和も笑みを零す。

美少女大好きな百代と下着大好き楊志は違う方面で喜んでいるが。

そんな一触即発の空気を見ていた卓也だったが、しばらく観察していると、あの少女が飛び込んでいった。

 

 

「大和! もう我慢出来ない!」

 

「京! お前なんてカッコしてんだ!? 梅先生の鞭が飛ぶぞ!?」

 

「飛んでも構わない! それが愛の鞭であるならば私は受け入れるんだッ!」

 

 

どうやら女性人気が高まるその様を看過できなくなったらしい。

スクール水着で堂々とあーんしようとしている。

途端に燕と林沖が全力で引き剥がしにかかった。

 

 

「ちょっと京ちゃん落ち着こうね」

 

「や、大和君が嫌がっているじゃないか」

 

「嫌がってるも何も大和はスケベなんだ! なんだかんだで滾ってるんだッ!」

 

 

確かに大和は嫌がる、というよりも遠慮しているだけだ。

実際大和が本気で京を愛するという事態になればがっついていただろう。

 

 

「そりゃ確かに大和君の部屋にあった同人誌はハードプレイあったけどね」

 

「おっ。 燕も見つけたのかアレを」

 

「た、確かに………大和君の好みは大分凄いものだな……洗面器とか」

 

「ちょっとお姉さま方!? なんで俺のトップシークレットを熟知している!?」

 

 

練りに練ったはずの隠し場所も武道家としてその頂きを見ている強者の前には無意味のようだ。

自らの趣向を晒されたことで大和の顔は真っ赤になる。

それがまた女心をくすぐる可愛らしさらしい、多くの女性達に優しく笑われる。―――――その中には、京もいる。

 

 

 

 

「……何で、京はそう笑えるの……?」

 

 

 

 

何故、自分が悔しいのか。己の黒いものを認めるのが、更に腹立たしくなる一方だった。

 

 

 

 

 

 

 

「チックショォオオオ!! なんで、なんで大和だけがああもモテるんだァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

因みに影からその様子を観察していたヨンパチこと育郎は泣きながらトイレに駆け込み、一分のうちに賢者顔になって戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから放課後―――――を超えての夜、卓也は友人のスグルと共に梅家を目指していた。

本日、屯っているゲームセンターに「グレイグルー」という新しい格闘ゲームの筺体が導入されたということなので試しに遊んでいたのだ。

結果余りにも面白かったために時間を大幅に過ぎてしまい、外食することなったというわけである。

 

 

「こういう時に梅屋は助かるな。 安い早い美味い……エセ料理店には真似できん」

 

「だね。 まぁこの梅屋は威圧感MAXだけど」

 

 

それは中に務めているこの店員が醸し出している。

 

 

「らっしゃっせー。 ……って、大和の知り合いか」

 

 

正体はここのアルバイトとして勤務している釈迦堂だった。

何せ百代の師匠として、そして川神院元師範代として尋常ならざる強さを持っているのだから。

風間ファミリーでよくここには食事に来ているため、もう釈迦堂も卓也の顔を知っている。

 

 

「お前らも大和にここに呼ばれてきたのか?」

 

「え? 大和いるんですかここに」

 

「ああ、あそこだ」

 

 

そう言って釈迦堂や指さした先にはテーブル席で牛めしを口にしている大和が。

―――――何故か板垣辰子と大友焔にサンドイッチされている。

 

 

「お、モロにスグル。 お前達も来てたのか」

 

「何してるんだお前」

 

「いや、そろそろ大友さん達が天神館に戻るっていうからこの間のお礼って事でささやかながら食事をね」

 

 

隣にちょこんと座っている大友焔は川神学園の生徒ではない、博多にある天神館からやってきた西方十勇士の一人だ。

館長である鍋島正の提言により一ヶ月ほど滞在していたがそれも終わろうとしている。

今までのお礼や今後の交流も含め大和が食事を提案したのだそうだ。

 

 

「ささやかなものか。 大和君、大友のためにありがとう!」

 

「それはわかったけど……隣のお姉さんは?」

 

 

卓也は隣に座る女性を知らない。

隣の女性は眠たそうに、そして幸せそうに大和の隣に座っている。

 

 

「辰子さん? いや偶然出会ってさ」

 

「大和君とお食事できるからね~。 ご一緒になったんだぁ」

 

 

どうやら彼女が嘗て親不孝通りでは有名になっていた板垣三姉妹の一人らしい。

見れば見るほど危険そうな雰囲気は微塵も感じさせないのだが。

そして大和その隣ということでとても幸せそうだ。卓也は刹那に感じ取った。間違いなく、この辰子という女性もまた大和に惚れていると。

 

 

「大和君。 私のネギ塩豚カルビ丼も食べる~? はい、あーん」

 

「ちょっ! い、板垣辰子とやら! 大友の目の前でそ、そ、そんなことは許さないぞ!」

 

「どうして~?」

 

「ど、どうしてもだ!」

 

 

そして大和のいるところに修羅場あり。

辰子のスキンシップに危機感を覚えた焔が待ったをかける。すると普段は優しく閉じられている辰子の瞼が少し開かれた。

瞼の奥からは緑の眼光が妖しく光っている。

 

 

「まぁまぁ辰子さん、大友さん。 食事の席なんだから楽しく楽しく」

 

「むぅ………まぁ、大和君が言うならいいかぁ」

 

「確かに。 食事中に騒ぎ立てるのは武士ではない。 済まないな大和君」

 

「いいっていいって。 釈迦堂さん、俺持ちでこの二人にアイスクリーム」

 

 

仲介役は大和の得意とするところ。

すぐさまに二人をなだめ、仲良くなれるように甘いモノを提供した。もちろん二人の好みにあわせて、それぞれ味付けも違うように注文している。

釈迦堂が運んできたアイスクリームを口にした途端、二人の頬が蕩けるように緩む。

 

 

「美味し~い。 ありがと大和君~」

 

「うむ。 しかしいいのか、これも奢ってもらって」

 

「この間のクリスの親父さんとの戦いに手を貸してくれたお礼だってば」

 

 

大和からすればしっかりとお礼しているつもりだ。

その姿勢が真摯に伝わってくるからこそ、二人はそれを拒めない。だからこそ益々「直江大和」という男に魅せられていく、惹きこまれていく。

 

 

「ほう、あんなシチュは最近のギャルゲーにもあったな」

 

「スグルは冷静だね。 ガクトやヨンパチなら発狂するのに」

 

「俺は二次元に魂を売った男だからな。 最近は5000円で売った」

 

「割と安いね魂」

 

 

どうやら最近買ったゲームはお手頃価格だったらしい。

ため息をつきながら二人は大和達の目の前のテーブル席につく。それぞれ注文すると、それを確認していた釈迦堂がふと大和達に眼を向ける。

相変わらず女性に囲まれる彼を見て、やれやれと呟く。

 

 

「しっかし大和の奴、辰子のみならず色んな女侍らしてんなぁ」

 

「……………」

 

「あの調子で色々連れてきてくれたら売り上げ的には助かるんだけどねぇ」

 

 

デザートを運び終えた釈迦堂は食器を洗う傍ら、そんなことを零した。

端からすれば見せつけている男と見せつけられている男の公図だ。

無論そんなもの面白くもなんともないが、だからといって釈迦堂は目の前で悪びれるような大人ではない。

 

 

「……助かりませんよ、京的には」

 

「ハハッ、お前さんが呟いても仕方ねぇだろうに」

 

「うぇ!? き、聞こえてたの!?」

 

 

ボソッ、と呟いたつもりだった卓也。

しかしそれは釈迦堂に聞き取られていた。まるで呑んだくれの愚痴を聞き届ける酒場のマスターのようだった。

 

 

「ふぅん、亰ってあのショートカットの女だっけぇ? ……なるほどぉ」

 

 

釈迦堂の目はすっかり面白い玩具を見つけた、と語っている。

すっかり自分が抱える複雑な関係を見ぬかれてしまったようだ。そのまま品のない笑い声を浮かべ、釈迦堂は食器洗いに戻った。

目を向けてみると大和は女性二人と楽しく談笑している。

 

 

「大和君! 今度博多で花火大会があるから是非来てくれ! 今度は大友持ちだ!」

 

「む………大和君、今度いっぱいお昼寝しようね~」

 

「うん。 是非」

 

 

両方のお誘いにも一言で乗ってみせる大和。

こうして誰とでも恙無く会話できるからこそ、好かれるのかもしれない。それが大和と自分の違いなのだろう、と卓也は改めて自覚した。

でも、それでも。

 

 

(……大和、ちょっとでいいから亰のことを見てあげてよ……)

 

 

そう考えながら、卓也はいつの間にか運ばれていた豚丼に手を付ける。

すっかり冷めてしまっていた豚丼は、味気なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁなモロ。 俺はこれからロスカバでサブ狩りを決行する!」

 

「大丈夫? 絡まれたらしつこいよ?」

 

「ふん、なぁに有志がいるからな。 何よりアイツらの所為で初心者が安心して楽しめんのだ! 人が、安心して眠るためにはッ!!」

 

 

それからしばらくして、梅家を出た卓也はスグルと別れた。

どうやらスグルは最近横行している初心者狩り狩りを行うつもりらしい、その目には決意の炎が宿っていた。

 

 

「ははは、程々にね。 それじゃ」

 

 

卓也はそのまま自分の家に歩き始める。

本来ならスグルの戦いに身を投じても良かったのだが、今日は気分が優れないと断ったのだ。

何せ今日は友人であるはずの一人の男にもやもやしっぱなしの一日なのだから。

 

 

「………だ、ダメだダメだ。 これは僕が口出ししていいことじゃ………」

 

 

別に、亰と結ばれたいわけではない。否、本当は亰が好きである。

だが彼女の心は大和一筋に傾いている。自分が潜り込める隙間などあるはずがない。

ただ、自分が惚れた女の子の幸せは見届けたい。彼女にとっての幸せ、それは大和と結ばれること。だからそうなってくれればそれだけで、自分も幸せなのだ。

 

 

 

 

 

「クスッ。 そう“思っている”割りには葛藤中なのね……クスクスッ」

 

 

 

 

 

背後から、またあのせせら笑う女性の声が聞こえた。

振り返るとそこにはあの日と何ら変わらない服装と髪型、そして表情の女性が“浮いている”。

 

 

「! ま、また君か…………!」

 

「あらあら。 酷い言い草ね。 折角“チャンス”を恵んであげようというのに」

 

 

そう言いながら女性は茶封筒を指で弾いた。

ヒラヒラと、まるで煽るかのように揺らめきながら封筒は卓也の足元に舞い降りる。

警戒しながらその中身を確認してみると、今度市民会館で行われる、九鬼主催のウィー◯交響楽団のコンサートチケットだった。

しかも最前列の席という美味しい場所。それが三人分用意されている。

 

 

「このチケット………どう使うかは貴方次第。 精々楽しませて頂戴」

 

「な、何でこんなこと………」

 

「人の話聞いてる? 私は楽しいからやっているの。 貴方の意思なんて関係ないわ」

 

 

この女性の目的が未だにはっきりしない。

ただで他人をここまでアシストしてくるなど、怪しいとしかいいようがない。卓也も十分警戒している、が目の前にある代物が余りにも魅力的で手放せなかった。

 

 

「クスッ……それじゃぁね。 厄介な人が来ちゃったから私帰るわ」

 

「ちょ、ちょっと待………」

 

 

聞く耳を持たず、というように女性はあっという間に消えてしまった。

まるで百代の瞬間移動の如く―――――いや、瞬間移動そのものだった。

呆然としていると、背後から聞き慣れた女性の声が。

 

 

「モロさん、どうしたんですか?」

 

「あ、まゆっち! い、いや何でもないよ。 どうしたのこんな時間に」

 

「イヨちゃんと一緒に七浜ベイスターズの応援に行ってたんです」

『今日も奇跡の逆転ホームランだったぜ! ……相手が』

 

 

松風の発言は切なかった。

 

 

「私よりモロさんの方こそどうされたんですか?」

『悩みがあるなら喋っちゃいなBoy』

 

「な、何でもないよ」

 

 

どうやらあの女性は由紀江の気配を感じ取って退散したらしい。

確かに武道四天王としてその強さと鋭さを併せ持つ彼女の前では先程の問答は危険だろう。

―――――そういう意味では、先程の話に付き合っていた自分も危険なのでは。

 

 

「そうですか? 斑目風牙の件もありましたし余り遅くまでいるのは……」

 

「だね。 僕も家に帰るよ」

 

『それがいいってばよ! これ以上大和坊達にも心配させたくねーし』

 

 

やはり由紀江の口からは大和の名が真っ先に上がる。

どれだけ多くの女性から意識されているのだろうか、益々卓也の心境は複雑になった。

 

 

「途中までお送りしますが」

 

「大丈夫だよ。 まゆっちこそ気をつけてね」

 

「……分かりました。 それでは」

 

 

由紀江は頭をペコリと下げるとそのまま気品よくそのまま帰っていった。

最後まで卓也を心配してくれるその優しさがまた嬉しくもあり、申し訳なくもあり。

そして彼女の姿が消えて、卓也は手にした封筒を見つめる。

 

 

「………決めた」

 

 

そう呟き、家に向けて勇み足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう。 あんなガキで何を楽しむっていうんだ?」

 

「クスッ。 だって面白いじゃない。 ……“愛”や“恋”なんて不確定なもので顔を変える、愚か者って」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――影が、動き出す。

 

 

 

 

続く




大変お待たせしました。そして遅れながら明けましておめでとうございます。テンペストです。
やっと京編第二話更新しました~。
にしても大学生ってどうしてこう、ヒマができた途端に仕事が雪崩れ込むのか……退屈するよりは全然いいですけど。
本当だったらまじこいA-1発売まで待っても良かったんですけどそれより先に書き上げてしまいました。
まじこいA-1では弁慶ルートが一番楽しみです。どんな感じになるのやら……。
因みに冬休みの間は大学の行事も在れば個人的な野望の準備に取り掛かっておりました。え?コミケ?残念ながらあっしには軍資金や時間がござりませんorz

ところで最近某所で別の名前を使って小説を執筆していることもありテンペストと別名がごっちゃになりそうです。
果たしてどちらで統一していくべきなのかそれが最近の悩みだったりします。

さて次回の京編は大和と京のコンサートデート……のはずが一波乱ありそうな感じに。
そんな感じでお楽しみに。
感想ご意見、または幕間の際のシチュエーション希望などありましたらお待ちしております!
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